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─ ─ フランスの事後的違憲審査制

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(1)

フランスの事後的違憲審査制

─その特異な「先決」問題解決のあり方─

La question prioritaire de constitutionnalité en France, une question «préjudicielle» singulière

グザヴィエ・マニョン

訳 植 野 妙 実 子**

小 川 有 希 子***

 2008年 ₇ 月23日の憲法改正によって導入され,2009年12月10日の組織法 律によって確立した合憲性の「優先

prioritaire」問題(QPC)は,フラン

ス憲法学がこれに期待を寄せ,まさに待ちこがれていたものといえよう。

真の意味で裁判上の改革がなされたのは,2010年 ₃ 月 ₁ 日の施行のときで ある。この新しい訴権

voie de droit

は,EUにおける先決判決とは一線を 画する特異性を示しているように思われる。以下では,QPCの訴訟手続 について手短に紹介し,これが提示するさまざまな特異性を批判的に読み 解いていくこととする。

 憲法61─₁条は次のように規定する。

「裁判所に係属中の訴訟の際に,憲法が保障する権利及び自由を法律 規定が侵害していると主張された場合は,憲法院は,所定の期間内に 見解を表明するコンセイユ・デタまたは破毀院からの付託

renvoi

 エックス・マルセイユ大学教授  Xavier Magnon

 Professeur de lʼUniversité dʼAix-Marseille

** 名誉研究所員・中央大学名誉教授

*** 帝京大学法学部法律学科助教

(2)

基づき,その問題を受けることができる。」

 これ以降,訴訟当事者

justiciable

は,訴訟係属中に,法律規定の違憲性 を訴えることができるようになった。つまり,通常裁判

procès ordinaire

において,法律規定が憲法が保障する権利及び自由を侵害しているという ことを理由に,その規定の適用を免れることができる。訴訟当事者は,法 律の憲法適合性審査手続におけるアクターになる。たとえその付託が原則 として二重のフィルター,すなわち一方で

QPC

が提起される下級審,他 方でそれがもちあがってくる当該系列の上級審としてのコンセイユ・デタ または破毀院を通してであったとしても,憲法院への付託の発端となる。

 したがって,少なくともここではまだ,QPCは先決問題

question préju- dicielle

である,と仮定しておこう。合憲性の問題は,普通法

droit com- mun

の訴訟,すなわち「普通法の」裁判官,これは「憲法の」裁判官と 対比する表現であるが,裁判官の面前で二当事者が対立する主たる訴訟

litige principal

の中で生まれる。当事者の一方は,訴訟において法律の適

用を逃れるために,法律の憲法不適合性

irrégularité constitutionnelle

から 引き出され,正常な訴訟進行を妨げることのできる,手続法上の用語でい うところの抗弁を主張することができる。主たる訴訟において適用される はずの法律の違憲性の主張を端緒として,一種の付随的な訴訟

procès in-

cident

が開始される。しかしながら,普通法の裁判官には,先決問題の対

象となる付随的な訴訟を解決する権限がないため,権限ある裁判官すなわ ち憲法裁判官に引き渡す。憲法裁判官[憲法院裁判官]だけが,法律の憲 法適合性を判断し,法体系から違憲の法律を取り除くことができるのであ る。ただし,その帰結は,普通法の訴訟において,普通法の裁判官によっ て導かれることになる。

 フランスの「先決」問題は,採用されたのがそれとは異なる名称である としても,その理由は理解できるが,その特異性にもかかわらず一般的ス キームに組み込まれている。すなわち,主たる訴訟を担当する普通法の裁 判官は,憲法院に直接移送することはできず,憲法61─₁条が規定するよう

(3)

に,当該裁判系列の上級審,すなわち,司法裁判系列においては破毀院,

行政裁判系列においてはコンセイユ・デタのフィルターを通してはじめ て,憲法院による審査の対象となる。QPCはこのように,憲法院にいた るまでに二重のフィルターを通るのである。

 手続の観点からは,QPCは,憲法院に関する組織法律についての1958 年11月 ₇ 日オルドナンス1)23─₁条 ₁ 項に「請求

moyen」として規定されて

おり,訴訟当事者が「個別のかつ理由を付した文書」で提起しなければな らない。

 実際,1958年のオルドナンスは,QPCが憲法院に提訴されうるための 条件として,これにふるいをかける裁判官の次元に応じて,二つの類型を 規定している。下級審の裁判官にとっては,それは移送

transmission

要件 の問題であり,上級審の裁判官にとっては,付託

renvoi

要件の問題であ る。オルドナンス23─₂条によると,移送には次の三つの条件が課されてい る。

  ₁ 号  異議を申し立てられた規定が,係争または手続に適用可能である か,あるいは提訴の根拠を構成すること。

  ₂ 号  事情の変更の場合を除き,異議を申し立てられた規定が,憲法院 判決の理由及び主文においてすでに憲法に適合すると宣言されて いないこと。

  ₃ 号  問題が重大な性格を欠いていないこと。

 同オルドナンス23─₅条によれば,「23─₂条 ₁ 号及び ₂ 号に定める要件が 満たされており,かつ,問題が新規的なものか,または重大な性格を提示

1) 憲法61─ ₁ 条の適用に関する2009年12月10日の組織法律によって,1958年の オルドナンスが改正された。

 * なお,フランスでは原則的に,裁判は二審制であり,それぞれの裁判系列

(民事と刑事を含む司法裁判系列と行政裁判系列)において,事実審として の下級審,法律の解釈をめぐって審査する法律審としての上級審が存在して いる。原文のイタリックは翻訳においては太字で示し,本文の翻訳内の[ ] で示したのは訳者の方で付した補足である。

(4)

