• 検索結果がありません。

博士学位請求論文 本審査報告書

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "博士学位請求論文 本審査報告書"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1

博士学位請求論文 本審査報告書

2016 年 2 月 9 日 早稲田大学大学院経済学研究科

研究科長 船木由喜彦 殿

審査委員: 清水和巳(主査、政治経済学術院教授、経済学博士)

若田部昌澄(副査、政治経済学術院教授)

渡会勝義(副査、政治経済学術院名誉教授)

矢後和彦(副査、早稲田大学商学学術院教授、歴史学博士)

博士論文提出者:水野忠尚

論文題目:プレデールの経済空間と政治空間の統合思想―経済のグローバル化と国家の自立―

審査委員会は、2015 年 10 月 23 日 16 時から 3 号館 910 番教室において口頭諮問を行った。その結 果、提出された論文は経済学博士号に値すると判断した。

1. 論文のテーマと構成

本論文のテーマは、アンドレアス・プレデールの経済空間と政治空間の関係についての思想の解 明とその歴史的位置づけ、および現代への適用の可能性についてである。

アンドレアス・プレデール(Andreas Predöhl、 1893-1974)は、第 2 次世界大戦前、戦時中、お よび戦後を通じてドイツにおいて活躍した経済学者であり、経済活動が地理的広がりをもって展開 されるという基本認識から出発点した。彼は、経済活動は相互に密接なつながりをもった経済空間 を形成する一方、経済空間が政治の展開される範囲(空間)とは必ずしも一致しないことから問題 が生じると考え、それらの問題の解決について独特の思想を展開した。著者は、プレデールの経済 思想をドイツ経済思想史における経済活動領域と政治領域の関係についての研究の 1 つの到達点と みなし、その思想の解明、歴史的位置づけ、現代における適用可能性を論じた。

(2)

2

本論文の構成は、以下のようになっている。まず、序章においてプレデールの略歴並びにその舞 台となったキール世界経済研究所との関係が論じられ、続いて第 1 章において、プレデールの思想 の重要な出発点の 1 つと考えられるアルフレート・ヴェーバーの『工業立地論』における経済空間 思想がとりあげられる。第 2 章においてプレデールとレッシュがそれぞれ、ヴェーバーの思想に対 してどのような点を批判し、どのような方向に展開したのかを検討する。そしてその 2 人の展開の うち著者は、プレデールによる展開をとりあげ、理論的な面での解明を第 3 章において行う。プレ デールの思想が影響を与えた対象として、第 4 章においてナチスの広域経済圏構想、第 5 章におい て戦後の欧州統合を検討する。そして第 6 章において、現代のアジアにおける経済発展の現状に対 して、プレデールの経済空間と政治空間の統合についての議論が適用可能か否か、ヨーロッパの場 合との相違を考慮しつつ検討する。終章においてプレデール思想の現代における意義と可能性につ いて論じる。

本論文を構成する第 1 章から第 5 章までのうち、第 1 章と第 2 章は、現在『早稲田経済学研究』

72 号に掲載が決定している。第 3 章は、経済学史学会『経済学史研究』第 55 巻 2 号に、第 4 章は『早 稲田政治経済学雑誌』386 号に、第 5 章は同じく『早稲田政治経済学雑誌』387 号に掲載済みである。

上記の学術誌はいずれも査読付きである。なお、序章、第 6 章、終章は新しく書かれたものである。

2. 論文内容

第 1 章 アルフレート・ヴェーバー『工業立地論』における経済地理学批判と現実的理論について 著者によれば、アルフレート・ヴェーバー (Alfred Weber、 1868-1958)は、『工業立地論』(Über den Standort der Industrien、 1909)において経済発展の背後に工業立地に関わる合理的な法則 があると考え、当時の経済地理学を批判するとともに、自らの考えを展開した。そこでは、資本主 義固有の原理が存在し、立地の合理的なモデルを構築したうえで、現実の歴史を再解釈すべきであ るとの見方が示された。

