株主総会の一考察
19
株主総会の一考察
一アジア法の研究一
志 津 田 氏 治
社団法人である株式会社が,その意思を決定しそれを執行するには,会社の組織法上一 定の地位にある者の存在が必要である。このような組織法上の存在,つまり会社の意思及 び活動を実現すべき者として,法によって定められている者を「会社の機関」という。こ の機関は一人の者で構成されている場合もあれば,数人の者で構成されていることもあ る。後者を合議制の機関と称し,株主総会・取締役会がこれに属する。株式会社における 機関を,議決機関(株主総会),執行・代表機関(取締役会および代表取締役),監査機 関(監査役)に分化させることは,所有と経営が分離している利益団体たる株式会社にお ける利害調整の方法として,近代国家における立法・司法・行政の三権分立の政治思想を とりいれたものにほかならない。この点で,商法は,「社会の混乱の渦中において不動であ る」という傾向をもちながらも,当時の立憲主義的な政治思想の影響を否定することがで きない(そこでは株式会社は,大株主の支配を脱して,「株主総会」が立法機関に, 「取締 役」が行政機関に,「監査役」が司法機関に類似する)。もともと株式会社である以上,
株主総会という機関が存在する点では,先進諸国の株式会社法はもとより,後進諸国の株 式会社法において共通の現象である。しかし内部的な運用の面では,かなりの差異がある ことを注目しなければならない。本稿は,アジア諸国の株式会社法における株主総会の在 (1)
り方を比較法的に考察じたものにほかならない。
(1)あたかも,アメリカの企業が海外に進出して,「多国籍企業」(multinational enterprise)
となったように,日本の企業も,東南アジア諸地域に進出して,とくに現地法人の株式会社を設 興したり,現地の株式会社と合弁事業(loint venture)を営む必要性がいよいよ増大しつつあ る。そこで,このような現況のもとで,その国の株式会社組織がどうなっているのか,その基本 的な事項を認識することは,きわめて必要かつ重要なことである。
現時点において,アジア諸国の会社を研究した文献は,非常に少ないが,谷川久編「アジア諸国 の会社法」(アジア経済研究所刊)ならびに並木俊守著「太平洋諸国会社法入門」(大成出版社 刊)は注目に値する貴重な研究文献であり,本稿の執筆にさいしても,これらの研究文献を引用 させて頂いたことに謝意を表したい。
株主総会とは,会社の業務に関して会社の内部でその意思を決定し,または他の機関を (1) 。。。。.
監督する権限を有する株主からなる会社の機関である。また株主総会は会社の意思決定機 関である限りにおいて,取締役も株主総会の決定に拘束され,さらに取締役,監査役の任 免権をもつものであるから,会社の最高機関であることを認めなければならない。韓国の
会社法では,株主総会は日本法と同様に,会社の最高機関としてとらえられており,その 権限の行使を決議によって行なう意思決定機関であると理解されている。またインドネシ ア会社法の株主総会も,株主の共同により構成された最高機関であることが確認されてい て,取締役その他に委任されたものを除き,会社における最高の権限の行使が許されてい る。また株主の意思は,共同により総会の決議となってあらわれ,それが会社の意思とみ (2)
なされている。この点で株主総会の意思決定機関性であることが認められている。
り
(1)株主総会が,会社の機関として必要的機関であると解する点では,異論がないが,これが恒常
の の の り り り
的機関であるか,臨時的機関であるかについては,見解が対立している。株主総会を臨時的機関 であると解する説は,その活動形式としての会議に重点をおいてみている。けだし会議としての 株主総会は,定時または臨時に具体的に招集されて成立するものであるからである(鈴木「会社 法」117頁,石井「会社法」上巻226頁,服部「会社法原理」185頁)。これに対して,株主総会
り り り ゆ り
を恒常的機関であると解する説は,会社機関の存在形式の面に重点をおいている。けだし,株主 総会は会社に株主が存在する限り常に存在し,必要があればいつでも活動できるからである(大 隅「会社法論」中!0頁,田中誠「会社法詳論」上巻381頁)。230条の2は,機関としての総会を 意味し,231条ないし238条の総会は,会議としての総会を意味するものと解される。
(2)フィリピンの会社法でも,株主総会(shareholder smeeting)は、会社の所有者である株 主の総意を決定する機関であり,会社法および定款の定めるところにより,会社の基本的意思を 決定するものとして理解されている。谷川編「アジア諸国の会社法」200頁
従来の株主総会の権限はきわめて広範であって,強行法規または公序良俗に反しないか ぎり,一切の会社の業務に及び,その専属事項につき権限を有することはもちろん,取締 役または監査役の権限に属することについても,会社の意思を決定することに関する限り 権限を有したのである。そのことは,従来の株主総会が,株式会社の最高機関であって,
他の機関は,これに対し下位の機関であり,会社に関するすべての事項について,定款に 反しない限り,株主総会の決議に従わなければならなかったのである(株主総会の最高か
り り
つ万能機関性を「株主総会中心主義」という)。しかし,昭和25年の改正法は,株式投資 の大衆化にともなう株式の分散を原因とする企業の所有と経営の分離現象に対応して,会 社経営機構の合理化をはかるために,株主総会中心主義の態度を修正したのである。すな わち,株主総会の権限を「本法又ハ定款二定ムル事項」に限定して,それを大幅に縮小す るとともに,取締役会制度を採用して,これに会社の業務執行に関する一般的事項の決定 (1)
をゆだね,かつ業務の自己監査的機能をも,取締役会に;期待することとしたのである(株
り
式会社の経営が取締役会に集中することを「取締役会中心主義」という)。そこで現行法 (2)
の下では,株主総会の権限が商法または定款に定めた事項に限定されるから,(230条ノ2),
この事項に関する限りは,総会の決議が他の機関を拘束するが,それ以外の事項について は,他の機関は株主総会の決議によって拘束されるものではなく,この範囲においては,
株主総会の上位機関たる地位は失われたものといえよう。
株主総会の一考察
21
