おいてとらえる。どの「意味」も,「私は何を為すべきか?」という問い が,「人は何を為すべきか?」とともに,はたらく。そうしたことにおい て,あらゆる「意味」は「討議」を必要としている。 ハーバーマスは,このことをもとに,「討議」が基づく「討議倫理(討 議理論)」という基盤への‘還元主義’を主張する。 「討議」は,対応するべき「現実」に対応する。そうしたことにおいて は「道徳的事実」がはたらいている。このことによって,「討議倫理(討 議理論)」は,まず「道徳的事実」への「認知主義」に基づく。そして, そのことには,「討議」の前提として,「理想的発話状況」を〈めざす〉と いうこと,すなわち,そのように〈欲する〉ということがはたらき,「表 出主義」がはたらく。すなわち,そのようにして,「討議」において,「認 知主義」は,「非認知主義」を伴なう。 こうして,ハーバーマスは,「メタ倫理学」において言われる「認知主 義」と「非認知主義」について,その‘共存’において,「道徳的な意味」 を中心として,「道具的な意味」,「倫理的な意味」,「道徳的な意味」がは たらくことに基づく「実在論」を主張する。 フッサールからハーバーマスへの系譜を,背景として踏まえ,ハーバー マスの,「生活世界」論に基づき「公共圏」の展開をめざす立場について, さらなる問いが求められる。 註
5 言うまでもなく,英語の pragmatic である。ハーバーマスは,カントの用法に基づ いて,「道徳的な意味」がはたらくこととして prakitisch という用語を使うこととの 対比において,「道具的な意味」がはたらくこととして,pragmatisch という用語を 使う。
6 その基本的立場を,とりわけ,次の著作から確認した。Richard Roty, Philosophy and the Mirror of Nature, Princeton University Press, New Jersey,1979. 邦訳『哲学と自然 の鏡』野家啓一・伊藤春樹・須藤訓任・野家伸也・柴田正良訳,産業図書,1993年。 7 ED101. weder vernachlässigen.
8 ハーバーマスは,「倫理的な意味」をとらえるにあたって,テイラー(Charles Taylor) の主張を踏まえている。ED103f.ただし,テイラーを,踏まえながら,批判するこ とによって,自らのとらえ方を明確にしている。テイラーの立場について,次のよう に述べることができる。テイラーは,「個人」の「権利」を主張することにおいて,「個 人」に,「社会的共同体」に属すること,そして,そのことに基づく「責任」の立場 を伴なわせた「共同体主義」を主張した。また,「多文化」においての「相互承認」の 立場(「多文化主義」)を主張した。 9 Präferenz. 10 ED104.ハーバーマスは,「ヤヌスの二つの顔」のように,という言い方をしてい る。「ヤヌス(Janus)」とは,言うまでもなく,「ローマ神話」において述べられてい る,「出入口」(「扉」)の「守護神」であり,前後に反対向きの二つの「顔」を持つ「双 面神」である。物事の二面を同時にとらえるとされた。 11 ED121. 12 Grundsatz. やはり「規範」としての在り方を持つと言える。 13 Diskurstheorie. 14 Diskursethikgrundsatz. 15 Universierungsgrundsatz. 16 言うまでもなく,カントが Maxime という言い方をしていたことである。邦訳の 通例として,多くの場合に「格率」と訳されて来た。「行為規則(Handlungsregel)」 と言い換えることができる。 17 ED106. 18 ED106.
26 ED101.weder ausschliessen. 27 ED101. 28 ED109. 29 ED109. 30 ED110. 31 この場合の「エートス」は,「倫理的な人間形成力」という言い換えができる。こ こでは,アリストテレス的伝統に基づいた言い方で述べた。 32 kategorisch. 言うまでもなく,無条件的に,ということである。 33 ED112. 34 ED113.Verschränkung. 35 ED113. 36 「状況」について,「社会的コンテクスト」という言い換えができる。 37 ED113. 38 ED113―115. 39 ED115f. 40 ED115. 41 ED116.
