地方公共団体における GIS 人材育成方策のあり方に関する考察
横山 宗明,沼田 雅美,桑原 真琴,蓮井 久美子
A Study on Capacity Building for GIS Professionals in Local Government
Muneaki YOKOYAMA Masami NUMATA Makoto KUWAHARA Kumiko HASUI
Abstract:Despite the widespread awareness of the importance of GIS utilization in a local government, there are few efforts on personnel capacity building in this sector. Recognizing GIS capacity building for local government staff as an indispensable basis of advancement of governance, it is certainly important to establish this system immediately in Japan. Based on the understanding, this study aim to provide GIS educational program for the local government staff as a reference, and show the strategy to promote the effort of the GIS capacity building in Japan.
Keywords:GIS 人材育成(GIS Human Resource Development),地方公共団体(Local Government),教育プログラム(Educational Program)
1. はじめに
地理空間情報活用推進基本法に基づいて,平成 20 年 4 月に閣議決定された「地理空間情報活用推 進基本計画」では,「地理空間情報の活用を推進す るためには,それを担う人材を育成する必要がある.
人材育成に当たっては,地理空間情報を整備・活用 する技術を持つ人材だけでなく,空間的な思考を行 える人材,地理空間情報の活用を企画できる人材な ど多様な人材が必要となる」としており,具体的な施 策の一つとして,「大学等と連携したカリキュラムの提 供及びテキストの作成」が掲げられている.また,「地 理空間情報の活用推進に関する行動計画(以下,
「G空間行動プラン」という) 」においては,「平成21 年度までにテキストを作成する」ことが謳われている.
本稿では,「平成 20 年度大学等との連携による地 理空間情報活用専門家育成プロジェクトに関する調 査」(国土交通省国土計画局)における調査結果等 をもとに,地方公共団体における GIS に関する人材 育成方策のあり方について考察した.
2. 地方公共団体における GIS 活用人材育成の必要 性
現在,GIS の導入は,各地方公共団体で進んで おり,個別型 GIS の整備率は,平成 19 年段階で都 道府県で 95.7%に達している.
一方で,統合型 GISを導入している地方公共団体は,
都道府県でも 36.2% にとどまり,十分整備が進んで いるとはいい難い.このことから地方公共団体におい ては,今後,これまで以上に庁内において統合的に GIS の活用を推進していく必要があり,人材育成とい う観点からは,十分な専門知識をもって分析等を実 施する専門人材,庁内横断型の取組を推進する人 材等,さまざまな人材を確保する必要性が高いと考 えられる.
加えて,地方財政の悪化に伴い,これまで以上に 効率的な行政が求められていると同時に,住民に対 しても,分かりやすく的確な説明責任を求められる昨 今においては,政策立案過程および行政施策の「見 える化」の観点からの GIS の活用機会が増えてきて いる.このような状況からも,地方公共団体内におけ る GIS 活用人材の育成の必要性は高まっていると言 える.
横山:
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3. 地方公共団体における GIS 活用人材の配置とキャ リアパス
地方公共団体においては,人事ローテーションや,
公務員としてのキャリア形成という問題も相まって,現 状ではなかなか GIS に特化した専門人材育成が難 しいと言わざるを得ないのが現状である.とりわけ,
GIS 活用人材のキャリアパスが不明確な現状におい ては,「GIS マネージャー」や「GIS コーディネータ ー」など組織内における意思決定権者として GIS の 導入促進を司り,政策立案に活用していく役職の人 材の育成や,組織内において潜在的な GIS ユーザ ーとして存在している階層に対して,いかに GIS の 有効性や,利用目的,利用方法について理解促進 を図り,具体的な施策に活用していくかといった点を 浸透させるための人材育成が今後は特に重要である.
また,人事ローテーションを勘案すると,現在 GIS の 推進組織(例:情報システム部門など)に所属してい なくても,将来的には推進組織に異動する可能性も あり,またユーザーとして GIS の活用機会や,効率的 な行政運営実現のためのひとつの手段として GIS に 対する認識を高めておくことも非常に重要であるため,
このような階層に対する教育・研修も必要であると考 えられる.