(1)韓国会社法の下でも,株主総会は,会社の意思決定の最高機関であるが,その権限は,商法及 び定款に定められた事項に制限されている(361条)。フィリピン会社法では,株主総会は,会 社法及び定款の定めに従い会社の基本的意思を決定することとなっている。さらに台湾の会社法 では,株主総会の権限が,会社法または定款によって,その決議を要する事項に限られている (202条)。ところが以上のような立法例と対臆的なのは,タイ国の会社法であろう。すなわち 株主総会の権限については,これを制限するなんらの規定もみかけない。株式会社は,株主総 会の支配のもとに,会社の規程に従って,取締役がこれを管理することになっているので(l144 条),株主総会は会社の最高の意思決定機関であり,法定決議事項に限らず,あらゆる事項を決 浸することができるものと考えられている(谷川編前掲151頁参照)。Every limited company
shall be managed by a director or directors under the control of the general meeting
of shareholders and according to the regulations of the company.§1144.(2)現行商法では,株主総会の権限が非常に縮小されたが,ただ定款に規定しさえずれば,いかな る事項でも決議できるので(定款による拡張),1937年の旧ドイツ株式法上の株主総会が,定款 をもってしても,取締役の請求がない限り,業務執行に関する議決権を有しえないのと異なる
(103条)。
株主総会は,株式会社最高の機関であるから,重要な事項は商法の規定で,その決定を 当然に株主総会の専属事項とし,他の機関に委任することを許さない。法定の専属事項の なかでとくに重要なものは,特別決議によらせ,そうでないものは,通常決議によらせる。
株主総会の法定専属事項は,このように重要な意味をもつものであるから,その決定を他 の機関または他の者に委任することは無効であって,これを定款で定めても無効であると 解されている。例えば経営協議会に専属事項の決定を委任することを定款で定めても無効 である。最近の判例によれば,取締役選任は,総会の決議のみによって決められるべきで あり,その効力を第三者の意思(知事の承諾)にかからしめるような定款の規定は無効で あると判断している(東京語判・昭和24・10・31・高裁民集2巻2号249頁)。
(1)特別決議を要する事項 (a)定款の変更(343条) (b)任意解散(405条) (c)合併
(408条3項) (d)株式譲渡制限を設ける定款の変更(348) (e)営業の全部または重要な 一部の譲渡(245条1項1号) lf)営業全部の賃貸・経営委任,他人と営業上の損益全部を 共通にする契約の締結・変更または解約(同条2号) (9)他の会社の営業全部の譲受(同 条3号) (h)取締役の競業取引の認許(264条2項) (i)取締役および監査役の解任(257 条2項・280条) 〔1)自己取引に関する責任免除の決議(266条5項) (k)事後設立,すなわ ち会社成立後脚年内に会社の成立前から存在する財産であって,営業のたあに継続使用 すべきもの(営業用資産)を,資本の20分野1以上にあたる対価をもって取得する契約
(246条) (1)第三者にとくに有利な発行価額をもってする新株の発行(280条の2・3項)
(1×2)
などである。
(2)通常決議で足りる事項 (a)取締役の選任(但し特則がある)および報酬の決定
(b濫査役の選任(同様に特則がある)。(c)計算書類の承認,利益または利息の配当 (d)清
算の承認などである。
(1)台湾会社法で定められた総会の専属事項としては,「会社の組織および営業の基本に関する事 項」として,曾)定款の変更(277条2項),(ロ)解散(316条1項),e→合併(3ユ6条1項),目営 業の譲渡,賃貸または譲受(185条1項)がある。第2に「役員の選任および解任(192条1項,
199条),(ロ)監査役の選任および解任(322条1項,323条1項),㈲検査役の選任(!73条3項)
がある。第3に,「株主の重要な利害に関する事項」として,ω計算書類の承認(230条1項),
(ロ)利益および利息の配当(240条1項),8準備金の資本組入(241条1項),目取締役の競業の 認許および介入権の行使(209条3項),困会社と取締役または監査役間の訴訟における代表の選 任(213条,225条),的取締役,監査役および清算入の報酬(196条,227条,325条1項),(ト)
清算終了の承認(331条1項)がある。タイ国の会社法でも,総会の専属事項として,以下のこ とを明示している。すなわち,定款の変更(l145条),取締役の数および報酬の決定(1150条),
取締役の競業の承認(1168条),貸借対照表の採択(1197条),配当の決定(1201条),監査役 の選任(1209条),監査役の報酬の決定(ユ210条),増資の決定(1220条),現物出資に対する 増資,新株の割当て(1221条),減資の決定(1224条),社債発行(1229条),解散(1238条),
合併(1238条),清算人の任命(1256条),清算入の解任(1257条),清算入が個別に行為する ことができることの決定(1262条),清算報告書の承認(1270条)がこれである。谷川編・前掲 64頁・152頁参照。
(2)定款をもってすれば,1なお取締役が決定しうる事項でも,たとえば新株の発行(280/12),
社債の発行(296),準備金の資本組入(293条ノ3)などを総会の権限とすることができる。〒た だ代表取締役の選任について,これを定款をもって,株主総会の権限とすることが許されるか否 かにつき,肯定説(鈴木一石井・「改正株式会社法解説」156頁)と否定説(大隅一大森・「逐 条改正会社法解説」266頁)とがあるが,多数説は前者に傾いている。
招集時期を標準として,株主総会を「定時総会」と「臨時総会」の二つとするのが各国 (1)
立法例の現状である。定時総会は毎年1回一定の時;期において招集されるものをいい,臨 時総会は必要に応じて臨時に招集するものをいうのである。この区別はもっぱら招集時期
の差異であり,性質の差異または権限の差異にもとつくものではない(通説)。しかし,
計算書類の承認は,定時総会の権限であることが二二されており(283条!項),この点で (2)
定時総会には,特有な権限があるといわれることがある。定時総会は,毎年1回定款の定 める一定の時期にこれを招集し,年2回以上利益を配当すべき会社においては,毎決算期 にこれを招集することを要するものとされている(234条)。・この場合に招集を決定する のは,取締役会(231条)であり,この執行にあたるのが代表取締役(261条)である(通 説・判例)。なお業務担当取締役を含める見解があることも注目すべきであろう(田中誠
