足浴時の自律神経機能の変化と加齢の影響
美和千尋
1)、島崎博也
2)、出口 晃
2)、鈴村恵理
2)、 川村陽一
2)、前田一範
2)、森 康則
3)抄 録
足浴は足部を湯に浸す部分浴の一つである。その効果は暖められた足の部分の血液循環を良くし、
疲労、浮腫、冷え性、睡眠に効果がある。この論文では、足浴時の自律神経の変化とその変化に加齢 がどのように影響するのかを検討することである。高齢者 9 名(男性 4 名・女性 5 名、平均年齢 73.5
± 8.4 歳)、若年者 8 名(男性 8 名、平均年齢 25.5 ± 3.4 歳)の被験者を対象とし、座位にて安静 10 分間、下腿部を湯温 41.2 ± 0.6℃の湯につけた足浴 20 分間、足浴の終了後 5 分間安静を行った。測 定項目は鼓膜温、皮膚血流量、血圧と心拍数とした。鼓膜温についてはサーミスターにより外耳道の 皮膚温を、皮膚血流量として左側の大腿部(非浸水部)と下腿部(浸水部)をレーザードップラー血 流計で、血圧(収縮期・拡張期血圧)と心拍数は自動血圧計で測定した。足浴時の鼓膜温は、若年者 では高齢者に比べ、有意に上昇し、皮膚血流量は、両被験者とも下腿部において有意に増加し、若年 者は高齢者に比べて有意に大きかった。大腿部の皮膚血流量は若年者のみ有意に増加した。血圧は、
若年者では変化しなかったが、高齢者では下降した。心拍数は、若年者では有意な増加が示された が、高齢者では有意な変化は認められなかった。これらの自律神経機能の変化は、加齢による、脂肪 量の増加、筋肉量の低下、血管の柔軟性の低下、受容器の感受性の減弱などが関わっていると思われ る。
キーワード:足浴、体温調節機能、循環動態機能、加齢
Ⅰ はじめに
足浴は、足(膝下)を湯に浸す部分浴の一つ である。足浴の入浴方法は、足浴用の浴槽また はバケツか洗面器を用いて、40 〜 42℃程度の お湯に、10 〜 15 分間ぐらい浸かることが多 い1)。その効果は暖められた足の部分の血液の 循環が良くなり、下腿の筋肉内に貯留した乳酸 などの疲労物質が取り去られることで疲労を軽 減させる。また、足の浮腫や冷え性の軽減効
果、眠りが誘発される効果もある。その他、
ゆっくり加温するために副交感神経活動が促進 され、リラクゼーションなどに用いられてい る2),3)。
また、足浴は高齢者の看護分野において入浴 することが出来ない患者のための重要なケアの 一つとして、医療や看護の現場で使われてい る2)。また、現在は、観光地や街中でレクリ エーションとして、若年者から高齢者まで幅広
(投稿受付日:2014 年 6 月 23 日,掲載決定日:2014 年 10 月 1 日)
1)愛知医療学院短期大学
〒 452-0931 愛知県清須市一場 519 TEL:052-409-3311,FAX:052-400-6413
2)小山田記念温泉病院 3)三重県保健環境研究所
く行われている4)ため、足浴の効果や入浴時 の事故などの予防として自律神経機能がどのよ うに変化するかを明らかにし、その変化に加齢 がどのように影響するのかを知ることは意義が あると考える。そこで本論文の目的を足浴時の 自律神経系の変化を明らかにし、加えてその変 化に対する加齢の影響を検討することにした。
Ⅱ 方法 1.対象
健常高齢者 9 名(男性 4 名・女性 5 名、平均 年 齢 73.5 ± 8.4 歳、BMI22.0 ± 3.2)、 健 常 若 年者 8 名(男性 8 名、平均年齢 25.5 ± 3.4 歳、
BMI22.2 ± 3.5)を対象とした。被験者には書 面にて実験の説明を行い、同意書を得た。本実 験は小山田記念温泉病院の倫理委員会の了承を 得て行った。
