イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利 組織の新展開
著者 永井 伸美
雑誌名 同志社法學
巻 59
号 4
ページ 41‑84
発行年 2007‑11‑30
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011328
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開四一同志社法学 五九巻四号
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」 にみる非営利組織の新展開
永 井 伸 美
(一九二五) はじめに第一章 チャリティの法的性格
1 チャリティ法の歴史 2 チャリティの定義 レ論革改法ィテリャチの権政アブ章 二第 3 割役の会員委ィテリャチ 1戦法き動すざめを正改ィ略 リャチとトッニユテ 2 チャリティの信頼性の向上 3 チャリティの効率化
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開四二同志社法学 五九巻四号
第三章 二〇〇六年チャリティ法の成立過程と法律の概要
1 法案成立までの経過 におりわ 2六要二〇〇点争と概年の法 テリャチィ
はじめに
二〇〇六年一一月、イギリスで「二〇〇六年チャリティ法」(
C ha rit ie s A ct 20 06
)が成立した。この法律は、四〇〇年の歴史をもつチャリティの法制度を抜本的に見直し、チャリティの多様で活発な活動を促すための新たな法的枠組みと位置づけられている。 イギリスでは一般に非営利・非政府組織をチャリティと呼び、その歴史は古い。しかし、チャリティの性質やその政
府との関係は近年大きく変化してきた。そのきっかけとなったのが、一九八〇年代以降の新自由主義的な改革である。「小さな政府」を唱えたサッチャー政権の誕生以降、公費削減の一手段として公共サービスの市場化が進められた。そ
れまで中央政府や地方自治体が直接提供するのが当たり前だった医療や福祉サービスなどが、営利企業とともにチャリティに民間委託されていったのである。
これによりチャリティには、政府や自治体と契約を結ぶ、いわゆる契約文化(
co nt ra ct c ult ur e
)が浸透した。その結果、契約を獲得するためには民間企業などとの競争が求められる一方、政府や自治体との契約で得る収入はチャリティの運営を安定させる重要な資金源になった。また、チャリティの組織運営には企業の経営手法(事業の多角化や業績 (一九二六)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開四三同志社法学 五九巻四号 評価モデルの導入など)が採り入れられ、ビジネス化も進んだ。さらに議員や省庁に対するロビイング、中央・地方政府各レベルの政策決定への制度的参加など、チャリティが政治的アクターとして影響力を発揮する機会も増えていっ
た。 こうした状況は、九七年以降ブレア労働党政権が掲げた「パートナーシップ」というスローガンによってますます進
んでいる。今やチャリティは公共サービスの供給者として、雇用や教育などで問題となっている「社会的排除」に政府と連携して取り組み、市民の地域社会への参加や政治参加を促し民主主義を活性化させるなど、イギリスの市民社会に
とって不可欠な存在として期待されている (
二えに万〇六はに年五〇〇る増す々年は数のィテリャチ 達 ( 。 1)
ス祉、合組同協、校学、設施福や院病、え加にさ多の数。 2)
ポーツクラブ、動物保護団体、政府や議会へのロビイング団体、そして最近注目の社会的企業(
so cia l e nt er pr ise
)等々、活動目的や運営形態も多様である。また近年では全国的世界的に知られた大規模なチャリティがいくつかある一方、残 りの圧倒的多数は資金規模も小さくボランティア中心による地域に根ざしたチャリティ、と二極化も進む (re gis te re d ch ar ity
録呼)とばィれる団体が存在する。登」(テリリころで、これらのチャテ ィの中には「登録チャと 。 3)チャリティとなるには、チャリティ法などに定められた一定の条件を満たし、チャリティ委員会(
C ha rit y
C om m iss io n
)とよばれる政府機関に登録しなければならない。登録チャリティの数は一八万八千(〇五年時点)であることから、国民が普段チャリティと呼んでいても、その団体が登録チャリティとは限らない。実際、近年の政府文書 では、しばしばチャリティに代わって「ボランタリー組織」(vo lu nt ar y or ga nis at io n
)や「ボランタリー・アンド・コミュニティ・セクター」(vo lu nt ar y an d co m m un ity s ec to r
)、「サードセクター」(T hir d se ct or
)等の表現が用いられ、非営利・非政府組織を登録チャリティに限定せず多面的に捉えようとしている。
(一九二七)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開四四同志社法学 五九巻四号
このような状況についてブレア労働党政権は、多様化の進むチャリティに対する法的対応が不十分であると考えた。
そしてこれまでの「時代遅れ」のチャリティ法を現代化することを政策課題に掲げたのである。 本稿は、二〇〇六年チャリティ法(以下二〇〇六年法)を手がかりに、チャリティの何が問題とされ、どう対応しよ
うとしたのか、次の二つの視点から考察することにしたい。第一に、そもそもチャリティとは何か、登録チャリティとはどのような資格で、チャリティ法とはどういう法律なのかという点である。第二に、二〇〇六年法はどのようなプロ
セスで制定されたのか、何が法改正のきっかけとなり、制定のプロセスにおいて政府や非営利組織はどのように関わったのか、という点である。以下、第一章はチャリティ法の歴史を概観し、従来のチャリティの法的位置づけについて述
べる。第二章は、今回の法改正の契機となった戦略ユニットの報告書を取り上げ、改正案の具体的内容について説明する。第三章では二〇〇六年法の制定過程をたどり、法律の概要や争点を明らかにし、最後に今回の法改正の意義につい
て考えてみたい。
第一章 チャリティの法的性格
rit ha C le ab ct A s se U
一が、一六〇ユ年の公益めース法(たの定最るあで) 法律で初てにチャリティにいつ (1
史歴の法ィテリャチ。この法律 4)
は、信託(当時はユースと呼んだ)の目的を具体的に列挙し、それらを「公益性のある信託」(
ch ar ita ble u se