・前掲398頁)。これに対して,臨時総会の招集を決定する者は,場合に応じて,取締 役会,清算人会,少数株主,または代表取締役である (231条,430条2項,237条,294 条)。しかし,294条,237条2項の場合には,いずれも取締役会の決議は不要であると解
株主総会の一考察 23
されている。なお,少数株主の利益保護の一手段として,六月前より引続き発行済株式の 総数の100分の3以上にあたる株式1を有する株主には,総会の招集請求権が認められて
(3)
いる(237条)。この株主のなかには,議決権なき株主は含まないと解するのが通説であ
る。
オーストラリア会社法における株主総会は,わが国の場合と若干異なり,{a)「法定創立 総会」(statutory general meeting),(b)「定時株主総会」(annual ordinary general meeting),(c)「臨時株主総会」(extraordinary general meeting),の三つがある。まず 第ユの法定創立総会は,会社の設立後最初に開かれる株主総会で,わが国の創立総会に相 当するものである。ただ異なるのは,わが国の創立総会が,会社設立前に開かれるのに対 して,法定創立総会は,会社が営業の許可を得た後,1ケ月以上3ケ月以内に開かなけれ ばならない点である(!35条)。この総会開催の目的は,設立された会社の営業状態や財 政状態,引き受けられた株式額など会社の運営が,軌道にのっているか否かについての詳 細を可及的に株主に開示させることにある。定時株主総会は,会社が毎年1回以上開かな ければならない総会であって,定時株主総会と次の定時株主総会との間隔は,15ケ月以内 でなければならない(136条)。この定時株主総会で審議すべき事項は,附属定款に規定 されるが,一般に計算書類,営業報告書,経営計画書,配当金の決定,取締役の選任など である。臨時株主総会は,取締役会が必要に応じて,臨時開催する株主総会であるが,議 決権を有する払込済資本のIO分の1以上をもつ株主の請求があれば,取締役会はただちに 臨時株主総会を開催しなければならない(!37条1項)。
(1)台湾の会社法によると,株主総会(股面会)には,毎年1回開かれる「定時株主総会」(股東 常会)と,必要のつど,随時開催される「臨時株主総会」(股東臨時会)とがある(170条1項)。
定時株主総会は原則として,営業年度終了後6ケ月内に開催されなければならない(170条2 項)。招集権者は取締役会となっている(!71条)。わが国とおなじく,少数株主にも総会招集 権が付与されているが(1年以上の期間にわたり,発行済株式総数の3パーセント以上の株式保 有者),監査役(監察人)にも総会招集権があたえられていることは非常な異色である(173条,
220条)。タイ国の会社法でも,「定時株主総会」 (ordinary meeting)と「臨時株主総会」
(extraordinary meeting)とを明文化するが(1171条),とくに特徴的なのは,会社が資本 金の半額以上の損失を被ったとき,取締役は,遅滞なく臨時株主総会を招集して,株主に対して 損失について報告しなければならない旨を定めていることであろう(1172条2項)。§1172豆.
They must without delay summon sllch meeting when the conユpany has lost half
the amount of its capita1, in order to inform the shareholders of such Ioss.また,
この国では総:会の招集権者が取締役会ではなく「取締役」(directors)となっていることを注 目すべきであろう。韓国の会社法でも,各国法とおなじく,株主総会に「定時総会」と「臨時総 会」とがあることを明示している(365条)。なお総会の招集権者は,日本法と同様に「取締役 会」にあることが一般の原則となっている(363条)。インドネシアの会社法では,定時総会,
臨時総会に関する明文を設けていない。総会の招集権者は,定款で定められることになっている が,通常は,「取締役」または「取締役会」とされるが,「コミサリス」(komisaris)にもあ たえられることがある。谷川編・前掲112頁参照。
(2)小町谷「イギリス会社法概説」201頁 定時総会と臨時総会とは,その権限にはなんらの差異 もないといわれているが,しかし株主の利益保護の観点からすれば,かなりの差異があるといえ よう。ただし,定時株主総会で計算書類の承認をはじめ,重役の選任,解任を通して,株主が自 己の権利を主張することができるからである。拙著「英米商事法概説」20頁
(3)少数株主による総会招集権の要件は,各国の立法ともまちまちである。韓国会社法では,発行
済株式総数の100分の5であることを要するが,6ケ月以上の継続株主であることを要しない
コ
(366条1項,2項)。台湾会社法では,1年以上の期間にわたり,発行済株式総数:の3パ口重 ント以上の株式を保有していることを要する(173条1項)。タイ国会社法では,会社の発行済
株式総数の5分の1以上をもつ株主であることを要求している(1ユ73条)。インド会社法では,
り り
オーストラリア会社法おなじく,株式の議決権を有する払込済資本の10パーセントをこえる株式 の保有者であることを要件としている(169条)。
株主総会は定款に別段の定めがある場合を除くほか,本店所在地またはこれに隣接する 地に招集することを要する(233)。これに隣…接する地とは,本店所在地に隣接する最小 行政区画の意味である。数個の地を定めることは差支えないが,しかし定款で取締役会の 選定する地と定めることは,233条の立法趣旨に反し,この定款規定は無効と解すべきで
あろう(田中誠・前掲404頁)。フィリピン会社法によると,各国法と同様に,総会は会 社の本店所在地で,またできるかぎり本店内で開催されなければならない(24条)。本店 所在地外の場所を開催地とした総会開催の通知は効力をもたない。ただし全株主が出席し .....。(1)
て開催された総会(全員出席総会)は,その開催場所が本店所在地外の場所であっても,
フィリピン国外でも,その総会は有効とされている(谷川編・前201頁)。また,インド ネシア会社法でも,総会は,会社所在地において開催されるのが原則であるが,もし全株 主が出席し承認したときは,会社所在地外でも開催することができる。しかしこの場合で も,フィリピン法と異なり,インドネシア国外での開催は認められていないことを注目す べきであろう。なおタイ国の会社法では,招集地,場所についての制限規定はみあたらな い。まず本店の所在地であれば問題はないと思われるが,著しく参集困難な場所などであ れば,決議取消請求の対象ともなりうることを考えるべきであろう(1195条)