している場合」に,コンセイユ・デタまたは破毀院によって,憲法院に付 託される。

 これら二組の条件は,部分的に共通しており,移送裁判官と付託裁判官 によって重ねて審査される最初の二つの条件について,以下,簡単に説明 しておく。

 第一の条件は,主たる訴訟すなわち「通常

ordinaire」訴訟と付随的な

訴訟すなわち憲法適合性問題との間に存在すべき関連性に帰着する。組織 法律の立法者は,この二つの訴訟の間の緩やかな関連性を選択した。憲法 適合性に関する

QPC

が移送または付託されうるためには,少なくとも当 該法律が訴訟に適用可能

applicable

であれば足りる。

 第二の条件は,憲法院が,法律規定の憲法適合性について重ねて判決す るのを避けるためのものである。当該法律規定が,判決の理由及び主文に おいて憲法に適合すると宣言され,かつ憲法院がそこで,判決において当 該法律規定を特別の審査に付したこと,すなわち,憲法に適合することの 明白な正当化の対象となっていることについて付言した場合2)は,憲法院 は,当該法律規定について再度審査をすることはできない。ただし,23─₂ 条は,「事情の変更

changement des circonstances」の場合を例外として定

めている。事情の変更だけが新しい審査を正当化することになる。

 事情の変更は,法上の事情の変化の場合もあれば,事実上の変化の場合 もありうる。憲法院は,「事情の変更」とは,「適用可能な憲法規範,また は,法上もしくは事実上の状況において,先の判決以降に生じた変化であ って, 争いの対象となっている法律規定の規範内容に影響を与えるも の」3)として判断することになっている。

 法律規定の「実施条件の変更」は,事実上の事情の変更にあたるとされ

2) CC, nº 2010─9 QPC, 2 juillet 2010, Section française de lʼObservatoire internatio- nal des prisons [Article 706─53─21 du code de procédure pénale], cons. 4.

3) CC, nº 2009─595 DC, 3 déc. 2009, Loi organique relative à lʼapplication de lʼar- ticle 61─1 de la Constitution, cons. 13.

(5)

ている4)。例えば,警察留置法

loi garde à vue

の規定が争われたとき,憲 法院は,「軽微な犯罪の場合を含む警察留置の実施」が常態化し,「2009年 には,790,000件を超える警察留置決定がなされた」5)ことが事実上の事情 の変更にあたると指摘した。したがって,事情の変更を判断する上で考慮 される要素は,法律の具体的な適用の結果から生ずる事実である。

 法上の事情の変更はより容易に判断できる。まず,憲法違反宣言の後の 憲法改正について考える必要がある6)。2005年 ₃ 月 ₁ 日の憲法改正によっ て環境憲章が憲法に挿入されたときのことを考えると,この状況は純粋理 論的ではない。その日以前の判決において,憲法院によって「有効」と宣 言された法律規定はすべて,環境憲章の規定に反しないか否かがあらため て審査の対象となりうる。さらに,最初の審査がなされた後に

QPC

で争 われた法律規定の改正も問題になりうる7)。同様の観点から,ある法律規 定が導入されることでその法的文脈が変化することになれば,法上の事情 の変更とみなされるということになろう8)。憲法院の判例変更も,法上の 事情の変更に該当すると考えられる9)

 第三のかつ最後の条件は,QPCが下級審裁判官によって審査されるか,

上級審裁判官によって審査されるかに応じて異なる。下級審では,問題が

「重大な性格を欠く」ものである必要はない。問題となっている法律規定

4) CC, nº 2010─14/22 QPC, 30 juill. 2010, M. Daniel W. et a. [Garde à vue], cons.

15.

5) Loc. cit., cons. 18.

6) 2008年 ₇ 月23日の憲法改正によって改正された憲法 ₄ 条については以下のも のを参照。CC, nº 2012─233 QPC, 21 février 2012, Mme M. Le Pen [Publication du nom et de la qualité des citoyens élus habilités ayant présenté un candidat à lʼ élection présidentielle], cons. 4.

7) CC, nº 2011─117 QPC, 8 avril 2011, M. Jean-Paul H. [Financement des cam- pagnes électorales et inéligibilité], cons. 7 et 8.

8) CC, nº 2010─14/22 QPC, précit., cons. 15.

9) CC, nº 2011─125 QPC, 6 mai 2011, M. Abderrahmane L. [Déferrement devant le procureur de la République], cons. 11.

(6)

の「不適合性

irrégularité」の程度に関する要求は弱く,問題を移送する

ためには,法律の憲法適合性について単に疑いがあれば足りる。上級審で は,QPCが「重大な性格を提示している」ことが必要であるため,要件 はより厳格であるといえる。二重のフィルターの意義はまさにここにあ る。請求の重大性は,実質的には上級審レベルで審査されており,当該要 件の認定は,上級審に集中している。もっとも,かかる厳格さは,重大性 の条件と択一関係にある条件,すなわち新規性の条件によって均衡が図ら れている。結果として,重大性を欠く場合であっても,問題の新規性を理 由に憲法院に付託されることがある。新規性の概念は,憲法院が「未だ適 用の機会をえていない憲法規定の解釈について付託」を受けることを可能 にするものとして理解されることになる10)

 二重のフィルターを通過すると,憲法院は

QPC

の付託を受けるが, ₃ ヶ月以内に判決を下さなければならない。期限に関しては,下級審は「遅 滞なく」QPCを裁定しなければならず,上級審は ₃ ヶ月の期間をもって これを行う。

 憲法62条 ₂ 項は,憲法院による違憲宣言

censure

の効力について規定し ている。

「61─₁条に基づき違憲と宣言された規定は,憲法院判決の公示日以後 あるいは当該判決が定めるその後の期日以降,廃止される。憲法院 は,当該規定から生じる効力を再検討するための条件及び限界を定め る。」

 この憲法上の規定は,憲法院の判決理由§

de principe

において明示され ている。

「憲法62条 ₂ 項によれば,『61─₁条に基づき違憲と宣言された規定は,

10) CC, nº 2009─595 DC, précit., cons. 21.

(7)

憲法院判決の公示日あるいは当該判決が定めるその後の期日以降,廃 止される。憲法院は,当該規定から生じる効力を再検討するための条 件及び制限を定める』 としている。 原則として, 違憲の宣言は,

QPC

の提起者に利益をもたらすものでなければならず,憲法に違反 するとされた規定は憲法院判決の公示の時から訴訟において適用でき ない。しかし,憲法62条の規定は,廃止日を定め効力発生の時を延期 すること,その違憲宣言前に生じた規定の効力を再検討しうることを 想定している。」

 したがって,違憲宣言の効力は,原則として,廃止の効力を有する。す なわち法体系の将来に向かってのみ法律規定が消滅するということであ る。違憲宣言の時点で係属中の他のすべての訴訟と同様に,QPCが提起 されている係属中の訴訟に対しても,違憲宣言を直接に適用することによ って,憲法院はこの原則的な効力を完全なものにした。

