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投資の短期的作用と経済構造(3)

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(1)

投資の短期的作用と経済構造(3)

その他のタイトル Investment in Economic Structure (III) : its Short‑run Effects

著者 安田 信一

雑誌名 關西大學經済論集

巻 4

号 5

ページ 431‑458

発行年 1954‑10‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/15788

(2)

投資の短期的作用と経清構造

七︑独立投資と景気循環

投資の最も重要な部分を形成するものは云うまでもなく固定資本に対する投資にして︑

れる場合にても︑特にそれに対する明確な限定が存せざる限りこの固定資本に対する投資を意味するのが常である︒

それ故に投資の経済的作用を考察する場合にてもその中心となるべきはこの固定資本への投資でなければならぬ︒

もっともそのことはそれが如何なる場合にても重要及至決定的役割を営むことを意味するのではなく︑前述の如く

にそれが景気循環のある特定の段階即ち不況よりの回復期にては運転資本がより重要な役割を果たすのではあるけ

それが回復期に至るならばそれより好況への過程が展開するためにはこの固定資本に対する投資の作用が

最も重要となるのであり︑また経済発展との関連において問題とすべき投資も主としてこの投資である︒それでは

既述の如く過去百五十年間においては先進諸国の経済は急激に発展したのであるが︑それは云うまでもなく年々

同一割合にての発展ではなくしてその間に多くの景気循環が存在せしことより明らかな如くその発展割合に相違は

投贅の短期的作用と経済構造︵安田︶ 具体的にはそれは如何なる作用を営むのであるか︒

(

 

一般に投資が問題とせら

 

(3)

432 

投資の短期的作用と諾済構造︵安田︶

存したのではあるけれども︑全体としては大なる投資が行われたが故に斯くの如き発展となったのである︒このこ

とは換言すれば投資︑殊に固定資本に対する投資は景気の上昇期においては極はめて大であり︑また逆に下降期に

てはそれは急激に減少し︑負ともなるのであるが︑

え︑且つそれが大であるが故にその結果として生産力が急激に増大したことを意味する︒然してこの生産力の増大

過程即ち経済発展が持続せられるべき条件は投資の長期的作用と関連するが故に本稿の対象外である︒けれどもま

た斯くの如き固定資本に対する投資は短期的作用との関係において考察することを得る︒即ちそれは経済が未だ発

展せざりし時代と発展せる今日とでは経済構造を異にするを以て︑景気の上昇並に下降の過程においてその作用を

相違するが故である︒以下それを対象とするのではあるけれども︑本節にては先ずそれがための前提条件につい.て

景気循環はその本来的性質において経済発展に伴う現象であり︑また現実の問題としても過去における景気循環

はこの間における経済発展の過程において生じているのである︒それ故に景気循環を問題とする場合においてもそ

れは経済発展との関連において把握するを要し︑少くともこのことは過去における景気循環を説明するがためには

必要である︒然して経済発展の原動力となるものは云うまでもなく投資であるが︑その発展の割合を問題とすると

きには当然それは投資率と関係すべく︑且つこの投資率はその変化が景気循環と密接な関係にあるが故に︑このこ

とは景気循環をば投資高のみではなく︑投資率の変化との関係において考察するを要し︑そのためには投資がその

出発点としてこの立場より分類せられなければならないことを意味する︒それではそれは如何なる分類であるの 個々の各景気循環期間全体としては正の投資が負の投資を超

一 八

(4)

周知の如く投資はこれを種々の立場より分類すること可能であるが︑最近の景気理論においては景気循環が当然

その前提とするところの経済発展との関連より自生的又は独立投資

(s po nt an eo us or a   ut on om ou s  i nv es tm en t)

と誘

発投資

( in d u ce d in ve st me nt )

に分つのが常である︒それではそれは如何なる基準によって分類するかであるが︑厳

密に云えばそれは種々の問題を含むもヒックスはその一般的基準としてその投資が産出高の過去の水準の変化に対

する依存性が大であるか否かに求め︑

は発明に直接応ずる投資︑

その小なる投資を独立投資︑大なるを誘発投資とするのであって︑具体的に

ハロッドの所謂長期投資︑公共投資は前者に属するのであり︑後者はこの前者による加

( 1 )  

蚊に乗数の作用の結果として生ずる投資であるとしている︒然してこのヒックスの分類において問題を

含むのは独立投資である︒即ち投資をば経済の内部的要因と外部的要因とに分つとき公共投資は後者に属すること

は明らかである︒もとよりこの場合如何なる基準によってそれを経済の内部的要因と外部的要因とに分つかは重要

な問題であるが︑それが如何なる基準によるにせよ公共投資は利潤追求を目的とする私的投資とはその性格を異に

し︑且つ資本主義を前提とするとき私的投資は一般的投資にして︑公共投資はその例外的投資と考えられ得るを以

( 2 )  

