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今田正

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(1)

有価証券時価評価導入の意味

−SFAS第115号を中心に−

今田正

はじめに

FASBは1993年3月,『財務会計基準ステイトメソト』第115号「債務証 券および持分証券投資の会計」(Accounting for Certain Investmentsin Debt and Equity Securities,以下,SFAS第115号,又は単に「ステイトメント」

という。)を表したこl)「ステイトメント」はSFAS第12号「市場性ある有価 証券の会計」を代替し,また,SFAS第65号「モーゲージ銀行業務の会

(2)

計」を修正するものである。これは債務証券(debt securities)および持分

(3)

証券(equity securities)投資に関する会計処理および報告問題に向けられた ものであるが,それら証券について公正価値の使用と拡大を企画するもので ある。すなわち,「ステイトメント」は公正価値が容易に決定可能な持分証 券やすべての債務証券投資に関する財務会計および報告の基準を決定するこ

(4)

とにあるとされる。

では,ここでの問題の焦点はなにか。それは,特に金融機関によって保有 される債務証券投資の認識と測定に関する監督機関の関心事に応えることを 企画したものであるとする。その問題はトレーディングおよび販売業務に関

し償却原価法(amortized cost method)の採用が適当かどうかということで あった。また,その関心は,種々のAICPAの「監査および会計指針」にお ける資産として保有される債務証券の会計処理基準に関する一貫性の欠如が

(5)

存在することにあるとした。

(2)

ところで, I ステイトメント」の焦点は, I 有価証券」会計の一領域とはい え,時価評価の明確な導入を計った処にあり,それは一つの会計の転換を画 する会計原則上の指標を示するものといえる。

FASB は 1 9 8 6 年,オフ・バランスシート・ファイナンシング問題を含む 金融商品の会計に関するプロジェクトを発足せしめた。 FASB はその手始 めに,その開示に焦点を当てたが,それは SFAS 第 1 0 5 号「オフ・バランス

・シート・リスクを伴う金融商品および信用リスクが集中する金融商品に関 する情報の開示了あるいは SFAS 第 1 0 7 号「金融商品の公正価値に関する開 示」として表わされた。これに対して, I ステイトメント」は,直接に有価 証券の認識と測定に関係し,とりわけ未実現損失を認識しない「償却原価法」

や,他方,未実現利益を認識しない「低価法 J C l o w e r ‑ o f ‑ c o s t ‑ o r ‑ m a r k e t   (LOCOM)me 伽 d y ) という伝統的評価基準に換えて,時価法を導入したの である。

以下,これら有価証券投資に関する時価評価導入の論理とそれが会計基準 設定に果す会計的意味とを検討する。

( 1 )   FASB ,  S t a t e m e n t  0 1  F i n a n c i a l  A c c o u n t i n g  S t a n d a r d s  N o .  1 1 5 ,  A c c o u n t i n g  f o r  C e r t a i n   I n v e s t m e n t s  i n  Debt a n d  E q u i t y  S e c u r i t i e s ,  May  1 9 9 3 .  

( 2 )   FASB ,  S t a t e m e n t  0 1  F i n a n c i a l  A c c o u n t i n g  S t a n d a r d s  N o .  1 2 ,  A c c o u n t i n g  f o r  C e r t a i n   M a r k e t a b l e  S e c u r i t i e s ,  December  1 9 7 5 .  

(3) 

FASB ,  S t a t e m e n t  0 1  F i n a n c i a l  A c c o u n t i n g  S t a n d a r d s  N o .  6 5 ,  A c c o u n t i n g  f o r  C e r t a i n   M o r t g a g e  B a n k i n g  A c t i v i t i e s ,  S e p t e m b e r   1 9 8 2 .  

( 4 )   SFAS N o .  1 1 5 ,  o p .  c i t . ,  p a r a . 1.持分証券の公正価値は証券取引所上場の証券につい ての売却価格や相場が即時に得られるのであれば,容易に決定できる ( p a r a .3 . ) 。 ( 5 )   I bi d . ,  p a r a .  2 .  

( 6 )   FASB ,  SFAS N o .  1 0 5 ,  D i s c 1 0 s u r e  o f  I n f o r m a t i o n  a b o u t  F i n a n c i a l  I n s t r u m e n t s  w i t h  

O f f ‑ B a l a n c e ‑ S h e e t  R i s k  a n d  F i n a n c i a l  I n s t r u m e n t s  w i t h  C o n c e n t r a t i o n  o f  C r e d i t  R i s k , 

March  1 9 9 0 .  

(3)

( 7 )   FASB ,  SFAS N o .  1 0 7 ,  D i s c 1 0 s u r e  a b o u t  F a i r  V a l u e  o f  F i n a n c i a l  I n s t r u m e n t s  , D e ‑ c e m b e r  1 9 9 1 .  

