博 士 ( 水 産 科 学 ) 渡 邊 一 仁
学位論文題名
LCA (Life Cycle Assessment) 法による 漁業の環境影響評価に関する研究
学位論文内容の要旨
【背 景と目的】
近 年,環境問題に対する意識が高まる中で,漁業の分野に おいても「環境負荷(温室効 果 ガス ) 」と いう 新た な視 点か ら捉 えた産業のあり方が見直され 始めようとしている。
LCA (Life Cycle Assessment)は ,資源の採掘から廃棄にいたるまで,対象とする製品やサ ービ スに関わる物質/技術の連鎖を一貫して捉え,物質やエ ネルギーの消費量と環境への 排 出物 質 を定 量し ,そ の環 境へ の影 響を 評価 する 手法 であ る。LCAは,漁業の分野にお い て も 適 用 事 例 が 報 告 さ れ て い る が , こ れ ま で の 報 告 は 断 片 的な 事 例で しか ない 。 そこ で ,本 研究 では 物質 的な 収支 とエネルギー的な収支を総括 し,産業連関分析法を 応 用し た 漁業 のマ クロ 分析 およ び積 み上 げ分 析の2つの アプ ロー チにより漁業を対象と し たLCAを実 施す るこ とで ,漁 業に お ける 定量 的な 環境 影響 評価 手法の確立を目指す。
また ,この手法を用いることで,漁業の現状を明らかにする 。さらに,得られた結果から 環 境負 荷 の削 減可 能性 につ いて 検討 するとともに,漁業における 環境影響評価のあり方 を提 言することを目的とした。
【漁 業のマクロ分析】
既存 の 産業 連関 分析 は, すべ ての 漁業や養殖業がーつの大きな 枠組みにまとめられて 評 価さ れ てい ると ぃう 問題 点が あっ た。このような問題点を解決 するために,産業連関 分析 に漁業統計を付加することで,漁業の細分化が可能とな るマクロ分析法を考案した。
また ,この分析法により,漁業種類別,漁獲魚種別,養殖業種別の環境負荷量を算出した。
分析 を おこ なう ため に, 漁業 経済 調査報告,漁業動態統計年報 ,漁業養殖業生産統計 年 報か ら 必要 デー タを 収集 し, 漁業 のデータベースを構築した。 環境負荷の算出に使用 す る環 境 負荷 排出 原単 位に つい ては ,環境負荷原単位データブッ ク(3EID)を利用した。
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3EIDは ,1995年 の デ ー タ を 使 用 し た も の な の で , 漁 業 統 計 も す べ て1995年 の も の を 用 い て1995年 の 環 境 負 荷 を 求 め た 。 分 析 の 機 能 単 位 は , 水 産 物 をIt生 産 す る こ と と 定 義し て,
業 態 ご と の 環 境 負 荷 は , こ れ ら の デ ー タ か ら 対 応 す る 項 目 を 機 能 単 位 ご と に 繋 い で い く ことで算出した。
漁 船 漁 業 は 総 じ て 燃 油 へ の 依 存 度 が 高 く , 定 置 網 漁 業 を 除 い た 漁 業 の 環 境 負 荷 は ,7‑
8割 が 直 接 的 な 燃 油 消 費 に よ る も の で あ っ た 。 生 産 の 多 い 漁 獲 魚 種 で は , 「 貝 類 」 が2.40 (t'C02/t‑product),「イカ類」が2.06 (t‑C02/t‑product),「イワシ類」が1.63 (t‑C02/t‑product) な ど と な っ て お り , 「 サ ケ ・ マ ス 類 」 な ど は 定 置 網 漁 業 へ の 依 存 度 が 大 き い こ と から0.98 (t‑C02/t‑product)と 全 漁 獲 魚 種 の 中 で 最 も 小 さ な 値 で あっ た 。一 方, 養殖 業で は 魚類 養殖 が 貝 類 や 藻 類 な ど に 比 べ て 大 き く, 「ブ リ 類」 が6.8 (t‑C02/t‑product), 「タ イ類 」が6.8 (t‑C02/t‑product)で あ っ た 。魚 類 養殖 では ,餌 料が 環 境負 荷排 出の8割 を占 めて お り, 大き な要因となっていた。
【漁業の積み上げ法によ る分析】
個 々 の 漁 業 を 評 価 す る た め の 分 析 手 法 を 確 立 す る こ と は , 重 要 な テ ー マ で あ る 。 そ こ で , 漁 業 に 積 み 上 げ 法 を 適 用 す る こ と で , 現 場 に お け る 漁 業 の 定 量 的 な 環 境 影 響 評 価 手 法 を 確 立 し た 。 ま た , こ の 手 法 を 用 い る こ と で , 漁 業 の 環 境 負 荷 量 を 算 出 し た 。 北 海 道 で 生 産 が 盛 ん な ホ タ テ ガ イ と イ カ を 調 査 対 象 と し て 選 定 し た 。 デ ー タ は ヒ ア リ ン グ に よ る 入 手 を 基 本 と し , 不 足 分 に つ い て は 文 献 で 補 っ た 。 ま た , 環 境 負 荷 量 は NIRE‑LCAver3を用いて算 出した。
