博 士 ( 理 学 ) 倉 沢 篤 史 学位論文題名
Genetic variability of planktic foraminifera Glo ろige Tina ● ■
buLloides and correlation to the oceanlCproVlnCeS
(浮遊性有孔虫Globigerina bulloides の遺伝的多様性と 海洋環境との関連についての研究)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
浮遊 性有 孔 虫は 石灰質の殻をも つ原生生物プラン クトンであり,堆 積物中には優れた化 石記録が保存 さ れ てい るこ と が知 られ る .浮 遊性 有 孔虫 は現 在 の海 洋に お いても広 く生息しており,21属47種が知ら れ て いる ,近 年 の分 子系統学的研究 によって非常に高 い種内の遺伝的多 様性がみられること が明らかにさ れ つ っあ る. 種 内に 遺伝的に異なる 複数の集団が存在 し,同じ形態種に 属する遺伝型であっ てもその分布 様 式 には 違い が 見ら れることから, これらの遺伝型が 隠蔽種である事が 示唆されている,海 洋環境が生物 に と って これ ま で考 えられてきた以 上に多様なもので あり,海洋環境と 遺伝型の進化は強く 関係している 事 が 考え られ る が, 現在の海洋にお いてどのような遺 伝集団が形成され ているのか十分に明 らかにはされ てい ない,
本 研究 では 浮 遊性 有孔 虫Globigerfna6uヱHdesを対 象に,これまでに 遺伝的多様性がほと んど明らかに さ れ てい なか っ た北 西太平洋およぴ 南極海における遺 伝的多様性を解明 し,遺伝型間で生息 環境や他の海 域と の遺伝的な交流様 式の違いの解明を 目的として,研究を 行った.G.6uヱ脚desは中〜高緯度域を中心に 広く 分布する種であり ,水塊の違いと遺 伝型の分布との関連 性を検討する上で 最も適した種のーつである,
日 本 周辺 を含 む 北西 太平洋,南極海 インド洋地区から 浮遊性有孔虫試料 を採取し,核内小サ ブユニットリ ポ ソ ームDNAの3 末 端側の約1000塩 基対を用いて遺伝 型の判別を行い, 以下の点について明 らかにした,
こ れま でに 先 行研 究に よ って 報告 さ れた7種類 の遺 伝 型の 他に4種類 の遺伝型の存在を新 たに確認し,
G.6uめfdesに は少 な くと もn種 類の 遺 伝型 が存 在 する こと を 明ら かに し た, 分子 系 統解析の結果 .G. ろufめ洫sはTypeI,IIの2っの系 統にわかれ,それ ぞれIa‐e,IIa.fの遺伝型 を含むことを明らかにした.
北 西太平洋からは新 たに発見された3種類を含む6種類の遺伝型(Ia,Ic,Id,IIa,IIe,IIDを確認し,海洋 表 層 の遺 伝型 の 水平 分布 に は水 塊構 造 との 一致がみられること を明らかにした.typeIの遺 伝型は黒潮の 影 響 をう ける 温 暖な 海域に主にみら れ,亜寒帯域には 分布はみられない のに対し,typeIIの 遺伝型は阿寒 帯 域 にも 分布 が みら れた , オホ ーツ ク ・べ ーリング海を含む北 太平洋亜寒帯域で はIIeのみ が分布してお り , この 海域 で ーっ の遺伝集団が形 成されていること を確認した,亜寒 帯前線と遺伝型の分 布の境界とが 一 致 する こと か ら, 水塊の境界が遺 伝型の分布を制限 する要因のーつで あると考えられる. 南極海からは 新た に発見された遺伝 型1種類を含む4種類の遺伝型(Ie,IIa,IIb,IIe)を確認した,一部の遺伝型は南大西 洋 の 遺伝 型と 共 通し ており,南極周 極流にそって経度 方向の遺伝的な交 流が起きていると考 えられる,ま た , 北太 平洋 と も共 通の遺伝型がみ られたことから, 太平洋においても 遺伝型の両極分布が みられ,熱帯 域を 越えた遺伝的な交 流が起きているこ とが確認された.
ま た, 遺伝 型 間で の生息環境の違 いをより詳細に検 討するために,遺 伝型の深度分布につ いても検証を 行 っ た, 遺伝 型 の水 平分布の傾向か ら遺伝型聞で生息 する環境に異なる 傾向が見られる一方 で,北西太平 洋 の 沿岸 域で は 複数 の遺 伝 型が 同一 地 点か ら採取された.駿河 湾の4地 点について水深別に 試料採集をお こな い解析した結果,3種類の遺 伝型(Ia,Ic,IIa)が分布 しており,遺伝型 間で深度分布に異なる傾向が 認 め られ た. 水 温の 高い海洋表層付 近には温暖な環境 に分布するtypeIaがみられるのに対し ,水温の低い 水 深50.200mで は寒 冷な 環 境に おも に 分布 するtypeIIaが多 くみ ら れた .遺 伝 型の 水平分 布でみられた 温 度 と遺 伝型 の 分布 傾向と同様の傾 向が,水塊中の鉛 直分布からもみら れることから,水温 の鉛直変化に 対応 して遺伝型の生息 深度に違いが生じ ていると考えられる .