 この他に,憲法院は,法律規定の判決以後の廃止,すなわち廃止の延期 も行うことができる。延期された廃止によって,立法者には,違憲とされ た規定に対応するため,法律を改正する経過措置期間も与えられる。さら に,警察留置に関する法律の場合がそうであったように,憲法院は,違憲 宣言がなされた法律規定が対象とする領域において規制の欠如にいたらぬ ように対処する。一度違憲の宣言がなされると,もはや警察留置を行うこ とができず,また,憲法院は憲法に適合する警察留置の条件を保障するよ うな新たな規定をおくこともできない。憲法院が常に述べているように,

憲法院は「議会と同じ性質の一般的な評価権限を有しない」 からであ 11)。立法者だけが,警察留置の条件を定めるなど,違憲宣言がなされた 法律規定がカバーしていた領域を規制するための立法的措置をとることが できるのである。憲法院は,立法者が動くまでの,一時的な規制を定める 11) 警察留置に関して異なる観点を示すものとして次のものがある。CC, nº 2010─

14/22 QPC, précit., cons. 30.

(8)

いかなる権限も有してはいない。

 廃止日の延期によって,判決によって法律が違憲とされた時点から廃止 日までの間における法律の適用の問題がおきる。とりわけ,憲法院は次の 選択に迫られる。警察留置判決の場合がそうであったように,法律を適用 しないことから生じる「明らかに行き過ぎた結果」を理由に法律を適用し 続けるのか,あるいは,違憲判決を受けた法律規定について立法者が対処 するまで,より正確には立法者によって措置がとられるであろう廃止日ま で,その適用に関する係属中の訴訟の判決を下すことを延期するように裁 判官に要求するのか,憲法院は,その間の対処について検討する12)  最後に,「当該規定から生じる効力」について再検討することによって,

憲法院は,違憲宣言に㴑及効を生じさせることもありうる13)。違憲宣言 は,即時の廃止を伴い,係属中のすべての訴訟に及ぶ,という手続的㴑及 の原則は,すでに憲法院の判決理由において定式化されている。より正確 にいえば,それは,進行中の状況に及ぶ㴑及効であり,進行中の状況のう ち係属中の訴訟に向けられた㴑及効である。より広くは,あらゆる進行中 の状況,つまり,そこから法的状況が生じるところのあらゆる進行中の状 況に違憲宣言の効力が及びうるが,違憲宣言の時点ではまだ㴑及効は完成 していない。例えば,公役務の利用者が,憲法院判決前に行政に対して何 らかの請求をしていたとしても,判決の時点では行政の側から応答の対象 となっていない。その意味で状況は進行中といえる。

 㴑及効は,進行中の状況に対してだけでなく全面的に及びうる。先にあ げた事例において,違憲宣言がなされると,当該法律規定は存在しなかっ たものとみなされる。したがって,法律があたかも効力を及ぼしていなか ったかのような状況への回復が可能であろうと,違憲の宣言がなされた法

12) CC, nº 2010─1 QPC, 28 mai 2010, Consorts L. [Cristallisation des pensions], cons. 12.

13) 黙示的な手法については, 以下を参照。CC, nº 2010─52 QPC, 14 octobre 2010, Compagnie agricole de la Crau [Imposition due par une société agricole], cons. 9.

(9)

律の適用によって生じた損害を金銭的に賠償する必要があろうと,法律が 採択されていなかったように当該法律がカバーしていた状況を回復する必 要がある。

 さらに,㴑及効は,進行中の状況をこえて,時における制限を受ける。

すなわち,法律の審署日ではなくとも,当該規定から生じる効果が作用し ていないとされる特定の期日を定めることができる。例えば,税務に関す る場面では,ある租税の適用に基づいて納められた税金を所定の期間内に 払い戻すことができるように,当該税制についての法律規定の廃止の㴑及 効を定めることも可能となる14)。違憲宣言前に生じた状況が違憲宣言によ って利益を享受するという点においてまさに㴑求性があるが,それは当該 状況下にある者に限られる。

 批判的な観点から,「先決

/

優先」問題が,欧州において,その実施態 様における原則の中で,どのように特異性を示してきたのかを示す必要が あろう。

 以下では,QPCの特異性を表すいくつかの要素に言及する。第一に,

「優先性」と呼称するにふさわしいのかということについての疑義である。

法律の適合性,すなわち法律の違憲性の確認のもう一つの方法である国際 条約という観点からする法律の適合性との競合となるということである。

第二に,先決問題それ自体から生ずる問題である。第三に,憲法適合性審 査の抽象的性格がなお明白であることが問題となる。第四に,法律の事後 的な異議の承認に対して限定的な傾向にあるヨーロッパ諸国において,フ ランスの上級審によるフィルターが特異性を示していることも問題とな る。第五に,憲法が保障する権利や自由の排他的保障,そして,憲法尊重 の保障においてすべての憲法規定が主観的権利を主張する訴訟手続をとる 傾向にあるわけではないこともとりあげる。

14) 例えば,次の例があげられる。CC, nº 2010─52 QPC, 14 oct. 2010, Compagnie agricole de la Crau [Imposition due par une société agricole], cons. 9.

(10)

1

.拡散型条約適合性審査と競合する訴訟手続

 QPCは,近年,同様の訴権を導入した他のヨーロッパ諸国と比較する と,独自の背景をもってフランスに導入された。実際,合憲性問題がフラ ンスに導入されたとき,フランスの裁判機関には法律の適合性を争うため の別の方法,すなわち国際条約との関係において法律の適合性を主張する 方法がすでに存在していた。法律の憲法適合性

constitutionnalité

審査に対 応して,法律の条約適合性

conventionnalité

審査と呼ばれるものがあった。

このような状況は,憲法院による憲法55条の解釈に基づいている。

 憲法55条は,次のように規定する。

「正規に批准または承認された条約あるいは協定は,相手国による当 該協定または条約の適用を条件に,公示の時から法律に優位する効力 をもつ。」

 この憲法規定は,法律に対する国際条約の優位原則を定めているが,優 位原則の尊重を確保するための措置をとる権限がどの機関に,とりわけど の裁判機関に属するのか,その優位原則の尊重を承認する機関の所在を示 していない。普通法の裁判機関としては,条約の優位原則が憲法によって 規定されている以上,こうした原則違反は間接的には憲法違反であると主 張する見解をとりえた。憲法55条のこうした解釈に加え,普通法の裁判官 は,法律の適合性審査をすることに消極的であり,その法的根拠は1790年