( 8 )   SFAS 第 1 2 号は,市場性ある有価証券の評価について,特定の会計実務がない業種 の企業が市場性ある有価証券を貸借対照表上に計上するにあたっては市場性ある有 価証券の原価総額と時価総額とを比較していずれか低い方の金額をもって計上しな ければならず,その差額は評価引当金 ( v a l u a t i o na l l o w a n c e ) として処理するとした

(SFAS N o .  1 2 , o p .   c i t . ,  p a r a .  8 . ) 。

*債券を市場で取得したとき,この取得原価と額面金額との差額は償還期までの期間に わたり,期首の帳簿残高に対する利回りが等しくなるよう帳簿価額を調整する。

1  .有価証券時価評価への転換

持分証券および債務証券投資に関する伝統的会計問題は歴史的原価か現在 価値かということであった。市場性ある持分証券については,持分法以外は,

低価法によって処理されてきた。また,債務証券については,合衆国の金融 機関(商業銀行,貯蓄貸付組合,保険会社,信用組合)においては,投資目的で 保有する証券については,プレミアムおよび割引料の償却を調整した歴史的 原価(償却原価)の使用が認められてきたが, トレーディング目的の証券に ついては,一般には市場価値で処理されてきた。だが,その区分自体は全面 的に経営者の判断に依つていた(1)

このような伝統的二区分の処理概念に対して,その転換を促した象徴的出 来ごとが, 1 9 9 0 年 9 月 , SEC 議長 R .C .ブリーデン ( B r e e d e n ) が議会証言 において,金融機関によって保有される債務証券に関し,時価主義会計 ( m a r k ‑ t o ‑ m a r k e t  a c c o u n t i n g ) を提唱したことであった

(2

)証言は貯蓄貸付組 合問題とその会計要件等の多くの問題を扱ったが,彼はその証言で,そのよ うに証券に関して会計上の損失の認識を行わなかったことが1 9 8 0 年代の貯蓄 貸付組合等の貯蓄金融機関 ( t h r i f t ) の財政状態の深刻さをおおいかくするこ

ととなったというのである。

(4)

すなわち,その意味するところは,金融機関にあっては資産および負債が その市場価値の変動に従って切上げ,切下げられるべきとするのである。

ところで,時価主義会計はけっして新しい試みではない。 APB は 1 9 7 0 年 代の初期にある種の金融機関の投資について時価評価アプローチへと動い た。最終的には合意に至らなかったものの,同問題は FASB に受け継がれ,

1 9 7 5 年の後半に,市場性ある持分証券について, SFAS 第 1 2 号として表され たのである。

A . ワイアット ( W y a t t ) は,原価主義から時価主義への転換についていう。

証券投資に関しての歴史的原価会計の基本的問題点は評価増しされた証券を 選択的に売却することによって,利益計画に応じて利益を認識計上する(い わゆる『益出し』 g a i n st r a d i n g り一方で,償却証券をそのまま保有すること によって損失の認識をほとんど無期限に遅らせることができ,また証券価値 の減少については一時的に表示する

(5

)といったことにあったと。

さらに前述のごとく,従来から特定の業種については投資証券について特 定の会計基準が限定的に適用されてきた。例えば,銀行業では投資証券をト レーデイングと投資の 2 つに区分した。 トレーディング戸証券については時 価評価により,当期損益として認識し,投資証券については,永久的減価 ( p e r m a n e n t  i m p a i r m e n t ) の場合の他,歴史的原価で計上した。「永久的減価」

とは市場価値が簿価を下回り,銀行が「これら証券を長期保有する能力も意 思もない場合」とされたのである。貯蓄貸付組合もまた同様の区分システム を採用し,また永久的減価は市場価値が減少する場合に認識されたというの である。

さて,このブリーデンの提唱は直接 FASB に影響を与えるものであった。

すなわち, 1 9 9 1 年 7 月には FASB は市場性ある持分証券および債務証券に 関するプロジェクトをそのアジェンダーに加えたのである。 1 9 9 1 年 1 0 月には,

FASB  は SFAS 第 1 0 7 号を表わし,すべての実体が,資産ないし負債たるす

べての金融商品を,オンおよびオフ・バランスシートの如何にかかわらず,

(5)

公正価値で開始することを要求したのである

(8

)かくして, 1 9 9 2 年 9 月には,

FASB は『公開草案 I J

i

債務証券および持分証券投資の会計」を発表し,実 体が債務証券を満期まで保有する「積極的意思と能力」を有する場合はそれ らを継続して原価で評価することと認めた。その他の債務証券およびすべて の持分証券は公正価値にて評価されるべきこととし,売却のため保有する証 券に関する損益は当期の利益として,その他の債務証券および持分証券は株 主持分の一部として計上することとしたのである。

これらの背景には,開示のみでは不十分とする SEC 等の強い主張が存在 した。 AICPA は 1 9 9 0 年にはポジション・ステイトメント C S t a t e m e n to f   P o s i t i o n )   9 0

1 1 号において,すべてのタイプの金融機関に関して,資産とし て保有される債務証券の市場価値と未実現損益の広範囲の開示を要求したが,

SEC はこの開示では不十分であるとの主張を続けたのである。

SEC の立場は一貫して, 厳密な"貸借対照表は投資として保有される債 務証券をコストのかからない時価をもって評価することによって,達成可能 となるとした。これは売却益の計上の一方で損失を計上しないという,いわ ゆる「益出し」の損益計算書からの排除を主張するものであったが,一方,

時価評価から生じる未実現損益を当期純損益に計上するべきか,直接株主持 分に計上するべきかについては中立を表明したのである。

( 1 )   Z e f f ,  S .  A .  and Dharan ,  B .  G . ,  R e a d ' t n g s  a n d  N o t e s  o n   F t ' n a n d a l  A c c o u n t t ' n g ,  F o u r t h   E d i t i o n ,  M c G r a w ‑ H i l l ,  I n c . ,  N .  Y .  1 9 9 4 ,  p .   3 6 6 .  

