感染症に対する年齢構造モデルと 病気の消滅過程
Age-Structured Models for Infectious Diseases and Disease Extinction
数学専攻 河平 健太
KAWAHIRA Kenta
本論文は,年齢構造を導入したSEIRモデルの偏微分方程式を用いて,病気の消滅過程につい て論じる.
1 SEIR モデル
まず,母子感染はなく,死亡率は年齢のみに依存すること.感染力に対して感染者と被感染者 の年齢間に相関がないこと.予防接種を受けた人と病気から回復した人には病気に対して免疫 が与えられ,その免疫は生涯続くこと.以上のことを仮定する.
総人口N(t, a)を次のようなS(t, a), E(t, a), I(t, a), R(t, a)の4つのカテゴリーに分けた.
S(t, a) :感染する可能性のある人口の年齢分布
E(t, a) :感染しているが相手に感染させない人口の年齢分布
I(t, a) :感染していて相手に感染させる可能性のある人口の年齢分布
R(t, a) :病気からの回復による免疫保持者の年齢分布
tは時刻を表し,aは年齢を表す.ここではEを潜伏期間とし,Iを発症期間とする.
このような4つの人口の年齢分布を表すSEIRモデルを次のような偏微分方程式で表した.
µ∂
∂t+ ∂
∂a
¶
S(t, a) =−(µ(a) +ν(a))S(t, a)−S(t, a)φ(t, a) µ∂
∂t+ ∂
∂a
¶
E(t, a) = −(µ(a) +η(a))E(t, a) +S(t, a)φ(t, a) µ∂
∂t+ ∂
∂a
¶
I(t, a) = −(µ(a) +γ(a))I(t, a) +η(a)E(t, a) µ∂
∂t+ ∂
∂a
¶
R(t, a) =−µ(a)R(t, a) +ν(a)S(t, a) +γ(a)I(t, a)
(1.1)
1
境界条件
S(t,0) = B, E(t,0) = 0, I(t,0) = 0, R(t,0) = 0 (1.2) 初期条件
S(0, a) = S0(a), E(0, a) =E0(a), I(0, a) =I0(a), R(0, a) = R0(a) (1.3) Bは出生数を表す.µ(a)は死亡率,ν(a)は予防接種率を表す.また,η(a)は潜伏期間から発症期 間へ変わる確率,γ(a)は回復率を表す.k(a, b)をa歳の感染する可能性のある人と,b歳の感染者 との間における感染率とし,φ(t, a)を時刻t,年齢aにおける感染率とし,
φ(t, a) = Z ∞
0
k(a, b)I(t, b)db (1.4)
と表す.仮定より,
k(a, b) = k1(a)k2(b) (1.5)
(1,4),(1,5)より,
φ(t, a) =k1(a) Z ∞
0
k2(b)I(t, b)db (1.6)
時刻tにおける感染力ψ(t)を次のようにおく.
ψ(t) = Z ∞
0
k2(b)I(t, b)db (1.7)
2 SEIR モデルの変換
次にSEIRモデルの4つの偏微分方程式をより簡潔な偏部分方程式に変換する.まずF(a)を 0歳の人がa歳まで生存する確率,V(a)をa歳で予防接種を受けていない確率とし,H(a)を生ま れてすぐに感染した人がa歳でまだ潜伏状態である確率,G(a)を生まれてすぐに感染した人がa 歳でまだ発症期間である確率とする.さらに,
u(t, a) = S(t, a)
F(a)V(a), x(t, a) = E(t, a)
F(a)H(a), y(t, a) = I(t, a)
F(a)G(a) (2.1)
とおくことにより,SEIRモデルの偏微分方程式を次のような偏微分方程式に変換できる.以 後,(2,2)式を使って話を進めていく.
