はじめに
人の基本的身分関係の確定・形成をめぐる争訟である﹁人事訴訟﹂について定めていた人事訴訟手 ︵1︶続法︱︱明治 論説
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
新 山 一 雄
はじめに
一改正人事訴訟法の強制参加
︵一︶あらたに規定された強制参加の条文の分析
︵二︶強制参加︑職権告知の制定の趣旨
二人事訴訟と取消訴訟
︵一︶人事訴訟における強制参加と取消訴訟における職権訴訟参加
︵二︶行政事件訴訟法の手続保障と人事訴訟法の手続保障の相違
︵三︶人事訴訟における職権告知と強制参加の関係
三行政事件訴訟法のさらなる改正にむけて
︵一︶改正人事訴訟法に対する行政法からの評価と反省
︵二︶行政事件訴訟法のさらなる改正にむけた提言
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
5
三一年法一三︱︱が︑司法制度改革のなかで︑人事訴訟法として改正さ ︵2︶れた︵以下︑﹁改正人訴法﹂とする︶︒人事
事件のかなりの部分の家庭裁判所への移管︑家庭裁判所調査官の拡充︑参与員の導入など︑抜本的な大改正が行わ
︵3︶れたが︑そのなかのひとつに︑行政訴訟の理論から興味ぶかいものが︑ふくまれていた︒それは︑行政事件訴訟法
︵以下︑﹁行訴法﹂とする︶二二条にならって︑強制参加が規定されたことであるが︑それに関連して︑さらに注目
すべきことは︑訴訟係属の事実を︑判決の結果に利害関係を有する第三者に︑裁判所が職権で告知しなければなら
ないという手続が︑じつは︑今回の改正以前の改正で規定されて ︵4︶いたが︑それがそのまま維持されたということで
ある︒
筆者は︑さきごろ︑﹃職権訴訟参加の法理﹄という本を上梓 ︵5︶したが︑そこで︑処分を取り消す判決によって︑処
分から得ていた権利・法的地位を覆滅される︵取消訴訟の︶第三者に対しては︑︵職権で訴訟参加を命ずることが
認められた︶裁判所は︑すくなくとも︑かような訴訟が係属したということを﹁告知﹂しなければならないという
論理を︑行訴法二二条の解釈論として︑展開した︒そのさいに︑筆者は︑わが国とドイツの︑行政訴訟理論および
民事訴訟理論を参照したが︑民事訴訟のむこうがわにある人事訴訟手続において︑右に述べたような︑筆者の論理
に関わりのある一連の法改正が行われていたことを︑不勉強のゆえに︑見落としてしまった︒
人事訴訟手続は︑ある意味で︑行政訴訟手続に近似したところがあるので︑そこで︑職権訴訟参加にほかならな
い手続が︑あらたに制定され︑また︑それとはべつに︑第三者への訴訟係属の職権告知が︑とくに規定されたこと
は︑筆者にとって︑見のがすべからざることがらであった︒つまり︑以下に述べるような筆者の﹁ひかえめ﹂な立
法論の︑ひとつの論拠となりうるものを︑うっかり見のがしてしまっていた︑ということである︒
筆者の著書は︑右に述べたとおり︑もっぱら二二条の解釈論を展開したもので︑同条の解釈として︑判決により
権利を害される第三者への訴訟係属の告知を︑裁判所の義務とすることはできるということを︑あきらかにしたも
成城法学75号(2007)
6
のであるが︑末尾で︑若干の立法論として︑それを︑はっきり明文化することがのぞましい︑とした︒改正人訴法
は︑まさに︑このような筆者の提言を︑ある意味で︑すでに具現化したものと思われる︒そうであるならば︑なお
さら︑筆者はかかる事実を見のがすべきではなかったのである︒
そこで︑筆者は︑じぶんの不勉強をすなおに反省し︑改正人訴法において︑どのような見地から︑かような手続
があらたに規定されたのか︑そして︑そのことを︑なぜ︑行政訴訟の領域で重要視しなければならないかを︑人事
訴訟と行政訴訟の近似性をあきらかにすることで︑論証し︑﹃職権訴訟参加の法理﹄の最後に提言したことの︑さ
らなる論拠にすることで︑不完全な著書を公にしたことの︑おゆるしをいただこうと思う︒
︵1︶われわれ行政法研究者から日ごろなじみのない﹁人事訴訟手続﹂の意義・特色については︑岡垣学﹃人事訴訟手続法
︹特別法コンメンタール︺﹄︵一九八一年︶一頁以下にくわしい︒それによれば︑人事訴訟手続は︑﹁人の基本的身分関係
の確定・形成をめぐる争訟を対象とし︑その特質に対応する特殊な法理によって︑その強制的な解決を図ることを目的
とする特別民事訴訟手続の総称である﹂とされる︒婚姻︑養子縁組︑親子という人の基本的な身分関係の存否に関する
紛争は︑いっぽうで︑国家および社会の秩序維持につながる重大な社会関係であり︑公益的性格を有し︑そのため︑﹁当
事者の自由意思による任意処分を許さず︑高度の真実性を発見して審判の適正を期し︑第三者にも画一的に確定する必
要がある﹂とされる︒この意味で︑通常の民事訴訟とはことなった原理︱︱実体的真実主義︑直接審理主義︱︱が支配
する︒したがって︑人事訴訟手続は︑特別民事訴訟手続である︒ただ︑人事訴訟手続は︑非訟事件手続とはことなり︑
基本的には︑対立する訴訟当事者のあいだの弁論により推移する民事訴訟の構造をとる︒
︵2︶名称も︑﹁人事訴訟手続法﹂から﹁人事訴訟法﹂︵平成一五年法一〇九︶にあらためられた︒