著者の理解では、ヴェーバーはテューネンの『孤立国』の影響のもとに、次のような経済発展の 見方を示した。まず農業が発展し、そのための第 1 次工業、そして第 1 次工業と一般向けの工業製 品を供給する第 2 次工業が発達する。そのあとに流通業と政府組織が来る。政府組織は中央に位置 し、それを中心に農業や工業が展開される。それぞれの産業は、原料の価格、消費地までの運送費、

労働費を立地因子として、最もコストが低くなる最適な立地が合理的に行われる。

しかしながら、現実における産業立地には、経済的要因以外のさまざまな要因(歴史的、文化的、

政治的要因)が作用しており、それらを含めた現実の立地を説明する理論は、産業の現実の立地、

人口分布など現実のデータにもとづかなければならない。ヴェーバーはこのような現実理論を構築 しようと構想していたが、実現するには至らなかったという。しかし、そのヒントは、『工業立地論』

にすでにあり、さらに『工業分布論』(Industrielle Standortslehre、 1914)にもあるとされる。

それによると、農業は一般に地理的に分散し、工業は都市に集まり集積を形成するという。

(3)

3

経済的立地に関して以上のような考え方をもつヴェーバーは『工業立地論』のなかで、当時の経 済地理学が人間の働きかけを矮小化して自然科学的に扱っていることを批判し、人間の働きかけ、

つまり労働の作用を重視した研究をすべきであると主張した。彼は、人類の歴史のなかで産業革命 以降の資本主義の発展を特別なものと見なし、当時の経済地理学にある自然法則を主とする解明方 法だけでは十分ではなく、資本主義に固有の動態的な分析が必要であると考えた。

第 2 章 工業立地論と経済学 ―アルフレート・ヴェーバー、プレデール、レッシュの論争をめ ぐって―

この章では、アルフレート・ヴェーバーの工業立地論を経済学に対する補完理論として評価した うえで、ヴェーバーにおいて曖昧なままに残されたものとして、国境の扱いを巡る問題があると指 摘する。そして国境の問題は、ヴェーバーのなかで未成熟であったが、プレデールはそれを正面か ら明確に論じたとする。

ここで著者は、ドイツ経済思想における立地論の展開について簡単に振り返る。それによれば、

立地論はまずテューネンの『孤立国』において農業を中心として展開され、中央の消費地を中心に 地味を一定として、距離の相違からくる運送費および地代の相違によって、異なった作物が環状に 栽培されるという考えが示された。その環は、次第に拡大していき、全体として1つの経済圏(経 済空間)を形成するという。これに対し、アルフレート・ヴェーバーは工業を中心とした立地論を 展開した。これらの立地論の展開の上に、プレデールとレッシュは異なった方向でさらに理論を展 開した。

この章の第 II 節においては、『工業立地論』を前提として書かれた関税政策を中心とするヴェー バーによる貿易政策論と「欧州生産力の連邦」という提言が論じられている。ヴェーバーは、一方 で、この貿易政策論で彼の立地論から導出された 3 つの指向(消費指向、原料指向、労働指向)を もつ工業に対して、関税政策が与える影響を検討し、工業立地に与える効果を分析した。そのうえ でドイツの採るべき政策を示した。他方で、彼の理論を欧州全体に適用し、「生産力の連邦」という 欧州における工業の最適配置のヴィジョンを示した。

続いてヴェーバーに対する批判者として、そしてまた次の世代の立地論者としてプレデールとレ ッシュの批判が取り上げられる。プレデールもレッシュも共に、ヴェーバーの貿易政策論が、これ までの経済学にない要因を経験的、実証的に分析した点を高く評価していたが、両者はヴェーバー の不十分な点、限界を指摘し批判していた。著者によれば、プレデールは、ヴェーバーにおいて経 済圏ないし経済空間が国境を越えて拡大するとき、経済と政治の関係についての考察がなされてい ない点を取上げ批判した。プレデールは経済空間と政治空間(国家)とを明瞭に区別し、両者の関 係を、特に経済空間が国境を越えて拡大する際に生ずる問題とその解決方法について探究する方向 に展開し、経済統合論へと進んだ。レッシュは、ヴェーバーが費用要因のみを考慮し、需要要因を 十分に考慮しなかったことを指摘し、費用よりも利潤を重視すべきであると批判した。レッシュは