2.実験手順
私服を着た状態で、ズボンを大腿中部まで上 げ、足浴漕の腰掛け部分に着座し、足浴前の安 静を 10 分間測定した後、湯温 41℃の条件で足 浴を 20 分間行った。その後、被験者は、浴槽 から出て、さらに入浴後の安静値を 5 分間測定 した。実験には、小山田記念温泉病院のアトリ ウム(ガラスやアクリルパネルなど光を通す材 質の屋根と壁で覆われた大規模な空間)に設置 してある足浴槽(縦 70cm、横 262cm、深さ 28cm)を使用し、外気は入ってこない環境に おいて行った。湯は、かけ流しにより一定温を 保った。座位にて安静 10 分間、の足浴 20 分 間、足浴終了後安静 5 分間を行った。
3.測定項目
測定項目は鼓膜温、皮膚血流量、血圧と心拍 数とした。鼓膜温についてはサーミスター(セ ンサーテクニカ PZL-64S)により 0.01℃の精度 により鼓膜の下部前方に接触させ約 36.8℃以上 の温度の鼓膜温5)を、皮膚血流量として左側 の非浸水部である大腿部(膝蓋骨上縁 10cm 近 位部中央)と浸水部である下腿部(膝蓋骨下縁
10cm 遠位部中央)をレーザードップラー血流 計(Advance、ALF21) で、 血 圧( 収 縮 期・
拡張期血圧)と心拍数は自動血圧計(日本コー リン、自動血圧計 BP-203i)で測定した。なお、
鼓膜温測定は、サーミスターをテープと綿で固 定し、外気が入ってこないように外耳道を覆っ て測定した。
4.統計解釈
測定結果は、被験者の年齢および湯温、外気 温、湿度については平均±標準偏差(mean ± SD)で表し、他の測定項目は安静時を 1 とし てその変化率で示した。統計解析として被験者 間 に お い て 反 復 測 定 分 散 分 析 法(repeated measureANOVA)を使用し、同一被験者の 1 分間隔比較には、分散分析で有意差が認められ た も の に は Fisher’sProtectedLeastSignifi- cantDifference を、有意差が認められなかっ たものには、Dunn’sProcedureAsAMultiple ComparisonProcedure を用い、危険率 0.05 未 満を有意とした。
Ⅲ 結果
1.実験時の湯温、外気温、湿度
実験時の湯温 41.2 ± 0.6℃、外気温 20.8 ± 0.2℃、湿度 36.6 ± 4.1%であった.
2.足浴時における体温調節機能の変化(鼓膜 温、皮膚血流量)
足浴時の鼓膜温は、若年者も高齢者も足浴中 上昇し、足浴後下降した。若年者は、高齢者に 比べ上昇が大きく、若年者と高齢者の間には有 意差が認められた(最大上昇温、若年者:1.9
± 0.3 ℃、 高 齢 者:0.3 ± 0.1 ℃、Fig.1、p < 0.05)。
足浴時の皮膚血流量は、浸水した下腿部にお いて若年者も高齢者も有意に増加したが、若年 者の増加は高齢者に比べて大きく、若年者と高 齢者の間には有意差が認められた(Fig.2、p
< 0.05)。一方、非浸水の大腿部では、若年者 のみ増加し、高齢者は変化が見られなかった。
131 足浴時の自律神経機能の変化と加齢の影響
若年者と高齢者の変化には有意差が認められた
(Fig.2、p < 0.05)。
3.足浴時における循環動態の変化(血圧、心 拍数)
足浴時の収縮期血圧は、若年者は足浴時も変 化がなかったが、高齢者においては下降した。
若年者と高齢者の間には有意差が認められた
(Fig.3、p < 0.05)。同様に拡張期血圧におい ても若年者においては足浴時に変化を示さな かったが、高齢者は下降したが、若年者と高齢 者の間には有意差は認められなかった(Fig.
