博 士 ( 歯 学 ) 樋 田 京 子
学位論文題名
Antisense EIAF TransfeCdonReStr 証 nSOrdCanCer InVasionbyReduCingMatriXMetauoproteinaSeACdVideS ・ (アンチセンスE1AF 遺伝子導入が口腔癌細胞のMMP 活性 をら び浸 潤能 に及 ぼす 影響に関する研究)
、学位論文内容の要旨
【緒言】
癌 細胞 の浸 潤・ 転移 能は腫瘍の悪性度を左右する因子であり,患者の 予後 にと って 重要 な意 味を持つ.癌細胞が周囲の結合組織や血管内・リ ンバ 管内 に浸 潤す る際 には,その構成成分である細胞外基質を分解する こと が必 要で あり ,そ れ故腫瘍の浸潤・転移の過程ではマトリックスメ 夕口 プロ テア ーゼ(MMP)など の細 胞外 基質 分解 酵素 が重要な役割を担つ てい る. これ まで に17種類 のMMPの存 在が 報告 され ており,問質の主な 構成成分であるI型やII型,III型コラーゲン(問質型コラーゲン)などを 分解 する 問質 型コ ラゲ ナー ゼ(MMP‑1),上 皮細 胞と 問質の境界部や血管 内 皮 細 胞 下 に存 在す る基 底膜 の主 成分を 分解 するIV型 コラ ーゲ ナー ゼ (MMP‑9), な ら び に フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン , ラミ ニン など の糖 タン バク 質 や プ ロ テ オ グ リ カ ン を 分解 す る ス ト ロ メ ラ イシ ン(MMP‑3)は, 癌の 浸 潤・転移と深く関与していることが報告されている.
MMPの 発 現はAP‑1やets癌 遺伝 子群転 写因 子な どに より 転写 調節 さ れる こと が示 され てい る.EIAFは,1991年に 発見さ れたets癌遺伝子群 転写因子のーつで,Chloramphenicol acetyltransferase (CAT) assayにおい てMMP‑1, MMP‑3あ る い はMMP‑9の 転 写 調 節領 域に 結合 し, その 転写 活 性 を 上 昇 さ せる こと が知 られ てい る.そ の後 ,低 浸潤 性の 乳癌 細胞 に EIAFを 強 制 発 現 さ せ る こ と に よ り 浸 潤 能 が 亢 進 す る こ と ,
またヒト口腔癌由来の高浸潤性の培養細胞株,HSC3がEIAFを強<発現してい る と同 時に,MMP・1, .9も強発現していることなどが報告され,EIAFの浸 潤・転移への関与が示唆されている.
今回,著者らは,高浸潤性の口腔扁平上皮癌培養細胞株,HSC3にアンチ センスEIAF発現ベクターを遺伝子導入し,EIAFの抑制が癌細胞の浸潤動態に 及ぽす影響について検索した.
【材料と方法】
1.アンチセンスEIAF発現ベクターの構築と遺伝子導入
EIAF cDNA断片 (n.n.403・761)を真 核細 胞発現ベクターpRVSVneoに アンチセンス方向に挿入し,アンチセンスEIAF発現ベクターpRVSVneoAS ‑ El AFを構築した.このべクターに挿入されたEIAF遺伝子は,RSVプロモーターに より 真核 細胞内 でア ンチセンス方向にRNAを発現する.さらにこのべクター にはネオマイシン耐性遺伝子が組み込まれており,遺伝子導入株の選択を可 能と して いる. この ベクターを,LipofectAmineを用いてHSC3に遺伝子導入 し た . な お ,pRVSVneoの み を 導 入 し た 細 胞 株 をControl細 胞 と し た ・
2. RNAの抽出およびNorthern blot分析
各細胞株より抽出した全RNAを材料として,EIAFプローブおよびMMP‑1,
・3.‑9のcDNAプ ロ ー ブ を 用 い て ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン を 行 っ た . なお,EIAFのプローブはn.n.196/760のcDNA断片を用いた,コントロールと して はヒ トp ‑actin cDNAプローブを用い,再度ハイブリダイゼーションを 行った.
3.蛋白レベルにおけるMMPの発現の検索
親株 ,Control細胞 ,アンチセンスEIAF発現ベクター導入細胞を24時 間無血清下で培養した後,回収した上清をサンプルとしたゼラチンザイモ グラムを行い,92kD IV型コラゲナーゼ(MMP ‑9)の活性を検索した.さら にMMP.1,・3,.9に対するモノクローナル抗体を用い,免疫組織学的に各 MMPを発現している細胞の同定を行った.
4.浸潤能の検索
正 常 線 維 芽細 胞を 混入 した コラ ーゲ ンゲ ルを 作製し ,そ のう えに HSC3,Control細胞 ,HSC3 AS細 胞を まき,Raft culture (in vitr03次 元培 養) を行 って ,各 細胞 のコラーゲンゲル内への浸潤能の差を比較し た.さらにHSC3,Control細胞,HSC3 AS細胞を各々2x105個ヌードマウス 舌 へ 移 植 し , 舌 内 に 形 成 さ れ た 腫 瘍 を 組 織 学 的 に 検 索 し た .
