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博士学位論文審査結果報告書

(2020年32 日 提出)

1.審査委員 主査 山口 隆英 印 副査 秋山 秀一 印 副査 西井 進剛 印

2.提 出 者 須佐 淳司

3.論題 インバウンド時代の革新的中小企業―3つのサービス経営事例―

4.論文の要旨

本論文では、3 社のケーススタディを通じて、サービス業を営む中小企業がどのよう にインバウンド市場を開拓しているのか明らかにしている。本論文の課題は、インバウ ンド市場の変化に合わせて、中小企業がどのように革新的なサービスを生み出している のかを明らかにすることである。本論文は補章を含む8章構成であり、詳細は次の通り である。

第1章 研究のテーマと方法 第2章 先行研究

第3章 うめもりのインバウンド事業―七転八起の経営―

第4章 辺境から世界をめざす素人女性経営者 第5章 「日本の文化を紡ぐ」再生ビジネス 第6章 3つのケーススタディからの発見事実 第7章 結論と今後の研究課題

補章 中小サービス業の経営研究

第1章では、本論文の研究テーマと方法を説明している。経済学的な研究が支配的で あった中小企業研究に、経営学的アプローチを持ち込むとして、インバウンド市場に地 域で取り組む中小企業に焦点をあて、経営戦略、経営組織、経営管理システム、経営 理 念、リーダーシップ、そして業務(販売・生産・調達・開発など)を分析するとしてい る。

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第2章は、中小サービス企業の先行研究のサーベイである。このサーベイから3つの 点を明らかにしている。1つ目は、中小サービス企業の研究がサービス産業を経済学的 に研究するところから始まったことである。2つ目は、中小サービス企業のうち、特定 のサービス業を取り上げて、その業態の構造や動向を分析する研究がほとんどである点 である。そして、3つ目が、創業や起業の研究と関連させた中小サービス企業の研究が 少ない点である。このようなことから、経営学的なアプローチで、中小サービス企業を 研究する必要性があるとの主張がなされている。

第3章は、飲食サービスで起業した株式会社梅守本店のケースである。 創業者の梅守 康之の事業の成功と失敗が説明されている。梅守は、回転寿司店の経営から、インバウ ンド市場の拡大に対応した、外国人向けのうめもり寿司学校を始める。回転寿司店から インバウンド市場に対応した寿司の調理体験ができる店舗への転換であり、この革新的 なサービスを生み出すまでのプロセスがインタビュー調査等に基づいて詳細に記述され ている。

第4章は、元専業主婦の経営者が、過疎化がすすむ中山間地域で新たな市場を開拓す るプロセスが丹念に描かれている。大歩危観光株式会社社長の西村洋子は、吉野川の大

歩危峡でRiver Station West-Westを運営し、ラフトボートのサービスを提供している。

大歩危峡をラフティングの聖地にすることを目指すとして、彼女の人的資源ネットワー クを活かして国内初のラフティング世界大会を誘致した。地域資源を活用して、地域に 人を呼び込む仕掛けを作ることで成功を収めている。地域と共存しつつ地域の特性を生 かしたサービスを提供することがビジネスになることを示した事例といえる。

第5章は、地域に観光の新市場を創るベンチャー企業のケースで ある。バリューマネ ジメント株式会社の他力野淳はブライダルのプロデ ュース業で起業する。「日本の文化を 紡ぐ」を企業ミッションに、文化財や歴史的建造物の所有者から委託を受けて、施設を リノベーションし、その施設を運営するサービスのコンサルティング業 務を行っている。

歴史的建造物が観光施設やサービス施設になることで収益を生み出すようになる ことで、

その施設の維持管理だけでなく、地域に新たな顧客を呼び込むことにもつながっている。

ある種の再生ビジネスを独自のビジネススキームで行うことでバリューマネジメント社 は収益をあげている。

第6章は3つのケーススタディからの発見事実を提示 している。1つ目の発見事実は、

革新的なサービスを生み出すことの必要性である。他にないサービスを生みだすことで それぞれの企業が成功を収めていた。2つ目の発見事実は、模倣的革新である。それぞ れの会社は、独自のサービスを生み出す上で手本としたサービスが存在することである。

完全な模倣ではなく、手本企業のサービスをもとに独自の要素を加えて新たなサービス

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を生み出していることが指摘されている。例えば、うめもり寿司学校は、中野うどん学 校からヒントを得ており、大歩危観光はニュージーランドで開催されるレースラフティ ングの世界大会から、バリューマネジメントは NOTE との共同事業である NIPPONIA から学んでいた。3つ目は3人のリーダーシップについて、素人経営者としてスタート したにもかかわらず3者がカリスマ的リーダーシップの特徴を備えていると述べている。

