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理科教育における観察の機能に関する 実験的研究(第13報)
一一 獅゚がねによる像の変化の観察の場合一
自然科学鮪研究室 高 野 恒 雄
§1.研究の意味
§2.調 査 方 法
(1)調 査対 象
②観察 問 題
⑧ 採 点 基 準
§3.調査結果と考察
(1)観察記録の実例
②観察得 点
(3)各観察点の観察率
㈲ 学業成績,知能,他の観察得点との相関
§4.結 論
§1. 研究の意味
前報までに,筆者は物理,化学的現象および生物事象についての観察問題を作製し,こ れを児童,生徒,学生に与え,その結果得られた観察記録を予めつくってある採点基準に
よって評価,分析し,観察力の実態と観察力養成上有効な指導法を,次第に明らかにして (1)
ォた。特に前第12報の「振り子の実験における観察機能の分析」においては,法則性の比 較的強い物理的現象の観察における持ちようを明らかにしようとの意図のもとに,調査し 分析してみた。
そこで本報においては,前報に引続いて,ある程度同じような性格をもっている別種の 観察問題を作製し,調査を進めてみたのである。すなわち,虫めがねによって新聞活字を みると,その像は目,虫めがね,実体(新聞紙)の位置関係のいかんによって,いろいろ と微妙な変化を示すが,この像の姿の変化の過程をたんねんに順序正しく観察して,記録 するよう,被検者に求めて調査を行なったわけである。その結果,これまでにあつかって
きた観察問題に比ぺてかなり異なった性格をもつこの観察について,いくつかの結論がひ
き出されたQ
136 茨城大学教育学部紀要第十一号
§2.調 査 方 法
(1)調査 対 象
茨城県西茨城郡岩間町立岩間第一小学校,4年生47名,6年生49名,計96名。別種の観 察との相関をみるために,第11および12報における被検者と1司じ児童にしてある。
②観 察 問 題
虫めがねによってみる新聞活字の像が,目,虫めがね,新聞紙の位置関係の移行にとも なって変化する過程を観察させるわけであるが,大体つぎのような意味の説明を与えた。
「まず片手に新聞紙をもち,その腕を伸ばし,もう一方の手に虫めがねをもち,目のと ころにほとんど接触させる。つぎに活字の印刷してある新聞紙をよく観察しながら,次第 に虫めがねを目から離して新聞紙の方に動かしていくと,虫めがねを通してみえる新聞紙 が,いろいろな姿に変化してみえてくる。虫めがねを目から新聞紙まで動かしていく間に みられるその変化を,できるだけくわしく観察して記録してほしい。」
この場合用いた虫めがねは,ごくふつうのもので,一枚のものであり,焦点距離は約9 cmである。新聞紙片はラジオ,テレビ番組欄から,大体縦8cm,横4cm程度に漢字,カ タカナ,ひらがな,数字,記号,境界線などを適当に含むように切り取ったものである。
また説明の中にあるように被検者は,片腕を伸ばした状態で,手と目の距離の間で虫め がねを移動して観察するのであるが,その距離はもちろん個人差をともなうが,約50cm 内外から以上となる。この場合距離が大きくなるのは観察に差し支えなく,小さいときで
もある程度までは像の変化の観察に影響しないといえる。
それから,上述の観察の仕方と反対に,まず虫めがねを新聞紙に接触させておいて,次 第に離していって最後に目に至るという過程を踏むこともできるのであるが,このやり方
はふつう生物や鉱物などを虫めがねで観察するときみられる明確な像の場面が始めの頃あ らわれ,つぎに次第に像がぼやけてくるという順序になる。すなわち,明確な像からぼや けた像への変化は,観察しやすい明確な像をみた目で,むずかしいほやけた像の観察に移 ることになり,微妙な像の変化を把握しにくくなるのである。これに対し上述の説明のよ うに虫めがねを目から新聞紙へと移動させる場合には,初めにぼやけた像の観察をするこ とになり,何とか観察しようとする懸命な態度が後まで持続するようになるわけである。
以上の理由から,虫めがねの移動の仕方を,目から新聞紙へという一方向に限定した。な お時間は40分である。
(3)採点 基準