( 表 1)  市場性ある有価証券の評価基準

ぷ~

社 数

1 9 9 2   1 9 9 1   1 9 9 0   1 9 8 9   1 9 8 8   1 9 8 7   1 9 8 6   原 価 法

市場価値の近似値 1 3 8   1 5 6   1 6 4   1 7 5   1 9 4   2 3 7   2 5 9  

市場価値への言及無し 1 9   7  6  1 2   1 1   2 0   1 8  

市場価値の開示 9  5  6  4  4  7  2 

(6)

低 価 法 時 価 法

3 5   3 

3 0   4 2   2 

4 2   2 

4 0   5 1   4 3   3  (出所) AICPA ,  A c c o u n t i n g  T r e n d s   &  T e c h n i q u e s ,  1 9 9 0 ,  1 9 9 3  e d .   1 : : : . り 作 成 。

上表は,アメリカにおける,流動資産に属する市場性ある有価証券(持分証券および 債券)の評価実務の傾向を示したものである。原価法が主流で,低価法の採用もみられ るが,時価法が皆無でないことが注目される。これらの会社には金融業は含まれないが,

一般企業の実務傾向をみることはできる。

(2)昂

i d . , p .   3 6 7 . すなわち,伝統的償却原価に替えて,銀行および貯蓄金融機関につい てすべての投資証券を市場価値で報告すべきとしたのである (SF AS  N o .   1 1 5 ,  p a r a .   3 3 .   。 )

(3) 

貯蓄貸付組合 ( s a v i n g sand l o a n  a s s o c i a t i o n ) ,貯蓄銀行 ( s a v i n g sb a n k ) などの中小 の貯蓄金融機関。

( 4 )   Z e f f ,  S .   A. and Dharan ,  o t .   c i t . ,  p .   3 7 3 .   Wyatt ,  A . , The SEC S a y s  :  M a r k ‑ t o ‑ Market  ! "   A c c o u n t i n g  H o r i z o n s ,  March 1 9 9   , 1 p .   8 0 .  

(5) 

日 ラa t t ,A . ,   o t .  c i t . ,  p .  8 0 . いわゆる「益出し」による利益操作である「益出し」とは,

歴史的原価(あるいは償却原価)で計上されている証券がいわゆる「含む益 J となっ ている場合,これを売却することにより未実現利益の実現利益化を計る一方, r 含み損 J

については評価損失の認識計上を遅らせるといった手法を指す。すなわち,償却原価 法を用いることは評価増しされた証券の選択的売却を通じての保有利得の認識を可能 とする一方保有損失の当期認識を要請しない,ことになるという (SFASN o .   1 1 5 ,  p a r a .  2 7 . ) 。

(6) 

Wyatt ,  A . ,  o t .   c i t . ,  p .   8 1 .  

(7) 

1 9 9 0 年 9 月,合衆国上院,銀行業,住宅と都市問題委員会において SEC 委員長 R i c ‑ h a r d  C .  Breeden はその証言の一節に次のように述べている。

「金融機関は金融商品の売り,買いの業務を行っているが,その多くが現在市場価値 で測定を行っている。金融機関の資産をその取得原価ではなく,現在価値で測定する

というのが増々我々が目指すべき目標とならねばならない。

当委員会としても銀行や貯蓄金融機関の会計基準を原価から市場価値基準へ転換す

ることは困難な佐事であることは認識しており,これらの問題についての研究も進行

しつつあると考える。それらの努力の目標は出来るだけ早く適切な市場価値評価法を

用いた財務報告を達成することでなければならない。「歴史的原価会計」はこんにちの

多くの金融機関が置かれている条件というより,より広範な経済環境のもとで発展し

(7)

てきた。今日,金融機関はその利子生みの資産と利付負債ポートフィリオの積極的な 管理によって純利益の極大化と金利リスクの管理を計っているこの 資産/負債"構 成管理は度々資産,負債の再構築のための投資証券の売り買いを伴う。このような条 件のもとで歴史的原価モデルを維持し続けることは,結果として財務報告の適合性を

も減じることになる J と ( W y a t t , A . ,  o p .   c i t . ,  p .   8 2 .   。 )

( 8 )   Z e f f ,  S .   A .  a n d  D h a r a n ,  B .   G . ,  O p .   c i t . ,  p .   3 8 8 .   K i r k ,  D . ] . ,   C o m p e t i t i v e   D i s a d v a n ‑ t a g e  a n d  M a r k ‑ T o ‑ M a r k e t  A c c o u n t i n g ,  A c c o u n t i n g  H o r i z o n s ,  J u n e  1 9 9   , 1 p .   1 0 4 .  

(9) 

K i r k ,  D .  J . ,  O p .   c i t . ,  p .   1 0 5 . M a r k e t  V a 1 u e  :  The D e b a t e  R a g e s ,  "  F i n a n c i a l  E x e c u t ‑ i v e ,  J a n u a r y  /  F e b r u a r y  1 9 9 3 ,  p .   3 0 .  

(1~

K i r k ,  D . ] . ,   o p .   c i t . ,  p .   1 0 5 .  

