コグニティブな戦略グループの相互関係と 経時的変化の研究
- 国 内 ISP 業 界 の 事 例 を 通 じ た 命 題 の 提 示 -
早 稲 田 大 学 博 士 学 位 論 文
2015 年 10 月 30 日
宮 元 万 菜 美
目 次
序 章...7
1. 本 研 究 の 主 旨...7
2. 研 究 の 背 景 ... 11
3. 研 究 の 目 的 ... 13
4. 研 究 の 方 法 と 解 題 の ス テ ッ プ ... 16
5. 本 研 究 の 構 成... 19
第1章 . 戦 略 グ ル ー プ 論 の 今 日 的 意 義 の 検 討 ... 21
1. は じ め に... 22
2. 戦 略 グ ル ー プ 論 の 黎 明... 24
(1) 戦 略 グ ル ー プ 概 念 と ス コ ー プ... 24
(2) 戦 略 グ ル ー プ 論 と 産 業 組 織 論 の S-C-Pモ デ ル と の 視 点 の 違 い... 25
3. 伝 統 的 な 戦 略 グ ル ー プ 論 の 論 点... 26
(1) 戦 略 グ ル ー プ は 存 在 す る か ... 26
(2) 戦 略 グ ル ー プ と パ フ ォ ー マ ン ス の 関 係... 27
4. 日 本 の 戦 略 グ ル ー プ 研 究... 28
5. 戦 略 グ ル ー プ 論 に 残 さ れ て い る 課 題... 30
6. 小 括 : 戦 略 グ ル ー プ 論 の 発 展 に 向 け て の 着 眼... 31
第2章 先 行 研 究 と 戦 略 グ ル ー プ 論 を め ぐ る 論 点 整 理... 34
1. は じ め に... 34
2. 異 な る 視 座 の 戦 略 グ ル ー プ 論 と 説 明 概 念 -客 観 主 義 型 と 主 観 主 義 型- ... 34
(1) 客 観 主 義 型 の 戦 略 グ ル ー プ 論... 35
(2) 客 観 主 義 型 の 戦 略 グ ル ー プ 論 へ の 批 判... 36
(3) 主 観 主 義 型 の コ グ ニ テ ィ ブ な 戦 略 グ ル ー プ 論 ... 37
(4) 客 観 主 義 型 の 戦 略 グ ル ー プ 論 と の 対 比... 39
3. 2軸 に よ る 戦 略 グ ル ー プ 論 の 研 究 類 型 の 検 討 ... 41
(1) 静 的 な 戦 略 グ ル ー プ 論... 41
(1)-1. 代 表 的 研 究... 41
(1)-2. 静 的 な 戦 略 グ ル ー プ 論 の 貢 献 性 と 課 題 ... 42
(2) 動 的 な 戦 略 グ ル ー プ 論 : 戦 略 グ ル ー プ 論 の 動 学 化... 44
(2)-1. 代 表 的 研 究... 44
(2)-2. Mascarenhas(1989)による戦 略 グループ論 の動 学 化... 46
(2)-3.動 的 な 戦 略 グ ル ー プ 論 の 貢 献 性 と 課 題... 47
4. 3軸 に よ る 戦 略 グ ル ー プ 論 分 類 と そ の 意 義... 48
5. 小 括 お よ び デ ィ ス カ ッ シ ョ ン ... 49
第3章.コ グ ニ テ ィ ブ な 戦 略 グ ル ー プ 論 の 深 耕 と 論 点 整 理... 52
1. は じ め に... 52
2. コ グ ニ テ ィ ブ な 戦 略 グ ル ー プ 論 が 準 拠 す る 理 論 ... 53
(1) 経 営 者 の コ グ ニ シ ョ ン お よ び 理 論 と し て の 戦 略 グ ル ー プ の 解 釈 学 的 な 関 係 性 53 (2) コグニティブな戦 略 グループの共 同 主 観 性... 57
3. コ グ ニ テ ィ ブ な 戦 略 グ ル ー プ を め ぐ る 論 点 ... 58
(1) グ ル ー プ を 分 け る 基 準 の 問 題... 58
(2) J. F. Porac ら の 研 究 に み る コ グ ニ テ ィ ブ な 戦 略 グ ル ー プ 論 と 説 明 対 象 の 問 題 59 (3) 他 社 戦 略 の 参 照 点 と し て の コ グ ニ テ ィ ブ な 戦 略 グ ル ー プ... 61
4. 戦 略 次 元 に お け る 資 源 と 行 動... 62
(1) コ グ ニ テ ィ ブ な 戦 略 グ ル ー プ 論 に お け る 「 戦 略 」 の ス コ ー プ ... 62
(2) 資 源 グ ル ー プ と 行 動 グ ル ー プ の 分 離 ... 63
(3) コ グ ニ テ ィ ブ な 資 源 グ ル ー プ と コ グ ニ テ ィ ブ な 行 動 グ ル ー プ ... 66
5. 参 照 行 動 に 関 す る 基 本 的 想 定 お よ び 構 成 要 素 の 検 討 ... 67
(1) 参 照 行 動 に 関 す る 基 本 的 な 想 定... 67
(2) 参 照 行 動 の 構 成 要 素 の 検 討 ... 69
6. 小 括70 第 4章. 事 例 の 選 定 お よ び 予 備 調 査 - 経 営 者 イ ン タ ビ ュ ー を 通 じ た プ レ ー ヤ ー マ ッ プ に 関 す る 考 察 -... 72
1. は じ め に... 72
2. 事 例 の 選 定 ... 73
3. 予 備 調 査 と し て の イ ン タ ビ ュ ー... 75
(1) 国 内 の ISP 2社 へ の 経 営 者 イ ン タ ビ ュ ー... 75
(2) 両 社 の イ ン タ ビ ュ ー 記 述 ... 77
4. 予 備 調 査 の findings ... 87
(1) イ ン タ ビ ュ ー で の 発 言 要 旨 と 描 か れ た プ レ ー ヤ ー マ ッ プ... 87
(2) Findings ... 90
5. 戦 略 グ ル ー プ 概 念 と の 比 較 に よ る プ レ ー ヤ ー マ ッ プ の 考 察... 91
6. 本 調 査 に 向 け て の 示 唆... 94
7. 小 括... 95
第5章 国 内 の コ ン シ ュ ー マ ー 向 けISP事 業 の 顧 客 獲 得 競 争 に 関 す る 経 営 者 の 認 識 と 事 業 行 動 の 記 述... 97
1. は じ め に... 97
2. イ ン タ ビ ュ ー の 実 施 概 要 ... 98
(1) 概 要... 98
(2) 業 界 内 に お け る ISPの 一 般 的 分 類 呼 称 ... 99
3. 国 内 の 商 用 イ ン タ ー ネ ッ ト 接 続 サ ー ビ ス の 創 成... 100
4. キ ャ リ ア 系 ISP参 入 と 最 初 の 敗 退 者 ... 101
5. 「 メ ー カ ー 系 」 の ケ ー ス... 103
(1) 先 行 事 業 者 は 「 メ ー カ ー 系 」 を ど う 見 た か ... 103
(2) 「 メ ー カ ー 系 」 自 身 の 認 識... 105
6. DTI の ケ ー ス... 108
7. ASAHI ネ ッ ト の ケ ー ス ... 110
(1) 設 立 時 の 背 景... 110
(2) 顧 客 満 足 度... 111
8. @nifty の 先 行 戦 略... 112
(1) サ ー ビ ス ブ ラ ン ド@nifty ... 112
(2) InfoWeb の 統 合... 112
(3) 定 額 制 ダ イ ヤ ル ア ク セ ス の 価 格 破 壊... 114
9. ASAHI ネ ッ ト ... 115
10. IIJ 117 11. 常 時 接 続 ブ ロ ー ド バ ン ド の 時 代 ... 118
(1) ブ ロ ー ド バ ン ド 時 代 の 幕 開 け... 118
(2) ADSLは つ な ぎ の サ ー ビ ス か ? ... 119
(3)ソ フ ト バ ン ク の ADSL参 入 ... 120
(4) Yahoo! BBに 対 す る 他 社 の 当 初 の 反 応... 120
(5) So-net ... 121
(6) 収 益 構 造 の 変 化 ... 122
12. 電 話 会 社 の 代 理 戦 争IP 電 話 セ ッ ト ... 125
