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支出税の原理と北欧諸国の二元的所得税

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(1)

修士論文

支出税の原理と北欧諸国の二元的所得税

三重大学大学院 人文社会科学研究科 社会科学専攻 地域行政政策専修 指 導 教 官 : 森 俊 一

109M256 杜 強

(2)

はじめに

I 消費課税論・・・

1 所得課税論・

①所得の包括的定義

②所得税体系の批判

目次

( 2 )

・ ・ ( 2 )

2 貯蓄控除型支出税(古典的支出税) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ( 4 )

①カルドア支出税論

②所得税体系と支出税体系の比較 i 公平の観点

並効率の観点

3 前納方式の支出税(賃金税) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ( 1 2 ) E 二元的所得税論・. .  . . . .  . . .  .  .  .  .  .  .  .  . .  . .・・・・・・・(1 8 ) 1 二元的所得税の概要・. . . . .  .  . .  .  .  .  .  .  . . . .  . . .・・・・・ ( 1 8 ) 2 二元的所得税の論拠・. .  . . . .  . .  .  .  .  .  .  . . . .  . . .・・・・・ ( 1 9 )

①支出税論からのアプローチ

②最適課税論からのアプローチ

3 北欧諸国における二元的所得税の検討・. .  .  .  . .  . . .  .・・・・・・・ ( 2 7 ) 田法人税論・・・・・. . . . .  . . .  .  .  . .  .  .  . . .  . . . .・・・・・ ( 3 2 )

1 所得税・・

2 支出税・‑

3 二元的所得税・・. . . 

おわりに

・ ( 3 2 )

・ ( 3 3 )

( 3 5 )

(3)

はじめに

本稿では,北欧諸国に行われた二元的所得税を検討の課題とする。二元的所得 税とは利子・譲渡益(キャピタル・ゲイン)など資産所得を勤労所得の二次所得に 見なし,勤労所得と区別して課税するいわば分類所得税の一種である。つまり,所 得税から二元的所得税への税制改革はきわめて大胆に見えるが,改革は所得税内 部に限定されていると思われる。今日まで既に所得税に対して種々な角度から批 判が投げかけられ,所得税の欠陥が指摘されている。その中で最も有力な批判は 支出税の視点からなされてきたものである。したがって,所得税の代替案として 挙げられているこ元的所得税を検討すると同時に,支出税の議論を展開する必要 があり,この二つの税制を分析することが本稿の柱となる。そして,本稿の基本的 立場は所得税内部で改善の方向を探るより,支出税を代替案として一層前向きな 議論をすべきということである。

本稿の構成は以下の通りである。第 I節では,所得税(包括的所得税)の問題点 を例挙し,租税論の観点から支出税の所得税に対しての優位性を分析し,支出税の 原理を明らかにする。そして,第 H 節は二元的所得税の検討が中心であるが,理論 と実際両面に分けて行うことにする。理論的側面では二元的所得税の支出税と最 適課税論との関連性を探り,実際的側面ではスウェーデ、ンの事例を通じて二元的 所得税が導入された経緯と税務について検討を試みる。第皿節法人税論では,所 得税と支出税における法人税のあり方を検討した上で,二元的所得税にふさわし い法人税を考察してみる。

なお,本稿の作成にあたり,長年,指導してくださった森先生に深い感謝のお礼 を申し上げたいと思う。また,奨学金をいただいた三重県国際交流財団にもこの 場を借りて感謝したい。

‑1‑

(4)

I 消費課税論

個人直接税の課税ベースとして,すなわち個人の税支払い能力または担税力の 基準としては,いうまでもなく,所得と消費があげられる。消費課税論は消費を課 税ベースとする課税論であり,消費課税には,消費税や E U 諸国の付加価値税が該 当する間接タイプと消費支出を課税ベースにする直接タイプの支出税がある。な お,本稿では,支出税のみを議論の対象とする。支出税を検討する最大のメリット として,それはとりわけ所得税について理論的にその固有の欠陥を指摘してくれ ることだといわれている(1)。本節では,まず所得税論を検討し,支出税の原理につ いて議論してみたい。

1 所得課税論

①所得の包括的定義

租税負担を考察する際には,水平的公平と垂直的公平が問題となる。水平的公 平とは,同じ担税力のある人は同一の租税負担をすべきであるという考えを表す。

また,垂直的公平は,より担税力のある人はより多くの租税負担をすべきという考 えである。そもそも,担税力(税支払い能力)を何を用いて表すか,いわゆる担税力 の尺度を考慮しなければならない。これについて,いままでの財政学が主に提起

してきたのは所得である。大) 1 1 ( 1 9 7 5 ) によれば,所得概念をめぐって,三つの学 説がある。所得源泉説(周期説)と純資産増加説(経済力増加説)と所得即消費説で ある。とくに,経済力増加説の考え方は今日でもなお有力な規範理論であるとい える。それはシャンツ ( S c h a n z , ι v o n ) , へイグ ( H a i n g , R . 幼,サイモンズ

( S i m o n s ,  H .  C)等によって提唱された概念であり,経済力(経済資源の支配力)の増 加に寄与するあらゆる種類の所得を無差別に算入し,包括的な把握を行おうとす

‑2‑

(5)

るものである。それによると,ある期の所得はその期において資産を減らすこと なく消費しうる額として定義され,簡潔的に定式化すれば,

y  =  C  +  ~W(Y: 所得, C: 消費, ~W: 富の純増)

になる。石 ( 1 9 9 3 ) ではこの所得の中身である消費と富の純増はつぎのように整理 される。消費は①要素所得および移転所得からの消費②自家消費③所有資産・耐 久消費財の使用価値などによって構成され,富の純増は①純貯蓄の蓄積②所有資 産の価値増加によって捉えられる。

②所得税体系の批判

包括的所得に課税する包括的所得税は上述のように,課税ベースを漏れなく広 く捉えることで,水平的公平を目指すとともに,累進的税率を適用することによっ て,垂直的公平も達成することを目指している。しかし,現実の所得税は包括的所 得税の理論から大きく逸脱しており,強い批判が投げかけられてきた。宮島

( 1 9 8 6 ) は,この理論と実際の事離には,理論とカータ一報告 ( 1 9 6 6 ) のようなモデ、ル 提案との事離,モデ、ル提案と実際の姿との帯離というこつの段階があると述べら れている ( 2 ) 。本節では,所得税体系への批判の論点を,一般的かつ簡潔に取り上げ たい。

所得税の問題の多くは所得の概念から整理することができる。まず,年間所得 額で測定した個人の担税力は公平性に欠けていると指摘される。安定的所得を得

る個人と不安定な所得を得た個人が年間所得は同額である以上,同額の税負担を 負わせざるをえない。これは,人々の公平観に決して合致するとはいえないだろ う。また,上述のような所得の定義に忠実に従えば,勤労所得や資産所得のみなら ず,種々な経済活動から発生する帰属所得や現物所得(フリンジ・ベネフィット), 

‑3‑

(6)

さらに,未実現キャヒ。タル・ゲインも経済力を増加させるから,課税ベースに含ま れねばならない。しかし,帰属家賃や自家消費などを的確に評価し課税すること はきわめて難しい。また,税務執行上も大きな障害を作り出しているのが明らか である。