)いわゆるチャリティとして法的効力を認めたものである。信託とは、他人に財産を移転し特定の目的のために管理・処分させる手段である。一六~一七世紀にはキリスト教(カ (一九二八)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開四五同志社法学 五九巻四号 トリック)が普及し、信者が信仰のあかしとして乞食や浮浪者への施し、教会への土地の寄進や献金を活発に行うようになった。とくに教会に寄付する際には信託が用いられ、教会では信託財産を使い病院や学校など慈善活動が行われた。
やがて囲い込みや人口増・食糧危機が原因となって乞食や放浪者が急増し、社会不安が高まった。ところがヘンリ八世とローマ法王との対立でカトリックが後退し、それまで盛んだった教会主導の宗教的な慈善活動も低迷していたた
め、民間の活動だけでは限界があるとして、公的責任による救済の必要が考えられるようになる。結果、いくつかの法律制定を経て最終的に一六〇一年エリザベス救貧法のもと、教区ごとに救貧税を徴収し、それにより貧民救済を行うこ
とになった。 とはいえ、国は救貧税の負担を減らすためにも慈善活動が必要と考えていた。そこで同じ年に公益ユース法を制定し、
貴族階級や急速に成長しつつあった商工業層に向け、慈善目的の信託を奨励し、かつ信託財産が濫用されないよう保護することにしたのである。
一八~一九世紀になると、産業革命の影響で都市部における労働者の貧困問題がさらに深刻化する。しかし当時は貧困を個人の責任とみる貧困観や、国家はできるだけ社会に介入すべきでないとする自由放任主義の影響が強かった。一
八三四年に制定される新救貧法も公的救済を抑制するものであった。こうした不十分な救貧法を補う役割を果たすべく
盛んになったのが、友愛組合(
fri en dly s oc ie ty
)のような労働者階級の相互扶助組織や、産業革命で富を得た中産階級による博愛運動(ph ila nt hr op y
)である (の善を行ない、慈学活校や病院など動善。はこのうち後者教慈育や医療分野の 5)
チャリティを多くつくった。また、こうしたチャリティの連絡調整や協力を目的とする慈善組織協会(
C ha rit y
O rg an isa tio n So cie ty
)が設立(一八六九年)され、慈善活動の組織化が図られもした。こうしてチャリティが最盛期を迎える一方、信託の濫用や受託者の義務違反など信託管理をめぐる不正事件も増加し
(一九二九)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開四六同志社法学 五九巻四号
た。そのため議会は一八一八年にブラハム委員会(
B ro ug ha m C om m itt ee
)を設置し、一八五三年に公益信託法(
C ha rit ab le T ru st A ct
)を制定する。これにより、チャリティの調査・監視を目的とする中央政府の常設機関としてチャリティ委員会が設置された(ただし委員会の管轄する信託は一部に限られた ()。 6)
その後、二〇世紀になり二度の世界大戦を経て福祉国家化が進むにつれ、これまで伝統的にチャリティが提供してきた医療や教育など多くのサービスは、政府に取って代わられていく(例えば
N H S
創設にあたって政府は民間病院を国 有化)。この変化にともない、チャリティと政府の新たな関係が問われ、それを検討する機関として、議会は一九五〇年にネイサン委員会(N at ha n C om m itt ee
)を設置した (て会いつに動活善慈の間民、は員委、末の論議ぶよおに年三。 7)
はサービスの提供や様々な社会問題への取り組みが今後も期待されるので、彼らが社会のニーズの変化に自由に対応できるように措置すべきといい、さらにこれまでのチャリティ行政の円滑化が図られるように新しい法律が必要だと提言
した。これを受け、特に後者の目的で制定されたのが一九六〇年チャリティ法(以下六〇年法)であった。 六〇年代から七〇年代には社会運動の盛り上がりをうけて、環境問題や人権問題に取り組む政治的性格の強い組織 (
8)
や、コミュニティのさまざまな課題に取り組む草の根の地域組織など、それまでなかった新タイプのチャリティが登場する。そして八〇年代以降は、冒頭に述べたように、チャリティは契約文化のもとで急成長することとなった。特にチ
ャリティに投入される公的資金の増加は著しく、チャリティ全体の収入のうち寄付に次ぐ規模へと増えた。これに伴い、チャリティの資金の使途についてのアカウンタビリティや「チャリティ委員会の監督権限が不十分」といったチャリテ
ィへの公的監督の強化を求める声も高まっていた。 こうした声を受け、政府は一九八七年にウッドフィールド委員会(
W oo df ie ld C om m itt ee
)を設置し、チャリティに対する規制のあり方について調査にあたらせ、同委員会の報告書に基づき九二年チャリティ法を制定した。この法律は、 (一九三〇)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開四七同志社法学 五九巻四号 チャリティの会計報告の義務やチャリティ委員会の監督権の強化など、チャリティへの規制を強化するものだった。その翌年には、六〇年法や九二年法などチャリティに関する法律が複数あって複雑だとの理由で、それらの内容を変更せ ず一つの法律に統合され (
。しるいてっ至に今てと、法ィテリャチ年三九 9)
みィチャリティの定義とチャリテ委て員会の役割の二点にわたって、いチィ下では、つャリテの 法的な位置づけに以
2
義定のィテリャチていくことにする。 まずチャリティについての法的規定の特徴として、これまでの制定法にはチャリティの定義がなかったことが挙げら
れる (
ca se la w
変そ的統伝のでまれ、やけ退をれこは府政の時がなでりくの況状会社、がうほづ方基に)(法例判るあころと で、新「は会員委ンサイネて。ったあに定制の法年〇法は。定たし告勧と」きべるめにチ確明を義定のィテリャ六 10)化に沿ってチャリティの意味を柔軟に解釈できて都合がよいと判断した(裁判所も、制定法に定義規定を設けると、その法解釈をめぐりかえって訴訟が増えると反対)。こうしてチャリティの定義が制定法に盛り込まれたことは一度もな
く、チャリティの定義は判例に委ねられてきたのだった。
とはいえ、裁判所はチャリティにあたるか否かの判断基準として、一六〇一年公益ユース法を長らく参照してきた。この法律の前文には信託目的の具体例 (
文たにすぎなかっ)、例裁判所はこの前示く(がで義定はられそなりおてれさ示 11)
の意図を汲むことで他の様々な目的についてもチャリティと認める判決を出してきたのである (
l se ca se P em
