博 士 ( 薬 学 ) 岩 城 壮 一 郎
学 位 論 文 題 名
酵 母スフイ ンゴシンキナーゼ Lcb4p の りン酸化による調節機構の解明
学位論文内容の要旨
これま でに、 スフイ ンゴシ ン1ーリン酸(SIP)は細胞問シグナル伝達物質であるとともに、細胞 内セカンドメッセンジャーとしても働く極めてユニークな生理活性物質であることが明らかにされ てきた 。出芽 酵母で は細胞 内でSIPの 代わり に長鎖 スフィン ゴイド 塩基1‐ リン酸(LCBP)が同様 の働き をして おり、LCBPは長鎖 スフィ ンゴイ ド塩基 キナー ゼであるLcb4p、Lcb5pによって生合 成される。また、その活性のほとんどはI一c:b4pによるものである。LCBPは生理活性を持つことか ら、細胞内量は厳密に制御されていることが予想されるが、そのメカニズムは全く不明であった。
そこで本研究ではkb4pの調節機構の解明を目指した。
kb4pに対 する抗 体を作製 してイ ムノプ ロッテ ィング を行ったところ、2本のバンドが検出され た。そこでりン酸化である可能性を調べるため、夕ンパク質抽出液に対してアルカリフオスタファ ーゼを 用いた 脱リン 酸化処 理を行った。その結果、kb4pのバンドはすべて低分子量側にシフトし たこと から、kb4pはりン 酸化さ れていることが明らかとなった。リン酸化は主要な翻訳後修飾機 構のー つであ ること から、kb4pのりン酸化も何らかの機能の調節に関わっていると考えられたの で、ま ずkb4pをり ン酸化 するプ ロテインキナーゼの同定を目指した。酵母ではプ口テインキナー ゼとし て117遺伝 子が同 定され ている。そこで、欠損させても生存可能である101種の各遺伝子欠 損株か らタン パク質 を抽出 し、イムノブロッティングによりkb4pを検出した。その結果、サイク リン依 存性キ ナーゼ に属す るPh085pを欠 損した 変異株 中でのみ、リン酸化型kb4pカi検出されな かった 。却加 恥欠損 株では 脱リン酸 化処理 を行っ てもkb4pのパンド はシフ トしないことから、
Ph085pがkb4pの り ン 酸化 に 関 わ るこ とが明 らかと なった 。さら に、kb4pの 認識に はサイ クリ ンPc12p、Pcllpが関わることを明らかにした。また、Ph085pはプロリン指向性のSerパhrキナーゼ であり 、Serまた はThrの後 にPmが 続く配列 を認識 する。I亅冫b4p点突然変 異体を作成してkb4p のルン 酸化部 位の同 定を目 指した結果、455番目のSerがりン酸化されていることを見いだした。
次に、 細胞内 におけ るkb4pのり ン酸化 の役割 につい て検討 を行っ た。kb4pの りン酸化は酵素 活性や細胞内局在には影響していなかったが、パルスチェイス実験を行って調べた結果、安定性に 影響し ている ことが 明らか となった 。Lcb4pは 野性株 中では 半減期 約3時間 で分解していたが、
匈加甜 欠損株 中ではLcb4pは安定 化して おり、8時間チ ェイス後でも少量のぃb4pが検出された。
また、kb4pの分解にはユピキチンが関与するかどうかを調べるために、脱ユピキチン化酵素△あロィ 欠損株を用いて調べた。△め舛欠損株ではユピキチンがりサイクルされず、細胞内のユピキチン量 が減少 するこ とが知 られて いる。その結果、△め群欠損株ではkb4pの分解が抑制されていること ー39―
が明らかとなった。これらの ことから、Lcb4pの分解にはユピキチンが関与している可能性が示唆 された。
また、これまでにLcb4pの 活性は増殖安定期で減少することが報告されている。増殖安定期にお けるLcb4pの発現を調べた結 果、野性株では増殖安定期に おいてLcb4pの発現量が著しく低下して いたのに対し、Aph08.5欠損 株では安定して存在している ことが明らかとなった。さらに、Adoa4 欠損株ではLcb4pが増殖安定 期に達して40時間後でも安定して存在していた。これらのことから、