₈ 月16日─24日の法律にあった。今なお効力を有する第 ₂ 章10条は次のよ うに規定している。

「裁判所は,直接的にも間接的にも,立法権の行使に関与することは できず,また,国王によって裁可された立法議会のデクレの執行を妨 げもしくは停止することはできない。これに反したときは,瀆職罪に

(11)

処する。」

 憲法適合性であれ条約適合性であれ,法律の適合性に対する審査は,

1790年法が禁止する立法権の行使への干渉と解されていた。

 次のような二つの要素から,普通法の裁判官は国際条約と法律の抵触を 解決することとなった。第四共和制下においてすでに,1946年10月27日憲 法が,条約は「法律の効力を有し」(26条),「国内の法律に優位する権威 を有する」(28条)と規定されていたことにしたがい,国際条約と諸法律 との間の抵触は,後法は前法を破る

lex posteriori derogat priori

という格言 を適用して,普通法の裁判官が解決することになった。条約は法律と同じ 価値をもち,条約と法律の抵触は,二つの法律間の抵触として解決され る。すなわち,条約が法律の後に制定された場合のみ,条約優位の問題を 生じ,法律が条約の後に制定された場合には,法律の方が適用される。

 この状況は,憲法61条 ₂ 項15)によって確立された事前

a priori

の憲法適 合性審査の枠組において,憲法院は法律の条約適合性に関する異議がもた らされたとしても審査しないという理由で続いていた。条約適合性の問題 が,間接的な憲法適合性の問題すなわち憲法55条に定められた優先原則の 侵害の問題なのかどうかは,憲法院によっては解明されていなかったので ある。憲法院は,中絶に関する法律の合憲性についての1975年 ₁ 月15日判 決,いわゆる「人工妊娠中絶

IVG」判決

16)で,はじめてこの問題について 判断した。フランス憲法が,憲法ブロックを構成するさまざまな基本原理

15) 憲法61条 ₁ 項及び ₂ 項は次のように規定している。

   ₁ 項 組織法律は審署前に,11条に定める議員提出法律案は国民投票に付す 前に,そして議院規則は施行前に,憲法院の審査に付託されなければならず,

憲法院はそれらの合憲性につき裁定する。

   ₂ 項 同様の目的で,法律は審署前に,共和国大統領,首相,国民議会議 長,セナ議長,または,60名の国民議会議員もしくは60名のセナ議員により,

憲法院に付託されることができる。

16) CC, nº 74─54 DC, 15 janvier 1975, Loi relative à lʼinterruption volontaire de la grossesse.

(12)

(1958年10月 ₄ 日憲法,1946年10月27日憲法前文,1789年 ₈ 月26日人及び 市民の権利宣言,そして2004年の環境憲章)によって,「生命に対する権

droit à la vie」を,これが人工妊娠中絶に関する法律に対抗できる可能

性を有していたのであるが,承認していない以上,憲法状況は明白であっ た。これに対して,1974年にフランスが批准した1950年11月 ₄ 日欧州人権 条約は,その ₂ 条において生命に対する権利を定めている。ここでの関心 においては,当該法律に関して憲法院に提起された異議が,まさにこの問 題に関するものであった。憲法院は,こうした主張についての自身の判断 権限を否定し17),「法律が条約に違反するとしても,だからといって,憲 法に違反するというわけではない」18)と述べている。したがって,国際条 約との適合性の問題は,憲法適合性とは別の問題であり,憲法院が憲法適 合性の問題についてのみ管轄権を有することになるならば,普通法の裁判 官は黙示的かつ必然的に条約適合性の問題を取り扱うことになる。憲法院 のこうした考え方は,実際,法律の条約適合性を審査するのは普通法の裁 判官に委ねられるとして解釈されることになった。

 破毀院はまもなく,1975年 ₅ 月24日の混合部での判決,カフェ・ジャッ ク・ヴァーブル社

Société des cafés Jacques Vabre

事件において,先の憲法 院判決にしたがい,条約適合性についての審査権限が自らに属するとし て,国際条約との抵触を理由に条約より後に制定された法律を退け,司法 裁判機関の条約適合性審査権限を承認した。

17) 異論の余地のないものとして,判決理由は,以下のように判示している。

  「憲法61条に基づいてなされた判決は, 絶対的absoluかつ決定的définitive な性格をおびるものであり,同62条によって違憲と判断されたすべての規定の 審署及び適用が妨げられる。これに対して,同55条が原則として規定する法律 に対する条約の優位性は, 相対的relarifかつ偶発的contingentな性格を示し ており,一方で条約の適用領域が限定されていること,他方でその実現は相互 主義にしたがって,条約に署名した ₁ つまたは複数の国の行為により,またそ の条件の遵守を評価しなければならない場合により,実現はさまざまとなる」

(cons. 4)。

18) Cons. 5.

(13)

 これに対して,行政裁判系列においては,その反応が遅れていた。1975 年に黙示的にしか示されていなかったが,後の憲法院判決によって明確に 再確認されることになる。他方1986年にコンセイユ・デタでは「国際条約 の適用を監視することは,国家のさまざまな機関に属する」19)と判示して いた。さらに,憲法院は,憲法が憲法院に委ねている選挙訴訟において は,憲法院自身が普通法の裁判機関の資格において法律の条約適合性審査 の権限を有することを認めた20)。こうした誘導により,コンセイユ・デタ は,1989年10月20日の総会決定である, すなわちニコロ

Nicolo

事件にお いて,コンセイユ・デタとともにすべての行政裁判所が,法律の条約適合 性審査を行使する権限を有することを自ら認めた。

 人工妊娠中絶

IVG

判決,ジャック・ヴァーブル

Jacques Vabre

判決,ニ

コロ

Nicolo

判決という三部作の結果,2008年憲法改正当時,憲法院を除

く普通法の裁判機関による法律の条約適合性の拡散型審査

contrôle diffus

de conventionnalité

と,政治的権限を有する機関や人によって付託される

ことによって専ら事前に審査する憲法適合性の集中型審査

contrôle concen- tré de constitutionnalité

とが,フランスには共存していた21)。事後

a poste-

riori

審査によって事前

a priori

審査を補完するとき,新しい手続は条約適

合性審査との関係で不利な競争状況におかれる。実際条約適合性審査につ いては,弁護士の反応が鈍いところがあったにもかかわらず,長い間活用 されてきた。条約適合性審査は,条約違反の主張についてのみ裁定し,同 時に主たる訴訟を解決する普通法の裁判機関の管轄であり。こうした主張 は主たる訴訟に完全に組み込まれており,主たる訴訟以外の付随的な手続 を必要としない。このようなメカニズムと比較すると,2008年の憲法改正

19) CC, nº 86─216 DC, 3 septembre 1986, Loi relative aux conditions dʼentrée et de séjour des étrangers en France, cons. 6

20) 国民議会議員選挙訴訟においては,憲法院は,法律を適用する裁判機関であ り, 法律の適合性を審査する裁判機関ではない。CC, nº 88─1082/117 AN, 21 octobre 1988, AN Val dʼOise 5ème, cons. 4 et 5.

