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南アジア研究 第18号 006久保 彰宏「インド経済へのインフレ・ターゲティングの適用可能性」

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イ ンド経 済 へ の

イ ンフ レ・

ター ゲ ティングの

適 用 可 能 性

久保彰宏

1. は じめ に 近 年,多 くの 先 進 国 で金 融 政策 の運営 に あた っ て 「イ ンフ レ ・ターゲ テ ィ ン グ」(Inflation Targeting:IT)が 採用 され てい る.1990年 に ニ ュー ジ ー ラ ン ドのIT採 用 を皮 切 りに,1991年 にカナ ダ,1992年 に英 国,1993年 にス ウ ェー デ ン とフ ィンラ ン ド,1994年 に オー ス トラ リア とスペ イ ン,と 次 々 と各 国 でIT が 採用 され るよ うに なった.現 在 で は,イ ス ラエ ルに加 え て,チ リや ブ ラジ ルな どの 「新 興 市 場 」諸 国 にお い て もITが 採 用 され る に至 って い る.韓 国 も1997 年 の通 貨危 機 後 に,中 央銀 行 法 を改正 し,明 示 的 に物 価 安 定 の責 務 を中央 銀 行 に与 え,1998年 にITを 採 用 した.同 様 に通貨 危機 後 の1999年 に イ ン ドネ シ ア, 2000年 に タイ とフ ィリ ピ ンの 中央 銀行 もITを 採用 した.ま た 日本 にお い て も, 経済 学 者 として世 界 的 に著名 なP.Krugmanプ リ ンス トン大学 教 授 が 「流 動 性 の罠 」 に は まった 日本経 済 を不 況か ら脱 出 させ る措 置 としてITの 採 用 を強 く提 唱 して い る ことか ら,ITが 注 目され る よう にな った.加 えて,2006年 か ら米 国 連邦 準 備銀 行(FRB)議 長 にIT採 用 に熱 心なB.Bernankeプ リ ンス トン大 学 教授 が 就任 し,米 国 にお いて もIT採 用 に向 けて弾 み がつ いた. 久 保 彰 宏 Akihiro Kubo

筆 者:大 阪 市 立 大 学 大 学 院経 済 学 研 究 科Graduate School of Economics, Osaka City University 専 攻 分 野:ア ジ ア諸 国 の 金 融 政 策Monetary policy in Asian comtries

論 文:「 イ ンフレ・ター ゲ ティング採 用 後 にお け るイ ンドネシ アの 金 融 政 策 波 及 経 路 」『経 済 学 雑 誌 』 第107巻2号,大 阪 市 立 大 学,2006年10月.

「イ ンフ レ ・ター ゲ ティング 採 用 後 に お ける タイの 金 融 政 策 波 及 経 路― 構 造VARモ デ ル に よる 実 証 分析― 」 『アジ ア研 究 』 第52巻4号,ア ジ ア政 経 学 会,2006年10月.

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ITに 関 す る研 究 は,こ れ まで主 と して先 進 国経済 を対象 に して行 われ て きた. そ して,最 近 にな って先 進 国経済 に関す るITの 有 効性 ・適用 可 能性 に 関す る

い くつ かの優 れた研 究が 公表 され る ように な って きた[Bernanke and Mishkin

1997, Bernanke et al. 1999, Clarida, Gali and Gertler 1999, Honda 2000,

Mishkin 1999,Svensson 1999,2000,Taylor 1999].し か しなが ら,「新 興 市場 」

にお け る この分 野 の研 究 は ようや く始 まっ たばか りで あ る[Mishkin 2000]1. 本 論文 で は,ITを 金融 政 策 ルー ル と して定 式化 し,そ の 適用 可 能性 につ い て 経 済改 革 下の イ ン ドを事 例 と した動学 シ ミュ レー シ ョンを通 じて検討 したい. 経 済改 革 下 の イ ン ドで は,(1)1992年 か ら金 融 改 革が 進展 し,金 融 部 門 に関 す る数量 規 制 が緩 和 され,金 利 な どの 価格 変 数 な どが資 源 配分 にあ た っ て重 要 な役 割 を果 たす よ うに な って きた こ と,(2)1994年 と1997年 の イ ン ド政 府 と 中央銀 行 間 の合 意 に よっ て,中 央銀 行 の独 立性 が 一定 程 度付 与 された こ と,(3) 1995年7月 か らイ ン ドは それ まで の対米 ドル に対 す る完全 固定相 場制 を放 棄 し, か わ りに為替 レー トの一定 程度 の変 動 を認 め る よ り柔 軟 な為替 レー ト制 度 を採用 す る よ うに なった こと,が 同 国へ のITの 適用 可 能性 を検 討 す る うえで 重要 な点 で あ る2.し たが っ て,金 融 改革 ・中央銀 行 の独 立 化 ・柔軟 な為 替 レー ト制 度が 進展 しつつ あ る イ ン ド経 済 にお い て,ITの 適 用 可 能性 を検 討 す る こ とは十分 な 意義 が ある もの と考 え られ る. 第2節 で は,ま ずITと は いか な る もの であ る のか そ してITが いか な る経 済 理 論 に支 え られ て い るの か を簡 単 に解 説 す る.そ の 後,イ ン ド経 済 でITの 採 用 が 現 実 的 な課 題 と して浮上 して きた背 景 と して,1992年 以 来 の金 融 改 革, 1994年 以 来 の 中央 銀 行 の 一定 程 度 の独 立 化 と1995年7月 以 降の 為 替 レー ト制 度 の柔 軟化 を指摘 して,そ れ らの進展状 況 を紹介 す る こ とにす る. 第3節 で は,ITを 金 融 政 策 ル ー ル と して定 式 化 し,そ の 適 用 可 能性 を1999 年4月 か ら2005年8月 の期 間 にお け る動学 シ ミュ レー シ ョンに よっ て検討 す る. 具体 的 に はお よそ次 の よ うな手順 で分析 す る.財 政変 数 を外生 変数 と し,産 出量 変数 ・金 融変 数 ・物価 変数 ・為 替 レー ト変数 を内生変 数 とす るベ ク トル 自己 回帰 (VAR)モ デ ル を経 済 モデ ル と して利 用 す る(推 定 の た めに用 い たサ ンプル期 間 は,為 替 レー ト制 度 が柔 軟 化 し,中 央 銀 行 の独 立 化 が 一段 と向上 し,公 定歩合 が機 能 し始 め る1997年(月 か らデ ー タが最 大 限利 用 可 能 な2005年8月 まで と してい る)・ この経 済 モデ ル に,金 融 政 策 ルー ル と して定式 化 した何 種類 かのIT

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イ ン ド経 済 へ の イ ンフ レ ・ター ゲ テ イング の 適 用 可 能 性 119 政策 ル ー ル を適用 す る.目 標 水 準 の物価 を最 も効 果 的 に達成 で きるIT政 策 ルー ル を,動 学 シ ミュ レー シ ョンを通 じて,物 価 の達 成値 と 目標 値 の乖離 を示 す 二乗 平均 平 方根 誤 差(RMSE)で 判定 し,さ らに,現 実 に観 察 され る物 価 経路 とIT を採 用 した場 合 の物価 経路 を比 較検 討す る. 最 終節 で は,本 論 文の 要約 を行 うと ともに,残 された今 後 の課題 を示 唆す る. 2. イ ン フ レ ・タ ー ゲ テ ィ ン グ と イ ン ドの 金 融 改 革 2.1 なぜ,イ ンフレ ・ターゲ ティングなのか こ こで は,イ ンフ レ ・ター ゲ テ ィ ング(IT)に 関す る経 済 理論 の 簡 単 な整 理 を行 い た い.ITは 一 般 的 に下記 の5つ の特 徴 を もっ てい る.第1に,イ ンフ レ 率 の中期 的 な数値 目標 が公表 され てい る.第2に,金 融政 策の最 も重 要 な長期 的 目標 と して,物 価安 定 が掲 げ られ てい る.第3に,イ ンフ レ・目標 を達成 す る上 での, 中 央銀 行 の独 立 性 が 制 度 的 に保 証 されて い る.第4に,中 央 銀行 の計 画 や 目的 に関す る市場 との コ ミュニケ ー シ ョンを通 じて,金 融 政策 の透 明性 が確保 され て いる.第5に,イ ンフ レ・目標 を達成 す る こ とに対 す る説 明責 任(accountability) が 中央銀 行 に課 せ られ てい る[Mishkin 2000:591, Svenson 1999:624]. ITは,貨 幣供 給 量k%ル ー ル を典 型例 とす る 「マ ネ タリー ・ター ゲ テ ィング」 (MonetaryTargeting:MT4に 比較 して,実 際 の金融 政策 をよ り柔軟 に運営 す る こ とが で きる.イ ンフ レ 目標 を達成 させ る政 策手段 につ いて は,中 央銀行 に 自 由裁 量 が認 め られ て い るか らで あ る.も ちろ ん,ITは 貨 幣 供給 量の伸 び率 もイ ンフ レ 目標 を達成 す るた めの 中問 目標 として重 要視 す るが,し か しそれ はあ くま で もイ ンフ レ目標 を達 成 させ る手段 と して であ る.貨 幣供給 量 と物価 の安 定 的 な 関係 はMTが 機 能 す る最 も重 要 な条 件 で あ るが,近 年 の金 融技 術 革新 を始 め と す る決済 手段 の多 角化 に よ り,と りわ け従来 の貨 幣供 給 量概 念 と物価 に安定 的 な 関係 が観 察 され な くなっ た こ とがMTよ りもITが 多 くの諸 国で 明示 的 に採 用 され る ように なっ た重 要 な背 景 と して指 摘 で きる. また,国 民 に とって貨 幣供給 量 の伸 び率 よ りもイ ンフ レ率 の方 が よ り理解 しや す い金 融政 策 の指標 で ある こ と も重要 で ある.こ こか ら,中 央 銀行 の説 明責 任性 が 国民 か ら強 く要求 され るこ とにな り,金 融政 策 に透明性 と規律性 を与 える こ と にな る.