1 1 .   SFAS 第 1 1 5 号の内容

( 1  )  対象証券とその区分化

SFAS 第 1 1 5 号の焦点は公正価値評価の導入にあるが,同号の特徴はその 基準化の対象領域をある種の金融資産に限定することにあり,金融負債に関 する会計処理の変更を行うものではないことである。その対象となる金融資 産から,まず, 1"ステイトメント」は証券ではない受取勘定を排除する。

では,その対象「証券」とはなにか。「ステイトメント」は, 1"債務証券」

( d e b t  s e c u r i t y ) と「持分証券 J ( e q u i t y  s e c u r i t y ) とからなるとする。

債務証券は企業に対して債権者 C c r e d i t o r ) の関係を代表する証券である。

それはまた, ( a ) 企業による償還条項付きか,投資家によって任意に償還可能 な優先株,および( b ) CMO  ( c o l 1 a t e r a l i z e d  mortgage o b l i g a t i o n ) を含む。ただ しそれはオプション契約,金融先物契約,およびリース契約を除く。その 他 , u .   S . 財務省証券, u .   S . 政府機関証券,地方証券,社債,転換債券,

CP ,  CMO

s

や不動産モーゲージ投資媒介体 (REM1C) ,また 10証券(i n ‑

t e r e s t ‑ o n l y  s e c u r i t i e s ) ,  POストリップ証券 ( p r i n c i p a l ‑ o n l ys t r i p S ) といっ

たすべての証券化債券を含むとされる。

(8)

一方,持分証券は,企業における所有主持分 (o~nership i n t e r e s t ) を代 表する証券(例えば,普通株,優先株,その他の株式)または企業の所有主持分 を固定的ないし確定的な価格で取得する権利(例えば,ワラント,新株引受権 およびコール・オプション)または売却する権利(例えば,プット・オプション) を表わす証券である。しかし転換社債または優先株は発行企業によって償還 されるか,投資家の選択によって償還可能なものは,この用語に含まれない とされる。

そこで, I ステイトメント」はこれら債務証券および持分証券をその取得 時に,つぎのような三つの区分を行うところに特徴がある。すなわち①満期 保有 ( h e l d‑ t o ‑ m a t u r i t y )   ,②売却可能 ( a v a i l a b l e ‑ f o r ‑ s a l e ) ,および①トレー ディング ( t r a d i n g ) という目的区分の概念を導入したのである

(5) 

まず,①満期保有証券:これは,債務証券投資のうち,企業がそれら証券 を満期まで保有する積極的意思と能力を有する場合にのみ「満期保有証券」

に区分され,貸借対照表上,償却原価にて測定されることになる

(6) 

ただし,つぎのような環境条件のもとで,一定の証券を満期まで保有する 意思を変更した場合は,その当初の区分と矛盾するとはみなされない(7)

a . 発行者の信用度が著しく減退する証拠がある場合。

b .税法の変更により債務証券利息の免税規定が廃止ないし減額される場合。

C.

大規模な企業結合または売却が満期保有証券の売却ないし譲渡を必然、的に伴う 場合。

d. 法的ないし規則上の要件の変更がある種の証券について投資の許可や投資限度 額の変更がなされた結果,企業が満期保有証券を処分する要因となる場合。

e . 規制当局による企業の資本構成に関する規制の増大が満期保有証券の売却によ るダウン・サイジングをもたらす場合。

f  .規制当局のリスク基準に基づく資本構成要件に用いられる債務証券のリスク基 準が増大した場合。

前述の環境条件の変化以外に,その他合理的に見積ることが出来ない個別

(9)

的,非継続的また非日常的な事象が企業をして満期保有証券の売却や譲渡を もたらすことになる。

つぎに,以上の満期保有以外の債務証券および公正価値を容易に決定でき る持分証券は貸借対照表上,つぎの 2 つに区分され,公正価値をもって測定 される。

②トレディング証券:基本的に比較的短期間に売却の目的のため購入し保 有される証券は「トレーディング証券」として区分される。 トレーディング は一般に売り,買いの行為であり, トレーディング証券は短期間の価格の 差異からの利殖を目的に用いられる。たとえば,モーゲージ銀行の活動と 結びついて売却のため保有されるモーゲージ担保証券 C m o r t g a g e ‑ b a c k e d s e c u r i t i e s ) がその例である。

①売却可能証券:トレーディング証券に区分されない投資(したがってま た,満期保有証券でもない)は「売却可能証券」として区分される。

以上のように, I ステイトメント」の特徴は証券投資の時価評価の導入に 当って,いわゆる満期保有証券とトレーディング証券および売却可能証券と に区分する概念を導入したのである。

( 2 )   負債評価の除外

では,金融資産を対象とし,金融負債を対象としないとする FASB の立 場はなにか。

ある企業,特に金融機関においては,その金融資産と金融負債の保有を調 整することによってその金利リスクの管理をしている。もし,一定の投資に ついて公正価値での評価を求めるのであれば,ある種の負債に関しても公正 価値で評価すべきという主張が存在する(1

0)

これに対して, FASB は,公正価値で評価される債務証券への投資と関

連する負債については公正価値評価の選択を認めるべきか,どうかを検討し

たという。同審議会はいう。もし,すべての債務証券投資を公正価値で評価

(10)