︵3︶今回の人事訴訟法への改正は︑司法制度改革審議会の要請によるもので︑家庭裁判所の機能を充実させることで︑人
事訴訟手続の迅速化をはかることを目的とするものであった︒主要な改正点は︑人事訴訟事件の家庭裁判所への移管︑
家庭裁判所調査官の拡充︑参与員制度の導入︑強制訴訟参加の採用︑人事訴訟手続の公開停止︑離婚訴訟での和解許容︑
条文のひらがな化などである︒高橋宏志﹁人事訴訟法の制定において﹂家庭裁判月報五六巻︵平成一六年︶四号七五頁
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
7
一改正人事訴訟法の強制参加
︵一︶あらたに規定された強制参加の条文の分析
一改正人訴法では︑強制 ︵6︶参加という手続が︑あらたに導入さ ︵7︶れた︒
すなわち︑同一五条一項では︑﹁検察官を被告とする人事訴訟において︑訴訟の結果により相続権を害される第
三者︵以下︑﹁利害関係人﹂という︒︶を当該人事訴訟に参加させることが必要であると認めるときは︑裁判所は︑
被告を補助させるため︑決定で︑その利害関係人を当該人事訴訟に参加させることができる﹂と規定された︒
この内容は︑行訴法二二条一項との比較でいうと︑同項に規定された職権訴訟参加とほぼおなじものである︑と
いえよう︒すなわち︑第三者からの申立て︵申出︶によらず︑裁判所が職権で参加させるということ︑そして︑そ
の参加させるかどうかは裁判所の裁量であるということである︒歴史的には︑職権訴訟参加は︑行政訴訟固有の手
続であることが︑行政訴訟理論のなかで︑強調されて ︵8︶きたので︑民事訴訟の領域で︑この手続が採用さ ︵9︶れたという
ことじたいも︑ひとつ︑行政法のがわから無視できない事実である︒
同条二項は︑﹁裁判所は︑前項の決定をするに当たっては︑あらかじめ︑当事者及び利害関係人の意見を聴かな
ければならない﹂と規定している︒これには︑行訴法二二条二項の同文の規定が対応している︒いうまでもなく︑
第三者が訴訟参加してくるということじたいが︑訴訟当事者の思惑に反することがあるからである︒ただ︑これは︑
訴訟当事者に異議権を認めたものではないので︑裁判所は︑これらの者の意見を聴くという手続をふめば︑それで 以下︒
︵4︶平成八年改正法︱︱平成八年法一一〇︱︱の三三条に規定された︒そのくわしい経緯については︑注︵7︶参照のこと︒
︵5︶新山﹃職権訴訟参加の法理﹄︱︱︵弘文堂︶行政法研究双書
21︱︱︵二〇〇六年︶
成城法学75号(2007)
8
よいことになる︒ようするに︑裁判所は︑これらの者の意見を聴き︑しんちょうに当該決定を行わなければならな
いということである︒
同条三項は︑﹁民事訴訟法第四十三条第一項の申出又は第一項の決定により検察官を被告とする人事訴訟に参加
した利害関係人については︑同法第四十五条第二項の規定は︑適用しない﹂と規定している︒この民事訴訟法︵以
下︑﹁民訴法﹂とする︶四三条一項の申出というのは︑﹁補助参加の申出﹂である︒そして︑同法四五条二項には︑
﹁補助参加人の訴訟行為は︑被参加人の訴訟行為と抵触するときは︑その効力を有しない﹂と規定されている︒つ
まり︑かような人事訴訟への補助参加は︑たんなる補助参加ではなく︑被参加人の意思に反する訴訟行為まで認め
る﹁共同訴訟的補助参加﹂とするとされたのである︒画期的なことで ︵
ある︒10︶
同条四項は︑必要的共同訴訟の規定︵民訴法四〇条︶が準用されると規定して ︵
いる︒11︶
同条五項は︑第三者を職権で訴訟参加させる事情が消滅した場合には︑裁判所は︑参加決定を﹁取り消すことが
できる﹂と規定している︒
二この強制参加と密接な関係にあるものとして︑裁判所による職権告知の手続が︑べつに︑二八条に規定された︒
すなわち︑﹁裁判所は︑人事に関する訴えが提起された場合における利害関係人であって︑父が死亡した後に認知
の訴えが提起された場合におけるその子その他の相当と認められるものとして最高裁判所規則で定めるものに対
し︑訴訟が係属したことを通知するものとする︒ただし︑訴訟記録上その利害関係人の氏名及び住所又は居所が判
明している場合に限る﹂というものである︒これは︑じつは︑今回の改正まえの平成八年の人事訴訟手続法の部分
改正において︑三三条としてつけ加えられて ︵
いたものが︑そのまま維持されたものである︒12︶
その内容は︑最高裁判所規則所定の範囲 ︵
の者に︑かかる訴訟が係属したということを︑ただ通知するというもの13︶
である︒したがって︑それは︑訴訟参加すべき第三者に参加的効力をおよぼさせようとする訴訟当事者の意図にも
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
9
とづく︑民訴法五三条の﹁訴訟告知﹂とは︑本質的に︑ことなるものである︒
しかし︑筆者にとっては︑このように観念の通知にすぎないような手続を︑わさわざ︑改正人訴法が一五条の強
制参加とはべつに︑規定していることが︑きわめて重大であると思われるのである︒その意味を︑順をおって説明
すると以下のとおりである︒
右に述べたように︑第三者の申出によらないで︑裁判所が職権で第三者を訴訟参加させるという手続が制定され
たわけだが︑その手続においては︑とうぜん︑第三者に︑かかる訴訟が係属されたということの告知も行われる︒