13. 資 本 政 策 とISP 統 合... 127
(1) So-net ... 127
(2) @nifty ... 128
(3) BIGLOBE ... 130
(4) ソ フ ト バ ン ク と ODN ... 132
(5) OCN... 134
(6) DION ... 135
14. 光 ア ク セ ス の 時 代... 137
(1) 基 本 的 構 造 は ADSL と 変 わ ら な い... 137
(2) withフ レ ッ ツ の 提 供 ... 138
(3) withフ レ ッ ツ の も た ら し た 認 識 の 変 化... 143
(4) 光 フ レ ッ ツ マ ン シ ョ ン タ イ プ の 値 上 げ... 143
(5) ISPの 収 益 構 造 の 変 化 に 対 す る 方 向 性 の 模 索... 146
15. 誰 を ど の よ う に 認 識 し て い た の か... 147
16. 小 括151 (1) 資 源 と パ フ ォ ー マ ン ス の 間 に... 151
(2) @nifty ... 153
(3) So-net ... 154
(4) BIGLOBE ... 154
(5) OCN... 155
(6) ASAHIネ ッ ト... 155
(7) ソ フ ト バ ン ク... 156
(8) そ の 他 - 業 界 の 観 察 者 の 目 -... 157
第6章 . 他 社 戦 略 の 参 照 行 動 と コ グ ニ テ ィ ブ な 戦 略 グ ル ー プ - デ ー タ 分 析 と 分 析 結 果 -... 158
1. は じ め に... 158
2. イ ン タ ビ ュ ー の 実 施 ... 159
3. イ ン タ ビ ュ ー の 分 析 ... 160
4. 観 察 さ れ る 事 実... 162
(1) 本 業 界 の 3つ の 慣 習 的 グ ル ー ピ ン グ... 162
(2) 観 察 事 実 に よ る 戦 略 グ ル ー プ に つ い て の 示 唆 ... 163
5. 参 照 行 動 お よ び 新 た な グ ル ー プ の 形 成 ... 165
(1) 他 社 戦 略 の 参 照 行 動... 165
(2) 「with フ レ ッ ツ 」 に よ る 行 動 グ ル ー プ の 形 成... 167
(3) 行 動 の 資 源 化... 169
6. コ グ ニ テ ィ ブ な 戦 略 グ ル ー プ の 存 在 に つ い て の 結 論... 170
(1) コ グ ニ テ ィ ブ な 資 源 グ ル ー プ に つ い て... 170
(2) コ グ ニ テ ィ ブ な 行 動 グ ル ー プ に つ い て... 170
7. コ グ ニ テ ィ ブ な 資 源 グ ル ー プ と 参 照 行 動 に 関 す る デ ー タ 分 析... 171
(1) 発 言 の 分 類 方 法 と 分 析 手 順 ... 171
(2) デ ー タ の 集 計 結 果... 174
(3) 「 位 置 づ け 認 識 」 の 変 化 ... 176
8. 参 照 行 動 に 関 す る 考 察... 177
(1) キ ャ リ ア 系 の 参 照 行 動... 177
(2) メ ー カ ー 系 の 参 照 行 動... 178
(3) 独 立 系 の 参 照 行 動... 179
9. コ グ ニ テ ィ ブ な 戦 略 グ ル ー プ の 変 化 と 参 照 行 動 の 変 化 の 時 間 的 な 関 係 性... 181
10. 小 括... 182
第7章 . 結 論... 185
1. は じ め に... 185
2. 一 般 化 さ れ た 命 題 の 提 示... 185
3. 本 研 究 の 貢 献... 188
4. 実 務 上 の イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン ... 189
5. 本 研 究 の 総 括 お よ び 本 研 究 の 限 界... 191
6. む す び に か え て - 今 後 の 課 題 -... 193
【 付 表 】 イ ン タ ビ ュ ー 質 問 票... 196
【 参 考 文 献 】... 197
【Appendix】 発 言 対 応 付 き 業 界 年 表
コグニティブな戦略グループの相互関係と 経時的変化の研究
- 国 内 ISP 業 界 の 事 例 を 通 じ た 命 題 の 提 示 -
序章
1. 本 研 究 の 主 旨
本 研 究 は競 争 環 境 が変 化 している業 界 で、競 争 優 位 性 を作 り出 すために各 企 業 が 着 目 する資 源 が企 業 によって大 きく異 なるときの、経 営 者 の主 観 的 な業 界 のグルーピン グである「コグニティブ1な戦 略 グループ」の相 互 作 用 と変 化 を、資 源 と戦 略 的 な競 争 行 動 の観 点 から論 じる。本 研 究 で は あ る 業 界 で 、 共 通 的 な 資 源 に 基 づ く 経 営 者 の 主 観 的 ( コ グ ニ テ ィ ブ ) な グ ル ー ピ ン グ と 、 行 動 の 共 通 性 に よ る コ グ ニ テ ィ ブ な グ ル ー ピ ン グ と が 、半 独 立 的 な 関 係 性 を 持 ち つ つ 経 時 的 に 変 化 す る こ と を 、「 資 源 と 行 動 の 相 互 作 用 に よ る 戦 略 グ ル ー プ の 変 化 」 と 呼 ぶ 。本 研 究 はコグニティブ な戦 略 グループの存 在 には一 定 の根 拠 があることを示 しつつ、資 源 と行 動 の相 互 作 用 によりコグニティブな戦 略 グループが変 化 してい くメカニズムに関 して、一 つのモデルを 示 す。
本 研 究 の理 論 的 位 置 づけは、戦 略 グループ論 に関 する資 源 ベースの主 観 的 実 在 論 であり、コグニティブな戦 略 グループの変 化 をケース・スタディによって論 じる「主 観 主 義 的 ・動 的 ・ 記 述 型 」の戦 略 グループ論 である。具 体 的 には資 源 ベー スのコグニティブな 戦 略 グループ(資 源 グループ)から、他 社 戦 略 の参 照 を通 じて、資 源 をまたがる行 動 ベ ースのコグニティブな戦 略 グループ(行 動 グループ)が生 み出 され、新 たな資 源 ベースの 戦 略 グル ープが業 界 内 で共 同 主 観 化 され ていく 過 程 、す なわ ちコグニ ティブな戦 略 グ ループが経 時 的 に変 化 するプロセスに焦 点 を当 てる。
ある業 界 でこの変 化 のプロセスが駆 動 し、グ ル ー プ 性 を 持 つ 競 争 的 な 行 動 が ア ド ホ ッ ク な ア ク シ ョ ン で は な く 、 繰 り 返 し 性 や 持 続 性 を 持 つ こ と で 競 争 優 位 性 に つ な が る 能 力 や 特 徴 的 な 資 源 と な り 蓄 積 さ れ て い く こ と を 、 本 研 究 で は 「 行 動
1 Cognition: the mental action or process of acquireig knowledge through thought, experience, and the sences. (Concise Oxford English Doctionary)日 本 語 で は 「 認 識 」 と い う 訳 語 を 当 て ら れ る こ と が 多 い が 、 本 研 究 で は 語 義 を 損 な わ な い た め に 訳 語 を あ て ず 、
「 コ グ ニ シ ョ ン 」「 コ グ ニ テ ィ ブ 」 と い う 語 を 使 用 す る 。