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さ らに,「 動 学 的非 整合 性 」(Dynamic Inconsistency)あ るい は 「時 間 的非

整 合性」(Time Inconsistency)と 呼 称 され る問題 をITが 回避 す る こ とが で き

る点 が,経 済理 論上 最 も重 要 で ある.動 学 的非 整 合性 とは,あ る時点 で の最適 政 策 が,事 後 的 にみ る と最 適 で は な くなっ て しま うよ うな状況 の こ とを意味 す る. 具体 的 に は,次 の よ うな ことであ る.い ま金 融 当局 が長期 におい て は垂 直 であ る が 短期 的 に は右 下 が りの フ ィリ ップス曲線 に直 面 して い る とす る.金 融 当局 は 失 業率 の低下 とイ ンフ レ率 の低 下 の両方 か ら利得 を得 られ る.民 間経済 主体 の期 待 イ ンフ レ率 が低 く,現 在 イ ンフ レ率が砥 水 準 にあ る と しよう.そ の場合,金 融 当局 に とっ ては金 融緩和 政 策 を採 用 す る ことに よって 失業率 を大 き く引 下 げる こ とで(わ ずか ばか りの イ ン フレ率 の上 昇 を犠牲 にす れ ば)よ り大 なる利得 を得 る こ とが で きる.こ れ はい わ ば,金 融 当局 が民 間経 済 主体 の期 待 イ ンフ レ率 の 安 定 を利 用 して イ ンフ レを引 き起 こ して しま う誘 因が あ る とい うこ とであ る.し か し,政 策が 事後 的 に変更 され る可 能性 が ある こ とを民 間経済 主体 が いっ たん認 識 して しま うと,民 間経済 主体 は金融 当 局の物 価安 定 に向 けた政 策 を信用 しな くな る.そ の ため民 間の期 待 イ ン フレ率 が高 くな り,裁 量 的 な政策 下 で は,失 業 率 が 不変 で イ ン フレ率 だ けが上 昇 して しま うこ とにな る.こ れが 裁量 的政 策下 の イ ン フレバ イアス 問題 として知 られ てい る もので ある3 . まさに,ITは 明確 な イ ンフ レ 目標 の達 成 に コ ミ ッ トす る こ とで,こ う した裁 量政 策 に固有 の動 学的 非整 合 性 を回避 す る こ とが で きる わけで あ る.ま た,近 視 眼 的 な景気 対 策 を求 め る傾 向が あ る政 治的 要求 を,ITを 盾 に中央 銀行 が 跳 ね除 け る ことがで きる こと も重要 で あ ろ う. さ ら に,日 本 経 済 の 不 況 をIT採 用 に よ っ て 打 開 す べ きで あ る とす るP . Krugmanの 議 論 は,流 動性 の罠 とい うデ フ レ状 況 に おい て もITが 有 効 に機 能 す る,と い う点 で 興 味深 い もの で あ る.Krugmanは,貨 幣供 給 量 増 加 に よる 有 効需 要 の刺 激 では な く,民 間経 済主体 の期待 イ ンフ レ率 をIT採 用 に よって安 定化 させ る(す なわち マ イナス の期待 イ ンフ レ率 を数%の プ ラス に まで高 め る) として,そ の妥 当性 を根 拠付 けて い る.こ の見 解 に したが え ば,ITは イ ン フ レ に対 して も,デ フ レに対 して も有効 な措 置 であ る こ とに なる. この よ うに,1つ の有 力 な仮 説 と して,ITが 金融 政 策 の枠 組 み と して優 れ て い る こ とが 明 らか に なっ たであ ろ う.

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インド経済 へ のインフレ ・ターゲ テイングの適 用可 能性 121

2.2 イ ン ドにお ける金 融 改革 の進 展

イ ン ドでITが とりわけ注 目された背 景 に は,ニ ュー ジー ラ ン ド準備 銀行D.T.

Brash総 裁 が,1999年L.K.Jha記 念 講 演 で,金 融 政 策 と して のITを 開発 途

上 国 に適用 す る こ とを推 奨 した こ とにあ る.こ の講 演 を受 けて,イ ン ド準 備 銀

行B.Jalan総 裁 はITの 採 用 を議 論す る必 要 が あ る,と 発 言 した4.B.Jalanが

C.Rangarajan前 総 裁 の あ とを うけ て,1997年 に イ ン ド準 備 銀 行 総 裁 に就 任

す る と き に も,Business Line誌 にお い てIT採 用 に踏 み 出 す の か ど うか とい

う報 道 が な さ れ た5.実 際1998年4月,Jalan総 裁 の初 め て の金 融 政 策 声 明

で,イ ン ド準備 銀 行 が従 来 のM3タ ー ゲ テ ィ ング にか わ っ て複 数 指標 ア プロ ー

チ(Multiple indicator approach)の 採 用 に踏 み切 った こ とを公 表 した6.こ

れ は,M3を 指標 と して重 要視 しな くなっ た とい う こ とで は な く,M3に 加 えて, 短期 金融市 場 金利 ・為 替 レー ト・外 貨準 備残 高 ・政府 お よび民 間部 門へ の信 用額 ・ 政府 の財 政状 況 な どの動 向 を監視 し金融 政策 の運営 の 判断材 料 にす る こ とを意 味 して い る.Jalan総 裁 は,ITこ そ採 用 してい な い もの の,金 融 政策 運 営 に画 期 とな る変 化 をもた らした わ けであ る7. こ こで は,IT採 用 に向 け た背 景 として 以下 の3点 につ い て理 解 を深 め た い. 第1に,1992年 か ら金融 改革 が進 展 し,金 融部 門 に関す る数 量規 制 が緩和 され, 金 利 な どの価格 変 数 な どが 資源 配分 にあ た って重要 な役 割 を果 たす よ うにな って きた こ とで あ る8.第2に,1997年 か らイ ン ド政 府 とイ ン ド準 備 銀行 間 の合 意 に よって,イ ン ド準 備 銀行 の独 立性 が 一 定程 度付 与 され た こ とで ある9.第3に, 1995年7月 か らそれ までの 対米 ドル完 全 固定 相場 制 度 が 断念 され,よ り柔軟 な 為替 レー ト制 度 に変 更 された ことであ る.そ れ ぞれ につ いて,解 説 す る こ とに し よ う. 金 融 改 革 に つ い て は,第1に 法 定 流 動 性 比 率(SLR)と 法 定 準 備 率(CRR) が 大 幅 に引 下 げ られ た こ とが重 要 で あ る.SLRと は,銀 行 が獲 得 した預 金 の う ち で政 府指 定 証 券へ の義 務 的投 資 の割 合 を意 味す る もので あ る が,こ の比 率 が 1991年 の3&5%か ら1998年 に25%ま で低 下 して い る.ま た,CRRも 同 期 間 で15%か ら10%程 度 の水 準 に まで下 が って きて い る.こ の よ うに して,銀 行 部 門 は,か つ て そ の預金 総 額 の うち50%以 上 が 自動 的 に政府 とイ ン ド準 備 銀行 に 資金 が吸 収 され て きたわ けで あ るが,金 融改 革 で こう した数 量割 当規制 が大 き く 緩和 された わ けであ る.第2に,金 利 自由化 が進 展 して い るこ とであ る.イ ン ド

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で は政 策 目標 に応 じて多数 の貸 出規 制金 利 が設定 されて きたが 満 期 別や貸 付 資 金 規模 別 な どの分 類枠 が縮 小 し,さ らに金 利 決定 が 弾 力化 され た.ま た,1997 年4月 以 降 これ までほ とん ど機能 して こなか った公 定歩合 をイ ン ド準 備銀 行 の 政策 ス タ ンス を示 すベ ンチ マ ー ク金利 として再活用 す る こ とを公 表 し,公 定 歩合 と各種 金利 を連 動 させ る こ とにな った.さ らに,短 期金融市場 ・政府証券発行市 場 ・政府 証 券流 通市 場 な どにお いて市 場整 備が 試 み られ 金利 が 各市 場 間で大 き く連動 す る よ うにな っ て きた.こ う した一 連 の流 れ の なか で,1998年 に流 動 性