ぎゃくにいえば︑この告知なしに︑第三者を訴訟参加させることはできないのである︒
そうすると︑改正人訴法において強制参加の制度が新設される段階で︑そのなかに︑それまであった訴訟係属の
告知の規定を解消させずに︑強制参加の規定とは別条で︑訴訟係属の告知の規定をのこす必要はなかったのではな
いか︑ということになりそうである︒それを︑あえて︑その規定を残したということは︑立法者が︑訴訟係属の告
知に︑固有の手続保障の意義をみいだしたということに︑ほかならない︒つまり︑強制参加が行われようが行われ
まいが︑二八条所定の範囲の者には︑訴訟係属の旨を通知されなければならないということを︑立法者が認めたと
いうことである︒
そして︑筆者が︑このように規定されたことを︑たかく評価するのは︑まさに︑この訴訟係属の告知こそ︑かか
る第三者に対する権利保護の真髄であると︑筆者の著書でも主張していたからで ︵
ある︒ただ︑その︑筆者が取消訴14︶
訟において主張したことの意味と︑人訴法でかような訴訟係属の通知が規定されたことの意味が︑おなじであるか
は︑これから︑つきつめて検討する必要がある︒
三それから︑もうひとつ︑あらたに︑﹁人事訴訟の確定判決には︑⁝⁝⁝第三者に対してもその効力を有する﹂
と規定された二四条一項も︑強制参加に関連するものとして︑見ておかなければならないであろう︒
成城法学75号(2007)
10
ここで注意しなければならないのは︑﹁人事訴訟の確定判決には﹂とされていることから︑人事訴訟の判決のう ちの形成判決についてだけ︑対世効︵第三者効︶があるというわけでは ︵
ない︒人事訴訟の性格から︑確認判決もふ15︶
くまれていると考えるべきであ ︵
ろう︒このようにひろく対世効が認められたこととの関係で︑第三者の権利保護が︑16︶
とうぜんに問題にされたわけだが︑このことについては︑以下に︑くわしく検討する︒
︵二︶強制参加︑職権告知の制定の趣旨
一改正人訴法で︑あらたに︑裁判所が職権で訴訟係属のむねを告知する手続が導入された︵二八条︶のは︑さき
ほども見たように︑﹁死後認知﹂訴訟が係属した場合についてである︒いっぽう︑強制参加が行われる場合も︑一
五条一項では︑﹁検察官を被告とする人事訴訟において﹂と規定されたものの︑じっさいには︑﹁死後認知﹂訴訟が
念頭にあったようで ︵
ある︒17︶
その﹁死後認知﹂訴訟とは︑通常の認知訴訟の被告とすべき父親が︑すでに死亡している場合に︑なお認知を求
めるという訴訟であるが︑とうぜん︑だれを被告とするかが問題となる︒認知の請求は︑そもそも︑父親に対して
するもので ︵
あるので︑ほんらい︑﹁死後認知﹂訴訟というものはありえないはずであるが︑認知を求める原告には︑18︶
個人的にそれなりの切実な必要性があるので︑訴訟を成立させるため︑公益の代 ︵
表者として︑検察官をとくに被告19︶
としたので ︵
ある︒20︶
しかし︑ここで考えなければならないのは︑この場合に︑訴訟の基礎となる実質な紛争は何であるのかというこ
とである︒きわめて私法的な事情になるが︑認知のうらには︑たいてい︑相続をめぐる争いがあるようである︒そ
うすると︑ひとつの考えかたとして︑利害関係人︱︱原告が認知されることにより自己の相続分が侵害される推定
相続人︱︱を︑被告とするということもありうるであろうが︑それは採用されなか ︵
った︒これは筆者の考えである21︶
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
11
が︑﹁死後認知﹂の訴えも認知の訴えであるので︑いくら基礎に相続上の争いが横たわっているといっても︑利害
関係人を被告とするのは適当でないという考慮があったのであろう︒
ともかく︑この場合には︑じっさいの紛争の当事者である利害関係人は︑訴訟の第三者として︑訴訟のそとにお
かれ︑その命運を検察官に託することに ︵
なる︒しかし︑検察官を被告とすることについて︑人事訴訟の理論で指摘22︶
されていることは︑問題が私人のプライバシーに関わる私的な領域であるので︑検察官といえども︑スミからスミ
まで﹁しらみつぶしに﹂調査することは困難で︑事情をじゅうぶんに把握した主張・証明はできないということで
ある︒ならば︑紛争の基礎にある相続関係に密接に関わっており︑
死亡した父親
︵ 母 親
︶ とちかしい
﹁ あいだが
ら﹂にあった者などを訴訟に引き込むことで︑みずからの経験にもとづく︑より的確な主張・証明を期待できるの
ではな ︵
いか︑という考慮が生まれ︑それが︑強制参加の採用のひとつの根拠となったようで23︶︵
ある︒24︶
二つぎに︑訴訟の係属を利害関係人に告知するという手続についてであるが︑今回の改正以前の︑平成八年の旧
人事訴訟手続法の部分改正で︑この手続が導入された趣旨は︑同法一八条に規定されていた既判力の拡張との関係
に ︵
ある︒25︶
同条一項は︑﹁婚姻ノ無効若クハ取消︑離婚又ハ其取消ノ訴ニ付キ言渡シタル判決ハ第三者ニ対シテモ其効力ヲ
有ス﹂と規定し︑二項は︑﹁民法第七百三十二条ノ規定ニ違反シタルコトヲ理由トシテ婚姻ノ取消ヲ請求シタル場
合ニ於テ其訴ヲ棄却シタル判決ハ当事者ノ前配偶者ニ対シテハ其者カ訴訟ニ参加シタルトキニ限リ其効力ヲ有ス﹂