(4)

4

一般均衡論の方向に研究を展開し、それはリージョナル・サイエンスへと展開されることになる。

第 3 章 プレデールの経済空間と政治空間の統合思想

第 3 章では、大きく異なる政治体制にもかからず、戦前・戦後の 2 つの体制に適応したプレデー ルの経済思想を理論面から取上げ論じる。彼の理論は、経済原理に従って発展、拡張する経済空間 と国境という政治空間(領邦国家、国民国家の空間)との間に生まれる緊張を問題とする。著者に よって、プレデールが見落とされがちな経済と政治の関係を、それぞれの論理が支配する空間のあ いだの関係として正面から論じたことが指摘される。これまでプレデールは立地論における代替理 論提唱者として、そしてナチス政権に近い学者としてのみ個別的、断片的に取上げられ、一貫した 思想的基盤をもった経済学者として顧みられることが殆どなかったという。

著者は、プレデールの経済空間についての考え方を以下ようにまとめている。すなわち、経済活 動は密接な関連をもって、テューネンの農業の生産方法並びに作物が、距離によって第 1 圏から第 6 圏に環状に拡大していくように展開していく。この構想が立地論の出発点である。経済発展に伴っ て地理的に経済活動は拡大していく。その場合、経済活動は、ある定められた地理的範囲で単に取 引が行われるということではなく、生産物の生産と消費、原材料の供給と需要、労働力の供給と雇 用の関係において集約的に行われる。そして経済空間は、中核地―周辺地―限界地と呼ばれる構造 をもっていると考えられる。そこでは、限界地、周辺地から中心地に向かう商品や人の流れと反対 に、中核地から周辺地、限界地に向かう商品や人の流れが集約的に見られる。これは、マーシャル の集積論に見られるように、初発的な集約形態である。プレデールは、ここでは理論的な純粋性を 捨て、むしろ全欧州的な視点でこの集約を実体的に捉え直し、このような構造と動態をもった経済 圏を「世界経済の集中の極」と呼んだ。世界経済の集中の極は、まずヨーロッパに形成され(第 1 の世界経済の集中の極)、次にアメリカ大陸に形成され(第 2 の世界経済の集中の極)、さらにソ連 邦において形成されたという(第 3 の集中の極)。そして、断定的には言えないが、アジアにおいて 日本を中心にもう 1 つの世界経済の集中の極が形成されたと、プレデールは見ていた。著者によれ ば、こうした長期的な経済発展を考えれば、時間とともに集中の極は増加していくが、短期的・現 実的にみれば、国境との緊張問題が発生し、これを克服し越えて行くことが求められる。

言い換えれば、経済空間は時間とともに拡大していき、やがて経済空間は国境を越えていく。そ の場合、国家という政治体が支配する政治空間との衝突が起こる。この衝突が解決されないかぎり、

経済効率はその本来の水準よりも低下する。したがって両空間の間での調整が求められるが、プレ デールは、政治の方が経済に対して譲歩する以外に、経済効率を十分に発揮させる道はないと考え た。この経済空間と政治空間とを分けて考える見方は、これまでドイツ経済学の伝統でもあった経 済的なものと非経済的なものという二つの要因を上手く切り分けるものであり、方法論的にも有意 義なものと著者は評価する。

経済空間と政治空間との衝突は、第 4 章と第 5 章において具体的な問題として取上げられる。ナ

(5)

5

チスの大経済空間構想と欧州統合はともに、この観点から理解することが出来るという。しかし、

ナチスの大経済空間構想は、必ずしも経済合理性にしたがったものではなく、軍事的要請が優越し、

アウタルキー化を目指したものであったことが指摘される。これに対し、戦後の欧州統合は、プレ デールの思想により近く、国家間の合意に基づくものであった。著者によれば、プレデールの理論 は、この戦前と戦後の 2 つの統合事例を基本的に同じ視角から説明している。

