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厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)
神経変性疾患領域における基盤的調査研究 分担研究報告書
脊髄空洞症における臨床経過とくに疼痛に関する検討と 素因遺伝子解析研究の進捗
分担研究者 佐々木秀直 北海道大学大学院医学研究院神経病態学分野神経内科
共同研究者:矢部一郎1)、関 俊隆2)、松島理明1)、高橋育子1) 、松本直通3)、
寶金清博2)
所属:1)北海道大学神経内科
2)北海道大学脳神経外科 3)横浜市立大学遺伝学
A. 研究目的
脊髄空洞症は脊髄内部に脳脊髄液が貯留 した空洞を形成することで感覚障害や疼痛を 呈する疾患で、キアリ奇形、脊髄損傷、脊髄 感染症、腫瘍などと関連して生じることが多 い。
主に神経所見と脊髄MRIにて診断がなされ る。本邦では2008年8月から2009年7月 の1年間における全国疫学調査が実施され、
その有病率は人口10万人あたり1.94人程度 であろうと推定されている。脊髄空洞症の発 症素因は解明されていないが、家族歴症例が 研究要旨
脊髄空洞症は脊髄内部に脳脊髄液が貯留した空洞を形成することで感覚障害や疼痛を呈する 疾患で、キアリ奇形などと関連して生じる。主に神経所見と脊髄MRIにて診断がなされる。本邦 では2008年8月から2009年7月の1年間における全国疫学調査が実施され、その有病率は人口 10 万人あたり 1.94 人程度であろうと推定されている。脊髄空洞症の発症素因は解明されていな いが、家族歴症例が存在すること、キアリ奇形などの後頭蓋窩や脊椎の奇形を合併する症例も多 いことから、発症には何らかの遺伝素因が関与するものと考えられている。本症は 2015 年より 指定難病に認定されているが、外科治療が可能な疾患であり、外科治療後の残存症状の頻度や、
継続治療の必要な患者の割合などが把握されておらず、治療後の医療依存度がよくわかっていな い。そこでわれわれは臨床経過を解析し、その残存症状について検討した。加えて、本症の病態 を解明するために実施中である素因遺伝子解析研究の進捗について報告した。手術を実施しなか った症例5例と手術症例22例を対象に解析したところ、手術無し症例のなかには自然軽快例も存 在した。術後残存症状は19例に認められ、投薬治療が必要であったものは9例で、その投薬目的 のほとんどが疼痛緩和であった。疼痛の一部は難治性に経過し、1例は脊髄刺激療法が施行され 奏効した。神経放射線学的解析では脊髄後角へ空洞が伸展している症例では大きさに関係なく痛 みが残存する傾向があり、また大きな空洞でも中心にある場合は疼痛が残存しない傾向が認めら れた。以上の結果は、空洞の局在と疼痛により本症の予後が規定される可能性を示している。素 因遺伝子解析研究については、新たにキアリ奇形1型に伴う脊髄空洞症の姉妹と軽度のキアリ奇 形1型のみを認める母の家族例を見出した。現在この家族例に加えて、発症者と家系内非発症者 の2組と伴に次世代シークエンサーを用いて解析中であるが、現時点で素因遺伝子は同定できて いない。
99 報告されていること、キアリ奇形などの後頭
蓋窩や脊椎の奇形を合併する症例も多いこと から、脊髄空洞症の発症には何らかの遺伝素 因が関与するものと考えられている。そこで われわれは本研究班において家族性脊髄空洞 症の疫学調査を実施し、本邦において家族例 は極めてまれながら少数例存在することを報 告した。これらのことは、病態には遺伝要因 が関与することを推定させるものであるので、
素因遺伝子解析を実施中である。
また、本症は2015年より指定難病に認定 されているが、外科治療が可能な疾患であり、
外科治療後の残存症状の頻度や、継続治療の 必要な患者の割合などが把握されておらず、
治療後の医療依存度がよくわかっていない。
そこでわれわれは臨床経過を解析し、その残 存症状について検討した。
B. 研究方法
2003年7月から2017年10月の間に北海道大 学病院神経内科または脳神経外科に通院中の 患者27例(キアリ奇形1型を伴う症例 22例、キ アリ奇形2型を伴う症例 1例、頚椎融合症を伴う 症例 1 例、特発性 3 例)の臨床経過を後方視 的に解析した。素因遺伝子解析については新た に見出された家族発症例(キアリ奇形1型に脊髄 空洞を伴う姉妹例とキアリ1型奇形のみの母)に 加えて、発症者と家系内非発症者の2組(うち1 組はトリオ)を対象に解析した。
これらの研究は北大病院自主臨床研究および 北海道大学倫理委員会で承認されている。
C.研究結果
対象者の平均発症年齢は 24.9±13.8(SD)歳で、
そのうち女性 22 例、手術症例 22 例{手術時平
均年齢 27.4±14.7(SD)歳}であった。手術を実
施しなかった症例のなかには自然軽快例も存在
した(図)。術後残存症状については、術前と変 化なし6例、軽減するも残存13例、消失 1例、
もともと無症状2例であった。平均術後通院期間
37.2±27.9 か月で、術後投薬治療が必要であっ
たものは9例でり、その投薬目的のほとんどが疼 痛緩和であった。疼痛の一部は難治性に経過し、
1例は脊髄刺激療法が施行され奏効した。神経 放射線学的解析では脊髄後角へ空洞が伸展し ている症例では大きさに関係なく痛みが残存す る傾向があり(相関係数 0.60, P = 0.03)、また大 きな空洞でも中心にある場合は疼痛が残存しな い 傾 向 が 認 め ら れ た ( 相 関 係 数 -0.60, P = 0.03)。
