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特異な走行を呈した動脈管の1例

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口本小児循環器学会雑誌 14巻3号 418〜423頁(1998年)

特異な走行を呈した動脈管の1例

(平成9年9月8U受付)

(平成1{}年5月11日受理)

D興生総合病院小児科,2)社会保険広島市民病院小児循環器,

佐藤 恭子1) 西 key words:動脈管,胎児エコー,心エコー検脅

     }社会保険広島li∫民病院産婦人科 猛2) 正岡  博3)

 今回,特異な走行を呈した動脈管を経験し,胎児期から新生児にかけての心エコー所見を得たので報 告する.この動脈管は,生後14時間後にカラードプラ法で検能的閉鎖を認めた.

 動脈管の特徴は以下の3点であった.

 ①太くて,大きく孤をえがき,大動脈弓の高さまでヒ行してから,蛇行しつつ下行していた.

 ②下行大動脈との結合部は,通常の位置よりもやや遠位側であった.

 ③大動脈側に閉鎖の初期変化としての内腔の局所的突出が認められ,動脈管閉鎖後に,肺動脈側に嚢 の形成を認めた.

 本症例の動脈管は,正常のバリエーションの]つと考えられた.今後,胎児エコーの増加に伴って,

このような動脈管が発見される機会が増えてくるものと思われた.

 動脈管は,通常,肺動脈分岐部に接した左肺動脈と,

左鎖骨下動脈よりわずかに遠位側の下行大動脈とを組 んでいる1).胎児では肺動脈・動脈管・下行大動脈がゆ るやかに孤を描いて一続きの管を形成している.

 今同,通常とは異なる特異な動脈管を経験したので 報告する.

      症  例

 児は,出生前口にスクリーニングとして胎児エコー を施行され,異常血管を指摘された(Fig.1).なお,,

当院産科では,全例の胎児に最低1回は心エコー検査 のスクリーニングを施行している.

 この異常血管は,太くて,やや左側よりに頭側に向 かって上行し,大動脈弓より高位の位置で反転して,

蛇行しながら下行していた.また全体的に太く,肺動 脈や大動脈との結合部も含めて狭窄は認めなかった.

カラードプラ法では,血流は,肺動脈から異常血管を 通り下行大動脈へと一方向に流れており,モザイクパ ターンも認めなかった.

 児は,40週1日,3,206gで出生し,妊娠分娩に異常

別刷請求先:(〒723−8686)三原市皆実町1427−1      興生総合病院小児科    佐藤 恭子

はなかった.

 出生1時間後に心エコー検査を施行した(Fig.2).

胎児エコーで認めたとおりの走行の異常」血管を認め,

これは動脈管であると診断した.動脈管の肺動脈との 結合部は,通常と同じ位置であった(Fig.2A)が,『ド 行大動脈との結合部は,通常よりも末梢で結合してい

るように観察された.

 大動脈弓付近を観察すると,動脈管の下行部分は大 動脈弓の左方に認められ,このド行部分は太く数珠状 になっていた(Fig.2C, D).ド行大動脈との結合部は 通常よりも末梢で観察が困難であった.この結合部付 近に狭窄を認め,カラードプラ法でモザイクパターン が観察された.動脈管閉鎖の初期変化としての内腔の 部分的突出があるものと思われた.

 肺動脈との結合部付近での動脈管の血流は両方向短 絡であった(Fig.3).

 出生1時間後の心エコー検査による肺動脈と大動脈 の各部位の径は表]に示すとおりであった.

 なお,胎児エコー検査には,アロカ製SSD2000と

HEWLETT PACKARD製LOGIQ500のそれぞれ3.5

MIIzを,出生後の心エコー検査にはHEWLETT

PACKARD製SONOS 2500の5MHzを使用した.

(2)

ヒ」ノJxf盾言志  ]4 (3), 1998 i19−一(31)

一野シ

腹側

L左.

DA・○

DAの太い管

ぜt・・ntA

一頭側

RV   MPAノー〉1・..