調 整制 度(Liquidity Adjustment Facility:LAF)が 導入 され 短期 金融 市場

へ の流動 性供 給 とコール レー ト安定 化 のた めの新 しい金融 調節 手段 を,イ ン ド準 備銀 行 が新 た に持 つ こ とに なった10. イ ン ド準 備銀 行 の独 立 性 の進 展 につ いて は,第1に ,199(年 に 「ア ド ・ホ ッ クス(AdHocs)」(イ ン ド準 備 銀行 直 接 引 き受 け の短 期 大蔵 省 証券)の 年 度 内 発 行 に シー リング を設 け る こ とに,イ ン ド準 備 銀 行 とイ ン ド政府 の 問 で合 意 が な され た こ とが 重要 であ る.こ れ まで 事 実上 無 制 限 に財 政赤 字 フ ァイ ナ ンス の ため にイ ン ド準備 銀 行が利 用 され て きた財 政金 融 の枠 組 み を,大 きく変更 させ る もの であ る.さ らに その3年 後 の1997年 に,ア ド ・ホ ックス を廃止 し,イ ン ド 準備 銀 行 か ら政府 へ の与 信 供与 額 を よ り制 限 した 「歳入 補 填 貸付 」(Ways and Means Advances)制 度 の新 設 が イ ン ド準 備 銀行 と政府 間で合 意 され た.こ う した合 意 の結 果,財 政赤 字 の 「貨 幣化 」 と呼 ばれ る,財 政赤 字 フ ァイ ナ ンス の た めの イ ン ド準備 銀行 に よる 「裏づ けの ない」紙 幣発 行 が抑制 され る ように なっ た. 実 際 に,ハ イパ ワー ドマ ネー に対 す るイ ン ド準 備銀 行 の対政 府与信 残 高 の比率 を みて み る と,1991年 の99%か ら1998年 の59%に まで顕著 な低 下傾 向 を示 して い る.さ らに,2006年3月 には,イ ン ド準備銀行による政府証券 の値接引 き受 けが 認 め られ な くな る こ とが予 定 され てい る11.第2に,1997年 に資本 自由化 の段 階的実 施 を勧 告 した 「資 本勘 定 の交 換性 に関 す る委員 会 」(通 称 タ ラポー ル 委員 会)が 事 実上 のIT採 用 を提 言 した.委 員 会 は,年 率3-5%の 目標 イ ン フ レ 率 を国会 で決 定 し,そ の達 成の ため の全権 限 をイ ン ド準 備銀 行 に与 え るべ きで あ る と した.内 外 で注 目 され た同委 員会 がIT採 用 を勧 告 してい るので あ る12. 為替 レー トの柔 軟化 につ いて は,第1に,イ ン ドは1993年3月 か ら完全 変 動 相 場制 度 を採用 した と内外 に公表 してい るが 事 実 は全 く異 な る.実 際 には,イ ン ドは1993年3月 か ら1995年6月 まで対 ドル で 自国 通 貨 ル ピ ー を完 全 に釘

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インド経済 へ のインフレ ・ターゲテイングの適 用可 能性 123

付 け に して いた.こ う した極 め て硬 直 的 な為替 レー トを柔軟 化 させ て い くのが

1995年7月 か らで あ る.Reinhart and Rogoff[2002]は,こ の 時期 以 降 の イ ン

ドを管理 変動 相場 制 度 と して分 類 して い る.本 稿 も,こ の分類 を従 うこ とにす る.

第2に,開 放 マ ク ロ経 済学 の分 野 で,政 策 トリレ ンマ(Policy Trilemma)と

い う重 要 な考 え方が あ る[Obstfeld and Taylor 2001]13.こ れ は,一 国が 固定相 場制 度 ・完全 資本 移動 ・自立的 な金 融政 策 の3つ の 政策 を同時 に実現す る ことが 不 可能 で あ る,と い うこ とを意味 す る.し たが っ て,イ ン ドが資本 自由化 を推進 しなが ら,自 立 的な金 融 政策(す な わち こ こで はITを 意 味す る)を 行 使 す るた め には,固 定相場 制 度 を断念 して変動相 場 制度 を採 用 しな けれ ばな らな い とい う こ とであ る.(1)第3節 のITの 実験 にあ たっ て用 い たベ ク トル 自己 回帰(VAR) モデ ルの 推定 期 間 を為 替 レー ト制度 が柔 軟化 を始 め る1995年7月 以 降 を選定 条 件 の1つ に した こ と,(2)VARモ デ ル の内生 変 数 に為 替 レー トを産 出量 変 数 ・ 金 融変 数 ・物価 変 数 に加 えて利用 した こ とは,こ の政 策 トリレ ンマ を重視 した こ とに よる. 以 上 に加 えて,ITの 採 用 にあ た って 中央銀 行 法 の改 正が 通常 な され てい る た め,イ ン ド準備 銀 行 法 に も簡 単 に言及 す るこ とに しよ う.同 法 は,1934年 に発 効 して以 来何 回 かの改工 を経 てい るが そ の骨格 そ の ものは変 更 されず に現在 で も施 行 され てい る.現 行法 は,下 記 の ように5章 か らなっ てい る.

Reserve Bank of India Act, 1934

Chapter 1 Preliminary

Chapter 2 Incorporation, Capital, Management and Business

Chapter 3 Central Banking Functions

Chapter 3A Collection and Furnishing of Credit Information

Chapter 3B Provisions relating to Non-Banking Institutions Receiving

Deposits and Financial Institutions

Chapter 3C Prohibition of Acceptance of Deposits by Unincorporated

Bodies

Chapter 4 General Provisions

Chapter 5 Penalties

こ こで注 目してお きたい ことは,イ ン ド準備 銀行 法 で は,中 央 銀行 の責 務 とし ての物 価 の安 定化(あ るい は通貨 価値 の安 定化)が 体系 的 にか つ透 明 なかた ちで

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は明示 され てい ない こ とであ る[Reserve Bank of India 2000:par. 3. 6.].法 律 の条 文 を概 観 す る と,政 府 の預 金受 入 ・政府へ の信 用供 与 ・政府 の債 務 管理 の代 行 な どの 「政府 の銀行 」 と唯一 の 「発 券銀 行 」 と しての イ ン ド準 備銀 行 の役 割や, 銀行 や非銀 行系 金 融機 関 に対 す る規 制や監 督 な どにお け る役 割 が明記 され てい る. 準 備銀 行 の要 職 に対 す る政府 の 人事権 が極 め て強 い こ とも条 文 か ら読 み取 れ る14. しか し,当 然 の こ とで は あ るが,『 イ ン ド準 備 銀行 年 報 』・『通 貨金 融 年 報 』・ 『金融 政 策声 明』 な どにお い て は,た とえ ば 「金 融政 策 の 目標 は,物 価 安 定 の追 求 と経 済 の生 産 的 な部 門 に適 切 な額 の資金 を確保 す る こ とで あ る」15,「金 融 政 策の展 開 は,経 済 成 長 の向上 と物 価 安定 の確 保 に向 けた努 力 で覆 わ れて い る」16, 「1999-2000年 の金 融 政策 の 主要 な課題 は,物 価安 定 を達成 す るた め に流 動 性 の 抑 制 を図 る こ と と同時 に,経 済 成長 を高 め る ため に経 済 の 生産 的 な部 門 に適切 な額 の銀行信 用 を確保 す る とい う対 立 す る 目的 を一致 させ る必 要 があ る こ とであ る」17と 中央銀行 の責務 と して の 「物 価 の安 定化 」 につ いて繰 り返 し言 及 して い る18.こ う して,実 際 に運 営 され てい る金融 政 策 の 目的 と193(年 制 定 の イ ン ド 準備 銀行 法 との 条文 との 問 に大 きな乖離 が存 在 して い るわ けであ る.こ う した現 実 と法律 とのギ ャップ を埋 め るた め には,イ ン ド準備 銀行 法 の改正作 業 が やが て 日程 にの ぼ って くる こ とは まず 間違 い な い.改 正作 業 にお い ては,当 然ITの 採 用 も視野 に入 るこ とに なる. さ て,以 上 の解 説 か ら,ITが 実 際 に イ ン ドの 政策 担 当者 間 で真 剣 に検 討 され て い る,あ るい は採 用 す る誘 因が十分 存在 して いる こ とが 明 らか にな った.し た が って,ITに 関す る分析 は極 め て重 要 な課 題 で ある こ とが再 確 認で きる. 3. イ ン フ レ ・タ ー ゲ テ ィ ン グ の 実 験 分 析 イ ン ドで金 融改 革 が 開 始 され,イ ン ド準 備 銀 行 の独 立 化 に 向 けた 進展 が み ら れ 為 替 レー ト制度 が柔 軟化 し,さ らに公 定歩合 が 機能 し始 め る1997年4月 か ら, デ ー タが最 大 限 とれ る2005年8月 まで を,ベ ク トル 自己 回帰(VAR)モ デ ル 推 定 のた めの サ ンプル期 間 とした. さ らに,1999年4.月 以 降 を実験 対象期 間 に選 びITを 各種 の金 融政 策 ルー ル として定式化 し,ど の ルー ルが最 も 目標 水 準の物 価水 準 を達成 す るの に有効 で あ るのか を動 学 シ ミュ レー シ ョンを通 じて比較 検討 す る.金 融政 策 ルー ル と して は,

