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2008.04.14.

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(1)

2008.04.14.

数学

II

(理系コア科目)

担当:原 隆(数理学研究院):六本松

3-312

号室,phone: 092-726-4774,

e-mail: [email protected] http://www2.math.kyushu-u.ac.jp/˜hara/lectures/lectures-j.html

Office hours:

月曜の午後4時半頃〜6時半,僕のオフィスにて(ただし,今日は別の用事のために中止).講義終

了後にも質問を受け付けます.

注意:

1.以下は5月12日現在での暫定版である.4月14日のものとは,2の部分を膨らませて2つに分けた点,

更に

4/14

の3を先に持ってきた点が異なっている.ただし,これからまだ講義順序を変更するかもしれない

(特に3と4を入れ替えるかも)ので注意されたい.

2.昨年までと講義内容をかなり変える予定である.特に実数論は授業評価でも不評のようであったので,実 数論を減らし,その代わりに極限や微分などについてもう少し詳しく述べるようにする.この結果,期末試験 でも「マトモな数学の問題」を多数出題するだろう.結果的に,この講義に合格するのは昨年までよりも難し くなる可能性が高いので,要注意である.

講義の暫定的計画:

微分積分の理論を厳密に展開するには高校までの知識では不十分で,実数と極限の概念から築き直す事が必要で ある.しかし,昨今の大学教育では,この点に十分な時間が割けない.この講義では通常の微分積分学に飽き足ら ない学生諸君の知的興味に応えることを目標とし,微分積分学の基礎になる「極限」と「実数」の概念を丁寧に解 説する.なお,本来ならば演習を多用すべきであるが,この教室でやる以上,演習を取り入れる事は実質上,不可 能であろう.

1.

極限とは何か?

(a)

数列の極限:²-N 論法

(b)

関数の極限:

²-δ

論法

(c)

数列の極限と関数の極限の関係

2.

実数の公理とその帰結

(a)

実数の公理,特に連続性(その3つのバージョン)

i.

有界列は収束部分列をもつ

ii.

有界単調列は収束する

iii.

有界集合には上限と下限が存在する

(b)

コーシー列の定義とその収束定理

3.

高校から知っている(はずの)定理の証明

(a)

中間値の定理

(b)

最大値・最小値の定理

(c)

平均値の定理

4.

実数の構成

——

デデキントの切断による

5.

(時間があれば)積分とは何か?

6.

(多分,時間の関係で割愛)実数の構成再び

——

コーシー列による(もしかしたら2に続けてやるかも)

(2)

参考書:

田島一郎「解析入門」(岩波書店).かゆいところに手が届くように良く書かれている.ただし,書きすぎ(タ ネを明かしすぎで,自分でやる妨げになるかも)の部分もある.

高木貞治「解析概論」(岩波).今の学生さんには難しすぎる,との意見もあるが,不朽の名著だ.

小平邦彦「解析入門

I, II」(岩波).上の解析概論を少しとっつきやすくした感じ.記述はおおむね平明かつ

直感的で,名著といえよう.

杉浦光夫「解析入門

1, 2」(東大出版会).最近の硬派の定番ともいえる.かなり分厚いけど,その分,記述

は丁寧で読み応えはあるようだ.

溝畑茂「数学解析 上・下」(朝倉書店).かなりユニークな本である.特に,微分と積分が渾然一体となっ て展開される点は非常に面白い.読み応えは非常にあるが,最初はかなり難しいと感じるだろう.

評価方法: 受講者数などを見て,判断する予定なので,現時点では未定とせざるを得ません.ただし,いくら 受講者数が多くとも,ある程度しっかりした数学の試験(たんなるエッセイではない)を期末試験として行う予定 です.そのような数学の試験をちゃんと受ける覚悟のある方のみ,受講することをお勧めします.

(3)

1

極限の概念

1.1

数列の極限:²-N 論法

定義

1.1.1

数列

a n

と実数

α

に対して,数列

a n

n → ∞

α

に収束する,つまり

lim

n →∞ a n = α

というのは,

以下の(ア)が成り立つことと定義する:

(ア)任意の(どんなに小さい)正の数

²

に対しても,適当な(大きい)実数

N (²)

を見つけて,

すべての

n > N (²)

で,

¯¯ a n α ¯¯ < ²

とできる.

(1.1.1)

(ア)は以下のように言っても良い.

(アの言い換え)任意の(どんなに小さい)正の数

²

に対しても,

すべての

n > N(²)

で,

¯¯ a n α ¯¯ < ²

が満たされる

(1.1.2)

ような(十分に大きい)実数

N (²)

が存在する.

