「言語要素」指導論序説
附属中学校 長 須 正 文
1 はじめに
国語科の研究に関する論文や研究発表会,授業研究などに接すると壷そ⑳テーマの大部分は現行指導要 領の国語科の構造による二側面四領による分け方である。
つまり・理解活動としての,聞く,読む,表現活動としての,話す,書く(作る)という領域別に研究 がすすめられている。この傾向は,国語科の本質に即した当然の成り行きではあるが,その研究の中で,
意外に思うことは,「漢字の読み書きができないので,読解技能や,内容の読み取りの指導まで進めない(」
「読書指導とか・作文指導とか言っても,文字の読み書き,語句の解釈もできない子どもたちだから,と ても読書らしい学習,作文らしい授業など考えられない。」などという発言が大変重大にのべられること であるo
このような発言・現実の悩みの訴えに見られるものは,国語科の指導は第一に文字や語句の指導で,こ れを征服,突破しなければ,その先の仕事は何もできないという考え方である。たしかに,文字や語句の 読み,書き,理解ができない子どもは,作文や読解の作業ができないと考えるのは当然であり,文字や語
■
蛯フ指導が国語教育にとって重要な要素を占めていることは確かである。
しかしながら,現実の国語教育研究においては,読解や,作文や読書などの領域の研究が大勢を占め,
文字,語句の指導についての研究は極めて粗末に扱われているという矛循が見られる。
そこで,私は,この小論に夢いて,いわゆる,二側面四領域のそれぞれに含まれており,その重要性が 叫ばれながら,比較的前向きに研究されることの少ない,文字や語句,あるいは文法などに視点を当て,
それらの指導方法や位置づけ,考え方などを明らかにし,その面の手ぬかりを防ぐ手がかりをつかむため の提言をしてみたかったわけである。
2 言語要素ということばの概念について
上記1の2側面4領域に含まれる,文字,語句,文法,発声,発音,表記号など,言語活動の一つ一つ の要素を言語要素という。神保格氏は,言語活動に対して「言語材料」とも述べている。
文 字 聞く
理解活動 鷹
、読む (読解読書)→
証 句
言語活動 口口
AP
話す ■il 表現活動 カ 法
■
目日ll
書く(作文,書写)→・ 表 記 ュ 音
目 発 声
1
など1
▽言語要素
3 言語要素指導の位置づけについて
例えば,次の私の指導案を見ていただきたい。
第1学年2組国語科学習指導案
指導者 長 須 正 文 1.研究主題
文学教材(小説)の鑑賞指導に齢いて,作品の主題をとらえ,場面の情景や人物の心情をより深く 読み味わう学習を成立させるために,第一次の感想をどのように取扱ったらよいかo
2.単元(題材)
主題と表現(1表現にそくして深く読む「少年の日の思い出」)
a 単元(題材)について
1 文学の鑑賞と生活文の作文とを複合させた単元である。主題を読み取る技能が,そのまま作文に 転移するという考え方は,少し無理があるが,理解と表現を融合,調和させる学習活動は効果を高 めると思うo
2 1年の文学鑑賞の系統としては,単元2「文学のおもしろさ」を受けるもので,単元2が文学の おもしろさを中心にして学習され,これが先行経験となって,さらに本単元で表現を深く味わうこ とに主眼が於かれている。一主題の読み取りは副次的に考える。
3 作品のジャンル上の特色として,単元2が詩と日本の小説であるのに対して,初めて外国文学が 採られている点,視野を広げるのに役立つ教材である。
4 「いちど犯した罪は償えないものだ」ということを中心に,好きなものへの異常な執念,ふとし た出来心が盗みという罪を診こさせるという事件を織り込んだ構成は,過去の回想,追憶という形 式とあいまって,中1時代の生徒たちの心を深くとらえる力をもった適切な内容の作品となっている。
4 生徒の実態