21) 上記憲法61条 ₂ 項参照。

(14)

権者が想定したような憲法適合性の問題は,かなりの負担がかかるものと 思われた。下級審裁判機関だけでなく,その下級審裁判機関が属する裁判 系列の上級審と憲法院とを動員することになる結果,憲法適合性の問題の 帰結についての不安定さも増大する。さらに,コンセイユ・デタや破毀院 の法院弁護士

avocats aux conseils

に問題が委ねられることにより,訴訟 がより長期にわたり,かつより高額になるようにも思われた。確かに条約 適合性の問題は,普通法の裁判機関の前では,当該訴訟における法律の適 用を退ける結果にしかいたらないとしても,憲法適合性の問題は,他の訴 訟においても適用される。すなわち違憲と宣言された法律の完全な消滅と いう結果を生じる。法律の絶対的消滅に利害関係のある機関や団体の申立 人は別として,通常の訴訟当事者の大多数は,勝訴してその適合性が争わ れている法律の適用を回避できればそれでよいと考えている。

 このような状況に直面して,組織法律の立法者は,憲法61─₁条の規定を 明文化する際,二つの審査の均衡を回復させ,同時に双方が抵触する場合 には憲法適合性に優位性を与えることのできる二重のメカニズムを採用し た。第一は,二つの審査の間で直接的潜在的な抵触が生じる場合,すなわ ち裁判機関の前で二つの異議が同時に提起された場合を想定したものであ る。ある法律規定の条約適合性と憲法適合性とが同時に提起されたとき は,憲法適合性の審査に「優先性」(1958年オルドナンス23─₂条 ₅ 項)が 与えられなければならない。したがって,二つの異議には階層性があり,

憲法適合性の方が優越する。憲法適合性の問題が「合憲性の優先問題」と いう名称を授けられたのは,まさにこの審査の優先性に由来し,このこと から,その優先性は強力である。ここでは,議会固有の規範的産物22)に対

22) 憲法改正手続に関する憲法89条によれば,憲法改正の政府提案または議員提 案が正式に可決されるためには,両議院が当該政府提案または議員提案の文言 に同意しなければならない。さらに,共和国大統領が,(既述のとおり,両議 院により同一の文言で議決された)憲法改正の政府提案を両院合同会議に提案 することに決めた場合には,表明された票の ₅ 分の ₃ の多数を得なければ可決 されない。後者の場合,議会には二重に堰が設けられている。

(15)

して事後的な統制を及ぼすことを議員に納得させた重要な正当化の一つに 言及する必要があろう。1990年と1993年に二度,こうした観点から改革は 頓挫している。すなわち,国際条約に対して国内法体系の中に憲法を再定 位することが問題となった。優先問題の戧設には,国家主義的な側面があ る。というのもいずれの裁判機関に対しても法律の適合性が提訴される場 合には,国際条約を通り越して,当該適合性審査の場面で憲法が明確に位 置付けられることになるからである。ところで,優先性は,二つの手段が 同時に援用された場合にのみ有効であり,当事者が,条約適合性のみを提 起し,憲法適合性を提起しない場合,必要とされない。

 第二のメカニズムは,より決定的

décisif

に思える。下級審裁判機関は,

「遅滞なく」QPCを裁定しなければならない(1958年オルドナンス23─₂条

₁ 項)。たとえ条約適合性の異議について下級審において審査されている ところであっても,QPC移送の裁定が判決の実際の期日に依存するとし ても,憲法適合性の審査は遅滞なく審査される。さらに,上級審は,付託 の決定まで ₃ ヶ月間の期限が定められており,憲法院が法律の合憲性を判 断する場合にも同様の期限が定められている。したがって,条約適合性の 異議が提起されている場合には,下級審においてしばしば数年かかる事が あるが,憲法適合性については,理論的には ₆ ヶ月を少し超える程度で,

訴訟当事者は,当該訴訟に関して適用される法律の適合性についての回答 を得ることができる。 実際には, ₆ ヶ月未満で判決が下されており,

QPC

は訴訟当事者にとって迅速性の面で非常に有効な訴訟手続となって いる。

 QPCのために機能するメカニズムとしてもう一つあるが,これは,い かなる規範としても法文には書かれていない。それは,QPCの実施に関 わるメカニズムである。 憲法院は, ジャン= ルイ・ デゥブレ

Jean-Louis

Debré

元院長の意向により,フランスの全弁護士に

CD-ROM

を送り,憲

法院判決について紹介するとともに,QPCの訴訟手続の実施について情 報提供を行った。メディアの普及とあいまって,QPCはその実践面で成 功しているが,弁護士の方でも,憲法問題に対する機敏な対応という点で

(16)

進展をみせている。

2

.先決問題の意味

 「先決問題

question préjudicielle」は,審査のあり方を変化させる裁判技

法である。所与の裁判制度における欠如の予測

calcul de défauts

を調整す る枠組の中にはめ込まれた裁判技法であり,複雑な裁判制度において裁判 機関の統制下にある活動または規範の適合性を保障するための諸態様の一 つを示している。このアプローチは,機能的観点からなされる。先決問題 は,所与の裁判制度における適合性の保護をめざすメカニズムとして,欠 如の予測のスキームの中で授けられた機能から理解されることになる。そ こで考えられたやり方は,分析的タイプの手法にしたがい,専門技術的ア ングルの下で,QPCの裁判制度に対応するため,先決問題を確認する固 有の要素を前提としていることにある。