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インド経済 への インフレ ・ターゲテイングの適 用可能 性 125 よ く利 用 さ れ て い る テ イ ラ ー ・ル ー ル とマ ッ カ ラ ム ・ル ー ル を参 考 に 定 式 化 す る. 3.1  モ デ ル 本 稿 で は,経 済 モ デ ル と してVARモ デ ル を 利 用 す る.VARモ デ ル を 利 用 す る 理 由 と して は,さ し あ た っ て 下 記 の よ う に 考 え て い る.第1に,ど の よ う な マ ク ロ 計 量 モ デ ル が 適 切 で あ る の か に つ い て は,マ ク ロ経 済 学 者 間 に か な らず し も合 意 が 存 在 しな い[MaCallum1993:4-5].こ れ に対 し て,VARモ デ ル は,特 定 の マ ク ロ 経 済 理 論 を必 ず し も前 提 と し て い な い た め,先 見 的 に あ る特 定 の 理 論 的 立 場 に 立 つ こ と に よ る 恣 意 性 を 免 れ る こ と が で き る.第2に,金 融 政 策 ル ー ル に お け る 先 行 研 究 に お い て,VARモ デ ル が 頻 繁 に 利 用 さ れ て い る[伊 藤 ・北 川1996,MaCallum 1993, Taylor 1993,1999].第3に,一 般 に 予 測 に お い て マ ク ロ 計 量 モ デ ル よ り もVARモ デ ル の 方 が 優 れ て い る と言 わ れ 評 価 さ れ て い る [Green 1997:815]. した が っ て,本 稿 で も,産 出 量 変 数 ・金 融 変 数 ・物 価 変 数 ・為 替 レー ト変 数 か ら な るVARモ デ ル を も と にITに 関 す る実 験 を 行 う. さて,つ ぎにITを 金 融 政 策 ル ー ル と し て 定 式 化 す る.金 融 政 策 ル ー ル と して は, マ ッ カ ラ ム ・ル ー ル と して 有 名 な政 策 ル ー ル を参 考 に 下 記 の よ う に定 式 化 し た. (1) こ こで,mは 貨 幣供 給 量(自 然対 数 値),pは 物 価水 準(自 然 対 数値),pAj=j 方 式 に よる 目標 物価 水準(自 然対 数値j=1,2,3),λ は政策 調整 係数 を意 味す る. 実 験 にあ た っ て月 次 デ ー タ を利 用 す る こ とに注 意す る と,(1)式 は,中 央 銀 行 が過 去1年 間の 平均 実 質 貨 幣供 給 量 成長 率 の 月次 平 均 と,目 標 物 価 と実際 の 物 価 水準 の乖 離 を政 策調整 係 数 λ分 だけ埋 め る ように貨 幣 を供 給す る とい う金融 政 策 ルー ル を定 式化 した もので あ る.さ らに,目 標 イ ン フレ率 は,イ ン ドにお いて ITの 採 用 を提 言 した タラポ ー ル委 員会 に したが っ て,こ こで は4%と す る.そ して,目 標物 価水 準 をつ ぎの よ うに3通 りの方 法で 決定 す る.

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(2) (3) (4) こ こで,(2)式 と(3)式 にお け る右 辺 第2項 目0 .03921は 年率4%イ ン フ レ 率 の 自然対 数値(ln(1.04)=0.03921)を 意味 して い る.(2)式 の 目標物 価水 準 の決 定 は,年 率4%の 単 一 イ ンフ レ経路 を 目指 す もので あ る.こ れ に対 して,(3) 式 は過去 の実現 値 は過去 の もの と して,年 率4%の イ ンフ レ率 を達成 させ る もの で あ る.(2)式 が厳 格 な 目標 物価 水 準 の 決 定 で あ るの に対 して,(3)式 は穏 や か な 目標 水準 の決定 方 法 であ る と考 え られ る.(4)式 は,(2)式 と(3)式 で与 え られ る物価 水 準 の平均値 を 目標値 とす る もので ある.こ こで は,そ の ウエ イ ト を1:1と した.MaCallum(1993)と 伊藤 ・北 川(1996)な どの先行研 究 で は(4) 式 の ウエ イ トを2:8と してい る.先 行研 究 にお い て も指 摘 され て いる こ とで はあ るが ウエ イ トの決 定 自体 は恣 意 的で あ る.そ もそ も2:8の ウエ イ ト付 け の理 由 が 明確 で ない な らば1:1と す る こ とで(2)式 と(3)式 を同等 に扱 うケ ース を 考 えて み るのが 自然 であ ろ う.最 後 に,政 策 調整係 数 λの値 につ いて は様 々 な値 を代 入 して,実 験 を行 うこ とにす る. さ らに,(1)式 の よ うに貨幣供 給量 を操 作 目標 とす る金 融政 策 ルー ルに対 して, 金利 を操作 目標 にす る定式化 も考 え られ る. (5) こ こで,Rは 金利 で ある.(5)式 は,前 期 の金利 水 準 を与 件 として,目 標物価 水 準 と現実 の物価 水 準 に乖離 が存在 す る場合,λ 分 だ け金利 を調 整す る とい う政 策 ルー ルで あ る.(1)式 と(5)式 を比 較 す る こ とで,金 融 政策 の操 作 目標 とし て貨幣供 給 量 か そ れ とも金利 の何 れ が望 ま しいの か を判 断 す る ことが可 能 であ る19. IT政 策 ル ール の評価 方 法 と して は,下 記 の式 で 表現 され る二乗 平 均平 方 根誤

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インド経 済へ のインフレ ・ター ゲテイングの 適用 可能性 127 (6) こ こ でpsは 政 策 ル ー ル で シ ミ ュ レー トさ れ た 物 価 水 準 で あ る.ま た,シ ミ ュ レー ト され た 物 価 水 準 とそ の 物 価 水 準 の ト レ ン ド値 のRMSE,シ ミ ュ レ ー トさ れ た 産 出 量 水 準 と そ の 産 出 量 水 準 の トレ ン ド値 のRMSEも 計 算 して,政 策 ル ー ル を総 合 的 に判 断 す る. 3.2  デ ー タ 本 稿 で 利 用 す る デ ー タ とそ の 出所 は 下 記 の 通 りで あ る.デ ー タ は12ヶ 月 移 動 平 均 を用 い て季 節 調 整 を 行 っ て い る.コ ー ル レー トを の ぞ く,す べ て の 変 数 は そ の 自然 対 数 値 で あ る. 内 生 変 数 と し て は,つ ぎの5変 数 を採 用 す る こ と に す る.

物 価 変 数(p) : 工 業 労 働 者 消 費 者 物 価 指 数(Consumer Price Index for Industrial Workers)

産 出 量 変 数(y) : 鉱 工 業 生 産 指 数(lndex of Industrial Production)20 金 融 変 数(m) : ハ イ パ ワ ー ドマ ネ ー(M0)

金 融 変 数(R) : コー ル レ ー ト季 節 未 調 整 為 替 レー ト変 数(e) : 対 ドル 名 目為 替 レ ー ト 資 料 と して 次 を 利 用 した.

Reserve Bank of India, Database on Indian Economy21,and do., Reserve

Bank of India Bulletin22.

外 生 変 数 は 財 政 変 数(g)で あ り,中 央 政 府 総 支 出(Central Government Expenditure)を 利 用 す る.資 料 は 以 下 で あ る.

Government of India,Controller General of Accounts Web Site23. こ こ で 外 生 変 数 と し て 中 央 政 府 総 支 出 を入 れ て い る の は,イ ン ド経 済 の マ ク ロ 経 済 連 関 構 造 に お い て 財 政 政 策 が 基 軸 的 な 役 割 を 果 た して い る とす る 佐 藤[2002: 第5章]の 指 摘 に よ る も の で あ る.ま た,本 稿 で は,実 験 結 果 の 頑 健 性 を検 証 す る た め に以 下 の代 替 的 な 金 融 変 数 と物 価 変 数 も用 い た 分 析 を行 っ て い る.

物 価 変 数(p) : 卸 売 物 価 指 数(Whole Price Index)

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金 融 変 数(R) : 公 定 歩 合(Bank Rate) 資 料 は,上 記 の 内 生 変 数 で 用 い た も の と 同 じで あ る. 3.3  VARモ デ ル の 推 定 IT政 策 ル ー ル の 分 析 の 基 礎 と な る マ ク ロ 経 済 モ デ ル と し て,VARモ デ ル を 推 計 す る わ け で あ る が,そ の 前 に ま ず,マ ク ロ経 済 変 数 の 単 位 根 検 定 を 行 い,そ の 次 数 を 確 定 す る 必 要 が あ る.単 位 根 検 定 と し て は,拡 張 デ ィ ッ キ ー=フ ラ ー (ADF)検 定 とElliott, Rothenberg and Stock[1996]に よ るDF-GLS検 定 の2 種 類 を用 い て い る.第1表 で 示 さ れ て い る単 位 根 検 定 の 結 果,ほ ぼ,す べ て の 変 数 はI(1)と み なす こ とが で き る24.し た が っ て,全 て の 変 数 の1階 の 階 差 を と り, 変 数 を定 常 化 す る こ と にす る.本 稿 で 利 用 す るVARモ デ ル は,次 の よ う に 定 式 化 さ れ る. 第1表 単位根検定 注1) (1):消 費 者 物 価 指 数(2):卸 売 物 価 指 数(3):コ ー ル レー ト,(4):公 定 歩合 注2) c:定 数 項,t:タイム トレン ドを含 む モデ ル を意 味す る.ま た,検 定 統 計 量 の横 の カ ッコ 内 は ラグ 次数 を 表わ して いる. 注3) ADFとDF-GLS検 定 の臨 界値 は つ ぎの 通 りで ある.

