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アリストテレス探求論の研究 ー『分析論後書』における定義と論証

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Academic year: 2021

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博 士 ( 文 学 ) 日 吉 大 輔

学 位 論 文 題 名

アリストテレス探求論の研究

ー『分析論後書』における定義と論証

     学位論文内容の要旨

  本 論 文 は ア リ ス ト テ レ ス 『 分 析 論 後 書 』 とり わ けB巻 の ギ リ シ ア 語 テク ス ト を 丹 念 に 読み 、 そ こ で 展 開 され る 探 究 論 に つ い て 自 ら の 解 釈 を 提 示 す る 。 日 吉 氏 の 方 法 の 特 徴 は こ の 書 に お い て 探 究 論 は 十 全 に 展 開 さ れ て お り 、 で き る 限 り 同 書 内 の 相 互 言 及 に よ り 整 合 的 な 解 釈 を 提 示 す る と い う 禁 欲 的 な 姿 勢 に あ る 。 他 方 、2000年 に お よ ぶ 本 書 の 諸 研 究 を 精 力 的 に 取 り 入 れ て い る 。 と り わ け こ の 書 物 な ら び に こ の 領 域 の 詳 細 な 研 究 で あ り ま た ア リ ス ト テ レ ス の 意 味 論 を 現 代 分 析 哲 学 の 意 味 論 の 文 脈 に お い て 再 構 成 し て い る David Charles,Aristotle on Meaning and Essence (Oxford2000) の 綿 密 な サー ヴ ェ イ を 行 い 、そ れ と の 対 話 の な か で自 説 を 展 開 し て いる 。

  序 章 に お い て 『 分 析 論 後 書 』 探 究 論 に お け る 研 究 史 を 概 観 し 、 何 が 問 題 と さ れ て い る か を 概 説 す る 。 探 究 論 と い う 知 的 活 動 を 論 証 理 論 と 定 義 論 に お い て 位 置 づ け る と い う 本 論 文 の 目 的 を 提 示 す る 。 第2章 で 、 探 究 論 の 青 写 真 を 提 示 す る 。 氏 は そ こ で 「 論 証 と い う 方 法 を 持 つ こ と に よ り は じ め て 探 究 論 が 可 能 に な る 」 と いう 主 張 を 「 学 知 条件 」 と 呼 ぶ 。 さ ら に探 究 の 目 標 で あ る「 「 何 で ある か」 と「何 ゆえ にある か」 とは 同 じ で あ る 」 と い う 主 張 を 「 同 一 性 テ ー ゼ 」 と 名 づ け、 こ れ ら ニ っ を そ の後 の 考 察 の 主 導 原理 と し て い る 。   第3章 で は 、 探 究 論 の 基 本 構 造 は 成 功 し た 探 究 と い う 視 点 か ら 構 成 さ れ て い る と す る 。 探 究 論 の 構 造 を 検 討 す る 際 の 軸 と し て 探 究 項 目 、 探 究 段 階 、 探 究 方 法 の 三 っ を 挙 げ る 。 探 究 項 目 は 「 事 実 」 「 理 由 ( 何 故 に あ る か ) 」 「 ある か ど う か 」 「 何で あ る か 」 の 四 っで あ る 。 こ れ ら は 各探 究 項 目 の 区 別 や関 連 付 け を め ぐ りB1一10の 論 述 の 基 本 用 語 で あ る 。 「 理 由 」 と 「 何 で あ る か 」 は同 一 性 テ ー ゼ に よっ て 関 連 づ け ら れる 。 さ ら に 、 探 究 の 方 法 と し て 論 証 の 媒 介 が 探 究 論 を 適 切 な も の と す る た め に 不 可 欠 で あ る こ と を 氏 は 確 認 す る 。

