近赤外ダイオードレーザー分光法による窒素分子の Rydberg状態の研究
著者 川本 康詔
著者別名 Kawamoto, Y.
雑誌名 博士学位論文要旨 論文内容の要旨および論文審査
結果の要旨/金沢大学大学院自然科学研究科
巻 平成10年6月
ページ 93‑97
発行年 1998‑06‑01
URL http://hdl.handle.net/2297/16124
川本康詔 氏名
生年月日 本籍 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件
三重県 博士(理学)
博甲第235号 平成10年3月25曰
課程博士(学位規則第4条第1項)
近赤外ダイオードレーザー分光法による窒素分子のRydberg状態の 研究
(主査)大橋信喜美
(副査)須原正彦,藤竹正晴,安藤利得,西川清
学位授与の題目 論文審査委員
学位論文要旨
ABSTRACT
ThcllighresolutiollspectraoftllcN2clnu-a"'Zざ,v=1-Obandwasstudiedby meansoftllenear-infiPareddiodelaserspectroscopyintllcL3いmregion・Two interactionsoftlleclnu(v=1)statewasinvestigated、nleanomalyoftheA-type doublingstructurewasdiscussedincomectionwiththeheterogeneousinteractionwith tlleb,lZu+(v=4).Sincetlleb,(4)stateinteractswitlltlleonlye-sublevelsofthecInu(v=1)
state,itisconsideredthatthisinteractionleadstotllisanomalyoftlleA-typedoUbling structure、ThepredissociationwasdiscussedrelatingwiththelinebroademngobseWed・
Itisconsideredtllatthecln。(v=1)stateinteractswitlltlledissociativeC'3ⅡⅢstate throughtlleotller3nustatewhoseelectronconfigUrationisthesameastlleclnustate・
Inaddition,tlleemissionspectrarecordedbymeansofFTIRspectroscopywas measuedinordertomakeatlasoftllespectraoftllemtrogenmolecule・Theunreported
vibronicbandsoftlleN2B3ng-A3Zu+systemwereanalyzed
【序】分子の内部運動には電子運動や振動運動、回転運動という自由度があり、
加えてこれらの間には様々な相互作用が存在し、その量子力学的エネルギー準 位構造を複雑にする。これらの相互作用を明らかにすることはその分子の内部 運動、構造などに関する情報を得ることになり、非常に有用なことである。こ の見地に立ち、分子の高分解能スペクトルを観測、解析し、その電子振動回転 エネルギー構造を明らかにすることは分子構造を明らかにする上で有効な手段 である。特に、Rydberg状態のような高エネルギー電子励起状態では他の解離
的電子状態と相互作用をし、前期解離と呼ばれる自発的な分子の崩壊が見られ る。この前期解離現象についても高分解能スペクトルの解析から相互作用の大 きさ、回転依存性などの情報を求めることができる。本研究においては窒素分
子に注目し、1重項Rydberg状態間の遷移clnu-a,,lZg+,v=1-0バンドの観測及 び解析を行った。解析の結果、上状態(ClⅡu,V=1)についての相互作用につい
ての詳細な考察を行うことができた。
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次に、フーリエ変換分光計を未Ⅱ用した窒素分子の広範囲に渡る発光スペク トルを観測した。窒素分子は大気のs割を占める最も基本的な分子の1つであ り、様々な分子の測定において窒素分子の発光、吸収スペクトルが検出され、
目的とする分子スペクトルの邪魔をし、研究の妨げとなる場合がある。従って、
窒素分子の広範囲にわたる発光スペクトルを観測し、スペクトルのアトラス化
が今後の研究を進める上で非常に有効になる。更に、未報告のB3ng-A3Zu+振動
バンドが幾つか観測され、それらについて回転線の帰属を行い、最小自乗解析
を行った。
Rydberg状態の研究
【実験】高励起状態の窒素分子は放電することにより生成し、検出感度の向上の ために放電変調法を導入した。N240mTorrと安定な放電のためHeを400mTorr 流し、8kHz、最大400mAの変調放電を行い観測した。光源は1.3}し1,の外部共
振器型ダイオードレーザーを用いた。観測された1重項スペクトルは7600- 振器型ダイオードレーザーを用いた。観測された1重項スペクトルは
7705cm.'の領域に観測された。スペクトルを図1に示す。
図1N2c1nu-a''W,v=1-0バンドの-部
R(J)0
P(J)7
6 5432 234,:||,,|,01,
0
IlllJUUlJIMIlULUlULlUj
76707680 7700
Wavcnumbcr(cm・I)
7690 7650 7660
-94-
(J)
54321「111M皿'1
■ロ■▼▼▼守▽mUママ■7
lL
12 11 10 αLu
■■
'し L,
12 111( 9 8 76
表1MolecularParametersa(incln~')oftlleN2clnu-a"'Z9,V=1-0Band.