が 資 源 化 す る 」 と い う 概 念 で と ら え る 。 本 研 究 を 資 源 ベ ー ス 戦 略 論 の 観 点 か ら 説 明 す れ ば 、競 争 的 資 源 の 獲 得 に か か る 動 学 化 研 究 と 位 置 づ け る こ と も で き る 。 す な わ ち 、 あ る 業 界 に 保 有 資 源 の 相 対 的 な 競 争 力 が 異 な る グ ル ー プ が 存 在 し 、 環 境 の 変 化 に よ っ て 資 源 の 競 争 力 が 変 化 し て い く と き に 、 行 動 の 共 通 性 を 有 す る 戦 略 グ ル ー プ が 、 新 た な 競 争 資 源 を 集 団 的 に 獲 得 し て い く プ ロ セ ス と 見 る こ と が で き る 。 な お本 研 究 は、コグニティブな戦 略 グループを研 究 対 象 とするため、この 時 の保 有 資 源 の違 いとは、競 争 の当 事 者 である経 営 者 が競 争 に有 効 であると考 える資 源 の違 いを指 す。
これまでのほとんどの戦 略 グループ研 究 は、戦 略 の概 念 を単 一 事 業 のスコープで扱 っている 。本 研 究 におい てもこの姿 勢 は踏 襲 され 、戦 略 とは単 一 の事 業 について実 務 者 が実 際 に実 行 することが前 提 となっている具 体 的 なレベルのものである。対 象 は個 別 の事 業 単 位 であり、複 数 の異 なる事 業 を並 行 させるような多 角 化 事 業 は対 象 としない。
また、本 稿 における「行 動 」とは「組 織 としての意 思 決 定 に基 づく現 実 への介 入 」を意 味 する。
戦 略 論 には業 界 内 で展 開 される競 争 を、さまざまな軸 によって分 類 するフレームワー クがあるが、戦 略 グループとは業 界 のプレーヤーを戦 略 の類 似 性 によってグルーピング することを一 般 に意 味 する。戦 略 グループ概 念 は1972 年 にM, Huntが 1960 年 代 の 米 国 の大 手 家 電 製 品 業 界 のパフォーマンスに関 する論 文 で導 入 した概 念 で、「各 戦 略 次 元 上 で同 じか、あるいは類 似 の戦 略 をとっている企 業 グループのこと(Porter, 2002, 邦 訳 p.183)」という定 義 や、「それぞれのグループの企 業 間 で、ある戦 略 的 に重 要 な違 いを作 るもの2」(Reger and Huff, 1993)という定 義 が知 られている。
伝 統 的 な戦 略 グループ概 念 は業 界 参 入 を論 じる際 に用 いられることが多 いが、企 業 がgoing concernであるためには、どのような経 営 資 源 を保 有 する企 業 がどの業 界 やど の戦 略 グループに参 入 するかだけでは なく、参 入 後 も競 争 環 境 をよく認 識 し具 体 的 な 戦 略 行 動 に結 び付 けていくことが重 要 である。ただし環 境 の変 化 が早 いと、競 争 優 位 に 資 する要 因 が何 であるかも変 化 しやすい。このとき、ある1時 点 の業 界 構 造 をとらえようと するタイプの戦 略 論 では、環 境 変 化 に適 応 しながら生 き残 っていく企 業 の営 みを論 じる ことができない。移 動 障 壁 をグループの境 界 とし、安 定 的 な業 界 における静 的 なフレー ムワークであると捉 えられがちな戦 略 グループ論 も、競 争 環 境 の変 化 という今 日 的 な課 題 に対 応 する理 論 としての補 強 や発 展 が必 要 であると考 えられる。
一 方 、競 争 環 境 をよく理 解 するという意 味 では、競 争 の当 事 者 は顧 客 を取 り合 う関 係
2 Strategic groups can be defined in a way that allows some strategically important variance among firms within each group. (p.104)
にある他 社 の戦 略 行 動 を常 に観 察 している。この「他 社 戦 略 の参 照 行 動 」を通 じて得 ら れ た経 営 者 の 認 識 が 、自 社 の 意 思 決 定 や 競 争 行 動 に 影 響 を 与 え 、結 果 的 に 業 界 の 勢 力 図 も塗 り替 えていくという変 化 のメカニズムが、本 研 究 における「コグニティブな戦 略 グループと戦 略 的 行 動 の相 互 作 用 」という基 本 的 な想 定 となっている。資 源 はある経 営 行 動 を可 能 にしたり、時 に制 約 したりする。しかし、経 営 者 がどのような行 動 を取 るかの 決 定 は 経 営 者 の主 体 性 に依 存 し、現 在 保 有 している資 源 が何 である かだ けで企 業 の 行 動 を完 全 に説 明 することはできない。企 業 の行 動 というものは、完 全 には資 源 に還 元 できないのである。競 争 環 境 に変 化 がある業 界 を論 じるのに、本 研 究 が経 営 者 のコグニ ションや、資 源 と行 動 によるグルーピングの間 の相 互 関 係 に着 目 する理 由 はここにある。
本 研 究 ではコグニティブな戦 略 グループを、「競 争 の当 事 者 がある共 通 性 に着 目 して 業 界 内 部 をグループ分 けしたもの」と捉 え、「競 争 上 の主 要 な意 思 決 定 や行 動 に違 いを もたらす、資 源 や行 動 などの共 通 性 に着 目 した、経 営 者 の主 観 に存 在 するグルーピン グ」と定 義 する 。本 研 究 はこの 定 義 に立 脚 する ことにより、戦 略 グ ループ 論 を 参 入 後 の 競 争 戦 略 にも適 用 できる理 論 として磨 きをかけようとしている。
戦 略 グループ論 には理 論 の視 座 に関 して一 つの分 岐 点 がある。それは、競 争 に従 事 する経 営 者 の主 観 を分 析 の対 象 として取 り扱 うか否 かという問 題 である。コグニティブな 戦 略 グループ論 は、戦 略 グループは経 営 者 の主 観 に基 づき存 在 するとする視 座 を有 し、
産 業 組 織 論 を直 接 の起 源 とする客 観 主 義 的 な戦 略 グループ論 より少 し遅 れて登 場 して きた。本 研 究 がベース理 論 とするコグニティブな戦 略 グループ論 は、Porter等 の経 営 者 の認 識 を考 察 対 象 としない研 究 とは視 座 が異 なるタイプの研 究 である。
競 争 環 境 の分 析 者 は時 として競 争 の当 事 者 である経 営 者 でもあるにも関 わらず、あ る種 の戦 略 グループ研 究 が経 営 者 の主 観 問 題 を全 く取 り扱 わず、戦 略 グループを経 営 者 の意 識 とは無 関 係 に設 定 していることへの違 和 感 が、本 研 究 をコグニティブな戦 略 グ ループ論 に向 かわせるモチベーションの一 つとなっている。競 争 行 動 に係 る意 思 決 定 が、
経 営 者 の認 識 するところにしたがって行 われるのだとすれば、そしてまた、その認 識 の一 部 は 他 社 の戦 略 行 動 の観 察 を 通 じて形 成 されるのだと すれば 、業 界 内 の構 造 を 示 す 戦 略 グループの「実 在 性 」と経 営 者 の認 識 はどのように関 わりあうのだろうかという議 論 を 避 けて通 ることはできないと考 えている。
本 研 究 におけるリサーチクエスチョンは、経 営 者 の認 識 の中 にあると言 われているコグ ニティブな戦 略 グループはどのような形 で存 在 し、資 源 の共 通 性 に着 目 されたグルーピ ングは競 争 環 境 の変 化 の中 で競 争 的 行 動 を通 じ、どのようなプロセスで変 化 するのかと いうことである。コグニティブな戦 略 グループの存 在 およびグループ変 化 の例 証 を、経 営 者 インタビューに基 づくケース・スタディによって行 い、一 般 化 された命 題 を提 示 すること を目 指 している。