本来,資産の純増(キヤヒ

o

タノレ・ゲイン)が課税ベースに算入されるのは,包括的 所得概念に基づくと,発生ベースでなければならない。しかし,それは現実的には 不可能であるため,現行の所得税では,実現ベースで算入せざるを得ない。そうな ると,納税者が資産の売却を延期したり,または,それを贈与・遺産として処分し たりすることによって,税負担の回避を図ることができる。さらに,累進課税のた め,実現時に税負担の急増も考えられる。これを避けるためには,特別控除など措 置が講じなければならない。そうでないと,資産の流動性を制約する効果(ロック イン)を生じさせる。

所得税への批判のうち,検討に値するものには貯蓄の二重課税という問題であ る。所得税は課税後の所得から貯蓄した利子にも課税するため,貯蓄に対するイ ンセンテイブを弱め,資本形成を阻害する。租税原則に準じていえば,所得税は生 涯を通じる水平的公平が確保されない,かっ効率性の原則も損なっている。これ は支出税論者によって提起された所得税批判の論点であるため,支出税論の節で 詳しく検討してみたい。また,所得税についての一層の議論は支出税また二元的 所得税との比較において行うこととする。

2 貯蓄控除型支出税(古典的支出税)

支出税は人が社会全体に何を寄与するかということよりも,何を取り出すかを,

課税の際に考慮することが公正であるというホッブスの思想をその倫理的根拠の

‑4‑

(7)

ーっとしている ( 3 ) 。支出税は消費の資金源泉または消費に用いられる資金を課税 ベースとするものであり, しばしば 消費タイプ"または キャッシュ・フロ ータイプ"所得税とも呼ばれる。古典的支出税のしくみについては,次節で前納 方式支出税とあわせて詳しく検討してみたいが,ここで、はカルドアが支出税をい かなる論拠に基づいて提案しているかを明らかにしたい。なお,本稿では支出税 は古典的タイプ支出税のことを指し,前納方式支出税あるいは前納タイプ支出税 は賃金税と称することがある。また,所得税は包括的所得税あるいは総合所得税 の略であり,現在,実行されている所得税は現行所得税と名づける。

①カルドア支出税論

消費課税論は長い歴史を持つが,支出税論議が新たな展開を示した契機となっ

たのは,イギリスの著名な経済学者 N. カルドアの『支出税~ ( 1 9 5 5 ) という著作で あった。カルドアは経済力の増加分を包括的所得概念でとらえることは不可能と 主張し,むしろ現実の消費支出のほうが各人の担税力をとらえる指標として適切

と考える。すなわち,経済力への貢献度の差異を包括的所得概念で捉えることは 限界があると指摘した ω 。彼は人々が自らの経済力,とりわけ所得・財産・偶然 利得の性質の相違,現在の境遇,将来の予想、などを総合的に考慮して消費支出を決 定するから,この消費支出こそ担税力の尺度にふさわしいと主張する。さらに,課 税標準の個人の消費額の捕捉する方法を提案した。それは,預貯金であれ,株式で あれ,資産の保有額を示した勘定を持てば,毎年の貯蓄がわかる。一方,勤労所得 であれ,株式の売却額であれ,家計の収入(キャッシュ・フロー)がある。この二 つが求まれば,消費額は総収入から貯蓄額を引いた額として求めることができる。

この消費額に累進的税率を採用すれば,いわゆる支出税になる。宮島 ( 1 9 8 6 ) では,

消費支出を課税標準とするカルドアの支出税論は理論的明快であるとともに,社

‑5‑

(8)

会厚生やライフサイクルの観点(消費選好の中立性)からも優れていると評価され ている。後述の表 ( 2 . 3 ) で示したように,古典的支出税の課税ベースの算定方式に おいて,資産購入は全額控除,そして資産売却は全額算入であるため,減価償却や インフレ調整が不要となり,キャヒ。タル・ゲイン課税も不要になる。さらに,貯 蓄は非課税なので,いわゆる貯蓄の二重課税は生じないため,課税が資本蓄積を損 なわない。このように,古典的タイプは支出税の特徴を理解する上でオーソドッ クスなタイプといえる。

②所得税体系と支出税体系の比較

異なる税制の優劣を判断する基準は租税原則と呼ばれる。現代財政学では公 平・中立(効率)・簡素を 3 大租税原則としている。以下では,所得税と支出税を 課税の公平および効率の両面から比較し,支出税の特徴を明らかにしたい ( 5 ) 。

i公平の観点

同一の生涯(消費)機会をもっている個人の生涯を通じる税負担は,消費・貯蓄 に対する個人の選好に関わりなく同一であるべきというのが,課税の公平性の原 則であるが,この原則が所得税および支出税体系で保証されるか否かを調べるこ

とにする。そこで,二つのタイプの個人 (A) と (B) を考え,両者はともに 2 期間生 存し,各期 1 0 0 万円ずつ稼得とする。 ( A ) は各期とも全額消費するに対して, ( B )  

は第 l 期に 50 万円消費し,残りの 5 0 万円を貯蓄する。さらに,第 2 期において

( B ) は第 1 期の貯蓄をすべて引き出し,第 2 期の所得 1 0 0 万円とともに消費する としよう。ただし, (A) と (B) ともに財産を残さないとする。

さて,利子率をy ,所得税率を t i ' 支出税率を t c とし, (A) と (B) の課税の現在価 値を求める。まず所得税の現在価値T i を計算すると次の結果を得る。

. . . . . . 6   . . . . . .  

(9)

所得税の現在価値

円 ( 1 0 0 + J Z ) ( A )   円=巾 o + 5 0 ; : ; ∞ ( B )  

(B) の税負担は第 l 期に行った貯蓄の利子課税分だけ (A) のそれより大きくな っている。すなわち,所得税制の下では,利子所得が課税されるため課税の公平原 則が成立しない。次に, (A) と (B) の個人の支出税の現在価値 T c を求める。

支出税の現在価値

九 司 c ( 1 0 0   +岳) ( A )  

ド t c ( 5 0 + 5 0 ( 1 r 1 0 0 ) = t c ( 1 仙岳) ( B )  

(A) は第 l 期および第 2 期ともに全額消費されるので,支出税においても所得 がすべて課税対象となる。これに対して, (B) の第 l 期の課税対象額は消費額の

5

0 万円であり,貯蓄分は課税されない。第 2 期において,第 l 期の貯蓄は引き出 され,消費に向けられるので,その元利合計額が課税対象となる。このようにして 計算された (A) と (B) の支出税の現在価値は等しくなり,生涯所得の現在価値に 支出税率を乗じた額と等しくなる。すなわち,支出税制においては,同一の生涯

(消費)機会をもっている個人の税負担は個人の消費・貯蓄選好によって影響を受 けず,課税の公平原則が成立する。なお,ここでの課税の公平性に関する支出税の 議論は,あくまでも税率や割引率を一定とした仮定の下で行われたことに注意し

なければならない。

, . . .

, 7 . . .  