図1 GIS 活用人材のキャリアパス 出典:平成 19 年度 地理空間情報活用のための 人材育成方策等についての調査(平成 20 年 3 月,
国土交通省国土計画局)
表 1 GIS 活用人材の種類と概要
人材増 人材の種類
GIS
デ ィ レ クターGIS
推進組織の長として,戦略決定,人事,予算確保,環 境整備を行うとともに,人材育成・活用の牽引役となる人 材 . 担 当 役 員 で あ るGIO(Geographic Information Officer)や IT
部門長に相当.GIS
マ ネ ー ジャー推進組織において,
GIS
ディレクターの参謀役としてGIS 活用戦略・計画・政策の立案を行うとともに,プロジェク トマネージャーとしてGIS
活用事業を推進し,調達の意 思決定を行う人材.他の組織,部門との調整も行う.GIS 推進室長クラスに相当.部 門 マ ネ ー ジャー
ユーザー組織の組織長として,
GIS
の活用成果を意思決定 に利用するとともに,ユーザー組織におけるGIS
の活用 やGIS
人材の育成・活用を推進する人材.計画,交通,建設,防災,保健等のユーザー組織の部課長クラスに相当.
GIS
コ ー デ ィネーターGIS
マネージャーの直下に位置し,推進組織内外との連 携・調整を行う人材.ユーザー組織の業務フローの理解に 基づきこれら組織でのGIS
環境の整備・活用支援も行う.GIS
ア ナ リ スト推進組織において,ユーザー組織の
GIS
活用に関するニ ーズの収集・評価に基づき,地図情報の設計を行う人材.ユーザー組織における導入・活用支援や他の
GIS
人材に 対する技術支援も行う.規模の大きくない組織において は,GISプログラマーの機能も兼ねる.GIS
プ ロ グ ラマー推進組織において,
GIS
のソフトウェアやデータベースの 開発・管理,ソフトウェアの調達・検収,他のGIS
人材 に対する技術支援を行う,高い水準の技術スキルを有した 人材.ITの専門家が担う,アナリストが兼務する,ある いは外部のベンダーに委託することもある.部門
GIS
ア ナリストユーザー組織において,部門のビジョン,戦略の実現に向 け,GISを活用した高度の分析や,GIS推進組織と連携 した
GIS
環境整備を促進する人材.GIS
テ ク ニ シャンGIS
アナリストの補佐や地図情報の入力,管理等,GIS を活用した定型業務を行う人材.外部の派遣企業や学生の アルバイトとして雇用することも多い.GIS
ユ ー ザ ーGIS
を活用し,業務の高度化や生活の質の向上を図る人 材.GISアナリストほど高度な分析は行わない. GIS活 用人材の裾野ともいうべき人材で,ユーザー組織では担当 クラスから部課長クラスといった幅広い階層に,一般では 高校生以下の生徒・児童,GIS
に直接関連しない業務を行 う職業人,主婦等に相当.潜在
GIS
ユ ーザー業務の高度化や生活の質の向上を図るため,
GIS
の活用が 期待される人材.ユーザー組織に所属する人材と,そうで はない一般の人材からなる.GIS
ラ ー ナ ーGIS
を専攻する学生,あるいはGIS
以外の専攻であるがGIS
を活用した学習を行う学生.専門学校,短大,大学学 部から大学院の学生に相当.出典:平成 19 年度 地理空間情報活用のための 人材育成方策等についての調査(平成 20 年 3 月,
国土交通省国土計画局)
4. GIS 教育の現状
では,このような GIS 活用人材を,どのように育成 していくのかが問題となる.