い か 釣 り 漁 船 に つ い て は , 排 ガ ス 濃 度 を 煙 道 か ら プ ロ ー ブ で 計 測 し , 排 ガ ス デ ー タ も 取 得 し た 。 こ れ ら の 収 集 デ ー タ か ら デ ー タ ベ ー ス を 構 築 し , 地 域 漁 業 の 操 業 実 態 を 明 ら か に し ,9.9ト ン 級 の い か 釣 り 漁 船 を 対 象 と し て , エ ネ ル ギ ー 収 支 の 定 量 を お こ な っ た 。 解 析 に あ た っ て は 、 エ ネ ル ギ ー の 収 支 原 単 位 皿(GJI百 万 円 ) は 以 下 の 式 で 算 出 し た 。 Et=:FxFhx4186.1x10‑9(3‑1)
こ こ でFは 燃 油 エ ネ ル ギ ー の 投 入 原 単 位 ( 〃 百 万 円 ) ,Fhは 重 油 の 発 熱 係 数(kcaUl)で ある。
そ の 結 果 , ほ た て が い 漁 業 で は, 地ま き 式漁 業が887.5 (kg‑C02/百万 円) ,垂 下 式養 成法 で は1,175.2 (kg‑C02/百 万 円) が排 出さ れ てい た。 いず れも 燃 油消 費が 環境 負荷 の 主な 要因 と な っ て い た が , 多 く の 資 材 を 投 入 す る 垂 下 式 養 成 法 で は パ ー ル ネ ッ ト や 浮 子 な ど に よ る 養 殖 資 材 も 幾 分 影 響 し て い た 。 地 ま き 式 漁 業 と 垂 下 式 養 成 法 で は 使 用 し て い る 燃 油 の ‑ 1477―
種 類が異な ってい たことか ら評価 指標とする環境負荷により,結果に差異が確認された。
イ カの生産 に関係 する漁業 として ,いか釣 り漁船 のエネル ギー収支を算出すると,183 (GJ/百 万円) であった 。また,NOxを 指標に排 ガス濃 度をみて みると,航走時において,
1,OOOppmか ら1,200ppm,操業時は1,350ppmであった。また,作成したインベントりから いか漁業の環境負荷を,C02を指標として算出すると,いか釣り漁業が14.4 t‑C02/百万円,
大型定置網漁業が0.5 t‑C.02/百万円・,沖合底曳網漁業が9.3 t‑C02/百万円であった。これら 3漁法の 中では ,いか釣 り漁業が 最も大 きな値で あった 。また, いか釣り漁業と大型定置 網 漁業 のC02ベ イ バッ ク タ イム を 求 める と , 累 積C02排出 原 単 位は お よ そ113年で 逆 転 し , 年間 生産額100万円 あたり20年 間では4,150tの 差を生 じること が確認 された。 いか 釣 り 漁 業か ら 排 出さ れ るC02は99% が直接的 な燃油消 費であ り,その およそ70%は集魚 灯 の 光 のた め の もの で あ るこ と から ,過剰 な光カの 抑制に よりC02排出量 の削減が 可能 となることが定量的に示唆された。
【考察】
漁 業のマ クロ分 析により ,はじめ て漁業 種類別, 漁獲魚 種別,養 殖業種 別の環境 負荷 を 定 量す ることが 可能と なった。 この分 析手法に より, 各業態に おける環 境負荷 の差を 明 確に示す ことが できた。 環境負 荷の分布図において,受動的な漁業である定置網漁業,
は え繩漁業 ,刺網 漁業は環 境に対 して優良な漁業に分類された。また,水産物の生産にお け る 漁業 と養殖業 の比較 では,ブ りやタ イなどの 魚類生 産では漁 業が養殖 業より 優れて お り,貝類 や海藻 類では養 殖業が 漁業よりも優れた値を示した。マクロ分析法は,トップ ダ ウ ン 的に 水 産 業全 体 を 俯瞰 で きる ことか らj水 産業全 体におけ る改善へ 向けた 国や地 方 の漁業政 策にお いて,有 効に活 用できるものと考えられる。一方,現場のデータを利用 し た 分析 として, 漁業に おける積 み上げ 法を確立 した。 積み上げ 法は対象 とした 漁業生 産 シ ステ ムの環境 負荷を 評価でき ること から,現 状,あ るいは漁 業改善の 度合い を把握 す るときに 有効と なる。環 境対応 は,環境報告書などを利用してアピール可能であり,生 産 物 にっ いても他 との差 別化が図 れる。 また,漁 業の当 事者が環 境情報を 入手す ること は ,環境税 のよう な新税が 課され たときにも,適切な対応が可能となる。このような利用 においても本研究で得られた結果は活用できる。
本 研究に おいて ,物質的 な収支と エネル ギー的な 収支を 総括した 漁業に おける環 境影 響 評 価手 法が確立 された 。本手法 は,持 続可能な 漁業を 環境的な 側面から 支える ための 重 要 な方 法論であ り,今 後は自然 科学や 社会科学 的な知 見と融合 すること により ,更な る発展がなされなくてはならない。
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