図. 自然軽快例の頸髄MRI。
自然経過で空洞は著明に縮小している。
素因遺伝子解析研究については、家系例につ いては、表現型は異なるものの母も罹患者であ る可能性も考慮し、母を患者とした場合としなか った場合の両パターンでフィルタリングを行った が、明瞭な原因遺伝子変化は見出されていない。
CNV に つ い て は ,XHMM (eXome Hidden Markov Model, エクソーム隠れマルコフモデル) による解析を行ったが、現時点で明瞭な結果は 得られていない。既知の神経疾患および代謝性 疾患や骨系統疾患の責任遺伝子を特に候補遺
100 伝子として注意を払いつつ,SureSelect Human
All Exon v6 (Agilent) でカバーされる全ての遺 伝子について検討しているが、現時点で明瞭な 結果は得られていない。
D.考察
以上の結果は、痛みを中心とした感覚障害が本 症の医療依存度に大きく関与していることを示し ている。神経放射線学的解析では、空洞の局在 と疼痛により本症の予後が規定される可能性も 示唆されるので、とくに脊髄後角へ空洞が伸展 する病型においては、術後の慎重な経過観察が 必要である。素因遺伝子解析については、現時 点で明確結果は得られていない。素因遺伝子が 複数存在する可能性も十分にあり、トリオを中心 としてさらに症例を蓄積した上で、解析を進める 必要がある。
E. 結論
1.痛みを中心とした感覚障害が本症の医療 依存度に大きく関与する。
2.素因遺伝子解析研究は進捗中であり、ト リオを中心とした今後のさらなる症例蓄積が 必要である。
F. 健康危険情報 特記事項なし
G. 研究発表 1.論文発表
1) Yabe I, Matsushima M, Seki T, Sasaki H. A nationwide survey of familial syringomyelia. J Neurol Sci 381; 128-129, 2017
2) Yabe I, Kitagawa M, Takahashi I, Matsushima M, Sasaki H. The efficacy of istradefylline for treating mild wearing-off in Parkinson disease. Clin
Neuropharmacol 40; 261-263, 2017
3) Nakano F, Sakushima K, Umeki F, Yabe I, Endoh A, Sasaki H. Effects of age and glucose levels on lactate levels in cerebrospinal fluid examination of neurodegenerative diseases. J Neurol Sci 378; 45-48, 2017
4) Yabe I, Yaguchi H, Kato Y, Miki Y, Takahashi H, Tanikawa S, Shirai S, Takahashi I, Kimura M, Hama Y, Matsushima M, Fujioka S, Kano T, Watanabe M, Nakagawa S, Kunieda Y, Ikeda Y, Hasegawa M, Nishihara H, Ohtsuka T, Tanaka S, Tsuboi Y,
Hatakeyama S, Wakabayashi K, Sasaki H.
Mutations in bassoon in individuals with familial and sporadic progressive
supranuclear palsy-like syndrome. Sci Rep 8; 819, 2018
5) 矢部一郎, 佐々木秀直. 脊髄空洞症.
神経治療学 (印刷中) 2. 学会発表
1) Kitagawa M, Yabe I, Takahashi I, Matsushima M, Sasaki H. The efficacy of istradefylline for treating mild wearing-off in Parkinson’s disease. 23rd World Congress of Neurology, Kyoto, Japan, 9/16-9/21, 2017
101 2) Yabe I, Yaguchi H, Kato Y, Miki Y,
Takahashi H, Tanikawa S, Shirai S, Takahashi I, Fujioka S, Watanabe M, Nakagawa S, Kunieda Y, Ikeda Y, Hasegawa M, Nishihara H, Tanaka S, Tsuboi Y,
Hatakeyama S, Wakabayashi K, Sasaki H.
Mutations in bassoon in individuals with familial and sporadic progressive
supranuclear palsy-like syndrome. 23rd World Congress of Neurology, Kyoto, Japan, 9/16-9/21, 2017
H.知的財産権の出願・登録状況
1.特許取得;該当なし 2.実用新案登録;該当なし 3.その他; 該当なし