競 争 戦 略 論 と しての戦 略 グ ルー プ論 に は 、概 念 を 通 じて企 業 の 戦 略 行 動 に 関 す る 理 論 的 な説 明 がなされることが期 待 されるにもかかわらず、実 際 にはどの研 究 にも検 討 不 十 分 な部 分 があり、戦 略 グループは研 究 者 による分 類 のための便 宜 的 ツールに過 ぎ ないのではないか(Barney,2002 他)という批 判 を受 ける状 態 が続 いている。戦 略 グルー プにはそれが本 当 に存 在 するのかどうかという実 在 論 の外 側 に、2 つの大 きな概 念 の混 乱 があり、このことが戦 略 グループ論 の説 明 概 念 や議 論 をわかりにくくしているのではな いかと思 われるふしがある。一 つは前 述 の、経 営 者 の認 識 を考 察 の対 象 にするか否 かと いう視 座 の問 題 、もう一 つは保 有 資 源 や競 争 行 動 、競 争 の成 果 としてのパフォーマンス などをめぐる説 明 対 象 の混 乱 である。これについて本 研 究 は、先 行 研 究 のレビューや事 例 分 析 を通 じて、混 乱 する戦 略 グループ論 に関 して一 つの解 明 の道 筋 を示 す。具 体 的 には、経 営 者 の心 中 に競 争 に役 立 つと想 定 する資 源 をキーにしたグルーピング(資 源 グ ループ)がある時 、参 照 行 動 はグループにより異 なること、そして「資 源 の共 通 性 に着 目 したコグニティブな戦 略 グループ」(資 源 グループ)と「行 動 の共 通 性 に着 目 したコグニテ ィブな戦 略 グループ」(行 動 グループ)が相 互 に影 響 し合 いながら変 化 することを論 じる。
キー概 念 は「経 営 者 による他 社 戦 略 の参 照 行 動 」である。本 研 究 ではまず戦 略 グルー プ 論 をめ ぐる視 座 の 混 乱 につい て、これまでの戦 略 グ ルー プ 研 究 を 研 究 の型 に よっ て 一 旦 整 理 する。これを通 し本 研 究 は、コグニティブな戦 略 グループの変 化 を論 じる記 述 型 の研 究 はいまだ手 薄 であり、これを補 強 していくことが戦 略 グループ理 論 の発 展 に有 効 であるという理 解 に立 ち、自 らを「主 観 主 義 的 ・動 的 ・記 述 型 」の戦 略 グループ論 と位 置 づける。
本 研 究 で提 案 する、参 照 行 動 を通 じたコグニティブな資 源 と競 争 行 動 に関 する戦 略 グループについての一 般 化 された命 題 は以 下 の5つである。
■コグニティブな戦 略 グループの存 在 に関 する命 題
命 題 1: 経 営 者 の心 中 には、資 源 の共 通 性 で競 合 を識 別 したグルーピング(コグニ ティブな資 源 グループ)が存 在 する
■コグニティブな戦 略 グループが与 える影 響 に関 する命 題
命 題 2:グループ間 の保 有 資 源 が大 きく異 なる時 、各 グループへの参 照 は互 いに不 均 等 に行 われ、コグニティブな資 源 グループは、他 社 戦 略 の参 照 行 動 の違 いに影 響 す る
命 題 3: 経 営 者 は参 照 行 動 を通 じて、競 合 しながらも仲 間 性 を見 出 す企 業 とそうで
ない企 業 とを識 別 する(参 照 点 としての戦 略 グループ)
■コグニティブな戦 略 グループの変 化 に関 する命 題
命 題 4: 仲 間 性 の認 識 は保 有 資 源 に関 わらず獲 得 され、協 調 的 に戦 略 的 行 動 を起 こす行 動 ベースのコグニティブなグルーピングを形 成 し、その他 の強 く競 合 すると考 える 企 業 との差 異 を作 り出 す行 動 を起 こす(行 動 ベースのコグニティブ戦 略 グループの創 造 と移 動 )
命 題 5: 行 動 グループのパフォーマンスが市 場 で顕 在 化 し、ある程 度 の期 間 持 続 的 な競 争 力 を発 揮 した時 、そのグループは新 たな資 源 を有 する戦 略 グループとして業 界 内 で認 知 され、共 同 主 観 として安 定 化 する。
事 例 からは、ある企 業 のコグニティブな戦 略 グループが他 社 の戦 略 参 照 行 動 を通 じ て経 時 的 に変 化 し、やがて新 たな戦 略 グループが生 成 されることが読 み取 れる。企 業 が ある安 定 期(t=0)に競 争 資 源 に着 目 しながらプレーヤーを分 類 するとき、そのグループと は移 動 障 壁 と なる資 源 による「資 源 ベー スのコグニティブ な戦 略 グ ルー プ(資 源 グ ルー プ)」を指 している。このグルーピングは業 界 内 で競 合 に関 する情 報 が流 通 することで、
ある程 度 の共 同 主 観 化 が進 む(t=1)。
競 争 力 を生 み出 す環 境 が変 化 する業 界 ではやがて、当 初 の資 源 グループの境 界 を 越 えて仲 間 性 を認 め合 い、協 調 的 に競 争 行 動 を起 こすことを企 図 する「行 動 ベースの コグニティブな戦 略 グループ(行 動 グループ)」が新 たに生 まれる(t=2)。
コグニティブな戦 略 グループは、ある程 度 の時 間 をかけてメンバー間 でのパーセプショ ンの共 有 とグループ認 識 の形 成 が進 むと考 えられる。上 記 の行 動 グループがその他 の 競 合 への差 異 化 行 動 を共 通 的 ・協 調 的 に繰 り返 すうちに、実 行 された行 動 が市 場 で存 在 感 やパフォーマンス を 顕 在 的 に発 揮 すれば、グループは仲 間 内 だけでなくグループ 外 のプレーヤーからも、ある一 定 の競 争 力 を有 したグループとして認 知 されることになる (t=n)。この競 争 力 が一 過 性 で なくある程 度 の期 間 持 続 すれば、それは 新 たな持 続 的 競 争 力 となる資 源 を有 する資 源 グループとして、業 界 内 で安 定 化 していくと考 えられる (t=n+1)。
2. 研 究 の 背 景
競 争 戦 略 論 では一 般 に競 争 優 位 の根 拠 は業 界 内 でのポジショニングあるいは保 有 資 源 がベースになることが多 いが、このとき経 営 者 のコグニションがそれにどのように関 わ っているかは考 察 のスコープから捨 象 されがちである。実 際 のビジネスの世 界 では似 た
ような経 営 資 源 を有 している企 業 同 士 が異 なる戦 略 行 動 をとる場 合 もあれば、異 なるバ ックグラウンドと経 営 資 源 を有 する企 業 が同 じ土 俵 で顧 客 を取 り合 っている場 合 もある。
Miles and Snow(1978)が主 張 したように、経 営 者 は「自 社 の戦 略 を裁 量 的 に選 択 できる」のだとすれば、経 営 者 はどのように競 合 を理 解 し、その理 解 を戦 略 に役 立 てるの だろうか。経 営 とは人 の知 識 や考 えを抜 きには語 れない活 動 であるにも関 わらず、経 営 者 の 競 争 環 境 に 対 する関 心 や 認 識 の中 身 に 興 味 を 示 す 戦 略 論 研 究 は、意 外 なほ ど 少 なく思 われる。これまで競 争 戦 略 論 の領 域 では業 界 の競 争 分 析 をするためのツール が様 々に提 案 されてきた。しかし、企 業 の外 部 者 視 点 のツールによる分 析 だけでは、競 争 の当 事 者 が競 合 する他 社 をどのようにして捉 えているのかは読 み解 けないし、彼 (彼 女 )らによって駆 動 される戦 略 行 動 との間 でそれがどういう働 きをするのかは、なおさらわ からない。伝 統 的 な戦 略 グループ論 においては、業 界 内 に保 有 資 源 による移 動 障 壁 が 存 在 すれば、その業 界 には戦 略 グループが存 在 すると通 念 的 に考 えられている。しかし もし、その資 源 の競 争 力 が通 用 しなくなるほどに市 場 の環 境 が変 化 するとしたら、その戦 略 グループはどうなってしまうのかということや、戦 略 の主 体 である経 営 者 たちはどのよう に振 る舞 うのかというようなことも、ほとんど研 究 の俎 上 には上 ってこなかったように思 われ る。