(10)

並効率の観点

一般的に,二つの税制を比較して一方がより効率的であるとは,二つの税制の下 で同額の税を徴収されるとし、う仮定の下で,一方の税制による納税者の厚生の損 失が他方より少ないことを指す。さて,前述の検討と同じように, 2 期間生存する 個人を考え,第 1 期および第 2 期の所得・消費をそれぞれれ ' Y 2 , C 1 , C 2 で、表す。こ

こで,議論の簡明化のために,この個人の所得YVY2 は,固定的であるとする(この 個人の労働供給・意欲は税制によって影響を受けないとする)。この個人の所得 税下での予算制約式は次のように求められる。

まず,生涯消費の現在価値を求める。

C l  =  Y l  ‑S l  

C 2   = ( 1  + γ) S l  +  Y 2  = S l  +γSl +  Y 2  

C l   +一三一 = Y l ー S1+S1+lL=Y1+lL 1 + γ 1 + γ 1 + γ  

次に,所得税率t i を適用し,所得税制下での C l , C 2 を導出する。

C l  = ( 1  ‑ t i ) Y l  ‑S l  

C 2   =  S l  +  ( 1  ‑t i ) ( γ S l  +  Y 2 )  = s l { l  +  ( 1  ‑t i ) r }  +  ( 1  ‑t a Y 2   C 2   ( 1‑ t a Y 2  

1  +  ( 1 て t i ) r=  S l 十 1+  ( 1  ‑t i ) γ 

最後に,式 ( 1 ) +式 ( 2 ) にして所得税予算制約式を得る。

( 1  ‑ t i ) Y 2  

=  (1‑ t i ) Y l   + 

1  ‑ .   1  +  (1‑ ta γ 1 +  (1‑ taγ   

‑8‑

( 1 )  

( 2 )  

(11)

=  ( 1 一件 1+1+ι t ; ) γ )

次に,支出税の予算制約式を求める。まず,支出税制下での C1 C 2 を導出する。

(ここの t c は税引き税率である)

Y 1   =  C 1  +  C 1 t c  +  Sl  =  C 1  ( 1  +  t J   +  Sl 

C 1  ( 1  +  t c )  =  Y 1  ‑ Sl 

C 2 ( 1  +  t c )   =  ( 1  + γ )Sl  +  Y 2   c 2 ( 1   +  t c )   .  Y 2  

一 一

1+γ

.L  . 

1+γ 

式 ( 3 ) +式 ( 4 ) にして生涯消費の現在価値が次のようになる。

C 2 ( 1  +  t c )  

C 1  ( \.~ 1  +  ,  t

v

c

c / '  

)   +   + γ 1 + γ 1 + γ   し= Y 1  ‑ Sl  +  Sl  +一一= Y 1   +一一

よって,支出税予算制約式は次のようになる。

2  1  f  Y 2   ¥ 

凸+‑. ‑ ‑ ー = 一 一 一 一 l γ 唱+一一一 l

A

十 γ 1+  t c  

¥",.L 

1  +γ/ 

( 3 )  

( 4 )  

この個人は以上の二つの予算制約式のもとに効用の最大化を図ろうとする。そ のとき,所得税と支出税どちらが効率的であろうか。支出税制において,確かに課 税によって生涯所得が削減される。しかし,所得税の下では,課税は生涯所得の削 減と並行して利子率をも引き下げている。換言すれば,支出税は個人の消費決定

において予算額にしか影響を及ぼさないのに対して,所得税は予算以外にも現在 消費と将来消費の交換比率にも影響を及ぼす。その結果,所得税は現在消費と将 来消費の選択に歪みをもたらす。他方で支出税はこのような代替効果による歪み

をもたらさない ( 6 ) 。

‑9‑

(12)

最後に,支出税論者によって,提起された所得税への批判であるいわゆる貯蓄 の二重課税の問題を論じてみたい。所得税の下での資本所得(利子所得)課税は,

「ライフサイクルの後期に消費を行う個人(貯蓄と消費の選択の相違) Jや「ライ フサイクル前期に所得を稼得する個人(稼得所得の時期的配分の相違) J を不利に 扱ってしまい,同一の生涯(消費)機会を持っているにもかかわらず,より高い生 涯税負担を負う。これを表 2 . 1 , 表 2.2 を用いて示してみたいへ

いま,表 ( 2 .1 ) のように個人 A と個人 B は各期に同一の賃金を獲得し,個人 A は 各期の所得を全額すぐに消費するに対して,個人 B は第 l 期で課税後所得を貯蓄

し,消費を第 2 期にまわすとする。個人 B の第 2 期では貯蓄利子が課税される。

課税前利子率は 10% ,所得税率は 50% ,割引率は課税後利子率と等しい 5% と仮 定されている。第 l 期の税額と第 2 期の税額の割引価値の合計として計算された 総税額の現在価値で明らかになるように,個人 A と比較すると,個人 B はより高い 生涯税負担を負う。

表 ( 2 .1 )   所得税の下での「前期 J支出者と「後期J支出者の取り扱い

個人 A 個人 B

第 l 期 第 2 期 第 1 期 第 2 期 賃金所得 2000  2000  2000  2000 

利子所得 。 。 。 1 0 0  

税額 1 0 0 0   1 0 0 0   1 0 0 0   1 0 5 0  

貯蓄 。 。 1 0 0 0   ‑1000 

‑10 ‑

(13)

消費 1 0 0 0   1 0 0 0   。 2 0 5 0   総税額の現在価値 1 9 5 2 . 4   2000 

さらに,表 ( 2 . 2 ) で示しているように両個人が消費を第 2 期に延期するケースを 考える。割引率が 5% だとすると,個人 B の賃金所得 2100 は 2000 の現在価値,つ まり個人 A の賃金所得に等しい。現在価値で見ると同一の生涯所得を獲得する個 人 A と個人 B であるが,ライフサイクルの前期に賃金を獲得した個人 A は利子所 得に対する課税が存在するため,高い税負担を負わなければならない。

表 ( 2 . 2 ) 所得税の下での「前期」稼得者と「後期 J 稼得者の取り扱い

個 人 A 個 人 B

第 1 期 第 2 期 第 l 期 第 2 期

賃金所得 2000  。 。 2 1 0 0  

利子所得 。 1 0 0   。 。

税 額 1 0 0 0   5 0   。 1 0 5 0   貯蓄 1 0 0 0   ‑ 1 0 0 0   。 。

消費 。 1 0 5 0   。 1 0 5 0   総税額の現在価値 1 0 4 7 . 6   1 0 0 0  

一方,支出税の場合ではこのような現象は生じない。利子率は 10% ,支出税率 は 50% とすると,表 ( 2 .1 ) のケースにおいて,個人 A の第 l 期と第 2 期の消費は共 に 2000 であり,個人 A の総税額の現在価値は 2 0 0 0 x  0.5+ ( 2 0 0 0   x  0 . 5 )   / 1 .   1  = 

‑11‑

(14)

1 9 0 9 である。個人 B は第 1 期の消費は O であるが,第 2 期では第 l 期の貯蓄から 利子所得 200 を得たため,税額の現在価値は ( 4 2 0 0 x  0 . 5 )   / 1 .  1  =  1 9 0 9 である。個 人A と個人 Bの生涯における税負担の現在価値は同じである。一方,表 ( 2 . 2 ) の場 合でも,個人 A と個人 B の税額の現在価値は ( 2 2 0 0 x  O .   5 )  / 1 .  1  =  1 0 0 0 と同じにな る。上述の支出税体系と所得税体系の比較で検討したように,支出税の下では,稼 得所得の時期的配分やそれに応じた貯蓄あるいは消費が異なっても,税負担の現 在価値はまったく同じである。要するに,支出税の税負担の現在価値は一定であ り,消費と貯蓄の選択に対しても中立的である。公平性と効率性の原則に満たし ている。

課税の公平性(水平的公平)を論じる際,前述の担税力の尺度のほかにもうひと つの論点がある。それは担税力の測定期間である。つまり,担税力をいかなる期 間で測ればよいのかということである。通常,包括的所得税は担税力である所得 を一年ごと(あるいはある期間ごと,すなわち「年間消費機会」あるいは「ある期 間の消費機会J)と捉えるに対して,支出税は生涯を理想とする( r 生涯消費機 会J)。支出税の立場からは,年間所得基準によると,所得税は貯蓄に二重の課税

をしてしまう。ところで,所得税論では,貯蓄から得られた利子も経済力の増加に 寄与するから,課税しても問題にはならない。そもそも包括的所得税の定義から いうと,この種の二重課税としづ現象自体はありえないのである ( 8 ) 。ここで展開 されたモデ、ルは通常一世代のモデ、ルであり,生涯所得は生涯消費に等しいという 仮定に基づいている。また,このモデ、ルは贈与・遺産を考慮せずに設定された非 現実な仮定であることに留意しなければならない。

3 前納方式支出税(賃金税)

. . . . . . 1 2   . . . . . .  