ペムたル事件(れわ争セトか)において、判事マクノーがうと税ャリティどて所得し免が認められるか除 八して一チ九一年に。そ 12)ン卿(
L or d M ac na gh te n
)がこれまでの判例からチャリティと認められる目的を四つの項目(he ad
)に分類した。す(一九三一)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開四八同志社法学 五九巻四号
なわち①貧困救済、②教育の振興、③宗教の振興、④そのほか地域にとっての利益である。これがその後の裁判でも引
用され、今日まで裁判所やチャリティ委員会の決定に影響力をもっている。 これまでの判例によると、法律上のチャリティとなるためには二つ条件があるとしている。第一に、団体の主な活動
目的が一六〇一年法の前文やマクノートンの分類した四項目に含まれる目的、いわゆる「チャリティ目的」(
ch ar ita ble pu rp os e
)に該当しなければならない。第二に、活動目的には公益性(pu bli c be ne fit
)がなければならない。ここでの公益性とは、例えば社会全体もしくは相当な規模で利益をもたらすといった意味だが、明確な定義があるわけではない。これまで判決の度に解釈され、マクノートンの四項目それぞれに公益性の具体的内容は異なる (
。かつて六 13)
〇年法の制定の際に公益性の定義規定を盛り込むべきとの意見もでたが、実現には至らなかった (
pr es um pt io n
項す)されてきた。な定わち、マクノートンが分類した(推テてのチャリとに限っィ、あ公もるのが性益 。部一でまれこ、たま 14)目のうち最初の三つは当然に公益性があるものと推定し自動的にチャリティと認定するが、最後の「そのほか地域にとっての利益」にあたる団体には公益性の証明が求められたのである。
この二つの条件に合致しないものがあるとすれば何か。それはチャリティの主たる目的が①自助、②利潤分配、③政治活動のいずれかと判断された場合である (
法け紀はじめにかて〇確立した判例世二し。か末紀世九一てら通共はられこ 15)
上の考え方である。 まず、自助にあたるとしてチャリティとは認められなかったのが、友愛組合や相互保険基金などの相互扶助組織だっ
た。これら組織の、加入者からの拠出金を積み立て加入者に給付するという設立目的が、チャリティに必要な利他性(
alt ru ism
)を欠くと考えられた(ただし一部の組合に限ってチャリティ資格を認めてきた ()。 16)
同様の理由で、利潤分配を目的とする団体もチャリティとは認められなかった。言い換えればチャリティが、その収 (一九三二)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開四九同志社法学 五九巻四号 益を利用者やチャリティの外部に配分する、あるいは一部のメンバーが他を排除して特定の利益を得るなどのやり方でもって利潤を分配することが禁止されたのである (
ばでえ例、てしと件事たっなに題問かうどかるたあに配分潤利のこ。 17)
チャリティ資格をもつ私立学校(いわゆるパブリックスクールと呼ばれる、富裕階級の子弟のための寄宿制の中等学校)や民間病院が、利用者に授業料や治療費などで高額の料金を請求することが利潤分配にあたるかどうかが争われた。こ
れについて判例では、料金請求が直ちに利潤分配にあたるとはいえず、料金を請求したからといってチャリティと認めないとする十分な根拠にならないとしている。
このことは、チャリティには利潤分配に当たらない限りであれば収益活動が認められることを意味する。むしろ政府は税制上優遇することでチャリティを支援してきた。具体的には、チャリティ目的にあたる活動やそれと関連性の強い
活動(たとえば美術館を運営する場合の入場料、自治体との福祉サービスの契約で得た収入)については、その収益に対する所得税を原則非課税としたほか、チャリティ目的と無関係な活動の収益(資金調達を目的としたショップ経営や
カタログ販売)は原則課税であるが、収益が少額か一時的な場合に限って減免を認めてきたのである。 一方、チャリティと政治との関係について、チャリティは非政治的であることが求められた。すなわち、活動の本質
が政党活動や特定の政治体制(例えば社会主義)の推進、法改正の要求あるいは反対の活動など、要するに政治目的に
あたると判断されれば、たとえ教育や宗教などのチャリティ目的を掲げても、チャリティと認められないとされた。 もともと裁判所は政党活動を除くチャリティの政治活動には寛容であった。しかし二〇世紀に入るのを境に一転し、
法改正の要求あるいは反対といった目的に公益性があるかどうか判断できないとして、そのような目的を掲げる団体をチャリティとは認めないとの立場を示すようになった。その理由として、万一こうした目的に公益性があると認めてし
まうと、裁判所が議会の作った現状の法律を無効と判断したことになり、それは議会主権の侵害にあたるとした (
。つま 18)
(一九三三)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開五〇同志社法学 五九巻四号
り、法律の制定など政策の優先順位を決めるのは裁判所でなく政府であること、また政府による政治的解決が望ましい
問題(例えば人権侵害についての補償など)もあるとして、こうした政治問題に積極的に関わるのはチャリティとしてふさわしくないと考えられたのである。
しかし、その後の判決で政治活動への制限は緩和されていった。そして一九八〇年代以降は、チャリティ委員会から政治活動に関するガイダンスが出されるようになる (
な体れらめ認と的目ィテリャチは自れそ的目治政、とるよにれそ。 19)
いものの、あくまでチャリティ目的を達成する活動の一環(そのための法改正や政府の政策変更の要求で、かつ非党派的であること)としてならば認められるとしている。このように政治目的と政治活動とを区別することで、近年ではチ
ャリティの政治参加を積極的に認める方向へと(効果的かどうかはともかく)変わってきたのである (
収れ立してきた。しかし、こらてをめぐっては、例えば「確しャと以上の三つは確かにチリティと認められない条件 。 20)
益活動に対する税制上の優遇をもっと広げるべき」といった要求や、「民間企業であれば政治活動に制限はないのになぜチャリティは制限されるのか」といった疑問など、今なお議論の対象となっている。
3
チャリティ委員会の役割 歴史的に、チャリティと認めるかどうかの判断には、裁判所だけでなく複数の公的機関が関わってきた。例えば一九世紀、所得税(in co m e ta x
)制度が整うにつれチャリティに対する税の免除も認められるようになっていったが、チャリティであることを理由に免税を求める個別要求には内国歳入庁(