(ア)は数式では以下のように書く(これは数学科の講義ではないので,この書き方は以下では使わない)

² > 0 N (²) (

n > N (²) = ¯¯ a n α ¯¯ < ² )

(1.1.3)

n lim →∞ a n = +

なども厳密に定義しておく:

定義

1.1.2

数列

a n

に対して,数列

a n

n → ∞

の極限がプラス無限大である,つまり

lim

n →∞ a n = +

とい うのは,以下の(ア

0

)が成り立つことと定義する:

(ア

0

)任意の(どんなに大きい)正の数

K

に対しても,適当な(大きい)実数

N (K)

を見つけて,

すべての

n > N(K)

で,

a n > K

とできる.

(1.1.4)

(注)

lim

n →∞ a n = +

lim

n →∞ a n = −∞

の場合は

{ a n }

が 収束するとは言わない.ただし,上のように「極限が無 限大である」などとはいう.

1.2

関数の極限:²-δ論法

前節では数列の極限,つまり,nが無限大になったときに

a n

がどうなるか,を見た.今度は関数の極限,つまり,

x

が連続変数で「

x

a

に近づくとき

f (x)

はどうなるか」を見たい.考え方の基本は数列の場合と同じだ.

定義

1.2.1

関数

f (x)

と実数

a, b

に対して,「f

(x)

x a

b

に収束する,つまり

lim

x a f (x) = b」というの

は,以下の(イ)が成り立つことと定義する:

(イ)任意の(どんなに小さい)正の数

²

に対しても,適当な(小さな)実数

δ(²)

を見つけて,

0 < | x a | < δ(²)

なるすべての

x

で,

¯¯ f(x) b ¯¯ < ²

とできる.

(1.2.1)

(イ)は数式では以下のように書かれる(以下では使わない.将来の参考までに)

² > 0 δ(²) > 0 (

0 < | x a | < δ(²) = ¯¯ f (x) b ¯¯ < ² )

(1.2.2)

(4)

(注)上の定義には

| x a | > 0

の条件がついている.つまり,

x = a

で何がおこっていようと,たとえ関数

f (x)

そのものが

a

で定義されなくとも,また

f (a) 6 = b

であっても,我々は気にしないのだ.(もちろん,f

(a) = b

でも 文句はないが.)なぜ

x 6 = a

としているかの理由は,「関数の連続性」の定義を考えると理解できるのだが.

1.2.1

いろいろな極限の定義と例

これからは

lim

x a f (x) = b

以外のいろいろな極限の定義もでてくるから,ここでまとめて述べておく.

数列の時と同じく,

lim

x →∞ f (x) = b

というのは,「どんな(小さな)

² > 0

に対しても,うまく(大きな)

L(²)

をとってやると,x > L(²)なるすべての

x

にて

| f (x) b | < ²

が成り立つ」ということだ.

lim

x →−∞ f(x) = b

というのは,「どんな(小さな)² >

0

に対しても,うまく(大きな)L(²)をとってやると,

x < L(²)

なるすべての

x

にて

| f(x) b | < ²

が成り立つ」ということだ.

lim

x a f (x) = +

というのは,「どんな(大きな)

M > 0

に対しても,うまく

δ(M )

をとってやると,

| x a | < δ(M )

なるすべての

x

にて

f (x) > M

が成り立つ」ということだ.

lim

x a f (x) = −∞

というのは,「どんな(大きな)

M > 0

に対しても,うまく

δ(M )

をとってやると,

| x a | < δ(M )

なるすべての

x

にて

f (x) < M

が成り立つ」ということだ.

これらを組み合わせると,

lim

x →∞ f (x) =

lim

x →−∞ f (x) =

などの定義も書けるが,明らかだろうから詳 細は略する.

以上,ゴチャゴチャといろいろな定義をしたけども,混乱しそうな人は(初めのうちは)最も基本的な

lim

n →∞ a n = α

lim

x a f (x) = b

のみに限って理解すればよい.この二つがわかってれば何とかなる.

1.3

数列の極限と関数の極限の関係

ここまでで,数列の極限,関数の極限をそれぞれ定義した.これらの間の関係を考えるべく,以下の2つの命題 を考えたい:

(あ)

lim

x a f (x) = b

である.

(い)

lim

n →∞ a n = a

(でもすべての

n

について

a n 6 = a)となるすべての数列 { a n }

に対して

lim

n →∞ f (a n ) = b

である.

両者にはどんな関係があるのだろうか?(あ)ならば(い)であることはすぐにわかる

1

.問題はその逆だ.(い)か ら(あ)が言えるだろうか?答えは「言える」であって,まとめると以下の定理になる:

定理

1.3.1

上の命題(あ)と(い)は同値である.

