LCA
による柱上変圧器の環境影響評価の試み蓮井 久美子 中島 健二 園山 実 石田 雅宏
Attempt of Environmental Effect Assessment of Pole Transformers By LCA
Kumiko HASUI Kenji NAKAJIMA Minoru SONOYAMA Masahiro ISHIDA
Abstract : Due to a large number of pole transformers in the region where utility company operates, it is considered that the electricity loss at transformers and the environmental effect by the loss would be significant while single pole transformer creates only small loss. By assessing the loss and the environmental effect by the loss of these pole transformers, it is intended to determine the measure of investment in transformers. The assessment was implemented by the simple model with LCA which assess the loss and the environmental effect by the loss during its operation. Also, the simulation of loss reduction effect when the transformer is replaced was demonstrated by using this model.
Keywords:LCA(Life Cycle Assessment)、柱上変圧器(Pole Transformer)、損失(Loss)、
環境影響(Environmental impact)、CO2排出量(CO2 exhaust)
1. はじめに
電力会社の配電設備には電柱や柱上変圧器などが あり、膨大な数量の設備が面的な広がりをしている。
このような状況において、地理情報システムは単に 設備管理をするだけでなく、地域特性に関わる傾向 分析を行い、その対策の検討や投資方針の決定など を補足するツールとして期待できる。
今回の取り組みは、環境面を考慮した柱上変圧器 設置の指標設定を最終目標にした検討である。過去 からの仕様変更により、柱上変圧器で発生する損失 の低減が図られてきたが、設備数が多いため、電力 会社全体で合計すると、その損失および損失による 環境影響は、無視できないレベルにあると思われる。
そこで、本研究では、柱上変圧器の実測負荷電流 データから負荷変動パターンの推計モデルを検討し、
LCA
(Life Cycle Assessment)により変圧器で発生 する電力損失を間接的なCO2
排出として評価する簡易なモデルを構築した。また、このモデルを利用 して、変圧器取替時における間接的
CO2
排出量の 低減効果をシミュレーションし、その結果を地図上 に視覚化した。2. 対象地域と使用データ
本研究の検討対象地域は、中部電力管内の営業所 のうち、名古屋支店A営業所と長野支店B営業所と し、使用するデータの諸元は下記の通りである。
(1)
実測負荷電流データ中部電力管内の全域より選定した
47
箇所の 電灯専用変圧器で測定した負荷電流データ。表1 実測負荷電流データの諸元 データ内容 測定期間
H16.8.1-H17.7.31
データ内容2
分平均電流値 設備・負荷情報 変圧器容量・種類(2)
負荷管理データA営業所とB営業所における各変圧器の契 約負荷情報(表2)。
蓮井:
〒100-8141 東京都千代田区大手町2-3-6 三菱総合研究所 社会情報通信研究本部 Tel.03-3277-0596 Fax. 03-3277-3464 E-mail. [email protected]
表2 負荷管理データの諸元 A営業所管内 B営業所管内
H16
年H18
年H16
年H18
年 変圧器数11,727 11,775 17,156 17,336
データ 変圧器容量・種類 契約種別口数 契約種別容量
(3)
管理区メッシュデータ中部電力が設定する設備所在地を管理する ためのメッシュに関する地図データ。
A営業所;500m(一部
1km)メッシュ
B営業所;1km(一部 2km)メッシュ
3.柱上変圧器測定データ
3.1 実測負荷電流データの変動成分の分解
過去の研究から、電灯専用変圧器の実測負荷電流 データは次の特徴を示すことが分かっている。
・ 各変圧器の 1 日の電流値の変動(日変動)は、
年間を通じて類似のパターンを示す。