In la nd R ev en ue
)が対応した。また後に設置されたチャリティ委員会も、個々の公益信託を監視するのに、法律上のチャリティにふさわしいかどうかの判断を行った (。 21)
六〇年法の制定にあたって、チャリティ行政の円滑化のため、同じような機能を複数の公的機関がもつ状況を改善す (一九三四)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開五一同志社法学 五九巻四号 る必要があると考えられた。そこでチャリティ委員会への一元化が図られることとなり、それ以来、委員会の権限は強化されてきた。
六〇年法での改革は次のようなものである (
た代テリャチ」てっわにと所判裁「が会員委ィ認、うま。たっなにとこ行めを定判かうどかる同れけづ務義が録登のら を導。るあで入、の制録登部に一一除の例外。き、チャリティ委員会へ第 22)
税制上の優遇措置も登録と同時に認められた (
会ィ針を決め、登録チャリテのい対象を、信託に限らず、方な、わ第二に、登録の条件に法人格をもつかどうかを問 。 23)
社法に基づく保証有限会社(
co m pa ny li m ite d by g ua ra nt ee
)や「法人格なき団体」にも広げた (す員ィテリャチる囲管所の会委範ィテも広がることになったの ( リャチ、りよにれこ。 24)
。 25)
第三に、チャリティ委員会のチャリティに対する規制権限を強化した。例えば、チャリティ委員会は、原則として個別チャリティの内部運営に介入はできないが、万一チャリティ内部の不正行為や不適切な管理運営が行われていると判
断した場合には調査(
in qu iry
)を行い、その結果によっては、理事や従業員の任免、銀行口座の凍結を命じるなどの権限をもった。こうしたチャリティの運営に関する調査、チャリティのメンバーの職務停止、罷免などの権限は九二年の法改正でさらに強化されている。なお、こうした規制機関としての役割と同時に、委員会はチャリティへの情報提供
や法的拘束力を持たないチャリティへの助言など支援機関としても機能している。 チャリティ委員会は内務大臣の任命する三名の委員から構成される(うち二名は弁護士資格をもつ法律家でなければ
ならない。一九八八年以降は最大五名まで認められている)。現在ロンドンなど四个所に事務所が設置されており、約五〇〇名のスタッフ(行政官)がいる (
委大だけであり、臣判やほかの省庁は所裁すはの委員会の下決。定を覆せるのこ 26)
員会の決定に対して指示したり覆したりする法的権限をもたない。チャリティ委員会は政治的に独立した機関と考えら
(一九三五)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開五二同志社法学 五九巻四号
れているからである。ただし、委員会は年次報告書を内務大臣に提出する義務が法律上課せられているほか、予算も財
務省の決定に左右される。
第二章 ブレア政権のチャリティ法改革論
te St gy U nit ra
年九月、二略ユニッ〇〇二ト戦公(は)による報告書﹃民間活動と、きて たけ向に正改法の回今、動さ1
戦略ユリニットとチャ ティ法改正をめす動きざ 益﹄(P riv at e A ct io n, P ub lic B en ef it
)が公表されたことから始まった。そこにはチャリティの法や規制に関する六一の勧告が含まれ、その半数以上がチャリティ法の改正を要請するものだった。戦略ユニットは内閣府に属し、その役割の一つは首相が優先課題とする政策分野を長期的・省庁横断的な視点から検討することである (
てにのほかの非営利組織関やする法や規制についそィレテ〇〇一年七月、ブア。首相から「チャリ二 27)
の見直しせよ」との指示をうけ、およそ一年かけて報告書を作成した。通常、戦略ユニットの作業は政府内外から集められた混成チームによって進められ、今回も閣僚や官僚に加え民間から複数のボランタリー組織代表が参加していた。
ボランタリー組織の側では、既に一九九〇年代半ばから全国ボランタリー組織協会(
N at io na l C ou nc il fo r V olu nt ar y
O rg an isa tio n
、以下N C V O
)を中心に、チャリティ法の改正を訴えてきた (ー政ナトーパ「のと府、につ一の由理のそ。 28)
シップ」を見直すことがあった。彼らは政府との関係が緊密になればなるほど、かえってボランタリー組織のもつ独自性や自律性、政府からの独立性が失われてしまうのではないか、との危機感をもつようになっていたからである。
例えば、公共サービスの供給者としての役割が大きくなるにつれ、契約の条件に縛られたり公的収入への依存が強ま (一九三六)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開五三同志社法学 五九巻四号 ったりすると、本来のチャリティ目的にあたる活動や政府批判が難しくなる。また政策形成に参加するといっても、一部のボランタリー組織に限られる。たとえ参加できても影響力を及ぼすことはほとんどできない。要するに「パートナ
ーシップといっても、実際の政府との関係は対等とはいえない」と不満を募らせていたのである。 ブレア政権もこの問題に応えようとした。その成果が政府とボランタリーセクターとの関係の原則を明文化した一九
九八年の合意文書﹃ナショナル・コンパクト﹄(
N at io na l C om pa ct
)である。しかし、ナショナル・コンパクトの締結だけで先に述べたような問題を解決したとボランタリー組織は考えていなかった (りど取をィテリャチな法ィテリャチ。 29)
巻く法や規制についても見直すべきと見ていたのである。 また、ボランタリー組織の間には国民からの信頼低下を懸念する声もあった。というのも、チャリティの資金をめぐ
る相次ぐスキャンダルや、世論調査で国民の多くが登録チャリティとそうでない団体との区別がつかないとの結果が出たことから、こうした一部のチャリティの不正やチャリティについての一般国民の誤解を放置しておけば、やがてボラ
ンタリーセクター全体に対する不信につながりかねない、と深刻に受け止めていたのである (
V O N C
る検討グループを結成し、府と二〇〇一年一月には内閣すを的目 こうした事情から、は独自に法制度の見直し 。 30)(後に戦略ユニットとして再編される
P er fo rm an ce a nd I nn ov at io n U nit
)に向け政策提言を行った。そして戦略ユニットのメンバーとしても加わることで、報告書に自分たちの意向を反映させることができたのだった。
