博 士 ( 農 学 ) 増 田 清 敬
学 位 論 文 題 名
LCA (ライフサイクルアセスメント)を用いた 酪 農経営の 環境影響 評価
学位論文内容の要旨
わが国に おける酪農 環境問題 は,輸入 飼料に依存した乳牛頭数規模拡大とそれに伴う家 畜ふん尿の大量発生に起因した水質汚濁や悪臭等の環境問題として一般に認識されてきた,
しかし近年,酪農環境問題は国内の局所的な環境問題に留まらず,地球規模の環境問題(地 球温暖化 ,酸性化, 富栄養化 )として 総合的に捉える必要が出てきた,わが国の大型酪農 地帯であ る北海道の 草地型酪 農経営を 対象に,酪農由来の環境負荷問題の総合的環境評価 をLife Cycle Assessment手法により分析することは,わが国において環境と調和した持続 可 能 な 酪 農 経 営 を 展 開 し て い く 上 で 重 要 な 示 唆 を 与 え る も の で あ る . LCAの分 析 にお いては, 酪農環境 問題につ いて地球温 暖化,酸 性化,富 栄養化の3っを 環境影響 カテゴリー として定 量化し環 境評価した.本論文の課題を解明するにあたり,酪 農専業地 帯である北 海道根室 支庁を取 り上げ,乳牛頭数規模拡大による環境負荷の動向を 把握し, 地域におけ る環境評 価を行っ た,次に,環境面,経営・生活面からメリッ卜があ るとされ る,個別的 対応の低 投入型酪 農経営と組織的対応の飼料生産協業組織化による法 人 経 営 を 取 り 上 げ , 持 続 可 能 な 酪 農 経 営 に つ い て 環 境 評 価 を 試 み た . 第2章では ,わが国に おける酪 農環境問 題の発生 とそのメ カニズム について整理した.
わが国の 酪農経営は ,苦情発 生(水質 汚濁,悪臭等)が家畜ふん尿に起因する局所的な酪 農環境問題に集中していることから特に家畜ふん尿の処理と利用について規制されていた,
今後,地 球温暖化の ような地 球規模で の環境対策が求められることを考慮すれぱ,わが国 において も局地的な 酪農環境 問題への 対応だけではなく,国際的な視点に立った酪農環境 問題への 対応が必要 になる. 本論文に おける酪農環境問題の総合的評価は,わが国におい て 環 境 保 全 面 で メ リ ッ ト が あ る 酪 農 経 営 を 展 開 す る 上 で 有 益 な 示 唆 を 与 え う る , 第3章 では , 本論文の 分析手法 であるLCAの 概要を整理 した上で ,本論文 における 酪農 経営 のLCAの 分 析 枠組 み を概 説 し た, 環 境 経済学に おける物 質代謝論 アプロー チである LCAは,本論 文の分析手 法として 最も適し ていると 考えられ た,また ,わが国の農業分野 にお け るLCA適 用 は, イ ンベ ン 卜 リデ ー タ の整 備 ,農 業 分 野に 対 するLCAの研究蓄 積,
評価する 環境影響カ テゴリー の拡張等 が必要な段階にあることから,本論文における酪農 経営 のLCA分 析 は ,わ が 国の 農 業 分野 に お けるLCA研究 に 対 する 研 究蓄 積 となり, 持続 可能な酪農経営確立に寄与するものと考えられた.
第4章 では ,LCAを用いて 北海道酪 農の乳牛 頭数規模拡 大による 環境問題 悪化につ いて 総合的に評価した,具体的には,北海道根室支庁を酪農専業地帯の事例地域として分析し,
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分析 対象期間 は1975〜94年とした,分析データは支庁レベルのマクロデータから,環境負 荷排 出係数を 乗じて環 境負荷排出量を計測した,分析結果から,北海道根室支庁の酪農に おい て,1994年の 対75年比で は,地球 温暖化は45.3%増加, 酸性化は71.4% 増加,富栄 養化 は242.6%増加 していた ことが示 された, 北海道酪農は,乳牛頭数規模が拡大するに っれ て環境負 荷は増加 しており,持続可能ではない酪農経営が展開されてきたことが明ら かになった,
第5章 では,LCAを 用いて酪 農経営の 低投入型 酪農転換 による環境 問題緩和 について総 合的 に評価し た,具体 的には,粗飼料中心の生乳生産を行い,生産よりも暮らしを重視す る「 マイペー ス酪農」 を低投入 型酪農の 事例とし て分析し, 分析対象 期間は1991〜1999 年と した.分 析データ は「マイペース酪農」を実践する代表的な酪農経営の経営調査によ る個 別データ を利用し ,収集したデータに環境負荷排出係数を乗じて環境負荷排出量を計 測した.分析結果から,事例農家の「マイペース酪農」転換によって,地球温暖化で25.5%,
酸性 化で33.6%, 富栄養化で29.2%の環境負荷削減効果が確認された.低投入型酪農に取 り組 む酪農経 営は,環 境負荷軽減をもたらす持続可能な酪農経営であることが明らかにな った.