虫めがねによる像の変化の観察を,与えられた条件において徹底して行なったら,いか
4
高野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第13報) 137
なる観察点が見出されるかを,筆者らの観察によって,つぎのように決定した。まず見出 しうる観察点の各々の要点を表に示すと,第1表のようになる。
第1表によって,各観察点は大体 第1表
要約されているが,各観察点につい 虫めがねによる像の変化の観察点 てさらに補足するとつぎのようにな 番号 観 察 点
る。
一1 鷲解親薙論難讐餐簸聯
観察点1:まず初めに虫めがねを
写一 目から少し離すと,ぼんやりした活字の正立 オた像が拡大する。
目にほとんど接触させると,視野全 3 さらに離すと,活字の像は全くみえなくなる。
体がぼんやりとはしているが,新聞
一4 今度は,ぼんやりはしているが,拡大された
│立の活字の像が,かすかにみえてくる。
紙全体の形と活字の大体の姿が,ふ 5
その倒立した像が縮小して,はっきり認めら 黷驕B
6 倒立の像は再び拡大するが,やはりはっきり オている。
一一
7 つぎには,3と同じように全くみえなくなる。
さに正立してみえる。
マ 今度は,拡大された正立の像が,はっきりみ 観察点2:虫めがねを目から少し 一闇 ヲる。
X 虫めがねが,紙に近ずくにしたがって,正立 オた像は縮小する。
離して新聞紙に僅かに接近させる
10 紙に接触すると,実物大の正立した活字がみ と,依然としてぼんやりはしている ヲる。
が,正立した活字の像が,虫めがねの動きに応じて次第に拡大する。
観察点3:虫めがねをさらに移動し目から離すと,活字の像がますます拡大して,遂に は活字の像はもちろん,視野一面がぼんやりとし,何もみえなくなってしまう。
観察点4:さらに移動すると,今度はぼんやりとはしているが,倒立した活字の像が,
拡大された姿でかすかにみえてくる。
観察点5:つぎに,この倒立した像は次第に縮小し,それにともなって非常に明確な像 に変化する。
観察点6:縮小された明確な像は,その明確さを失わずに再び拡大し,はっきりと大き いさかさの活字がみられる。
観察点7:ここで,観察点3と同じように,もう一度視野一面がぼんやりして,何もみ えなくなる。
観察点8: 今度は正立の像が,明確に拡大されてみえる。つまりこの位置で,ふつうわ れわれは生物や鉱物などを拡大された像として観察しているわけであり,虫めがねの使用 ρ
フ典型的な場面である。
観察点9:,さらに虫めがねを新聞紙に近ずければ,もちろんこの正立した像は明確な姿 で,次第に縮小する。
観察点10:虫めがねを完全に新聞紙に接触させてしまえば・ふつうの平らなガラス板を
138 茨城大学教育学部紀要 第幸一号
通して物をみるのと大差はなくなるので,ほとんど実物大の正立した活字が明確にみえ
る。
これらの各観察点をより簡潔に整理してみると,第2表のようになる。
第2表 以上で,この観察において見出しうる観察
要約した観察点内容 点の数は10となるが,実際に被検者の観察記
縣点隊の鯛度 像の大き覇立・讐
録を評価する場合には,一つの観察点を見出
1 ぼんやり 実物大 正 立 し記録することができた場合,これまでと同
2 ぼんやり 拡 大 正 立
様これを仮に1点とすると,各被検者のこの
3 一 一 一 観察において見出すことができた観察点の数
4 ぼんやり 拡 大 倒 立
を,観察得点の形であらわすことができるわ
5 はっきり 4より縮小 倒 立
けである。またこの観察はかなり微妙なとこ
6 はっきり 拡 大 倒 立
ろを合んでいるので,各観察点を前記のよう
7 一
1
な表現で記録しなくても,実質的にその観察
8 はっきり 拡 大 正 立
点を認めているとはっきり判断できるときに
9 はっきり 8より縮小 正 立
はこれを得点に入れ,表現力によるファクタ
10 はっきり 実物大 正 立
一をできるだけ除くようにしたのであるQ
§3.調査結果と考察
ω観察記録の実例
虫めがねによる像の変化の観察において,被検者はどのような観察をしているかを個別 的にみるために,実際の観察記録をあげてみる。4年生,6年生各1名のものである。