と規定されていた︒いうまでもなく︑一項が原則で︑二項は︑重婚関係という特殊の場合について︑とくに定めた
ものである︒
原則である一項について見てみると︑同項の﹁第三者ニ対シテモ其効力ヲ有ス﹂というのは︑既判力の拡張と形
成効︵対世効︶の難解な﹁かみあわせ﹂である︒それを︑わかりやすく説明すると︑以下のとおりである︒
成城法学75号(2007)
12
離婚判決や婚姻取消判決は︑形成判決で︑実体法上の権利変動を生ずる形成効を有する︒そして︑その形成の結
果については︑ひろく一般に通用させる対世効がはたらくと理解されている︒その場合に︑確定した形成判決に既
判力も生ずるのかということは︑民事訴訟理論上の大問題であ ︵
った︒今日的理解によ26︶︵
れば︑形成判決には︑第三者27︶
もこれに承服すべき対世効を生ずるが︑形成判決の権利変動の結果を︑︵形成権がじっさいに存在しないのに︑あ
ると認定された場合にも︶訴訟上争えないという不可争性の効力は︑既判力のおよぶ者にかぎって生じ︑既判力の
およばない者には︑形成権の欠缺を理由として︑形成の結果を争うことができる︒したがって︑同項が既判力に関
する規定であるとすると︑既判力が拡張される﹁第三者﹂とは︑その者との後訴において︑ふたたび︑おなじ訴訟
物が問題となる場合の者であるか︑その者との後訴の訴訟物に対して前訴の訴訟物が先決的関係にたつ場合の者で
あり︑それらの者にかぎって既判力が拡張されるので ︵
ある︒28︶
そして︑この婚姻の無効︑取消し等に関する判決の既判力拡張の規定は︑同法三二条一項により︑親子関係にも
準用されるので︑認知の訴えに対する判決の既判力も第三者に拡張される︒しかし︑このように第三者に既判力を
拡張することについては︑訴訟手続に関与することのなかった第三者への憲法三二条の﹁裁判をうける権利﹂から
の手続保障が︑問題と ︵
され︑その﹁てあて﹂として︑旧人事訴訟手続法に︑三三条が︑追加立法されたのである︒29︶
その規定内容は︑﹁裁判所ハ父ガ死亡シタル後ニ子ノ認知ノ訴ノ提起アリタル場合ニ於ケル其相続人タル子其他
ノ訴訟ノ結果ニ因リテ相続権ヲ害セラルベキ者ニシテ相当ト認メラルルモノトシテ最高裁判所規則ノ定ムルモノニ
訴訟ガ係属シタルコトヲ通知スルモノトス但訴訟記録上其者ノ氏名及ビ住所又ハ居所ガ判明シタル場合ニ限ル﹂と
いうものであった︒これは︑あきらかに︑﹁死後認知﹂訴訟を前提とするものであって︑﹁相続﹂という利害関係の
ゆえに︑﹁相続権ヲ害セラルベキ者﹂には訴訟係属のむねを﹁通知﹂しなければならないという理を認めるもので
あった︒
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
13
三改正人訴法では︑すでに見たように︑二八条に︑この趣旨がうけつがれた︒文言の若干の変更はあるものの︑
中心は︑﹁死後認知﹂訴訟が係属されたことを︑認容判決により相続権を害される者に﹁通知するものとする﹂と
いうことで ︵
ある︒30︶
ところで︑このような通知をすることが︑人事訴訟手続において︑手続保障としてどういう意味をもつかという
ことだが︑それについては︑通知をうけることで︑訴訟係属の事実を知り︑補助参加の申出をする機会が与えられ
るということのようであ ︵
った︒そうすると︑いっぽうで︑改正人訴法に強制参加が規定されたこととの関係が問題31︶
となろう︒これは︑重要な問題であるので︑整理して分析しよう︒
順番からいうと︑旧人事訴訟手続法において︑まず︑第三者への既判力の拡張の規定があり︑その拡張をうける
第三者の手続保障として︑訴訟係属の通知が追加立法され︑そのうえに︑改正人訴法で︑強制参加の制度が新設さ
れたのである︒そこで︑注意しなければならないのは︑すでに︑判決の効力を直接にうける第三者へ訴訟係属の通
知が行われ︑第三者が︑みずから補助参加の申出をしようと思えばできるという状況のなかで︑さらに︑改正人訴
法で︑対世効が規定されたこととあわせて︑裁判所が︑職権で第三者を訴訟参加させることができる︑とされたこ
とである︒ここが︑重要なポイントであると思われるので︑よく考えてみよう︒
今回の人訴法の改正で︑強制参加の手続が導入された趣旨については︑形式上の被告とされた検察官以外に︑じ
っさいの事情に精通した︑﹁死後認知﹂訴訟の被告となるにふさわしい者があるときは︑強制参加という手法で︑
その者を訴訟に引き込むことがのぞましいということであったようで ︵
ある︒そうなると︑この裁判所が職権で行う32︶
強制参加は︑かならずしも︑第三者の手続保障として行われるものではない︑ということになりそうである︒なぜ
なら︑裁判所は︑右のような強制参加の導入の趣旨にてらせば︑相続に利害関係を有する者がいても︑この者を訴
訟参加させても実体的法律関係の解明につながらないと判断すれば︑この者を︑職権で訴訟参加させる措置をとら
成城法学75号(2007)
14
ないであろうと考えられるからである︒
なお︑この︑職権告知と強制参加の︑第三者に対する手続保障として意味については︑最後に︑あらためて検討
する︒
︵6︶改正人訴法一五条一項に規定された手続を︑民事訴訟理論では︑職権︵訴訟︶参加ではなく︑﹁強制参加﹂という名