戦 略 グループ研 究 は経 営 者 の主 観 を考 察 の対 象 とするかしないかで大 きく研 究 の型 が分 かれる。経 営 者 の主 観 を考 察 対 象 としない客 観 主 義 型 の研 究 では、 各 戦 略 次 元 上 で同 じか類 似 の戦 略 をとっている企 業 グルー プのこと3を「戦 略 グルー プ」と呼 び、主 に同 一 業 界 内 の企 業 の収 益 性 の違 いを参 入 障 壁 という概 念 を使 って説 明 を試 みようと している。一 般 的 に参 入 障 壁 は保 有 資 源 の違 いによって形 作 られ、保 有 資 源 の違 いは 戦 略 の違 いを作 り出 すと言 われているが、実 際 には企 業 は似 たような資 源 を保 有 してい ても同 様 の戦 略 行 動 をとるとは限 らないし、同 じ戦 略 グループに属 していると考 えられる 企 業 でもパフォーマンスが異 なる場 合 があることの説 明 は十 分 にはされていない。また、
ある業 界 の特 定 の時 期 はそう分 けられるだけだといういわゆる「静 的 スナップショット批 判 」 や、「戦 略 グループは単 なる分 析 上 の都 合 」(Hatten and Hatten, 1987)、「単 なる計 算 の結 果 得 られた人 為 的 カテゴリーに過 ぎない」(Barney, 2002)といった「便 宜 的 ツー ル論 」に対 して、いまだ十 分 な反 論 を用 意 できていないという課 題 もある。戦 略 グループ についての結 論 や評 価 が研 究 によってばらついており、完 全 に説 明 しきれたといえる状 態 には至 っていないのは 、産 業 組 織 論 による決 定 論 的 アプローチに依 存 しすぎて、実 際 に戦 略 行 動 を決 定 し実 行 する意 思 決 定 権 者 の分 別 、環 境 解 釈 、影 響 力 といった内 発 的 な要 因(Mascarenhas,1989)への踏 み込 み方 が不 足 していること があると思 われ る。
3 Porter(1980)に よ る 。
一 方 で 1980 年 代 後 半 に、人 の主 観 的 側 面 に焦 点 を当 てる戦 略 グループ研 究 が登 場 した。戦 略 グループは各 々の経 営 者 のマインドの中 に心 理 的 に存 在 するものだとする コグニティブな視 座 を持 つ研 究 である。当 事 者 が、自 己 の置 かれた環 境 をモデル化 する ことで分 析 や解 釈 をしようとしたとき、業 界 にはグループ性 が発 生 する。戦 略 担 当 者 の競 争 環 境 や競 争 相 手 についての認 識 は、個 々の企 業 の戦 略 がユニークであるかとか、全 ての企 業 の戦 略 が似 ているかどうか(似 ていない)を知 覚 するというのではなく、むしろグ ル ー プ 構 造 に よ っ て 企 業 の 特 徴 づ け を す る こ と で 認 識 が 形 成 さ れ る(Reger &
Huff ,1993)というわけである。
競 争 する組 織 や環 境 に対 する企 業 の認 識 と、競 争 への対 応 をグループ概 念 で実 証 的 に説 明 しようとした初 期 の研 究 にはPorac, Thomas and Baden-Fuller(1989)があ る。この研 究 では、戦 略 行 動 には企 業 が個 別 に生 み出 す企 業 レベルの戦 略 行 動 と、似 たような条 件 を持 ついくつかの企 業 に競 争 圧 力 がかかることで引 き出 されてくる構 造 的 なグループレベル戦 略 行 動 の2種 類 があり、これらの構 造 を両 方 理 解 して初 めて競 争 と いうものが理 解 できると考 えている。このとき、個 々の経 営 者 のメンタルモデルとグループ レベルの認 識 の繋 ぎとなるのが、業 界 内 の共 同 主 観 である。Reger & Huff (1993)は、
業 界 内 での情 報 流 通 が、現 在 および将 来 への期 待 の解 釈 の共 通 化 を促 進 すると考 え た。また、同 業 他 社 を継 続 的 に観 察 ・参 照 することで、参 照 グループを同 じグループで あるとの符 号 化 (encode)が起 こり、業 界 内 で相 対 的 に静 的 なコグニティブグループ化 が進 むと考 えたのはPeteraf and Shanley(1997)である。
戦 略 グループ論 全 体 に対 する批 判 や課 題 の他 に、経 営 者 のコグニションをベースに した 主 観 主 義 的 な戦 略 グ ルー プ論 に 特 有 の 課 題 もある 。コグ ニ ティブ な戦 略 グ ルー プ 論 では、ある業 界 における企 業 のパフォーマンスを最 もよく説 明 するグルーピングが、客 観 的 に一 つだけ存 在 するという考 え方 をとらない。このため、コグニティブな戦 略 グルー プ概 念 が経 営 戦 略 に対 してどのような意 味 を持 つ概 念 なのかがわかりにくい。また、グル ープの識 別 方 法 に所 定 の手 続 きはなく、経 営 者 が戦 略 グループを分 ける基 準 となる戦 略 次 元 には、資 源 の共 通 性 以 外 に、行 動 の共 通 性 にあたるものが使 用 されることもある。
このような、概 念 そのものや戦 略 次 元 の使 用 に曖 昧 さゆえに、コグニティブな戦 略 グルー プ論 には企 業 の競 争 戦 略 に対 する示 唆 に、今 一 つはっきりと確 立 されたものがないよう にも見 える。さらに言 えば、ある業 界 にコグニティブな戦 略 グループが存 在 したとして、そ れが、誰 にとってどのような意 味 があるのかということの検 討 や、時 につれてグループが変 化 することについての議 論 は十 分 とは言 えない。
3. 研 究 の 目 的
本 研 究 は 、混 乱 する戦 略 グループ論 の「実 在 」に関 する課 題 の一 端 を解 決 し、他 社
戦 略 の 参 照 行 動 を 行 う 経 営 者 の 主 観 的(コグニティブ)な グ ル ー ピ ン グ が 、資 源 と 競 争 行 動 の 相 互 関 係 を 通 じ て 変 化 し て い く メ カ ニ ズ ム の 解 明 を す る こ と に よ っ て 、 戦 略 グ ル ー プ 理 論 の 動 学 化 に 貢 献 す る こ と を め ざ す も の で あ る 。
そ の た め に 、本 研 究 は大 きくは 2 つの目 的 を持 つ。1 つ目 は競 争 の現 場 には各 社 の保 有 資 源 や戦 略 行 動 といった、企 業 のある共 通 性 への着 目 による経 営 者 のコグニテ ィブなグルーピングが存 在 することを例 証 すること、2つ目 は他 社 戦 略 の参 照 行 動 とその 変 化 を通 じて、経 営 者 の主 観 によるグルーピングが新 たな戦 略 グループを生 み出 し、変 化 していくメカニズムに関 する一 つのモデルを示 すことである。
第 一 の 目 的 は 、 言 い 換 え れ ば 、分 析 者 がツールを用 いて人 為 的 に業 界 を分 類 し た便 宜 的 なグルーピングとは異 なる戦 略 グループが存 在 することに一 定 の根 拠 を示 し、
戦 略 グループの実 在 論 を支 持 する根 拠 を示 すことである。理 論 的 には、まず客 観 主 義 的 戦 略 グループ論 と主 観 主 義 的 戦 略 グループ論 を分 離 する。その上 で、経 営 者 による 心 理 的 なグルーピングには、資 源 の共 通 性 に着 目 したコグニティブな戦 略 グループと行 動 の共 通 性 に着 目 したコグニティブな戦 略 グループが両 方 存 在 し得 ることを示 す。本 研 究 はコグニティブなグルーピングは同 時 に複 数 存 在 し得 ることを支 持 しつつも、経 営 者 がある時 点 で何 の共 通 性 に着 目 してグルーピングをしているのか、そしてそれが何 に変 化 していくのかを明 らかにする。
第 二 の目 的 のために、具 体 的 には以 下 の二 つのことを行 う。