第6章 では,LCAを 用いて酪 農経営の 飼料生産 協業組織 化による法 人経営の 環境問題緩 和に ついて総 合的に評 価した, 興部町の オコッペ フイードサービス(OFS)とその構成農 家に よる酪農 経営の飼 料生産協 業組織化 を分析し た,分析データはOFS及び構成農家の経 営調 査から収 集し,収 集したデータに環境負荷排出係数を乗じて環境負荷排出量を計測し た. シミュレ ーション 分析により,協業組織化以前の環境負荷排出量を推定し,協業組織 化後の環境負荷排出量と比較r評価した.分析結果から,OFSに構成農家が参加することで,
地球 温暖化で3.4%,酸性 化で13.4%, 富栄養化 で16.0%の環境負荷削減効果が確認され た, 飼料生産 協業組織 化に取り組む酪農経営は,持続可能な酪農経営であることが明らか になった,
以上 の本論文 では,北 海道酪農における環境問題の悪化を定量的に総合評価し,低投入 型酪 農転換及 ぴ飼料生 産協業組 織化によ る環境保 全面でのメリッ卜を,LCAを適用するこ とで 総合的に 明らかに したものである.本論文で評価した個別対応による低投入型酪農転 換と 組織対応 による飼 料生産協業組織化は,今後,北海道酪農において持続可能な酪農経 営を 展開する 上でのモ デルケースになると考えられた,また,低投入型酪農転換には環境 保全 型農業に 対する直 接支払い導入が,飼料生産協業組織化には飼料生産協業組織設立時 にお ける高額 な投資に 対する補助政策がそれらの促進に有効な対策であることが示唆され る. ただし, 酪農経営 が以上のような酪農環境問題緩和のための取り組みを行ったとして も, 耕地面積 は一定の ままで乳牛頭数規模をさらに拡大した場合は環境負荷排出量がさら に増 加してし まう恐れ もある,北海道酪農の環境問題悪化の主因は,乳牛頭数規模拡大率 が耕 地面積拡 大率を上 回ったこ とで引き 起こされ ていた.そ れゆえ,EUのように 乳牛飼 養密度にある一定の上限を設けるという環境規制の導入も視野に入れた経営展開が,今後,
持 続 可 能 な 酪 農 経 営 を 展 開 し て い く 上 で の 最 大 の ポ イ ン ト と な る と 考 え ら れ る .
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
出村 黒河 波多野 山本
克彦 功 隆介 康貴
学位論文題名
LCA (ライフサイクルアセスメント)を用いた 酪農経営の環境影響評価
本 論 文 は7章 か ら な り , 図37, 表33, 文 献202を 含 む 頁 数132の 和 文 論 文 で あ り , 別 に 参 考論 文5編が 付 さ れ てい る ,
わ が 国 に お ける 酪 農 環境 問 題 は, 輸 入 飼 料に 依 存 した 乳 牛 頭数 規 模 拡大 と そ れに 伴 う 家 畜 ふ ん尿 の 大 量発 生 に 起 因し た 水 質汚 濁 や 悪臭 等の環 境問題 として一 般に認 識されて きた.
し か し近 年 , 酪農 環 境 問 題は 国 内 の局 所 的 な環 境問題 に留ま らず,地 球規模 の環境問 題(地 球 温 暖 化 , 酸 性 化, 富 栄 養化 ) と して 総 合 的 に捉 え る 必要 が 出 てき た . わが 国 の 大型 酪 農 地 帯 で あ る 北 海 道 の 草 地 型 酪 農 経 営 を 対 象 に , 酪 農 由 来 の 環 境 問 題 の 総合 的 環 境評 価 を Life Cycle Assessment手 法 によ り 分 析す る も ので あ る .