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インド経 済へ のインフレ ・ターゲ テイングの適 用可 能性 129 (7) ここでXは 内生 変数 ベ ク トル(す なわ ち(Δp,Δy,Δm,ΔR,Δe)'),Δgは 政 府支 出(ス カ ラー),uは 誤 差項 ベ ク トルで ある. VARモ デ ル の 最 適 ラ グ数 の 決 定 に あ た っ て は,ラ グ(す な わ ち,(7)式 にお け るqで あ る)を 最 大12ま で と って シ ョワ ル ツ=ベ イ ジ ア ン情 報 量基 準

(Schwarz Baysian Information Criterion : SBIC)か ら判 断 した25.そ の結果

最 適 ラ グは1と なった. なお,実 験 に用 い るVARモ デ ル につ い て は,事 前 に,イ ンパ ルス応 答 関数 を 推 計 し,長 期 的 にみ て マ クロ経済 変数 が発 散せ ず収 束す る こ とを確 認 して い る. つ ぎに,推 定 した各式 の残 差系 列 を確 率 的 シ ョック とみ な し,そ れ を毎期 デ ー タと して与 えて動学 シ ミュ レー シ ョンを行 う.こ う した動 学 シ ミュ レー シ ョンは, 金 融政 策 ルー ル に関す る分析 で頻 繁 に利用 されて い る.具 体 的 には,金 融変 数 の 操 作 目標 の推 定 式 を(1)式 あ る い は(5)式 で 定式 化 した政 策 ル ー ル に置 き換 え,推 定 したVARモ デル に挿 入 す る.こ のモ デ ルに推定 結 果か ら得 られ た確 率 的 シ ョック(残 差系 列)を デー タと して与 え,λ に適 当な値 を順 次代入 して い く. 実験 の期 間 は,消 費者 物価 指 数 が安 定 化 した1999年4月 か ら2005年8月 ま で とす る.実 験 の 開 始期 間 を1999年4月 に設 定 した 理 由 は,1998年 に 「玉 葱 危 機 」 と呼称 され る玉 葱 ・じゃがい も ・豆 類 ・食用 油 な どの食料価 格 の暴 騰が 見 られ,こ う した野菜 な どの食 料 価格 の一 時的 な価格 上昇 に よって消費 者物価 指 数 の年率 上 昇率 が20数%に まで達 した こ とによ る.生 鮮 食料 品 の一時 的 な上昇 は, ITの 枠 組 み で は金融 政 策 当局 に とって外 生 的要 因 であ る.こ うした外 生 的要 因 に よる イ ンフ レ 目標 か らの逸脱 につ いて は,中 央銀 行 は免責 され るのが一 般 的で あ る.し た が って,本 稿 で は,イ ンフ レが沈 静 化 した1999年4月 以 降 を実 験期 間 に設定 したので あ る. 実験 期 間 にお け る政策 ルー ルの 評価 は,先 に述べ た通 り,RMSEに よる.な お,本 稿 にお け る計算 や実験 分 析 に あた って は,統 計 パ ッケ ー ジ ソフ トTSPと EViewsを 併用 した.

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3.4 実 験 結果 第2表 は,特 定 の 政 策 ル ー ル下 で 政 策 反 応 調 整 パ ラ メ ー タ λに0か ら1ま で の値 を代 入 して得 られ た実験 結果 で あ る.表 中 の数値 は,目 標 物 価 水準 と各 政 策 ル ール 下 で実 現 した物価 水 準 のRMSEを 示 した もの であ る.し た が っ て, RMSEが 小 さい値 を とって い る政策 ル ー ルが 目標 水準 の イ ンフ レ を達 成 す る う えで有効 で あ るこ とを意味 す るわ けで ある. こ こか ら,以 下 の点 を指摘 す る こ とがで きる.第1に,RMSEが 最 小値 にな っ て い るのが,金 融政 策 の操 作 目標 を金 利 に,イ ンフ レ 目標 を(3)式 に,さ らに λを0.01に 設定 したケ ース であ る こ とが判 明す る.本 稿 で は,こ れ をベ ンチ マー ク とす る.こ の ケー ス をグ ラ フ化 した第1図 をみれ ば,目 標 物価 経路 をITが か な り忠実 に追跡 してい る様子 が観 察 され るだ ろ う. 第2に,操 作 目標 をハ イパ ワー ドマ ネ ー に して も,イ ンフ レ 目標 が(3)式 の 場 合 に は,RMSEが 低 い.(3)式 で定 式化 され る イ ン フ レ目標 は,厳 格 なル ー ルで ある(2)式 や(24式 と(3)式 の平均 であ る(44式 と比べ れ ば穏 やか な ルー 第2表 金 融政策の実験結果(RMSE,ベ ンチマ-ク のケ-ス) 第1図 目標物価経路 とIT採用時 の物価 経路

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インド経済 への インフレ ・ターゲテイングの適用 可能 性 131 ル であ るの で,こ の結 果 は当然 といえ るだ ろ う.ま た,多 くのIT採 用 国 にお いて, 過去 の シ ョック に と らわ れず 「前 向 きの 」(forward-looking)政 策 運営 を実 施 してい る こ とか ら(34式 は実 際のIT目 標 とも整 合的 で ある こ とを指 摘 してお く. 第3に,い ず れの金 融政 策 ルー ル を採 用 した として も,裁 量 的 ルー ルを全 く組 み込 まない λ=0と い うケ ース よ りも,前 期 の 目標 と実績 値 の乖 離 を修正 す る と い う裁量 的 ルー ル を組 み込 ん だ方が 目標 イ ンフ レを達 成す る うえ ではパ フォーマ ンスが よ り良い こ とがわ か る. 上 記 の実験 は各 政策 ル ール の評価 を 目標物価 水 準 と政策 ル ール で シ ミュ レー ト した物価 水 準 の乖 離 をRMSEで 評価 した もので あ るが い ま ひ とつ の評 価 方法 と して は政 策ル ール で シ ミュ レー トした物価 水準 とその物価 水 準 の トレン ドとの 乖離 をRMSEで 評 価す る方法 が あ る.ま た,政 策 ル ー ルで シ ミュ レー トした鉱 工業 生 産指 数 とその鉱 工 業生 産指 数 トレン ドとの乖 離 をRMSEで 評 価 す る こ と で,物 価 安 定化 を図 るITの 実物 経 済 に対 す る影 響 を分 析す る こと も可能 で あ る. ベ ンチマ ー クのケ ース を とりあ げて,現 実 の物 価 トレ ン ドと毎期 の現 実 の物価 との乖 離 を示 すRMSEと 物 価 トレン ドの シ ミュ レー シ ョン値 と毎期 の物 価 の シ ミュ レー シ ョン値 のRMSEを 比較 す る と,前者 が0.550%に 対 して後 者 は0.554% となっ てい る.ト レン ドか らの乖 離 とい う観 点 か らみ る と,ITは 現 実 に採 用 さ れた金 融 政 策 とほ とん ど大 差 な い こ とが 理解 で きる.実 際 に,現 実 の物価 とIT 第2図 IT採 用時の物価経路 とインフ レ率

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を行 った場 合 の物 価 を図示 した第2図 が そ の こ とを明確 に示 してい る.第2 図 は,対 前 年 同 月比 で み たイ ンフ レ率 を示 して い る.ITを 採 用 した場合 の イ ン フ レ率 は,わ ず か に現 実 の イ ンフ レ率 を上 回 ってい るが,ほ ぼ一致 した動 きを示 して い るこ とが わか る. さ らに,鉱 工 業生 産指 数 のRMSEも 現 実 が2.045%で あ るの対 して,ITが 採 用 され た場合 で も2.054%と なっ てい る.物 価 安 定 に重 きを置 くITが 採 用 され た と して も,実 物 経 済 に必 ず しも悪 影響 を与 えない こ とは本稿 の興 味深 い発 見 で あろ う. それ で は,こ の結果 を どの よ うに解 釈 すれ ば よいの で あろ うか 第2図 か らも 明 らか な よ う に,2000年7月 か ら2005年8月 まで の現 実 の 年率 イ ンフ レ率 と イ ンフ レ ・ター ゲテ ィ ングを行 っ た場合 の年率 イ ンフ レ率 は,ほ ぼ3%か ら5% の 問 にお さ まってお り,タ ラポー ル委員 会が勧 告 したイ ンフ レ目標 値 を実現 して い るの であ る.す なわ ち,ひ とつ の有力 な解釈 として,す で に,イ ン ド準備 銀行 は本 稿 が想 定 して い る ような金 融政 策 ルー ル としてのITを 現 実 に採 用 してい る 可 能 性が高 い,と い うこ とで あ る.こ の論点 につ い ては,本 稿 の最 後 で も う一度 言及 す る こ とに しよ う. 上 記 の実 験 を他 の代 替 的 な変 数 で あ るM1・M3・ 卸売 物価 指 数 ・公 定 歩合 を 用 い るこ とで,そ の頑健 性 をチ ェ ック してお きたい.さ らに,変 数 の単位 根検 定 の結 果,中 央 政府 総 支 出 のみI(0)の 可 能性 が 完全 に排 除 で きない ので,レ ベ ル の変数 の ま ま用 い た と きの実験 結果が どの ように変 わ るのか も同時 に検 証 して み た.推 定 したVARの イ ンパ ルス応 答 関数 を推 定 してマ ク ロ経 済変 数 が長期 的 に発 散せ ず 収束 して い る こ とを確 認 した あ と,ITの 実験 結 果 の なか で最 も優 れ たパ フ ォーマ ンス を示 してい る(3)式 で定式 化 され たイ ンフ レ 目標 を採用 した 場 合 の5つ のケ ース を検討 す る.そ れ らの結 果 を示 した のが 第3表 で あ る. 第3表 金融政策の実験結果(RMSE)