3)。
足浴時の心拍数は、若年者も高齢者も増加 し、足浴後は低下した。若年者では有意な増加 が認められた。若年者は高齢者より心拍数の増 加が大きく、若年者と高齢者との間には有意差 が認められた(Fig.4、p < 0.05)。
Ⅳ 考察
今回の足浴での体温調節機能の指標である鼓 膜温、皮膚の血流量の変化と循環動態の指標で
ある血圧、心拍数の変化を部分浴とその変化に 対する加齢の影響という視点で考察していく。
1.足浴時における体温調節機能と循環動態の 変化
今回、足浴時に体温調節機能に関連する指標 である鼓膜温および皮膚血流量の変化が観察さ れた。これらの変化の加温効果を部分浴の視点 から若年者の結果より考えてみる。
今回用いた下腿を湯につける足浴は、部分浴 であるため、視床下部を還流する内頸動脈の血 流を受けている脳温を反映する鼓膜温上昇の要 因に加温部分である足の表面積が関与している と思われる。下腿は熱傷の 9 の法則によると表 面積は、両下腿あわせて身体全体の約 9%× 2
=約 18%を占めている。そのため、全身浴(顔 をのぞく表面積約 91%)と比較して、約 2/9 の割合となる。その割合で鼓膜温が上昇すると 考えることができる。先行研究で、同条件で実 験をしたデータがないことから確認はされてい ないが、われわれは以前、高齢者に競泳用パン ツで 40℃の全身浴と普段着で 43℃の足浴を 20 Fig. 1 Changeintympanictemperatureduring41℃20minfootbath
Tympanictemperatureatthetimeofthefootbathrose,andsignificantdifferencewasbetween theelderlysubjectwiththeyoung.Theverticalaxisshowstherateofchangefromarestlevel.
分間行った実験を行った6)。その結果、鼓膜温 は競泳用パンツの全身浴で約 0.40℃、普段着の 足浴で 0.24℃上昇した。また、全身入浴では入
浴時間が 20 分間で湯温 38℃は安静値と変わら なかったが、43℃では 20 分後、約 2.0℃上昇し た7)。着衣や環境温の違いはあるが、足浴は全 Fig. 2 Changesintheskinbloodflowduring41℃20minfootbath
Theupperfigure:theskinbloodflowofthelowerlimbsintohotwater,thelowerfigure:
thefemoralskinbloodflownotinthewater.
Theskinbloodflowoflowerlimbsshowedmeaningfulincreasetotheyoungandtheold, andsignificantdifferencewasamongtheelderlywiththeyounglowerandupperlimbs.
Theverticalaxisshowstherateofchangefromarestlevel.
133 足浴時の自律神経機能の変化と加齢の影響
身浴の約 12%の加温効果があると考えられる。
このことは、足部の表面積の割合のみで鼓膜温 の上昇を説明することは難しく、他の要因が存 在すると考える。
そのもう一つの要因として加温する身体の部 分と体温測定した鼓膜温からの距離の違いが影 響していると考えられる。下肢の深部温は身体 の中で手と同様最も低く、足浴はその最も低い Fig. 3 Changeinthebloodpressureduring41℃20minfootbath
Intheupperfigure:systolicbloodpressure,thechartbelow:diastolicbloodpressureduringthefootbath.
Asforthesystolicanddiastolicbloodpressures,theyoungfellowdidnothaveachangeduringthefoot batheither,butintheelderlydropped,andsignificantdifferencewastheelderlywiththeyoungduring footbath.Theverticalaxisshowstherateofchangefromarestlevel.
部分を加温することになる。そのため、下肢が 温まるのに時間がかかり、鼓膜温を上昇させる のに時間を要すると考えられる。そして、その 加温された静脈血が動脈に伝導する遅れが生じ ると思われる。大重は、前腕浴と下腿浴での温 熱効果について比較している。その結果、舌温 は、20 分間の前腕浴で下腿浴に比べ、有意に 約 0.6℃上昇し、血圧や心拍数の変化も大き かったことを報告している。この結果は、暖め た面積だけではなく、暖めた場所による血管拡 張と循環促進が関与していることを示唆してい る8)。
2.足浴時における体温調節機能と循環動態の 変化に及ぼす加齢の影響
足浴時の加温効果は加齢の影響を受けてお り、若年者に比べて体温調節機能に与える影響 は小さかった。これは加齢により体組織の体脂 肪が増加し9)、下肢を中心とした筋肉量が減少 することが10)、加温効果を軽減させ、体温上 昇を抑えたことが考えられる。また、加齢によ る身体の温まり方が若年者に比べて小さかった
と思われる。これには、足浴時の高齢者の皮膚 血流量増加も若年者に比べ低下し、加齢により 血管の伸展性の低下が関与しているものと思わ れる11)。しかしながら,入來らは高齢者の体 内温は変動しやすいのが特徴であると言い、熱 中症や寒冷時に冷えやすいと報告している12)。 ただ、入浴では若年者に比べて、高齢者は長時 間の入浴が可能であることも経験的にわかって いる。おそらく、与える環境温の違いにより反 応が異なるのではないかと考える。これらの現 象について今後明らかにしていく必要がある。
しかしながら、入浴時の全身浴における循環 動態の変化は高齢者の方が若年者に比べて大き いことが明らかとなっており6)、足浴において も同様に、高齢者は若年者に比べて血圧の変動 が大きかった。これらには、加齢による動脈硬 化や血管の石灰化により大動脈の弾性繊維が変 化し、血管の伸展性の低下12),13)を引き起こし たと考えられる。血管の伸展性低下は、圧受容 器の感受性を低下14)させ、血圧の恒常性の維 持を減弱させたと思われる。また、高齢者では Fig. 4 Changeintheheartrateduring41℃20minfootbath
Boththeyoungandtheelderlyheartrateincreasedduringthefootbath,anddroppedafterfootbath.