称で説明されている︒高橋宏志﹁民事訴訟法改正・人事訴訟法制定﹂自由と正義五四巻︵二〇〇三年︶七号五三頁以下︑
梶村太市=徳田和幸編﹃家事事件手続法﹄︵二〇〇五年︶一四九頁など︒
ただ︑この呼称が︑民事訴訟一般ですでに市民権を得たものであるかは︑疑問である︒たとえば︑改正人訴法の本格
的教科書である︑松本博之﹃人事訴訟法﹄︵二〇〇六年︶では︑﹁強制参加﹂ということばは使われず︑﹁利害関係人の
訴訟参加﹂とされている︒同︑吉岡睦子=長谷部由紀子編﹃Q&A人事訴訟法解説﹄︵二〇〇四年︶八五頁︒
︵7︶旧人事訴訟手続法︱︱注︵1︶︱︱︵全三二ケ条︶では︑第三者の訴訟参加に関する規定はおかれず︑原告適格およ
び被告適格に関する規定のみがおかれていた︒しかし︑同法の平成八年の改正︵平成八年法一一〇︶で︑訴訟のそとに
ありながら判決の結果により相続権を害される第三者に︑訴訟係属のむねを告知するものとするという三三条の規定
が︑つけ加えられた︒これにより︑第三者に補助参加の申出をする機会を与えるという考慮が︑根底にある︒
︵8︶職権訴訟参加が行政訴訟固有の手続であり︑行政訴訟における訴訟参加は職権訴訟参加を基調とするという立場は︑
明治の佐佐木惣一博士︑美濃部達吉博士いらい一貫して認められる︒この分析については︑新山・前掲︵注︵5︶参照︶
二〇六頁以下を参照されたい︒
︵9︶改正人訴法で強制参加が採用されたのは︑高田裕成教授の研究︱︱﹁いわゆる対世効論についての一考察︱︱身分訴
訟に焦点をあてて︱︱︵一︶﹂法学協会雑誌一〇四巻︵一九八七年︶八号一一二九頁以下︑﹁同︵二︶﹂一〇四巻一一号
一五一三頁以下︑﹁身分訴訟における対世効論のゆくえ﹂法学教室六六号︵一九八六年︶四三頁以下︱︱からの提言に
よるところが大である︒
高田教授の研究の主眼は︑身分訴訟の判決の効力が︑一般第三者に対世的に拡張されるとされることのなかで︑対世
効︵第三者効︶により権利を侵害される第三者の保護が︑いっぽうで考えられなければならない︑ということであり︑
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
15
教授は︑その論証として︑ドイツ行政裁判所法(VwGO)の﹁必要的訴訟参加﹂の理論︑フランスの身分訴訟の規律の︑
レベルのたかい︑ちみつな分析を行っておられる︒
ところで︑このドイツの必要的訴訟参加の理論の分析は︑筆者の著書でも︑重要な論拠として行っている︱︱前掲︵注
︵5︶参照︶一一頁以下︱︱ところである︒ようするに︑筆者がめざしたところは︑教授がめざされた方向にあったとい
うことである︒なお︑筆者の著書の﹁はしがき﹂のなかで︑ドイツの必要的訴訟参考の理論の本格的な分析を︑筆者が
最初に行ったように書いてしまったが︑高田教授の右研究論文のなかで︑すでに︑民事訴訟法研究者の目からのするど
い分析が行われていた︒ここに訂正するとともに︑高田教授に対して︑おわびさせていただきたい︒
︵
10︶判決の効力をうける関係にある第三者が︑補助参加する場合には︑通常の補助参加人より強い訴訟上の地位︱︱主た る当事者︵=被参加人︶の意思に反する訴訟行為もできる︱︱が与えられるという︑﹁共同訴訟的補助参加﹂の理論は︑
わが国の民訴法にも行訴法にも︑いまだ規定されていないが︑学説・判例では︑ひさしい以前から認めてきた︒それが︑
改正人訴法において︑はじめて︑立法化されたのである︒
︵
11︶行訴法二二条でも︑おなじく︑民訴法四〇条一項ないし三項を準用すると規定されている︒
︵
12︶その三三条は︑﹁裁判所ハ父ガ死亡シタル後ニ子ノ認知ノ訴ノ提起アリタル場合ニ於ケル其相続人タル子其他ノ訴訟
ノ結果ニ因リテ相続権ヲ害セラルベキ者ニシテ相当ト認メラルルモノトシテ最高裁判所規則ノ定ムルモノニ訴訟ガ係属
シタルコトヲ通知スルモノトス但訴訟記録上其者ノ氏名及ビ住所又ハ居所ガ判明シタル場合ニ限ル﹂と規定していた︒
これとほぼおなじ内容が︑改正人訴法二八条にうけつがれた︒
この三三条の規定が旧法に追加制定された背景には︑利谷信義博士の︑死後認知訴訟で﹁実務上被告となる検察官は︑
利害関係人に対し︑認知の訴えの提起があつたことを通知して補助参加の機会を与えることが望ましい﹂という立法論
︱︱中川善之助﹃注釈民法︵
22︶のⅠ・親族︵3︶﹄︵一九七一年︶二七七頁以下︹利谷執筆︺︱︱などがあった︒
︵
13︶人事訴訟手続法︱︱注︵7︶参照︱︱三三条に︑このように規定されていた︒これにあわせて︑﹁人事訴訟手続法第三
十三条の規定による通知に関する規則﹂︱︱平成八年最高裁判所規則七号︱︱が制定された︒
︵
14︶参照︑新山・前掲︵注︵5︶︶五四九頁以下︒
︵
15︶もともと︑形成効については︑形成判決の基礎にある実体的法律関係により生じるものであるので︑訴訟法に形成効
︵対世効︶の規定があろうがなかろうが︑生じるものであるという理解がある︒
成城法学75号(2007)
16
︵ 16︶松本・前掲︵注︵6︶参照︶二三二頁以下︑梶村
徳田前掲︵注︵6︶︶一七五頁︑山木戸克己﹃人事訴訟手続法﹄︵一 ‖
九五八年︶一三七頁︒
︵
17︶高橋︑高田ほか﹁
研究会 <