て︑この意味において独立投資の中より一応それを除外する︒次ぎにハロッドの所謂長期投資であるが︑それはそ

の結果を長期間にわたりて検討を要する点のみが他の投資と異なるに過ぎず︑

それ故にこの投資は他の投資一般に

おけると同様に独立投資と誘発投資とに分かたれるが︑現実の問題としては独立投資に属する部分が大部分なるが

( 3 )

ヒックスもそのすべてではなく大部分を独立投資としている︒

独立投資と誘発投資との区別に際しては一応前述の如く公共投資を除外し︑他の投資一般について考察するも︑

抽象的には別とし︑具体的には長期投資との関連においてなお不明確である︒それ故にこれを明確にする必要があ

(5)

34

投賓の短期的作用と経済構造︵安田︶

る︒然してこれがためにはその抽象的基準である過去における産出高変化への依存性の大小の意味を明らかにしな

ければならないが︑それは換言すれば需要変化がありたるときに始めてこれに応ずるところの投資であるか︑また

は斯くの如き変化がいまだ生ぜざるにもか4わらず需要の変化を予想し︑若しくはそれの採用によりて生産費が低

下することを予想としての新技術採用にもとずく投資であると云い得るであらう︒もとより厳密に云えぽ如何なる

種類の投資といえども将来に対する予想を基礎とすることなしにはそれは不可能である︒即ち誘発投資は現在の生

産能力を以てしてはその産出物に対する需要増加に応じ得ざるが故に行われる投資であるが︑それが固定資本に対

する投資である場合には存続年限が長期にわたるが故に︑この期間全体︑または少くともその大部分についての需

要を予想しなければならぬ︒然し乍ら誘発投資の場合には斯くの如き予想を必要とするとしてもその前提となるも

のは産出物に対する需要の現実の増加である︒然るに独立投資の場合には等しく将来に対する予想を基礎とすると

しても︑未だ斯くの如き需要の増加が生ぜざる以前にこれの予想又は新技術を採用することが生産費低下に導くと

の予想を基礎としてそれが有利であると判断して行うところの投資にして︑その前提となるべき予想の種類を全く

異にするのである︒それではこの基準を建設期間の長期にわたる投資︑例えば鉄道に適用すると如何になるかと云

うにその需要が現実に生じたる結果としての投資は誘発投資であるが︑これが敷設によりて逆にそれを期待すると

きは独立投資となる︒斯くの如き意味において独立投資と誘発投資とはその前提である予想の性質の相違︑換言す

れば危険と利潤との関係において企業家的精神が高度に具体化せるか否かがその分類基準となっている︒

経済発展を前提とするとき独立投資はその性質上当然存在しなければならぬ︒蓋し独立投資なしには産出高の増

加は存ぜず︑そのことはまた誘発投資が行われざることを意味するを以てその経済社会は投資を欠くこととなり︑

(6)

発展の前提と矛盾する︒.この意味においてこの両投資を区別することは極わめて必要なことである︒然してこれを

区別するとそれと対象に即したる区別である運転資本並に固定資本に対する投資とは如何なる関係にあるのか︒

( 4 )  