関数の極限(0

< | x a | < δ

なるすべての実数)は考えにくい事がままあるが,数列の収束なら

n

が一つずつ増え て行くのだからそんなに大変ではない.その意味で,この定理は関数の収束を数列の収束の問題に置き換える事を 可能にする,非常に重要なものである.

(注)上の命題の(い)は

a n a

となる すべての 数列に関する命題である事には注意を要する(特定の数列に 対してのみではダメなことを例を作って納得せよ).

1「すぐにわかる」と書いたが,きちんと証明できる人は案外すくないのではないか?考えておくように

(5)

第1回レポート問題: (4

28

日)今回は

²-N

などの練習です.本当に良くわかってる人にはつまら ないかもしれないけど,皆さんの理解度を見るためにも必要と思って出しました.

1

「すべての

² > 0

に対して」の意味を実感する問題.以下の

(a)

(d)

のうち,どれが正しくてどれが正し くないか,判定せよ.正しくないものは反例を与え,正しいものは証明すること(a, b, xは未知の定数で,もちろ ん,²には依存しない).

(a) (ある ² > 0

に対して

| a b | < ²) = a = b (b) (すべての ² > 0

に対して

| a b | < ²) = a = b (c) (

すべての

² > 0

に対して

x > 2 ²) = x > 2 (d) (すべての ² > 0

に対して

x > 2 ²) = x 2

2:

以下の小問に答えよ.

1) ² > 0

を任意の実数として,

¯¯ ¯ n

n + 3 1 ¯¯ ¯ < ²

となる

n

の範囲を

²

を用いて表せ.

2)

極限

lim

n →∞

n

n + 3

を,厳密に(²-N論法を用いて)求めよ.

3

極限

lim

x →− 2 x 3

を厳密に求めよ.

番外問題:これまでの講義内容で改善したらよいと思うところ,わかりにくかったところ,講義への要望などがあ れば自由に書いてください.また,質問があれば,それもどうぞ.この番外問題は成績には一切関係ないことを保 証しますから,次回からの講義を良くするつもりで書いてくださると助かります.

レポート提出について:

上の問に解答し,

5

9

日(金)

13:00

(時刻は

24

時間制)までに,原の部屋(六本松3号館

3-312

)の前の箱に

入れてください.整理の都合上,用紙は

A4

を使ってください(B5だとなくなっても知らんぞ).また,2枚以上 にわたる場合は何らかの方法で綴じてくだされ.

(6)

(5月12日:先週の木曜からひどい胃腸風邪で,まだレポートを採点してません.すみません.

(前回の補足)前回,定理

1.3.1

の「(あ)ならば(い)」の証明をしましたが,一カ所,間違った部分がありま した(講義後に指摘してくれた人,どうもありがとう).すみません.混乱すると申し訳ないので,正しい証明を ここに書いておきます.前回ちゃんと書かなかったのは,(い)で考えている数列は

a n 6 = a

を満たすものだけ,と いうところでした.

(あ)ならば(い)の証明

(あ)を仮定する.つまり,

lim

x a f (x) = b

を仮定する.このときに,「すべての

n

a n 6 = a,かつ lim

n →∞ a n = a」

であるような数列

{ a n }

に対しては

n lim →∞ f (a n ) = b (1.3.1)

であること,つまり前回の(い),を示したい.

さて,

lim

x a f (x) = b

であるから,任意の

² > 0

に対して,

δ(²) > 0

がうまくとれて,

0 < | x a | < δ(²)

ならば

| f (x) b | < ² (1.3.2)

とできるはずである.さらに

a n 6 = a

かつ

lim

n →∞ a n = a

なのであるから,このようにとった

δ(²)

に対して,十分大 きな

N (δ(²))

を探してきて,

n > N(δ(²))

ならば

0 < | a n a | < δ(²) (1.3.3)

がなりたつようにできるはずだ.ということは,この2つをつなげると,

n > n > N(δ(²))

ならば

0 < | a n a | < δ(²)

なので

| f (a n ) b | < ² (1.3.4)

が成り立つはずである.これは

lim

x a f (x) = b

を言っているに他ならない.

2

実数の連続性の公理とその帰結

今までの話は,我々の扱っている数の体系が実数でなくても(例えば有理数であっても)形式的に成り立つこと ばかりだ.しかし,これではどうも具合が悪い,というのが近世以降,数学の発展途上でわかってきたことである.

特に,「明らかにこの極限には存在してほしい」のにその極限の存在が保証されない,ようなことが頻発したため,

我々の数の体系を考え直す必要が生じた.天才たちの苦闘の末,実数論が整備されたのは19世紀の後半で,そん なに旧いことではない.この問題の解決にここまでかかったということは,この問題は単純ではないことを示唆し ているだろう.