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イ ン ド経 済 へ の イ ン フ レ ・ター ゲ テイ ングの 適 用 可 能 性 133 卸 売 物価 指数 を物 価 変数 に採 用 した場合,操 作 目標 に金 利 を設定 し,λ=0.1 の と き,RMSEが0.74%と 最 も優 れ た結果 が得 られ た.こ こか ら,物 価 指 数 の 選 定 にかか わ りな く,上 述の結 果 が成 り立 つ こ とが理 解 で きる.コ ー ル レー トの か わ りに,公 定 歩合 を採用 した場合 も,同 様 で あ る. つ ぎに,貨 幣供給 量をハ イパ ワー ドマ ネ ーか ら,M1とM3に 変 更 した場 合 は どうで あ ろ うか 操作 目標 をM1に した場合,λ=0の と き,最 もパ フ ォー マ ンス が 良 い.し か し,RMSEは3.33%と そ れ まで のIT政 策 ルー ル と比 較す れ 第3図 目標物価経路 とIT採用 時の物価 経路(M3の ケース) 第4図 IT採用 時の物価 経路 とイ ンフレ率(M3の ケース)

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ば高 くな ってい る こ とが わか る. これ に対 して,操 作 目標 をM3に 変 更 した場合,λ=1の とき,RMSEが1.13% とベ ンチマ ー クの実験 結果 に 匹敵す る ほ どパ フォーマ ンスが良 い.こ のケ ース の と きの 目標物 価 経路,現 実 の イ ンフ レ率 とITを 採 用 した と きの物価 経路 イ ン フ レ率 をそ れ ぞれ グ ラフ化 した のが,第3図 お よび第4図 で あ る.ベ ンチ マ ー ク の実験 結果 と同様 の優 れ たパ フォーマ ンス を示 して い るのが,理 解 で きる.さ 第5図 目標物価経路 とIT採 用時の物価経 路 (政府支 出が レベル変数のケース) 第6図 IT採用時の物価経路 とインフ レ率 (政府 支出が レベル変数のケ ース)

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インド経 済へ の インフレ ・ターゲテイングの適用 可能性 135 らに,ベ ンチ マ ー ク と比較 す れ ばM3を 操作 目標 した場合 に は,ITを 採 用 し た場合 のイ ンフ レ率 は,現 実 のイ ンフ レ率 を若干 下 回る こ とが判 明 す る.こ の実 験 か らは,M3を 操作 目標 に した場 合 のITも 十 分 に有効 で あ るこ とにな る. さて,そ れで は,貨 幣供 給 量か金 利 か どち らが 操作 目標 と して望 ま しい ので あ ろ うか こ こで は金 利 に軍 配 が あ げ られ るだ ろ う.第1に,第2表 と第3表 で 示 され て いる実験 結 果か らも理 解 で きる よ うに,最 もパ フォーマ ンス が良 いの が 金利 を操 作 目標 に設 定 した ときの金融 政策 ル ール だか らで ある.第2に,ハ イパ ワ ー ドマ ネ ー は と もか く,果 た して,イ ン ド準 備銀 行 が ピ ンポ イ ン トでM3な どの貨 幣供 給 量 を コン トロール で きるの か ど うか は必ず し も明 らか では ないか ら で ある.こ れ は,貨 幣乗 数 の安定 性 に依存 してい るが 他 国の経 験 か ら もさ らに イ ン ドの経 験 か ら もそ れ が安 定 して い る とい う保証 は必 ず し も存在 しない[Jha 2005]. 最 後 に,中 央 政 府 総 支 出 をI(0)と み な して,そ れ をVARモ デ ル に レベ ル の変 数 と して組 み 込 ん だ場 合 を検 討 してみ る こ とにす る.λ=0.05の とき, RMSEは1.11%と 最小 に なっ てい る.こ の ケ ース の ときの 目標物 価 経路,現 実 の イ ンフ レ率 とITを 採 用 した と きの物価 経 路,イ ンフ レ率 を,そ れぞ れ グ ラフ に したのが,第5図 お よび第6図 であ る. 第5図 や 第6図 に よれ ばITを 採 用 した場 合 の物価 経 路 や イ ン フ レ率 が ベ ンチ マ ー ク とほ とん ど変 わ らない 動 きを して い る こ とが わか る.ま た,現 実 の 物 価 トレ ン ドと毎 期 の現 実 の物 価 との乖 離 を示 すRMSEが0.550%で あ る に対 して,物 価 トレ ン ドの シ ミュ レー シ ョ ン値 と毎 期 の物 価 の シ ミュ レー シ ョ ン値 のRMSEが0.553%と なって い る.加 えて,鉱 工 業生 産指 数 のRMSEが 現実 で 2.045%で あ る の対 して,ITが 採用 され た場合 で2.049%と な ってい る.こ のパ フ オー マ ンス はベ ンチマ ー ク とほ とん ど一致 してい る. 以 上 か ら,ベ ンチ マー クの実 験結 果 は,変 数 選択 にか かわ らず頑健 であ る とい えるだ ろ う26. お わ り に 本稿 にお ける実験 結果 を要 約す れ ば以下 の よ うにな ろ う.第1に,目 標物 価水 準 を達 成 す る うえで,イ ン ド準備 銀行 が政 策反 応調 整係 数 を適切 に選択 す る な ら

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ばITは 概 ね有効 であ る.第2に,政 策 ル ール の操作 目標 と して,金 利 が貨幣供 給 量 よ りも望 ま しい.第3に,実 に観 察 され る物価 経路 とITを 採用 した場 合 の 物価 経路 が ほ ぼ一致 して い るこ とか ら,す で にイ ン ド準備 銀行 は金 融政 策 ルー ル と して のITの 事 実 上の採用 に踏 み切 ってい る可能 性 が高 い. す で に数 年 前 に,イ ン ド準 備 銀 行 エ コ ノ ミス トのR.Kannanや イ ンデ ィ ラ ・ ガ ンデ ィ開発 経 済研 究所 のR.Jha(現 オ ース トリア国 立大 学教授)は ,ITそ れ 自体 の趣 旨に は反 対 して い ないが(1)金 融 改革 の 進展(24適 切 な物 価 指 標 の作 成,(3)イ ン ド準 備銀 行 の独 立 性 の さ らな る向 上,(4)イ ンフ レ要 因 に関 す る実証 分析 の深化,な どを考慮 した うえ で,性 急 にIT採 用 に踏 み込 むべ きで

は な い と論 じて い た[Kannan 1999, Jha 2000].と くに,Kannan論 文 はY.V.

Reddyイ ン ド準備 銀 行副 総裁 の講 演 にお い て も好 意的 に紹 介 され てい る こ とか ら判 断す る と,IT採 用 はイ ン ドに おい て は短期 的 課題 で はな く,中 長期 的課題 で あ る ことが理解 で きる[Reddy 2000]. こ う した議 論 に加 え て,イ ン ド準備 銀 行 は イ ン ドで経 済 改 革 が ス ター トす る 1990年 代 初 頭 か ら,金 融 政 策の 機 能向 上 に向 け て着 々 と短期 金 融 市場 の整備 や 各 種 の金 融政 策 手段 の開発 を行 って い る[西 口2003].イ ン ド準 備 銀 行 は,「 法

的 な」de jure ITに 必ず し も拘泥 せず,「 事 実 上の 」de fact IT採 用 を既 成事 実 化 す る こ とで金 融政 策 レジーム転換 に よる市場 の不 必要 な混 乱 を最小 限 に食 い止 め る とい う戦 略 を採 っ てい る可 能性 が 高 い27.そ もそ も,ITは,第2節 で も解 説 した よ うに,金 融 政策 に 固有 の動学 的非 整 合 性を回避 す る点で 画期 的 な もので あるが,そ の ため には,民 間経 済 主体 の期待 に働 きか け,中 央 銀行 の イ ンフ レ目 標 に 向け た コ ミッ トメ ン トが 信頼 され なけ れ ばな らない.こ の こ とは,た とえば, 為 替 レー トの柔 軟 化 に 向 けた イ ン ド準 備 銀 行 の ス タ ンス に も表 れ てい る.1993 年3月 か らイ ン ドは事 実 上 の対 ドル完全 固定相 場 制 を採 用 して い る に もか か わ らず,国 内外 に は完全 変動相 場 制 を採 用 してい る こ とを公 表 して いた.と ころが 1995年7月 を境 に為 替 レー ト制 度 を柔 軟化 し,対 ドル で ル ピー を固定 す る時 間 間 隔 を徐 々 に縮 めて い き,2002年 か ら対 ドル レー トで名 目為 替 レー トの増 価 も 認 め る よ り柔軟 な変動 相場 制 度 を実 現 す る に至 った.ち ょう ど,IT採 用 につ い て も,イ ン ド準 備銀 行 は,金 融政 策 の実績 を積 み上 げ る こ とで民 間経 済主 体 の期 待 を誘 導す る とい う,漸 進主 義 的な アプ ローチ を採 っ てい る もの と推 察 で きる. す なわ ち,民 間経 済主体 の期 待 イ ン フ レ率の安 定化 この こと こそ が イ ン ド