【結果】
ベク ター 導入 後, ネオ マイ シン によ る選 択に よっ て14株が分離され た. Northern blot分噺によって,そのうち3株に1.2kbのアンチセンスEl AF RNAの明瞭なシグナルが認められた.そこでこれらの細胞をアンチセン スEIAF発 現 細 胞(HSC3 AS細 胞 ) と し て 他 の 実 験 に 用 い た . な お , pRVSVneoのみ を遺 伝子 導入 して分離したControl細胞には親株HSC3と同様 にEIAF mRNAのみが発現していた.
HSC3 AS細胞 は,Northern blot分析において親株やControl細胞に比 べてMMP.1,‐3,・9mRNAのレベルが低下していた.
ま た ゼ ラ チ ン ザイモ グラ ムでMMP‑9活 性の 著明な 低下 がみ られ ,免 疫組 織染色でMMP.1,・3,.9抗体に対する染色性の低下が認められた.これら の所 見は ,EIAFの アン チセ ンス発現ベクターの導入により複数のMMPの発 現 がmRNAな ら び 蛋 白 レ ベ ル で 抑 制 さ れ た こ と を 示 し て い る ・ また ,Raftcultureに おいて ,HSC3 AS細 胞の コラ ーゲンゲルへの浸 潤能 は著 しく 低下 して おり ,さ らに ヌー ドマ ウス 舌へ の移植実験でも,
HSC3が周 囲の 筋層 に浸 潤性 に増殖していたのに対して,HSC3 AS細胞は比 較 的 境 界 明 瞭 な 腫 瘤 を 形 成 して お り , 浸 潤 能は 明ら かに 低下 して いた
【考察】
今回の結果は,EIAFを抑制することにより数種のMMPの発現が抑制さ れ,その結果,腫瘍の浸潤能が低下したことを示している.このことは,
逆に, EIAFは口腔扁平上皮癌細胞において複数のMMPの転写を活性化し,
腫 瘍 の浸 潤に 重要な 役割 を担 って いる こと を示 すも のと 考え られ る.
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近年,分子生物学の発展に伴い,悪性腫瘍の診断・治療においても その応用が試み始められてきている.今回,EIAFの抑制効果を検討する ために用いたアンチセンス法は標的の遺伝子に相補的なRNAと二重鎖を形 成させ.その発現を抑制させる遺伝子発現制御方法である.この方法が 見いだされた当初は,クローニングされた塩基配列の機能の推定に用い られていたが.最近では癌やAIDSの治療への応用に関する研究が活発に なってきている.
アンチセンスRNAが細胞内でどのように作用しているかについては未だ不明 な点が多いが,現在までに,1) DNAと3重鎖を形成して種々の制御因子の DNAへの結合を阻害する,2)転写後のスプライシングを阻害する,3)標的 遺伝子のRNAと結合し,リボゾームのmRNAへの転位や読みとりを阻害する,
などのメカニズムが報告されている.アンチセンス法を治療に応用するには 幾つかの課題が残されているが,今回の実験において,EIAF遺伝子を単一の 標的としたアンチセンスRNAによる発現抑制が数種の細胞外基質分解酵素の 抑制をもたらし,最終的に腫瘍の浸潤能を低下させたことjま,EIAFが遺伝子 治療におけるターゲットのーつになりうることを示している.また今回,培 養系においてとはいえ,EIAFの発現が口腔癌細胞の浸潤に深く関与している ことが示されたことは,EIAFが口腔扁平上皮癌の悪性度の指標のーっとなり うる可能性を示唆するものと思われた.