国内の GIS 教育は,大学,NPO 法人,業界団体 等で広く行われている.既存のカリキュラムは大学 生・入門者向けが多いこともあり,GIS の入門と操作,
GIS 関連技術分野が中心であることが多く,地方公 共団体職員向けに特化したカリキュラムは,国内には
推進組織 ユーザー組織
推進組織 ユーザー組織
GISテクニシャン GISアナリスト GISプログラマー
GISコーディネーター GISマネージャー GISディレクター
GISラーナー
GISテクニシャン 部門GISアナリスト 部門マネージャー
GISユーザー 潜在GISユーザー
IT専門家
ほとんどないのが実態である.
4.1 大学における GIS 教育
大学が提供する講義については,東京大学空間 情報科学研究センターが中心になって実施している
「地理情報科学カリキュラムの科学研究」研究チーム が設置している WEB サイト「地理情報科学カリキュラ ム」にて公開されている「GIS カリキュラムデータベー ス」に掲載されている各大学のカリキュラムについて,
可能な限り各大学が公開しているシラバス等を参照 して授業内容を確認し,提供されているカリキュラム が前章で設定した人材像のうちどの人材像になるた めのスキルを習得することが可能な内容になっている かを整理した.
表 2 大学における GIS 教育
分類 内容
実践系 課題設定から
GIS
を利用した分析および取 りまとめまでを含む.ゼミ形式中心.ソ フ ト ウ ェ ア 操 作 習得系
GIS
ソフトウェアの操作方法を習得するた めのもの.比較的大人数でソフトウェアの 操作実習を実施.地 理 系
GIS
紹介系 半期ないしは通年の授業のうちの数コマを 使用してGIS
の概要を紹介するもの.講義 中心.建設系 測量学の講義となり,講義形式の授業にお いて測量の要素技術の一つとしてGISにつ いて教えているものが多い.
4.2 各種団体が提供するカリキュラム等
各種団体等から提供されているカリキュラムは,大 きく分けると GIS ソフトウェアベンダーが提供するソフ トウェアトレーニングと,業界団体等が提供する GIS に関する各種セミナー,および,学会・NPO 等が提 供するセミナー類に大別できる.
以下が,それぞれの特徴である.いずれもが,年に 1 回~数回定期的に開催されているものの,多くは単 発的に開催されるものであり,複数回をセットにして 体系的な知識・スキルの提供を目的としているものは あまりない.
表 3 各種団体が提供するカリキュラム
主催者 特徴
GIS ソフトウェ アベンダー
ソフトウェアの操作を習得することを目的とし,実 機・実ソフトウェアを用いた演習形式をとることが多 い.ただし,その一部に GIS の操作を行ううえで必要 となる測地系等の基本的な知識についての座学を含む ものもある.
業界団体等 目的・対象ともに多様.業界団体に所属する技術者に 対して GIS の操作を行えるようにするものから,業界 団体の主要顧客(多くは地方公共団体)に対して GIS の導入事例を紹介するもの,市民・学生向けの啓発セ ミナー類などまで多様である.
学会・NPO GIS を紹介するものや,NPO の活動内容にあわせて GIS の操作方法などを紹介するもの
4.3 海外におけるカリキュラム
USGIF ( United States Geospatial Intelligence Foundation) は,GIS 教育プログラム の認定を 2008 年より開始しており,認定を希望する 教育プログラム向けに認定基準の基礎となるカリキュ ラムガイドラインを作成している.このガイドラインは,
以下のように,大きく 4 つの知識領域と 10 のサブ領 域から構成され,技術領域では,GIS&T Body of Knowledge のエッセンスを盛り込みながらも,リモー トセンシングやコンピューターサイエンスを独自のも のとして加えている.また,コミュニケーションや各種 知 識 の 統 合 を 意 図 す る も の と し て , Capstone Requirement を柱として据えている点が注目に値 する.