(15)

古典的支出税における貯蓄は,将来,利子と共に支出された段階であらためて 課税される。この場合,貯蓄は広義に解され,金融資産(預貯金・株・債券・年 金・保険など)と実物資産(住宅・土地など)の購入を意味し,他方その売却が消費 支出となる。しかし,年間消費を求め,それに課税する古典的支出税を厳格に実施 しようとすれば,貯蓄を把握するための資産登録制の導入を不可欠とする。そこ で,実行が困難と言われる資産登録制を避けるため,アンドリユースは前納方式 支出税(前納タイプ支出税)を提案し,関心を呼んだ(的。具体的にいうと,多くの実 物資産を非登録資産として,その資産が購入されても課税ベースから控除されず 課税の対象になるが,売却したときは課税されない方式をもっ税である。いわば 租税を前払いする支出税のタイプになる。

そもそもアンドリユースの狙いは,帰属所得の算入問題を回避するためで、あっ た。市場価値評価が困難な所得(帰属所得も含む)の取り扱いは所得税と同様支出 税も直面する。たとえば,古典的支出税において,住宅の購入は課税ベースから控 除されるため,将来にわたって住宅から得られた消費利益が課税ベースに含まれ なくなってしまう。すなわち,帰属所得(帰属家賃)の問題が生じる。しかし,支出 税の下では,住宅の購入を事実上消費扱いすることができる。いわゆる,前納方 式をとり,税を前払いして解決困難な帰属所得の測定にかかわる問題を回避しよ

うとする。森 ( 1 9 9 5 ) は,支出税(前納タイプ)には年間帰属消費・帰属所得の算定を 必要としないといった執行上の利点があり,さまざまな消費者耐久財に関しでも,

おのおのの税が理想とする正しい取り扱いに,支出税の方が所得税よりもより容 易に接近できるであろうとコメントする。

資産の登録を不必要とする前納方式支出税の考え方は,たしかに,支出税の実行 可能性を高める働きをするであろうと評価できるが,株・土地・債券など資産が

' "   13 ' "  

(16)

売却時点、で譲渡益を生むとすると,前取りした税のほかに譲渡益への課税(キャピ タル・ゲイン課税)も要請されるだろう。それは,そもそも前納方式支出税を課税 の事前(機会)アプローチとして,古典的支出税を課税の事後(結果)アプローチと

して理解し得るということに関連する ( 1 0 ) 。事前アプローチは結果において生じ る納税者の相違を無視するものであり,不公平であるとしばしば考えられてきた。

前納方式支出税の場合には,株・土地・債券など購入時に税を前払いし,売却時に 譲渡益を得られたとしても,税の徴収は認めない。これに対して,事後アプローチ の立場に立つならば,譲渡益を得られた場合,譲渡益への課税(キャヒ。タル・ゲイ ン課税)がされないと,前納方式支出税は不公平な税負担を引き起こすことになる。

言い換えると,前納方式支出税は古典的支出税が解決したキャピタル・ゲインの 取り扱い問題を復元させるおそれがある。この点については,二元的所得税の節 に再び検討してみたい。

前納方式支出税は消費がまだ行われていない段階で,勤労所得全体(貯蓄部分を 含む)に課税し,資産所得(利子)には課税しない。課税ベースからみれば,資産所 得の非課税制度と支払利子の控除否認制度を組み込んだ所得税であり,しばしば 賃金税ともいわれる。その課税ベースの算出方式を次の表で確認しておきたい。

( 表 2 . 3 ) 古典タイプと前納タイプの支出税における課税ベースの比較

稼得=勤労所得(賃金)

資産購入(貯蓄)

資産所得(利子・配当・帰属所得)

古典タイプ 算入 控除 算入

‑14‑

前納タイプ

算入

控除否認

不算入

(17)

[課税ベース

入 入 除 費 算 算 控 消

入 入 否 ] 算 算 除 金 不 不 控 賃 資産売却(元本)

借入れ

返済(元本・支払利子)

このように前納方式支出税は課税ベース算定における資産・借入の取り扱い方 が古典的支出税とは全く逆になる ( 1 ヘアンドリユースは税率と資産価値が一定

としづ条件の下で,両税は「等価 j であると主張する。ここでは,両税の等価関係 について明らかにしたい。いま,ある個人は 2 期間生存し,第 1 期において,所得 Y 1 ' 借入れ b , 消費 C 1>貯蓄 S とする。第 2 期では,所得 Y 2 と利子率 γ のときの貯蓄と 貯蓄から得られた利子(1 +γ)s を用いて,消費C 2 , 借入れの返済 ( 1 + γ ) b としよう。

ここではすべての資産を死亡するまでに使い果たし,財産を残すことはないと仮 定する。このとき,第 l 期および第 2 期の税抜き消費は以下のようになる。 ( t : 税 込み税率 ' Y 1‑ S  +  b  : 税込み消費)

C 1  =  ( 1  ‑t ) ( Y 1  ‑ S  +  b )  

C 2  =  ( 1  ‑t ) { Y 2  +  ( 1   + γ ) ( s  ‑b ) }  

( 5 )   ( 6 )   まず,古典タイプ(適格勘定)のときを検討しよう。古典的支出税をアメリカの ブループリントでは適格勘定,イギリスのミード報告では登録勘定とそれぞれ名 付けられている ( 1 ヘ貯蓄は課税ベースから控除されるのに対し,借入れは課税ベ ースに含まれる。従って,第 1期の支出税は

九 = t { Y 1 一 ( s‑ b ) }   ( 7 )  

‑15 ‑

(18)

となる。また 2 期目に貯蓄を引き出すときは課税ベースに算入され,借入れに伴 う元本と利子の返済は課税ベースから控除できるので,第 2 期の支出税は

九 = t { y z   +  ( 1   +  r ) ( s  ‑ b ) }   ( 8 )   となる。 ( 7 ) と ( 8 ) より ( 9 ) を得られる。

九 +TL=t(Y1+ 先) ( 9 )  

すなわち,支出税の総額は,生涯所得の現在価値になる。さらに, ( 5 ) と ( 6 ) より,

j

︑ ︑ l ︐

h

+  一 山

噌i

v d  

/l¥  ︑ ︐

aノ会

ι

4 i  

r

一 一 ︑ ら 一

+  山

唱A

を得る。

次に,前納タイプ(前払勘定)のケースを考える。前納方式支出税(前納タイプ または等価タイプ)を,ブループリントでは前納勘定,ミード報告では非登録勘定 と名付けられている(1 3 ) 。貯蓄は課税ベースから控除できず,借入金は課税ベース に含まれないので,第 l 期の支出税は

