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色相と意味の関連についての日中比較

— 単語分類課題による検討—

キーワード:色相,意味,感情,関連,日中比較 所 属 行動システム専攻 氏 名 徐 冰 問題と目的 私たちは色を見るときに,単に色を識別しているだけ でなく,さまざまな物や事柄を思い浮かべ,感想や感情 が心に浮かぶことがある。色と感情の関連については多 くの先行研究がSD 法や多肢選択法などの質問紙調査法 を用いて調べている。実験参加者の文化背景、国籍、民 族が異なる場合,色による感情は異なることが知られて いる。以下では,アメリカ,日本と中国を例として紹介 する。 アメリカの場合,赤は失敗やネガティブな情報を伝達 するために用いられ,不快な色と評価される。具体的に は,赤はテロリスト警告(red-terrorism),警戒信号,財 務諸表に用いられる。緑と青はポジティブな感情を持っ て,愉快な色と評価される。例えば,米国の通貨が緑色 としてポジティブな情報を伝える(e.g., Moller, Elliot, & Maier,2009)。 日本人の場合,仲谷・藤本(1993)によれば,赤はポ ジティブな感情を引き起こす。赤は魔除けに用いたり, おめでたい色として用いたり場合がある。緑は自然を象 徴する色として,ポジティブな情報を伝える(仲谷・藤 本,1993)。青は,海に囲まれた列島に生活している日 本人にとって,生命の根源や誕生を象徴する色となる。 また,日本人にとって,最も好まれる色としては青が最 も頻繁に選ばれる(e.g., 張・斎藤,2004)。 中国人の場合,赤(中国語では,「紅」)は漢民族が最 も好む色であり,生活に欠かすことができない色である。 張・斎藤(2005)が統計に基づいて指摘する通り,赤は 中国の代表色である。伝統文化から現代まで赤はポジテ ィブな意味を伝えるものとして中国文化に定着している。 緑は自然を象徴する色として,ポジティブな意味を伝え る。青は伝統文化の視点からは,昔の中国では青は官位 が低いことを表し,身分の低い者の服の色である。京劇 では青は腹黒い凶悪の人物を表す(e.g., 張,2007)。 以上の比較から見ると,文化背景によって,色と感情 の関連は異なることが存在する。Table1 は上で述べたア メリカ・日本・中国の赤・緑・青と感情の対応である。 Table 1.3 つの国における赤・緑・青の感情の比較 近年,いくつかの研究はプライミング課題と単語分類 課題を用いて,色と意味の潜在的な結びつきを検討した (Moller et al., 2009;王ら,2014)。質問紙調査では色の 顕在的な側面を調べている。一方,この方法は質問紙調 査法と異なって,潜在的な側面に着目し,自動的な感情 と色の関連を調べることができると示した。 Moller et al.(2009)は,アメリカ人を実験対象として, 単語分類課題を用いて,色と意味の関連を検討している。 その結果,赤は失敗とネガティブを表す単語に対する判 断の反応時間を促進し,緑は成功とポジティブを表す単 語に対する判断の反応時間を促進した。この結果は色が 潜在的または自動的に感情と関連して,単語の意味判断 に影響を与えることを示している。 また,王ら(2014)は,プライミング課題を用いて, 中国人における色の感情に対する情報処理の特徴を検討 した。その結果,中国人にとって,色と感情の関連は色 の知覚レベルと概念レベルにおいて異なり,赤は知覚レ ベルにおいてポジティブとネガティブの両方の感情と関 連し,それに対し,概念レベルにおいて赤はポジティブ な感情と結びついている。青は知覚レベルにおいてポジ ティブな感情と結びついていて,それに対し,概念レベ ルにおいて青はポジティブとネガティブの両方の感情と 関連していることが明らかになった。この結果はMoller et al.(2009)の結果と異なっていた。中国人にとって, 色と感情の関連については自文化の固有な点があること が明らかになった。 これまでの色と感情の関連についての文化比較研究で は,すべて質問紙調査が行われていた。単語の判断や分 類の課題を通して,異文化の間で色と意味や感情の潜在 的または自動的な関連はまだ調べられていない。以上の 問題を明らかにするために,本研究は,日本人と中国人 ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !

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を研究対象とし,単語分類課題を用い,色と感情の潜在 的な関連についての情報処理は文化によって異なるか否 かを検討した。 実験1 方法 実験参加者 日本語を母語とする大学生と大学院生 22 名(男性 8 名,女性 14 名)で,中国語を母語とする 大学生と大学院生20 名(男性 10 名,女性 10 名)であっ た。 刺激・装置 同じ意味をもつ日本語と中国語の単語 をそれぞれ16 単語用いた(Table 2)。それぞれの文字 の大きさは28mm,視角は 2.7°× 2.7°であった。各単 語の色は赤・緑・青3 色のいずれかに設定した。色の間 で物理的な明度と彩度をコントロールして,赤 (Yxy[21.8/.535/.326]),緑(Yxy[22.3/.292/.519]),青 (Yxy[21.7/.181/.171])を用いた。背景色は灰色(Yxy [3.2/. 313/. 329])に設定した。 実験のプログラムはMatlab で行った。バソコンは

Apple Mac mini を用い,17 インチの CRT モニターに刺激

を呈示した。観察距離は50cm であった。 Table 2. 実験 1 で用いた日本語と中国語の単語リスト 手続き 実験は暗室で行われた。実験参加者はスペー スキーを押すより開始された。キーを押した後,注視十 字(視角1.1°)が 500ms 呈示され,そして,色をつけ た単語が呈示された。実験参加者は呈示された単語が失 敗あるいは成功に関するかをなるべく速く正確に判断し て,対応したキーの左矢印(←)あるいは右矢印(→) を押して反応した。回答が正解の場合で灰色の背景がそ のままに現れ続け,回答が間違った場合は白い「×」印 が呈示された(Figure 1)。 Figure 1. 実験 1 の試行例 結果と考察 各実験参加者の反応時間の平均(M)と標準偏差(SD) を元に,長過ぎる反応時間(> M + 2SD)を外れ値とし て計算した。誤答と外れ値を除外して,各条件の平均反 応時間を算出した。さらに,各実験参加者のそれぞれの 条件の誤答率を計算した。各条件の平均反応時間と平均 誤答率を分析対象として,日本人と中国人それぞれの群 に対し,2(単語の意味)×3(色相)の参加者内 2 要因 分散分析を行った。 日本人の結果について,反応時間における単語の意味 と色相の主効果またはそれらの交互作用も有意ではなか った(Figure 2)。誤答率については単語の意味と色相の 主効果またはそれらの交互作用も有意ではなかった。平 均誤答率は3.2%であった。色相と意味の関連は見られな かった。 中国人の結果について,反応時間における単語の意味 の主効果は有意であった(F(1,19) = 6.01, p<.05)。色相 の主効果とそれらの交互作用は有意ではなかった (Figure 3)。誤答率については単語の意味の主効果は有 意であった(F(1,19) = 8.73, p<.01)。色相の主効果とそ れらの交互作用は有意ではなかった。平均誤答率は3.2% であった。 この結果によって,日本人と中国人それぞれの群にお いて,色相と意味の関連は見られず,色と感情の潜在的 な関連についての証拠を得ることはできなかった。その 原因としては,実験1 に用いた単語はなじみの程度と感 情価を統制しなかったことが考えられる。日本語と中国 語が同じ表現であっても,それぞれの実験参加者にとっ ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !

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500ms 500ms × 500ms !

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500ms 500ms × 500ms

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て,単語の意味やニュアンスが異なっている可能性があ る。天野・近藤(1999)によれば,単語認知処理の研究 において単語のなじみの程度を統制することが重要であ る。一方,単語が伝える感情の強さ,すなわち単語の感 情価の高さも単語分類の反応時間を影響する可能性があ る。したがって,実験2 ではより一般的な感情を表すポ ジティブとネガティブな単語を変更して,感情を単語の なじみの程度と感情価を統制して再検討した。 Figure 2. 実験 1 の日本人の各条件における平均反応時間 Figure 3. 実験 1 の中国人の各条件における平均反応時間 単語調査 単語調査の目的は,実験2 で使用する単語刺激を選定 することであった。 方法 実験参加者 日本人大学生 65 名(男性 27 名,女性 38 名)と中国人大学生 55 名(男性 21 名,女性 34 名)。 平均年齢は両群20.8 歳であった。 材料 日本語は単語感情極性対応表(高村ら,2006) に基づいて,ネガティブの感情極性が-0.4 以下(-1 は最 もネガティブ)の単語と,ポジティブの感情極性が0.4 以上(1 は最もポジティブ)の単語から選んだ。中国語 は汉语情感词系统(CAWS)(王ら,2008)に基づいて, ネガティブの感情価が3 以下(1 は最もネガティブ)の 単語と,ポジティブの感情価が6 以上(9 は最もポジテ ィブ)の単語から選んだ。ネガティブとポジティブの単 語は各50 語,合計 100 語の名詞と形容詞をランダムにし て調査冊子を作成した。 手続き 感情価(− 5:非常にネガティブ〜+5:非常 にポジティブ)となじみの程度(0:全くなじみがない〜 5:非常になじみがある)を評定した 結果と考察 なじみの程度と感情価の平均値を計算し た。なじみの程度が平均以上であり単語の中からネガテ ィブ・ポジティブな単語を10 語ずつ選んで,単語刺激と して実験2 で使用した(Table 3)。 Table 3. 実験 2 で用いる日本語と中国語の単語リスト 実験2 方法 実験参加者 日本語を母語とする大学生と大学院生 10 名(男性 4 名,女性 6 名)と,中国語を母語とする大 学生と大学院生10 名(男性 5 名,女性 5 名)であった。 日本人の平均年齢は23.8 歳であり,中国人の平均年齢は 24.2 歳であった。 刺激・装置 単語調査で選定された20 単語を赤・緑・ 青3 色のいずれかに設定した。フォントサイズ・視角・ 輝度および装置は実験1 と同じであった。 手続き 実験1 と同じであった。 結果と考察 実験1 と同じように日本人と中国人それぞれの群に対 し,2(単語の意味)×3(色相)の参加者内 2 要因分散 分析を行った。 日本人の結果について,反応時間における単語の意味 と色相の主効果またはそれらの交互作用も有意ではなか った(Figure 4)。誤答率については単語の意味と色相の 主効果は有意ではなかった。しかし,2 要因の交互作用 は有意であった(F(2,18) = 4.5, p<.05)。単語の色が青の 場合,ネガティブ単語に対する誤答率はポジティブ単語 に対する誤答率より低かった(Figure 5)。平均誤答率は 4.1%であった。 中国人の結果について,反応時間における単語の意味 の主効果は有意であった(F(1,9) = 8.8, p<.05)。2 要因の 交互作用は有意であった(F(2,18) = 7.44, p<.005)。単語 の色が緑と青のいずれかの場合,ポジティブな感情を表 す単語に対する反応がネガティブな感情を表す単語に対 する反応より速かった。単語の意味はネガティブな感情 ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !

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を表す場合,赤で描かれた単語に対する反応が緑と青で 描かれた単語に対する反応より速かった(Figure 6)。誤 答率については単語の意味と色相の主効果またはそれら の交互作用も有意ではなかった(Figure 7)。平均誤答率 は3.5%であった。 実験2 の結果から,実験 2 の結果から,日本人にとっ て,青はネガティブな感情と自動的に関連していること が明らかになった。他の色相と意味の関連を見られなか った。中国人にとって,緑と青がポジティブな感情と自 動的に関連し,赤がネガティブな感情と関連している。 他の条件の関連を見られなかった。これによって,日本 人と中国人の間では色と感情の潜在的な関連が異なるこ とを示唆している。 Figure 4. 実験 2 の日本人の各条件における平均反応時間 Figure5 . 実験 2 の日本人の各条件における誤答率 Figure 6. 実験 2 の中国人の各条件における平均反応時間 Figure 7. 実験 2 の中国人の各条件における誤答率 総合考察 本研究では,単語分類課題によって,日本人と中国人 の間では色と意味や感情の潜在的な関連が文化によって 異なるか否かを検討した。実験1 では,日本人と中国人 両方の場合,色相と失敗と成功に関する単語の潜在的な 関連は見られなかった。実験2 ではポジティブとネガテ ィブ単語を用いて,単語のなじみの程度と感情価を統制 して再検討した。実験2 の結果から,色相と意味の結び つきが見られ,日中の間では色と感情の潜在的な関連が 異なることが分かった。 この結果は,中国人参加者に関して言えば,ある程度 王ら(2014)の研究と一致した。青が色の知覚レベルに おいてポジティブな感情と関連するのは先行研究と一致 した(王ら,2014)。赤がネガティブな感情と自動的に関 連するという結果は先行研究では赤がネガティブとポジ ティブの両方の感情と関連する結果と異なった(王ら, 2014)。本研究の実験参加者は先行研究の実験対象者と異 なり,すべて在日留学生であり,中国の生活環境に赤が 表すポジティブな情報に接する機会が減少したので,赤 がポジティブな感情と関連しなかった可能性がある。日 本人にとっては,青とネガティブな単語の潜在的な関連 があり,すなわち青が色の知覚レベルにおいてネガティ ブな感情と自動的に関連していると考えられる。そして, 青はポジティブな感情と関連するという点(e.g., 張・斎 藤,2004)は色の概念レベルの処理を反映し,知覚レベ ルと概念レベルでは色と結びつきのある感情は異なって いると推測される。概念レベルにおける色と意味や感情 の関連の文化差を明らかにするためには今後さらなる検 討が必要である。 主要引用文献 天野成昭・近藤公久 (1999). NTTデータベースシリーズ 「日本語の語彙特性」第1巻 単語親密度,三省堂 Moller, A. C., Maier, M. A., & Elliot, A. J. (2009). Basic

Hue-Meaning. Associations, Emotion, 9, 898–902.

仲谷洋平・藤本浩一 (1993), 美と造形の心理学,北大 路書房. 張 粤・齋藤美穂 (2004) 日本人の「赤」に対するイメー ジ調査,日本色彩学会誌,28(SUPPLEMENT), 140-141. 張 粤・齋藤美穂 (2005). 中国人学生の「赤」のイメージ に対する研究,日本色彩学会誌,29, 328-337.

Wang, T. T., Wang, R. M., Wang, J., Wu, X. W., Mo, L.,

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References