1 文学書への興味関心は除々に高まっているが,男子に比べて女子がよく,全体的にも差が著るし いo
2 筋・事件の澄もしろさに興味関心を示す度合いが強い割合いには,描与を味わったり,心情を深 く追求したりする面が欠けているように見うけられる。
3 自分の感想や意見を述べることに積極的・意欲的であるが,他人の話に耳を傾ける態度にやや甘 さがある。一小学生気分のぬけ切れない自己中心的な一面が見られる。一
4 アンダーライン,感想メモなどをすばやくする技能は比較的すぐれている。
5.目 標
1 小説を読んで,場面の情景や・人物の心情がよく描かれている表現を深く味わい主題をとらえさ せるo
(1)読みながら 。心を動かされたところ 。問題を感じたところ 。疑問に思った所に一を引 いたり「 」をつけたりすることができるo
(2)(1)の作業の発展として,ノートに感想メモを整理することができる。
(3)(2)をもとに,グループや全体で,自分の感想をまとめて話すことができる。
(4)ともだちの感想をきいて,自分の感想との相違,共通に気づくことができる。
(5)課題に即して,いっそうくわしく,深く作品を読み,解答をノートに整理することができる。
⑥読み取ったことをグループや全体で話し合い,いっそう深く確かな味わいができる。
(7)既習事項をふまえ,自分の考えを加えながら800字ていどの感想文が書ける。 , 2身辺の生活から題材を見つけ,主題の明磁8・。字ていどの作文繕けるように誕る。
(1)参考作品や解説文を読んで主題の明確な作文を書くことの意義や方法を知る。
(2)身辺の生活から価値ある題を見つけることができる。
(3)作文の計画を立てることができる。
(4)計画をふまえて主題の明確な作文を書く(叙述する)ことができる。
(5>相互推敲や自己推敲ができる。
⑥ ともだちの作品を主題の明確さという観点から批評することができる。
α 計 画(澄よそ16時間扱い)
第1次 学習のめあてと計画を立てる 1時間 第2次 「少年の日¢偲い出」の鑑賞をする 7時間
①通読しながら感じたところに を引く。
繋}②一部分について感想メモを取る・
③語句・漢字について話し合う。(予習した事項の確認と補足)
第3時体時) 感想メモをもとにした話し合いから,学習課題を設定する。
第4時 ①課題に即して,情景,心情をより深く味わう
〜 (発表→話し合い・→作文)
第7時 ②漢字・語句の理解を深める。
第3次 主題の明確な生活文を書く。 7時間 第4次単元のまとめ,ドリル,評価をする。 1時間
乳 本時の指導
① 目標 小説の鑑賞のひとつとして,場面の情景や人物の心情を表現に即して,いっそう深く 味わい,主題をとらえさせるために
①第一次感想を発表させて,その相違と共通に気ずかせる。
② 共通点を中心にして学習課題艦賞の観点)を設定する。
(2)準備・資料 ①教科書 ②ノート(感想メモ) ③分類カード
③展開
ね ら い 学習活動・内容(形態,自己評価,時間 問 い 指導上の留意点
。生徒自からめあ
トをもって自主 L黎蹴雛勢圏 。前の時間ではュいちがうた 。前時学習で不十分な点につい ト多少の指示をする。一問 的,主体的に取 き初読の感想を話し合う。 点を主にした 題となったところのほか,共
り組むかまえを 。勇レープ→全体で問題点を整理す が本時は,同 通点もたしかめることσ
つくる。 るo じ点もいちお・
。各自の感想 2ひとりひとりの初読の感想を出
し合い㌧
う確めてみよ。感じたこと,考えたことを自
(第一次読み取り) 共通点,相違点に気ずく。 グループ うo
由に話し合う中で,グループ について,表達 17分 。グループ単位 として自然にまとまってくる との共通,相違 ・司会1,記録1 の机間巡視に ものがあればよい。
をわからせる。 4人単位の生活グループそのまま よるo 。あらかじめ,きちんとした話