この章では,実数の何が問題なのか(有理数では何が足りないのか),また,その問題がどう解決されたのか,を 見て行く.実数の一番重要(かつ,一見,難しいと思われる性質)はこの章では「公理」として述べる.後で,こ の「公理」を満たす実数が本当に構成できることを示す.(この後の部分については「実数の構成に関するノート」

を参照).ただし,講義の順序は後で変えるかもしれない.

2.1

実数の連続性の「公理」

まずは実数の「公理」とやらを天下りに述べよう.細かい言葉の定義はまあおいておいて,大体の感じをつかん でほしい.通常、実数というのは以下の公理を満たすもの(数)の集合をいう.

公理

2.1.1 (実数の公理 I)

「実数」の集合とは,以下をみたすような「数」の集合

R

のことである.

I)

四則演算に関する性質.

1. R

の任意の2元

α, β

に対して、その「和」α

+ β R

が一意に定まる.

α + β = β + α(交換法則)が成り立つ.

(7)

α + (β + γ) = (α + β) + γ

(結合法則)が成り立つ.

特別な数

0 R

が存在して,任意の

α R

に対して

α + 0 = α

をみたす(ゼロ元,つまり加法の単位 元の存在).

任意の

α R

に対して,α

+ ( α) = 0

となる

α R

が一意に存在する(加法の逆元の存在).

なお,α

+ ( β)

α β

と略記する.

2. R

の任意の2元

α, β

に対して、その「積」

αβ R

が一意に定まる.

αβ = βα(交換法則)が成り立つ.

α(βγ) = (αβ)γ

(結合法則)が成り立つ.

(α + β)γ = αγ + βγ

(分配法則)が成り立つ.

特別な数

1 R

が存在して,任意の

α R

に対して

α1 = α

をみたす(乗法の単位元の存在).

任意の

α R , α 6 = 0

に対して,α(1/α) = 1 となる

1/α R

が一意に存在する(逆数,つまり乗法の 逆元の存在).

なお,

α(1/β)

α/β

と書く(除法の定義).

これで加減乗除が

R

内で定義された.上の性質は

R

が「体」である事を示している.

II)

順序に関する性質.

1. R

の任意の2元

α, β

に対して,

α < β

α = β

α > β

のうちの1つだけが必ず成り立つ(全順序関係).

α < β

または

α = β

の時には

α β

と書く.

α β

かつ

β γ

ならば

α γ

である(推移律).この意味で

R

は全順序集合である.

2.

四則演算と順序は両立している.つまり,

α β

ならば

α + γ β + γ

である.

α β

かつ

γ 0

ならば

αγ βγ

である.

3. α > 0

のとき,αは正の数という.α <

0

のとき,αは負の数という.

4. α K

の絶対値

| α |

を以下のように定義する:

| α | :=

 

α 0)

α (α < 0)

(2.1.1)

III)

連続性に関する公理:上の

I), II)

に加えて,

R

は(いかに別の公理として述べる)「実数の連続性の公理」を 満たす.

上の公理のうち,I)

II)

は有理数まででも知っている性質ばっかりで,特段のものではない(数式で書くとや やこしいけど,良く見れば大したことないよ).問題は

III)

の「連続性の公理」だ.これが実数と有理数などを区 別する最大の特徴である.

困ったことに,「実数の連続性」の公理は,それ自身を理解するのが少しだけややこしい.また,この公理には互い に同値な,いくつかの表現が可能だ.話をややこしくしないため,ここでは以下の3バージョンのみを紹介する.

以下,3つの公理を書くが,後から証明するようにこれらは互いに同値である.だから,この3つを公理とし て要請するというよりも,この3つのどれか一つを公理として要請すると思った方が良い.

2.1.1

実数の連続性の「公理」その1

収束部分列(集積点)の存在

少し概念を準備する.

定義

2.1.2 (部分列)

無限数列

a 1 , a 2 , a 3 , . . .

が与えられた時,この数列から(順序を変えずに)一部分を取り 出して作った無限数列を数列

{ a n }

の 部分列 という.

お約束として,

{ a n }

{ a n }

それ自身の部分列とみなす.

(8)

(例)数列

1, 2, 3, 4, 5, 6, ...

の部分列の例としては

1, 3, 5, 7, 9, ...

とか,

1, 4, 9, 16, 25, ...

とか

1, 2, 5, 10, 100, 10032, 2323445, ...

とか.

次に「有界な数列」の概念を定義する.