まず4年生の女子児童のものをあげる。視力は左右ともに0.9であり,学業成績は5段 階法で全教科,理科ともに3である。
「(1)虫めがねを目につけて,少しずつはなしたら,ぼやけて,だんだん大きく字がみえた。
② もっと虫めがねを目からはなしてみると,まるで汽車が前に走ってくるようだ。目がまわるよ うで字が少しも書いてないようだ。
⑧ ぼんやりと水のあわがたっているみたいに,字がさかさになって,大きくみえる。そして,だ んだん,小さくなった。
(4)紙から10cmぐらいのところまで,虫めがねをもっていくと,はっきりと字が大きく,まっす ぐみえた。紙に近ずけると,だんだん小さくみえるようになる。
⑤紙と虫めがねをくっつけてみると,紙に書いてある字と同じ大きさだ。
㈲ 虫めがねを5〜6回まわしてみると,紙も虫めがねのあとについてきて,とまらせてみると紙 もやはりとまる。
(7)虫めがねを動かさないで,紙を動かしてみると,字がえいごでかいてあるようにみえる。
高野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第13報) 139
⑧紙をうしろの方に動かしてみると,紙が目の前にくるようだ。」
この観察記録は,4年生にしてはなかなか要領よく観察点をとらえている。(2)で「まる で汽車が前に走ってくるようだ。」とあるのは,像が拡大していく過程を表現しているの だが,実感がよく出ているQ(3)で「ぼんやりと水のあわがたっているみたいに」とあるの
も視野…面何もみえない観察点3のつぎに,さかさの像があらわれてくるところを,かな り巧みに表現している。(6)の記録は自発的に虫めがねを回転させてみたときの現象である が,このような特殊な操作はもちろん要求すべきものではなく,例外とみてよいから,観 察得点には合まれないことになる。(7)と(8)も同様に自発的に,こちらの要求以外の変った 操作をやってみたものであり,興味はもてるが,観察得点からは除外したのである。この 記録を採点基準によって採点すると,観察点2,3,4,5,8,9,10を見出している ことになり,観察得点は7となる。最高の部には入らないが,上の部に入るかなりまとま
りのある観察記録といえよう。 叱
つぎは6年生の女子児童のものをあげる。視力は左右ともに1.5であり,学業成績は全 教科,理科ともに4である。
「(1)まずはじめに,目の高さに紙を上げ,もう一方の手で虫めがねを,目にぴったりつけた。する と,だいたいもとと同じ大きさの長方形の紙がみえ,字も小さくみえる。紙のはしの方がぼんや りと二重にも三重にもかさなって,%の一つは黒くみえ,疹のもう一つの方は白くぼんやりして いる。
②つぎに目から虫めがねを3cmぐらいはなしたところ,紙が前より大きくみえてきた。
(3)それから,目から10cmぐらいはなしたら,もっと大きくみえ,とうとうどれがどれだか,け んとうもつかないほど,ぼんやりしてしまった。つぎに15cmぐらいはなしたら,紙の色がき色 やねずみ色にもみえてきた。少しはなすと,自分の顔が虫めがねにうつってみえた。
(4)つぎに25cmぐらいはなすと,草のあつまりみたいに,小さい字がさかさにみえる。もっとは なすと,また何もみえなくなってしまった。
(5)30cmぐらいはなすと,このぐらいの大きさの字になった。一年生の国語の本の字の大きさよ り大きいくらいだ。
⑥ それからは,ひとまわり小さくなってきた。紙の白い部分が,ざらざらしているのが,よくみ
える。
(7)虫めがねを紙にくっつけたら,はっきりと字が同じ大きさにみえた。」
この観察記録においても,観察する目の角度がなかなか鋭い。(1)の後半で「紙の%の一
つは黒くみえ,%のもう一つの方は白くぼんやりしている。」というのは,おそらく虫め
がねが新聞紙に平行になっていないので,角度の関係でぼんやりとみえ,半分ずつちがっ
ているように感じられたものと思われる。(3)の後半で「紙の色がき色やねずみ色にもみえ
てきた。」とあるのも,やはり虫めがねが平行になっていないときに特にみられる色の状
態をさしているわけである。また「自分の顔が虫めがねにうつってみえた。」という記録