。どんな所(場面)に対して,どう ・主として, 題の観点は設定しないで,む
。共通と相違点に
@ついてグループ フ傾向を知らせ
思ったかという形で話し合う。
i:謝畿朧験紛 生徒の質問ノ答えるあ
驍「は話し合
しろ,いろいろ出された時点 ナ,さまざまな角度,視点が
?驍アとをわからせる方向を る。 視野の 。同じ場面に対して違った考えがあ いの方法の とりたい。
広がり) , ったら相違点,同じだったら共通 指示が中心 点とする。盗み,謝罪,つぶし,
母などの場面が予想される。
。いっそう広い立 3.各グループの代表の発表により,学 。各グループの 。叙述面から考えられる 場から,相違点, 級全体としての傾向(学習課題)を 代表はクレープ ・情景描写や心情の表現 共通点をわから とらえる 全 体 で話し合いし
せるo 25分 ことを発表し
が主になったもの B作者のもの見方・考え方
。共通したところ,相違 てくださいo を中心とした主題にかか
。全体としての学 したところについて発表する。 。澄互いに質問 わるもの
習課題を設ける。 。全体としての共通,相違の傾向を
はありませんか。,
。行動や事件から考えられつかむo 。次の時間から,
る
。今後の学習でいっそう深めたいと みんなでしら ・価値的なものなど ころを見つける。
髟荿?E主題をふう
ノQをつけてべていく課題ンようo
ウ共通の課題としていくもので
?驍ゥらできるだけ大きく 3
。中心語句を押える・ 。全体と個人の 〜5の数にしぼりたい。
をくらべて0、
。共通課題と個別 4.自分の感想メモと全体での話し合い ※をつけてみ 。共通の課題に含まれなかった の課題を分けさ の結果を比較する。 個 別 ようo 個々の問題については個別の
せ,学習の方向 3分 課題として,今後の学習にも
を明確にさせる 5本日学習の結果を整理し, 次時の学 生かしていく。
習の課題をたしか臨褐
(4)評価 ①第一次感想の発表と話し合いを通して,感想の相違と共通に気づいたか。
②共通点を中心に学習の課題が設定できたか。(いずれも観察による。)
以上の指導案で・言語要素に触れているところは,「少年の日の思い出」の第1時読みの時間で,漢字.
語句にっいて話し合う,第4時から第7時の4時間の「課題に即して,情景心情をより深く味わう」に関 連して,関連して,漢字・語句の理解を深める部分,第4次「単元のまとめ」のところで,ドリル,評価
となっているところの澄よそ三か所である。(本時の指導では「中心語句を押える」)
このほか・私の実践では・事前に,予習の自学自習として,漢字・語句しらべを課している。
これをまとめると,言語要素指導の位置は次のようになるわけである。
1・事前指導 予習として,漢字・語句をしらべそ澄くようにさせる。
2事中指導 授業の中で読解や作文の学習活動の中で関連して指導する。
①一読後に,新出漢字や難語句にっいてひとと詮り話し合う。一予習してきたことの たしかめでもある。
②読解や作文の過程で,文脈に即して理解を深める指導をする。
a事後指導一復習として・ドリル的に漢字の読み書きや,語句の理解の作業をさせる。また,自己 評価や教師の評価のためにテストをする。
このようにして・言語要素指導の位置づけはいわば,読解や作文や,聞く・話す活動に関連して指導す る場合と,取り立てて,つまり独立して指導する場合に分けられるのである。
4事前指導
国語科は生徒にとって他の教科にくらべて自学自習のしにくい教科である。生徒も,どのように勉強す ればいいのかとよく質問するし,父兄からも,家庭学のさせ方についてよく問いかけがある。一むしろ,
ある場合は,文章の読みなどは自習や予習がない方が効果のある場合もあるのである。しかし,一般的に いって,国語科も,ひとり学びや自学自習によって進められることが望ましいし,そういう態度や能力を 育てることを終極的にはめあてとしているのである。