ClⅡ.(v=1)state a"'Z.+(v=O)state
Parameters Present
StaheleZaノ.b
Presentanalysis
analvsisLedbetterPSuzukieMLd
B
Dx106 Hx109
9×103 9Ox106 9ljUx109 n
%
1.713681(79)
106.41(86)
-414.1(30)
9.644(81)
‐97.6(13)
-571.3(48)
1.709
1.913605(55)
5.89(43) 6.2(29) 1.9133(8) 1.913748(42)
6.088(99)
106527.8
7687.5e 98840.30(7) 7687.4200(12)
aValucsinparenthesesdenoteonestandarddeviationandapplytothelastdigitsoftheparameters、
bD、Stahel,MLeoni,andKDressler,J:Che、.P恥.79,2541(1983)
・』・WLcdbcttcr,Jr.,JUWqDec"OSC、42,100(1972)
。T・SuzukiandMKakimoto,J:M、ノ.Slフcc"OSC93,423(1982)
TV(clIIu,V=l)-TV(a'''28+,v=O)
【結果】最小二乗法解析により上下両状態の分子定数を求めた結果、実験精度の 範囲内で分子定数を決定することができた。表1に決定した定数を示す。表1 からも分かるように、電子状態の帰属については、上下両状態の分子定数の値
及び振電エネルギーの差が過去の報告と良く一致したのでc1nu-a''1Z9,V=1-0バ
ンドと帰属した。今回解析したスペクトルから、clnu(v=1)状態についての相互 作用についての考察を行った。まず、A型二重項分裂の様子が通常とは異なる 形で見ることができた。この異常はe-準位と炎準位について異なる相互作用が 存在する結果であると考えられる。clnu(v=1)状態の約130cm-1上にb,lZu+(v=4)状 態及が存在し、これらの状態と相互作用していることが考えられる。また、Izu+
状態はパリティが+(-1γ、即ちe-準位であるのでClnu(V=1)状態のe-準位とのみ 相互作用を起こし、〆準位との相互作用は起こさない。この片方のみに起こる 相互作用がA型二重分裂異常の原因と考えられる。次に、観測・帰属された吸 収線は量子数Jが大きくなるにつれてその吸収線幅の拡がりが見られた。この ことからclnu(v=1)状態は異種前期解離(heterogeneouspredissociation)していると 考えられる。前期解離は解離的な電子状態との相互作用によって起こる現象で あるので、相互作用の相手となる状態についての考察を行った。その結果、C'3ⅡⅢ continuumとの相互作用の結果と考察された。しかし、c1nu状態とC'3Ⅱu状態と
では電子配置が2つ異なっているので直接の相互作用は小さいと考えられる。
そこで、CInu状態と同じ電子配置を持つ3Ⅱu状態を介しての相互作用の結果、C(1) 状態は前期解離していると考察した。これらb,(4)状態との相互作用及び前期解 離という2つの相互作用については互いに矛盾することなく説明することがで
きた。詳細は2章で述べる。
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フーリエ変換発光スペクトルの観測と解析
国立天文台野辺山のフーリエ変換分光計を用いて窒素分子の発光スペクト ルを1800-8000cm~'の領域に渡り観測した。スペクトル線は約ZOO00本観測さ
れ、それらのうちの多数はB3ng-A3Zu+システムやW3△u-B3ngシステム、B3Zu ̄
-B3ngシステム、wlAu-aIngシステムとして既に報告されている振電バンドで あった。しかし、5000-8000cm~'に末報告のB3ng-A3zu+振動バンドが多数観測
され、回転線の帰属を行った。
図2窒素分子のフーリエ変換発光スペクトルの一部
1-1 4-23-12-O
W3Au-B3ng-弓--F BI3Zu+-B3
0-1 9 -0
1言I22一
1-1
1.-。
3…:螢L篝…_wMnu…璽逵蚤三三H鞭
、●●■■●●■●●■
蝋lllllllli
■“33003800 4800
Wavenumber(cm・')
4300 2800
1800 2300
最小自乗法解析を行い、各振動状態の分子定数を精度よく決定すること ができた。これらの定数は既に報告のあるものであるが、アトラス化という観 点からは振電状態の帰属がなされたのは意味のあることである。帰属した各振 動状態の分子定数を表2,3に示す。これらの詳細について3章で述べる。