することが要求されるとすれば,それに関連する負債も公正価値で評価する ことを認めることが好ましいと考える。しかしながら,審議会としては負債 の評価方法を特定することは困難であり,また,多くの企業の金利リスクの 管理は金融資産,負債の総額基準によっており,個々の金融資産,負債によ ってではないから,どの負債が公正価値で評価された債務証券と関連がある かの特定には困難性があるという。

このように,審議会は,関連する負債を特定することも,またその公正価 値を決定する方法を開発することもできないことから,全ての債務証券投資 について公正価値評価を要求することはせず,従来の低価法に換えて,ある 種の証券を公正価値で評価し,その公正価値の未実現変動損益を損益計算書 上の損益としないこととしたというのである。

要するに,審議会としては,債務証券および持分証券投資の財務報告によ り広く公正価値評価を導入する一方,関連する負債の評価の変更は行わない というアプローチに同意したのである。これは,実際の実務に基づいており,

それは負債の評価を含んでいないという。

先に指摘したごとく,審議会としては,もし全ての債務証券投資が公正価 値で評価されるとすれば,一定の関連性ある負債については公正価値で評価 することを認めることも可能である。しかし,当ステイトメントは証券の公 正価値評価の拡張を行なっていないし,また,現行実務は売却目的で保有さ れる証券の公正価値の純減少額は(低価法を通じて)認識するが,なんら負債 の価値の変動を考慮することはない。したがって,ステイトメントにおいて 負債の評価を取上げることが不可欠だとは考えないと,このようにいうので ある。

( 3 )   r ステイトメント」のアプローチ法

以上みたように,ここでのアプローチ法は,公正価値評価の導入に当って,

投資証券の区分を行い,その一部に公正価値評価を適用し,その他について

(11)

は伝統的償却原価を存続させるという並立的措置を行ったところに特徴があ る 。

すなわち, i ステイトメント」の展開において,債務証券および持分証券 に公正価値会計を適用することに対する批判はつぎの 2 点であった。 ( a ) 公正 価値は満期保有の債務証券に適合的といいがたい。 ( b ) 一定の資産についての み,しかも関連する負債との関係なく,評価を行うことは計上利益の変動を

もたらす結果となる。

このような批判のもと, FASB は「満期保有」の債務証券については償 却原価法の使用の存続を計る一方, i 売却可能証券」については未実現保有 損益 ( u n r e a l i z e dh o l d i n g  g a i n s  a n d  l o s s e s ) を当期損益には含めないという 区分の論理を採用したのである。

では,償却原価法を擁護する論理はなにか。もし債務証券が満期まで保有 されるとすれば,そのとき原価は実現し,また期中の未実現損益は実現する のであるから,償却原価法が債務証券の測定としてより適合的であるとした のである。

かくして, FASB は「満期保有証券」の区分を限定的に設定したのであ るが,それは,償却原価は債務証券投資の各々について正当化されるからで ある。したがって,企業は,その取得時において,証券を,単に売却の意思 がないということではなく,満期まで保有する積極的意思と能力があるか否 かを決定すべきこととなる。もし経営者が債務証券を満期までに保有する意 思が確かでない場合,その投資を償却原価で計上することは不適切である。

すなわち,償却原価法は証券が実際に満期まで保有される場合にのみ適合的 であるとしたのである。

したがってまた,金利等の変動に応じて売却が可能な債務証券や,企業の 資産一負債関係の管理行動のー還として売却可能と考えられる債務証券は,

「満期保有証券 j に区分されるべきではないとされるのである。

つぎに,経営者が満期まで保有する積極的意思と能力を有しない債務証券

(12)

投資,また公正価値が容易に決定可能な持分証券については償却原価より公 正価値情報の方がより適合的であるとする。その理由の一つは,その情報が 経営者がある金融資産を特定の時期に購入し,不特定の期間保有し続けると いう意思決定の効果を表わしているからである。たとえば,ある企業が固定 金利の証券に投資し,その金利が下落するとすれば,企業は変動金利証券に 投資した場合に比べ有利なポジションを得ることになる。債務証券ないし持 分証券の保有期間における公正価値の変動,そしてその市場からの報酬は,

経営者の意思決定の成果と極大利益を目指す企業の経済的資源の利用の達成 度を評価する指標を提供する。これらの指標は目的適合的であり,それら事 象にの場合,金利の変動)の発生時に財務諸表に認識されるべきであるア)と いうように公正価値評価が論理化されるのである。

さらにまた, FASB は基本的にほぼ短期に売却目的のために購入し,保 有されている投資は「トレーデ、イング証券」として区分した。 トレーディン グとは一般に売り買いの業務を反映し, トレーデ、ィング証券は短期の価格変 動からの利益の獲得を目的として用いられる。

かくして,公正価値で評価されるすべての債務証券および持分証券投資の うち, r トレーディング証券」に区分されないものは「売却可能証券」に区 分されることになる。もちろん,この区分には市場性ある持分証券,さらに 不特定期間保有される債務証券が含まれる

(21)

以上から,投資家は証券の取得時に, r 満期保有 J , r 売却可能 J , r トレー デ、ィング」の 3 つの区分の l っとして決定し,また記録しなければならない。

そうして,決算日においてその区分の適正性が再検証されるのであるケ例え

ば,もし企業が,もはや証券を満期まで保有する能力を有しない場合は「満

期保有証券」という区分は適切とはいいがたくなる,というのが「ステイト

メント」の区分の基準である。

(13)

( 1 )   SFAS N o .   1 1 5 ,  o p .   c i t . ,  p a r a . 4 4 .  