肺動脈から分岐後のDA

DAo

DA

DA

腹側

 4

 一〉頭側

大きく弧をえがくDA

Fig.1胎児エコー検査:(A)肺動脈から分岐した動脈僧は,通常観察されるような  ド行大動脈との結合を認めなかった.頭側に大きな動脈管腔を認めた.(B)動脈管  は肺動脈か 分岐し,頭側に向かい大きく孤をえがいていた.(C)動脈tl,は人きく  孤をえがき,ド行大動脈に結合していた.狭窄は認めなかった.

 AAo:ascending aorta, DA:ductus arteriosus,1)Ao:dcs ccnding aol ta、 MPA:

 maill pulm⊂)nary al tery、 RPA:right pulmonar)r artery. RV:right ventricle,※:

 ductUs arterir)SuSぴ)lrll管;1控

表1 出牛1時間後の心エコー検査による肺動脈と人  動脈の各部位の計測値

部  位 径(mm)

†肺動脈 8

右肺動脈近位部 3

左肺 動脈近位部 3

ヒイ「大動脈 6

大動脈弓 4

ド行大動脈(横隔膜部) 5

 胸部X線写真では心胸比は51%で,心拡大はなかっ た.卵円孔では,少量の左右短絡を認めた.他の心奇 形の合併は認めなかった.

 生後]4時間後(Fig.4A, B)に施行した心エコー検 査では,動脈管の肺動脈側に嚢の形成を認めた.それ に続く動脈管の管腔は不明であり,出生時に太く蛇行 する下行部分を認めた位置では,細い管腔と思われる 構造物を認めたが,カラードプラ法では血流を認めず,

動脈管は機能的に閉鎖したと診断した.

 さらに日齢8(Fig.4c)に施行した心エコー検査で は,肺動脈側の翼を同様に認め,盲端になっていると

(3)

」2n (32) 1体小児循環器⊃1:Z.こ雑品(ll 1;1/巻第3.号

壕、…

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1「ig.  2    |fZ:ノ正: l II.i三IE〜」『隻∪)ノ[、」・..1・_  ∫ 一一季・灸. ・tl :  (,・X)  Ii,IJ月∫1モ育㌃・;;(.t,i}{]〜;亨‖↓]元く 、こ オ {、 ノ5 T.、㌧: it亡.li [ijtfi,IJ月∫1(

  から分ll皮していた.(B) 卜 行大重1川llミとの糸吉合部(A)に∫戊ミ窄を認め,カーノード.ノソ   Ul一て\亡.牙ヂイク.ハター ンカミi[見ぢ≦さオtた. .iE亘 常 {[見元ささオしるkUち人f肖で』.ドf」:..メ\重力川iミ.i二糸吉

  合しており,そのため結合部の観察は困.難であった.(C,1.川言川.辰管は,肺動脈から   分岐した)りち,頭側・ノr・:側に1|111かって弧をえが3,..k(数珠:伏に・…;一・てい/∴

  AA・:ascending a・1 la−)A:(|uC/ 1.tS.;arteri・sし1s. DA・:(lcsccndin.g a・rta、 IJP、へ:

  1〔_1ft I〕ul|1〕(〕|)〔ar)ト.『 〜lrtf、1、 iX.11)ノー : Il〕91irL 1)1|lm{}rl三iryT 〔trt(・ry、 卜〜1},・V : rig1|t Pし111||([|lllry

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(4)

平成10年5月1口 421−(33)

      考  察

 この症例の動脈管の特徴として以下の4点があげら れる.①太くて,大きく孤をえがき,大動脈弓の高さ まで上行してから,蛇行しつつ下行していた(Fig.

5a).①下行大動脈との結合部位ら通常よりもやや遠 位側に認められた.③動脈管閉鎖の初期変化としての 内腔の局所的突出を大動脈側に認め,閉鎖後,肺動脈 側に嚢の形成を認めた.

表2 動脈管各部位の径の経時的変化(mm)

出生 1時間後

 出生

14時間後 日歳8

肺動脈からの分岐部 6 6 6

下行部 7 2 1

 また,本症例の動脈管は,出生14時間後に閉鎖を認 めており,機能的には,病的な動脈管ではなかった1).