、がする様々な提案が盛り込まれた、にそれらの目的をまとめるならば関方書テ告りにはチャリィ の法や規制のあ報
2
上向の性頼信のィテリャチ おおよそ二つあったといえるだろう (。 31)
(一九三七)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開五四同志社法学 五九巻四号
その一つがチャリティの信頼性を確保することである。そもそも市民社会を活性化していくには、自由で政府から独
立した組織の存在が不可欠である。チャリティは人々の寄付やボランティアで支えられる活動であり、国民からの支持や信頼を活動の基盤とする点で、自由で独立性の高い組織である。しかし、その自由や独立性は放っておくだけで得ら
れるというものではない。税制上の優遇や補助金などの財政支援あるいは政策連携を通じ、チャリティの成長を積極的に促進していくことが必要である。それが政府の役割である。ただし、チャリティの中には問題のあるものも少なから
ず生じる。そうした場合、寄付やサービス利用を通じて関わる国民を保護するためチャリティを規制することも必要である。もちろん政府の規制がチャリティの自由や独立性を過剰に制限することがあってはならない。しかし規制がある
ことで国民のチャリティに対する信頼の確保につながることも確かである。 チャリティへの信頼確保のために出された具体的な対策は、大きく三つに分けられる (
。一つはチャリティの情報開示 32)
である。例えば、一定の収入規模のチャリティに支払い調書の提出を義務づけ、チャリティ委員会に「支払い調書基準」(
st an da rd in fo rm at io n re tu rn
)を作成させる。基準をつくることによりチャリティ間の比較が可能となり、また委員会 のウェブサイトで簡単に入手できるのでチャリティへの出資者にも使いやすい。何よりチャリティ自身のアカウンタビリティ向上につながる (。 33)
二つめにチャリティの活動に対する外部からのチェック強化である。これには、全てのチャリティに対し自らの公益性を証明させる、いわゆる公益性テスト(
pu bli c be ne fit t es t
)の導入のほか、免除チャリティ(ex ce pt ed c ha rit y
)や 適用除外チャリティ(ex em pt c ha rit y
)とよばれる、これまでチャリティ登録の必要が求められてこなかった一部のチャリティへの登録の義務づけ (。許たれま含がどな設創の度制免なた新るけおに動活金募、 34)
最後にチャリティ委員会の組織運営の見直しである。規制機関としての機能を強化し、組織の透明性やアカウンタビ (一九三八)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開五五同志社法学 五九巻四号 リティの改善を求めた。 以下では、この中から公益性テスト、募金制度、チャリティ委員会の組織運営の見直しについて少し詳しく説明した
い。
⑴ チャリティの定義の明文化と公益性テストの導入
公益性テスト導入は、チャリティの定義に関する提案の一つである。これまでのチャリティの定義のあり方が、チャリティという資格を複雑で不明確なものにさせている、というのが戦略ユニットの見方であった。そのため、チャリティについて新たに定義を行い、チャリティに求められる条件をはっきりと示す必要があると考えたのである (
。 35)
まず、チャリティとなる条件の一つである「チャリティ目的」について、長らくその基準として使われてきたマクノートンの分類による四項目では、活動目的が多様化している現状に合っていないと指摘する。そして従来の「貧困救済」
「教育の振興」「宗教の振興」を含め、新たに一〇項目からなる「チャリティ目的」を制定法において明記するよう求めた。
新たに明記するものには「健康の増進」「社会や地域の発展」「文化・芸術・文化遺産の振興」「アマチュア・スポー
ツの振興」「紛争解決・人権の促進」「環境保全と保護」のほか、これら以外で現在認められているものや、将来新たに認められるであろうものを含む「そのほか地域にとって利益となる目的」が含まれた。これらの項目の大半は既に判例
でチャリティ目的と認められてきたものだったが、例えば「人権の促進」は新しく加えられた。これが実現すれば、例えばノーベル平和賞をとるもイギリスではチャリティと認められてこなかった国際的な人道団体アムネスティ・インタ
ーナショナルにもその資格が得られると考えられた。
(一九三九)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開五六同志社法学 五九巻四号
加えて、これらのチャリティ目的に該当する全ての団体に対して、チャリティ登録時そして登録後も継続的に公益性
があることを証明させる、いわゆる公益性テストの実施を定めることを求めた。これは、チャリティ目的のうち貧困救済、教育、宗教という目的の団体には公益性があるものと推定するという、ある意味あいまいであった仕組みを終わら
せることを意味した。テストによって全てのチャリティが公平に扱われ、チャリティの定義としてもシンプルで分かりやすくなる。加えて国民に向けても、チャリティと公益性との関係、すなわち税制上の優遇措置などの特権に見合う公
益性を各チャリティが本当にもっているかどうかをはっきり説明できる。その結果、チャリティへの信頼向上につながると考えられた (
。 36)
こうして戦略ユニットは、これまで判例でしか説明されてこなかったチャリティに必要な条件
―
つまりチャリティ目的をもち、かつ公益性があること―
を、制定法に明記することによってチャリティを新たに定義しようとしたのである。しかし、単に制定法に明記すればよいと考えていた訳ではない。というのも、公益性については、その詳しい内容を制定法上で説明することに慎重な姿勢を示したからである。例えば、これまでの判例においてチャリティ目的の項
目ごとに説明されてきた公益性の意味を、その全ての項目に通じる一貫性をもち、かつシンプルな表現でもって法律上に盛り込むことは実際に簡単ではない。仮にできたとしても、これに委任立法等が関わりかえって複雑になることは不
可避で、政府が公益性を都合良く解釈する可能性、つまりチャリティに政府が過剰に干渉するおそれがある。それに制定法上に公益性の内容を詳細に規定したために、チャリティの多様な展開を認める柔軟性を欠いてしまう事態にならな
いともいえない。こうした理由から、公益性の内容については従来どおり判例に基づくほうが望ましい、そう考えたのである (
。 37) (一九四〇)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開五七同志社法学 五九巻四号
⑵ 募金活動に対する規制