(2)昂

i d . , p a r a .  4 5 .  

(3)(4)昂

i d . , p a r a .  1 3 7 .  

(5)昂

i d . , p a r a .   6 .  

(6)昂

i d . , p a r a .   7 .  

(7)昂

i d . , p a r a .   8 .  

(8)(9)昂

i d . , p a r a .  1 2 .   ( 1 0 )

i d . , p a r a .  4 9 .   ( 1 1 )   I bi d . ,  p a r a .  5 1 .  

~~昂id. ,

p a r a .  5 4 .  

。事昂 i d . , p a r a .  5 6 .  

~~~事昂id. ,

p a r a .  5 7 .  

~~昂id. ,

p a r a .  5 8 .   肋 昂 i d . , p a r a .  5 9 .  

(1~ 昂id. ,

p a r a .  6 0 .   ( 1 9 )   I bi d . ,  p a r a .  7 8 .   帥 I bi d . , p a r a .  8 0 .   制 昂 i d . , p a r a .  8 2 .  

~~昂id. ,

p a r a .  8 3 .  

I I I . 公正価値評価と損益認識

( 1  )  公正価値の変動損益の認識

前節において, r 満期保有証券」に区分されない債務証券,また公正価値 が決定可能な持分証券については貸借対照表上,公正価値をもって測定する

とした。

では,公正価値評価に基づく資産価値の変動はいかに認識されるであろう

か。結論的にいえば,その変動は保有損益 C h o l d i n gg a i n s  and l o s s e s ) とし

(14)

て認識され,この未実現保有損益は「トレーディング証券」に関しては当期 損益に含め, r 売却可能証券」については損益計算書上の損益から除外し,

その純額を実現の時まで株主持分の一区分に計上するとしたのである(1) さらに 3 つの区分のすべての証券投資についての,プレミアムおよび割 引料の償却を含む,配当および受取利息はそのまま当期損益を含められるこ とになる。要するに,本基準は配当,受取利息額の認識と測定に影響を与え ない。また, r 売却可能」ないし「満期保有」の証券に関する実現損益はそ のまま当期損益に計上される

(2) 

以上のように, r ステイトメント」は証券投資の公正価値の変動損益の計 上を要求することを規定した。その公正価値の総変動額は債務証券について の未収利息(あるいは持分証券についての未収配当金)および証券の保有から生 じる公正価値の変動損益,すなわち未実現保有損益の二つの部分からなる。

未実現保有損益の処理については,前述の如く,証券がトレーディング証券 か売却可能証券かの区分によって異なる。ただし,この証券の区分に関わり なく,受取利息を当期の収益に計上する点は従来の実務と異なるところはな し 、 。

(3) 

以上の区分に従い,まず, トレーディング証券については,未実現保有損 益は当期損益に含めるべきで,これは現行の会計処理法と一貫性を有すると した。また,売却可能証券に関する未実現保有損益は当期損益の決定から除 外し,保有損益が実現するか,評価引当金が認識されるまで,株主持分の一 区分にその純額を計上するとした。

すなわち,実際に運用されている証券に関しては,当期損益が報告企業に

とっての実際の事象(例えば,公正価値の変動)また取引(例えば,証券の購入

または売却)の経済的効果を反映する場合に,財務報告が改善される。公正

価値の変動を当期損益に含めることは現在の株主にとって,より目的適合的

財務報告である。また,公正価値の未実現の変動損益を当期損益に含めるこ

とは株主持分の結果や変動に関するより衡平な報告を提供する

(5)

と。このよ

(15)

うに, FASB は「トレーディング証券」の未実現の変動損益を当期損益に 含めることを論理づけたのである。

( 2 )   投資証券区分間の転換

原則として,投資証券区分間の転換は公正価値で評価される。転換の日を もって証券の未実現保有損益は次のごとく処理される

(6) 

a .   r トレーディング」から転換された証券に関しては,転換時の未実現 保有損益は既に当期損益として認識されており,そのとり消しを行うことは ない。

b.  r トレーディング」に転換された証券については,転換時の未実現保 有損益は直ちに当期損益に認識される。

c .   r 満期保有」から「売却可能」への転換された債務証券に関しては,

転換時の未実現保有損益は株主持分の個別区分に計上される。

d.  r 売却可能」から「満期保有」へ転換された債務証券に関しては,転 換時の未実現保有損益は株主持分の個別区分に継続して計上されるが,当該 証券の残存期間にわたってプレミアムないし割引料の償却にあわせた修正と して償却されることになる。株主持分に計上された未実現保有損益の償却は 満期保有証券についてのプレミアムないし割引料に関する償却に伴う受取利 息と相殺ないし減額される。

以上のように,投資区分の転換に伴う,未実現損益は証券が「トレーディ ング」に転換された場合にのみ当期損益として認識される。その他の場合,

未だ当期損益として認識されていない未実現損益は株主持分の個別区分に計 上されるとしたのである。このアプローチは未実現損益の認識と証券が転換 された後の区分のそれと一貫性を持たせる方法である, とするのである。

これらは,転換に際して公正価値で評価し,転換時に存在するあらゆる未

実現損益を当期損益として認識することは「益出し J を容易にすることにな

る(7)たとえば,経営者の意思の変更によって,評価上げされた証券が転換さ

(16)