140 茨城大学教育学部紀要第十一号
は,虫めがねのガラスの表面における鏡の作用をのべているものであるが,かなり多くの 被検者にみられる記録である。以上の点はいずれも特殊な場合の観察になるので,もちろ ん観察得点には入らない。㈲で「このぐらいの大きさの字」とあるのは,その文章の近く に約7㎜四方の四角形が図示してあるからである。また記録中に,虫めがねの目からの巨 離がcm単位で数箇所に書かれてあるが,これはおよその目測によるもので,もちろん信 用できる値ではない。この記録を採点基準によって採点すると,観察点1,2,3,5,
7,8,9,10を見出していることになり,観察得点は8となる。Lの部に入る観察記録 であるQ
② 観 察 得 点
虫めがねによる像の変化の観察における,観察得点と人数との関係を図示すると,図の ようになる。
この図から,4年生 30
。一一…− S年生 の場合の人数の山は得
@ 人点5にあり,6年生の
/へ 6与生 ,●ρ 、ド 、
場合の山は儲6にあ 数 20 驍アとがわかる。4年 (
@ z生の最高得点は9,最 ) 0
癈セ点は2であり,6
, 、
年生の最高は10,最低
@ 、 A C @ 、 、、 、は3である。全体的に ゜・ , Z 3 4 , 6 7 8 9ρ
@ 観察得果
もちろん6年生の方が
山が右にずれており,観察得点の高い者が多いが,この場合の持ちようとして,山の形が 6年生と4年生とでよく似ていることがあげられる。
つぎに被検者の平均観察得点を求めてみると第3表のようになる。
第3表 この表から,男女全体としては,4年生の平均観 平均観察得点 察得点は4.62,6年生は5.65であって,比率はあ
\ 1\
?年生 6年生じ㌦ まり高くなく1.22倍であることがわかる。ここで
男 i 4.36 4.80 1.10 注目させられることは4年生,6年生ともに平均観
女 4.91 6.54 1.33 察得点がかなり高いということである。すなわち見
全体 4.62 5.65 1.22
出しうる10の観察点のうち,平均約半分を見出して 女/男 1.13 1.36
いることになる。このことは前報の振り子の実験の 観察とほぼ一致するのであり, これまであつかってきた観察の中で最も高得点,したがっ
疇
高野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第13報) 141
てやさしい観察の一つといえる。この事実について,前報において「このことは振り子の 実験のような純物理的現象に共通の性格であるのかもしれないと考えられる。」と一応予 想しておいたが,事実本報の虫めがねによる像の変化の観察の場合にもそうであったので
ある。
虫めがねによる像の変化の観察は,みかけはふつうの観察の問題以上に複雑でむずかし いとも感じられる。実際に虫めがねを手にとって観察してみても,観察のむずかしさを感 じるし,特に観察にあたっての集中的な注意力の必要さを理解させられる。しかしだんだ んと観察を進めていくと,一部の観察点の観察は至うてむずかしいが,その他の観察は把 握しやすい性質をもっていることがわかるのである。そのため,やさしい観察の部分は多 くの被検者が観察できることになり,被検者全体の平均観察得点としては割に高くなるも のと考えられる。すなわち,レンズによってできる像についての基本的原理を問題にする のではなく,専ら観察の対象として懸命に把握する場合は,みかけの複雑さにもかかわら ず,観察点は案外数多く見出しやすいといえるのであるQ
(3)各観察点の観察率
虫めがねによる像の変化の観察において見出しうる10の各観察点について,それを見出 しうる10の各観察点について,それを見出した被検者は全体の被検者の何%にあたるか
(観察率)を,4年生と6年生の場合について比較的に示すと,第4表のようになる。
第4表 第4表から,大体においてはもちろん各観察点に
各観察点の観察率(%) ついて6年生の方が4年生よりも観察率は高いこと
蜘4年生16年生L期 がわかるが,その程度にも相当の差があり,また中
1 46.8 85.7 1.8
には逆に低いものもある。また6年生と4年生の年
2 57.4 81.6 1.4