(1)株主総会の招集権者による正規の招集手続を経ないで,株主全員が出席して開催された総会 を,「全員出席総会」といい,この場合でも株主総会は有効に成立すると解するのが多数説であ る。しかし,判例では,たとい株主の全員が出席したとしても,招集権者の招集によらない場合 は,単純な株主の会合にとどまり,株主総会とはいえず,この会合でなした決議は,会社の機関 としての決議とは認められないとする(大判昭和7・2・12民集11巻3号207頁)。
株主総会の一考察
25
招集には,会日から2週間前に,議決権のない株主を除き,他の株主に対しその通知を 発し,かつその通知書には,会議の目的たる事項を記載することを要する(232条1項,
2項,4項)。ここでいう2週間前どは,七日と通知発送の日との間に2週間,つまり
.... (1)
間2週間の意味である(大判昭和10・7・15民集14巻15号ユ401頁)。この場合には,232条 1項の明文により,発信主義であって,2週間前に発信すれば足り,その到達とするもの ではない(大判大正10・11・4民録27輯1898頁)。また,ここでの各株主とは,記名株 主であることはもちろんである(大判明治40・4・20民録!3輯571頁)。通知は,232条ユ 項および2項の趣旨から,書面をもってすることを要し,口頭の通知は,法令に反する手 続であると解されている(大阪高判昭和31・221下級民集7巻2号400頁)。無記名株式を 発行している場合は,議決権のない株主の場合を除き,会日から3週間前に総会を開くべ
き旨および会議の目的たる事項を公告することになっている(232条3項,4項)。「会議 の目的たる事項」の記載というのは,賛否を決するのに必要な一切の材料を記載すべきも のというのではなく,すくなくとも株主が議題内容を知り,その輪郭を明かにできる程度 のものであればよい。判例も,この点で解釈上ゆるやかな態度をとっている。たとえば会 議の目的たる事項とは,たんに総会の目的たる議事項目を称するとしたり(大判昭和2・
12・3新聞2777号7頁),現に表現されている文字を,他の事項もしくは同一書面中の記 載と照合して,その意味を推知しうべき場合ならば差支えない(大判昭和7・2・27野州 296頁)としている。まだ招集通知を発した場合でも,後日その招集を中止することは可 能である(東京地判昭和11・12・18新聞4102号19頁)。この場合には,招集撤回の通知を することが必要である。そのさいには,招集通知と同一の手続を経ることを要し,やはり 取締役会の決議にもとつかなければならない。この決議を経ない撤回通知は不適法であ
り,取消しうるものと解されている(田中誠・前掲405頁)。タイ国の会社法では,招集通 知は,会合の場所,日時,議案の性質を明記して,会期の7日前までに,すくなくとも2 回地方紙に掲載するか,または株主名簿上の株主に郵送しなければならないことになって いる(U75条)。地方紙への掲載による公告は,無記名株券を発行している場合には,かな
らず行なわれねばならないものと解されている。また郵送による通知は,多数の株主に対
り
する関係を,画一的に処理する必要性から発信主義を定めていることを特筆すべきであろ う(1245条)。また韓国の会社法は,ほとんどわが国と同じような規定をおいている。すな わち,取締役会が会日を決めると,その2週門前に,会議の目的とともに,議決権を有す る株主に通知する(363条1項,2項,4項)。さらに無記名株式が発行されている場合に は,会日の3週間前に,総会を開催する旨および会議の目的たる事項を公告しなければ ならないことになっている(363条3項)。さらに,台湾の会社法では,定時総会の招集 は,1ケ月前に各株主に通知し,無記名株主に対しては40日前に公告しなければならない
コ
(172条1項)。臨時総会の招集は,ユ5日前に各株主に通知し,無記名株主に対しては20 日前に公告しなければならない(172条2項)。通知および公告には,招集の事由を記載し
なければならないことになっていることは日本法と異なるところがないG72条3項)。た だ日本法とちがって,台湾の会社法の著しい特色とあるところは,第1に定時総会と臨時 総会とで招集通知,公告;期聞に差異を設けていることである。第2に,招集事由には動議 を加えることができるが,取締役および監査役の改選,定款の変更,会社の解散または合 併に関する事項は,動議として提出することができないことになっていることであろう
(172条4項)。
(1)インドネシア会社法では,つぎの3点に特色がある。(i)招集通知は通知日と開催日を払い て5日以上あること(間5日間),(ii)全株主に対する通知状または会社所在地の日刊新聞紙 による公告によって通知がなされること,(iii)通知には,議題が会社事務所で閲覧される旨の 記載がなされていることである。とくに最後の点は,株主保護の面から重視すべき立法措置とも いえよう。谷川編・前掲112頁なお,フィリピン会社法で特徴的といえるのは,株主総会開催の 日時と場所が,付属定款に定められているときは(定時株主総会),株主に対する招集通知の省 略が,許されていることであろう。もちろん臨時株主総会においては,かならず招集通知を発し なければならない。谷川編前掲201頁,並木山守・「太平洋諸国会社法入門」92頁
(2)株主総会で,一定の事項につき総会の決議をもとめる旨の株主の意思表示を「動議」という が,これには,決議事項の内容に関する動議と議事進行に関する動議とがある。わが国の現行 商法上でも,株主のために,招集通知記載の議題の範囲内にとどまるかぎりは,広く提出権(動 議提出権)が認められているが,この提案権は現実には,きわめて無力であることが指摘されて いる。けだし動議を提出しても,れの動議について審議するかどうかが総会にはかられ,まず例 外なしに否決されてしまうからである。しかし,この動議提出権は,企業の社会的責任との関連 で,その在り方を考えていくべきであろう。詳細は,河本一郎・「現代会社法」284頁
(1)
総会においては「延;期」または「続行」の決議をなすことができる(243条)。延期と は,総会の成立後議事に入らないで,会議を後日にもちこすことをいい,また続行とは,