人事訴訟法の基本構造﹂ジュリスト一二五九号︵二〇〇三年︶五二頁︹高田発言︺参照︒ >
これは︑改正人訴法の立案に参画された方々の対談形式による立法趣旨説明である︒
︵
18︶母親が︑認知訴訟の被告となりうるかについては︑旧人事訴訟手続法時代から︑争いがあった︒理論的には︑認知訴
訟では︑父の子であるかが問題なのだが︑子の出生がはっきりしないときは︑母に対する認知の訴えというものも考え
られる︒なお︑民法七九九条は︑父または母が認知するとし︑旧人事訴訟手続法二九条の二および人事訴訟法四二条一
項は︑認知訴訟では︑父または母を被告とすると規定している︒なお︑注︵
30︶参照︒
︵
19︶検察官が︑人事訴訟に関与することの直接の根拠は︑検察庁法︱︱昭和二二年法六一︱︱四条であり︑﹁検察官は︑
刑事について︑公訴を行い︑裁判所に法の適当な適用を請求し︑且つ︑裁判の執行を監督し︑又︑裁判所の権限に属す
るその他の事項についても職務上必要と認めるときは︑裁判所に通知を求め︑又は意見を述べ︑又︑公益の代表者とし
て他の法令がその権限に属させた事務を行う﹂と規定されている︒この︑検察官を︑﹁公益の代表者として﹂︑訴訟に関
与させることを︑改正人訴法が規定したのである︒
人事訴訟手続が︑ここでいう﹁公益﹂にあたることの意味については︑注︵1︶を参照されたい︒
︵
20︶歴史的に解説すると︑明治二三年に制定された旧民訴法︱︱同年法二九︱︱では︑婚姻に関する訴訟︑親子・養親子
その他すべての人の分限に関する訴訟などについて︑検察官が︑意見を述べるために︑口頭弁論に立ち会うべきものと
していた︵同法四二条︶が︑大正一五年の改正︱︱同年法六八︱︱では︑この立会いは撤廃された︒いっぽう︑明治三
一年に制定された旧人事訴訟手続法︱︱同年法一三号︱︱では︑最初から︑広汎な検察官の関与が規定され︑特定の訴
えで﹁職務上の当事者﹂となることも規定された︒ただ︑父を定めることを目的とする訴え︱︱認知訴訟︱︱につき︑
被告たるべき父が死亡した場合には︑検察官を被告としうるかについては︑明記されていなかったことから︑争いがあ
った︒それが︑昭和一七年の民法の改正︱︱同年法七︱︱で︑父母の死亡の日から三年以内にかぎって認知の訴えを提
起できると規定されたことに対応して︑旧人事訴訟手続法に︑かかる場合は検察官を被告とする旨が明記された︵三二
条二項︑二条三項︶︒
あらたな人訴法への改正においては︑これをあらため︑利害関係人を被告とすることが検討されたようであるが︑実
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
17
現しなかった︒高橋︑高田ほか・前掲︵注︵
17︶︶五二頁︹高田発言︺では︑訴え提起の段階で︑相続人全員を被告とし
なければならない負担を︑原告におわせることが︑制度としていいかどうかが問題となり︑さしあたり検察官を被告と
して訴えを提起することを︑ゆるしたものであるという説明がされている︒
︵
21︶参照︑注︵
20︶︒
︵
22︶利害関係人が︑被告となる検察官にすべてを託して︑なにも言わないかというと︑どうも︑そうではないようである︒
高橋教授は︑強制参加は︑﹁検察官にあれこれ言うが後ろにいて訴訟には出てこない者を︑訴訟に登場させる方途を開
いた﹂ものであると規定されている︒高橋﹁民事訴訟法改正・人事訴訟法制定﹂自由と正義五四巻︵二〇〇三年︶七号
五四頁︒
︵
23︶通常︑認知訴訟においては︑注︵
43︶に上げたような私的な事情に関わる証明を要するので︑死亡した父の周囲にいた
利害関係人を訴訟当事者としたほうが︑より実体にそくした審理が可能になるものと思われる︒
︵
24︶このように︑強制参加という手続により︑訴訟追行する最も適切な者を訴訟に引き込み︑適正な訴訟追行をさせるこ
とが︑﹁実体的真実発見の高度の要請﹂につな
がると説明された
︒ http://www.moj.go.jp/SHINGI/011019–1.html﹁法制審
議会民事・人事訴訟法部会人事訴訟分科会第2回会議議事録﹂︵二〇〇一年一〇月一九日︶五頁︒
もともと︑死後認知訴訟で︑︵形式的に︶検察官を被告とすることには︑異論があった︒谷口知平博士が︑検察官を
被告とすることをやめ︑認知の結果につきもっとも利害関係のある嫡出子たる共同相続人や遺妻などを︑共同被告とし
て︑検察官は立ち会って意見を述べるだけとするほうが︑真実をよりよく発見できるし︑後日に紛争をのこさなくてよ
いとされていた︱︱同﹃親子法の研究﹄︵一九五六年︶一九五頁─︱︱のが︑その代表である︒
︵
25︶﹁法制審議会民事・人事訴訟法分科会第2回会議議事録﹂︵注︵
24︶︶五頁︒
︵
26︶筆者の理解によれば︑つぎのとおりである︒
民事の法律関係における﹁形成効﹂は︑実体法に規定された形成要件の充足によって︑基本的に生じるものであるが︑
法政策的に︑その発生を裁判所の判決によらしむとされているもので︑たしかに︑同一の原告と被告というかぎられた
範囲で︑前訴で下された判断が後訴を拘束するということに本質がある既判力とは︑性質がことなる︒歴史的に︑給付
訴訟と確認訴訟しかなかった民事訴訟に︑あらたに︑形成訴訟なる観念がもちこまれたころには︑形成効がはたらくと