令差の大きさは,観察率の比として示してある。
3 38.3 69.4 1.8
各観察点の観察率を比較してみると,観察点8 4 6.4 4.1 0.6
(拡大された正立の像が,はっきりみえる。)の観
5 36.2 28.6 0.8
察率が特に高く,4年生,6年生ともに被検者のほ
6 10.6 8.2 0.8
とんど全員が観察しており,それについで観察点9
7 27.7 57.1 2.1
(虫めがねが紙に近ずくにしたがって,正立した像 8 100.0 98.0 1.0
は縮小する。),観察点2(目から虫めがねを少し
9 78.7 75.5 1.0
卜
」すと,ぼんやりした活字の正立した像が拡大す
10 59.6 55.1 0.9
る。),観察点1(虫めがねを目にほとんど接触さ
せると,活字がぼんやりと大体実物大に正立してみえる。),観察点10(虫めがねが紙に
接触すると,実物大の正立した活字がみえる。)などの観察率が高い。
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観察点8が特に観察率の高いことは,前述したようにごくふつうに生物や鉱物などを虫 めがねでみる場合にみられる拡大された明瞭な像の観察なので,最も単純な像の観察であ
り,ほとんど全員の被検者が観察したことは自然なことである。
また観察点9および観察点10は,観察の順序が観察点8に引続いて連続している像の変 化の観察であり,いずれも正立した明瞭な像がみられるので観察しやすい観察点といえ る。観察点2および観察点1は,いずれもぼんやりはしているが最初に観察する場面であ
り,像は正立しており複雑ではないことを考えると,自然なことに思われる。
これに対して観察率の最も低いのは,観察点4(ぼんやりと拡大された倒立の活字の像 が,かすかにみえてくる。)であるが,これは注意を集中してぼんやりした像を懸命に把 握しようとしないと,なかなか観察できない観察点である。
これについで観察率が低いのは,観察点6(倒立の像が両び拡大する。)であり,観察 の順序が両者の中間にある観察点5(倒立した像が縮小して,はっきり認められる。)の 観察率も高くない。
ところで全部で10の観察点は,大体つぎのように分類することができる。視野一面がみ えなくなる観察点3と観察点7を境にして,その前後は三つの部分になる。すなわち観察 点1,2と観察点4,5,6と観察点8,9,10の各グループにわかれる。上記の各観察 点の観察率をこれらの観察点のグループ毎に比較してみると,第三のグループすなわち観 察順序の最後の部分である観察点8,9,10の観察率が全体的に最も高く,第一のグルー
プすなわち観察順序の始めの部分てある観察点1,2の観察率がつぎに高く,第二のグル 一プすなわち観察順序の中間部分である観察点4,5,6の観察率が最も低いことにな
るo
第三の観察点グループは,いずれも虫めがねで生物や鉱物などを観察するときにもみら れるふつうの状態の観察であるので,これが最高の観察率を示すのは自然なことであり,
第一の観察点グループは,ぼんやりとはしているが正立した比較的単純な像の変化の観察 で観察の始めの部分でもあるので,比較的高い観察率を示すのであろう。これに対して第 二の観察点グループは,いずれも倒立した像の微妙な変化についての観察であり,拡大一→
縮小→再拡大という過程を踏み,全体の観察点を通じて最も変化に富んだ微妙な像の観察 なので最もむずかしい観察といえよう。被検者の観察得点の内容を個々にしらぺてみる と,この第二の観察点グループを観察できたか,できなかったかが,高得点者になるか,
ならないかの最大のわかれ目になっているのである。
これらの三つの観察点グループの境にあたる観察点3および観察点7は,いずれも中程
度の観察率を示しているがこの視野一面何もみえなくなるという二回の同様な状態を境と
高野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第13報) 143
して,三つの観察点グループにかなり整然とわかれているのは,被検者に像の変化の流れ の底に法則的なものを感じさせるであろう。