定義

2.1.3 (有界列)

数列

{ a n }

に対してある数

L

が存在して,すべての

n

について

a n < L

が成り立ってい るとき,この数列は 上に有界 な数列という.また,ある数

K

が存在してすべての

n

について

a n > K

が成り 立っているとき,この数列は 下に有界 な数列という.上にも下にも有界な数列は単に 有界 な数列という.

(注)

K, L

は一般に数列

{ a n }

に依存して決まるものであるが,もちろん,

n

には依存してはいけない.

n a

n

K L

以上の下で,実数の連続性(完備性)の公理を述べることができる.

公理

2.1.4 (実数の連続性の公理 I —

収束部分列の存在) 有界な無限数列は必ず,収束する部分列を含む.つ

まり,有界な無限数列

{ a n }

が与えられれば,その部分列

{ b n }

をうまくとって,

{ b n }

が収束するようにできる.

この公理が何を言っているのかは,数直線上に

a 1 , a 2 , a 3 , . . .

の図を描いてみるのが良いだろう.図にすれば,かな りアタリマエに見えるものである.要するに,左を

K

,右を

L

で区切られた数直線の区間に無限個の数を放り込む と,どこかにグチャッと集まるしかない,という主張である.(この,グチャッと集まった点を集積点(accumulation

point)という.

a 1 a

2 a 3

a 4

a 5 a 15 a 9

K a 8 a 12 L

a 11 a 23

a 100

2.1.2

実数の連続性の「公理」その2

有界単調列の収束

定義

2.1.5 (単調列) a 1 a 2 a 3 . . . a n . . .

となっている数列

a n

を広義の単調増加数列,または単 調非減少数列という(不等号にイコールが入ってないものは単調増加数列という).不等号が逆向きになった のは「広義の単調減少」または「単調非増加」数列という.

(言葉に関する注)

英語では 単調増加=

(monotone) increasing,単調減少= (monotone) decreasing,単調非減少= (monotone) non-decreasing,単調非増加= (monotone) non-increasing.

上の定義中の「単調増加」を「狭義の単調増加」とか「真に単調増加」ということもある.同様の用語は関数 の増加・減少についても用いるが,この講義では略.

「単調増加」を「広義の単調増加」の意味で使う事も時々あるので注意が必要である.実際,研究論文のレベ ルでは上の定義の意味での「広義の単調増加」を単に「単調増加」と言い,上の定義の意味での「単調増加」

は「真に単調増加(strictly increasing)」という事が多い.

(9)

n n

公理

2.1.6 (実数の連続性の公理 II —

有界単調列の収束) 数 列

{ a n }

が 上 に 有 界 で 広 義 単 調 増 加 の と き ,

n lim →∞ a n

は存在する.また,

{ a n }

が下に有界で広義単調減少のときも,

lim

n →∞ a n

は存在する.

2.1.3

実数の連続性の「公理」その3

上限・下限の存在

またもや概念が必要だ.まず,実数の部分集合の「上界」と「上限」を定義しよう.

R

の部分集合

A

に対して,「すべての

x A

に対して

x L

」となるような

L R

が存在すれば,この

L

A

の上界(upper bound)という(L

A

の元でなくても良い).

R

の部分集合

A

の上界がすくなくとも一つ存在するような場合,Aは上に有界という.(この定義に従えば,

数列

{ a n }

が上に有界とは,集合

{ a n }

が上に有界のことである.

R

の部分集合

A

が上に有界の場合を考える.Aの上界のうちで最小のもの,つまり任意の「Aの上界」L 対して

α L

を満たすような

A

の上界

α

が存在するなら,この

α

A

の上限

(supremum)

といい,sup

A

と書く(

sup A

自身も

A

の元とは限らない).

同様に「下界」「下限」も定義する.

R

の部分集合

A

に対して,「すべての

x A

に対して

x K」となるような K R

が存在すれば,この

K

A

の下界

(lower bound)

という.

R

の部分集合

A

の下界がすくなくとも一つ存在するような場合,Aは下に有界という.

R

の部分集合

A

が下に有界の場合を考える.

A

の下界のうちで最大のもの,つまり任意の「Aの下界」

K

に対 して

K β

を満たすような

A

の下界

β

が存在するなら,それを

A

の下限

(infimum)

といい,

inf A

と書く.

公理

2.1.7 (

実数の連続性の公理

III-

上限の存在

)

R

の部分集合

A

が上に有界な場合,かならず

A

の上限

α = sup A

が存在する.

R

の部分集合

A

が下に有界な場合,かならず

A

の下限

α = sup A

が存在する.

以上3つの連続性の公理

I, II, III

が同値であることはこれから証明する.