・ 7:00・12:30・21:00 前後に負荷ピークを生じる。
・ 深夜時間帯(23:00-7:00)は、深夜電気温水器 関連の契約のある変圧器では、深夜電気温水器 による顕著な負荷ピークを生じる。
・ 年間を通してみると、日変動は変わらないが、
夏冬は負荷電流値が高く、春秋は負荷電流値が 低くなる。
そこで、
負荷変動 = 日変動 + 週変動 + 年変動 + 残差項 と仮定し、移動平均法による季節調整法を用いて負 荷の変動を周期の長さにより変動成分を「日変動成 分」「週変動成分」「年変動成分」に分解した。
3.2 変動成分の類型化
次いで、各変圧器の日・週・年変動の特徴を把握 し、似た特徴を持つ変圧器を特定するため、ウォー ド法クラスター分析による類型化を実施した。具体 的には、電気料金の体系が変わる時間帯などを考慮 した表3の時間帯・期間毎にデータを要約し、最大 値・最小値・平均値・標準偏差からなる 47 行 44 列 のデータ行列に対してクラスター分析を施した。
表3 データ要約を行う時間帯・期間 日変動 23:00-03:00、03:00-07:00
07:00-12:00、12:00-17:00 17:00-23:00
週変動 月~金曜日、土・日曜日
年変動 10-12 月、1-3 月、4-6 月、7-9 月
図 1 変動成分のクラスター分析の結果
深夜電気温水器なし 深夜電気温水器あり
A
-100 0 100 200 300 400
-100 0 100 200 300 400
B
-100 0 100 200 300 400
C
-100 0 100 200 300 400
-100 0 100 200 300 400
D
-100 0 100 200 300 400
E
-100 0 100 200 300 400
-100 0 100 200 300 400
図2 クラスター毎・深夜電気温水器有無別の日変動
(横軸は一日(0:00 から 23:58))
クラスター分析の結果5つのクラスターを採用し
(図1)、この結果得られたクラスター毎に変動成分 を観察した(図2)。各クラスターとも昼間時間帯
(7:00-23:00)では、ほぼ同じ形状を示しているこ とが分かった。また、深夜時間帯では深夜電気温水
745 36 35 4015 27 25 46 29 4 47 39 14 24 22 23 18 43 3 37 5 42 31 12 17 33 34 1 8 10 16 30 44 26 41 1121 28 136 2038 3219 2 9
01000200030004000
Height
器のない変圧器では 3:00 頃をピークとした下に凸 のカーブを描くのに対して、深夜電気温水器のある 変圧器ではその深夜時間帯内で顕著なピークを示す ことが分かった。
以上のことから、日変動の成分は、昼間時間帯
(7:00-23:00)の一般需要による基本変動パターン と、深夜時間帯(23:00-7:00)の深夜電気温水器の 需要による深夜負荷変動パターンから構成されると 想定して、推計モデルの構築を行うこととした。
3.3 負荷変動パターン推計モデルの構築 3.3.1 基本的な考え方
負荷管理データの契約条件を元に、変圧器を前章 で設定したクラスターに相当する5つのグループに 分類し、図2にある実測負荷電流データの各変動の 平均値を契約容量によって増幅・減衰させた変動を 各変圧器の日変動として負荷パターンを推計する。
3.3.1 昼間変動パターン推計モデルの構築
昼間時間帯(7:00~23:00)は、温水器契約の有無 に関わらず電灯契約のみの負荷が発生するものとし、
同時間帯の各クラスターの日変動の平均値をもって 昼間変動パターンとする。
3.3.2 深夜変動基本パターン推計モデルの構築
電灯契約のみの場合の深夜時間帯(23:00-7:00)の変動パターンを深夜時間帯の基本変動パターンと した。
3.3.3 深夜温水器変動パターン推計モデルの構築
温水器契約容量の合計は、深夜時間帯における日 変動と基本変動パターンとの差分に強い相関関係が あるため、温水器契約による電流値は23:00~7:00
の間に放物線(負荷ピーク)を描くものと仮定し、放物線の振幅はこの相関係数を用いて算出すること で、深夜電気温水器による変動パターンをモデル化 した。
3.3.4 年変動パターン推計モデルの構築
年変動パターンは、温水器契約の有無および電灯
契約の容量によって変動パターンが大きく異なる。
したがって、温水器契約の有無別に変圧器の年変動 パターンの月別の平均値を求め、電灯契約の容量に よって増幅・減衰させる。
3.3.5 合成
前節までに求めた各項を合成し、電灯契約容量と 温水器契約容量から、月別の日変動を推計すること ができる(図3)。
図3 測定対象変圧器における推計結果(上)と日変動成分(下)
(横軸は一日(0:00 から 23:58))
4.損失および環境影響の推計