チャリティにとって重要な資金調達の手段である募金活動は、従来から法律による規制の対象とされてきた。一般に 募金活動には街頭募金(st re et c oll ec tio n
)と戸別訪問(ho us e- to -h ou se c oll ec tio n
)の二種類があり、それぞれ免許制である。しかし、これらの募金活動を規制する法律はチャリティ法でなくそれぞれ別の法律であり、また自治体ごとに運用もバラバラであるなど、制度が複雑だと見られてきた (
がーよの口面正ーパスなや内構駅、合場う準金を動活金募に由理地公有私はスーペス共の募判た頭されてき。例えば街 せ金募でい限の制規てえ動活さが極端に制。れていると批加 38)
認められない。また自治体が免許の拒否や取消しをした場合、自治体の決定に対する内務大臣への不服申立を行う権利が戸別訪問では認められるものの、街頭募金にはこうした権利が認められていなかった。
さらに寄付する側にとっても安心して募金できる条件が整っていたかといえばそうではない。たとえば複数の自治体で戸別訪問する場合、内務省の規定に基づき、各自治体への申請が免除されたが、これが自治体による募金活動の監視
を難しくさせた。加えて現行では法律の規制の対象外となっている募金活動があった。これは銀行口座引き落としによる寄付を求める活動で、専門業者が代行するものである。小規模チャリティにとって寄付集めが簡単にでき、特に若者
には街頭でサインするだけと手軽なのが受けて近年増える一方、こうした募金活動を"シュガー"(
ch ug ge r
:ch ar ity m ug ge r
の造語)と呼び、「厚かましい」などと批判的なイメージをもつ国民も少なくない (しりリティへの信頼感も高ま、チチャリティの資金調達もャ、動そ国民が安心して募金活できる環境が整っていてこ 。 39)
やすくなる。そのためにも募金活動への適切な規制が必要である。こう考えた戦略ユニットは、全ての募金活動を免許制のもとに一本化することを提案した。つまり、募金活動をしたい団体はまず適格性(例えば犯罪に巻き込まれる危険
性がないこと)を示す適格証明(
ce rti fic at e of fi tn es s
)と、活動の場所日時についての許可(pe rm it
)を自治体に申請(一九四一)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開五八同志社法学 五九巻四号
する。ただし、一つの自治体を超えて戸別訪問をする場合は、全ての自治体に適格証明書を申請する手間を省くため、
チャリティの登録所在地の自治体 (
制ボ対する監視のあり方について、ラ達ンタリー組織の自主規制によるに調にを さら金金活動募含チャリティの資め よ請すれば。いとしたに申 40)
度を創設するよう求めた。ボランタリーセクターの自主規制が政府による規制よりも効果的と考えての提案だった。
⑶ チャリティ委員会の組織改革
戦略ユニットはチャリティ委員会についても「委員会の法的権限、義務、そのアカウンタビリティを果たす枠組みを現代化しなければならない」と述べ、次のような提案を行っている (
テた義務」を定めるよう求め。能戦略ユニットは、チャリ」「機チ」「第一に、法律の条文にャリティ委員会の「目的 。 41)
ィ委員会には規制機関として自らの目的や活動の成果をチャリティや国民に向けてきちんと説明しなければならない。そのためにはチャリティ委員会という組織の戦略的な目標を明確にしておく必要があると考えたのである (
。具体的に 42)
は、①チャリティの信頼向上、②チャリティによるコンプライアンスの強化、③チャリティの社会・経済的能力を最大限に引き出す、④寄付者・受益者に対するチャリティのアカウンタビリティ向上の四点であった。
この目的の記載に加え、委員会にその達成度について毎年報告書を作成するよう法律で義務づけることも求めた。確かにこれまでも内務大臣に年次活動報告書を提出しており、それについて議会での大臣答弁によってチャリティ委員会
は議会にアカウンタビリティを果たすと考えられてきた (
テがさ成達度程のど的た目ていおに書告報れからてリャチが会議、じを通をとこるす明説、かこたっかなにたっめはと にチテリャかが会議、し委ィす員会を議題。る機会は実際にし 43)
ィ委員会に関心を向けるきっかけをつくろうとした。それが結果的にチャリティ委員会のアカウンタビリティの強化に (一九四二)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開五九同志社法学 五九巻四号 もつながると考えたのである。 第二に、チャリティ委員会の政治的独立性の維持を強調した。規制機関であるチャリティ委員会は、政治的な干渉を
受けない中立的立場にあることが保証されてこそ、チャリティが政争の道具となるのを防ぎ、政府からの独立性が保たれる。確かに、以前から、委員会は大臣の指揮命令を受けないと考えられてきたが、新しい法律に「大臣とは一定程度
の距離(
ar m s l en gt h
)を置く」旨を盛り込むことで、委員会の独立性をより明確にするよう求めたのである。 第三に、チャリティ委員会の透明性の向上を求めた。例えば、これまで非公開だった会議を公開にするなど決定過程の情報開示に努めること、委員会がチャリティに対して出す「規制」と「助言」の区別を明確にすること、これらが不可欠だと主張した。とくに後者に関しては、従来チャリティ委員会には法的拘束力をもたない助言が認められていたが、
しかし規制との区別があいまいで、これがチャリティ側に過剰な反応を招き、不必要な自主規制を引き起こすケースが多いとみていた。
第四に、委員会の権限や構成の見直しを図った。例えば、不正のおそれがあるチャリティに対し、その所有する建物への委員会の立ち入りを認めるなど、チャリティに対する調査権の強化を求めた。権限強化に合わせ、法律上これまで
委員個人の権限として定めてきた規定を改め、委員会として行使できるよう、つまりチャリティ委員会の法的地位を新
たに認める規定を設けるよう提案した。また委員の定員についても、四人増やして最大九名とし、ボランタリー組織の利害が広く反映される委員構成にする。この委員の増加に伴い、これまで議長(
C ha ir
)が委員会の行政長官(C hie f E xe cu tiv e
)も兼ねていたのを二つのポストに分離し、委員会内のチェックアンドバランスを図る。さらに規制機関であることを強調すべく、名称を「チャリティ規制庁」(C ha rit y R eg ula tio n A ut ho rit y
)に変更する。最後に、委員会の透明性やアカウンタビリティの向上という点で、チャリティ委員会の決定(例えば、登録を認めな