 ①に関しては,小林らの報告例2),黒江らの報告例3)

と似た走行と思われた.さらに前者では,本症例と同 様に大動脈側から閉鎖の初期変化を認めている.なお,

この点について後者は死亡したため不明である.

 ただし,これらの2症例は下行大動脈側との結合部 位は通常の位置で,動脈管はあたかもUターンをして いるかの如くであった.この点は本症例とやや異なっ

ていた.

 通常,動脈管は,左右の分岐部に接した左肺動脈か ら分岐して,斜めにゆるやかに孤を描いて走行し,左 鎖骨下動脈分岐部直下の下行大動脈に,鋭角をなして 結合する(Fig.5b)1).

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Fig.4出生14時間後の心エコー検査(A, B)と,日齢8の心エコー検査(C):(A)

 動脈管は,肺動脈側は嚢状になっていた.それに続く動脈管腔は不明であった.(B)

 下降する動脈管(※)は,カラードプラ法で管腔に血流を認めず,動脈管は機能的  に閉鎖していた.(C)動脈管は嚢を形成して閉鎖していた.

 AAo:ascending aorta, Ao:aorta, MPA:main pulmonary artery, RPA:right  pulmonary artery,※:ductus arteriosusの血管腔,矢印:嚢状になった動脈管の  肺動脈側

(5)

422−(34)

a

:NS

〕レ

     c       d       Fig.5動脈管の形態

a:本症例,b:通常の動脈管, c:特異な動脈管4)A 6),

d:肺動脈閉鎖で見られる動脈管

 普通とは異なる走行を示す動脈管としては,肺動脈 分岐部の頂点と左総頸動脈対側付近の大動脈弓とに連 なっている,つまり通常よりも短くて,大動脈弓部に 結合する異常部位の動脈管開存症が稀に存在すること は知られている(Fig.5c)4)〜6).これは,動脈管の位置 の異常と考えられている.

 また,肺動脈閉鎖などの先天性心疾患に合併する動 脈管では,大動脈弓部下面から大動脈弓に対して鈍角

に起始し,時には蛇行しつつ肺動脈に結合することが 知られている(Fig.5d).

 その他にも動脈管には様々な形態が知られている が,これらの動脈管は肺動脈との結合部は通常と同じ 部位であり,本症例も肺動脈との結合は通常と同じ部 位であった.

 ③については,通常,動脈管の閉鎖過程は,肺動脈 端側もしくは中央部付近の局所的突出が初期変化とし て認められる7)一一9).従って,大動脈側に閉鎖の初期変化 を認めることは稀である.また,肺動脈分岐部に動脈 管の嚢を認めることは,何らかの心疾患のため心血管 造影を施行した際に時に経験する.

 つまり,本症例の特徴の③については,非常に稀な

日本小児循環器学会雑誌第14巻第3号

ものとは言えないかもしれない.しかし,本症例さら に小林らの症例で,③のようなあまり一般的ではない 所見を認めたことから考えると,本症例のような動脈 管では,大動脈側から閉鎖が始まり,閉鎖後に肺動脈 側に嚢を形成しやすい性質を持っている可能性も考え

られた.

 つまり,大きく孤をえがきながら大動脈弓より高位 で反転し,蛇行する動脈管が,正常のバリエーション の1つとして存在し,その場合,大動脈側から閉鎖が 始まり肺動脈側に嚢を形成する傾向があるのかもしれ ない.また,その中に本症例のように大動脈との結合 部がやや遠位側に存在する一群があるのかもしれない

と考えられた.

 動脈管の発生は,第6鯉弓が,原始肺動脈を形成し ながら大きなアーチを形成し,その後消失していき,

左第6鯉弓の末梢が残って動脈管を形成する.第6鯉 弓の消失が何らかの原因で不完全となり,かなりの部 分が遺残した場合に本症例のような大きく孤を描く動 脈管を形成するのかもしれない.また,下行大動脈と の結合部については,Fig.5c )−6)のような例では,後 に左鎖骨下動脈を形成する左第7節間動脈の頭側への 移動が不完全なために発生すると考えられている4)

が,反対に過剰に移動した場合に,本症例のようによ り末梢で下行大動脈と結合することがあり得るのかも

しれない.