 命題は,以下のようになる23)。裁判の枠組の中に先決問題を設定するこ とは,ある裁判機関

le juge a quem

の特定の問題に対する排他的管轄権の 保持を目的としている。当該問題が,他の裁判機関

le juge a quo

が解決す べき訴訟において提起され,かつ,当該問題が事前に解決されないと訴訟 を解決できない場合,当該裁判機関

le juge a quo

が,それについて管轄権 を有する裁判所

le juge a quem

に問題を送ることができるようにするもの である。問題を送るための二つの基準は,明確に示されている。一つは,

問題を受ける裁判機関の排他的管轄権

la compétence exclusive du juge a quem

であり,もう一つは,主たる訴訟と付随的訴訟との間の厳格な従属 関係

le lien de dépendance strict entre le procès principal et le procès incident

である。

 先決問題を取り扱う権限を有しない裁判所と権限を有する裁判所との間 23) この命題は,真たること,あるいは他の命題よりも真たることではなく,こ れが説明しようとしている対象についてのより良い理解を可能にすることをめ ざす。

(17)

の手続上の関連性を正当化するもの,要するに,付託

renvoi

の可能性は,

下級審で判決すべき事項と排他的管轄権をもつ裁判機関によってしか解決 できない問題との間に従属関係が存在するという事実の中にある。

 さらに,先決問題は,特定の裁判管轄権を保持する意図にその基礎をお いている。ところが,この管轄権は,その行使に際して他の裁判機関に影 響を及ぼす。ある特定の裁判機関に認められる排他的管轄権,すなわち,

他の裁判機関の無権限は,後者の権限行使を妨げるものではない。唯一の 裁判機関〔憲法院〕への付託は,付託裁判機関が管轄を有する訴訟すなわ ち主たる訴訟が影響を受けることになるが,付随的訴訟すなわち先決問題 の解決なくしては主たる訴訟が解決されえないという点から,そのたびご とに正当化されることになる。

 これらの二つの基本的な基準から,いくつかの訴訟上の結論を導くこと が可能となる。裁判管轄権の排他性は,例えば,問題の何らかの解決が元 の裁判機関

juge a quo

に課せられることを前提とする。これに対して,元 の裁判機関

juge a quo

にとって先決問題を職権で提起する可能性は,二つ の基準のいずれからも導かれないように思える。憲法院

juge a quem

の管 轄権の排他性も,二つの訴訟間の関係性も,先決問題の提起を強制するも のではない。したがって,制度設計としては,二つの特権を示す基準のい ずれにも反することなく,問題の提起を元の裁判機関

juge a quo

の役割と することもできるし,訴訟当事者に委ねることもできるし,あるいはその 双方に留保することもできる。問題を提起するのが裁判官であれ訴訟当事 者であれ,主たる訴訟と付随的訴訟との間の関係の認定は,常に元の裁判 機関

juge a quo

に帰属する。結果として,1958年11月 ₇ 日のオルドナンス 23─₁条 ₁ 項は,元の裁判機関

juge a quo

QPC

を職権で提起することを 禁じており,したがって,先決問題に該当しうるか否かが予断されること はない。

 QPCの本質である問題の解決に対して二つの基準を活用することはよ り微妙な確認にいたる。法律の適合性を評価する憲法院の権限が競合的で あったとしても,主たる訴訟と付随的訴訟との間の関係性が少なくとも緊

(18)

密とはいえないとしても,QPCに関する先決性

préjudicialité

は示されて いる。

 第一に,法律の適合性審査における競合については,条約適合性の拡散 型審査に立ち戻る必要があろう。さらに,事後的統制については,憲法院 の排他的権限に対して,行政裁判機関には,憲法以前に制定された法律の 黙示的廃止を確認する権限が留保されている。なお,司法裁判機関にはこ のような権限はない。行政裁判機関によるこのような審査は,ニュー・カ レドニア緊急事態判決24)において憲法院がかなり精緻な解釈に基づいて承 認しているが,QPCの存在以降も確かに容認されている。そうであるか らといって,行政裁判機関が,憲法以前に制定された法律で権利や自由に 関わらない法律であっても,憲法に作用する法律の合憲性を確認したり,

あるいは率直にいえば,これを統制したりする権限をもつことが排除され るわけではない。こうした判例の射程は縮小されることとなろうが,なお 原則として残っている25)

 第二に,付託と移送の条件に関しては,フランスとイタリアを比較する

24) CC, nº 85─187 DC, 25 janvier 1985, précit., cons. 4.「1958年10月 ₄ 日の憲法は,

緊急事態に関する1955年 ₄ 月 ₃ 日の法律を廃止する効力をもたない」とする表 明は,憲法と事前の法律との間の抵触を時系列上の問題として想定していると 解され,したがって,普通法の裁判機関によって解決されうる。コンセイユ・

デタは憲法院の判決前にこうした確認をしているが(以下の例を参照。CE, 27 juin 1973, Ville de Marseille, nº 85510),破毀院では受け入れてはいない(Crim., 18 nov. 1985, Guerinot et Gibourdel, nº 84─90152, Bull. crim. 1985 nº 359)。

25) 2008年 ₇ 月23日の憲法改正以後の適用ではあるが,QPC施行前における,

権利及び自由に対する侵害に基づかない廃止については次のものを参照。CE, 24 juillet 2009, Comité de recherche et dʼinformation indépendantes sur le génie gé- nétique, nº 305314 et 305315, inédit.また同期間における権限の問題について,

黙示的廃止[廃止を暗に示している]の確認ではないが,以下を参照。CE, 12 janvier 2009, France Nature Environnement, nº 289080号, inédit.

  さらに驚くべきことに,同期間に,憲法上の権利及び自由に対する侵害のケ ースにおいて黙示的廃止の確認を拒絶した事案について以下参照。CE, 27 juillet 2009, Compagnie agricole de la Crau, nº 295637.