れるとすれば,即時,それは利益の認識計上が可能となる。そこで, FASB 

としては,そのような状況を避けるため, r トレーディング」へ転換された 場合にのみ,未実現損益の認識計上を認、めたというのである

(8) 

( 3 )   証券価値の減損

売却可能あるいは満期保有として区分される個々の証券については,企業 は,公正価値の減価が償却原価を下回るとき,それが一時的かどうかを決定 することになる。たとえば,投資者が債務証券について契約条項に従ってそ の全額を回収できないことがほぼ確実な場合は,一時的でない減損が発生し たとみなされる

(9)

そして,もし公正価値の減価が一時的でないと判断される 場合,個々の証券の原価は公正価値まで切下げられ,それを新しい原価とし,

その評価減額は当期損益に含められる(すなわち,実現損失として処理されるの である)。そうして,この新しい原価基準は以後の公正価値の回復に関して も変更されることはない。その後の,売却可能証券の公正価値の増価は前例 にならって,株主持分の個別区分に含められ,公正価値の以後の減価もまた,

一時的減損である場合,株主持分の個別区分に含められる。

以上のように FASB は,償却原価を下回るすべての公正価値の減損は,

一時的減損を除き,当期損益に認識する。すなわち,証券投資に伴う損失は 証券が売却されていない場合であっても当期損益に認識すべきとした。

( 1 )   SFAS N o .   1 1 5 ,  o p .   c i t . ,  p a r a .  1 3 .  

(2)昂

i d . , p a r a .  1 4 .  

(3)昂

i d . , p a r a .   9 0 .  

(4)昂

i d . , p a r a .   9 1 .  

(5)昂

i d . , p a r a .  9 2 .  

(6)昂

i d . , p a r a .   1 5 .  

(7)昂

i d . , p a r a .   8 4 .  

(17)

(8) 

I bi d . .   p a r a .   8 5 .   ( 9 X

lO)昂

i d . .p a r a .  1 6 .  

N . 時価評価導入の意味

金融商品の会計の基準化の第一歩となった SFAS 第 8 0 号は,先物契約の 変動損益の認識に関し,先物契約の市場価値の変動は,その変動時の損益と して認識する,という一般原則を設定した。これは直接の計上資産,負債の 評価損益を意味しないが,それは未実現損益の即時認識計上を基本的認識基 準とするものであり,金融資産時価評価への先導的役割を果すものであっ た 。

また

t

r 金融商品」の会計に関する IASC [公開草案] (E48) は,標準的 測定基準として,金融資産,負債を長期ないし満期保有目的,ヘッジ目的,

その他の目的に分類し,長期・満期保有目的は原価で,ヘッジ目的では,金 融商品の公正価値の変動から生じる損益はヘッジ対象ポジションの公正価値 の変動から生じる損益と同じ時期に認識されるとした。そうして,その他の 金融資産および金融負債は,長期また満期保有の意思がない場合およびヘッ ジ目的に区分されない場合は,決算時の公正価値で評価するとした。

また

t

r 公開草案」は,その代替的方法として,すべての金融資産,負債 を決算時の公正価値をもって評価し,その変動損益をその発生的の損益とし て認識するという時価評価法も認めたのである

(2) 

先にみたように

t

SFAS 第 1 1 5 号もまた,債務証券および持分証券を 3 つ

に区分を行ない,満期保有証券は原価で評価し, トレーディング証券のみを

時価で評価し,評価損益を当期損益として認識するとした。売却可能証券は

時価で評価するが,未実現損益は損益計算書上は影響させず,貸借対照表の

株主持分区分に計上するという方法をとったのである。このように,第 1 1 5

号は,証券の区分化の論理でもって時価評価の導入を計ったのである。しか

(18)

し,経営者の意図に基づいて会計と「益出し」等の怒意的会計を克服するも のとされたこれら処理基準も批判をよばずにおかない。それは,これらの会 計問題は,すべての証券を公正価値評価により計上し,未実現損益を当期損 益に含めることによってのみ解決されるという批判であった。

また,第 1 1 5 号は,たとえば債務証券を 3 つに区分し,その区分に従って 異った会計処理を要求したが,そのことは,同じ企業内において同じ債務証 券について 3 つの異った会計処理がなされうることになる。さらには, r 満 期保有」なる区分自体が「満期保有の意思と能力」といった主観的概念に基 づいている。また,ある債務証券については償却原価で,ある債務証券およ び持分証券については公正価値で評価し,その未実現変動損益を当期損益か ら排除するとした。この規定は選択的な証券の売却とその実現利益の当期損 益への選択的計上,また未実現損失(含み損)の当期損益から選択的な排除

という機会を提供することになる

(0

これに対する審議会の論理はどうか。まず, トレーディング証券の公正価 値の未実現変動損益を当期損益に含めることは取引および事象の経済的効果 ( e c o n o m i c  c o n c e q u e n c e s ) を表わしている。だが,売却可能証券について同 じ処理を認めることは期間損益の著しい変動をもたらすことになるというの である。

では, SFAS 第 1 1 5 号の基準化がもっ意味はなにか。まず,同号のもつ意 味は,上述のような基準化にあたっての批判や議論にかかわらず,目的適合 的情報の提供という情報の論理や経済効果論をもって, GAAP 上で有価証 券に関して時価評価を導入したところに,その会計上の意味がある。有価証 券の区分化と時価評価自体は,特定の産業分野において認められ,実務とし て進行せるところである。 SFAS 第 1 2 号は一般原則と並んで,特定産業に ついて,市場性ある有価証券について特定の会計実務を認めた

