【学位論文審査の要旨】
本論文では、機械学習を用い、呼吸、心拍、体温などのバイタルサインからインフルエ ンザや小児の肺炎などの感染症のスクリーニングを行うシステムの開発と、精神負荷によ る自律神経応答を用いたうつ病のスクリーニングシステムの開発を行い、それらの有効性 を病院で検証した。すなわち、本論文は3種類の医用スクリーニングシステム(卓上型(イ ンフルエンザ、うつ病)、携帯型(小児肺炎))のハードウェアの開発と病院での使用に耐 え得るプロトタイプの作成、機械学習を用いたソフトウェアの開発、日本(福島、静岡)
とモンゴル(ウランバートル)の病院で実施した臨床試験について述べ、3種類の医用シス テムの有用性を検証した。
一章では、高齢者の死亡原因の上位を占める肺炎の重症化と関連するインフルエンザ、
モンゴルで小児死亡原因の第 2 位である肺炎、日本は言うまでもないが、急速な都市化に 伴いモンゴルでも社会問題となっているうつ病について概説し、それらの疾病を、手軽で 迅速にスクリーニングするシステムを開発した動機について述べている。
第二章では、上記 3 種の疾患のスクリーニングシステムのハードウェア設計、機械学習
(ランダムツリーアルゴリズム)を用いた下記の 3 種のスクリーニングアルゴリズム設計 について詳細に論じている。
① 機械学習を導入し、バイタルサインを用いて、15 秒程度の間にインフルエンザ等 の感染症をスクリーニングする、迅速・感染症スクリーニングシステム(卓上型)
② 携帯することを前提に、計算負荷の軽いランダムツリーアルゴリズム導入により 可能となったマイコンベースの、肺炎スクリーニングシステム(携帯型)
③ 精神負荷による自律神経応答(指尖脈波より導出)を用いたうつ病の客観的スク リーニングシステム(卓上型)
第三章では、上記 3 システムを国内外の病院おいて実地運用した結果について述べてい る。
① 感染症スクリーニングシステム(卓上型):日本の病院(福島)で得たインフルエ ン ザ 患 者(B/Yamagata, A(H1N1), A(H3N2), B/Victria, C)の バ イ タ ル サ イ ン (2013-2017)を学習させ、96.2%(2018)の感度を達成した。機械学習させる症例数が増 えるに従い、スクリーニングを行う上で重要な感度、陰性的中率が共に上昇し、数年 に及ぶインフルエンザ患者のバイタルサインを学習させることで、実用レベルのスク リーニング精度が得られることを検証した。インフルエンザウイルスの系統や亜型を、
ウイルスセンター(仙台医療センター)の協力を得て、細胞培養(MDCK)により特 定した。ウイルスタイプごとのバイタルサインを求め、機械学習によりスクリーニン グを行うための国際的にも前例のないデータベースを構築し得た。
② マイコンベースの肺炎スクリーニングシステム(携帯型):モンゴルの病院で小児 肺炎患者のスクリーニングを行い、96.5%の感度を達成した。特筆するべきは、呼吸数 と心拍数の代償作用により経皮的動脈血酸素モニター(SPO2)では分からない、小児肺
炎患者を発見できたことである。国土が広いモンゴルで准医師(3年の医学教育)の往 診や、日本で在宅医療の往診時に携帯することが期待される。
③ うつ病スクリーニングシステム(卓上型):日本の病院(静岡)の精神科医の協力 を得て、提案システムは問診を用いることなく(客観性の担保)83.3%の感度(交差検 証)を達成した。本システムは問診を用いないので患者が嘘をつけないこと、うつ病 の重症度を数値化できるなどの利点を有する。将来的に、カウンセリングや磁気刺激、
セロトニン再吸収阻害薬などの抗うつ薬の治療効果判定への応用が期待される。
第四章は、本論文の結果を総括している。本論文は、日本や学位申請者の母国であるモ ンゴルで問題となっている各種疾患のスクリーニングシステムの開発について述べ、自律 神経活性を含むバイタルサインの蓄積とこれを用いた機械学習(ランダムツリーアルゴリ ズム)とシステムへの実装、臨床試験を通して、提案システムのいずれもが、コストや検 査時間の短さも含め、近い将来における実用の可能性を秘めていることを論証した。
本論文は、機械学習を用いた呼吸器内科領域と精神科領域の医用スクリーニングシステム の開発(ハードウェア、ソフトウェア)とプロトタイプ製作、学位申請者の母国であるモ ンゴル(ウランバートル)と日本の病院で行った臨床研究の全ての領域に及んでいる。一 人の研究者がこれらすべてに関わることは稀であり、得られた成果は極めて大きな医用工 学的有益性を有すると判断される。よって本論文は博士(工学)論文に値すると認められ る。
(最終試験又は試験の結果)
本学の学位規則に従い、最終試験を行った。公開の席上で論文発表を行い、学内外から 多数の参加者を迎え質疑応答を行った。また、論文審査委員により本論文及び関連分野に 関する試問を行った。これらの結果を総合的に審査した結果、専門科目についても十分な 学力があるものと認め、合格と判定した。