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Academic year: 2021

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メタ理論とディスコース分析

鈴木 聡志(Satoshi SUZUKI)

東京農業大学教職・学術情報課程

1.理論とメタ理論

ある現象に興味を持ちそれについてデータを集める。データを分析することでデー タを説明する仮のモデルが作られ,今度はそのモデルを検討するためにデータが集め られ,モデルが修正される。こうしてデータとモデルの往復によりモデルが洗練され,

説明力を増し将来の出来事について予測することもできるようになると,それは理論 と呼ぶのにふさわしくなる。これが通常の研究の姿であるが,その背後には研究者達 が暗黙のうちに前提とし,研究活動を暗黙のうちに規定しているものがあり,それが 方法論ないしパラダイムと呼ばれる。

このようにデータと理論と方法論 は密接に関連している。これに対し てメタ理論はこれらとは違った次元 に属し,様々な理論や方法論を比較 検討するための視点を提供する(図 参照)。理論とメタ理論をこのように 理解した上で,ディスコース分析の 位置づけを考えてみたい。

データ 理論・

モデル

方法論・パラダイム

図 データ・理論・方法論・メタ理論の関係

2.ディスコース分析の位置

ディスコース分析の登場の背景には従来の心理学への不満があった。Wooffitt(2005) によると,1980年代のイギリスの社会心理学は,その実験的で認知主義的な方向性に 不満を募らせ,従来の研究を批判し始めた。批判者達は,エスノメソドロジー,フー コー派言説分析,レトリック研究,フェミニズム等の当時の多くの知的影響を反映し た様々なアプローチを開始したという。そしてこうした多くのアプローチに共通する 基盤がディスコースであることを示したのがPotter & Wetherell(1987)だった。これ 以降,心理学批判者達はディスコース分析の周りに集結することになった。

こうした事情の背景に,20世紀の人文学における「言語論的転回」を指摘すること ができるだろう。この考えに従うなら,まずモノがあってそれに言葉が与えられるの ではなく,まず言葉があってそれがモノを存在させる。心理学が対象とする「心」も 同じである。私達の意識や経験があってそれに言葉が与えられるのではなく,まず言 葉があってそれが私達の意識や経験を存在させる。これがもし事実なら,私達の内部 に経験や考えがあってそれが言葉で表現されるのではなく,言葉が発せられると同時 に,またはその結果,経験や考えが生まれる。従来の心理学的研究においては言葉は 人の経験や考えを知るための手段であるが,ディスコース分析においては言葉の実際

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の使われ方それ自体が研究のトピックなのである。

こうしてディスコース分析の研究者達に共通する問題意識として次の二点を指摘す ることができる。1)従来の心理学の実験的,認知主義的傾向への不満とその代わり となるアプローチの希求。2)言葉を研究のトピックにすること。

心理学におけるディスコース分析は近年特に質的研究の方法としての地位を確立し,

教科書の中で実験法や相関研究と並んで心理学的研究法の一つとして扱われるように さえなった(e.g., Eysenck, 2000)。しかしそれは独特な認識論と存在論を前提にして いる。つまり認識論的には相対主義,存在論的には実在主義の論者もいるが概して相 対主義である。従ってそれは独自の方法論を伴う心理学の方法である。よって先の図 にあてはめるなら,ディスコース分析は方法論ではあるが心理学のメタ理論とは言え ず,研究テーマの選択,データ収集法,データ分析法,結果の文章化,認識論,存在 論等が一セットになった一つのアプローチと考えた方が適切だと思われる(鈴木, 2007参照)

3.Watanabe(2009)への疑問:一人称と二人称の区別は重要か

Watanabe(2009)は認識論と方法論の二つの軸によって作られた二次元平面上にこ

れまでの心理学の諸潮流を位置づけた。認識論の軸では自己と他者が区別されるが,

この論文ではさらにメタ心理学的レベルとして一人称,二人称,三人称の区別が導入 され,他者が親しい他者(二人称)と見知らぬ他者(三人称)に分けられる。

理論や方法論はメタ理論から一方的に論評されるようであるが,逆方向の論評も可 能かもしれないので,ディスコース分析ないし社会構成主義の立場からメタ心理学的 レベルの区別に疑問を投げかけてみたい。人は最初心を持たないで生まれる。しかし 心を持つ人達から心を持つ者として扱われることによって次第に心を持つようになる。

人はまず世界に満ちている記号(その代表が言葉)を知る必要があり,記号の意味を 知り記号を操作することができるようになった後で,いわゆる内面や自己ができる。

従って自己ができる以前に,記号を使う親しい他者がいる。この二者が異なるように 見えるのは,個人の自己ができてからである。よって,自己/他者の区別よりも,自 己および記号体系を共有する他者/記号体系を共有しない他者の区別が重要と思われ る。もしこれが正しいなら,一人称と二人称の区別はあまり重要ではない。

文献

Eysenck, M. (2000) Psychology: A student’s handbook. Psychology Press. (山内光 哉(監修)(2008)『アイゼンク教授の心理学ハンドブック』ナカニシヤ出版)

Potter, J. & Wetherell, M. (1987) Discourse and social psychology: Beyond attitude and behaviour. London: Sage.

鈴木聡志 (2007) 会話分析・ディスコース分析 新曜社

Watanabe, T. (2009) Metascientific foundations for pluralism in psychology. New Ideas in Psychology, in press.

Wooffitt, R.(2005) Conversation analysis and discourse analysis: A comparative and critical introduction. London: Sage.

参照

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