2-① コグ ニティ ブな戦 略 グループの 変 化 の メカニズムの前 提 には 、他 社 戦 略 の参 照 行 動 があるということの実 証 的 な確 認 を行 う。競 争 変 化 が比 較 的 早 いタームで起 こる 業 界 では、動 きの少 ない安 定 的 な業 界 以 上 に、それぞれの企 業 がどのような資 源 を活 用 し、生 き残 りのポジションを確 立 していくための行 動 を素 早 く決 定 する必 要 に強 く迫 ら れる。当 事 者 の代 表 である経 営 者 は競 争 環 境 を 特 によく理 解 し、タイミン グよく具 体 的 な戦 略 に落 とし込 んでいくことが求 められるため、同 じ顧 客 を取 り合 う関 係 にある他 社 の 戦 略 行 動 を常 に観 察 していると思 われる。しかし競 争 環 境 の変 化 が早 い業 界 では、何 が競 争 優 位 性 をもたらす資 源 なのかをあらかじめ特 定 することは難 しい。仮 に特 定 でき たとしても、安 定 的 な業 界 のように時 間 をかけて調 達 蓄 積 することは状 況 が許 しにくく、
陳 腐 化 もしやすい。そのためこのような業 界 では、競 争 優 位 性 の確 立 のために何 に着 目 するかがプレーヤーによって大 きく異 なる可 能 性 が高 く、競 合 する他 社 の戦 略 的 な行 動 を参 照 し、経 営 者 がどのような考 えのもとで戦 略 行 動 をとろうとするかを考 察 することが意 味 を持 つだろう。
企 業 経 営 の中 枢 である経 営 者 のコグニションは、当 該 企 業 の競 争 行 動 に少 なからぬ 影 響 を与 える要 素 の一 つと考 えられるが、コグニションは実 体 験 および競 争 環 境 の観 察 によって形 成 されると考 えられる。だが現 実 には経 営 者 は自 らの知 識 に制 約 されつつ、
自 らと意 思 決 定 に関 与 する人 々の認 識 するものごとに依 存 しながら意 思 決 定 を行 うしか ない(加 護 野,1988)という限 界 もある。経 営 者 の競 争 環 境 の認 識 努 力 は必 然 的 に真 剣 味 を帯 びざるを得 なくなるだろう。経 営 者 は複 雑 で変 化 の激 しい環 境 で事 業 展 開 してい るときほど視 界 の隅 々にまで目 配 りする(「戦 略 の視 力 検 査 」ジョージ・デイ、ポール・シュ ーメーカー, DHBR2009.06)とされるのも、肯 首 すべき成 り行 きである。本 研 究 は、経 営 者 のコグニションと競 争 行 動 との関 係 性 を論 じる初 手 として、経 営 者 による他 社 の戦 略 の参 照 行 動 に接 近 する。
2-② コグニティブな戦 略 グループが資 源 と競 争 行 動 の相 互 関 係 を通 じて変 化 して いくことを実 例 で示 す。本 研 究 では、競 争 環 境 が変 化 するとき、競 争 の当 事 者 である経 営 者 の主 観 的 なグルーピングが、他 社 戦 略 の参 照 行 動 を通 じて競 争 行 動 に影 響 を与 え、新 たな戦 略 グループが作 り出 される要 因 となることを例 証 し、そのメカニズムをモデル 化 する。す なわち、資 源 ベースのコグニティブな戦 略 グループ (後 述 )が他 社 戦 略 の参 照 を通 じて、資 源 をまたがる行 動 ベースの戦 略 グループに変 化 し、新 たな資 源 ベースの 戦 略 グループが生 成 され、それが業 界 内 で共 同 主 観 化 されていくプロ セスをモデル化 する。本 研 究 は、資 源 と行 動 とは関 係 しつつも資 源 が行 動 を規 定 するパターンは必 ずし も一 致 しないことおよび 、行 動 から資 源 への影 響 の経 路 が存 在 し得 ること を主 張 する。
(このことは、保 有 資 源 が行 動 とパフォーマンスを規 定 するとする、一 方 向 に固 定 的 なパ ラダイムに一 石 を投 じるという意 味 もある。)
以 上 の作 業 は以 下 のように、「戦 略 グ ル ー プ 理 論 の 動 学 化 」 に 貢 献 す る 。
まず、本 研 究 を戦 略 グループの成 立 過 程 の考 察 に役 立 つことである。これまでのコグ ニティ ブな戦 略 グ ルー プ 論 は理 念 的 な提 示 がほ とんどで 、グ ループの 形 成 と変 化 を連 続 的 かつ実 証 的 に論 じた研 究 が極 めて少 ない。戦 略 グループ論 の分 類 は2章 で詳 しく 行 うが、本 研 究 は主 観 主 義 的 で動 的 な戦 略 グループ論 に属 し、記 述 的 な方 法 により戦 略 グループの変 化 のメカニズムを説 明 する型 の研 究 である。
コグニティブな戦 略 グループの変 化 は、他 社 戦 略 の参 照 行 動 によって環 境 や、保 有 資 源 の競 争 力 の変 化 を 経 営 者 が 認 識 し、それ を 戦 略 構 想 の意 識 の中 に 取 り込 む こと が前 提 となると考 えられる。業 界 内 で企 業 が同 じ顧 客 を取 り合 う状 況 下 では、コグニティ ブ な資 源 グ ル ープの 内 にも 外 にも 参 照 対 象 は存 在 し、新 たな脅 威 が現 れれば 参 照 の 範 囲 や対 象 はさらに広 がるだろう。そのような対 象 の中 から、ある新 たな優 位 性 をもった 企 業 のグループの認 識 が確 立 されれば、それもまたある特 徴 的 な資 源 や能 力 を持 った 新 たなコグニティブな戦 略 グループとして成 立 することが示 唆 できると考 える。
次 に、戦 略 グループ論 の資 源 ベース戦 略 論 からの接 近 である。戦 略 グループ論 には、
グループの境 界 は保 有 資 源 の違 いであり、グループは移 動 障 壁 に基 づき識 別 されるべ
きだ(Mascarenhas and Aaker,1989)という見 かたがある。資 源 障 壁 の概 念 を間 には さんで、一 般 的 にはポジショニングアプローチに属 すると言 われる戦 略 グループ論 にも資 源 ベース戦 略 論 との接 合 点 がある。競 争 環 境 が変 化 すれば、時 につれて競 争 優 位 性 に資 する資 源 が何 である かもまた変 化 するだろうという着 想 は、比 較 的 容 易 である。本 研 究 では、基 本 的 には資 源 が戦 略 行 動 に影 響 するという文 脈 を保 ちながら議 論 の深 耕 を試 みる。本 研 究 の縦 の軸 が主 観 主 義 的 な戦 略 グループ論 とすれば、横 の軸 にあるの は資 源 ベース戦 略 論 的 なアプローチである。戦 略 グループが変 化 する過 程 で、新 たな 資 源 蓄 積 のモーメントが示 されることは、「初 めに資 源 ありき」型 の資 源 ベース戦 略 論 に も動 学 化 の光 を投 げかけるものとなるだろう。資 源 と行 動 の戦 略 グループの存 在 と相 互 の関 係 性 を明 らかにすることは、Priem & Butler(2001)による「何 が競 争 に有 効 な資 源 であるかは、後 から理 由 づけられたものに過 ぎないのではないか」という、資 源 ベース 戦 略 論 の後 付 け批 判 に対 抗 する理 論 的 な補 強 となる。
4. 研 究 の 方 法 と 解 題 の ス テ ッ プ
本 研 究 の理 論 的 なバックボーンが主 観 主 義 に立 脚 したコグニティブな戦 略 グループ 論 であることは前 述 のとおりで、経 営 者 の心 理 の中 に存 在 すると言 われているコグニティ ブな戦 略 グループはどのように存 在 しているのか、さらに経 営 者 のコグニションと戦 略 グ ループの変 化 の説 明 を、モデル化 し一 般 的 な命 題 の形 で示 すことに取 り組 む。本 研 究 はコグニションという、外 部 からの観 察 だけでは伺 い知 ることができない内 面 的 な問 題 を 取 り扱 うため、経 営 者 の認 識 している事 実 や事 柄 に対 して接 近 する必 要 がある。よって 経 営 者 へのインタビュー調 査 を伴 うケース・スタディによる質 的 な分 析 を行 う研 究 方 法 を 採 用 する。