そこで,私は,学年初めの教科のオリエンテーシ。ンにおいて,国語科の学習について次のような指示 をして,自学自習一国語科の学び方を指導している。
中学校の国語学習 茨大附属中学校第1学年(長須)
1. 目 標 (1)自主的・積極的な学習。 (2)計画的・継続的な学習。
(3)聞く・話す・読む・書く(作文・書写)に片寄りがない学習。
(4)調べる・読解する・読書をする・ノートに書くなどの作業を訟っくうがらずに学習。
a 学習の要領・内容
※教科書P2〜P12参照 特に太字に注意 a学習方法(約束)
一準備=予習 この自学自習が実力を左右する。備えあればうれいなし。
①通読して書いてあることのあらましをつかむ。
②新出漢字を調べる。(ノートへ書く)
漢字 部首 部首名 画数 音・訓 意 味 用 例 (熟語)
浮
シ
さんずい 7フう(く)
うかびあがること 浮力・浮沈・浮上部首を 音 かたかな 3つていど,反対語などもあると 除うたもの 訓 ひらがな よい。
送りがな( )
形
。辞典をおっくうがらずに用いる。
漢 。どうしてもわからないらんは空らんにしておいてあとでうめる。
字
読 意
み 味
( (
音 義 ③注意する語句を調べる。教科書のやくそくによってノートへ。
) )
④ 脚問・学習の手びきは先生の指示による。
⑤ 注はよく読んで覚える。
⑥ 予習終了の日を予告するのでその日までに終らせる。→先生の検閲あり。
a 授業=本習 授業をたいせつに,授業が勝負・全力集中
① 積極的に「話す」「聞く」「読む」「書く」(板書のほかわかったこと, 考えたこと,感じたこ ともノートへ)発表は大きな声ではきはきと,質問もどんどん。
②個別・グループ,全体などの学習の形を区別して。
③ 予習テスト(漢字の読み)復習テスト(漢字・語句・読解など)
a 整理=復習 もういちど確め,不備を補い,しっかり身につける。
表紙をつけ
①単元のま とめの作文(作文用紙で1枚ていど) 先生の指示した題による。・一・ノート整理
器灘や灘難認難悉撚1 (プリ擁酷込む)
この中で,私は,特に,漢字・語句のような言語要素の面について,自学自習を奨励して,その習慣化 に努めているのであるo
そこで,ある生徒の,新出漢字予習のノートの一ページを紹介すると次のようである。
X X X
漢字 部首 部首名 画数 音 ・ 訓 意 味 用 例
唐 まだれ 10
トウ
王朝名 唐詩 唐風 唐突帽 巾 はばへん 12 ボウ かぶりもの 帽子 制帽 学帽
綱 糸 いとへん 13 ツなコウ つな 大綱 要綱 綱領
琴 王 診う 12 キンアと 日本こだいの楽き,こと 琴線 風琴 一6一
漢字 部首 部首名 画数 音 ・ 訓 意 味 用 例
軒 車 くるま 10 ケンフき 家の,のき 1軒軒数軒別
、 ケイ
恵 心 こころ 10 工めぐ(む) めぐむ,めぐみ 恩恵 知恵 恵沢
訴 言 ごんべん 12 ソうった(える) うったえる 上訴 告訴 訴願
肝
月
つき 7 カンォも きも 肝油肝臓肝要紛 糸 いとへん
10
フンワぎ(れる) まぎれる 紛失 紛争 内紛X X X
これら生徒の自学自習一ひとり学び一のために,私の使用している教科書(光村図書)の「中等新 国語」では, 次のようなことを巻頭に掲げている。
この教科書で学習するために
1 「学習のおもな内容」によって,1年間の学習の目標や学習する事がらを確かめる。
2 単元名・目標や前書きによって,その単元での学習のねらいをはっきりつかむ。
3 「学習のてびき」「研究してみよう」「話して(書いて)みよう」によって,学習のしかたを考え る。(「学習のてびき」の中の○印のものは,読書のための手がかりとする。
4 「ことばの練習」や「作文の練習」によって,必要な技能を身につける。
5 漢字・語句は,次のことに注意して学習する・
①新出漢字