運転資本の増加はその性質上誘発投資に属することは明らかであるが︑この誘発投資は独立投資に対する関係に

おいて第一次︑第二次等の誘発投資に分つことが出来る︒即ち独立投資の結果として誘発投資が生ずるが︑この誘

発投資は更らにそれによりて誘発投資を生むが故である︒然してこの誘発投資の中には運転資本のみでなく固定資

本に対する投資もその性質に応じてこれに含まれる︒この意味において独立投資と誘発投資との区別は固定資本︑

泣に運転資本に対する投資とは一応独立ではあるが︑運転資本はその性質上独立投資となることなきを以て固定資

本に対する投資が独立投資と誘発投資とに分かたれることとなり︑誘発投資はこの固定資本の誘発投資部分に運転

資本を加えたものとなる︒それではこの全投資の中で独立投資は如何なる地位を占めるのか︒それは前述せし独立

投資の性格即ちいまだ現実に需要が増加せざるにもか4わらずこれを予想して生産設備を拡張し︑または他の企業

家に先立つて生産費低下の予想にもとずきて新技術を採用することよりすればそれは当然小でなければならない︒

既述の如く経済がいまだ発達せざりし時代においては不況が持続するときはその結果として生ずる再投資にもと

ずく運転資本の増加率は比較的大であり︑それによって景気が恢復することの重要な一因となったと考えるのであ

るが︑運転資本の増加には一定の限界があり︑それが更らに上昇過程に移行するがためには固定資本に対する投資

が存しなければならぬ︒それではこの固定資本に対する投資は如何にして可能であり︑またその作用は如何゜

再投資需要にもとずく運転資本の作用により景気が恢復過程に到達したとするもそのことより直ちに固定資本に

対する誘発投資が作用すると期待するのは困難である︒.蓋し誘発投資が生ずるための前提は前述の如くその産出物

投賓の短期的作用と経済構造︵安田︶

(7)

436 

右の如くに景気の恢復過程より上昇過程への転換要因として固定資本に対する誘発投資を期待し得ないとするな

らば何がその有力なる要因となり得るか︒独立投資以外に他にその要因となるものは存在しない︒それでは何故に

前述の如く独立投資の実行はそれ自体大なる危険を意味するが故に︑企業家としてはその実行か否かについての•みでなく、その時期の選択についても慎重なるを要し、

よりその投資の実行それ自体が危険をおかすことなるが故にこれを極限化すると不況期においてもこれを実行する

とも考え得る︒然し乍らこの場合その資金をどこに求めるのか︒云うまでもなくそれについては企業内部と外部と

があるが︑それはまた経済の発展段階によって異なる︒即ち経済のいまだ発展せざるときには企業内部における蓄

積は小なるを以てこれを企業外部に求めざるを得ない︒然してその方法としては銀行よりの借入︑社債の発行︑増

資等があるが︑この場合に銀行よりの借入︑社債の発行が円滑に行われ得るや否やについては疑問がある︒換言す

れば不況期においては一般に金融は緩漫であり︑貨幣利子率は低下せるも︑

易なることを意味するのではない︒蓋し金融緩漫とはその条件が従来と同一である資金需要についてはその充足が

従来より容易なることであるが︑問題となっている資金需要はその危険が大なるところのそれである︒不況期にお

いては一般に需要の前途について悲観的予想が支配せるを以てこの危険の大なる投資のための資金調達が困難であ それはその有力な要因となるのか︒ くの如き事態及至予想は生じない︒ 投賓の短期的作用と経済構造︵安田︶

についての需要が現存生産設備を以てしてはこれが充足が困難及至不可能であること︑または極わめて近き将来に

おいて斯くの如き事態となることの予想が必要であるが︑恢復期にてはいまだ大なる過剰生産設備があるを以て斯

これが適当ならざるときは経営上の危機を招来する︒もと

それは直ちにこの種類の資金調達が容

囀9

(8)

す企業家的精神と結びついてその実行となる︒

ることは明らかであるべく︑またそれが達成せられるとしても十分なる担保を必要とする︒然るに経済のいまだ発

展せざる段階においては企業の外部資本に対する依存性は比較的大なるを以てその少からざる部分は既でに担保の

対象となれるものであり︑且つ不況期におけるその担保価値の低下を併せ考慮するとそれは殆んど不可能に近いで

あらう︒それでは次ぎに増資であるが︑こ.の種類の投資のための増資は既でに不況によりて企業の将来について不

安が生じているを以て︑それが信用度の比較的大なる企業であるとしてもその投資のためにその経営の将来につい

て不安を生じ︑株式価格の低下となるが故にそれも極わめて困難であらう︒斯くの如き意味において経済のいまだ

発展せざる段階においては独立投資が実行せられるや否やについては疑問がある︒これに対して経済の発展せる場

合には如何︒経済の発展に伴つて一般的には富の蓄積は増大するが故に︑然らざる場合に比し資金調達に関する問

題はその重要性を減少するも︑また同時に考慮すべきはそれが1定段階を超えるときは不況は深刻化し︑需要の前

途に対する悲観的予想もまた大となるを以て︑その投資は困難及至不可能であるべく︑このことは一九三0年代に

おける不況が外部的要因である公共投資にその恢復を求めしことよりも明らかにして︑換言すれば若しこの時期に

おいて前述せし意味においての内部的要因としての独立投資が大であるならばそれは斯くの如き外部的要因による

ことなくして恢復したであらう︒斯くの如くに独立投資は不況期に求め得ず︑従って前述の如くにその実行の時期

は恢復期となる︒即ち恢復期にては不況期において存在したる困難はある程度まで後退すべく︑それが危険をおか

右の如くに独立投資が景気恢復過程において行われるとすればその経済に対する作用は如何︒それは云うまでも

なく乗数︑蚊に加速度原理の値如何によ.つて異なる︒従ってこの場合にそれが如何なる値であるかを問題としなけ

投資の短期的作用と経済構造︵安田︶

(9)