  探 究 の 過 程 に は 「 存 在 か ら 本 質 ( 何 で あ る か ) ヘ 」 と い う 、 テ ク スト か ら 一 見 し て 明ら か な 探 究 段 階 ばか り で は な く 、Charlesに よ り 主 張 さ れ て い る 「 意 味 の 把 握 段 階 」 も導 入 さ れ る 。 氏 はCharlesの 意 味の 把 握 、 そ し て 存 在さ ら に 本 質 の 「 科学 的 探 究 の 三 段 階 説」 を 紹 介 し 、 そ れに 賛 成 す る 。

  第4章 で は 、 特 に 探 究 方 法 に 焦 点 を 合 わ せ て 、 定 義 と 論 証 の 関 連 に つ い て 検 討 す る 。B3―7を テ ク ス ト と し 、 ア カ デ メ イ ア 的 方 法 論 の 探 究 論 へ の 寄 与 を 明 ら か に す る 。 従 来 こ の 箇 所 は 「 定 義 と 論 証 は 関 連 し な い 」 と い う 消 極 的 観 点 か ら の み 捉 え ら れ て き た が 、 氏 に よ れ ば そ れ は 十 分 な 理 解 で は な い 。 そ こ で 氏 は 「 定 義 を 知 る よ う に な る た め の 適 切 な 方 法 は 、 こ の 定 義 が 正 し く 、 か つ 演 繹 的 推 論 の 使 用 を 本 質 的 に 含 む 仕 方 に お い て 正 し い と い う 主 張 の た め の 根 拠 を 与 え る も の で な け れ ば な ら な い 」 と い う 考 え を Charlesに 按 ら い 「 定 義 制 約 」 と 呼 び 、 論 証 と の 関 連 を 明 ら か に す る 。 さ ら に氏 は 定 義 制 約 よ りも 基 礎 的 な

‑ 5一

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も の と し て 、 「 定 義 の 基 底 性 」 を 主 張 す る 。 こ れ は 定 義 に関 し て 定 義 制 約 より 「 原 始 的 な 表 現で あ る 」 が そ れ は 「 定 義 は 何 で あ る か を 開 示 す る 」 と い う 主 張 で あ り 、 こ れ を 彼 の 探 究 論 の 方 法 的 基 礎 とし て 提 示 し 、 各 章 に お い て ア カ デ メ イ ア の 同 僚 と も 最 低 限 同 意 で き る 主 張 と し て 、 常 に そ の 基 底 性 に 立 ち戻 り な が ら 、 ア リ ス ト テ レ ス が 探 求 論 を 展 開 し て い る こ と を 明 ら か に し て い る 。