本文中に☆印で示し,教材末にまとめて,音訓と用例が示してある。なお,巻末の付録な50音訓 順に整理し,本文とは別の用例が示してある。
②注意する語句
印のないもの(ただし,本文中には*印で示す)・・…・調べたり考えたりして,意味を正しく理解 するo
一線…… 短文を作って,使い方に慣れる。
・ 印・…・・そのことばや文字で熟語を作る。
= 印・・・… 類義語を考える。
→印・・・… 対義語を考える。
〜一?c…語の組み立てを考える。
口ロー□□・・…・意味や使い方を比べる。
o o
禛香[□□・…・・。印の文字の使い方を比べる。
(読書単元〔第4・第11単元〕では,むずかしい語句に意味をつけて欄外に示した。)
③地名・人名・特別な語句など
本文中に①②等で示し,欄外に注が付けてある。
6 「ことばの窓」や「文法 π」によって,ことばについての知識を整理する。
この方法は,国語科の学習のし方として,生徒にわかりやすいやり方なので,私は,できるだけこれを 利用するようにさせている・とりわけ,5の「漢字・語句」については,診よそそのまま学習させること
にして効果をあげることにつとめているのである。
5 事中指導
(1)漢字指導について
漢字はその性質上,字形,字義,読み(音訓)の三側面をもっている。そこで,この三つの側面の どの一つをおとしても完全な漢字指導にならない。三側面を 形 それぞれ正しく兼備した力として習得させなければならない というのが,努力点の一つである。とりわけ漢字指導に齢い ては,字形や音訓の指導に手ぬかりがあって,子どもの書く 字に当て字が多くなるのである。もちろん,字形一その字 音 義 の構造,偏傍,冠も意字としての性質があり,読み,とく
に訓読みには意字としての特徴がはっきり出ているので,表 意文字として側面を重視しなければならない。
また,次の努力点としては,この三つの側面の手順と して
①音・訓一 ②意味一 ③字形
であることを基本的に押えている。
つまり覧
Cまず,正しく読み取らせること,そして,意床をとらえさせること,最後に字形を押えて,きちんと書けるところまでもっていくという手順である。これが逆になるとかなり無理があらわれて 効果が鈍るのである。
第三には,漢字指導は,語句指導と関連させて,文脈の中で正しい理解と応用化を図ることがのぞ ましい。単に,漠字一字だけをとり出して問題にしてもその定着度は低いものである。
中学2年生の教材に太宰 治氏の「走れメロス」という小説があり,その終りの方に,「『おまえ らの望みはかなったぞ。澄まえらは,わしの心に勝ったのだ。信実とは,決して空虚な妄想ではなか った。どうか,わしも仲間に入れてくれまいか。どうかわしの願いを聞き入れて,おまえらの仲間の ひとりにしてほしいo』
どっと,群衆の間に歓声が起こった。」
という,暴君ディオニスのことばがあるo この文章では,
信実
盤
妄想 群衆
鱒
などという漢字,語句が抵抗になるが,とにかく,はじめは「しんじつ」「くうきょ」「もうそう」
「ぐんしゅう」「かんせい」と正しく音声化させるζとがだいじである。そして次は,意味である。
「信実」というのは「真実」という同音の語句達どうちがうかと問い,考えさせるという方法がよい。
この場合,単に辞書的にない蓄いかえでなく,r走れメロス」というテーマから「人を信ずるという こと」を中心にこの語句をとらえさせることが望ましい。これが,文脈の読み深めと漢字・語句の関 連指導の要諦である。「信実」ということの存崔を知らなかった暴君ディオニスに対してメ回スとセ
リヌンテウスが「信実」の存する事実を見せてくれるごの小説のテーマそのものが,この「信実」と いう漢字・語句にっながっているのである。そしてg「信」という文字が,「人」の「言」(ことば)
という会意文字であることの指導もできれば最高の指導となろう。そしてさらには,「信頼」「信用」
などという語句へく応用化も図りたいところである。