表 4 Geospatial Intelligence Certificate Calliculum Guidelines の知識領域
●Technical Knowledge Area
・Geographic Information Science and Technology Fundamentals
・Remote Sensing Theory and Applications
・Integration of IG S&T and Remote Sensing Analysis
・Computer Science Fundamentals
●Communications Knowledge Area
・Communication Principles
●Analytic Process Knowledge Area
・Comparative Regional and Cultural Analysis
・Analytic Thinking Principles
・Understanding the Policy-Making Process
●Legal and Ethical Knowledge Area
・
Legal and Ethical Aspects of Geospatial Information and Technology
●Capstone Requirement
・
Application of Technical, Communication, and Anayltical Principals
出典: USGIF HP
(http://www.usgif.org/files/USGIF%20Curriculu
m%20Guidelines.pdf)
5. GIS 活用人材育成プログラム
地方公共団体については GIS 活用人材の育成ニ ーズの高さと,十分な教育・研修の機会が提供されて いない現状とに鑑み,国は将来的に以下の 2 点を目 標としている.
○プログラムやテキストの作成
○プログラムやテキストが全国で活用されるための 仕組みづくり
その上で,テキストについては,「G 空間行動プラ ン」を踏まえ,平成 21 年度までにテキストを完成させ るものとしている.
図 2 G 空間行動プランにおける人材育成の位置づけ
既に,平成 20,21 年度において,以下のような計 画で教材等の開発が進められており,平成 20 年度 には,東京と京都において実証授業が実施された.
プログラムの主眼は,下記の通りである.
○ 将来の GIS マネージャー,GIS コーディネータ ーを目指し,効率的な行政運営への GIS の活 用が理解できる内容にすること
○ アプリケーション演習等ではなく,政策立案等 への GIS の活用や,マネジメントを意識するこ と
表 5 開発プログラム
分類 科目名
GIS 活用による業務革新 プロジェクトマネジメント ビジネスマネジメント
地理空間情報と法制度,倫理 GIS の調達と運用
地図の調達と利用 GIS のための IT 基礎 GIS 技術
GIS 分析手法(基礎編) GIS 入門
(注)科目名は,必ずしも表 6 のコマ名称と合致しない
表 6 実証授業の内容(東京/京都)
時間 講義タイトル
9:30-10:00 オリエンテーション
10:00-11:20 GIS 活用による業務改革とプロジェクトマネ ジメント
11:20-11:30 休憩
11:30-12:30 GIS とシステムデザイン(Ⅰ)
12:30-13:30 ランチタイム
13:30-15:30 GIS とシステムデザイン(Ⅱ)
15:30-15:45 休憩
15:45-17:45 GPS 等を用いたオリジナルな地理空間情報の 作成(京都:WebGIS の活用)
初日
17:45-18:00 評価アンケートのご記入 9:30-16:00
GIS を用いたマッピングと解析
(京都:ロールプレイング・ワークショップ
(GIS を活用した評価マップの作成))
16:00-16:15 休憩 16:15-17:45 まとめ 2 日
17:45-18:00 評価アンケートのご記入
参加者の概要およびプログラムへの評価は以下の 通りであり,非常に好評であった.
■参加者概要
•9割以上が男性.
•半数程度が
30
歳代.•5~6割程度が情報部門出身.次いで,1~2割が都市計画部門出身.
•7割強が担当クラス(役職なし)で,1~2割が係長,主査クラス.
•GIS関連業務の経験年数は,約半数が
1
年以内.■満足度
(東京)
(京都)
図 3 参加者概要および評価
6. 今後の展望
平成 21 年度においても,国は未開発プログラムの 開発とともに,既開発プログラムの見直し等を行い,
国内複数拠点での実証授業を予定している.また,
平成 22 年度以降は,これらの教材等を活用した自 立的な研修プログラムの運営が期待されているところ である.
今後は,それに必要な体制の構築等に加え,この ような人材像の必要性を認識し,地域における戦略 的な活用を促すキャリアパスの構築や,前提となる首 長等による GIS の意義の理解が求められる.地方公 共団体レベルでも効果的な GIS 活用人材育成に向 けたキャリアパスや,展開戦略についての議論喚起 に期待したい.
31.0 58.6 3.4 6.9
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
1.とてもそう思う 2.ややそう思う 3.あまり思わない 4.全く思わない 未回答
18.8 62.5 9.4 9.4
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%