(6

)例えば,

SFAS 第 6 0 号は保険業の会計において,社債の会計について, トレーディン

グについては市場価値で評価し,未実現損益の認識を認めた(7)また,銀行業

(19)

に関し, AICPA は「銀行の監査 j ) において投資およばトレーディング証券 について会計指針を示しているが,後者のトレーディング証券については市 場価値により,未実現の評価損益を当期損益に認識するとしたのである。

かくして, SFAS 第 1 1 5 号の意味は,時価基準の制度化自体にあると見ら れる。利益操作の防止の論理をもとに導入された時価評価の会計上の意味は 未実現保有損益の実現化にあり,保有有価証券の売却(とその買戻し)によ る「益出し」や評価損の計上による「損出し」にかわる利益操作が,まさに GAAPの名のもとに,制度的に保証されることにほかならない?

SFAS 第 1 1 5 号の規定するところは,原価主義から時価主義会計への全面 的転換を意味しない。むしろ,それ自体は原価主義会計の枠組みの中での有 価証券という保有資産の(負債を除外した)時価基準の適用である。その適用 の基軸概念は売却可能性にある。有価証券は原則として市場性(と市場相場) を有し,いつでも企業の意思により売却可能である。それは,いはば換金可 能性を意味し, したがって,そこでは当然、,公正価値(売却可能額)による 測定と損益の認識とが論理づけられるのである。 SFAS 第 1 1 5 号は直接に時 価主義会計への転換を意味するものではないとしても,伝統的原価基準(低 価法)と実現基準(販売基準)の枠組みを打破し,有価証券評価に時価基準を GAAP上で位置づけ,それによって金融資産・負債一般の評価問題を伝統 的原価主義・実現概念の枠組みから解き放つところに,その制度上の意味が あると考えられる。

(1) 

FASB ,  S t a t e m e n t   0 1   F i n a n c i a l  A c c o u n t i n g  S t a n d a r d s  N o .  8 0 .   August 1 9 8 4 .   p a r a . 3 .   ( 2 )   IASC ,  E x p o s u r e   Dr a j t  E 4 8 .  F i n a n c i a l  I n s t r u m e n t s ,  J a n u a r y  1 9 9 4 .   p a r a . 8 5 ‑ 1 6 3 .  

田中健二「金融商品の認識・測定上の問題 J .

W企業会計~

March 1 9 9 4 .   VOL. 4 6 .  N o .   3 .   7 4 頁参照。

( 3 ) ( 4 ) ( 5 )   SFAS N o .   1 1 5 .   o p .  c i t . . 本ステイトメントは審議会メンバー 7 名のうち 5 名の承

認によって採択された。

(20)

( 6 )   SFAS N o .  1 2 ,  p

a . 1 4 . そのような産業には投資会社,証券ブローカー・ディーラー,

生命保険会社,損害保険会社が含まれる。ただし, SF  AS N o .  1 1 5 はこれらの産業に は適用されない (SFASN o .  1 1 5 .   o p .   c i t . ,  p a r a .   4 . ) 。

(7) 

生保業の会計については, FASB ,  SFAS N o .  6 0 ,  A c c o u n t i n g  a n d  R e p o r t i n g   by  1 n ‑ s u r a n c e  E n t e r p r i s e s ,  1 9 8 2 . また同業は, S t a t u t o r y  A c c o u n t i n g  P r a c t i c e により規制さ れる。

( 8 )   AICPA は 1 n d u s t r yA u d i t  G u i d e , A u d i t  o f  B a n k s " において投資およびトレーディン グ証券の会計に関しての指針を示している (A1CPA , I s s u e s  P a p e r  86‑2 ,  A c c o u n t i n g   f o r  O p t i o n s ,  p p .  6 4  ‑6 5 .   。 )

( 9 )   たとえば, r ステイトメント」はいう。「審議会は,活発なトレーディング勘定の対 象ではない売却可能な債務証券や持分証券についての未実現保有損益は当期損益から 除外するとした。これは一定の資産についてのみ公正価値で評価することを要求する ことの結果生じる計上損益の変動の可能性を軽減するであろう。しかし,審議会とし ては,証券の売却を通じての当期損益の変動はありうることを認めているし,さらに は,このアプローチ法は益出しに関する問題を解決するものではない。」と (SFAS N o .  1 1 5 ,  o p .   c i t . ,  p a r a .  9 4 . ) 。

~o)

たとえば, r 本ステイトメントは証券投資のヘッジに用いられるその他の金融商品会

計に向けられたものではないが,もしそれら金融商品が本ステイトメントによってそ

の会計処理が変更されることになる証券をヘッジするとすれば,その金融商品の会計

も影響を受けることになる。 トレーディングに区分される証券をヘッジする金融商品

に関する損益は当期損益に計上されることになる」と,このようにいう ( I b i d ., p a r a .  

1 1 5 .   。 )

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