第 4 章 ナチス広域経済圏構想におけるプレデール

本章では、戦前・戦後の大きく異なる政治体制にも拘らず、2 つの体制に適応したプレデールの空 間思想を取り上げ、彼の思想とナチス大経済空間構想との係り合いを論じている。とくに、第 III 節においてナチスの大経済空間とプレデールの経済空間との違いが比較されている。そしてナチス 大経済空間構想を象徴するフンク声明と大経済空間構想から導かれるアウタルキー体制に対するプ レデールの批判的な見方が取り上げられ、これに伴う貿易ならびに決済制度について論じられる。

第 V 節においてナチスに対する彼の見方は、共鳴する部分もあるが中立性を保ったものであること が示される。著者は、プレデールの思想が一見ナチスに近いものとして見えたとしても、彼のいう 経済空間は経済の合理性を根底に置くものであって、ナチス固有の価値観による思想とはまったく 別個の独立した思想であると主張している。

第 5 章 プレデールの欧州統合論

本章では、戦後の欧州統合の根底に立地理論に基づく経済合理性に従う経済空間が存在し、国家 空間が経済空間に歩み寄る以外に欧州の発展と安定はないとするプレデールの理論が論じられる。

ただしプレデールにおいては、あくまで経済空間と国家の自立から発生する政治空間との緊張問題 が中心であることが指摘される。

まず、これまでのドイツ経済思想における欧州統合論が振り返られ、統合思想に経済理論的な裏 付けのある見方が少なかったことが指摘される。戦後になって、統合論は経済発展論のなかに手掛 かりを見出し、経済発展論の一つであるプレデールの「世界経済の集中の極」の理論を中心に彼の 欧州統合論が取り上げられてくる。そして第 IV 節において、プレデールの見方に従い、経済空間と 政治空間の間に生まれる緊張の問題が、対外経済政策に具体化される様子が描写される。プレデー ルは、その緊張関係が貿易政策と通貨・為替政策に象徴的に表われていることを指摘し、ケインズ のクリアリング・システムに前向きな評価を与える。またプレデールの死後ほどなく彼の主張した EMS が実施される。これ等の経済政策が国家の自立と主権の係わり合いのうえに成立するものである ことが論じられる。プレデールのこうした見方は、彼の師であるベルンハルト・ハルムス (Bernhard Harms、 1876-1939) の世界経済学に欠けるもの(国民経済が政治的要素を含むものであるとし、経 済空間と政治空間を区別しない考え方)を補うものであり、またほぼ同時代に似たような空間概念

(支配/被支配関係が経済空間を構築する)を唱えたフランスの経済学者フランソワ・ペルー

(6)

6

(François Perroux、 1903-1987)の捉え方とも異なる。プレデールは純粋な経済空間を考えていた のである。そして著者の結論として、経済合理性に支えられた経済空間と非経済的要因から形成さ れる政治空間とが軍事力によらず地域的な信頼の積み重ねのうえに統合されることにより、2 つの空 間の境界に生まれる緊張問題が解消されるというプレデールの考えは欧州に限られるものではなく、

一般論としても有用な捉え方であると主張される。同時に、プレデールは(とりわけ欧州統合にお いては)当時の東西冷戦の影響が大きく働き、政治動向を無視することは出来ず、統合問題も経済 空間と政治空間の両空間に関わっている点に注意を喚起している。安全保障の問題は、経済統合と は別の政治統合の問題であり、実態の欧州統合にはこの二つの統合行動が作用し合っていることが 示唆される。

第 6 章 アジアの経済空間とプレデールの立地論的世界経済論 ― 世界経済の集中の極と企業行動 プレデールは、戦後間もない 1949 年に主著『世界経済論』を発表し、「世界経済の集中の極」の 理論を提唱したが、その後の世界経済の環境は大きく変わっている。こうした状況の変化にプレデ ールの見方は何処まで通用するのかを明らかにし、プレデール理論の有している本質と限界を解明 することが試みられる。