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インド経 済へ のインフレ ・ター ゲテイングの 適用 可能性 137 が 「事 実上 の 」ITを 採用 した こ との最 も重 要 なメ リッ トで あ る. さ らに,政 策 トリレ ンマ を想定 す れ ば 経済 発展 の ため に外 国資本 の流 入が 必 要で あ るイ ン ドは,資 本 自由化 の プロセ ス を着 実 に推 し進 めて いか なけ れば な ら な い し,そ れ と同時 に 自立 的 な金 融 政策 を実行 す るた め には,為 替相 場制 度 を固 定相場 制 度 か ら変動 相場 制 度 に移行 させ る必 要が あ る.ち ょう ど 為 替 レー トが 柔軟 化 す る1995年7月 か ら1999年 頃 まで の期 間 は,ま さに,固 定相 場 制度 か 自立 的 な金融 政策 か の どち らを維持 す るの か をめ ぐる過渡期 であ った.イ ン ドは 1990年 代 末 か ら,「資本 自由化 ・柔軟 な為 替 レー ト制 度 ・自立 的 な金融 政策 」 と い う選択 肢 を採用 す る方 向 に踏み 出 した こ とが 本稿 の実 証分 析 か ら示 唆 され る わ けで あ るが そ の意 味 でい え ば,イ ン ドの 「事 実 上 の」IT採 用 は資本 自由化 を は じめ とす る経済 の グ ローバ リゼ ー シ ョンの結 果 だ と言 えな くもない. 加 えて,以 下 の2点 につ いて言 及 して お こ う.一 つ はITと 実質為 替 レー トの 関係 で あ り,も う一 つ は 中央 銀 行 の物 価 安 定化 にお け る役 割 で あ る.第1の 点

につ い て,Joshi[2003],Joshi and Sanyal[2004]が1990年 代 の イ ン ドの金 融

政策 が 実質 実効為 替 レー トを安 定化 させ る ような もので あ った こ とを示 唆 して い る.加 え て,イ ン ドを,シ ン ガポ ー ル と と もに,金 融 政 策 の フ レー ム ワ ー ク と してBasket-Band-Crawl(BBC)レ ジー ム を採用 してい る とす る議論 もあ る [Rajan200(].た しか に,実 質 実効為 替 レー トの推 移 を追跡 し年平均 で な らして み れ ば それ は1990年 代 後半 以 降安 定 して い る こ とが わか る.実 際,イ ン ドに お い て,IT採 用 を は じめ て提 言 した 「資本 勘定 の 交換 性 に 関す る委 員会 」 の委 員 長 を務 め たS.S.タ ラポー ル元 イ ン ド準 備 銀行 副総 裁 は,IT採 用 に加 え て,実 質 実効 為替 レー トの安 定化 を重 視 すべ きで あ る こ とを主 張 して い る[タ ラポー ル 1998].こ こで は,つ ぎの こ とだ け指 摘 してお きたい.す な わ ち,実 質 実効 為替 レー トの決 定 にあ た って,海 外 の イ ンフ レ率が イ ン ドに とって与件 で あ る とす る な らば重 要 な変数 は2つ で あ る.1つ は,名 目為替 レー トで あ り,も う1つ は国 内の イ ン フ レ率 で あ る.実 質実効 為替 レー トは,い ずれ か1つ だけ を操作 す る こ とで も,あ るい は両方 を操作 す る こ とで も安 定化 させ る こ とが で きる.す なわち, IT採 用 と実 質実 効為 替 レー トの安 定化 とは必 ず し も相 互 に排 他 的 な 関係 に あ る わ けで はな い. 第2の 点 につ い て,イ ン ドの中 央銀 行 が 果 た して ど こまで 物価 安 定 化 の責 務 を担 うの か とい う問 題 であ る.ITは 当然 イ ンフ レ 目標 を設定 す るが 中央銀 行

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は天候 不順 や石 油価格 上 昇 な どの外 生 的要 因 に よる 目標 値 か らの逸脱 につ い て は 免 責 され るのが 一般 的 であ る.ま た,通 常 イ ンフ レ 目標 のベ ース に なる物価 指 数 には,生 鮮食 料 品や石 油 な どが控 除 され た コ アCPIが 用 い られ るこ と も多 い. イ ン ドで も,ITが 「法 的 に」採用 され る場 合 に は,中 央銀 行 の免 責 条項 や 目標 物価 指 数の 選定 な どの詳細 を詰 め る必要 が あ るの は間違 い ない. 国民 の エ ンゲ ル係 数が 高 く,GDPに 占め る農 業 部 門の シェ ア も落 ち て きた と はい え25%も あ るイ ン ドの ような貧 困 国 ・農業 国 にお い て は,物 価 安定 化 に あ た っ ては 中央銀 行 に よるITだ けで は な く,食 糧 管理 政 策や 鉱物 燃料 な どの管理 価 格 制度 な ども依 然 として重要 な機 能 を果 た し続 け るで あろ う.中 央銀行 が 各 種 の金融 政策 を用 い る ことで金利 水 準や貨 幣供 給 量 を誘 導 し,ひ いて は,物 価 水 準 に甚大 な影 響 を持つ こ と も事 実 であ るが,IT採 用 に よ り食糧 管 理政 策 や管 理 価 格制 度 の全 てが 不要 に なるわ けで は ない こ とは,こ こで確 認 して お きたい. 本稿 の今 度 の課題 として,以 下 の3点 を指 摘 してお く.第1に,ITは 第2節 で解 説 した よ うに,民 間経済 主体 の期待 形 成 に影 響 を与 え る もので あ るが その 観 点 か らい え ば 「フ オー ワー ド ・ル ッキ ング 」(forward-looking)モ デ ル を利 用 す る必要 が ある.こ れは,中 央銀 行 が民 間経 済主体 の期 待 を折 り込 んで 政策 を 策 定す る側 面 を明示 的 にモ デル に導入 す る もので あ る[鎌 田 ・武藤,2000].第2 に,VARモ デ ル以外 の マ クロ計 量 モデ ル を利 用 して本稿 の結果 が どの 程度 モ デ ル 問で頑 健性 を もってい るの か を確 認す る必 要 があ る.第3に,近 年 の金融 政 策 の分 析 で頻 繁 に用 い られて い る構 造VAR(Structural VAR)や 構 造ベ ク トル

誤差 修正 モ デル(Structural Vector Error Correction Model)を 用 い た再検

証が 必要 だ ろ う. 最後 に,ITを 実証 的 に分析 す る作 業 は よ うや くそ の緒 に就 いた ばか りで あ る. 本 稿 をベ ース に して,ITの 実 証分 析 を今後 と も継続 してい きた い. 注  1) タ イ ・イ ン ド ネ シ ア ・フ ィ リ ピ ン の 東 南 ア ジ ア3ヶ 国 に お け るITの 有 効 性 に 関 す る 実 証 分 析 と し て は,久 保[2006]が あ る.ま た,久 保[2006:第1章]で は,新 興 市 場 国 に お け るITに 関 す る 先 行 研 究 の 包 括 的 な サ ー ベ イ を 行 っ て い る. 2) (3)に つ い て は,佐 藤(2002)で 明 確 に指 摘 さ れ て い る.詳 し くは,そ の 第5章 と第6章 を 参 照 さ れ た い.

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インド経済 へ のインフレ ・ターゲテイングの適 用可能 性 139

こ の 問 題 に 関 す る 簡 単 な 解 説 と して は,白 塚[1998:第2章],藤 木[1998:第3章],岩 本 ほ か[1999:第3章],Blinder[1998],MaCallum[1989]を 参 照 され た い.

4) "Adopt Inflation Targeting Approach to Monetary Policy", Business Line, June 18, 1999.

5) "lnfiation Targeting", Business Line,November 10,1997-ち なみ に,Rangarajan前 総 裁 は,委 員 と して 参 加 し た チ ャ ク ラ バ ル テ ィ委 員 会 報 告[Researve Bank of India 1985] が 採 用 を勧 告 した 「フ ィ ー ドバ ッ クの あ る マ ネ タ リー ・タ ー ゲ テ ィ ング(MT)」 の 採 用 を 忠 実 に(す くな く と も形 式 的 に は)実 行 して きた.実 際,IMFに よ る 各 国 の 金 融 政 策 運 営 の 分 類 と し て イ ン ドはMTを 採 用 し て い る 国 と して み な さ れ て い る(IMF,International

Financial Statistics Year Book 1999, p.14).

6) Reserve Bank of India, Monetary and Credit Policy for the Year 1998-99.

7) こ の 点 につ い て は,Majumdar [1999],Batcha [2000]を 参 照 され た い.MTが 機 能 す る た め に は(1)貨 幣 乗 数 が 安 定 的 で あ る こ と,(2)貨 幣 需 要 関 数 が 安 定 的 で あ る か 予 測 可 能 で あ る こ とを 少 な くと も必 要 とす る が,こ れ らの 条件 が 必 ず し も イ ン ドで 成 立 して い る わ け で は な い こ とが 実 証 分 析 な どで 明 らか に され て い る(詳 し くは,た とえ ば,佐 藤(2002:第4章) やJha(2005)を 参 照 され た い).MTか ら複 数 指 標 ア プ ロ ー チ へ と金 融 政 策 の フ レー ム ワ ー ク の 変 更 も こ う し た事 情 が 存 在 して い る もの と推 察 され る.そ の 意 味 で も,IT導 入 は,イ ン ドの金 融 政 策 の 発 展 か らも 自然 な流 れ で あ る. 8) イ ン ドの 金 融 シ ス テ ム の 特 徴 とそ の 改 革 に つ い て は,ひ と まず 下 記 の 文 献 を参 照 され た い. 絵 所[1997],Joshi and Little[1996],Reddy[1999a],Sen and Vaidya[1997].ま た,金 融 改 革 に 関 連 す る重 要 な政 策 関連 文 書 と して は,Government of India[1991][1998]の2次 にわ た る ナ ラ シ ンハ ム 委 員 会 報 告 が 重 要 で あ ろ う.