T 1  =  t Y l   ( 1 0 )  

となる。また, 2 期目に貯蓄を引き出すとき元本と利子は課税ベースに含まれず,

借入れに伴う元本と利子の返済は控除できないので,第 2 期の支出税は

T z  =  t y z   ( 1 1 )  

となる。同様に ( 1 0 ) と ( 1 1 ) より ( 9 ) を導くことができる。支出税の総額は,適格勘 定と同じように,生涯にわたって稼いだ所得によって決定される。つまり,生涯に

‑16 ‑

(19)

わたる予算制約も同じく,古典タイプと前払タイプの税収は同一であり,両税は等 価である。

適格勘定の場合,投資は購入時に課税ベースから控除されるが,将来にわたって 元本と収益は課税される。この点を政府からみれば,納税者の投資が行われると き,政府は投資額だけの控除を認めることによって,この投資に参加し,将来にわ たって投資の収益の一部を税収として得ることになる。したがって,投資に関し て政府と納税者がリスクを分担している。具体的には,上記の ( 5 ) において b=O とき S を投資額とすれば,政府は第 1 期に納税者の投資額 S だけ控除を認めること によって t 5 だけ税を減額している。言い換えれば,これだけ政府は納税者に投資 をしている。このとき,政府は第 2 期で t ( l 十 γ)5 の税収を得る一方,納税者は残

りの( 1‑t ) ( l   + γ)5 を受け取る

o

政府と納税者は投資収益を分け合う形になって いる。

これに対し前払勘定の場合,購入時に投資額は課税ベースに含まれるが,将来の 元本と収益は非課税になる。この点を政府から見ると,購入時に税を前払いして

もらえるが,将来の投資収益に政府は参加しておらず,将来の税収は全く無い。納 税者から見れば,投資の時点で税を前払いしておけば,将来,収益を全額自分のも のにできる一方,損失が生じたときは税の控除は認められない。この点を具体的 にみれば, ( 1 0 ) と ( 1 1 ) で示されているように,税収は投資の収益に依存しておらず,

各期の所得のみに依存している。

古典的支出税と前納方式支出税の等価関係についてもう少し議論してみたい。

アンンドリユースの支出税議論は当然のとことして所得税を支持する論者からの 批判を招いた。ワレンの批判はそれで、あった。ワレンは貯蓄に対する課税を延期 するアンドリユースの支出税は,税率が不変のとき貯蓄によって蓄積された資産

‑17 ‑

(20)

からの所得を課税から免除する所得税,すなわち賃金税に等しいと定義した。こ れに反論して,アンドリユースは賃金税では資産所得に意外の利得 ( w i n d f a l l g a i n s ) が含まれている場合には,これを捉えることができないが,支出税では意外 の利得でもそれが消費されるかぎり課税されるので,そのとき支出税と賃金税と の等価関係が成立しないと指摘する。森( r 支出税と富の蓄積 J )は,アンドリユ ースとワレンの論争から支出税と賃金税が等価となるための諸条件を列挙し,こ れらの条件がゆるめられるときには,両税の間に等価関係は成立しないという。

そのうち,不確実性をもたない完全な資本市場が存在するという条件とは,すべて の納税者は危険要素を含まない利子率で,無制限に借入たり貸付たりすることが できるということである。また,貯蓄によって蓄積された資産の収益率は,利子率

と割引率に等しい。すなわち,意外の利得(超過収益)が存在しないことである。

意外の利得がある場合での支出税と等価の関係にある課税のあり方については次 節で詳しく検討する。

E二元的所得税論 1 二元的所得税の概要

包括的所得税論は資産所得(金融所得を含む)と勤労所得の総合課税化を唱えて きたと理解することができる。しかし,資産所得課税は所得税固有の問題(発生ベ ース課税や税務執行上の困難さ・減価償却制度の複雑性・物価変動による名目所 得と実質所得の帯離の調整など)以外,ロックイン効果などといった資産所得の性 質による租税回避や不効率などの問題が指摘される。ここで本節では, 90 年代 初頭に北欧諸国が総合所得主義を放棄し二元的所得税と呼ばれる分類所得税体 系を採用した所得税制改革に注目する。

' "   18 ' "  

(21)

二元的所得税は,個人所得税制において,勤労所得と資産所得を課税上分離し,

前者のみに累進課税,後者に低率かっ定率の一律分離課税を行う。なお,法人税制 では法人税率を資産所得税率に等しく設定する ( 1 4 ) 。すなわち,課税ベースは人的 資産が生み出す所得(勤労所得や私的・公的年金・他の政府移転)と非人的資産が 生み出す資本所得(利子・配当・課税キヤヒ。タル・ゲイン・自営業者の事業資産 からの帰属収益)といったものからなる。ただし,自営業など事業所得は,経営者 の勤労所得と資本所得に二分した上で課税される。

馬場 ( 2 0 0 0 ) では,二元的所得税を課税の公平性からその特徴をまとめてみると 次のように考えられるとされる。第一に,担税力の測定期間は「生涯消費機会 J

という支出税の立場をとる。しかし,危険資産収益の存在も考慮し,通常の支出 税体系と異なって,資産所得税率をプラスとする。第二に,課税所得において,勤 労所得と資産所得の聞にかぎ、って,所得の異質性を考慮する。この点においては,

全ての所得の異質性を無視する包括的所得税論を否定し,資産所得の種類をより 細分化した極端な最適所得税論とも異なる(日)。しかし,勤労所得と資産所得の課 税バランスの問題に関しては,最適所得税論の理論的成果を吸収して,課税の効率 性から勤労所得重課論と資本所得軽課論を主張する。すなわち,二元的所得税の 核心と言える資産所得課税にめぐっては,各資産所得を低率で均一課税する方式 を主張する(凶)。以上の特徴をふまえて,本節はまず,二元的所得税が基礎とする 理論的根拠を支出税論と最適所得税論から考察し,課税の公平性および効率性の 観点から二元的所得税の理論的検討を試みたい。なお,本稿では利子・配当・キ

ャピタル・ゲインなど資本から生じる所得を資産所得と称する。

2 二元的所得税の論拠

①支出税論からのアプローチ

‑19 ‑

(22)

ここでは,前節に検討した支出税の古典的タイプと前納タイプの議論を振り返 る。いま,確定利回りを与える安全資産だけが存在する場合を想定して,納税者 は 2 期間を生き,第 l 期が勤労期とし,第 2 期が退職期とする。

B p  : 親から第 1 期に受け取る遺産 , Y 勤労所得, ι : l 期の消費, C 2 第 2 期 の消費, B c 第 2 期に残す遺産, γ: 利子率,

C =  ( B p   +  Y  ‑C 1)  ( 1  +γ) ‑B c  

より,生涯の予算制約式を導くことができる。

C

R

c 旬+一一二一 =Y+B 判 一 一 "

. .