プレデールの死後(1974 年)、世界は大きく変わった。とりわけ大きなインパクトを与えたのは、

東西冷戦の終結であった。そして欧州連合の成立と通貨ユーロの誕生である。更にはアジアの四小 龍や BRICS といわれる新興工業国の経済成長がある。これ等の幾つかはプレデールが生前予想もし、

期待もしていたものである。この章では、プレデールのいう世界経済集中の第 1、第 2 の極に続いて 第 3 の集中の極が成立して以降、プレデール理論の議論の変化をたどりその現代的な位置づけを探 ろうとする。

第 II 節では、プレデールの『世界経済論』において、アメリカに続き第 3 の極としてソビエト連 邦、第 4 の極として日本が位置づけられたことが論じられる。そして第 III 節において、レンパー の見方が取り上げられる。レンパーは、プレデールの理論を受け継ぎ、1989 年のソビエト連邦崩壊 により、日本を第 3 の極として位置づけた。3 極集中の世界経済が再び形成され、プレデール理論の 特殊型としてアジアが取上げられる。そしてカッペル、ショイプラインが、新しい経済秩序の議論 に対する出発点の概念としてプレデールを起点としていることが論じられる。これに続きこれらの 新しい捉え方とプレデール理論の認識との違い、特にアジアにおけるテューネンの同心円の存在、

経済発展における時間の認識、さらには地域的な共通の秩序意識について論じられる。具体的事例 として ASEAN の経済統合が挙げられ、そこでの利害関係のみならず、共通する信頼関係、言い換え れば、これを可能にする共通の秩序意識が必要であることが述べられる。プレデールが指摘した経 済と国家の関係は、現在でもつねに緊張をはらんで存在し、議論の出発点として依然として検討さ れる必要がある、と結論されている。

この認識は終章でも取り上げられ、議論全体のまとめの一つの中心となっている。ここでもプレ

(7)

7

デール理論の現代における一般的な意義が依然として存在していることが主張されている。

3. 修正要求事項への対応

以下、予備審査において指摘された修正事項への対応を簡潔に記す。

1) プレデールの経済思想の解明が主題であるので、プレデールという人物そのものについてもう少 し詳しい説明が必要である。例えば彼が活躍の舞台としたキール経済研究所が、ナチス体制の中 で果たした役割についてもう少し詳しい説明が必要と考える。

対応:序章 II 節「プレデールの略歴とキール世界経済研究所」にまとめて説明を加えた(pp.7-9)。 2) 経済空間あるいは経済圏というとき、単に経済取引が行われる地理的範囲を意味するのではない

はずであるから、そうした概念を使うことの積極的な意味を示すべきである。またプレデール独 特の概念として「集中の極」が出てくるが、その意味がかならずしも明らかではない。まとまっ た説明が必要である。

対応:第 3 章 III 節に「経済の空間と国家の空間」というタイトルをつけ、1、2、で説明を加えま とめ直した(pp.75-79)。

3) 「テューネンの環」という概念が随所で登場する。それがプレデールの思想に重要な影響を与え たものであるとすれば、テューネンの立地論についてまとまった説明が必要である。

対応:第 3 章 II 節 1 において、テューネンの孤立国について図を加え説明を補強した(pp.69-72)。

4) 経済学における諸概念、例えばマーシャルの産業集積論とのかかわり、あるいはそれとの比較な ど、現代の経済理論との関係についての説明があったほうがよい。単に集積に利益というだけで はなく、何故集積が起こるのかについてのプレデールの考えを説明する必要がある。

対応:第 1 章 I 節の注においてマーシャルの産業集積との違いを明らかにした(P.20 注 5)。

5) 経済と政治との関係がドイツ経済学史の中で、どのように論じられてきたか、もう少し詳しい歴 史的説明が必要である。つまり、プレデールの経済思想を長いドイツ経済学史の中で位置づける ことが必要である。

対応:第 3 章 V 節 2 において、一節を新たに設け説明をおこなった(pp.89-91)。

6) 経済統合における通貨と金融の問題について、プレデールがどのように考えていたのか、可能な 範囲でもう少し詳しい説明をすべきである。

対応:第 5 章 II 節 3「通貨政策と欧州統合」のなかで加筆し、説明をまとめ直した(pp. 118-120)。

(8)