  第5章 、 第6章 で は 、 探 求 方 法 の 視 点 か ら 論 証 理 論 を 検 討 す る 。 論 証 理 論 は 『 後 書 』A巻 に お い て 展 開 さ れ 、 こ れ ま で 知 識 の 形 成 方 法 と 理 解 さ れ て い る 。 そ の 理 解 に 加 え る 仕 方 で 、 氏 は 探 究 方 法 と し て の 論 証 理 論 と い う 理 解 を 考 察 す る 。 そ の 際 、 知 識 の 形 成 方 法 や 探 究 方 法 と い う 理 解 と 対 立 す る 見 解 す な わ ち 、J. Barnes等 に よ り 主 張 さ れ る 科 学 的 知 識 の 「 教 授の 方 法 」 と し て の論 証 理 論 と い う 見 解を 退 け る 。 な お 、 知 識 の 原 理 に つ い て 考 察 し 、 原 理 そ の も の は 論 証 さ れ ず 、 原 理 の 認 識 は 論 証 と い か な る 関 連 に お い て あ り 、 ま た い か に 認 識 さ れ る か に つ い て 論 じ 、 帰 納 法 の 分 析 を 通 じ て 探 究 論 と の 関 連を 検 討 す る 。 第7章 で は 、 探 究 論 の 基 本 構 造 を 再 検 討 し 、 探 究 項 目 、 段 階 、 方 法 の う ち 、 今 度 は 探 究 段 階 に 焦 点 を 合 わ せ る 。 そ の さ いCharlesの 「 定 義 実 践 と 論 証 実 践 の 相 互 依 存 性 」 と い う 解 釈 を 吟 味 す る 。 定 義 は ー な る 説 明 言 表 で な け れ ば な ら ず 、 そ の 一 性 を 保 障 す る も の は 因 果 的 に 基 礎 的 な 特 徴 で あ る こ と か ら 、 定 義 は 論 証 に 依 存 す る 。 他 方 、 論 証 は 論 証 不 可 能 な 第 ー 原 理 に 依 存 し 、 そ れ は 「 何 で あ る か 」 を 開 示 す る 定 義 に よ り 与 え ら れ て お り 、 論 証 は 出 発 点 に お い て 定 義 に 依 存 し て い る 。 ま た 、 因 果 的 な 説 明 実 践 は 類 と 種 差 と い う ア カ デ メ イ ア に 由 来 す る 定 義 論 の 「 よ り 広 い文 脈 」 に お い て 捉え な お さ れ る 。 「種 差 は 因 果 上 基 礎 的 な 根 拠 の 選 択 に あ る 程 度 寄 与 す る 」 と い う 仕 方 で 、 論 証 が 定 義 に 依 存 す る と さ れ る 。 こ のCharles の 相 互 依 存 性 の 主 張 に は 氏 に よ れ ば 「 圧 倒 的 な 因 果 性 重 視 」 が あ る と 指 摘 さ れ る 。 氏 は こ の 因 果 性 重 視 に 対 し て 「 だ が 、 「 何 で あ る か 」 に 応 答 可 能 な 説 明 言 表 、 す な わ ち 適 切 な 定 義 形 成 を 求 め る 議 論 の 動 機 付 け を 理 解 す る こ と な し に 、 相 互 依 存 性 に 韜 け る 定 義 実 践 へ の 依 存 を 十 分 に 理 解 す る こ と は で き な い 」 と 反 論 す る 。

  第8章 で は 、Charlesの 「 三 段 階 説 」 お よ び 「 相 互 依 存 性 」 と い う 解 釈 に 動 機 付 け ら れ て 、 「 何 で あ る か 」 と 「 何 故 に か 」 と の 同 一 性 に つ い て 氏 の 見 解 を 提 示 す る 。 こ の 同 一 性 テ ー ゼ が 主 張 さ れ る 四 箇 所 を 取 り 上 げ 、 比 較 す る 。 そ の 上 で 、 同 一 性 テ ー ゼ が 理 解 さ れる 理 由 を 、 ア リ スト テ レ ス の 議 論 から 、 と り わ け ア カ デ メ イ ア 的 方 法 論 の 検 討 か ら も た ら さ れ る 考 え 方 に 基 づ ぃ て 解 釈 す る 。 定 義 の 基 底 性 が 同 一 性 テ ー ゼ の 根 底 に あ る こ と を 明 ら か に す る 。 氏 は 「 ア リ ス ト テレ ス が 論 証 理 論 とい う 独 自 の 方 法 をた よ り に 探 究 の 構 造 を 捉 え る 」 さ い に 、 彼 は 同 時 代 の ア カ デ メ イ ア の 人 々 の 関 心 に 即 し て 自 ら の 議 論 を 構 成 し て い る こ と を 明 示 す る 必 要 が あ っ た と す る 。 す な わ ち 「 論 証 理 論 が 何 を 明 ら か に す る た め の 方 法 で あ る の か を 固 定 し て お く 必 要 が あ っ た の で あ る 。 そ の よ う な 必 要 性 に 促 さ れ て 主 張 さ れ た の が 、 同 一 性 テ ー ゼ だ っ た の で は な ぃ か と 私 は 考 え る 。 そ し て 同 一 性 テ ー ゼ の 理 解 を 支 え て い る も の は 、 従 来 の 見 解 と 共 通 す る 考 え 方 、 す な わ ち 定 義 の 基 底 性 な の で あ る 」 と 主 張 す る 。 こ こ で 定 義 の 基 底 性 は 「 何 で あ るか 」 を 探 究 論 が 解 明 す べ き 「 第 一 の 目 標 」 と す る と 定 め て い る と 理 解 さ れ る 。