 今後,胎児エコー検査の機会の増加に伴って,この ような動脈管の見つかる可能性は大きいと考えられ

た.

 今回の反省点として,本症例は深夜に出生したこと もあり,動脈管が開存しているうちに心エコー以外の 画像診断,例えばDSAやMRIを施行することができ なかった.今後,同様の症例を経験する機会があれば,

動脈管は早期に閉鎖する可能性があることを念頭にお き,出生後ただちに他の画像診断を試みて,より詳細 な情報を得たいと考えている.

 (本症例の要旨は第3回日本胎児心臓病研究会で発表し

た.)

      文  献

 1)吉武克宏:新小児医学大系,10C,1版,東京都,

   中山書店,1985,pp131 160

 2)小林俊樹,小林 順,新井身克己,小池一行:特殊    な胎位(顔位)と動脈管走行のため診断に苦慮した    動脈管瘤の1例.日小循誌 1996;12:476  3)黒江兼司,鄭 輝男,三戸 尋,大橋正伸,萬代喜    代美,今井幸弘:胎児期大動脈縮窄を疑った死産

(6)

平成10年5月1日 423 (35)

  児について.日小循誌 1997;13:564

4)大沢幹夫,牛田 昇,豊泉 稔,小助川克次,臼田   多佳夫,寺野 彰,金子二司夫,猪俣和仁:異常部   位の動脈管開存症.外科診療 1970;12:485−488 5)太田善義,常本 実,野口輝彦,須磨幸蔵,島田宗   洋,大島正浩,松尾準雄,氷沼万寿喜:解剖学的に   否定型的な位置に存在した動脈管開存症の2治験   例.胸部外科 1970;23:572−577

6)松沢秀郎,田中 誠,吉野 武:異所性動脈管開存   の1治験例.胸部外科 1973;26:286−290 7)Hiraishi S, Misawa H, Oguchi K, Kadoi N,

  Saito K, Fujino N, Hojo M, Horiguchi Y,

  Yoshiro K: Two−dimensional Doppler

  echocardiographic assessment of closure of the

  ductus arteriosus in normal newborh infants. J   Pediatr l987;1111755−760

8)平石 聡,三沢仁司,斉藤幸一,門井伸暁,小口弘   毅,藤野宣之,堀口泰典,縣陽太郎,北条みどり,

  八代公夫:ドップラー心エコー法による新生児動   脈管の閉鎖機転の検討一動脈管の形態と管内血流   速度波型の関連性 .日小児会誌 1988;92:1256   −1263

9)平石 聡,小口弘毅,斉藤幸一,三沢仁司,広田浜   夫,門井伸暁,縣陽太郎,藤野宣之,堀口泰典,八   代公夫,中江世明,河田政明:ドプラ心エコー法に   よる未熟児動脈管の閉鎖および再開大様式の検   討.日小循誌 1992;96:1246−1253

ACase with a Ductus Arteriosus Showing Unique Anatomic Variation

   Yasuko Sato1), Takeshi Nishi2)and Hiroshi Masaoka3)

      DDepartment of Pediatrics, Kohsei General Hospital   2)Department of Pediatrics Cardiology, Hiroshima City Hospital 3)Department of Obstetrics and Gynecology, Hiroshima City Hospita1

   Areport is presented on a case with a ductus arteriosus showing an unique anatomic variation. Echocardiographic findings were obtained on this case from its fetal to neonatal stage.

   The ductus arteriosus in the present case was characterized by the followings.

①lt was a large ductus, forming a large arc, ascending up to the height of the aortic arch, and then descending in a zigzag manner.

②The connection site with the descending aorta was slightly more distal to the usual position.

③In the area near the aorta, an intraluminal protrusion was observed as its initial changing process to the closure of ductus arteriosus. Following the closure of the ductus arteriosus,

formation of an aneurysmal sac of ductus arteriosus was observed in the area near the pulmonary artery.

   The ductus arteriosus in the present case was considered as one of normal variations.

参照

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