つぎに・6年生と4年生の観察率の比の大きい,すなわち年令差の大きい現象について みてみると・まず注目させられるのは,上記の三つの観察点グループの境にある観察点3 および7が最も大きい年令差を示していることである。この二つの観察点はいずれも視野 一面に何もみえない状態であり,全く共通なのであるが,被検者の観察記録からみると低 学年においては有形の像をみようという欲求が強く,この何もみえない状態は見逃しある いは無視する傾向が強く.高学年になるにしたがってこの傾向がややうすらぎ,より客観 的な観察を行なうようになるためとうけとれるのである。
また観察点1も年令差が大きいが,これは観察の最初であり,ぼんやりした実物大の像 がみえるのであるが,よくみないと何もみえないように早合点する可能性も強く,低学年 の方がそのような傾向がより大きいためではないかと考えられる。
㈲ 学業成績,知能,他の観察得点との相関
観察得点とこれらの間の相関係数を求めてみると,第5表のようになる。
第5表 4年生,6年生を通じていえることは,い
観察得点との相関係数 ずれにおいても全教科成績との相関が最も高
響\_i4年生16年生 く,理科成績との相関がつぎに高く,知能と
全教科成績 十〇.41 十〇.49 の相関は最も低いことである。学業成績の方 理 科 成 績 十〇.15 十〇.45 が知能より相関が高いという事実は,これま 知 能 十〇.08 十〇.34
でにあつかってきた観察と大体同傾向である ヨウ素の観察得点 十〇.20 十〇.36
1 が,全教科成績との相関が最も高いというこ 振り子の観察得点 +0,27 十〇.23
とは,この観察がかなり綜合的な機能を必要 とするものであることを示していると考えられる。
②また調査対象のところでのべたように,本報の被検者は第11報におけるヨウ素の観察,
ω
第12報における振り子の観察も行なっているので,これらの間の相関を求めてみると,表ゆ に示されているように同じ観察の間でも相関がかなり低い。このことは同じ観察とはいっ ても,虫めがねによる像の変化の観察は,これまでの観察と質的に異なつた面をもってい ることを示しているといえよう。
特に振り子の観察は同じ純物理的観察であるにもかかわらず相関が低いのは両者がかな り異なった質的側面をもっていることを意味しよう。振り子の観察においては「観点の多 角化」が重要な役割りを果したが,虫めがねによる像の変化の観察においては,それより
も虫めがねを通しての「注意の集中」が重要になる。そのために観察者は,自分の神経に
144 茨城大学教育学部紀要第十一号
対する強力な統制の必要を感じさせられる。このことは特に第二の観察点グループにおい ていえることである。
§4.結 論
以上は虫めがねによる像の変化の観察について実験的調査を行ない,その結果を分析し たものであるが,大約つぎのようなことが認められた・
(1)虫めがねによる像の変化の観察は,前報の振り子の観察と同様純物理的観察で,現 象の中に法則的なものの発見をめざすはたらきを要する特質をもっている。
② また振り子の観察と同様,この観察はみかけの複雑さにもかかわらず,単純な観察 点も舎み,小学生でも容易に観察できる面も含んでいることがわかった。
(3)しかし一面,虫めがねによる像の変化の観察は,振り子の観察その他の場合よりも 一段と強力な「注意の集中」を虫めがねを通してはたらかさなければ観察できない観察点 が多い。
㈲ 観察点を三つのグループにわけると,第三の観察点グループ(観察順序の最後の部 分)の観察が最もやさしく,第一の観察点グループ(観察順序の最初の部分)の観察がや やむずかしく,第二の観察点グループ(観察順序の中間の部分)の観察は特にむずかしい ことがわかった。
終りにのぞみ,本研究の調査に便宜をはかられた茨城県西茨城郡岩間町立岩間第一小学 校の職員の方々に,心から感謝の意を表する。
参 考 文 献
(1)高野恒雄:本研究(第12報)一振り子の実験における襯察機能の分析一本紀要10号,
183頁,1961年.
② 高野恒雄:本研究(第11報)一ヨウ素の観察におけるスライドによる観察方法の暗示効果 一,本紀要,10号,171頁,1961年.
融