438 

S1 10

の場合を問題とするも︑

る ︒

それではそれは如何なる点であるかであるが︑

先す第一次的には>の値が問題となる

乗数の値は限界貯蓄性向の逆数であり︑

る誘発投資増加の割合でもある︒それ故に独立投資の作用が乗数鎚に加速度原理の値に依存するとは即ち限界貯蓄 性向泣に誘発投資係数の値に依存することである︒従って限界貯蓄性向︑誘発投資係数それぞれの値を

S

あらわすとすれば︑このS

と>との種々異なりたる値の組合せによりて独立投資の作用が相違することとなるので

ヒックスはこれを大別して質的に異なる四場合とする︒

右の場合においてS

が一定にして>が小であるならば独立投資の作用は当然小であるべく︑また>が一定にして

Sが大であるならば同様にその作用は小である︒けれどもこの場合重要なことはそれが量的に大であるか否かでは

一定の限界点を超えるときにこれによりて独立投資の作用が量的相違より質的変化を生ずるか否かにあ

性質上負とはなり得ず︑

その最も小なる場合の極限としてもそれは零にとどまる︒従ってその極限的なる場合とし

これを経過分析的に考察するときそれによる需要増加高は投資︵独立投資並に誘

より生ずる所得増加高の範囲に制約せられ︑これを超えることはない︒このことは換言すると 独立投資の作用が発散せざることを意味する︒然るにこれに反して>についてはそれが一以上となる場合も考える

ことが出来る︒それは独立投資による産出高の変化以上に誘発投資が増加することにして︑これを経過分析的に考 いて彼の分析について述べる︒

ればならないのであるが︑その前提として独立投資の作用についての一般的考察より出発する︒然してこの点につ

いては多くの学者により分析せられているが︑その代表的なものにヒックスのそれがあると考える︒この意味にお

また加速度原理の値は換言すれば誘発投資係数即ち産出高の変化に応ず

周知の如

<sはその 四四

(10)

場合が重要であるのか︒

作用が発散するや否やはSの値如何とは関係なく︑ 察し︑第二次︑第三次等の誘発投資を考慮するとそれは発散せざるを得ない︒斯くの如き意味において独立投資の

( 5 )  

>が一以上であるか否かに依存するものにして︑

>が一以下である場合においては誘発投資は独立投資による産出高の増加以下なるを以てそれが収剣することは

また>が一以上なるときにはこれとは逆に発散する︒

が直ちに無条件的に発散するとするにはなお問題がある︒

1 1 1

即ちそれはSとの関係如何に依存するものにして︑

を基準として>がそれより大なるときには無条件的発散となり︑

散となる︒同様にして>が一以下の場合もSとの関係によりて細分し得べく︑

て︑>とSとの関係より>がそれを超えるや否やは等しく収剣するとしてもその過程に重要な相違があり︑前者は

若千期間産出高が増加し︑それ以後において減少過程となるが︑後者の場合には独立投資が行われたる当該期間の

みにして直ちに減少過程となる︒

右の如く独立投資の作用は誘発投資>が一以上であるか否かによりそれが発散するか︑収剣するかに二大別せら

関係より無条件的に発散するか否かの基準となる点く

11 (1

+

m .

2を上限点︑同様に>が一以下なる場合の基準

( 6 )  

11 (1 1

2を下限点とする︒

以上独立投資の作用を区別すべき基準点として上限点︑中間点︑下限点の三点があるが︑それではその如何なる

投賓の短期的作用と経済構造︵安田︶ れる︒この意味においてヒックスはく

1 1 1

なる点を以て中間点と称する︒然して>がこの中間点を超え︑S

v = ( l   + 々

ヽ 叫

2小なるときには制約せられた発

その基準は

11 (1

1

m ) 2

明らかであり︑

けれどもこの後者の場合についてはそれ

分岐点となっている︒

(11)