表ZB3ngP≦v≦S状態の分子定数(cm-1)
2 3
1 0
V
1.573871(34)
6.169(62)
42.08315(67)
-0.21017(63)
1.812(88)
8.79(13)
1.53(14)
1.14878(73)
1.5922109(42)
5.9628(64)
42.13785(59)
-0.20801(34)
1.417(25)
8.856(53)
1.567(38)
1.15150(35)
1.6105483(20)
5.9184(30)
42.18783(28)
-020671(27)
1.452(18)
8.957(46)
1.713(34)
1.15486(30)
1.628772(11)
5.881(11)
42.23363(31)
‐020544(32)
1.440(30)
8.829(49)
1.699(32)
1.15664(35)
B D A 入
Yx103 p×’03 q×104
入
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表SA3Zu十,2≦v≦S状態の分子定数(cm1)
V 2 3 4 5 6
B
D×106
入Y×103
1.409691(11)
5.905(12)
-1.31391(31)
-2.663(25)
1.3905409(49)
5.9524(83)
-1.30637(59)
-2.598(30)
1.3718879(30)
6.0065(49)
-129832(39)
-2.763(25)
1.3530751(22)
6.0630(30)
-129106(31)
-2.617(20)
1334202(33)
6.300(61)
-1.28416(65)
-2.291(65)
学位論文審査結果の要旨
提出された論文の内容の各審査員による検討並びに論文審査会(平成10年2月6曰開催)での口頭 発表・質疑応答の結果を踏まえ,全審査員での協議により以下のように判定した。
窒素分子(M)は水素分子や酸素分子と同様最も基本的な分子の一つで,古くから分光学的研究の 対象とされてきており,これまでに数多くの分光学的データの蓄積が重ねられてきたが,本研究は敢 えてこれに取り組み,新たに有用な知見を加えたものである。本論文の主要部分は,これまでに精密 な分光学的データが余り多く得られていないRydberg状態を取り上げたものである。グロー放電下の 窒素分子(N2)に対しl3um近赤外ダイオードレーザー分光計を用いる吸収分光法によりRydberg 状態間の新たな電子・振動遷移であるclnu(v=l)・a’'1Zg.(v=O)バンドの高分解能スペクトルを高 感度のもとに観測することに成功した。本研究の第一の成果はこのバンドに関わる上.下状態の電子.
振動状態の特定である。最小自乗法解析で決定した分子定数並びにバンドオリジンの値を手がかりに 過去に報告された状態の分子定数を参照することにより,上記のように電子・振動遷移の帰属を確定 した。つぎに,得られた分子定数の中,上準位(c1nu(v=O)に関しては今回の研究により初めて高い 精度の決定となったのである。さらに,摂動と前期解離に起因するA型分裂の異常とスペクトル線の 拡がりについて詳しい考察を行い,clnu(v=O)状態の二重項の中のe準位は近接するb'1ZⅢ(v=4)
状態からの摂動を受けているという事などの確度の高い結論に達している。このような内容を含む本 研究は,複雑なエネルギーレベル構造を示すであろうRydberg状態の研究法として放電法と相俟って 高分解能近赤外ダイオードレーザー分光法の有用`性を示すものであり,高分解能分子分光研究に新た な展望を与えている点で大いに評価出来る。
本論文は,さらに,国立天文台野辺山のフーリエ変換分光計を用いて1800~8000cm-'の範囲で測 定された窒素分子の発光スペクトルについても詳しく報告している。B3ng-A3Zu+システムに関わる電 子・振動遷移が主として解析されおり,状態それ自身としては新しい分光データとは必ずしも云えな いが,この波数領域での窒素の発光スペクトルのアトラス化を成し遂げ今後の含窒素分子種の分光研 究に有効なデータを提供していると云え,一定の評価を与えることができる。
測定系の構成に始まり,スペクトル測定,スペクトル解析,考察に至る過程を着実に踏まえた上で 以上のような成果を記した本論文は博士論文に値するものと判定する。
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