また,「空虚」の場合「嘘」「嘘」などを引き合いに出して「むなしさ」という意味と同音異議文 字の指導もしたいところである。
「妄想」では,「想」と「相」のちがいに気づかぜる。「群衆」では「群」と「郡」のちがいをは っきり押えることが必要である。
また,「歓声」では,同じ文章中にある「喚声」と比較させて同音異義を明確にするのである。こ れは,理解と同時に表現にもつながることであるo
例えば,このようにして,読み深める作業,学習過程の中に,漢字指導を織りこんで,つまり,有 機的に関連指導として位置づける方法を実践している。
しかし,これを適切に行なうには,予め,漢学指導の計画が用意されていなければならないし,読 解の流れを中断し,読みの意識が中止してしまわないように留意しなければならない。とくに技術 要するところである・
(2)語句指導について
読みや,作文,聞く・話すの学習過程で行なう語句指導については,(1)の中で述べたことと基本に は一致する。
つまり
①漢字指導と一体的に指導する。
②予め計画化して詮く。
③読みや作文などの活動を中断しないようにする。むしろ,いっそう深めるように行なわれなけれ ばならない。
などである。
さらに,語句指導に澄いて大切なことは,
④文章中の語句の意床は,その文脈が決める。したがって,文脈の中で使われ方を理解しなければ ならない。 文脈中の語句を文脈から類推する力を育てたいところである。
⑤そして,語句は,そのほか
。見る・聞く。
。触れる。
。行動化する。
。比較する。
。換言する。
一9一
などを通して理解され,深められていくようにしたいのである。
4qどもたちにテストをしたり,授業中の問いにおいて,語句に抵抗があると思われる場合その原因 ヘ①漢字が読めない。
②辞書的意味がつかめない。
③文法力が足りない。
④文型や文の構造がつかめない。
⑤文脈の理解一類推一ができない。
などがあげられる。生徒ひとりひとりについて,あるいは生徒全体の傾向として,これらのつまつ きの要因をっきとめ分析して,そこから語句指導の方法がうち出されなければならないのである。
また,語句指導の定着化を図るには,頻度と反復ということを大切にしたい。これは,漢字や語句 を覚えさせる秘決でもある。つまり,教師の話しことば,一説明や問いかけの中でその語句を頻繁 に使うて見せることである。もちろん,板書にもくりかえして書いて見せることである。また,生徒 に対しては,ノートのぬき書き,要約や要点の整理の時に話させたり,書かせたりすることである。
何回もくりかえすということは,習得のもつとも手近かな方法で,機械的なテストやドリルよりも効 果があがるものである。教師はそういう基本を意識としてもっていて授業に生かすようにしなければ
ならない。
(3)文法指導について ,
文章の理解や表現の過程や,聞く・話す過程において文法指導をすることを機能的扱いと言い,そ の文法体系を機能文法という。作文や話しことばの理解や表現に生きてはたらくということである。
単に文法体系を知識的に理解し記憶してよしとした戦前の文法教育に対する大きな反省と批判に応え る方向がそれである。
しかし,この方法とても最高ではない。そもそも,文法というのは体系的なものであるから,いっ かは,体系として,知識として整理したものをもたせる必要がある。が,読み方や,作文や,聞く,
話す活動に生きて働く文法力を第一とする点では私の考えは変りはない。国語の指導要領において,
言語活動をA項とし,文法をD項として「ことばに関する事項」と呼んでいるのは,機能文法の考え,
方を形の上で示したものであって,全く同感なのである。
それにしても,文法事項のすべてを機能的に,普断の国語学習の中で扱えるかというとそうではな く,特に,品詞論のうち用言の活用などはどうしても扱うには不十分で,品詞の転成ていどに終わっ てしまうo