42 Sir Bernard Arthur Owen Williams.1929∼2003.1967∼1987年,ケンブリッジ大 学教授。1988年,カリフォルニア大学バークレー校で教える。「道徳」をめぐる「個 人」の「実践的」在り方についての強調の立場で知られる。
43 ED123. Bernard Williams, Ethics and the Limits of Philosophy, William Collins Sons, 1985. 邦訳『生き方について哲学は何が言えるか』森際康友・下川潔訳,産業図書,1993 年。
44 John Rawls, A Theory of Justice, Harvard University Press, Cambridge, Mass., 1971. 1999年に出版された「改訂版(Revised Edition)」を使用した。邦訳『正義論 改訂 版』川本隆史・福間聡・神島裕子訳,紀伊國屋書店,2010年。 45 ED126. 46 (1)境遇(生まれ,育ち),社会的位置(所属,職務,地位など),(2)生来のこ と(資質,身体的能力,知的能力,身体状態など),(3)善の構想(生き方,人生計 画),(4)形成された性格,といったことの記憶のすべてを喪失した場合に,何を考 え,何を求めるのか,ということの「シミュレーション」である。「無知のヴェール」 の「シミュレーション」と呼ばれた。 47 「後期ロールズ」は,実質において,1980年の論文『道徳理論におけるカント的構 成主義』において始まっていた。その立場の集成として,次の著作が出版された。John Rawls, Political Liberalism,Columbia University Press, NewYork, 1993.
49 ED130. 50 ED131―136. 51 ED133.
52 ED134. Rationalitätsunterstellungen.
53 Zwanglosigkeit, Öffentlichkeit, Gleichberechtigung, Wahrhaftigkeit. これらのことは, 基本的には,ハーバーマスが繰り返し述べて来た「妥当性」要求の項目としての「理 解可能性」,そのことを前提とした「真理性」,「正当性(とりわけ,規範的正当性)」, 「誠実性」に対応すると言える。 54 本稿においても前述において確認した,ハーバーマスが言う「D 原則」である。 55 本稿においても前述において確認した,ハーバーマスが言う「U 原則」である。 56 Einsicht.‘気づいて分かること’として「覚知」と訳した。 57 ED137. 58 ED135. 参考文献(掲載は第一次文献に絞った。註において記載した場合もある。引用に際しては,略 号の後に引用ページを記した。)
Jürgen Habermas, Erläuterungen zur Diskursethik, Suhrkamp, Frankfurt a.M., 1991. 略 号を DE とした。邦訳『討議倫理』,清水多吉・朝倉輝一訳,法政大学出版局,2005 年。なお,原題は『討議倫理の解明』であるが,市販されている邦訳の題名を使用し 『討議倫理』とした。
Jürgen Habermas, Moralbewusstsein und kommunikatives Handeln, Suhrkamp, Frank-furt a.M., 1983. 邦訳『道徳意識とコミュケーション行為』,三島憲一・中野敏男・木 前利秋訳,岩波書店,2000年。
Jürgen Habermas, Faktizität und Geltung Beiträge zur Diskurstheorie des Rechts und des demokratischen Rechtsstaats, Suhrkamp,Frankfurt a.M., 1992. 略号を,FG とした。 邦訳『事実性と妥当性』(上)・(下),河上倫逸・耳野健二訳,未來社,2002・2003年。 Jürgen Habermas, Texte und Kontexte, Suhrkamp, Frankfurt a.M., 1991. 略号を TK とし
た。邦訳『テクストとコンテクスト』,佐藤嘉一・井上純一・赤井正二・出口剛司・
斎藤真緒訳,晃洋書房,2006年。
Immanuel Kan, Kritik der praktischen Vernunft, PhB38, 1788. 邦訳『実践理性批判』(『カ ント全集』第7巻所収),坂部恵・伊古田理訳,岩波書店,2000年。
Martin Heidegger, Sein und Zeit, Max Niemeyer, Tübingen, 1927. 邦訳『存在と時間』 (『世界の名著』62所収),原佑・渡辺二郎訳,中央公論社,1971年。
Charles Taylor, Sources of the Self: The Making of Modern Identity, Harvard University Press,Mass., Cambridge, 1989. 邦訳『自我の源泉(近代的アイデンティティの形成)』 下川潔・桜井徹・田中智彦訳,名古屋大学出版会,2010年。