ム鳥〇

界線とは具体的には如何なる関係にあるのか︒ 投賓の短期的作用と経済構造︵安田︶

ヒックスは以上四つの場合の中特に上限点を超える発散の場合だけを問題としている︒即ち下限点を超え中間点

以下なる場合︑及び中間点を超え︑上限点以下なるときには具体的に計算すれば直ちに明らかとなるが如くに独立

投資の作用はそれ自体循環的であるを以て特に問題とする必要はなく︑これに対してその作用が下限点以下である

ときには循環せざるを以てこの場合を一般的に考えることは循環の事実と矛盾する故にそれを除外し得る︒斯くの

如き意味において問題はこの上限点を超える発散の場合にあるが︑それではそれは如何にして循環するのか︒

独立投資の作用が発散すると云うことはそれ自体としては無限大となることを意味するのではあるが︑現実が示

すが如くにそれは無限大とはなり得ない︒それ故にこれを制約する要因が存在しなければならぬ︒それではその制

約要因は何であるか︒周知の如<‑社会の生産力はその時々の事情の下においては一定の限界がある︒もとよりこ

の生産力は不変なるものではなく︑経済の発展に伴つてそれは増大するが︑

り︑実物資源︑資本の側よりする限界が完全利用︑雇傭の側よりするそれは完全雇傭である︒然してヒックスは独

立投資の発散作用を制約するこの実物的要因を以て上昇限界線と称しているが︑この独立投資の発散作用と上昇限

上昇限界線についてはこれを二種に分つことを得る︒即ちそれは消費財の供給に関する上昇限界線と投資財に関

するそれとであるが︑独立投資の発散作用との関係において重視すべきは後者である︒蓋し>が

( 1 +

m ) 2

も大であるのに反して︑限界消費性向は

S1 10

の場合にも1をその限界とするを以て︑投資増加の割合は消費増加

のそれよりもより大であり︑また仮りに消費支出の増加が投資財についてよりもより速みやかに上昇限界線に到達

するとしてもそれは価格騰貴となりて投資をなおより以上に増大する原因となる︒これに反し誘発投資については 一定の時点においてはこれに限界があ

(12)

四七 それが投資上昇限界線に到達したる場合にはそれ以後の新投資は不可能となるが故にそれによりて消費支出は減少

( 7 )  

し︑それは更らに投資の減少に導くが故に下方に転換する︒

以上ヒックスに従って独立投資の作用をその誘発投資係数との関係において四種類に大別し︑且つその発散の場

合について好況より不況への転換点を述べたのであるが︑乗数と加速度との結合的作用についてヒックスの説く如

( 8 )  

き四場合があることはサミュエルソンも明らかにせるところにして︑特にヒックスの見解として注目するを要しな

い︒然してヒックスの見解として重要なのは後述の如く景気循環を経済発展と結びつけ︑それとの関連において問

題としていることである︒然るにこの経済発展を問題にするとは当然その中にこれに伴う経済構造の変化をも含ま

なければならないのであるが︑

ヒックスにおいてはこれを欠くと考えられるを以て次節においてはこの点について

( 1 )

J.

 R•

H i c k s ,  

C o n t r i b u t i o n   t o   t h e   T he or y  o f   T ra de   C y c l e , O x   f o r d .   1 95 0,  p .  

59 . 

古谷弘訳八一頁なおハロッドの

長期投賓とはそれによる産出高の噌加が短期的には生ぜず︑従ってその妥当性を短期的に判断し得ない種類の投資のこ

とであるa•F•

H a r r o d ,   To wa rd s 

Dy na mi c  E c on o m ic s ,  L o n do n ,  1 94 8,  p .  

79 , 

寓〖矯苔H太郎、給t木諒一訳一〇七頁)。

(2 ) 独立投資は過去における産出高の変化との関係が小なる投賓であることの結果として独立投賓自体を経済の外部的要 因とも解し得る︒けれども斯くの如き立場においては利潤追求の動機よりする私的独立投賓をも経済の外部的要因とす ることとなり︑資本主義の最も重要な特質である利潤追求が間接的に排除せられることとなるを以てそれを必ずしも妥 当とは考えない︒なおこの点については第九節註

( 6 )

参照

(3)J•

R .   H i c k s ,   o p c i t .   ,   p .  

59 , 

(4 ) 

J.

 R o b i n s o n ,   Th e  R a te   o f   I n t e r e s t   an d  o t h e r   e s s a y s L ,   on do n 

̀ 1 95 2,  p .  

161 

(5)J•

R .   H i c k s ,   o p .   c i t ,   p p

73 .  

5,

 訳本一

01

'

投賓の短期的作用と経済構造︵安田︶

(13)

2

(6 )  I bi d . ,  p p.  

69

72 ,

訳本九六ー八頁なおこの湯合の数学的某礎については同書数学附録

( i b i d . , p p.  

185‑6 `訳本︑数

学附録二五頁︶参照 (7 )  I bi d . ,  pp . 