議事に入った後,時間の不足その他の事由により,会議を一時中止して,後日引き続き再 開することをいう。これらの場合には,前の会議と後の会議とは,いずれも同一総会の 一部をなすものであって,後の会議のために招集手続を改めてとる必要はない(243条後 段)。延期の場合に注意を要するのは,総会の議長の宣言や招集権者の独断によって決め
り り
ることはできず,かならず普通決:議の方法により,延会の日時および場所を定めて行なわ なければならないことであろう。なお延会(継続会)のときに,2週間以上の期間をおく 場合には,243条後段の規定にかかわらず,招集手続を要するものと解されている(田中 誠・前掲406頁,大隅・前掲21頁)。
(1)学説上は,「延会」と「継続会」の語を使用する。台湾の会社法によると,総会が5日内の日 を開催日として,集会の延期または続行を決議したときは,招集の通知および公告に関する規定 (172条)を適用しないものとされている(182条)。この点は立法上注目に値しよう。タイ国の 会社法でも,延;期・続行の決議は,随時これを行なうことができる旨解されている。118ユ条が
株主総会の一考察 2ワ
「総会の同意を得て」延期することができると規定するのはこの趣旨であろう。§1181・The
c五airman may, with the consent of the meeting, adjourn any general mee士ing,…
株主総会の議事の方法については,商法に明文がなく,定款または総会の決議の定める ところによる。これがないときには,商慣習により,商慣習もないときは,会議運営の一 般慣行によるほかない。議事の進行は,総会の決議がない限り,議長の専権に属するもの
(1)
である。従って,議長(chairman)は,総会における議事運営の責任者で,総会に提出 された議案に対する質疑応答,動議の提出,討論および表決について,その進行をはか (2)
り,議場の整理を行なう者である。株主総会で,だれが議長になるかは定款で規定するの
(3)
が通常である。たとえば「議長には会長が当たり,会長に事故のあるときは,予め取締役 会の決議をもって定めた順序により,他の取締役がこれにあたる」としている。この点判 例によると,「会長に事故あるときは」とは,会長がみずからの意思によって出席しない 場合をも含むとすることを注意したい(高松地判昭和38・12・24下級民集ユ4巻12号2615 頁)。もしも上記のように,定款に規定がなければ,総会で選挙することになる。しかし 問題なのは,もしも総会の議長には社長がこれにあたると規定した場合に,社長が株主で あれば差支えないが,株主でないときには見解が対立する。有効説は,議長は議事を整理 するにすぎない者であるから,株主以外の者でもよいとする(大隅・前掲40頁,石井・前 掲258頁)。これに対して無効説は,株主総会は株主をもって組織する合議体であるか ら,議長はかならず株主でなければならない。従って,株主である社長が議長となると規 定しなければ無効であると主張する(大橋・「新会社法要説」58頁)。理論的には無効説 が正当であるといえよう。なお上記の定款の規定は,会社が招集する総会に関するもの で,少数株主の招集した総会には適用されないことを注意すべきであろう(判例・多数 説)。また,議案が,議長個人に特別利害関係のある場合でも,議決権を行使しない限 り,その地位を回避することを要しないといっているが(石井・前掲258頁),239条5項 の類推適用ないしもちろん解釈として,この場合には議長たりえないものと解すべきで あろう。さらに議長の議事運営が不当なときは,その決議は取消しの訴えの事由となろう
(247条)。株主総会の議長について,興味ある規定を設けているのは,タイ国の会社法で
り コ む
あろう。それによると,附随定款に別段の定めがなければ,取締役会議長(chairman of the board)が,議i長を司るものとし,取締役会議長が欠員の場合または取締役会議長が 株主総会の定刻後,15分を経過しても現われない場合は,出席株主は株主のユ人を議長に選 任できる旨を定めている(!177条・1180条)。また,オーストラリアの会社法では,株主 総会の議長は,通常取締役会の議長が行なうことになっている。議長には,定款に規定す ることによって,投票が可否同数の場合の決裁権(casting vote)を付与することが多
く,そのために,議長は自己固有の議決権と裁決権という二つの議決権を実質的に有する こととなるのである(谷川編・前掲346頁)。さらにインド会社法でも,若干議長に関す る規定をおいている。すなわち,総会を開催するに先だって,総会は議長を選任するが,
議長は附属定款に定めのない限り,出席した株主の互選によって選出される。この選出方 法は,一般の議決と同じく,挙手による場合と投票による場合とがある(175条2項・3 項)。議長は,総会の開催について,発言の制限から議決の手続に対し,広範な権限を有 するものであるが,裁決権については,附属定款に定めのないかぎり認あられていないこ
とを指摘したい。
(1)イギリス会社法によると,議長となる者は,通常附属定款に明示されているが,ほかに別段の 定めがないかぎり,取締役会の議長に選任された者が,総会の議長をつとめることになっている (付則A表55条)。しかし,もしも付属定款に議長となる者について,なんらの規定がなけれ ば,総会に出席した者のうちから,互選によって議長を選出することになる。議長の権限は,会 議規則を守り,出席株主の発言をもとめ,かつ決議事項の議決の結論をもとめるために,採決を とることにある。議長は,附属定款によって,あらかじめ権限が付与されていないかぎり,み だりに会議を終了させ,もしくは延会することの権i限を有しない。また議長が公正かつ公平に (fairly and impartially)行動し,総会での多数の意見を考慮しているかぎり,議事手続進 行中の軽微な蝦疵は,総会の決議に効力を及ぼさないものと解されている。詳細は,拙著「英米 商事法概説」22頁一23頁。なお,イギリスでは,次のような注目すべき判例もみられる。議長に職 務違背の行為があるときは,他の議長を選挙して,その会議を継続することもできる。National Dwellings Co.,v. Sykes,(1894)3ch.159.議長が会議のうえでなした決定は,正当なもの
と推定(prima facie)される。 Indian Zcedone Co.,In re(1884).26ch. D.70.また,
議長の投票に関する決定は,絶対的効力を有する。Wall v. London&Northern Assets Corporation(1898)2ch.469.