Lcb4pは培地中の栄養が枯渇 する増殖安定期で分解によるダウンレギュレーションを受けることが 明 ら か と な っ た 。 ま た 、 リ ン 酸 化 が この 分解 シグ ナ ルと して 働い て いる こと が示 され た 。 さらに、Lcb4pの分解経路 について検討を行った。ユピキチンはプ口テアソームでのタンパク質 分解のシグナルとして働くこ とが広く知られている。そ こでkb4pのプ口テアソームにおける分解 の可 能性について、プロテア ソーム阻害剤MG132を用いて 調べた。その結果、野性株、 比凋ゲ過 剰発現株ではともにプロテア ソーム阻害剤の有無でI」cb4pの量に変化が無く、また、約lokDa高 分子量側に検出されるユピキ チン化されたk:b4pの量もまた変化していなかった。これらの結果か ら 、kb4pの 分 解 は プ 口 テ ア ソ ー ム で 行 わ れ て い る の で は 無 い と い う こ と が 示 唆 さ れ た 。 近年プ口テアソームによる タンパク質分解とは異なるユピキチシの機能が明らかにされており、
ユピキチンはェンドサイトー シスの取り込みだけではなく、内腔に小胞を含んだェンドソームであ るmulbve虹cularbody(MVB) への選別シグナルとしても 機能していることが示された。そこで、
kb4pがユ ピキ チン 化 に依 存し て小 胞輸 送 され てい る可能 性について調べた。その結 果、MVBの 形成に欠損がある変異株では 増殖安定期におけるkb4pの分解が抑制されていた。このことから、
kニb4pはMVBを介して輸送されていることが明らかとなった。また、E蛤FPIム二8ず融合夕ンパク質!
を発現した株を用い、対数増 殖期と増殖安定期におけるkb4Pの局在を調べた結果、野性株は対数!
増殖期ではI一c:b4pは細胞膜に局在していた。一方、増殖安定期ではkb4pは細胞膜への局在が減少!
して液胞に移行していること が明らかとなった。この局 在の変化は却加甜欠損株や△め群欠損!
株では見られなかったことか ら、kb4pは増殖安定期では分解のために液胞へ輸送されていること!
が明らかとなった。さらに、液胞に存在するプロテアーゼの欠損株を用いて調べた結果、却印鵝〆.み´
二重 欠損 株や 傘印 鶴 閉り 二重 欠損株では増殖安定期にお けるkb4pの分解が抑制されて いた。こ れら のこ とか ら、 増 殖安 定期 ではkb4pはMVBを 介 して液 胞に輸送されて分解されてい ることが 明らかとなった。
以上、本論文では酵母LCBキナーゼであるIjニb4pの量 はりン酸化によって調節されており、そ の発現量は増殖安定期におい てダウンレギュレーションされていることを明らかにした。これまで にLCBPの 細胞 内量 は 増殖 安定 期における細胞周期のG1/GO期での停止に重要な働きを している ことが知られている。このこ とと本論文の結果を考え合わせると、リン酸化によって調節される増 殖 安 定 期 のLcb4pの分 解は 、外 界 の栄 養低 下に 対す る 適応 にお いて 重 要で ある と思 われ る 。
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学位論 文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
五十嵐 横沢 井 /口 川原
学 ゛ 位 論 文 題 名
靖之 英良 仁一 裕之
酵 母 ス フ イ ン ゴ シン キ ナ ーゼ Lcb4p の りン酸化による調節機構の解明
これまで に、ス フインゴ シン1−リン酸(SIP)は細胞問シグナル伝達物質であると ともに、細胞内セカンドメッセンジャーとしても働く極めてユニークな生理活性物質 であるこ とが明 らかにさ れてき た。出芽 酵母では 細胞内 でSIPの代わりに長鎖スフ イン ゴ イ ド塩 基1‐リ ン 酸(LCBP)が同 様の働き をして おり、LCBPは 長鎖ス フィン ゴイド塩 基キナ ーゼであ るLcb4p、Lcb5pによって生合成される。また、その活性の ほとんど はI」cb4pによるものである。LCBPは生理活性を持つことから、細胞内量は 厳密に制御されていることが予想されるが、そのメカニズムは全く不明であった。そ こで本研究ではLcb4pの調節機構の解明を目指した。