以 上 の よ う に , こ れ ま で 知 ら れ て い な か っ た 浮 遊 性 有 孔 虫Globiger面a6uZた 血Z飴 の 北 西 太 平 洋お よ び 南 極 海 の 遺 伝 的 多 様 性 を 解 明 し た . ま た , 遺 伝 型 ご と に 生 息 す る 環 境 が 異 な り 水 平 分 布 と 深度 分 布 の 傾 向 に 違 い が み ら れ る こ と を 明 ら か に し た
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学位論文審査の要旨 主査 教授 西 弘嗣 副査 教授 竹 下 徹 副査 教授 堀 口健男
副 査 講 師 沢 田 副査 領域長 北里
学 位 論 文 題 名
健
洋 ( 独 立 行 政 法 人 海洋研究開発機構)
Genetic variability of planktic foraminifera Globigeyi7za bulloides and correlation to the oceanic provinces
(浮 遊性有 孔虫 Globigerina bulloides の遺 伝的多様性 と 海 洋 環 境 と の 関 連 に つ い て の 研 究 )
浮遊性有孔虫は,石灰質の殻をもつ原生生物プランクトンであり,連続した化石記録を持つことが知られ,
現在 の海洋 にも 広く分 布して いる. この 生物に関しては,近年の分子系統学的研究によって種内の遺伝的多 様性 が非常 に高 く,遺 伝的に 異なる 集団 が種内に存在することが知られるようになった,このことから,海 洋環 境は, 生物 にとっ てこれ まで考 えら れてきた以上に多様であり,海洋環境と遺伝型の進化は強く関係し てい ること が示 唆され ている .しか し, 浮遊性有孔虫では,現在の海洋でどのような遺伝集団が形成されて いるのか,十分に明らかにはされていない.本研究では,浮遊性有孔虫Gl06なre r面a61ヱ脇油sを対象に,ほ とん ど明ら かに されて いなか った北 西太 平洋および南極海における遺伝的多様性を解明し,遺伝型間で生息 環 境 や他の 海域 との交 流様式 の違い を考察 した .その 結果, &6心Mぬsに は少 なくと も11種類 の遺 伝型が 存在し,それらの分子系統関係を明らかにすることができた.
北西太平洋では,6種類の遺伝型(Ia,Ic,Id,IIa,He,IIDを同定し,それらの分布様式と水塊構造が一致 する ことを 見い 出した ,この うち,type.Iの遺 伝型は 主に黒 潮の 影響をうける温暖な海域にみられるのに 対 し ,typeIIの 遺伝 型は亜 寒帯に も分布 する. また ,縁海 を含む 北太平 洋亜 寒帯域 ではIIeのみ からな る 遺伝 集団が 広く 形成さ れてい ること が明 らかと なった .特に ,亜寒 帯前 線と遺 伝型の 分布の境界とが一致 する ことか ら, 水塊の 境界が 遺伝型 の分 布を制 限する 要因の ーつで ある と考え られる ,南極海からは新た に発見された遺伝型1種類を含む4種類の遺伝型(Ie|IIa,IIb,.IIe)を確認した,一部の遺伝型が両極分布を 示す ことか ら, 熱帯域 を越え た遺伝 的な 交流が 起きて いるこ とが示 唆さ れ,南 極周極 流にそって経度方向 の遺伝的な交流が起きていることも明らかになった.
ま た,遺 伝型間 での生 息環境 の違 いをよ り詳細 に検討 する ために ,遺伝 型の深 度分布 についても検証を 行っ た.駿 河湾 の4地 点に ついて 水深ご とに試 料採 集し解 析した 結果,3種 類の遺 伝型(Ia,Ic,Ha)が分 布し ており ,遺 伝型問 で深度 分布に 異な る傾向 が認め られた ,水温 の高 い海洋 表層付 近には温暖な環境に 分 布 す るtypeIaが み ら れ るの に 対 し , 水温 の 低 い 水深50ー200mでは 寒冷な 環境 に主に 分布す るtypeIIa が多 くみら れた ,水平 分布で みられ た温 度と遺 伝型の 同様の 傾向が ,水 塊中の 鉛直分 布でもみられること か ら , 水 温 の 鉛 直 変 化 に 対 応 し て 遺 伝 型 の 生 息 深 度 に も 違 い が 生 じ て い る と 推 定 さ れ る . こ のよう に,本 研究で は,浮 遊性 有孔虫 につい て遺伝 的多 様性と 海洋環 境との 関連に ついて,多くの新 知見 を得た .そ の結果 は,古 生物学 ・古 海洋学 研究に 対して 貢献す ると ころ大 なるも のがある.よって、
北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める.