  1  +γ p  1+ γ 

つまり, r 生涯消費の現在価値=勤労所得の現在価値+純受取遺贈の現在価値」

が成り立つ。さらに,贈与・遺産を無視した場合,

C

C 咽 ".1+γ  + 一 一 二 一 =Y

を得られる。生涯消費の源泉は勤労所得であることを示している。貯蓄控除型支 出税負担の現在価値は,支出税率を t , 勤労所得を W , 貯蓄を5 とすると,

t S ( l   + γ )   t ( Y  ‑ S )   + 

1+γ 

となる。さらに,この式を展開してみると,

t S ( l   + γ )   t ( Y  ‑S )   +一一一一一 1+γ  = t Y  

が得られる。つまり,前納方式(右辺)は貯蓄控除型(左辺)と同一になる。したが って,勤労所得に課税することによって,消費課税である支出税を実現すること

' "   20 ' "  

(23)

ができる。消費支出の捕捉が厄介な貯蓄控除型より勤労所得税制で支出税を実現 できるのは前納方式のメリットといえるだろう。しかし J 、ままで議論は安全資 産だけが存在するとしづ前提の下で、行った。現実では安全資産だけではなく,危 険資産も考えなければならない。まず,超過収益(意外の利得,安全資産の収益率 を上回る危険資産の超過収益)が生涯消費の源泉の一つで、あることを生涯予算制 約式で示しておこう。生涯を二期間に分け,第 1 期に勤労所得 Y を稼得し,第 2 期

には退職し,第 l 期の貯蓄でこの期の消費を賄う。

Y: 生涯所得, γ: 利子率, α: 安全資産への貯蓄割合, p 危険資産超過収益率 とする。この時,第 2 期の消費は確定利回りをもたらす安全資産の元本と確定利 子(右辺第 1 項)と利回りが確率変数である危険資産の元本とその収益(右辺第 2 項)の和になる。

C =α ( Y  ‑C 1 ) ( 1   + γ )  + ( 1 ー α ) ( Y‑ ι)(1 + γ +  p)  したがって,生涯予算制約式は,

C z  . .   ( 1 ‑ α )(Y‑C 1 )p  C 旬 + 一 一 一 = Y+ 

1 + γ 1 + γ

になる。すなわち,生涯消費の現在価値は勤労所得と安全資産の収益率を上回る 危険資産の超過収益の現在価値の和に等しい。 α=1 のとき,

C+iL=Y 

• 1 + γ  

このとき,生涯消費への課税を生涯所得課税で実現するには,勤労所得課税(賃金 税)のみでよい。賃金税と支出税が等価であるためには,各人の貯蓄に対する収益

' "   21 ' "  

(24)

率が割引率である利子率に常に等しく,その意味で,貯蓄を運用する場合,正常収 益を超える超過収益は存在しないとし、う仮定が満たされていなければならない。

しかし, α<1 のとき,生涯消費への課税を生涯所得課税で実現するには,勤労 所得課税のほかに超過収益 ( 1 ー α ) ( Y‑ C l ) P への課税が不可欠である。超過収益に は勤労所得並みに課税(賃金のと同じ税率)をしなければならない。こうした超過 収益課税とあわせて賃金税は支出税と等価になる。しかし,超過収益には多様な 種類が存在し,正常収益との課税上の区別はきわめて難しく,資産所得のうち超過 収益部分のみを取り出して賃金と同じように課税するということは容易ではない。

そこで,所得を二分して,勤労所得を累進課税,資本所得を比例課税する,いわゆ る二元的所得税という形態が構想される。つまり,資産所得には正常収益(主に利 子所得)・超過収益(土地や株式のキャヒ。タル・ゲインなど)の区別を設けずに,一 律に課税する。しかし,こうすれば,本来非課税であるはずの利子部分にも課税す ることになるので,その税率は賃金に課せられる税率よりも低率に設定するとい

うことにならざるを得ない。馬場 ( 2 0 0 6 ) は二元的所得税制における資本所得課税 は,個人段階での超過収益課税を放棄し,利子(正常収益)と区別せずに均一の比例 的資本所得税を課すが,これは生涯支出税の妥協形態とも言えると指摘している。

ここでは,二元的所得税の資本所得課税,すなわち,各種の資本所得を勤労所得 より低率かっ均一に課税するとし、う課税のあり方を課税の公平性に基づく議論か ら検討してみる。上述のように,二元的所得税論の支持者は,二元的所得税では 人々の担税力を「生涯消費機会 J とみる支出税の立場をとると主張する。しかし,

支出税そのもの実施が困難と判断される場合,それに代わる税制は厳密に言うと 賃金税+超過収益課税でなければならないが,実施上の観点から,その妥協とも言 える賃金税+低率・均一資産所得税を構想された。また,前節(表 2 .1 )   ( 表 2 . 2 ) で

' "   22 ' "  

(25)

は,所得税の下での資本所得(利子所得)課税は, i ライフサイクルの後期に消費を 行う個人」や「ライフサイクル前期に所得を稼得する個人」を不利に扱ってしま い,より高い生涯税負担を負われることを明らかにした。 S o γ e n s e n (1998) は,もし,

資本所得に対する課税がなければ,このような水平的不公平が生じないのは明ら かであり,二元的所得税では,包括的所得税よりも資本所得を軽課するため,稼得 と消費に関する異なった時間的プロフィールを持つ人々の間での水平的不公平を 緩和するのに役立つていると論じる。アーロンとゲ、ルパーには,賃金税(前納タイ プ支出税)を課税の事前(機会)アプローチとし,支出税(古典的タイプ)を課税の事 後(結果)アプローチとして理解し,人々の公平観により合致するのは事後的アプ

ローチをとる支出税であるとする。たしかに,生涯にわたる水平的公平という点 においては,所得税より支出税のほうが優れているという一般的な結論が得られ る。しかし,二元的所得税を支出税の妥協形態にすぎない,あるいは,支出税に接 近しようと目指していると捉えると,二元的所得税は支出税と同じように事後的 アプローチとして人々の公平観に合致しているとは言いがたい。

垂直的公平に関する二元的所得税論の利点についてもいくつか論点を挙げるこ とができる。たとえば,資産所得(キャピタル・ゲインを含む)に対して比例課税 を適用することによって,高所得者層がより享受される租税裁定機会を排除する ことができることである。これは,スウェーデンの所得税に対する二元的所得税 の利点と理解し,次節に詳しく検討してみたい。さらに,二元的所得税の支持者は 資産所得の低率・均一課税は包括的所得税の固有の難点ともいえるキャピタル・

ゲイン課税がより容易に行うことができるとしづ見解もみられる ( 1 7 ) 。しかし,繰 り返しになるが,支出税はキャヒ。タル・ゲイン課税を不要にする。また,上述の資 産課税によって発生された消費と貯蓄選択への歪みという点において,支出税論

' "   23 ' "  

(26)

の優位性が明らかである。今日まで支出税をめぐる様々論争が繰り広げられてき た。いままで支出税への全面的移行の事例が見られない,あるいは依然として各 国は所得税に依拠せざるをえない理由は無視できないが,支出税への接近という 動きは確かである。二元的所得税も支出税を理想としながら様々な妥協を許して 考案したように考えられる。とはいえ,支出税のいわゆる欠点を克服し,思い切っ て支出税の実現への工夫を講じてもよいと思われる(則。

②最適課税論からのアプローチ

つぎに,二元的所得税論を課税の効率性の観点から検討してみたい。いま,政府 が一定の税収入 T が必要とするとき,中立性(効率)の基準のみを考慮し,消費者に

とって最も望ましい間接税(ラムゼー型最適課税モデル)を検討する。ラムゼー・

ノレールによると i 財に対する最適税率はつぎのように定式化される。

ぃ 3 = k ( 土 + 土 )

九:単位当たり従量税 P i : 価格 k: 定数 α i  • 供給の価格弾力性

s i : 補償需要曲線の価格弾力性

かり l , こ i は限りなくゼロに近づけば

I

t i は仇に反比例する。したがって,課税さ れる各財に対して,財ごとに需要の価格弾力性に逆比例するように税率が決定さ れるときに,その税率は最適である。わかりやすくいえば,弾力の小さい財ほど高 い税率を,逆に,弾力の大きい財ほど低い税率を適用するとし、う複数税率構造は超 過負担が最小である。一般に生活必需品は需要の価格弾力性が小さく,者イ多品は 需要の価格弾力性は大きい。したがって,ラムゼー・ルールによると生活必需品 には高い税率で課税し,者修品には低い税率で課税することになる。しかし,明ら

, . . .