抗kb4p抗体 を作製し て解析を 行った 結果、kb4pはりン酸 化されて いるこ とを見 いだした 。リン 酸化は主 要な翻 訳後修飾機構のーつであることから、kb4pのりン酸 化も 何ら かの機 能の調節 に関わっ ている と考えら れた。 そこでま ずkb4pのり ン酸 化に関わ るキナーゼの同定を目指した。醇母ではプロテインキナーゼとしてl17遺伝 子が同定 されており、そのうちlol種類は欠損させても生存可能である。これらの欠 損株 を用 いて調 べた結果 、サイク リン依 存性キナ ーゼPh085pがkb4pのりン 酸化に 関わっていることが明らかとなった。また、kb4pの認識にはサイクリンPc12p、Pc11p が関 わる ことを 明らかに した。さ らに、Ph085pによるkb4pの推定リ ン酸化 部位の 点突 然変 異体を 作成して 調べた結 果、kb4pの455番 目のSerがりン酸 化され ている ことを見いだした。
次 に、細 胞内に おけるkb4pの りン酸 化の役割 につい て検討を 行った 。バルス チ エイス実験を行って調べた結果、匈め甜欠損株中では野性株に比較してIよ:b4pが安 定化して いたことから、Lcb4pのりン酸化は安定性に影響していることが明らかとな った。ま た、kb4pの 分解には ユビキチンが関与するかどうかを調べるため、ユピキ チンがりサイクルされずに細胞内のユピキチン量が減少することが知られている、脱
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ユピ キチ ン化 酵 素Adoa4欠損 株を 用いて調べた。その結果、Adoa4欠損株ではLcb4p の分解が抑制されていることが明ら かとなった。これらのことから、Lcb4pの分解に はユピキチンが関与している可能性 が示唆された。
ま た、 これ ま でにLcb4pの 活性 は増殖安定期で減少することが報 告されている。
増殖 安定 期に お けるLcb4pの 発現 を調べた結果、野性株ではその発 現量が著しく低 下し ていた のに対し、Aph085欠損株では安定化していることが明ら かとなった。さ らに、△めロギ欠損株ではより安定化していた。これらのことから、Lcb4pは培地中の 栄養が枯渇する増殖安定期で分解に よるダウンレギュレーションを受けることが明ら かとなった。また、リン酸化がこの 分解シグナルとして働いていることが示された。
さ らに 、ユ ピ キチ ンを 介し たLcb4pの分解経路について解析を行 った。近年ユピ キチンはエンドサイトーシスの取り 込みだけではなく、内腔に小胞を含んだェンドソ ームであるmultivesicular body (MVB)への選別シグナルとしても機能していることが 示さ れて いる 。 そこ でLcb4pがユ ピキチン化に依存して輸送されぃ ゝる可能性を検 討し た。そ の結果、MVBの形成に欠損が ある変異株では、増殖安定期におけるLcb4p の分 解が 抑制 さ れて いた 。こ のこ とか ら、Lcb4pはMVBを 介して輸 送されているこ とが 明ら かと な づた 。ま た、EGFP‑LCB4融合夕ンパク質を発現した 株を用い、対数 増殖期と増殖安定期におけるLcb4pの局在を調べた。その結果、野性株においてLcb4p は対数増殖期では細胞膜に局在して いたが、増殖安定期では細胞膜への局在が減少し て液 胞に 局在 し てい た。 この 局在 の変 化はAplr085欠 損株 やAdoa4欠損株では見ら れなかったことから、Lcb4pは増殖安定期では分解のために液胞へ輸送されて.いるこ とが明らかとなった。さらに、液胞 に存在するプロテアーゼの欠損株を用いて調べた 結果 、Apep4Aprbl二 重欠 損株 やApep4Apcl=重欠損株では増殖安定期におけるLcb4p の分 解が 抑制 さ れて いた 。こ れら のこ とか ら、 増殖 安定 期ではLcb4pはMVBを介し て液胞に輸送されて分解されている ことが明らかとなった。
以 上、 本論 文 では 酵母LCBキナ ーゼ であ るLcb4pの 量は りン酸化 によって調節さ れており、その発現量は増殖安定期 においてダウンレギュレーションされていること を 明 ら か に し た 。 こ れ ま で にLCBPの細 胞内 量は 増殖 安定 期に おけ る細 胞周 期 の Gl/GO期 での停止に重要な働きをしていることが知られている。 このことと本論文の 結果 を考 え合 わ せる と、 リン 酸化によ って調節される増殖安定期におけるLcb4pの 分 解 は 、 外 界 の 栄 養 低 下 に 対 す る 適 応 に お し ゝ て 重 要 で あ る と 思 わ れ る 。
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