(一九四三)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開六〇同志社法学 五九巻四号
い)に対する不服申立を受ける新しい裁判所の創設を提案したことが挙げられる。これまでもチャリティ委員会の出す
決定に不服がある場合には裁判所に訴えることができたが、費用も時間もかかるという理由で事実上チャリティが裁判を起こすことはほとんど不可能だった。このため少ない費用と短期間で解決にあたる特別裁判所をつくろうとしたので
ある。
のた、チャリティの効率化であっ。的その背景には、政府との契約は目ッに略ユニのトの提言込 められたもう一つ戦
3
化率効のィテリャチ増加や社会的企業の成長などに見られるように、チャリティが公共サービスの供給者として期待されていることがある。そのためにチャリティには市場原理への適応という意味で、より効率的な運営が求められた。加えて、民主主義の
活性化を掲げる労働党政権では、教育や医療、雇用などで民間セクターとのパートナーシップ政策(例えば、長期失業者にボランタリー組織への就労を求める「ニューディール政策」や、荒廃した地域の再生にむけ、自治体や民間企業、
ボランタリー組織が協働する「地域戦略パートナーシップ」など)に取り組んできた。こうした政策の効果を高めるためにも、人々のコミュニティへの参加を促す役割が、チャリティに期待されたのだった。しかし、従来のチャリティ法
においては、地域で小規模で活動する団体であっても一定額の収入があればチャリティ登録しないと違法になるなど、チャリティの設立運営をかえって困難にするとみられる要素も少なくなかった。
こうした状況を踏まえ戦略ユニットは、チャリティのより効率的な活動を促すための具体的対策を提言した。その主なものを以下に挙げる。
第一に、チャリティ登録に関して、それを義務づけている団体の年間収入額の引き上げを求めた。現行では「一千ポ (一九四四)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開六一同志社法学 五九巻四号 ンド以上」の団体に登録を義務づけているが、登録チャリティの四〇%以上が年間収入一万ポンド未満と、その大半を小規模団体が占めていた。そこで「一万ポンド以上」に引き上げて、それ未満の小規模チャリティを登録の手続きに伴 う負担から解放し、それによってチャリティをもっと簡単に設立運営できるものにしようとしたのである (
たリある。もともと登録チャテ入ィは法人格とは無関係なで導法の第二に、チャリティに人格を付与する新たな規定 。 44)
め、組織として活動しやすいよう「保証有限会社」という形態で法人格を取得する団体が多い。ところが、この場合だとチャリティ法と同時に会社法も適用されるため、会社法の規制がしばしばチャリティの活動を制約する要因になると
されてきた (
制解のこ、りよにとこ規を消重しようとしたのである二 (
iz n” io at or an rg O d te ra po nc I le ab rit ha “C
ける法設い。そこでチャリティ法におてにという人格の規定を新た 45)。 46)
第三に、"シ・プレ"(
cy p re ss
)と呼ばれる伝統的な司法判断の原則の適用緩和を求めた。シ・プレとは、チャリティの運営が困難になった際、当初のチャリティ目的に基づく運営の存続を優先させる考え方である。しかし、社会状況の変化に現実的に対応しようとすれば、むしろチャリティの再編や合併が必要であり、それをやりやすくするためにこの原則を緩和する必要があった。
第四に、チャリティの収益活動の自由化を求めた。これまでチャリティの収益活動は税制上優遇されてきたが、チャ
リティの中にはチャリティ目的とは別の、資金調達を目的とする収益会社を設立し運営する団体が多く存在する。会社の収益は"ギフトエイド"(
gif t aid
)とよばれる寄付税制を利用することでチャリティへと還元できたため、チャリティとして収益活動するよりも効果的な収入確保の手段として利用されてきた。しかし、戦略ユニットはチャリティの運営を安定させるには資金の調達手段を多様化させるべきだとして、これが現行の収益会社を設立運営する方法だと会社
経営の負担が大きいため難しいと指摘する。そこで、わざわざ収益会社を設立しなくて済むよう、チャリティによる収
(一九四五)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開六二同志社法学 五九巻四号
益活動を全て非課税にすることを求めた (
。 47)
第五に、チャリティの政治活動について、政府はこれを制限するのでなく積極的に促すべきと主張した (
組ドとの近接性、少数意見のアボ住カシー、政党など既存の政治民域にっ民社会をつくる地たあて、チャリティのもつ 。市な的主民 48)
織との違いといった性格が期待される。それらの発揮する手段として、チャリティの政治活動は活発に行われる必要があると考えたからである。
その際、当然チャリティの政治活動が政府などによる政治的圧力を受けてはならない。この点は既に政府方針として承認されていた。先ほど述べたナショナル・コンパクトにおいて、政府が守るべき約束の一つとして、チャリティに資
金を提供していることを理由に当該チャリティが政府への反対意見を述べることを制限してはならないことが明文化されていたのである (
リ高考え、より実効性をめ分るにはこれまでチャと十ト不かし、戦略ユニッは。この規定だけではし 49)
ティ委員会が公表してきた政治活動に関するガイダンスの見直しを行うべきだと主張する。例えば、現行のガイダンスでは、明示されていない活動が政治活動として認められるかどうかはっきりしない。このことがチャリティの政治活動
を萎縮させる原因になっている。これを改訂することでチャリティの政治活動の自律性も高まるはずと考えたのである。
以上のようなチャリティ法の内容に関連する提案ばかりではない。例えば、チャリティに対する関心がとりわけ若者の間で低いことから、もっと彼らにチャリティやコミュニティの活動に興味を持ってボランティアやチャリティの理事
として積極的に参加してもらおうと、学校でチャリティについて学ぶ機会を設けるよう主張した (
ulu ric N at io na l C m ur
)統全たしに象国一を政るす成作が府央カ中でムラュキリ対立校ラナル・学リキュカム:公の小中"( わ。すなシち、"ナョ 50)の科目の一つ"シティズンシップ (
をるのたし告勧ときべむ込り盛習あ学るす関にィテリャチ、に"で 51)(
。 52) (一九四六)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開六三同志社法学 五九巻四号 第三章 二〇〇六年チャリティ法の成立過程と法律の概要 のもく、その勧告も法的拘束力をたはなかった。政府はこれを議論なでッ報略ユニ針トによる告 書は正式な政府方戦