(19)

と,違いが際立つ。イタリアの憲法裁判所

Corte costituzionale

によって付 随的な訴えで実施される合憲性の審査は,フランスの制度に着想を与えて おり26),したがって,双方を比較することには根拠がある。イタリアで は,問題の受理可能性27)に関する二つの条件のうち一つは,問題の「関連

rilevanza」 についてのものである。1953年 ₃ 月11日法第87号23条

28)

よれば,憲法裁判所に付託する提訴者にとって,当該裁判が「憲法適合性 の問題の解決と独立しては判断され」えないことを要する。この要件は次 のことを意味している。すなわち「憲法裁判の戧設,つまり客観的保障の メカニズムの実施は,一般的な意味(法律の憲法適合性審査)を有してお り,特定の要件にしたがうものでなければならない。それは,ある特定の 紛争の解決のために憲法適合性の問題をとりあげることの有用性が実証さ れる」29)ことを意味する。これに対応する要件は,フランスでは,1958年 11月 ₇ 日のオルドナンス23─₂条に規定されており,QPCの枠内で提起で きる条項は,「係争または手続に適用可能であるか,あるいは提訴の根拠 を構成する」ものでなければならない。この条件を明確にする要求が議会 での作業においてなかったとしても,二つの訴訟の間に要求される関係に は隔たりがあることは明らかである。つまり,法律が係争に適用可能

ap-

plicable

であれば足りる。この条件が具体的にどう運用されるかは定かで

なく,どのような規定であれば具体的に係争に「適用可能な」規定といえ るのか不明であった。実際の訴訟によってこの側面が明かされたばかりで あり,コンセイユ・デタは組織法にしたがって柔軟に解釈したが,破毀院 は,法律に反して

contra legem

この条件を厳しく解釈した。

26) この問題については以下を参照。J.-J. Pardini, «Question prioritaire de consti- tutionnalité et question incidente de constitutionnalité italienne : ab origine fide- lis», Pouvoirs, 2011/2, nº 137, pp. 101─122.

27) イタリアにおいては受理可能性の条件であるのに対し,フランスにおける

「等価関係équivalentes」の条件は,移送と付託の条件であることを想起させる。

28) Norme sulla Costituzione e sul funzionamento della Corte costituzionale, G.U., nº 62, 14 marzo 1953.

29) G. Zagrebelsky, La giustizia costituzionale, Il Mulino, 2ème édition, 1988, p. 194.

(20)

 関連性の条件を認定するにあたり30),コンセイユ・デタは,例えば,一 般的な表現にしたがって,援用される規定が「係争と無関係でない」31) とを要すると判断することができた。関係性を柔軟に認定することによっ て,コンセイユ・デタは,法律規定に関する

QPC

を付託する。その違憲 判断は主たる訴訟の解決にはいかなる結果ももたらさないとしても,後の 訴訟の中で不確かではあるが,効果をもつものとなる32)

 立法者の意図した主たる訴訟と付随的訴訟との間の距離は,QPCに関 する一連の訴訟を通して広く確認されている。すなわち,主たる訴訟のい かなる要素も憲法裁判の判決理由には表れず,憲法適合性の宣言は,裁判 官が援用したあるいは提起された異議の,対象となった規定の特別の審査 の結果として絶対的性格を示している。すなわち,この合憲宣言は,潜在 的に援用可能なあらゆる異議に対して主張できる。事情の変更の可能性に ついての憲法院の判断は,事実上の事情の変更を含む余地があり,これに より,すでに判決の主文と理由において憲法に適合すると宣言され,かつ 憲法院による特別の審査の対象となった後に

et après avoir fait lʼobjet dʼun examen spécial par le Conseil constitutionnel

33),当該法律規定を新たに審査 することが認められているから,その点においては多少脆弱にみえる。こ れは,憲法訴訟の具体的要素というより,憲法に適合すると宣言された法 律規定の再審査の可能性を,QPCの移送及び付託の条件として,場合に よっては事実に基づいて認定するということである。換言すれば,これ

30) この点に関する主要なものとして以下を参照。La question prioritaire de constitutionnalité. Principes généraux, pratique et droit du contentieux, LexisNexis, Procédures, 2ème édition, p. 190 et s.

31) 例えば,以下を参照。CE, 20 juin 2012, Association Comité radicalement anti- corrida, nº 357798.

32) CE, 14 avril 2010, Vivianne L., nº 329290.

33) 最後の条件は,組織法律23─ ₂ 条から引き出されるものではなく,憲法院に よって付け加えられたものである。CC, nº 2010─9 QPC, 2 juillet 2010, Section française de lʼObservatoire international des prisons [Article 706─53─21 du code de procédure pénale], Rec., p. 128, cons. 4.

(21)

は,当該規定に対する合憲性審査の行使の条件であり,審査の行使のあり 方に関わるものではない。「一貫した判例による解釈が法律規定に認める 効力の射程」34)を上級審からの付託を条件に35)考慮するということは,憲 法院による審査の前にその統制の対象を画定することであり,ここに具体 的性格のごく小さな一部が現れているように思われる。そうでないなら,

法律を適用する裁判官が採用する解釈以外の法律規定の解釈に基づいて,

当該規定の憲法適合性または不適合性を宣言することの相関的リスクがあ るにもかかわらず,実際には適用される解釈とはならない法律規定の解釈 を保持し続けることになろう。

 この点から,憲法院が行使する統制の抽象的性格は主張されている。

3

.具体的訴訟から生じる抽象的審査

 憲法裁判官[実際には憲法院の裁判官]が先決問題を審査することは,

もはや規範を規範に照らす,すなわち法律規範を憲法規範に照らす抽象的 審査だけではなく,より具体的な審査へとその性質が変化する,という一 つの結果がもたらされている。そこで,統制の具体的性格とは何か,につ いて考察しなければならない。先決問題は,普通法の訴訟において,すな わち,原則として一般的かつ抽象的な規範を個別の個人に関する特定の状 況に適用することによって特徴づけられる具体的状況から生まれてくるも のである。次に,合憲性の先決問題が具体的状況から生じることによっ て,合憲性判断にどの程度の影響が及ぶのかを検討する必要がある。例え ば,憲法裁判官は,ある法律規定が適用される係争の枠組において,その

34) CC, nº 2010─39 QPC, 6 octobre 2010, Mmes Isabelle D. et Isabelle B. [Adoption par une personne seule], cons. 2.

35) CC, nº 2011─120 QPC, 8 avril 2011, Ismaël A. [Recours devant la Cour nationale du droit dʼasile], cons. 9.