第 9章 で は 、 分 割 法 が ど の よ う に 探 究 論 に 寄 与 し て い る か を 定 義 の 問 題 と の 関 連 で 考 察 し て い る 。   第 10章 で は 「 定 義 」 と 通 常 は 訳 さ れ る ニ つ の 言 葉 「 ホ ロ ス 」 と 「 ホ リ ス モ ス 」 の 語 義 の 区 別 は い か に な さ れ る か を 明 ら か に す る 。 そ の 上 で 、 定 義 が 形 成 さ れ て ゆ く な か で 、 論 証 が 有 効 に 働 い て い る こ と を 確 認 し 、 探 究 論 へ の 寄 与 を 考 察 し て い る 。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査

教授 教授 准教授

千 葉 中戸川 村 松

文 題 名

     恵 孝治 正隆

ア リスト テレス探求論の研究

―『分 析論後書 』にお ける定義と論証

   本論文は古典ギリシア語によるアリストテレスの『分析論後書』において展開される探究論の 精緻な研究である。本研究の特長は第一に『分析論後書』とりわけ B 巻を優れた語学カを駆使し て文献学的に堅固に、そして哲学的に興味深いものとして提示することに成功していることにあ る。第二にこの領域における優れた研究であり、最も影響カが強いDavid Charles の見解を丁 寧に紹介し(これは邦語における最初の試みである)、Charles の研究の詳細なサーヴェイのもと にその緻密さと膨大さに飲み込まれることなしに、定義の基底性という独自の見解を提示してい ることに見られる。Charles においては、定義成功のための条件として挙げる一性条件と先行性 条件は定義の基礎として因果論的な説明により明らかにされるものであるが、氏は「何であるか」

を開示するものであるという定義の基底性こそが、「何故にか」を因果論的に明らかにする論証 理論の基礎に通底していることを明らかにしている。そのことによルアリストテレスの探究論が アカデメイアにおいて説得的な地位を得るに成功していると主張している。これはCharles の 見解と相補的なものであるが、なおざりにされがちな論点を明らかにした功績は確認されるべき ものである。第三に、これは第二の論点と深く関わるが、「何であるか」と「何ゆえにあるか」

が同じであるという「同一性テーゼ」が論じられる四箇所のそれぞれの文脈の異なり、展開を正 確に捉えたことにある。

   これらの特長に随伴して、「何であるか」を開示する定義の基底性に関して、今後解明すべき 問いが生じる。アカデメイアに対する自説の説得という目的のために「何であるか」の理解が固 定されるとするならぱ、 ad hominem な議論にこの哲学上の重要な概念が支配されることになる。

アリストテレスによる意味論および論証理論の構築に基づき、探究論の帰結として新しい定義論 が構築され、「何であるか」は三種の定義により把握されるものという結論が打ち立てられ、そ れら三種の定義のーっとして何故にかを開示する定義が確立されている。従って、「何であるか」

の概念そのものが、彼の新たな定義論を通じて豊かなものになっており、定義の基底性が通奏低

音として響いていると同時にその実質において何らかの変容を受けていることも否定できず、そ

れをいかに豊かなものとしてアリストテレスが展開していくかについて、出発点、基底としての

     ―   ワ   ―

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役割だけではなく、概念の実質的な展開をも捉える何らかの方策が必要とされていることも指摘 されねばならない。これは今後の課題として残されている。

   本委員会は、申請論文を慎重に審査し、口述試験を実施して十分に審議を重ね、全員一致で日 吉大輔氏のこの論文に課程博士(文学)を授与することが妥当であるとの結論に達した。

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参照

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