(2)可否同数のときは,議長の決するところによるという定款の規定については,有効説と無効説 とがある。前説は,このような規定は,一般的に会議体で認められており,会議体の原則と考え られるから有効であるとする。これに対して後説は,一株一議権iの原則(241条1項)に反する から無効であるとする。後者が通説であるといえよう(田中誠・前掲410頁)。フィリピン会社 法では,議長の裁決権(twice voting)は,理論上は認められるとされているが,証券取引委 員会はその方針により,このような事項を規定した附属定款を認可しないとのことである(谷川 編・前掲202頁)。タイ国の会社法でも,挙手・投票のいずれかの方法によるにかかわらず,賛
り
否同数の場合には,議長が裁決権を有することになっている。もちろんこれは普通決議について だけ適用されるのであって,特別決議の場合には適用されるものではないと考えられている。
§1193.Inthecaseofanequalityofvotes, whetheronashow ofhand orona
poU, the chaiman of the meeting shall be entitled to a second or a casting vote.
③ インドネシア会社法では,その15条で,総会の議長について明文をおいている。すなわちその ユ項で,定款に別段の定めがないかぎり,すべての株主総会の議長は,「社長」がこれにあた る。社長不在のときは,副社長,副社長の不在のときは取締役のうちの1人,取締役が1人も出 席しないときは,コミサリスのうちの1入,コミサリスが1人も出席しないときは,株主中から 互選された者がこれにあたると規している(谷川編・前掲125頁)。日本法の場合にも,通常は 定款で「取締役社長」がこれにあたる旨を規定している。しかし,この規定は,あくまでも取締
株主総会の一考察
29
役社長が,株主であるときにのみ有効に作用するものであって,もしもそうでないときは,定款 の定めによっても,取締役社長が議長なることはできない。ゆえに,より正確には「株主である 社長が議長となる」と記載すべきであろう。もちろん,この場合に,必然的に取締役会長に対し て,株主である資格を要求することになるので,254条1項違反を生じないかの疑問がでてくる が,しかしこれは,「取締役となるためには株主でなくてもよいが,その取締役社長が議長にな るためには,株主でなければならない」という意味であるから,差支えないと解されている。今 日のわが国の状態からすれば,株主である社長が,議長となる定款規定は無効であるといえない にしても,株主総会の機能を充分に果させようとする理想的要求からすれば適当ではなかろう。
詳細は,田中誠=並木・「株式会社法律実務」350頁
(1)
株主総会の議事については,議事録の作成が要求されている(244条1項)。議事録は,
たんなる決議録とは異なり,議事の経過の要領と決議の結果(賛否)とを記載した文書で ある(244条2項目。この議事録の作成義務者は,原則として議長と解釈されているが,も しも議長が作成しないときには,代表取締役が自らこれを作成しなければならない。しか し実務上は,業務担当取締役が作成することになろう。議事録は,正当に作成された場合 にも,一応の証拠力を有するにとどまり(証拠文書),反証をもってくつがえすことがで きる。また議事録の有無は,決議の効力に何らの関係をもつものではない。議事録の不記 載や不実記載については罰則の適用がある(498条1項19号)。株主総会の議事録は,公 示されることになっている。すなわち議事録は,代表取締役が,これを会社の本店および 支店に備えおかなければならない(263条1項)。新しく支店を設置したときは,新支店 設置以後の議事録だけでよい。また各支店に備えおくべき議事録は,謄本で足りるものと 解されている。このような議事録の設置は,あくまでも商法の基本理念である公示主義の 要請であって,株主および会社債権者は,会社の営業に支障をきたさない限り,営業時間 内であれば,いつでも議事録の閲覧または謄写を求めることができるのである (263条2 項)。株主が,この閲覧請求をするのには,正当な目的を有することが必要で(大判昭和 8・5・18商品347頁),その正当な目的の立証責任は,会社側にあることを注意すべき であろう(大判昭和10・5・3ユ商判136頁)。なお,議事録の署名者は,議長としての職 務をとった弱ならびに出席した取締役の全員である (244条2項)。議事の中途で議長の 交替があったときは,すべての議長,中途で退席または出席した取締役があった場合に は,その者も署名者となる。ただし総会で,取締役の改選がなされた場合に,新たに選任 された取締役の任期が,総会終結のときからはじまるときは,その者の署名は必要ではな く,旧取締役が署名者となる。監査役は署名する必要はないが,署名させても差支えな い。会社によっては,出席した株主の代表者数名に署名させているところもあるが,これ は議事録の真正を担保するためのものであって,その有効なことはもちろんである。ま た,ここでいう署名は,議事録の内容を確認するためのものであることはいうまでもな
い。
(1)各国の立法例はともに,総会の議事録の作成義務を命じている。タイ国の会社法では,議事録 を作成し,会社の登記された事務所(registered office)に保管しなければならない。また総 会の議長の署名のある議事録は,その内容に関する正しい証拠と推定される。その意味では,議 事録は証拠文書である。なお,株主は営業時間中いっでも,議事録を閲覧(inspection)する ことができることになっている(§1207)。 インドネシア会社法でも,議事録はたんなる決 議録ではなくて,総会の審議の経過および結果を議事録に記載することになっている。また,こ の署名者は,議長および総会に出席した株主中から指名された者1人が署名することになってい る。取締役の署名が外されていることを注意すべきであろう。もちろん,この議事録が,公証入 によって作成されたときは,署名は不要とされている。日本法と同じく,議事録は証拠文書で,