ころでは︑既判力が生じる余地はないという説明が一般であった︒しかし︑そのあと︑このような理解に︑反省が加え
成城法学75号(2007)
18
られることになったのである︒
︵
27︶新堂幸司﹃新民事訴訟法︹第三版︺﹄︵二〇〇四年︶一九五頁︑伊藤眞﹃民事訴訟法︹補訂第2版︺﹄︵二〇〇〇年︶四
九九頁以下など︒
︵
28︶松本・前掲︵注︵6︶︶二三四頁以下︒
︵
29︶法制審議会民事訴訟法部会で︑一九九〇年二月より始まった民事訴訟手続のみなおし作業において︑一九九一年一二
月に公表された﹁民事訴訟手続に関する検討事項補足説明﹂について解説された︑柳田幸三﹁民事訴訟手続に関する検
討事項﹂ジュリスト九九六号︵一九九二年︶七九頁に︑以下のような問題認識があったことが︑記されている︒
﹁人事訴訟において判決の効力を受ける第三者の救済方法
1人事訴訟において判決の効力を受ける第三者の救済方法について︑改正すべき点があるか︒
2例えば︑次のような考え方があるかどうか︒
︵一︶裁判所は︑人事訴訟において︑訴訟の結果により権利を害される第三者で知れているものに対し︑訴訟が
係属したことを通知するものとするとの考え方
︵二︶訴訟の結果について利害関係を有する者は︑補助参加の申出と同時に再審の訴えを提起して︑第四二〇条
第一項各号に該当する事由を主張することができるものとするとの考え方﹂
また︑歴史的には︑人事訴訟の判決に利害関係を有する者を訴訟参加させないで︑判決が下された場合は︑対世効は
制限されるとする説︱︱吉村徳重﹁判決効の拡張と手続権保障︱︱身分訴訟を中心として﹂︵﹃山木戸克己教授還暦記
念・実体法と手続法の交錯︵下︶﹄︵一九七八年︶︶一三九頁︱︱もあったが︑ここでは立ち入らない︒なお︑吉村説に
ついては︑高田﹁身分訴訟における対世効論のゆくえ﹂︵注︵9︶︶四三頁以下で︑するどい分析が加えられている︒
︵
30︶どの範囲に通知するかは︑一七種の人事訴訟について個別に通知すべき者を定める人事訴訟規則︱︱平成一五年最高
裁判所規則二四号︱︱一六条別表によることになった︒その六番めの﹁認知の訴え﹂では︑﹁父が死亡した後に訴えの
提起があった場合におけるその相続人︵父の妻で子又はその代襲者とともに相続した者を除く︒︶﹂とされている︒つま
り︑認知の訴えでは︑︵認知の相手方である︶父が死亡し︑相続関係が発生した場合にのみ︑利害関係人が生ずると考
られているのである︒
︵
31︶﹁法制審議会民事・人事訴訟法分科会第2回会議議事録﹂︵注︵
24︶︶六頁︒
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
19
二人事訴訟と取消訴訟
︵一︶人事訴訟における強制参加と取消訴訟における職権訴訟参加
一筆者は︑﹃職権訴訟参加の法理﹄において︑︵訴訟外の︶第三者に対する職権告知の必要性を主張した︒ところ
が︑まさに︑その職権告知の手続が︑すでに︑人事訴訟法に導入されているのである︒そこで︑筆者は︑あらため
て︑人事訴訟法の改正の趣旨・目的をしさいに検討したけっか︑人事訴訟手続において職権告知が採用されたこと
が︑筆者の主張のひとつの重要な論拠となるのではないか︑と考えるにいたった︒そのことを︑ここで論証しよう
と思う︒
順番として︑取消訴訟の問題を論ずるにあたって︑なぜ︑人事訴訟における制度改革が参考になるのか︑という
ことを︑最初に︑はっきりさせなければならないであろう︒
それは︑ひとえに︑死後認知訴訟が︑検察官を被告とするということにある︒これにより︑実質的な当事者が訴
訟のそとにおかれ︑それにもかかわらず︑この者に判決の効力がおよぶという関係になるが︑それは︑まさに︑筆
者が﹃職権訴訟参加の法理﹄の考察の基礎とした法律関係︱︱二重効果的行政処分の取消しをめぐる関係︱︱とお
なじである︒したがって︑人事訴訟において︑訴訟のそとにいるが︑訴訟の帰すうに切実な利害関係をもつ第三者
に対して︑手続上の権利保障として︑一歩さきを行く制度改革が行われたということは︑筆者がけっして無視して
はならないことであったのである︒
ただ︑筆者が取消訴訟について主張することの論拠として︑人事訴訟において︑すでにおなじような改革が行わ ︵
32︶高橋︑高田ほか・前掲︵注︵
17︶︶五三頁︹小野瀬厚発言︺︒ 成城法学75号(2007)
20
れているということを上げるのであれば︑とうぜん︑その前提として︑つぎのことをあきらかにしなければならな
いであろう︒第一に︑取消訴訟における第三者をめぐる︵訴訟上の︶法律関係と︑人事訴訟における第三者をめぐ
る︵訴訟上の︶法律関係との同質性である︒そのうえで︑第二に︑人事訴訟における第三者の手続保障と︑取消訴
訟における第三者の手続保障の同質性について︑あきらかにしなければならないであろう︒
二まず︑取消訴訟における第三者をめぐる︵訴訟上の︶法律関係について見ていく︒それについては︑筆者が︑
﹁職権訴訟参加の法理﹂の考察の基礎として︑取消訴訟の構造分析をしたけっか︑取消訴訟に第三者が訴訟参加す
ることの意義について︑つぎのような疑問をいだ ︵
いたことを確認しておくべきであろう︒33︶
︹行政処分の取消しを求める訴えに第三者が訴訟参加することになるのは︑その処分が︑第三者を名あて人とし