Significantdifferencewasbetweentheelderlywiththeyoung.Theverticalaxisshowstherateofchange fromarestlevel.
135 足浴時の自律神経機能の変化と加齢の影響
交感神経活動が若年者と比べ亢進し、副交感神 経活動が低下すると言われ、自律神経バランス が崩れている。このことが、足浴時の加温効果 による血圧低下に対して、若年者では心拍数を 増加させることによって血圧を維持させるが、
高齢者ではその機能が十分でなく、結果として 血圧を低下させた。これらのことは、高齢者の 足浴は、体温調節機能の変化からみると加温効 果は若年者と比べ小さいが、循環動態の指標で ある血圧変動は大きいことを意味する。
Ⅴ 終わりに
足浴は、全身浴に比べ浮力や静水圧作用が小 さく、加温効果のみの影響を受けやすい。ま た、その加温効果は全身浴に比べて緩徐で、虚 弱老人や心血管機能が減弱している高齢者に とって身体を加温する目的として用いるのに適 する安全な入浴方法である。しかし、高齢者は 小さな加温効果の変化でも血圧を中心とした循 環動態の変化が見られるので十分注意して足浴 をすることが肝要と思われる。
利益相反
この論文には、利益相反に関して申告すべき 項目はありません。
引用文献
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ChangesoftheAutonomicNerveFunctionduringaFootBath andHowAgingInfluencestheChange
ChihiroMIWA1),HiroyaSHIMASAKI2),AkiraDEGUCHI2),EriSUZUMURA2), YoichiKAWAMURA2),KazunoriMAEDA2),YasunoriMORI3)
Abstract
Afootbathisoneofthepartialbathswhichsoaksafootinhotwater.Theeffect makesthebloodcirculationofthepartofthewarmedfootbetter,andiseffectivefor fatigue,edema,poorcirculation,andsleep.Thepurposeinthisstudyistoexaminehow aginginfluencesthechangeoftheautonomicnerveduringafootbath.Thesubjects werenineelderlyindividuals(fourmen,fivewomen,averageageof73.5±8.4years old),eightyoungindividuals(allmen,averageageof25.5±3.4yearsold),andfora 20-minutefootbath,whenItouchedthelowerthightothe41℃bathinaseated position for rest ten minutes, performed rest after a foot bath for five minutes.
Tympanic temperature with a thermistor, skin blood flow with a laser Doppler flowmeter,andbloodpressureandheartratewithanautomaticsphygmomanometer were measured. In the younger subjects, tympanic temperature was significantly increased compared to the elderly subjects, and skin blood flow was significantly increasedduringthefootbathinthelowerthighwithbothsubjects,andtheyounger subjectsweresignificantlyincreasedcomparedtotheelderlysubjects.Thefemor-skin bloodflowsignificantlyincreasedonlyintheyoungsubjects.Thebloodpressuredid not change in the young subjects during the foot bath, but the elderly subjects’
pressuredropped.Theheartrateincreasewasshownintheyoungsubjects;however, itwasnotshownintheelderlysubjects.Itisthoughtthatanincreaseofthequantity offatanddecreaseofthemusclevolumeduetoaging,adeclineintheflexibilityofthe bloodvessel,andattenuationofthesensitivityofthereceptoraffectthechangeofthese autonomicnervefunctions.
Keywords:footbath,thermoregulatoryfunction,cardiovascularfunction,aging
1)AichiMedicalCollegeforPhysicalandOccupationalTherapy 519Ichiba,KiyosuCity,AichiPref.452-0931,Japan
TEL:+81-52-409-3311,FAX:+81-52-400-6413 2)OyamadaMemorialSpaHospital
3)MiePrefectureHealthandEnvironmentResearchInstitute
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