  24 . . .  

(27)

かなように,生活必需品への需要は,所得に占める支出シェアが低所得者ほど高 くなる。この税率構造は負担の逆進性をもたらし,垂直的公平を全面否定するこ とになる。垂直的公平を重視するならば,弾力性が低くても,低所得が多く消費す るような財への物品税率は軽減し,むしろ,者修品など高所得者が多く消費する財 の税率を高く設定することが望ましい。

ところが,ラムゼーの逆弾力性ルールを形式的に,資産所得と勤労所得という異 なる課税ベースの課税問題に置き換えることができる。同じ所得であっても,異 なる税率で課税を行う経済的合理性は,賃金所得,利子など所得の種類によって,

税に対する反応(誘因効果)が異なるところにある。その誘因効果は税率に対する 供給の弾力性に織り込まれる。このとき,ラムゼー・ルールに基づけば,供給の 弾力性が相対的に高い所得には相対的に低い税を課すことが効率に適うことにな る。すなわち,資本の供給が弾力的であり,労働の供給が非弾力的であれば,資本 所得は軽課し,勤労所得を重課することが効率的である。これは二元的所得税論 の考えと一致する。二元的所得税論では,資産所得は勤労所得よりも,それを生み 出す生産要素の供給の弾力性,すなわち,利子率は賃金率より供給の価格弾力性が 大きいため,所得を資産所得と勤労所得を二元的に捉え,勤労所得に対しては累進 税率を適用する一方,資本所得に対しては勤労所得に適用する最低税率以下の税 率により分離課税することが望ましいとする。

二元的所得税論支持者たちはこ元的所得税の資産所得課税(勤労所得より軽課 し,各資産所得を一律に課税する)は,課税の効率性において,最適所得税論の成果 を吸収し,かつ,最適所得税論の資産所得課税(資産所得をさらに細分し,税率も異 なるものとする資産所得課税)より実効可能となったと主張する。しかし,最適課 税論を基礎にするといわれる二元的所得税の資産所得課税は課税の効率性から明

' "   25 ' "  

(28)

確な根拠を示せるだろうか。最適課税論は課税による資源配分の効率性や所得分 配の公平性などの観点、を考慮、し,両者の調整を図りつつ,望ましい課税のあり方を 模索する議論である。効率性のみを重視した場合には,消費と貯蓄の選択,あるい は労働と余暇の選択といった点において,定額の一括税がもっとも最適であると いう結論が明らかである。しかし,この一括税は個人の経済状況を一切考慮しな いような人頭税に見なすことができ,公平性の観点から考えられないだろう。厳 格な最適所得税は勤労所得と資産所得の間だけではなく,各種の資産所得に関し ても,弾力性に応じた税率の設定が要請される。しかし,そうなると税制の複雑さ から現実の政策決定の指針に用いるには難しい面もある(問。

最適所得税論の最大な欠点といえば,超過負担を少なくするための勤労所得と 資産所得の税率構造に関する定性的結論を得るためには,個人の労働供給や貯蓄 に関する選好と市場構造を知る必要がある。しかし,多様な個人の選好を明確に 特定するのは容易ではない。さらに,所得ごとの税率はともかく,最適所得税論の 勤労所得重課論・資産所得軽課論というと,それは理論的論点にすぎず実証的に 明らかにされるべき問題である。石 ( 1 9 9 3 ) は,最適課税論の実証研究について,信 頼にたる研究成果まだ利用できないと指摘した。つまり,労働や貯蓄に対する課 税の阻害効果については,理論的に判断できずある仮定を設けるほかはない。こ のように,あらゆる資産所得に対して,包括的に課税を試みる総合所得税より所 得の種類によって課税方法の異なる所得税,すなわち分類所得税の考えは最適課 税論によりある程度正当化されうるかもしれない。しかし,二元的所得税の課税 効率性を最適課税論に根拠づけられると,最適課税論と同じように懸念されるだ ろう。二元的所得税の効率性について強いて評価しようとすれば,それは改革前 の所得税が生み出した不効率をある程度緩和するに過ぎないと考えられる。詳し

‑26‑

(29)

くは次節に述べるが,二元的所得税の資産所得低率課税はスウェーデ、ンの所得税 が引き起こした資本配分の歪み(限界実効税率の相違による貯蓄と投資の間)を矯 正したといわれる。

3 北欧諸国の二元的所得税の検討

二元的所得税の最大の論点というのは,資産所得にかかわる課税のあり方と考 えられる。前節では,二元的所得税における資産所得の低率・均一課税論拠を支 出税と最適課税論から考察した。これまでの考察からいうと,二元的所得税は決 して論理一貫した租税論上の根拠が明らかとはいえない。ここからは違う角度か ら二元的所得税の狙いを明らかにしたい。

二元的所得税が次第にヨーロッパ各国に支持を集めつつあることには,野村 ( 2 0 0 4 ) によると,大きく二つの背景がある。一つは金融グローバル化の急速な進 展から資本の逃避が懸念され,金融取引に対して高率の課税を行うことができな くなった。もう一つは,包括的所得税の下で,適切な資産所得課税の執行がほとん ど不可能だという認識である。典型的な例を挙げると,法人留保利潤・年金基 金・住宅といった貯蓄形態は技術的ないし政治的な理由から包括的の原則に沿っ て課税するのはきわめて困難である。これらの資産収益が非課税ないし軽課され る一方で,それら資産を取得するための経費が完全に控除されれば,大きいな税収 ロスを招くことになる。

いうまでもなく,課税ベースとして消費支出を採用することによる利点は,個人 資産の評価を行なわなくてもよいという点である。その結果,上述の問題や資産 の減価償却の測定問題(耐久消費財の償却),インフレ下での評価替えなどといっ た問題を回避できる。すなわち,支出税では資本と所得(資産所得と勤労所得)の

‑27 ‑

(30)

区別にかかわる問題を取り上げる必要はない ( 2 0 ) 。しかし,二元的所得税は所得を 課税ベースとしながら支出税へ接近しようとしても,この問題について支出税の

ように根本的に回避できず,深刻化した問題を緩和するにすぎないと思われる。

要するに,二元的所得税の資産所得をめぐる課税のあり方は,支出税のように租税 原則に沿って考案されたというより,現実な救命措置と考えられる。また,課税ベ ースは所得であれば,資産所得課税はどうしても恋意的にならざるをえない。た

とえば,利子課税といった資産所得課税は政策や税務執行上の配慮などによって,

全ての所得を包括的に把握し課税しようとする所得の定義からどうしても恋意的 に変形されることがある。本稿では,二元的所得税を所得課税の一種に過ぎない

と捉えており,課税ベースが所得である以上,上述の問題を根本的に解決できると は考えない。これについて以下では,スウェーデ、ンを事例としてとりあげ,とりわ け,資産所得課税について,二元的所得税が採用されるに至ったいきさつを明らか にしたい。