9) Government of India and Reserve Bank of India[1994][1998].

10) LAF導 入 の経 緯 とその後の進展 については,西 口[2003]が 丁寧な解説 を している.参 考 に されたい.

11) Reserve Bank of India, Report on Currency and Finance 2004-05.

12) 同 委 員 会 の 議 長 を 務 め たS.S.Tarapore前 イ ン ド準 備 銀 行 副 総 裁 は,そ の 後 も 講 演 な ど の 公 の 場 で,IT採 用 の 提 言 を 行 っ て い る."No Case for Reducing Bank Rate",The Economic Times,March 22,2000. 13) 政 策 トリ レ ンマ は,「 不 可 能 な三 位 一 体 」(Impossible・Trinity)と もい う.1990年 代 以 降 の イ ン ド経 済 を こ の フ レー ム ワー クで 分 析 した もの と して は,た と え ば 佐 藤[2002:第6章] とJoshi[2003]を 参 照 され た い. 14) こ の 記 述 は若 干 不 正 確 で あ る か も しれ ない.な ぜ な ら,イ ン ド準 備 銀 行 法 の 前 文(preamible) で は イ ン ド準 議 銀 行 の 役割 が 「イ ン ドに お け る通 貨 安 定 を確 固 な もの にす る とい う観 点 で 銀 行 券 発 行 と準 備 維 持 を管 理 し,か つ,一 般 的 に わが 国 に有 利 に な る よ う に そ の 金 融 制 度 を管 理 運 営 す る こ とで あ る 」 と述 べ られ て い るか ら で あ る.し か し なが ら,イ ン ド法 体 系 にお い て,法 律 条 文 そ の もの で な い前 文 の 法 制 度 上 の 位 置 づ け は 必 ず し も 明確 で は な い こ と を,こ こで 指 摘 し て お こ う.

15) Reserve Bank of India, Annual Report 1997-98, par. 3.1.

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17) Reserve Bank of India, Monetary and Credit Policy for the Year 1999-2000, par. 27. 18) Reddyイ ン ド準備銀行 副総裁 も,「イ ン ドにおい て,金 融 政策は物価安定 と経済成 長 とい う 目標 をいつ も強調 して きた」 と述べ ている[Reddy 1999].し か しなが ら,こ う した金融政 策の 目標 はイ ン ドでは必ず しも自明な ことでは なか った.た とえばda Costa[1985]を 参 照 されたい.そ こでは,イ ン ド準備銀行 の開発 金融 と農業へ の信用供 与 などへ の貢献 の点で 世界 で も極めてユ ニークな ものであ るこ とを強調 してい る.物 価 の安定化 はせ いぜ い副次的 な もの として取扱 われている.近 年 になって,第1に 中央銀行 の独 立性が高 いと物価 が安定 している こと,第2に 経済成長率 とイ ンフ レ率には負の 関係 が観 察 され ること,な どが各種 の実証 分析 で明 らかにされて きた こともあって,中 央銀行の独立性 に関す る関心が高 まって きたわ けである.こ うした点 について は,藤 木[1998],Fry et al.[1996]などを参照 された い.イ ン ド準備銀行 による最 近年の物価安定重視 の姿勢 は,こ う した背景 を持 っている とみ なす こ とが で きるReserve Bank of India, Report on Currency and Finance 1998-99,p. II-6.).以上 の議 論か らも明 らかな ように,イ ン ドの金融政策 がその最終 目標 として物価 の 安定 と経済 成長の2つ を掲 げている ことは,必 ず しも相互 に矛盾 する もので はない. 19) 金融政 策ルール にお ける多 くの諸研 究のなかで,金 利 を操作 目標 とするテ イラー ・ルール と, 貨幣 供給量 を操作 目標 とす るマ ッカラム ・ルールの優 劣 に関 しては依然 として決着 していな い.た だ し,本 稿 にお ける定式化 はテイ ラー ・ルールやマ ッカラム ・ルール と厳密 に同 じも ので はないこ とに注意 されたい. 20) イン ドでは,GNPあ るいはGDPの 月次デー タが存在 しない.VARモ デルで は十分 な 自由 度が必要 であるため,月 次 で長期 にわた って利用可 能であ る鉱工業生産指 数 を産出量変数 と して利用 した. 21) https://reservebank.org.in/cdbmsi/servlet/login/ 22) http://www.rbi.org.in/scripts/BS\ _ViewBulletin.aspx 23) http://cga.nic.in/ 24) 中央政府総支 出のみ,I(0)の 可能 性を完全 に排 除す ることが 困難 であるが,あ とで行 う金 融政策 ルー ルの実験 においては中央政府総支 出をI(0)と み な した実験 も行い,本 稿 のメイ ンとなる実証分析結 果の頑健性 を検討 している. 25) 次数pのVARモ デルのSBICは 以下 のように して算出 され る. ここで,││は 行 列式,mは 利用 され ている変数 の数,Tは 観測 数,Ω は誤 差項ベ ク トル の共分散 行列の推定値 である. 26) 本稿 の実 験結果 は,本 論 文で全 てを記 載す るには分量 が多 いためその多 くを割愛 してい る. しか し,読 者 で全 て の推定結 果が必 要 な方 は,著 者(tulain 1998@yahoo.co.jp)ま で連絡 して もらえれ ば,そ れ らを電子 メールで送付す る.

27) Jha[2005]は イ ン ド準備 銀行 がた とえIT採 用 に踏 み切 った と して も,ITを 実現 す る こと がで きな い ことを主張 してい る.本 稿 の結論 は,必 ず し も,Jha[2005]の それ と大 き く異 なる もの ではない.「法的 な」ITを 採用 する うえでJha[2005]が 指摘す る ように,イ ン ド 準 備銀行 が クリアー しなけれ ばな らないい くつかのハ ー ドルがあ るが(た とえ ば,イ ン ド

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インド経済 へ のインフレ ・ターゲテイングの適用 可能 性 141 政 府 か らの よ り一 層 の独 立 化 ・金 融 政 策 の 波 及 経 路 の 整 備 ・適 切 な物 価 指 標 の 選 定 ・供 給 シ ョ ッ ク の場 合 の 金 融 政 策 の対 応 ・イ ン ド準 備 銀 行 の免 責 条 項 な ど),こ れ ら は早 急 に 片 付 け られ る性 格 の も の で は な い だ ろ う.し か しな が ら,イ ン ド準 備 銀 行 に よ る 「事 実 上 の 」IT 採 用 に 向 け た 取 り組 み が 全 て無 駄 な も の で あ る と考 え る こ と は 決 して で きな い.す な わ ち, Jha[2005]が 「法 的 な」IT採 用 に批 判 的 で あ る とい うス タ ンス を強 く打 ち 出 して い る の に対 して,本 稿 は 「事 実 上 の 」IT採 用 に 向 け た イ ン ド準 備 銀 行 の取 り組 み を 評価 し て い る の で あ る.そ の 意 味 で,そ れ は,強 調 点 の 相 違 に過 ぎな い. 参 考 文 献 日 本 語 文 献 伊 藤 史 朗 ・北 川 雅 章,1996,「 『金 融 政 策 ル ー ル』 に 関 す る計 量 分 析 」,『経 済 学 論 叢 』,47-2,pp. 1-50. 岩 本康 志 ・大 竹 文 雄 ・斉 藤 誠 ・二 神 孝 一・,1999,『 経 済 政 策 とマ ク ロ経 済学 』 日本 経 済 新 聞 社. 絵 所 秀 紀,1997,「 イ ン ド型 金 融 シ ス テ ム の 形 成 と構 造 」 『一 橋 大 学 経 済研 究 所COE Discussion Paper』,97-14. 鎌 田康 一 郎 ・武藤 一郎,2000,「 フ ォー ワー ド ・ル ッ キ ン グ ・モ デ ル に よ る我 が 国金 融 政 策 の 分 析 」, 『日本 銀 行 調 査 統 計 局Working Paper』00-7. 久 保彰 宏,2006,『 ア ジ ア 通 貨 危 機 後 の金 融 政 策:東 南 ア ジ ア諸 国 の イ ンフ レ ・ター ゲ テ ィ ン グ採 用 』,大 阪市 立 大 学 博 士 学 位 申請 予 定 論 文. 佐 藤 隆 広,2002,『 経 済 開発 論 』,世 界 思 想 社. タラ ポ ー ル,S.S.1998,「 イ ン ドの 資 本 自 由化 」,S.フ ィ ッ シ ャ ー ほ か(岩 本 武 和 監 訳)『IMF資 本 自由 化 論 争』 岩 波 書 店,1999年. 白塚 重 典,1998,『 物 価 の 経 済 分 析 』,東 京 大 学 出版 会. 西 口 章 雄,2003,「 管 理 変 動 相 場 制 度 下 の イ ン ド に お け る マ ク ロ経 済 政 策」 『同 志 社 商 学 』, 54-5/6,pp.225-246. 藤 木 裕,1998,『 金 融 市 場 と 中央 銀 行 』,東 洋 経 済 新 報 社. マ ッ カ ラ ム,B.T.,1989,「 金 融 政 策 の 中 間 目標 参 照 指 標 お よ び 政 策 手 段 」 『フ ィナ ン シ ャル ・ レ ビ ュー 』,May. 英 語 文 献

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参照

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