しかし,次のようなものは,日常の言語活動を押えた指導が最もよいのである。
。主語と述語の照応。
。修飾語と被修飾語の関係。
。指示する語,接続する語の内容。
。表現意図と文末表現。
。文と文,段落と段落の連接関係と文章の構成。
。品詞の転成。
・語句の構成。 、
一10一
・表記の種類とはたらきo
。発声・発音。
。方言と共通語 ρ
。敬語のつかい方。
。助詞,助動詞の働き。
これらの一つ一つの学習のさせ方について具体例を挙げる余裕がないのが残念であるが,ねらいは,
文法指導は副次的で読解や作文や聞く・話す活動がより効果的になることであることを忘れてはなら ないo
また,文学的文章にくらべて説明的文章の読み書きの方に関連の度合は深いことをつけ加えておく。
特に,接続語や指示語,文の成分の照応などの文法事項なしに,説明的文章の論理的展開を押えるこ とは困難なことである。
6事後指導
事後指導のねらいは,言語要素の定着と応用化を図ることである。
したがって,方法としては,ドリルによる反復と練習。また,まとまった教材を利用しての取り立て 指導であり,さらには,発展として自由研究などである。
私は,漢字や語句の練習を単元の終りの一時間に当てている。私が,口頭で漢字や語句を読みあげて ノートに書き,その後,生徒同志での相互評価,教師による採点,あるいは模範解答を見て生徒の自己 評価などをさせている。また,印刷物を与えて解答させている。
その例・
※ 次の空らんにあてはまることばを書きなさい。すでにはいっているものを例としてo
漢字 部首 部首名 残りの
諱@数 音読み 訓読み 意 味 用 例
杯 ① ② ③ 画 ④ ⑤ ①酒をのむ容器
Q容器で量るときの名 臨 ⑥
抗 ⑦ てへん 4 画 8 ⑨ 購
惜
㌦
ノ ⑪ ⑫ 画 ⑬ 齢(uハ) ⑭ ⑮ 惜別趣 ⑯ ⑰ ⑬ 画 シュ ⑲ ①心の向くところ
Aけしき,ようす 趣旨
⑳
また言語要素を取り立て指導の教材の活用も重視して扱っている。
最近の国語科教科書は,漢字,語句,文法などの言語要素の指導について,ひとまとまのの取り立て 指導を重視して,例えば,光村の中等新国語では,文法の学習←),⇔,aことばの窓(1),(2),(3),(4)
などのような教材を置いてあるので,その点からは充実した指導ができるようになっている。
また,説明文教材とだき合わせで,その文章の内容が,言語要素の指導そのものになっているものも あるo
一11一
くことばの窓〉の系統
区 分 1 年 2 年 3 年 1.音韻 (1)音声と文字
文 字 (2)漢字の組み立て (3)漢字の音と訓 (4)国語の表記
a語 句 (1)漢語と和語 (2)語句の組み立て ③漢語の働き aことば ①国語辞典と@漢和辞典
(2)方言と共通語
G敬 語
(4)話しことばと
@書きことば
これを内容的に整理して表にしたものが・次の一覧表である。
(1)音声と文字 音節と単音 音節の種類 音節とかな
(1年P156) 発音と文字
(2)漢字の組み立て
く1年P303) 1.象形 2指事 a会意 4形声
1
(3)漢字の音と訓 1 漢字の伝来 2 音と訓 3 いろいろな音訓
(2年P287) 4 当用漢字音訓表
④国語の表記 1 国語の表記法 2 漢字を使う範囲
(3年P287) 3 かな書きの範囲
(1)漢語と和語
(1年P213) 1 漢語(字音語) 2 和語(やまとことば)
㌦i2)語句の組み立て 1単純語と複合語 2 複合語のでき方
2 (2年P76) 3 語と語の結び付き方 4 接頭語と接尾語 5 慣用句
③漢語の働き 1 一字の漢語の働き 2 二字の漢語の働き
(3年P149) 3 漢語の複合と省略
① 国語辞典と漢和辞典 ・国語辞典の利用と注意
(1年P20) ・漢和辞典の利用と注意
(2)方言と共通語