て利益を与えるが︑同時に︑原告に不利益を与えるような︑いわゆる﹁二重効果的行政 ︵
処分﹂である場合で34︶︵
ある︒35︶
このとき︑原告は︑とうぜん︑処分により自己の権利が侵害されたと主張して︑処分の取消しを求める訴えを提
起することになるが︑被告は国︵行政庁︶で ︵
ある︒そして︑処分の取消訴訟においては︑処分が違法であると認36︶
定された場合に︑処分は取り消されることになるので︑被告国︵行政庁︶は︑みずからの行った処分の適法性維
持の ︵
ため︑とうぜん︑必死で主張・証明をつくすことになる︒このようなシチュエーションのもとで︑かりに︑37︶
処分の名あて人である︵取消訴訟の︶第三者が︑被告のがわに訴訟参加しても︑被告のする主張・証明以外︑以
上の ︵
ことは︑なにもできないのではないか︒︺38︶
この疑問は︑まさに︑行政庁が︑行政事件について︑第一次的に事実認定を行い︑それにもとづいて法的判断を
行うという行政法上の関係︑および︑行政法のしくみに起因している︒自己に授益的な処分が行われることを欲す
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
21
る者は︑申請において︑処分の要件となる事実の存在をしるした書類を提出し︑同時に︑それを証明するものも︑
ことごとく︑行政庁に提出するはずである︒かりに︑それ以外の証拠があったとしても︑それに気づいた時点で︑
行政庁に提出すれば︑それで ︵
済む︒39︶
かような関係においては︑第三者が訴訟参加したとしても︑訴訟の帰すうに影響を与えることはすくない︒なら
ば︑このことは︑取消訴訟へ第三者が訴訟参加することの意義として︑むかしからいわれてきた︑﹁実質的な当事
者である第三者を訴訟参加させることで︑訴訟資料を豊富にする﹂という ︵
ことにも︑また︑﹁取消判決により権利40︶
を侵害される第三者に︑訴訟において自己の権利を防衛する機会を与える﹂という ︵
ことにも︑疑いをいだかせるも41︶
のである︒
結論として︑取消訴訟においては︑処分の適法性について︑処分を行った行政庁︵国︶が主張・証明をつとめて
いる︱︱結果的に第三者の権利を防衛することになる︱︱ので︑第三者が訴訟参加しなければならない切実な必要
性は ︵
ない︒42︶
三それに対して︑死後認知訴訟においては︑利害関係人が訴訟参加しなければならない緊急の必要性がある︒そ
れは︑人事訴訟の基礎となる固有の実体的法律関係から生ずる必要性である︒それがどのようなものであるのか︑
順序だてて分析しよう︒
死後認知訴訟では︑検察官が被告の地位につく︒これは︑まえにも見たとおり︑ほんらいの被告である者が死亡
しているので︑︵行政機関である︶検察官が︑いわば形式的に被告とならざるをえないということなのである︒た
だ︑民事の法律関係として︑認知すべき父が死亡したのちに︑なお︑認知を求める訴えが提起されてくるというこ
とは︑おおくの場合︑その背後に﹁相続関係﹂があるのである︒そうすると︑とうぜん︑認知が認められるかどう
かという訴訟の結果によって︑自己の相続分が侵害される利害関係人が存在する︒つまり︑この訴訟は︑形式的に
成城法学75号(2007)
22
は︑検察官に対して認知を求める訴えであるが︑実質的には︑認知を求める原告と︑認知により相続権を害される
利害関係人のあいだの争いである︑ということである︒
それにもかかわらず︑検察官が形式的に被告となり︑訴訟が︑おもてむきは︑死後認知を求める原告と検察官の
あいだの争いとなっているところに︑問題がある︒被告となった検察官にとっては︑当面の﹁認知﹂の当否のみが
問題なのであって︑その背後にある﹁相続﹂関係については︑ほとんど眼中にない︒原告は︑もちろん︑認知を求
めて訴訟を起こしているのであるから︑原告と被告検察官のあいだで推移する訴訟においては︑もっぱら認知のこ
とのみが論議の対象と ︵
なり︑認知されることにより︑相続権が侵害されることになる利害関係人のことは︑とくに43︶
考慮されることは ︵
ない︒44︶
そうすると︑そこに︑死亡した被認知者の周囲にいた︑被認知者からの相続について利害関係を有する者たちの︑
訴訟参加することの切実な必要性が生じそうである︒この者たちにとって︑検察官は︑けっして︑じぶんたちの利
益の代弁者ではないし︑じぶんたちの権利を保護してくれるものではない︒じぶんたちの権利・利益は︑じぶんた
ちが訴訟参加したうえで︑みずから主張するしかないので ︵
ある︒45︶
︵二︶行政事件訴訟法の手続保障と人事訴訟法の手続保障の相違
一自己に授益的な行政処分の取消しを求める訴えを︑他の者によっておこされ︑その訴えを認める判決が下され
れば︑自己の︵処分による︶既得の法的地位が覆滅されるという立場にある︵取消訴訟の︶第三者に対する手続保
障として︑行訴法が用意してものは︑周知のごとく︑同法二二条の﹁第三者の訴訟参加﹂と同三四条の﹁第三者の
再審の訴え﹂である︒
その二二条一項は︑﹁裁判所は︑訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは︑当事者若しくはその第
改正人事訴訟法と取消訴訟における職権告知
23