96 

1

8

pp .

127

  1  9,  訳本一三ニー七頁︑一七七ー八

0

(8 )  Co nf .  P .  A .  S am ue ls on , 

" I n te r a ct i o ns   be tw ee n  th e  M ul t i pl i e r  An al ys is n  a d  t he  P r i nc i p le   of   Ac c e le r a ti o n ,"  

Re ad '  in gs i n    B us in es s  Cycles

  Th eo ry . 

小原敬士訳﹁乗数理論と加速度原理との相互作用﹂︵高橋長太郎監訳サム工戸ソン乗数

理論と加速度原理︶参照︒なお本論文においてサミュエルソンの目的とするところは赤字支出による公共投資の作用を乗 数と加速度との結合的使用を通して明らかにするにあり︑ヒックスの如くそれは独立投資一般ではないが︑ヒックスに おいては前述の如く公共投資は独立投費に属するものなるを以てその対象は同一であるといい得る︒もっともヒック

K

の場合においては景気循環との関連においてなるが故にこの点においては異なる︒

景気循環はこれを種々なる立場より問題とすることを得るもそれを如何なる立場より問題とするにせよその過程

において消費支出高に対するその社会における全資本在高の割合が変化すると云う事実はこれを無視することを得

ないであらう︒この意味において本節にてはこの割合を経済発展に伴う経済構造の変化と関連せしめ︑それを中心

として景気循環を考察せんとするのである︒然してこれがために以下この割合を仮りに消費資本係数と称する︒そ

の場合この消費資本係数は純産出高に対する資本在高の割合である資本係数とは密接な関係にあり︑経済が均衡を

持続する場合には特にこれより区別して問題とする必要はない︒けれども景気循環を問題とすること自体がその然

らざる場合を前提とするものなるを以てこれを区別するを要する︒それでは消費資本係数とは何か︒

消費資本係数を以てその社会における消費支出高に対する資本在高の割合と規定するときそれは明白にして特に 八︑消費資本係数と景気循環 投資の短期的作用と謳済構造︵安田︶四八

(14)

年 産 出 高

,A. 

第 一 年 300  200  500  50  10  90  100  150  第 二 年 306  204  510  5110. 2 91. 8 102  15 第十年(約) 360  240  600  60  12  108  120  180 

備 考 本表の中消我の第十年はロビンソン夫人の原 表では118となつているが108の誤りと考えら れるにつき訂正

定常状態であるか︑

りてそれは異なる︒

発展的経済における理想型は云うまでもなく均衡を持統する状態である︒

それでは斯くの如くに発展的均師を持続する状態とは如何なる状態を意味す るのか︒それについての最も簡単なる場合をロビンソン夫人は次表の如くに

( 1 )  

示している︒

上の表において先ず第一に説明を要するのは産業の分類であるが︑

ソン夫人はこれを消費産業と投資産業の二種類としている︒消費産業とは云 うまでもなく消費財貨及びサーピスを産出する産業のことであるが︑

一種類としているのは現実においてそれが多種類であることを否定するもの

ではなく

経済が発展するもその相互間の割合が不変にして事実

種類

投贅の短期的作用と諾済構造︵安田︶

ざるを以て先ず資本係数について考察する︒

一定時点に関する限りにおいてはいず

問題は存せざるが如くである︒けれどもそれは経済の如何なる状態を前提とするかにより

その値は異なる︒蓋し または発展を前提とするかによりて相違するはもとより︑後者の場合にしても発展率如何によ この意味においてそれは簡単に解し得ないのであるが

ここにおいては当然景気循環との関連 においてなるを以てそれが定常状態を前提とせざるは明らかである︒

凡そ経済発展を問題とする場合においてその考察上中心となるべきは発展的均衡である︒けれどもそれが均衡で ある限りにおいては資本係数と消費資本係数との間には密接な関係があり

れを問題とするもその間に特に両者を独立的に問題とすることの理由が存せ

これを

(15)

 