その内容は全株主に対する証拠となる旨を定めている。台湾の会社法も,その規定の仕方は,わ が国と殆んど同じであるが,ただ異なるところは,議長のみが署名捺印することになってい局こ と(208条3項),また総会終了後10日以内に各株主に送付しなければならないことになってい る点であろう(183条1項)。韓国会社法373条参照。
総会の決議方法には,「通常決議」及び「特別決議」の二方法がある。旧法に比較し て,株主の地位を強化するために,決議方法が強化されている。すなわち,通常(普通)
(1)(2)
決議は,旧法では定足数が,全く明示されていなかったが,25年の改正法で,原則的に定 足数をおき,定款に別段の定めのない限り,発行済み株式総数の過半数にあたる株式を有 する株主が出席し,その議決権iの過半数をもって決することにしている (239条ユ項)。
この場合の発行済み株式総数には,議決権のない株主の有する株式数は算入されないので
(240条1項),議i決権のない株式(242条)のほかに,自己株式(24ユ条2項),消却された 株式(212条1項但書,222条)を含まないことが,一般に認められているが,独占禁止法
などの関係で,議決権の行使が禁止されている株式も含まない。なお仮処分により,議決 権の行使が停止された株式の数は,定足数に算入すべきかどうか判例は分かれる(肯定・
東京地判昭和35・3・18下級民集113号106頁)。ところで,株主数が数万名に及ぶ大会社 の場合に,定足数の出席を得ることは,現実に困難であるので,大部分の会社は,定款に よって定足数を排除している状況にある。ただ例外的に,取締役または監査役の選任決議 については,定款によっても,定足数を発行済み株式総数の3分の1未満に下すことはで きないとしている(256条の2・280条)。これは取締役の権限が著しく増大したことに鑑 み,取締役の選任は,総会の通常決議中の最重要事項となったからである。また監査役に ついては,49年の改正法により,その権限が強化増大し,その選任が重要となったからで ある。次に,特別決議の方法も原則として強化されており,発行ずみ株式の総数の過半数
コ の ロ
にあたる株式を有する株主が出席し,その議決権の3分の2以上にあたる多数を以ってす るのであり(343条),旧法が出席株主の議決権の過半数をもって決するのに比べて,厳 重となっている。また旧法では定足数をえられなかったときは,「仮決議」の便法が認め
られていたが,25年の改正法では,これを否定した点でも,決議方法は強化されたのであ
株主総会の一考察 3隠
る。しかし定足数自体の面からこれを見ると,25年の改正法は旧法よりも,これを緩め て
り ロ
いるのであって,旧法上定足数の要件の一つであった総株主め半数以上という株主数の要 件を除去したのである。けだし,定足数の緩和は,戦後の株式分散化の現象に鑑みたもの である。特別決議の定足数は,通常決議の場合と全く同じであるが,ただ通常決議と違っ てこの定足数は,定款によっても絶対に軽減ないし排除できないことを注意すべきであろ う。もちろん定款の規定によって,定足数を加重することは差支えない。なお,総会の決 議方法の中には,特殊な事項について,とくに株主の総意を尊重する趣旨から,特別決議 に比較して,一層要件を加重しているものがある。これを「特殊決議」と呼んでいる。こ れには次のようなものがある。(i)取締役の競業認許の決議である(264条1項2項)。
(ii)自己取引による取締役の責任免除の決議である(266条5項)。(i)(ii)の場合は,
いすれも発行済み株式の総数の3分2以上の多数をもって決議要件としている。更に(iii)
として,株式譲渡制限の規定のための定款変更決議である(348条1項)。この場合に は,総株主の過半数で,発行済株式数の3分の2以上の多数で決議する。この決議におい ては,無議決株主(242条1項)も,例外として議決権をもつものである(348条2項)。
これは,譲渡制限の定めを設けることは,株主の投下資本回収の利益を害することに鑑 み,このような要件で可決されることが望ましいと考えられたからである。
(1)定足数は,決議の時点で必要なだけではなく,会議の成立時から決議までの間常にこの要件を 具備する必要がある(石井・前掲265頁,田中誠・前掲413頁)イギリス会社法では,定足数は開 会の時点に存在すればよいか,それとも決議の時点まで継続して存在することを必要とするかに ついて,明文がないが,有力な判例・学説では,前者を肯定していることを注目すべきであろ う。詳細は,拙著・「英米商事法概説」24頁。
(2)韓国会社法では,通常決議が一般に議決権iの過半数によりて成立し(368条1項),特別決議i .が,通常3分の2の多数によって成立する (434条)。台湾の会社法によると,通常決議は,発 行済株式総数の過半数にあたる株式を有する株主が出席し(定足数),出席株主の議決権の過半 数をもって決する(174条)。特別決議は発行済株式総数の3分の2以上にあたる株式を有する 株主が出席し(定足数),出席株主の議決権の過半数をもって決する (営業の譲渡・賃貸・譲 受,株式配当,準備金の資本組入,定款の変更,取締役の競業認許)。なお発行済株式総数の4 分の3以上にあたる株式を有する株主が出席し(定足数),出席株主の議決権の過半数の同意を 必要とする特殊決議もある(316条1項)。通常決議の定足数は,日本法と同じである。特に台 湾の会社法で眼をひくのは「仮決議」の制度を置いていることであろう(174条)。わが国の学 説でも,立法論として,一般の特別決議について,仮決議の制度の必要を論ずる見解がある(松 田一鈴木・「条虫株式会社法」548頁)。タイ国の会社法では,明文はないが,一般的には,出 席株主の単純多数決をもって行なわれる。しかし,特別決議の成立要件が諸外国の立法例と著し く異なる。すなわち,引き続き開催される2回の総会で,最初の総会では,議決権の4分の3の 多数決をもって可決した後,次の総会では,議決権め3分の2の多数をもって可決されることで ある(谷川編・前掲154頁)。 蟹
株主は,総会に出席して質疑討論するとともに,議案に対して賛否の意思を表示するこ とにより,総会の意思を決定できる。このように,株主が総会に出席して,その決議に加 わる権利を議決権という。議決権は,株主の有する共益権の中で,最も重要なものであっ て,取締役の選任及び解任が,株主総会の決議によって行なわれる結果,企業の支配権 は,議決権の帰趨によって定まり,株式会社の支配をあぐる闘争は,多く議決権を中心と