実はこの他にも連続性の公理の表現はある.大雑把にいうと

デデキントの切断を用いて,「実数の切断には

II

型か

III

型しかない」とやるもの

「アルキメデスの公理」+「区間縮小法の原理」をいうもの

「アルキメデスの公理」+「コーシー列は必ず収束する」とやるもの

などである.これらについては「実数の構成に関するノート」に詳しく書いてあるから,興味のある方は参照され たい.

(10)

5月19日:レポート採点に難渋しています.皆さんが苦戦しているのが伝わってくるだけに,こちらとして も見捨て難い.レポートそのものは今晩中に採点して,明日の夕方までには僕の部屋(3号館312号室)の 前の箱の中に入れておきます.

なお,「例題や類題が欲しい」という要望が多数,寄せられました.これについては

講義始めに紹介した参考書を見る

僕の昨年度までの講義ノートなどを参照する(特に,理学部数学科向けの「微積

AB」のもの)

自分で何か演習書をやってみる

などをお奨めします.(これだけヒントを与えているので,この先は自分で探してくださいな.

かなりの人が苦戦しているのは僕は把握しており,予想の範囲内ではあります.ここはそれなりに難しいとこ ろなので,楽をして通り抜けられるものではありません.ある程度は苦しんで,自分で考えようとすることが 大切です.もちろん,質問にくれば懇切丁寧にお答えします.

なお,(間違った意味の)プライドなどは捨てて,友達に訊いてみるのも大変に良いことですよ.友達同士で考 えてると急にわかることがあります

——

そしてその理解は多分,一生ものです.

第2回レポート問題: 今回は

²-δ

の敗者復活戦です.問題は通し番号にしてあります.

4

極限

lim

x 5 x 2

²-δ

法で厳密に求めよ.

5

極限

lim

x →− 2 (x 4 + 2x 3 2x)

²-δ

法で厳密に求めよ.

番外問題:これまでの講義内容で改善したらよいと思うところ,わかりにくかったところ,講義への要望などがあ れば自由に書いてください.また,質問があれば,それもどうぞ.この番外問題は成績には一切関係ないことを保 証しますから,次回からの講義を良くするつもりで書いてくださると助かります.

レポート提出について:

上の問に解答し,

5

23

日(金)14:40(時刻は

24

時間制)までに,原の部屋(六本松3号館

3-312)の前の箱に

入れてください.整理の都合上,用紙は

A4

を使ってください(B5だとなくなっても知らんぞ).また,2枚以上 にわたる場合は何らかの方法で綴じてくだされ.

—————————————————

 先週のレポートの略解 

—————————————

1:

かなりの人が真か偽の判断はできていましたが,真であることの証明で苦しんだ人が多かったようです.ま あ,背理法を使うのはちょっとズルい気もするから,証明ができなくてもそんなに気にすることはありません.と もかく,真か偽を(直感的にでも)判断できることが大切です.

(a)

は偽:

a = 0, b = 1, ² = 2

が反例の一つ.

(b)

は真.(証明)背理法が簡単.もし

a 6 = b

だとすると,²

= | a b | /2

に対して

| a b | < ²

が成立しない.

(c)

は偽.

x = 2

を考えよ.

(d)

は真.(やはり背理法で証明する)x <

2

と仮定すると,²

= (2 x)/2 > 0

が存在するが,これは

x > 2 ²

を満たさない(数直線を描いて納得せよ).

(11)

2

1)

問題の不等式は

3

| n + 3 | < ²

と同値なので,

| n + 3 | > 3

²

が求める範囲.問題には明記しなかったけど,

n

は正のつもりなので,n >

3

² 3

が答え.もちろん,負の

n

n < 3

² 3

まで含めて答えてくれても正解です.

2)

任意の

² > 0

に対して,

N = 3

² 3

と定めると(明記はしないけど,

n

は自然数)

n > N

ならば

¯¯

¯¯ n n + 3 1 ¯¯

¯¯ < ²

が成り立つ(なぜ成り立つのか,は

(1)

で計算した通りだから).これは

lim

n →∞

n

n + 3 = 1

と言っているのに他なら ない.

(注)²が大きくなると上の

N

が負になってしまいますが,特に問題はありません.単に

n 1

というすべての 自然数を考えることになるだけです.

3

任意の

² > 0

に対して

δ = min {

1, ² 19

}

ととると,

| x + 2 | < δ

ならば

| x 3 + 8 | = | x + 2 | × | x 2 2x + 4 | < δ × 19 = ²

がなりたつ.これは

lim

x →− 2 x 3 = 8

であることに他ならない.

(注)

δ < 1

とするところの意味がなかなかわからなかったようなので,これは講義で詳しく解説します.解説

するように,1に特別の意味はありません.δ <

0.55

でも

δ < 0.1

でも良いですが,計算しやすいように

1

にした だけです.