研 究 の 方 法 の 選 択 に つ い て 、Yin(1996)は 「 ど の よ う に 」 と い う 問 題 形 態 を 有 し 、 現 在 の事 象 に対 する研 究 者 側 から の 制 御 の 必 要 性 が な い 課 題 で 、 さ らに 命 題 を 開 発 す る こ と を 目 的 とす るよ うな課 題 に 取 り 組 む 研 究 は 、 ケ ー ス ・ ス タ デ ィ に よ る の が よ い と し て い る4。 コ
グニティブな戦 略 グループ論 は、概 念 的 な提 示 は既 になされてきたが、実 証 的 な基 盤 は
4 Yin(1984)、 邦 訳 新 装 版(2014, p.7,図 表 1.1)
(序-表1) 嶋口(2009)によるケース・スタディの類型と研究の進行方向
探索的 検証的
記述的
記述型 ケース・スタディ
ー
説明的 理論産出型
ケース・スタディ
理論検証型 ケース・スタディ
(研究の進行方向を示す矢印は筆者加筆)
未 だ脆 弱 であると言 わざるを得 ない。したがって、「コグニティブな戦 略 グループはどのよ うに存 在 し、どのように変 化 するのか」という問 いには、現 実 の世 界 で実 際 にどのようなこ とが起 こっているのかを示 すことができる、ケース・スタディを以 て応 えるべきであろう。ま た嶋 口 他(2009)は、Yin(1996)に依 拠 しつつ、さらに方 法 を 3 つに分 けるという類 型 の 精 緻 化 を行 っている。これによれば、「何 が起 きているのか」という問 いかけから開 始 され、
現 象 における「どのように」という説 明 の開 発 へと進 められる研 究 は、現 象 を記 述 すること を目 的 とする「探 索 的 ・記 述 的 ケース・スタディ」から出 発 し、現 実 のデータと対 話 しなが ら浮 上 してくる現 実 的 な理 論 (グラウンデッド・セオリー)の構 築 を目 指 す、「探 索 的 ケー ス・スタディ」から「探 索 的 ・説 明 的 ケース・スタディ」の順 に進 められていくことが望 ましい と考 えられている5(序-表 1)。このことから、戦 略 グループは「どのように」存 在 しているの かから出 発 し、経 時 的 な変 化 は「どのようであるか」ということを一 般 命 題 化 するには、
①ある業 界 を例 に取 り、何 が起 こったのかという事 象 を記 述 する
②記 述 された内 容 から、グラウンデッド・セオリー・アプローチに依 拠 した質 的 データ分 析 を行 う
という、2 段 構 えの方 法 を用 いることが適 当 と考 えられる。
今 日 的 な競 争 環 境 では、複 数 の企 業 が異 なる 資 源 を有 しながら顧 客 獲 得 競 争 を展 開 している状 況 は珍 しくない。むしろ競 合 企 業 の保 有 資 源 が常 にほぼ同 等 であることを 前 提 とした競 争 戦 略 論 は、あまり実 践 的 な示 唆 をもたらさないのではないかという懸 念 が ある。このため、本 研 究 は競 争 環 境 の変 化 が起 こる業 界 で、各 企 業 (経 営 者 )が競 争 優 位 性 を作 り出 すために着 目 する資 源 が大 きく異 なる状 況 を前 提 とする。本 研 究 は「戦 略 グループとは保 有 資 源 の違 いが主 要 な差 別 化 要 因 を何 にするのかの意 思 決 定 や行 動 に違 いをもたらすグルーピングである」という定 義 のもとで、競 争 環 境 に比 較 的 早 い変 化 があり、競 争 に有 効 とされる資 源 の分 布 が極 端 に大 きく、また外 部 観 察 によってもある程 度 グループ性 が認 められるという文 脈 を持 つ代 表 事 例 を求 め、そのケース・スタディを行 う。すなわち、国 内 のコンシューマー向 けISP(Internet Service Provider)事 業 の、業 界 創 成 期 から約 20 年 間 の顧 客 獲 得 競 争 の軌 跡 を事 例 として採 用 し6、コグニティブな 戦 略 グループ論 の前 進 を目 指 す。
以 下 は本 研 究 全 体 のおおまかな流 れである。
はじめに先 行 研 究 の分 類 および主 要 な構 成 概 念 についてレビューを行 い、戦 略 グル ープ論 をめぐる論 点 の整 理 を行 う。そこでは経 営 者 の認 識 や参 照 行 動 に関 する概 念 設 定 を行 うほか、現 在 の戦 略 グループ論 には主 観 主 義 的 か客 観 主 義 的 という視 座 の違 い
5 嶋 口 他(2009, p.119)図 表 2
6 嶋 口 他(2009, p.133)、 田 村(2006, p.81)
や、グループ識 別 の基 準 となる資 源 や行 動 のとらえ方 に混 乱 があることに触 れる。そのう えで、本 研 究 がこれまでに十 分 な研 究 が進 んでいるとは言 いにくい、主 観 主 義 的 でグル ープの変 化 を論 じる動 的 なタイプの戦 略 グループ論 を深 めていくことを宣 言 する。
次 に、競 争 当 事 者 を代 表 する経 営 者 の主 観 的 なグルーピング(コグニティブな戦 略 グ ループ)が存 在 すること、その主 観 的 なグルーピングが経 時 的 に変 化 すること、その変 化 の前 段 には経 営 者 の他 社 戦 略 の参 照 行 動 にも変 化 があることを、ケース・スタディによ って確 認 する。ケース・スタディで取 り扱 う方 法 は、本 業 界 における競 争 の史 的 記 述 およ び、複 数 の経 営 者 のインタビュー調 査 の質 的 分 析 の2段 構 成 となる。具 体 的 にはコグニ ティブな戦 略 グループの存 在 と継 時 的 変 化 は、インタビューで得 た情 報 および、各 社 の プレスリリースや 記 事 等 の公 開 資 料 に基 づく事 例 の記 述 によっ て確 認 され、参 照 行 動 の確 認 はグラウンデッド・セオリー・アプローチによるインタビューデータの質 的 分 析 によ って確 認 される。
インタビューは国 内 大 手 ISP の役 員 または経 営 意 思 決 定 に直 接 関 与 できる立 場 に あった人 に対 する、対 面 の半 構 造 化 質 問 による聞 き取 り調 査 である。インタビュー調 査 は予 備 調 査 と本 調 査 の 2 段 階 で行 われる。予 備 調 査 で 2 社 のプレインタビューを実 施 し、経 営 者 の意 識 の内 には何 らかの形 で業 界 内 の企 業 についてのグループ認 識 (本 研 究 ではプレーヤーマップと呼 ぶ)があることを確 認 し、次 に 12 社 に対 する本 調 査 に臨 む。
以 上 の手 続 きを踏 みながら、コグニティブな戦 略 グループが他 社 戦 略 の参 照 を通 じて変 化 し、新 たな戦 略 グループが生 成 されていく過 程 についての結 論 を導 き出 す。
解 題 のステップを箇 条 書 きにして示 せば以 下 のようになる。嶋 口 他(2009)による分 類 を用 いて言 うならば 、お およそ①から⑤までが「探 索 的 ・記 述 的 ケース ・ スタディ」、⑥以 降 がグラウンデッド・セオリー・アプローチに依 拠 した「探 索 的 ・説 明 的 ケ ース・スタディ」
にあたる。
① 先 行 研 究 レビューによる異 なるパースペクティブの戦 略 グループ論 の分 類 をする
② 戦 略 グループ論 の論 点 整 理 をし、本 研 究 における概 念 設 定 をする
③ コグニティブ な戦 略 グル ープについて、資 源 を 基 準 に識 別 されたグルーピ ングと 実 行 された戦 略 行 動 を基 準 に識 別 されたグルーピングに分 けて考 えることを提 案 する
④ 国 内 のコンシューマー向 けISP 事 業 の史 的 記 述 をする
⑤ 経 営 者 への プ レ イン タ ビュ ーに 基 づ き 、コ グニ ティブ な戦 略 グル ー プと 経 営 者 が 任 意 に描 くプレーヤーマップとの概 念 的 な違 いを明 確 にする
⑥ 本 調 査 のデータ分 析 を実 施 する
⑦ コグニティ ブ な戦 略 グル ープの経 時 的 変 化 に関 する検 討 および 、一 般 化 された