4つ目の点として3者ともインバウンドの解釈を、訪日外国人に限定することなく、他 の地域から訪れる人(日本人を含む)と幅広い概念でとらえているとしている。

第7章は、本論文の結論部分であり、本論文の意義を、テーマの斬新さ、詳細で奥深 いケーススタディ、そこから引き出された発見事実、そして、サービス経営革新の解明 としている。

補章では、中小企業研究のサーベイを行い、1 章と 2章で言及できなかった部分を補 足的に検討し、中小サービス業の研究課題の提示を行っている。

5.論文の評価

本論文は、中小サービス企業が様々な形でのインバウンド市場の拡大に 対応して、独 自のサービスを生み出して、その市場を開拓している状況を明らかにすることが課題で あった。この課題に対して3つのケーススタディを用いて、探索的にその成功要因を明 らかにした研究であるといえる。本論文において評価できる点は次の3点である。

第1に、研究テーマの希少性である。本論文の中でも指摘されているが、中小企業の 研究は地域の産業論として議論されることも多く、製造業についての研究が多い。これ に対して本論文は中小サービス企業のケースを取り上げ、研究しており、 研究の希少性 という部分で評価することができる。3つのケースでは、それぞれ の会社が、そのサー ビスを生み出し、維持し、発展させるところが描かれており、サービス業分野の中小企 業を研究する上で希少な事例となっている。

第2に、3つの事例研究の詳細さである。3つの事例とも複数回のインタビューを繰 り返し、丹念に情報の収集を行っている。筆者が行ったインタビュー調査が記述の裏付 けにあり、1次資料に基づくケースであり、評価できる。1,2回のインタビュー調査 で済ませず、粘り強く資料収集を行い、サービスの 着想から市場にサービスを提供する までが鮮明に描かれており、後に続く研究者にとって参考になる記述となっている。

そして第3に、丹念なケーススタディから理論研究につながる可能性を示した点であ る。模倣的革新というコンセプトは井上(2012)やシェンカー(2013)で取り上げられたク リエイティブな模倣や後発者の戦略といったものである。中小企業経営おいて、クリエ イティブな模倣が重要になってくることを示したといえる。理論と現実の架橋を 、ケー

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ススタディを通じて探索的にできた点は評価できる点であるといえる。

以上のように、本論文は詳細なケーススタディに特徴があり、それによって中小サー ビス企業がどのようにインバウンド市場の拡大に対応しているのかということを明らか にしている。しかし、その一方で次のような課題もある。

第1に、先行研究のサーベイが中小サービス企業に偏ったために、探索的なケースス タディとなってしまった点である。探索的なケーススタディとして、十分な成果をあげ ているところではあるが、既存の戦略論研究等を幅広く 、例えばシェンカー(2013)等の 研究を実証的に検証するケーススタディとして構成できた可能性もあり、クリエイティ ブな模倣という概念に、さらなる理論的貢献も可能であったと考えられる。

第2に、地域や同業の事業へのインプリケーションが引き出せていない点である。 3 社のケーススタディの選択は、インバウンド市場に対して、何らかのサービス革新を起 している企業が取り上げられたと考えられるが、地域や業種が大きく異なっており、特 定の地域であったり、特定の事業であったりといった部分での考慮がなされていない。

そのために、それぞれが独立した単独のケースといえるものになってしまい、地域や事 業分野へのインプリケーションが引き出せていない 。研究上の制約から生じたものと考 えられるが、地域や事業が同じカウンターとなるケーススタディを追加的に行うことで、

比較研究を実現し、これらのケースからのインプリケーションを引き出していく必要が ある。

そして、第3に、今回探索的に導かれた中小サービス企業に必要な要素とされた模倣 的な革新による新しいサービスによる市場の創造という部分での他の研究との関連性を 明確にする必要性である。模倣的な革新は、井上(2012)、三宅(2012)、シェンカー(2013) の研究との結びつきが可能である。上記の既存研究と、中小サービス企業向けの本論文 での研究成果を止揚し、より一般化を目指して実証研究を行う必要があるといえる。

以上の点については、今後の課題として論文提出者も認識しており、今後の研究に期 待したい。

6.判定

本論文の貢献および所定の試験の成績を考慮して、本論文の提出者が博士(経営学)

の学位を授与されるのに十分な資格を持つものと判定する。

参照

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