負荷変動パターンの推計モデルを用いて、変圧器 のライフサイクルの中で最も環境への影響が大きい とされる使用段階の環境影響評価を行った。今回は 地球温暖化への影響を評価の対象とし、下式で求め られる変圧器の電力損失に「電力の
CO2
排出量原 単位ⅰ」を乗じて算出した。変圧器の全損失
[w]
=
無負荷損[W]
ⅱ+
負荷損[W]
ⅲ×
利用率2 また、変圧器の利用率は、利用率
[%]
=
負荷電流値[A] ×
平均電圧[V] /
定格容量[VA]
× 100
により求める。なお、本研究では平均電圧を一律
105V
とした。表4 管轄地域における年間総 CO2 排出量[kg-CO2]
A営業所 B営業所 H16 年 6,759,251 7,894,713 H18 年 6,764,015 8,059,373
-100 0 100 200 300 400 500
0:00 1:00 2:00 3:00 4:00 5:00 6:00 7:00 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00 23:58
-200 -100 0 100 200 300 400
0:00 1:00 2:00 3:00 4:00 5:00 6:00 7:00 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00
A・B営業所管内の変圧器情報から算出した年間 の間接的
CO2
排出量は表4の通りであった。5.シミュレーション
さらに推計モデルを用いて、低損失型変圧器への 設備更新や変圧器負荷の平準化による効果など、各 種シナリオ(表5)を設定してシミュレーションを 実施し、各シナリオにおける時間帯別の
CO2
排出 量、およびCO2
排出量の削減効果(
図4
・5)
をGIS
に より導いた。表5 シミュレーションシナリオ
シナリオ 内 容
0 標準ケース 現状 1 旧型一般用変圧器
の設備更新
旧型の一般用変圧器を損失の小さい 新型の一般用変圧器に更新
2 アモルファス変圧 器へ変更
一般用変圧器(新型・旧型とも)を アモルファス変圧器に取替
3 深夜負荷の平準化 標準ケースに対し、深夜時間帯の負 荷を平準化
単位:kgCO2/m2 0.0
0.0 - 0.1 0.1 - 0.2
0.2- 0.3 0.3 - 0.4
0.4 - 0.5 0.5 - 0.6
0.6 - 0.7 0.7 - 0.8
0.8 - 0.9 0.9 - 1.0
1.0 -
図4 平成18年A営業所管轄地域の管理区メッシュ毎1㎡あたり 年間総CO2排出削減量のシミュレーション結果
(左:シナリオ0・
1
の比較、右:シナリオ0・2
の比較)単位:kgCO2/m2 0.0
0.0 - 0.1 0.1 - 0.2
0.2- 0.3 0.3 - 0.4
0.4 - 0.5 0.5 - 0.6
0.6 - 0.7 0.7 - 0.8
0.8 - 0.9 0.9 - 1.0
1.0 -
図5 平成18年B営業所管轄地域の管理区メッシュ毎1㎡あたり 年間総CO2排出削減量のシミュレーション結果
(左:シナリオ0・
1
の比較、右:シナリオ0・2
の比較)6.おわりに
実測負荷電流データから日変動パターンと年変動 パターンを抽出し、これを元にして変圧器負荷パタ ーンの類型化を実施して、バンク負荷データの電灯 契約容量と温水器契約容量から変圧器電流値を推計 する変圧器負荷変動パターンの推計モデルを構築し た。このモデルを名古屋支店A営業所と長野支店B 営業所の負荷管理データに適用して、各変圧器の電 流値および電力損失と損失に伴う間接的な
CO2
排 出量を推計した。また、低損失型変圧器への設備更新、負荷平準化 による効果に対してシミュレーションシナリオを作 成し、AおよびB営業所内の全変圧器を対象として 間接的
CO2
排出量(環境への影響)を把握・分析 するとともに、シナリオによる地域全体の効果をGIS
により評価・視覚化した。これにより、特に定 格容量の大きい変圧器の多い都心部において設備更 新や変圧器負荷の平準化によるCO2
排出量の削減 効果が期待できることが分かった。本研究では、日変動パターンは
1
年を通じて変化 しないという仮定を置いていることに加え、分析の 対象を間接的なCO2
排出量に限定している。した がって、最終目標である環境面を考慮した設備投資 指標を策定するためには、LCA
評価による環境負荷 の分析精度と汎用性を向上させるとともに、変圧器 負荷パターンにおける分析の誤差を小さくするため に、世帯構成などの空間的な要因を考慮したり、日 変動パターンを気温などの気象条件により変動させ たりするなどのモデルの精緻化が求められる。注:
ⅰ電力の CO2 原単位:環境省『温室効果ガス排出量の算定・
報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧』で定 められている 0.555[kg-CO2/kWh]を使用。
ⅱ無負荷損:通電している場合に、負荷の大きさに関係な く生じる損失。
ⅲ負荷損:負荷の変動に比例して発生する損失。