1
過経のでま立成案法たたき台と位置づけ、発表後からその年の末にかけて一般からの意見を募ったところ、一千件を超える回答が寄せられた。それらを踏まえた改革の基本方針となる報告書﹃チャリティと非営利:現代の法的枠組み﹄(
C ha rit ie s an d N ot - fo r-p ro fit s: A m od er n le ga l fra m ew or k
)が二〇〇三年七月に内務省を通じて公表される。政府はそこで戦略ユニットの勧告の多くを実施する決定を明らかにする。またデービッド・ブランケット内務大臣からは、チャリティ法案について事前立法審査(
pr e- le gis la tiv e sc ru tin y
)を行う方針も示された。これは議会に正式に法案提出する前の素案(dr aft b ill
)を議会の特別委員会が精査するもので、「法案が成立したにも関わらず実行できない」という問題を解決するのがねらいである。以前、九二年チャリティ法において募金活動についての条文を設けたが、その規定が事実上実施できないもので、結果死文化するということがあり、
その反省から今回の実施が決まった。
とはいえ、政府は審査の日程などはっきりとした見通しを立てていたわけではなかった。そのためボランタリー組織の間では事前立法審査の実施を歓迎しつつ、その早期実現を求めてキャンペーンを行った(すでに〇三年二月に
N C V O
を中心に三〇団体が参加するチャリティ法案連盟(T he C ha rit ie s B ill C oa lit io n
)を結成)。それが効を奏したのか、政府は同年一一月の議会の女王スピーチで「チャリティ法の素案を提出する」と発表する。だが実際に素案が公表されたのは翌二〇〇四年五月二七日のことだった。
(一九四七)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開六四同志社法学 五九巻四号
審査にあたって、上下両院各六名の議員からなる合同委員会(
jo in t c om m itt ee
)がつくられた。議長にはブレア政権 下でN H S
改革に取り組んだ前保健相アラン・ミルバーン労働党下院議員が任命された (事公まっていたこともあって、素案表と員れさ置設が会委のはに前間週二決日べのす〇審査報告書き締切りが九月三め 会でに同委員にが政府提出。す 53)
前のブリーフィングが行われた。こうして提出期限までの限られた時間で充実した審査を行おうとする積極的な姿勢を見せた (
報間一回のペースで一二日かにけて行われ、九月末に週とよも査は政府や関係者にる。口頭と文書での証言を審 54)
告書が提出された。報告書には素案の修正など五四項目の勧告に加えて、審査の過程が詳細にわたって説明されている。例えば、パブリックスクールや民間病院など、授業料や治療費等の高額な料金をサービスの対価として求めてきたチャ
リティへの公益性テストのあり方をめぐり、チャリティ委員会と内務省が一致していないことを合同委員会が指摘し、それを受けて直ちに両者の間でテストの実施に関する合意書が交わされる経緯が触れられている。こうした合同委員会
での審議が、その後の法案の内容に大きな影響を与えることとなった。 一二月二〇日、政府は議会上院にチャリティ法案(
C ha rit ie s B ill
)を提出した。素案が四八条だったのに対し、法案 は七二条と大幅に増えており、量だけみても事前立法審査の成果がうかがわれる。上院では第一読会が一二月、第二読会が年明けの〇五年一月に行われ、そして二~三月の全院委員会(G ra nd C om m itt ee
)段階まで審議は順調に進んだ。ところが、三月になった時点で、五月の総選挙までに法案を通過させるのが難しいことが判明する。政府が他の重要法案の審議に時間をまわそうとしてチャリティ法案の委員会審議の日程を引き延ばしたことによるもので、このままの議
事日程だと下院で審議を行う時間も十分に残されていなかった。その結果、チャリティ法案は報告段階を迎えることなく、総選挙前の議会解散で廃案となってしまう。議員やボランタリー組織からは廃案になったのは政府の責任だと批判
する声が出た (
。 55) (一九四八)
イギリス「二〇〇六年チャリティ法」にみる非営利組織の新展開六五同志社法学 五九巻四号 そもそも政府・与党がチャリティ法案の成立にどの程度やる気をもっていたかはっきりしない。法案を下院でなくまず上院から提出したことや、審議の先延ばしが原因で廃案になってしまった経緯を考えると、政府にとって重要法案で ないように見える。その一方で、二〇〇五年の総選挙の際にはマニフェストにチャリティ法案の成立を明記し (
。欲しており、法案成立の意が提全くない訳でもなかった出再公をの五月一八日には約どおりチャリティ法案 、後挙選 56)
いずれにせよ、再び上院に提出された法案は前回の上院で合意が得られた修正案だけでなく、政府側が報告段階で提出しようと準備していた修正案も盛り込まれたことから、前回の法案よりもさらに長いもの(七六条)となった。今回
の審議は順調に進み、六月に第二読会、六~七月にかけ委員会審議が行われ、夏休みをはさみ一〇月に報告段階に至る。一一月八日、法案は上院を通過した。前回廃案になるまでに三〇時間以上の審議時間を経ており、今回の上院での審議
時間を合わせると六〇時間を超えた。一方、下院では上院通過の翌九日に第一読会が行われたものの、その後の審議は遅々として進まず、翌〇六年六月になってようやく第二読会が行われた。
この間の出来事として注目されるのは、五月の地方選挙後にブレア首相が内閣府に新しくサードセクター担当大臣を任命し、サードセクター局(
O ffi ce o f th e T hir d Se ct or
)を設置したことである。これにより、チャリティ委員の任命権など長く内務省にあったチャリティ法の所管が内閣府に移ることとなった。サードセクター局は、内務省のアクティ
ブ・コミュニティ局(
A ct iv e C om m un iti es D ire ct or at e
)と貿易産業省の社会的企業室(So cia l E nt er pr ise U nit
)を統合したもので、その役割は「サードセクター(この中にはチャリティ、ボランタリーおよびコミュニティ組織、社会的企 業、協同組合などが含まれる)」に対する支援と、サードセクターと政府との連携強化をはかることである (て響して省庁を超えた強い影力にを発揮することが期待され関定内府がより首相に近い決閣に属すことから、政策 。臣大当担 57)
いる (
。 58)
(一九四九)