(2年P31) 1 方言 2 共通語 3 方言と共通語 3 (3)敬 語 1 丁寧の敬語 2 尊敬の敬語 3 謙譲の敬語
(2年P151) 4 敬語を使う場合の注意
一 役割の違い こ ことばの形の違い
④話しことばと書きことば
(3年P40) 1・文の組み立て a文の長さ・文の成分 a語の種類 4声の特徴・抑揚
さらに,教科書中の第5単元には,ことばを考えさせるための中心教材を3か年を通して取り上げ ているo
P2一
〈ことばの中心教材〉
1 年 £ 年 3 年
。生活とことば 。ことばと思考 。ことばの力
単元5 (1)ことばの意味 (1)文体について
・ことばの感覚
(2)正しく考えるために ②目本語の特質
右の2者は,語句指導の体系化を図り,指導計画を立てるとき,適当な位置づけを考究しなければなら ないo
7 まとめ
国語科指導にとって「言語要素」なるものは,言ってみれば,二側面四領域の本質に即レた指導からす れば,手段であり,要素にすぎないものである。しかし,この,手段や要素は考えようによっては目的そ のものでもあるのである。国語科の教師や,文字や,語句や文法を教えなかったら,他のだれが教えてく れるであろうか。かって,国語科は用具教科,道具教科と言われた。今でもそういう一面をもっている教 科であるならば,言語要素の手段,要素は目的そのものともなるのである。
このように考えてくると,全く訟うそかにすることの許されないこの言語要素をもっと重視しなければ ならない。読解や読書や,作文などの領域のはなぱなしさにくらべて見劣りのする一しかも子どもたち にとってもあまり興味のないこれらの要素をもっと大事にしなければ,国語科の本来の使命を十分全うす ることはできないのではないか そういう自己反省もこめてこの小論をまとめたつもりである。そして,
これは,ささやかではあるが,私の実践の一端でもある。
それにしても,これら「言語要素」指導をめぐる問題としては,またまだ残された課題は多いのである。
①語句指導の場合,単に教科書の語句をわからせるというだけではなく,広く子どもたち言語環境をと りまく言語生活において,生活語から文化語への拡充の問題がとりあげられよう。
②また,漢字については,小学校は各学年に配当漢字ができているが,中学校にはまだない。もちろん,
語句については,小学校からしてできていない。これらについて,学習基本語句の選定と学年配当という 仕事が,国家的な宿題として残っている。現場の吾々も実践を通して協力し,ぜひ実現したいところであ
るo
③国語政策に関して,国語審議会,文部省,文化庁に,その基本理念や一貫性を望みたい。現場の国語 教師として,朝令暮改的な政策の転換は,言語要素指導ばかりでなく,国語教育全体にとってもまったく 迷惑なことなのである◎特に,音訓や送りがなでは困ることが多い。
④また,小学校でローマ字教育が退潮したことは,文法指導などにとって好ましいことではない。一段 と重視を望みたい。
⑤さらに,小学校のかたかな指導の不充分・不徹底さは,漢字学習に非効率を招いている。漢字を構成 している要素にかたかなの める大きさを考えるとき,かたかな先習論を唱える者ではないが,!」蝉校2 年生での指導の徹底化を図りたい。
⑥言語要素指導に研究に当っ ,そのほかなすべきこととして,
。子どものつまづきの傾向や言語要素の実態の調査とその把握・
。子どもひとりひとりの記録,評価。
。教師の言語環境の充実(文字や,話し方聞き方)
・辞書,参考書の充実。
。語句ノート,漢字ノート,文法ノートなどの研究。
・教育機器や視聴覚材指導具の整備と充実。
などが挙げられるのである。
※参考文献
。国語教育事典 明治図書
。国語教育用語事典
輿水 実編 明治図書
。中等新国語総説編
石森延男編 光村図書出版株式会社
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