箱根芦ノ湖の湖底木と 南関東の巨大地震
芦ノ湖と湖底木の成因箱根芦ノ湖は、箱根火山のカル デラの南西部にある長径約4km、短径1 . 5 k m、最大水 深4 2 mのカルデラ湖である。芦ノ湖は3 1 0 0 年前、箱根火 山活動の最終期に神山の北西斜面で大規模な水蒸気爆発 が発生し、神山山体が岩なだれとなって、仙石原のカル デラ床に流下し、流水をせき止めたことによって誕生し た。
芦ノ湖には、逆さスギと呼ばれる湖底木の一群がある。
この名前の由来は、舟の上から眺めると樹幹の先端部が 近くに、根元部分が遠くに見えるため、逆さだというこ とからきている。湖底木の樹種は、スギ以外にヒノキ、
モミ、シキミ、ブナなどが確認されている。
逆さスギの成因については、元禄四年(1 6 9 1 )に箱根 関所を通過したドイツ人医師エンケルト・ケンペルが芦 ノ湖は地震による陥没で生れ、逆さスギはそのときに水 没したものであると考えたのが最初であった。
1 9 7 1 年、木原均、山下孝介は、逆さスギの一部を採 取し、C1 4 年代法による年代測定を実施した。採取した 湖底木8点のうち、4点は約1 6 0 0 年前の年代を示した ことから、神山の水蒸気爆発は1 6 0 0 年前と主張した。
その後、神山山崩れ堆積物中の埋没スギのC 1 4 年代測定 を実施したところ、3 1 0 0 年前という年代が得られた。
芦ノ湖の誕生が3 1 0 0 年前とすると、木原、山下が主張 した逆さスギの年代1 6 0 0 年前との間には1 5 0 0 年の差が ある。この年代差をどう説明するのか。その答は、
1 6 0 0 年前に発生した南関束の巨大地震によって、急斜 面に生育していた樹木が地すべりと共に湖底に移動し たもので、逆さスギはその時のものではなかろうかと する考えであった。そこで、大木端術、袴田和夫は 1 9 7 5 年から逆さスギの本格的調査を開始した。1 9 8 5 年 には2 6 個体の湖底木を採取し、C1 4 年代法で測定した。
その結果、湖底木は紀元前1 5 0 年、西暦3 5 0 年、西暦9 0 0 年あたりに年代値の集中が見られたことから、ほぼこ の頃に巨大地震が発生し、湖底に沈みこんだものであ ることを主張した。
本研究では、年輪年代法による湖底木の年代測定を実 施し、より精度の高い年代を求め、過去の巨大地震の発
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生年やその周期を明らかにすることを目的とした。なお、
この調査を進めるにあたっては、箱根町立大涌谷自然科 学館長袴田和夫氏の協力を得た。
試料試料の採取は、まず魚群探知器で湖底木の所在を 確認し、つぎにダイバーが潜り湖底木から直径5mmの 棒状標本を1個体あたり2方向から抜き取ることとし た。採取試料の樹種は、スギが1 1 個体、ヒノキが2個体 であった。この他に、以前C l 4 年代法の測定用に採取し ていたもの(大涌谷自然科学館所蔵)の中から、スギを 2個体(毘砂門A、杏石A ) 、ヒノキ1個体(男岩)を加 え、総数16個体について実施した。
結果年代測定の結果は、図−1に示したとおりである。
全試料は、辺材部が失われ心材部のみからなるものであ った。したがって、得られた年代値は実際の枯死年代よ り古い年代を示している。これをみると、西暦5 0 0 年前 後を示すグループ(1 4 個体)と西暦1 0 0 0 年前後を示すグ ループ(2個体)とに分けることができる。前者のグル ープで最も新しい年輪年代はスギN o . 2の5 3 6 年であっ た。この年代値に腐ってしまった辺材部の年輪数を概算 し、加えてみると約6 0 0 年前後の枯死年が推定される。
一方、後者のグループで最も新しい年輪年代は、N o . 13 の1 0 5 7 年であった。これも同様に辺材部の年輪数を考慮 に入れると、その枯死年は1 1 0 0 年前後が考えられる。後 者の場合、袴田和夫氏は、1096年に発生した駿河トラフ ( 駿河湾〜東海道沖)のプレート境界地震によって湖底 に移動した木ではないかと推測している。
今回の調査では、これまでC l 4 年代法で得られた年代 から推定していた年代(西暦3 5 0 年、西暦9 0 0 年)より、
いずれも2 0 0 年以上新しくなることが明らかになった。
つぎに、今回調査した1 6 個体のうち8個体については、
以前にC 1 4 年代法によって測定したものと同一個体であ る。このうち、3個体についてはC l 4 年代法用に採取し てあったもので、年輪計測もこれから実施した。結果を みると、8個体のうちNo . 8とNo . 1 3 の2点がかろうじて 年輪年代に近い年代が得られているが、他の6点は年輪 年代より著しく古い年代を示している。とくに、N o . 7 の年代は、両者のあいだに約1 0 0 0 年前後の開きが生じて いる。こうした傾向は、何に起因しているのか、今後の 大きな検討課題である。
なお、本年度からは「ヒノキ・スギ等の年輪年代によ
l 2 b O I 1 0 0 0 800600400 2601
1 2 0 0 i 4 0 0 6 0 0 8 0 0 i l O O O l 2 0 0 C1411150B. C C l 4 1 1 5 0 B . C , C ' 4 1 3 5 0 A . , . C ' 4 1 9 0 0 A . 、1スギ(…t "…J 圏p"XcaD, Don) ‐呼 土 ''0 1 N 0 . 1 逆さスギ 1
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‑ 400±10C1 N O , 2 男 岩 ( 袴 田 ) iNo.3
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C' 4 年代:‐
年輪年代:「
1 0 0 0 1 剛 Ⅲ
図1湖底木の年代測定結果
( CII年代については「神奈川県淵泉地学研究所洲' f第1 6 巻第3号1 9 8 5 」を参照した)
る炭素1 4 年代の修正」という研究課題(文部省科学研究 費、基盤研究(A)(1):研究代表者佐原典国立歴 史民俗博物館長)の研究分担者となり、C1 4 年代法の修 正に取り組むこととなった。この研究が進展すれば、IiIlj 者のあいだに大きな年代差はなくなっていくものと思わ れる。
本研究は文部省科学研究没、基盤研究(B )の助成を 受 け て 実 施 し た 。 ( 光 谷 拓 実 / 埋 文 セ ン タ ー )
参考文献
1 1 1 下挙介:1975逆さ杉が締る芦ノ湖の誕生『国土と教育jNo . 30築 地iI F館
大水 1 1 i 術、袴1 1 I 和夫:1975縮根芦ノ湖誕ノ │ 皇のなぞをさぐる『I 型I 土と 敦青jNQ30築地, IF館
大木端術、袴│ Ⅱ和夫:1980鯛根芦ノ湖の逆さスギは地震の化石『神 奈川県淵泉地学研究所慨告」V0 1 . 1 2
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