(12)

5月26日:今日はコーシー列の予定でしたが,これまでの質問に答える意味も込めて,先週の証明をもう少 し丁寧に説明します.時間があればコーシー列に入ります.

—————————————————

 先週のレポートの略解 

—————————————

今回は皆さん,割合とできていました.自力でできた人は

²-δ

が少しわかってきたと言って良いでしょう.大変 に喜ばしいことです.

4

まず,無味乾燥な答えから.

行き先は

25

と予想しておく.任意に

² > 0

をとり,

δ = min {

1, ² 11

}

ととる.さて,

| x 2 25 | = | x 5 | × | x + 5 |

であるが,

| x 5 | < 1

では

4 < x < 6

であるから

| x + 5 | < 11

である.従って,

| x 5 | < δ < 1

では

| x 2 5 | < δ × 11 ²

11 × 11 = ²

が成り立つ.これは

lim

x 5 x 2 = 25

を意味する.

(裏の計算;11をどうやって見つけたのか?)

| x 5 | < 1

の下では

4 < x < 6

なので,

| x + 5 | < 11

が結論でき る.この

11

を打ち消すために,δ

²/11

と決めたのだ.

5

いつも

δ < 1

としているのもなんなので,δ <

0.1

とした解答例を書いてみた.

行き先は

4

と予想できる.任意に

² > 0

をとり,

δ = min {

0.1, ² 11.261

}

ととる.さて,

| (x 4 + 2x 3 2x) 4 | = | x + 2 | × | x 3 2 |

であるが,

| x + 2 | < 1/10

では

2.1 < x < 1.9

であるから

| x 3 2 | < 2.1 3 + 2 = 11.261

である.従って,

| x + 2 | < δ < 0.1

では

| (x 4 + 2x 3 2x) 4 | < δ × 11.261 ²

11.261 × 11.261 = ²

が成り立つ.これは

lim

x 5 (x 4 + 2x 3 2x) = 4

を意味する.

—————————————————

 以下,質問コーナー 

—————————————

いろいろとレポートに質問が書いてあったので,まとめて回答します(黒丸が質問,棒線が僕の答えです.

過去問を配ってほしい(複数)

(建前)過去問を勉強して合格しようと思う根性が間違っています.数学の試験というのは,理論の基 礎から応用まで完璧にこなして,どこから攻撃されても反撃できるようにして受けるものです.よって,

過去問を配ってほしいという要請は激しく却下.

(本音)まあ,そうは言っても,勉強の指針として過去問を使いたいという人もいるでしょうから,全 否定はしません.しかし,今学期の最初に宣言したように,今年は昨年までと異なり,きちんとした数 学の試験をしますので,過去問は一切,参考にならないでしょう.なお,勉強の指針となるように,あ る程度の「予想問題」は示す予定です.(第1回,第2回のレポート問題も当然,予想問題の内.

最後で急ぐとわからないので,急がないでほしい(複数)

(13)

はい,おっしゃる通りです.今学期は前年度までとかなり進み方も違うので,今日からはもっとおおら かな気持ちで(できるところまで行ければ良いと思って)やります.

段々と

²-δ

がわかってきた気がします(複数)

ああ,良かった.君のような人が一人でも多くなることを願って講義しています.

²-δ

について,「裏の計算」は書いた方がよいですか?

はい,是非,書いてください.これがなくても不正解ではありませんが,こちらとしては皆さんの思考 の過程がわかるので,書いてほしいです.特に裏の計算なしで間違われると,どのように間違ったのか,

ほとんどトレースできないので,結局は書かなかった人の不利になりますよ.(特に試験の時)

アタリマエと思って証明するのはおかしくないですか?

今ひとつ,質問の意味が掴みきれませんが,「アタリマエと思った」のと「証明できた」ことにはおおき な隔たりがあります.世の中も学問も複雑なので,一見,アタリマエと見えたことが実はおおきな間違 いであった,などは日常茶飯です.だからこそ,アタリマエに見えることも証明してみる(本当に正し いかを確かめる)ことは欠かせません.科学も工学もこのように,アタリマエかどうかを一歩一歩確か めることで進歩して来ました.この地道な努力をバカにしてはいけません.

質問の時間が取りにくいので,月曜5限のあとはいつごろまで相手をしてくれますか?

十時でも十一時でも,最終のバスまでお相手します.ただし,6時半までに僕を捕まえてください.(ま たは「今夜8時に質問に行く」などと事前に伝えてください.

この科目以外の質問もして良いですか?