8

7) プレデールの思想はヨーロッパを背景として形成されたものであるから、現代の欧州統合とプレ デールの経済空間と政治空間との統合論との関係については、もっと詳しい検討が必要であると 思われる。例えば、現在の EU がプレデールのいう経済空間の自然な拡大に従ったものであるか、

検討が必要であろう。

対応:第 5 章 V 節のタイトルを「現実の欧州統合」とし、EU の政治性について加筆、説明を加えた

(pp. 129-130)。

8) プレデール理論の現代における意義の説明は必ずしもわかりやすくはなく、もっと明確にする必 要がある。

対応:第 6 章 V 節において加筆をおこなった(pp. 149-150)。

9) 独立した論文を集めたことからある程度はやむを得ないことであるが、説明の重複がしばしばみ られる、また逆に必要な説明がまとまった形でなされていないなど、全体として議論をもう少し 整理し、全体の見通しを改善する必要がある。

対応:第 1、2 章に分かれていた工業立地論の概要説明を第 1 章 II 節にまとめた。また第 3、4、5 章に分散したプレデールの理論・思想の基本的部分は、図表も含めて全て第 3 章に集め理論編とし、

4 章はナチスとの関係、5 章は欧州統合論に内容を集約した。またこれに伴い第 3 章のタイトル副題 を削除、第 4 章、5 章のタイトルを短くした。その他、読みやすくするために一部の節を含めて場所 の入れ替えをおこなった。また重複個所は極力避けるべく修正した。

10) いくつかのドイツ語からの日本語訳について疑問が提出された。

対応:適宜修正し、表記法を統一した。

本審査委員会は、以上の修正事項に対する対応を適切なものと判断した。

4. 評価

本論文の独自性は、これまで古典的な立地論における代替理論提唱者として、そしてナチス期に は、政権に近い学者としてのみ個別的、断片的に取上げられてきたプレデールの経済思想を統一的 な観点から理解しようと試みたところにある。

ドイツ経済思想の一つの特徴として、経済活動が地理的にまとまった範囲で密接な関連をもって 展開される場所としての経済圏ないしは経済空間と、政治が支配する領域、すなわち政治空間との 関係を考察する点が挙げられる。本論文は、プレデールの経済思想をその 1 つの到達点として歴史 的かつ比較思想史的観点から詳細に検討し、その現代における意義と可能性について考察している。

(9)

9

プレデールは、経済空間と政治(国家)空間の範囲の違いから生ずる諸問題を検討し、経済効率を 損なわないためには政治の調整、すなわち国際的な政治的統合が必要であると主張した。本論文は、

プレデールの経済思想が戦前のナチスの大経済空間の構想、戦後のヨーロッパ統合のなかにも貫か れていることを詳細に検討した、独自性をもった研究であり、評価に値するものと考えられる。な お、文中における誤植等は別途正誤表によって訂正されている。

以上により、本論文は、予備審査の修正要求に答え、博士論文に求められる水準を満たしており、

したがって博士論文に値すると考える。

参照

関連したドキュメント

 

第2章「先行文献」では、グローバル意識と異文化間コミュニケーション能力の理論に関する教師の信条と

第八章「『本朝詩英』小考」、第九章「『童蒙詩式』考」、第十章「『北山紀聞』巻四「詩格」と『氷川詩式』」とは、いず

カマラシーラは主著 Madhyamakāloka において無自性性論証を 5 種の論証(=3

ついで第 4 章では、本論文の中心をなす「メディア・リッチネス理論」のこれまでの流れ

また、第 6 章は(第 2 章や第 3 章とは異なり)固定資産税の安定性を地価の変化に対する反 応としての税収の安定性として測った。第 2 章と第

まず、前期時代の著書として、 『次第禅門』 『法華三昧懺儀』 『六妙法門』 『覚意三昧』 『方 等三昧行法』

燃焼室に傾斜を持ち分炎柱脇に昇炎壁を持つG類の7類に分類した。次に床面の平面