LCAの 分 析 に お い て は , 酪 農 環 境 問 題 に っ い て 地 球 温 暖 化 , 酸 性 化 , 富 栄養 化 の3っ を 環 境 影 響 カ テ ゴ リー と し て定 量 化 し環 境 評 価 した . ま ず, 酪 農 専業 地 帯 であ る 北 海道 根 室 支 庁 を 取 り 上 げ ,乳 牛 頭 数規 模 拡 大に よ る 環 境負 荷 の 動向 を 把 握し , 地 域に お け る環 境 評 価 を 行 っ た , 次 に, 個 別 的対 応 の 低投 入 型 酪 農経 営 と 組織 的 対 応の 飼 料 生産 協 業 組織 化 に よ る 法 人 経 営 を 取 り 上 げ , 持 続 可 能 な 酪 農 経 営 に つ い て 環 境 評 価 を 試 み た , 第2章 で は , わ が 国 に お け る 酪 農 環 境 問 題の 発 生 とそ の メ カニ ズ ム にっ い て 整理 し た ・ わ が 国 の 酪 農 経 営は , 苦 情発 生 ( 水質 汚 濁 , 悪臭 等 ) が家 畜 ふ ん尿 に 起 因す る 局 所的 な 酪 農 環 境問 題 に 集中 し て い るこ と か ら特 に 家 畜ふ ん尿の 処理と 利用につ いて規 制されて いた・
今 後 , 地 球 温 暖 化の よ う な地 球 規 模で の 環 境 対策 が 求 めら れ る こと を 考 慮す れ ば ,わ が 国 に お い て も 局 地 的な 酪 農 環境 問 題 への 対 応 だ けで は な く, 国 際 的な 視 点 に立 っ た 酪農 環 境 問 題 ーの 対 応 が必 要 に な る,
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第3章 で は, 本 論文 の 分析手 法であるLCAの概要を整 理した上 で,本論 文におけ る酪 農経営のLCAの分析枠 組みを概説した,環境経済学における物質代謝論アプローチである LCAは,本論 文の分析 手法として最も適していると考えられた.また,わが国の農業分野 にお け るLCA適 用 は, イ ンベン 卜リデー タの整備, 農業分野 に対するLCAの研究蓄 積,
評価する環境影響カテゴリーの拡張等が必要な段階にあることから,本論文における酪農 経 営 のLCA分 析 は , わ が 国 の 農 業 分 野 に お け るLCA研 究 に 対 す る 研究 蓄 積と な る . 第4章では,LCAを用いて,北海道根室支庁を酪農専業地帯の事例地域として分析した,
分析データは支庁レベルのマクロデータから,環境負荷排出係数を乗じて環境負荷排出量 を計測した.北海道根室支庁の酪農において,1994年の対75年比では,地球温暖化は45.3% 増 加 , 酸 性 化 は71.4% 増 加 , 富 栄 養 化 は242.6% 増 加 し て い た こ と が 示 さ れ た . 第5章では ,LCAを用い て酪農経 営の低投入 型酪農転換による環境問題緩和にっいて総 合的に評価した,粗飼料中心の生乳生産を行い,生産よりも暮らしを重視する「マイベー ス酪農」を低投入型酪農の事例として分析した.分析データは「マイペース酪農」を実践 する代表的な酪農経営の経営調査による個別データを利用した.事例農家の「マイペース 酪農」転換によって,地球温暖化で25.5%,酸性化で33.6%,富栄養化で29.2%の環境負 荷削減効果が確認された.
第6章では ,LCAを用い て酪農経 営の飼料生 産協業組織化による法人経営の環境問題緩 和にっい て総合的 に評価した.興部町のオコッペフイードサービス(OFS)とその構成農 家による酪農経営の飼料生産協業組織化を分析した.シミュレーション分析により,協業 組織化以前の環境負荷排出量を推定し,協業組織化後の環境負荷排出量と比較評価した,
OFSに構成農家が参加することで,地球温暖化で3.4%,酸性化で13.4%,富栄養化で16.0% の環境負荷削減効果が確認された.
以上の本論文では,北海道酪農における環境問題の悪化を定量的に総合評価し,低投入 型酪農転 換及び飼 料生産協業組織化による環境保全面でのメリットを,LCAを適用するこ とで総合的に明らかにしたものである.本論文で評価した個別対応による低投入型酪農転 換と組織対応による飼料生産協業組織化は,今後,北海道酪農において持続可能な酪農経 営を展開する上で,環境負荷軽減の経営対応を実践するモデルケースの提示,また政策対 丶
応の基本的指標を定量的に示すものである.
よって審査員一同は,増田清敬が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するも のと認めた.
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