もちろん,構いません.答えられる範囲でお答えします.ただし,この科目に関する質問でもそうでな いものも,「教育的配慮」から答えを完全に言わないこともあることはご了承ください.

実数の連続性の公理の内容はわかるけど,なぜあれが「連続」なのかわからない.

今の形ではわからなくて当然です.6月にその辺りを(少し)説明する予定です.

—————————————————

 以下,先週の補足とレジュメの続き 

—————————————

まず,先週からやってる実数の公理の同値性を示す(一つの)順序をまとめておきます.

I = II = IV = I (2.1.2)

これで

I, II, IV

の同値性がいえます.これとは別に

II ⇐⇒ III (2.1.3)

も示します.これで

I

から

IV

全部の同値性が言えます.

重要な注意

先週の講義の後で,複数の人から質問があったので注意しておきます.先週「実数の公理(性質)

I

から実数の公 理(性質)IIを示す」などを行いましたが,その証明は以下のような構造になっていました.そもそも,公理(性 質)が

公理

I :

仮定

A 1

の下で,結論

B 1

が成り立つ 公理

II :

仮定

A 2

の下で,結論

B 2

が成り立つ

の形をしており,「公理

I

から公理

II

が導かれる」を示すために「仮定

A 2

の下で,(公理

I

の助けを借りて)結論

B 2

を証明する」とやった訳です.講義の後で出た質問は「性質

II

を証明するのに(公理

II

にでてくる)仮定

A 2

を仮

(14)

定して良いのか?」というものでした.もちろん,やっていいのですが,この混乱は「命題とは何か」が少しあや ふやになったために生じたものでしょう.(もっといえば,皆さんが今まで見てきた命題よりも公理

I, II

などが複雑 なためかもしれない).「仮定

A 2

を仮定する」と思う代わりに「公理

II

の舞台を設定している仮定

A 2

の世界に入 る,その舞台設定の上で,結論

A 2

が成り立つことを証明する」と考えるとわかりやすいかもしれません.

極限に関する重要な性質について

レポートへの質問で,極限の基本的な性質についてのものがありました.簡単には最初の頃に言ったつもりなの ですが,まとめておいた方が良いかもしれません.これらの補題は1節の極限の定義から直接,出てきます(実数 の連続性は必要ありません).その意味で,1節に書いておくべきことではあります.

補題

2.1.8 lim n →∞ (a n b n ) = 0

をみたす数列

{ a n } , { b n }

があり,a

n

α

に,b

n

β

に収束するものとする.

このとき,

α = β

である.

(証明)背理法で証明する.今

α 6 = β

と仮定し,

² = | β α | /3

ととる.極限の

²-N

による定義から,この

²

に対 して

N 1

N 2

が存在して

n > N 1

ならば

| a n α | < ² (2.1.4)

n > N 2

ならば

| b n β | < ² (2.1.5)

が成り立つはずだ.そこで,

N 1

N 2

の両方より大きな

n

については,

| a n α | < ²

かつ

| b n β | < ² (2.1.6)

が成り立ってるはず.ところがこの2つは,この

n

について

| a b b n | = | (a n α) + (α β) + (β b n ) | ≥ | α β | − | a n α | − | b n β | > | α β | − 2² = | α β |

3 (2.1.7)

が成り立つことを意味する.これは

N 1

N 2

の両方より大きなすべての

n

について成り立つはずなのだが,

lim n →∞ (a n b n ) = 0

に矛盾する.よって

α = β

しかあり得ない. (補題の証明終わり)

補題

2.1.9

(i)

すべての

n

について

a n b

をみたす数列

{ a n }

α

に収束するとき,α

b

である.

(ii)

すべての

n

について

a n c

をみたす数列

{ a n }

α

に収束するとき,α

c

である.

補題

2.1.10

数列

{ a n }

α

に収束し,数列

{ b n }

β

に収束するとき,

(i) lim

n →∞ (a n + b n ) = α + β (ii) lim

n →∞ (a n b n ) = αβ

(iii) β 6 = 0

かつ

b n 6 = 0

ならば

lim

n →∞

a n b n

= α β

(上の2つの補題の証明は各自でやってくだされ. 続いて「区間縮小法」について

通常,区間縮小法というのは,閉区間でやるものをさします

s.先週やった,開区間のものでも正しいのですが,

まずは閉区間のものからまとめておきます.

公理

2.1.11 (実数の連続性の公理 IV-区間縮小法)

数列

{ a n } , { b n }

が以下を満たすとせよ:

a 1 a 2 a 3 . . . a n . . . . . . b n . . . b 3 b 2 b 1 (2.1.8)

更に,

n lim →∞ (b n a n ) = 0 (2.1.9)

参照

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