  この最後の条件は,後述するリスクに関して,時宜的に異議を唱えることが できることを示唆する。

(22)

適用が結果として生じるところの具体的な法律規定の解釈を考慮に入れる こともある。より正確にいえば,QPCが提起されている規定の憲法適合 性を判断するために,QPCが提起された元の訴訟においてとられうる解 決策を考慮することができるということになる。したがって,合憲性の判 断は,法律規定の適用が訴訟において生じる帰結から始まるということに もなる。さらに,裁判機関以外の,行政機関であれ名宛人であれ,法律を 適用する機関がとる解釈手法もまた考慮されうる。概して,憲法適合性を 判断するための具体的適用ないし解釈に基づく法律の解釈はすべて,合憲 性審査の具体的側面を示している。いずれにせよ,先決問題は,その性質 上,審査の具体化を前提としているように思われる。

 一般的には,QPCの枠組における憲法院による合憲性審査の行使は,

審査の明白な具体化というよりは,むしろ表面的な具体化を示していると 説明されている。

 何よりまず,主たる訴訟の存在を具体的に示す下級審裁判所の資料が,

憲法院には送付されないことを示しておく必要があろう。 憲法院には

QPC

の趣意書のみが送付される。したがって,技術的には,憲法適合性 審査手続において,当該訴訟の具体的要素が伝達される可能性はない。組 織法律の立法者は,偶発的事象ともいえる主たる訴訟とは離れた客観的次 元に憲法訴訟を直接に位置づけることを選んだのである。憲法訴訟の客観 的側面は,事前審査の枠組においてと同様,審査の抽象的性格を維持する ことをめざしている。したがって,憲法院は,裁判資料をもたない以上,

これを細かくチェックすることはできない。審査の具体化という観点にお ける

QPC

の初源的欠陥によって,憲法裁判官が主たる訴訟から遠ざけら れているとしても,QPCの枠組において提起された法律規定の具体的適 用から切り離されることはできない。ここでは,すでに議論した他の二つ の要素に話を戻すことはしないが,これらは審査の抽象的性質を示してい る(憲法適合性に関する判決と一般的宣言における主たる訴訟の要素の欠 如がみられる)。それは,主に,事情の変更の判断や上級審における法律 規定の恒常的な解釈に異議を唱える可能性の判断を通して,法律の具体的

(23)

適用が適度に考慮されていることが明らかにされているにすぎないのであ る。

 第一に,事情の変更の判断は,法律の合憲性審査に直接関係しているわ けではなく,すでに憲法に適合すると宣言された法律規定についての新た な審査を可能とするにすぎないことを指摘しておく。したがって,ここで の審査の具体化は,審査を行使できるという可能性に関する具体化であ り,審査の行使についての具体化ではない。すでに相対的なものである。

それでもなお,審査の具体化は,事実上の事情の変化の存在を認定するた めに,法律が実際に適用された場合を考慮した憲法院判決に存在する。比 較的特殊な例ではあるが,すでに言及した2010年 ₇ 月30日の警察留置に関 する判決は,このようなアプローチを示す重要な例である。憲法院は,ま ず,「(法律の)実施の条件における変化によって,警察留置が次第に頻繁 に行われるようになり,刑事訴訟法典が定める諸権限と諸権利との均衡に 変化が生じた」(cons. 15)と,一般的な方法で言及している。状況の変化 を裏づけるものとして,法律の適用,より正確には,法律を具体的に適用 した場合の変化を指摘している。特に,状況の変化の認定にあたっては,

統計学上の要素や事実上の要素を基礎としている。例えば,「予審に付さ れる手続の割合は,減少を続けており,軽罪裁判所への公訴に対して下さ れる決定及び命令の ₃ %未満である。」(cons. 16),「1993年から2009年ま での間, 司法警察員の資格を有する文官及び軍官の人数は25,000から 53,000になった」(cons. 17),「2009年には790,000を超える警察留置が決定 された」(cons. 18)といった判決理由が付されている。合憲性審査そのも のについての具体的性格とはいえないものの,事情の変更の認定における 具体的性格は否定できない。

 第二に,憲法院は,「一貫した判例による解釈が認める法律規定の効力 の射程」36)に基づいて,上級審から付託されることを条件に37),法律規定 36) CC, nº 2010─39 QPC, 6 octobre 2010, Mmes Isabelle D. et Isabelle B. [Adoption

par une personne seule], cons. 2.

37) CC, nº 2011─120 QPC, 8 avril 2011, Ismaël A. [Recours devant la Cour nationale

(24)

の憲法適合性審査を受け入れている。「一貫した判例による解釈」38)の存在 を確認するには,上級審における判決が一つあれば十分なため,この問題 に関する判例は柔軟といえる。判例による解釈がある特定の法律規定と関 連しうるとき,憲法裁判官は,判例による解釈の憲法適合性を判断するこ とができる。これは破毀院の側からの強い批判の対象となった。破毀院第 一院長であったヴァンサン・ラマンダ

Vincent Lamanda

は,法律解釈の 独占であるとして,これを強く批判したのである。

 この批判は,その理論的根拠が非常に脆弱であるように思われる。憲法 院が,法律規定に統制を及ぼすとき,当該裁判系列の上級審で保持されて いる強固な解釈にしたがって審査しなければならないのであり,実際にこ れは避けられない。破毀院裁判官の役割が法律の解釈を集中させることに ある以上,憲法裁判官は,上級審裁判官によってなされた解釈を審査する ことなく,いかにして法律を審査できるだろうか,そのようなことは想像 もつかない。表現されている文章

énoncé

と規範

norme

とを区別する必要 があることを,ここで指摘しておこう。すなわち規範は表現されている文

章の意味

signification

をさす。換言すれば,規範となった文章に直面した

ときには,常に解釈を強いられる。同一の文章について,制度の中で当該 裁判系列全体の頂点にある機関によってなされた解釈の手法を,憲法院が いかに考慮せずにいられることができるだろうか。しかもその機関は,法 律の解釈の統一性を保障する責を負っているのである。このような点から すると,憲法院はこうした審査の具体化の動きの中で活動しているのであ り,このような憲法院の態度は,QPCの手続がより良く機能するために は不可避でかつ不可分といえる。しかし具体化に向けた真の積極的傾向を そこに見出すことは難しいのである。

 このようなことがみられたため,憲法院はさらに進展する必要があっ た。上級審の解釈にこうした判例の適用をすることは,完全に説得力があ

du droit dʼasile], cons. 9.

38) CC, nº 2010─52 QPC, 14 octobre 2010, Compagnie agricole de la Crau [Imposi- tion due par une société agricole], cons. 3.

参照

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