0の資本︑また新投資一0に対して五0の資本が対応する︒ 投賓の短期的作用と経済構造︵安田︶

して総括的に示し得ることを仮定している︒次ぎに投資産業であるが︑それは消費産業及びそれ自らの産業内部に

おける生産設備の更新︑蚊に新投資にもとずく資本財需要を充足する産業であるが︑

同一の理由による︒

純産出高に対する資本在高の割合即ち資本係数を五と仮定したことは云うまでもないが︑この場合注意すべきは

消費需要とその関係資本︑新投資高とその関係資本の割合もそれぞれ五と仮定していることである︒即ちロピンソ

ン夫人はその生産設備の一0バーセントが毎年更新せられるとしているのであるが︑第一年について云えば投資産

業自体における更新を除けば資本財需要は消費産業における更新高三00合計四0

て投資産業の資本は二

00

なるを以て投資産業における資本の中一五0は消費産業よりの更新需要︑また五0

投資のために必要とせられる︒それ故に消費支出九0に対しては消費産業の三

00

と投資産業における一五0合計

右の表より明らかな如くにこの場合における純産出高即ち純所得高は

1

0 0

にして︑その中九0

0が投資︑貯蓄であるが故に︑純投資率は一0︒ハーセントであり︑資本係数は五なるを以て成長率は年二︒ハーセン

トであるべく︑また投資による生産設備の増加についてはその六0バーセントが消費産業︑四0

C 2 )  

産業にて需要せられることとなっている︒

以上はロピンソン夫人による発展的掏衡が持続する状態についての説明であるが︑

必ずしも一致するものではなく︑それとは逆に一致せざるが原則にして︑ これを一種類としているのも

これに対し

この場合ロピンソン夫人は簡

単化のために消費支出︑新投資の各々についてその必要資本を同一とし︑五倍であるとした︒然し乍らこの両者は

一致するのが例外であらう︒この意味に

(16)

在 高

おいてそれが一致せざる場合について考察することとし︑第一年における消費産業の資本在高を三

00

より二五0

に︑また投資産業におけるそれを二

00

より一四0に減少する︒その場合資本係数は三・九にして︑消費支出に対

する関係資本割合は三・九弱︑また新投資に対するそれは四

O

となり︑従って生産設備更新高は年一0バーセン

トとすれば三九であるが︑他はすべてロピンソン夫人の場合と同一であるとすると

上表の如くになる︒

上の表においては資本係数︑消費支出及び新投資に対する各関係資本の割合は前

表に比し低下せるを以て成長率がより大となることは云うまでもないが︑この場合

器落濠摂

磁汁莱齊

合にても成長率を決定するは純投資率と資本係数との関係である︒

右においては発展的均衡が持続する場合について考察したのであるが︑そこにお

いては消費産業を事実上一種類と仮定した︒然し乍らそれが妥当でないことは云う

までもない︒それではそれを如何に修正すべきか︒経済の発展に伴つてその社会に

おける各経済主体の実質所得は増加すべく︑且つこれによりて消費支出の方向が変

化し︑その結果として各産業における発展割合が異なり︑経済構造に変化が生ずる

ものにして︑その結果今日一般に知られる如くに経済の発展に伴つて所謂第一次産

業より第二次産業︑更らに第三次産業の発展となり︑且つその発展割合も後者にな

ればなる匠ど大となるを以て発展的均衡の持続についてもこれを考慮する必要があ

資 本

更 純

i :  

I 1 III : ,

第一年 250 140  390 

第二年 256.41143. 59  400 

第十年 314 175. 8 489. 8 

主登g

"'f: 

g

mf

E 1

39  10  90  100  139  40  10. 2564  92. 3076102. 564142. 564!  49  12. 56  113. 04  125. 6  174. 6 

(17)

446 

費 産

サービ 4

1

1

. 

t

i

ノ '

?I.  I ..,..  I n, 

業 傘 I  I‑ 1  ,r  ~ ・‑‑

第一年 42 160  48  140  390  3. 9 10  30  40  20  100 

第二年 42.42 164. 12  49. 92143. 50  400  40  10. 237  30. 3 41. 03  20. 8 102. 37 

第十年 51.1 197. 9 60. 2 173. 0 482. 2 48  12. 34  36. 5 49. 48  25. 08123. 4 

WE

"

 

営落濠掲濠卦菜澤 前表並に前々表においては経済発展に伴う全消費支出増加割合が

と一致するとしたのであるが︑これが一致するとしてもその産出高に対する関

係資本割合の比較的大なる産業への消費支出増加部分が大なるときにはこれが

ための必要資本は純投資高を超えるを以て前表並に前々表の場合と同一割合に

ての成長率を期待し得なわ︒然るに斯くの如き産出高に対する関係資本割合は

製造業をその代表とする第二次産業においては最も大にして︑他の産業にては

それより小である︒それ故に経済発展に伴う実質所得増加の製造業に対する消

費支出増加割合が比較的大なるときには経済が発展的均衡の状態を持続し︑且

つその純投資率が一定であるときには成長率は必然的に低下せざるを得ず︑そ

れは例えば上表の如くになる︒

上の表においては前表の場合における消費支出を細分化するとともにこれに

応ずる各産業の資本在高についても同様に細分化したのである︒次ぎにその各

年の所得増加高と支出増加との関係であるが、貯蓄•投資せられる部分は一〇

パーセントにして︑九0︒ハーセントが消費支出となることは以前の場合と同一

であるが︑その消費支出増加の各年所得増加に対する割合は農業︑製造業︑サ

ービス業の各産出高に対してそれぞれ―ニ・七、四一―-•五、三三・八の各。^1 投賓の短期的作用と経済構造︵安田︶

Co ) 