して展開される。各株主は,議決権iを有し,かつ1株について1個の議決権(1株1議決 権)を有するのが原則である(241条1項)。これは絶対的であって,定款の規定によっ ても,1株につき数個の議決権を認めたり(複数議決権i株もしくは議決権特権株),一定 数以上の株式を有する者の議決権iを制限することは許されない(議決権制限株)。従って 100株の株主は,もちろん100株の議決権を有するわけであり,議決権の数はその持株数に 正比例する。これは,株式会社にあっては,株主は資本的にのみ結合するものであるか
ら,議決権を頭数によらず,その出資の分量に正比例させるのが,最もふさわしいからで ある。もっとも,このような1株1議決の原則に対しては,それぞれの必要からいって,
例外が法定されていることを注意しなければならない。まず,積極的な例外として,株主 が1株について数個の議決権を有することがある。これは取締役選任の場合における累積 投票である(256条の3・256条の4)。このときには,株主は1株につき選任される取締 役の数と同数の議決権を有する。次に消極的な例外として,株主が株式について議決権を 有しない場合がある。これには,議決権のない株式(242条)と自己株式(241条2項)と があるが,なお,これ以外の株式でも,議案について特別利害関係のある株主は,その議 案に限って議決権が認められないことがある(239条5項)。これ以外に,定款の規定に (1)
よって,議決権を剥奪したり,制限したりすることは認められない。
(1)韓国会社法では,ユ株について1議i決権とする1株1議決権の原則を採用する (369条)。た だし決議により利害関係をもっている株主は,議決権を行使することができない(368条1項2 項4項。台湾の会社法でも,1株ユ議決権の原則を認めているが,ただ次のようなときには,議 決権の行使を制限している。α)1人の株主が,発行済株式総数のユ00分の3以上にあたる株式を 有するときは,定款でその議決権を制限しなければならないこと(179条1項),回会社は,そ の所有する自己株式について議決権を有しないこと(179条但書),囚会議の事項に,利害関係 を有する株主は,議決権を行使することができないこと(178条)である。しかし,とりわけ特 筆すべき立法例として,インドネシアの会社法がある。そこでは,大株主及び役員の議決権に制 限が置かれている。すなわち,商法53条では「1人の株主は,会社が100以上の株式からなると きは,6票,ユ00未満の株式からなるときは,3票以上の議決権iを行使することができない。取 締思及びコミサリスは,役員としては議決権を行使できない」と明示する。その立法理由の詳細 は,谷川編・前掲113頁。
議決権は,本来株主自身が総会に出席して行使すべきであるが,株式会社が資本的結合で あって,個々の株主の個性すなわちだれが株主であるかは問題ではないので,議決権も代
株主総会の一考察 33 (1)
理人によって行使することが許されている(239条3項本文)。この場合には,その代理 人は,代理権を証する書面を会社に差出すことを要する(239条3項但書)。このような 書面を「委任状」というが,もしも代理人が委任状を提出しないときは,会社は代理人に よる議決権の行使を拒むことができる。その代理権iの授与は,総会ごとになすことを要
し,1通の委任状により,数個の総会に関する包括的な代理権を与えることは許されない
(239条4項)。代理人は,1人置株主についてユ人であることを要し,会社は,株主が 2人以上の代理人を総会に出席させるのを拒むことができる(239条6項)。この規定は,
41年の商法改正法で設けられたものであるが,逆に多数の株主が同一人を代理人として議 決権を行使させることには,何らの制限もない。問題なのは,議決権代理行使の代理人の 資格であろう。通常は,定款の規定により,議決権行使の代理人は,当該会社の株主に限 る旨を定めている。同じ会社の株主中に,適当な代理人をみいだせない場合には,株主が 議決権を代理行使させる機会を奪うもので,このような定款規定は,239条3項に違反
し,無効であるという見解がある(田中誠・前掲420頁)。ところが多数説は,このよう な定款も有効であるとする(大隅・前掲工06頁)。最高裁判所も,この種の制限は,「株 主総会が,株主以外の第三者によって撹乱されることを防止し,会社の利益を保護する趣 旨にでたものと認められ,合理的な理由による相当程度の制限ということができる」 (最 判昭和43・ll・1民集22巻12号2402頁)として,有効と解する態度を表明している。ただ この種の定款規定は,代理すべき適当な株主が得られないときや,法人株主の使用人が法 人の議決権を行使するときには適用がないというべきであろう。また,代理行使をまった
く禁止するか,または著しく困難にする定款規定はもちろん無効である。
(1)議決権の代理行使は各国の立法例で確認されている。韓国会社法368条3項,タイ国会社法で も1183条。特に注目すべきは,台湾の会社法であろう。すなわち,株主は,各総会毎に,会社が 発行した委任状に,授権の範囲を記載して差出し,代理人に委任して総会に出席することができ る(177条1項)。また興味深いのは,信託事業を除き,1人が同時に2人以上の株主の委任を 受けたときは,その代理する議決権は,発行済株式総数の議決権の100分の3を越えることがで きず,これを越えた部分は,議決権に算入しないことにしている(177条2項)。このような規 定は日本法にみあたらない異色である。なお,ユ入の株主は,1通の委任状をもって,1人に委 任し,委任状を総会5日前に会社に送達しなければならないことにしているが,もし委任状に重 複があるときは,先着の委任状を委任者が取り消した場合を除き,最初に到着したものを基準と する(177条3項)。更に,タイ国の会社法によると,定款で,1定数以上の株式をもつもので なければ,議決権を行使できないことを定めた場合には,単独でそれだけの株式をもつことので きない株主は,他の株主と合同し,それら数人の株主のなかから,議決権を行使すべき代理人 を指名することによって,株主総会において議決権を行使することができる旨を明示している (1183)。並木・前掲159頁,谷川編・前掲62頁。