µ∂
∂t+ ∂
∂a
¶
u(t, a) = −u(t, a)φ(t, a)
µ∂
∂t+ ∂
∂a
¶
x(t, a) = V(a)
H(a)u(t, a)φ(t, a) µ∂
∂t+ ∂
∂a
¶
y(t, a) =−H0(a) G(a)x(t, a)
(2.2)
2
境界条件
u(t,0) =B, x(t,0) = 0, y(t,0) = 0 (2.3)
初期条件
u(0, a) = S0(a)
F(a)V(a), x(0, a) = E0(a)
F(a)H(a), y(0, a) = I0(a)
F(a)G(a) (2.4)
y(t, a) = I(t, a)
F(a)G(a)とおいたことにより,感染力ψ(t)は(1,7)より,次のように表される.
ψ(t) = Z ∞
0
k2(a)F(a)G(a)y(t, a)da (2.5)
3 感染力を表す関数の構成
3.1
変換後の式を用いた感染力を表す関数の構成(2,2)の解を使って感染力ψ(t)を次のように構成することができる.
ψ(t) =ψ1(t) +ψ2(t) +ψ3(t) +ψ4(t)
ψ1(t)≤ Z t
0
ψ(t−r)
·Z t
r
BK(b, b−r)db
¸ dr
ψ2(t)≤ Z ∞
0
k2(r+t)F(r+t)
F(r) ψS0(r)
·Z r+t
r
k1(a)da
¸ dr
ψ3(t)≤ Z ∞
0
k2(r+t)F(r+t)
F(r) E0(r)dr
ψ4(t) = Z ∞
0
k2(r+t)F(r+t)G(r+t)
F(r)G(r) I0(r)dr
(3.1)
3.2
平衡状態における感染力を表す関数の構成次に,(2,2)より,平衡状態においての偏微分方程式は次のようになる.
u0(a) =−u(a)φ(a)
x0(a) =u(a)V(a) H(a)φ(a) y0(a) =−x(a)H0(a)
G(a)
(3.2)
境界条件
u(0) =B, x(0) = 0, y(0) = 0 (3.3)
3
(3,2)の解をu∗(a), x∗(a), y∗(a)とおく.また感染力をψ∗とすると,(2,5)より, ψ∗ =
Z ∞
0
k2(a)F(a)G(a)y∗(a)da (3.4)
と書ける.(3,2)の解を使ってψ∗を構成していくと次のようになる.
ψ∗ =− Z ∞
0
k2(a)F(a) µZ a
0
µZ s
0
u∗(b)V(b)
H(b)ψ∗k1(b)db
¶G(a) G(s)dH(s)
¶
da (3.5)
ψ∗ = 1とおき,u∗(a)を代入し,(3,5)をR(ψ∗)と近似すると, R(ψ∗) = −
Z ∞
0
k2(a)F(a)
³ Z a
0
³ Z s
0
Bexp(−K(b)ψ∗)V(b)
H(b)k1(b)db
´G(a) G(s)dH(s)
´
da (3.6) また,(3,6)においてψ∗ = 0のとき,次のようになる.
R(0) =−B Z ∞
0
k2(a)F(a) µZ a
0
µZ s
0
V(b)
H(b)k1(b)db
¶G(a) G(s)dH(s)
¶ da
(3.7)
4 病気の消滅過程
R(ψ∗)はconstantな感染力ψ∗に対して一人の感染者から生じる二次感染者の人数の期待値
を表し,感染力ψ∗のもとでの再感染比と呼ぶ.R(0)は病気が感染者によってのみ生じていると き,一人の感染者から生じる二次感染者の人数の期待値を表し,基本再感染比と呼ぶ.病気の消 滅について考えていくと,R0 > 1であれば病気は広がり感染者人口は増大するが,R0 < 1であ れば病気は広がらずに感染者人口は自然に減っていくことが考えられる.これらを使って以下の 定理を示せる.
Theorem
R0 <1
関数k1とk2が有界 t→ ∞のときtF(t)→0 とすると,t → ∞のときψ(t)→0となり 病気は消滅する.
この定理は感染者一人一人から二次感染者が生じないとき,無限時間後には感染力は0に収束 し,やがて病気が消滅することを示している.
参考文献
[1] HORST R.THIEME,Mathematics in Population Biology,Princeton University,2003.
[2] 宮寺功,関数解析,理工学社,1996.
[3] 稲葉寿,ケルマック-マッケンドリック伝染病モデルの再検討,東京大学大学院数理科学研究 科,2002.
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