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Antisense EIAF Transfection Restrains Oral Cancer Invasion by RelucingMamxMetauoproteinaseACdudes ・ (アンチセンス ElAF 遺伝子導入が口腔癌細胞のMMP 活 性 ならび 浸潤能に及 ぼす影響 に関する 研究)
審査は、審査員全員出席の下に、申請者に対して提出論文とそれに関連した学科 目 について口頭試問により行われた。審査論文の概要は、以下の通りである。
EIAFは、1993年に発見されたets癌遺伝子群転写因子のーつで、MMP‑1、MMP‑3 ならびにMMP‑9の転写活性を上昇させることにより、癌細胞の浸潤能を亢進させる ことが知られている。本研究は、EIAFの抑制が癌細胞の浸潤動態にどのような影 響を及ぼすかを明らかにする目的で、高浸潤性の口腔扁平上皮癌培養細胞株(HSC3) に アンチセン スEIAF発現ベクタ ーを遺伝子 導入し、そ の浸潤能の変化につし 索したものである。
まず、EIAF cDNA断片(n.n.403‑761)を真核細胞発現ベクター(pRVSVneo)にアン チセンス方向に挿入し、アンチセンスEIAF発現ベクター(pRVSVneoAS‑EIAF)を構 築した。このべク夕一に挿入されたEIAF遺伝子倣、RSVプロモーターにより真核 細胞内でアンチセンス方向にRNAを発現する。このべクターにはネオマイシン耐性 遺 伝子も組み込まれており、遺伝子導入株の選択を可能としている。Lipofect Amineを 用い て RVSVneoAS‑EIAFな ら びに コ ン トロ ールのため のpRVSVneoを HSC3に遺伝子導入し、ネオマイシン(G418)による選択で、14株が分離された。各 細胞株より抽出した全RNAを材料として、EIAF cDNAのn.n.196‑760断片をプロー ブとしたNorthern blottingにより、14株中3株に1.2kbのアンチセンスEIAF RNAの明 瞭なシグナルを認めた。そこでこの3株の細胞をアンチセンスEIAF発現細胞(HSC3− AS細胞)として以下の実験に用いた。なお、pRVSVneoのみを遺伝子導入して分離 し たコントロ ール細胞に は親株HSC3細胞と同様にEIAF mRNAのみが発現してい た。 最初に、MMP‑1,―3,―9mRNAの発現量を検索するため、HSC3―AS細胞とHSC3細 胞、コントロール細胞より抽出したRNAを材料として、MMP‑1,‐3,_9のcDNAをプ 口ーブとしたNorthern blottingを行った。結果は、HSC3―AS細胞では親株HSC3細胞 やコント口ール細胞に比べてMMP‑1,‐3,‐9mRNAのレベルが低下していた。次い で 、蛋白レベルにおけるMMPの発現を確認するため、HSC3細胞とHSC3‑AS細胞、
コントロール細胞をそれそれ24時間無血清下で培養し、回収した上清をサンプルと してゼラチンザイモグラムを行い、92kD型コラゲナーゼ(MMP‑9)の活性を検索し た。また、MMP‑1,‐3,‐9に対するモノクローナル抗体を用い、免疫組織学的に各
則
男
章
靖 隆
塚
後
本
戸
向
松
授
授
授
教
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教
査
査
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主
副
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MMPを 発 現 し て い る 細 胞 の 特 定 を 行 っ た 。 結 果は 、HSC3‑AS細胞 は ゼラ チ ン ザイ モグ ラムでMMP‑9活 性の著明 な低下を示 し、また 免疫組織 染色でもMMP‑1,‐3,−9 抗体に対する染色性が低下していた。
次に 、各細胞 の浸潤能 を検索する ため、正 常線維芽 細胞を混 入したコ ラーグン ゲル を作製し、HSC3細胞とHSC3‑AS細胞、コントロール細胞を用いてRaft culture (in vitro 3次元 培養)を 行った。 さらにHSC3細胞 、HSC3―AS細胞 、コント ロール細 胞を各々2 x10s個 ヌー ド マウ ス の 舌ヘ 移 植し 、 舌 筋内 に 形 成さ れ た腫 瘍を 組織学的 に検索し た。結 果は、Raft cultureに おいてHSC3‑AS細 胞のコラーゲンゲルへの浸潤能は著し く低 下してお り、また ヌードマウ ス舌への 移植実験 でも、HSC3細 胞が周囲 の筋層に 浸 潤性 に 増殖 し て いた の に 対し て、HSC3‑AS細胞 は比較的 境界明瞭 な腫瘤を 形成し ており、浸潤能は明らかに低下していた。
論文 の審査に あたって 、論文申請 者による 研究の要 旨の説明 後、本研 究ならび に 関連 する研究 について 、主査およ び副査よ り質問が 行われた 。いずれ の質問に つい ても 、論文申 請者から 明快な回答 が得られ 、また将 来の研究 の方向性 について も具 体的 に示ざれ た。本研 究は、EIAFアン チセンス 発現ベク 夕一の導 入によるEIAFの抑 制 が 複 数 のMMPの 発 現をmRNAな らび 蛋 白 レベ ル で抑 制 し 、腫 瘍 の浸 潤 能 を低 下 さ せる ことを明 らかにし 、EIAFが遺伝子 治療にお けるター ゲヅトの ーっにな りうるこ とを 示したこ とが高く 評価された 。また、 本研究の 結果は、 逆に、EIAFは 口腔扁平 上 皮癌 細 胞に お い て複 数 のMMPの転 写を活性 化し、腫 瘍の浸潤 に重要な 役割を担 っ てい ることを 示してお り、EIAFが口腔 扁平上皮 癌の悪性 度の指標 のーっと なりうる 可能 性も示唆 している 。本研究の 業績は、 口腔外科 の分野は もとより 、関連領 域に も寄 与すると ころ大で あり、博士 (歯学) の学位授 与に値す るものと 認められ た。