る ︒

(18)

447 

痘 と

( 4 )  

り低下したが︑そのことの理由は製造業に対する消費支出増加割合が以前の場合よりも増加したることの結果とし

て限界資本係数が平均資本係数より大となりたることによる︒換言すれば発展的均衡持続の場合において成長率を

決定する要因はハロッドが説いて以来明確となれるが如くに純投資率に対する平均資本係数ではなくして限界資本

( 5 )  

係数であり︑以前の場合においては平均資本係数と限界資本係数とを同一となる如く仮定せるが故に成長率は

となったのであるが︑最後の表の場合にては製造業に対する消費支出増加割合を大とした結果限界資 営苺濠提

営落濠批

柑涸濠卦索澤

示したのである︒

以上において明らかにしたことは成長率を決定する要因は純投資率に対する平均資本係数ではなくして限界資本

係数であること︑更らにまたこの限界資本係数の値を決定する重要な要因の中には増加所得の︑産出高に対する関

係資本割合を異にする各産業の産出物への消費支出増加割合に依存するということである︒然して右の最後の表に

業︑産出物への消費支出増加を仮定したのであるが︑経済の発展に伴つてこの割合は当然変化すべく'︑その産出高

に対する関係資本割合の大なる産業の産出物への消費支出増加割合が減少し︑他のそれが増加するならば成長率は

並に純投資率を一定としたが故に第三年以下にては第二年と同一割合の増加所得に対する各産

既述の如くに経済が発展するに伴つて産業の重点は第一次産業より第二次産業︑更らに第三次産業に移行してい

る︒然してこのことを前述せしことと関連して考えるならばそれは当然第二次産業を中心として経済が発展せし時

投賓の短期的作用と経済構造︵安田︶ おいては成長率︑

(19)

448 

投資の媛期的作用と謳済構造︵安田︶

代は産業全体としての資本係数は上昇せる時代にして︑第三次産業に重点が移行するに伴いそれの不変及至低下と

なるぺく︑また消費資本係数についてはそれは産業全体の資本係数より以上に上昇し︑または低下する︒それでは

景気の上昇に際しては新投資財の増加率は消費財貨並にサーピスのそれよりも大なるが故に消費資本係数は急激

に上昇する︒然し乍らこのことは必ずしも同時に資本係数の上昇を意味するものではない︒例えば第一期間として

O O ! l

して︑その中九0は消費財貨及びサーピス︑新投資財を一0とするとこれに対する資本在高は三!

0、従って資本係数は三・九となる。然して第二期間にてはこのことの結果として資本在高は四00~増加する

が︑純産出高が一0ニ・六弱に増加して︑且つその内容が消費財貨及びサービス九ニ・三一弱︑純投資一0

弱とすれば資本係数は不変であるが︑この場合同時にこの期において一0の独立投資が生じ︑投資産業において生 産設備に余裕があり︑.それが期末において完成したとすれば純産出高は更らに一0を増加することとなるが故に︑

資本係数は三・六弱となりて低下すべく︑またこの資本財の増加を資本在高に加えるもそれは三・六強となるに過

ぎない︒次ぎに第三期において誘発投資係数を四として︑前二期間の産出高の差の四倍の投資が行われるとすれば︐

0となるが︑これに対して限界消費性向を九五︒ハーセントとすればそれは前期間より約︱二増加するに過ぎな

い︒それ故にこの期において独立投資が行われないとするならば︑今期の産出高は前期の独立投資がないと仮定し

た場合の産出高である一0ニ・六弱に誘発投資五0と消費支出増加︱二を加えたる約一六五となる︒然るに今期の

当初資本は四一0なるを以て資本係数はニ・五弱となり︑また期末資本在高四六0に対しても資本係数はニ・八弱

となるに過ぎない︒もっとも斯くの如き方法に対しては当然疑問が提出せられるであらう︒即ちそれは投資産業に このことは景気循環と如何に関係するのか︒

参照

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