命 題 の提 示 をする
5. 本 研 究 の 構 成
本 研 究 の構 成 は以 下 の通 りである。
序 章
1. 本 研 究 の主 旨 2. 研 究 の背 景 3. 研 究 の目 的
4. 研 究 の方 法 と解 題 のステップ 5. 本 研 究 の構 成
第 1章 .戦 略 グループ論 の今 日 的 意 義 の検 討 1. はじめに
2. 戦 略 グループ論 の黎 明
3. 伝 統 的 な戦 略 グループ論 の論 点 4. 日 本 の戦 略 グループ研 究
5. 戦 略 グループ論 に残 されている課 題
6. 小 括 :戦 略 グループ論 の発 展 に向 けての着 眼
第 2章 先 行 研 究 と戦 略 グループ論 をめぐる論 点 整 理 1. はじめに
2. 異 なる視 座 の戦 略 グループ論 と説 明 概 念 -客 観 主 義 型 と主 観 主 義 型- 3. 2 軸 による戦 略 グループ論 の研 究 類 型 の検 討
4. 3 軸 による戦 略 グループ論 分 類 とその意 義 5. 小 括 およびディスカッション
第 3章.コグニティブな戦 略 グループ論 の深 耕 と論 点 整 理 1. はじめに
2. コグニティブな戦 略 グループ論 が準 拠 する理 論 3. コグニティブな戦 略 グループをめぐる論 点 4. 戦 略 次 元 における資 源 と行 動
5. 参 照 行 動 に関 する基 本 的 想 定 および構 成 要 素 の検 討 6. 小 括
第 4章. 事 例 の選 定 および予 備 調 査 -経 営 者 インタビューを通 じたプレーヤーマッ プに関 する考 察 -
1. はじめに 2. 事 例 の選 定
3. 予 備 調 査 としてのインタビュー 4. 予 備 調 査 のfindings
5. 戦 略 グループ概 念 との比 較 によるプレーヤーマップの考 察 6. 本 調 査 に向 けての示 唆
7. 小 括
第 5 章 国 内 のコンシューマー向 け ISP 事 業 の顧 客 獲 得 競 争 に関 する経 営 者 の認 識 と事 業 行 動 の記 述
1. はじめに
2. インタビューの実 施 概 要
3. 国 内 の商 用 インターネット接 続 サービスの創 成 4. キャリア系 ISP 参 入 と最 初 の敗 退 者
5. 「メーカー系 」のケース 6. DTI のケース
7. ASAHI ネットのケース 8. @nifty の先 行 戦 略 9. ASAHI ネット 10. IIJ
11. 常 時 接 続 ブロードバンドの時 代 12. 電 話 会 社 の代 理 戦 争 IP 電 話 セット 13. 資 本 政 策 と ISP 統 合
14. 光 アクセスの時 代
15. 誰 をどのように認 識 していたのか 16. 小 括
第 6 章 .他 社 戦 略 の参 照 行 動 とコグニティブな戦 略 グループ -データ分 析 と分 析 結 果 -
1. はじめに
2. インタビューの実 施 3. インタビューの分 析
4. 観 察 される事 実
5. 参 照 行 動 および新 たなグループの形 成
6. コグニティブな戦 略 グループの存 在 についての結 論
7. コグニティブな資 源 グループと参 照 行 動 に関 するデータ分 析 8. 参 照 行 動 に関 する考 察
9. コグニティブな戦 略 グループの変 化 と参 照 行 動 の変 化 の時 間 的 な関 係 性 10. 小 括
第 7章 .結 論 1. はじめに
2. 一 般 化 された命 題 の提 示 3. 本 研 究 の貢 献
4. 実 務 上 のインプリケーション
5. 本 研 究 の総 括 および本 研 究 の限 界 6. むすびにかえて-今 後 の課 題 -
【付 表 】
・インタビュー質 問 票
【参 考 文 献 】
【Appendix】
・図 表
・発 言 対 応 付 き業 界 年 表
(序-図1) 論文の構造 第3章
・コグニティブな戦略 グループ論の論考
・資源グループと⾏動 グループの分離
第2章
・先⾏研究の分類と 論点整理
序章
・関心の所在
・研究意義
・目的、研究方法 第1章
・戦略グループ論の 今日的意義
第4章
・事例の選定および
・プレーヤーマップ予備調査 の考察
第5章
・事例の記述
第6章
・データの分析
第7章
・一般化された 命題の提示
・本研究の総括
・今後の課題
第 1 章.戦略 グループ論の今日的意義の検討
1. は じ め に
戦 略 グループ概 念 は1972 年 の M.Hunt による提 唱 以 来 、多 くの研 究 者 に論 じられ、
企 業 では戦 略 策 定 実 務 者 の参 考 にもされてきた。本 章 の目 的 は、戦 略 グループ論 の伝 統 的 な論 点 から出 発 して、戦 略 グループ論 の今 日 的 意 義 と発 展 の可 能 性 を見 出 すこと である。
初 期 の戦 略 グループ論 の中 心 的 論 題 は、業 界 は比 較 的 安 定 した状 況 であるという 暗 黙 の前 提 のもとで、戦 略 グループによってグループ間 の収 益 性 の差 が説 明 できるかど うか、そもそも戦 略 グループというものが存 在 するのかどうか、存 在 するとすればそれはど のようにして形 成 されるのかといった内 容 が主 であった。これまで多 くの実 証 研 究 によっ て、さまざまな業 界 における戦 略 グループの存 在 は支 持 の表 明 がされてはきたが、論 者 によって根 拠 は様 々である。その一 方 で、クラスター分 析 などの統 計 的 な方 法 で定 義 さ れた戦 略 グループは単 なる人 工 物 であり分 析 ツールとしての便 宜 に過 ぎず、実 在 すると は考 えられない(Barney and Hoskisson, 1990、Barney, 2000)7とする研 究 者 もおり、
戦 略 グループ論 研 究 は未 だ結 論 的 な解 明 に至 ってはいない(Leask, 2004)。また、「現 状 分 析 偏 重 」「戦 略 形 成 の議 論 が手 薄 」(Mintzberg et al,1998、Fleisher &
Bensoussan,2003)といった批 判 もあり、理 論 的 な主 張 が実 際 にはどのように戦 略 立 案 に活 かされるかという側 面 からの研 究 はあまり進 んではいないと思 われる。
一 方 、今 日 の企 業 のおかれた環 境 に目 を転 じれば、インターネット社 会 すなわち、デ ジタル化 と高 速 大 容 量 通 信 技 術 の発 展 を背 景 に、多 くの業 界 や企 業 がかつてない環 境 変 化 に直 面 すると言 われている。そこには、産 業 構 造 のモジュール化8の進 展(根 来 ・堤, 2004)による業 界 の変 化 、参 入 ・退 出 の頻 度 の高 まり、差 別 化 が困 難 とされる 競 争 の激 化 、異 なる業 種 の企 業 が同 じ事 業 で競 争 する(内 田,2009)など、いくつかの 特 徴 がある。これらのことは、経 営 にとって環 境 が変 化 することは所 与 であり、安 定 的 な 構 造 での経 営 は企 業 にとって必 ずしも約 束 されたことではないことを意 味 している。そ れゆえに今 日 では戦 略 策 定 の側 面 に関 心 が集 まるのだと考 えても差 し支 えはないであ ろう。加 護 野(1988)は、戦 略 には「ひとびとの観 念 の中 にある将 来 志 向 的 な構 想 」とし ての戦 略 と、「実 際 の行 動 の結 果 としてとらえられる戦 略 」とがあるといっている。この見 かたに基 づけば、Porter(1980)の戦 略 グループマップのようにグループの境 界 を静 的
7 Barneyは2011年6月 の 来 日 時 、慶 応 大 学 に お け る 研 究 会 で も 同 様 の 見 解 を 示 し て い る 。
8 根 来・堤(2004)で は 、産 業 構 造 の モ ジ ュ ー ル 化 を「 あ る 産 業 で ビ ジ ネ ス を 行 う 際 に 必 ず 必 要 に な る 要 素 活 動 の 標 準 化 が 進 み 外 部 購 入 が 可 能 に な る 現 象 」 と 定 義 し て い る 。