馬場 ( 2 0 0 4 ) によると,改革前のスウェーデ、ンは包括的所得税主義にきわめて忠 実であり,利子・配当・ 2年以内保有の有価証券譲渡益(キャヒ。タル・ゲイン)な ど多くの資産所得は勤労所得と合算の上, 5 段階 (36% から 72%) の超過累進税率 が適用されていた。さらに,借入利子は 2年以内保有の有価証券譲渡ロスととも に控除の対象とされた。その結果,資産所得税制は深刻な問題を招くこととなっ た。それは,利子控除やロス控除に伴う節税行為による垂直的不公平,および,資 産所得聞の実効税率格差による資本配分上の不効率が生じ,多大な資産所得税収

ロスが発生した。

スウェーデ、ンの資産所得税制の問題は,租税裁定にかかわる。租税裁定 ( t a x arbitrag θ )とは,税制によって生じる収益率の格差を利用した節税行為である ( 2 1 ) 。

‑28‑

(31)

包括的所得税では,利子所得に課税するかわりに,借入の利子を控除している。い ま,ある個人が金融機関から資金を調達(借入)し,非課税債券に投資を行うとしよ う。かりに,借入利子率を γ とし,限界税率を t とする。ここで, 1 円を借り入れる と,その利子は控除されるので,実効金利は γ (1‑ t ) となる。つぎに,借り入れた資 金をそのまま非課税債券を購入したとする。非課税債券の収益率を P , このとき,

税引き後の借入コスト γ ( 1 ーのより収益率P が大きければ,この個人は投資するこ とにより利益を得ることになる。

現実には住宅購入など非課税に近いさまざまな投資先がある。スウェーデ、ンの 場合,持ち家の帰属家賃にもかなりの優遇課税措置がとられた。さらに,インフレ のとき,所得税では実質金利に物価上昇率に上乗せした金利(名目金利)の控除が 認められる。こういったインフレ作用にくわえて,金融資産への投資より借入に よる実物貯蓄のほうがますます魅力的になる。こうして,金融貯蓄から実物貯蓄 への代替といった資産所得間の実効税率格差による資本配分上の不効率が生じる

こととなった。既に述べたように,資産所得の多くは正確に把握することが困難 なため,事実上,包括的所得税が理想とする課税ベースにおいて,資産所得に対し て,軽減税制ないしは優遇税制を採用せざるを得なかった。スウェーデンでは利 子控除やロス控除に伴う節税行為は資産選択幅の広い高所得層がより享受でき,

課税による垂直的不公平が指摘されてきた。また,借入をして利子控除を受けな がら,その資金を年金や長期キャヒ。タル・ゲインなど優遇税率適用の資産に投資 するという租税回避行動が盛んになった。その結果,利子控除とロス控除の合計 が資本収益からの税収を上回り,実際, 80 年代のスウェーデ、ン個人段階の資産所 得税収はマイナスで、あった ( 2 2 ) 。これに対して,二元的所得税は資産所得の低率分 離課税化によってこの問題を軽減する。資産所得に一律の税率を適用することに

' "   29 ' "  

(32)

よって,資産所得間の実効税率格差が是正される。また,勤労所得と分離して課税 するため,利子控除の範囲を資産所得に限定することもできる。したがって,二元 的所得税は包括的所得税制下の資産所得税制が生み出している不効率を緩和する ために導入されたといえよう。

以下では,スウェーデ、ンの二元的所得税の実態を簡潔に説明し,一層理解を深め たい ( 2 3 ) 。勤労所得税の課税ベースにおいて,勤労所得に私的年金掛け金控除・労 働関係旅費控除・基礎控除・一般社会保険料控除といった諸控除が認められる。

そして,勤労所得税の税率は 3 段階に設定される。具体的にいうと,まず,全国平 均でみて 3 0 出の地方税が課される。次に,査定所得が 2 4 . 5 万 SEK( スウェーデ、ンク

ローネ)になるとさらに 2 0 切の国税が課され(全体で地方税 3 0 覧・国税 2 0 明 ) ,査定 所得が 3 8 . 9 万 SEK に達するとさらに 5 出の国税が付加される(全体で地方税 3 0 出 ・ 国税 2 5 出)。それに対して資産所得税の課税ベースは金融資産所得と実物資産所 得の合計から借り入れ利子とキャピタル・ロスと資産管理費用を差し引いて求め

られる。この課税ベースに年金基金の収益・生命保険・住宅のキャヒ。タル・ゲイ ン・帰属家賃など例外もみられるが,原則 3 0 出の税率が課される。

スウェーデ、ンの所得税収のうち,勤労所得税が約八割を占めており,所得税の主 役としての地位が明らかである。一方,資産所得税は税収の増大が見られた。ス

ウェーデ、ンの資産所得税は金融資産所得税と固定資産税(帰属家賃を含む)と年金 基金収益税から構成され,とくに,金融資産には純利子・配当・キャピタル・ゲイ

ンに細分化することができる。既に述べたように,旧資産所得税のもとでは,資産 所得の税収がマイナスとなった。ところが,馬場 ( 2 0 0 4 ) によると,二元的所得税に おける資産所得税のもとでは,非課税だ、った基金収益の課税や帰属家賃を廃止し,

税率を引き上げられた固定資産税の増税が税収調達に貢献した。また,金融所得

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税収の増大も資産所得の税収がプラスに転じた原因に考えられるという。金融資 産所得税の負担割合からみると,高所得者層が大きく,旧税制に比較して垂直的不 公平が改善されたといえるであろう。

以上のような理解をふまえて,二元的所得税論への批判的意見を述べたい。資 本配分(実物と金融の配分)の歪みについては,利子率の上昇やインフレの収束な どの要因によって,住宅などの実物貯蓄が減少し,金融貯蓄が増加したと考えられ る。税制改革による効果(資本所得間の税率格差是正の効果)はどれほどかについ ては,推測するしかできず明らかではない ( 2 4 ) 。また,勤労所得税においては,成人 の八割は税率 30% の勤労所得税(地方税),二割は累進税率の勤労所得税(国税)を 支払う。すなわち,比例的な地方税が財源調達としての機能を強化させた。しか

し,税収の二割しか占めていない二段階累進税率を持つ国税に所得再分配機能を 担わせるというのは,所得再分配機能が低下したではないかとし寸懸念もある。

一定の税収を維持するためには,優遇税制を廃止することによって,課税ベースを 拡大し,限界税率を引き下げる方法をとることができる。税制改革の世界的潮流 では,税率の累進度を緩和する動きが広がり,所得再分配機能より課税の効率性を 重視されるようになっている。スウェーデ、ンの二元的所得税は公平な所得分配よ

り,効率性とインセティブにより大きな重点が置かれたと考えられる。

馬場 ( 2 0 0 0 ) では,スウェーデ、ンの二元的所得税の未解決の課題をつぎ、のように まとめる。法人所得において,法人利潤に税率 2 8 協が課されるが,現在のところ,

配当と留保の二重課税の調整はなされていない。二重課税について,野村 ( 2 0 0 4 ) では,ノルウェーの調整法は注目されるが,さらに検討を深める必要があると指摘 する。また,自営業所得は勤労所得であるものを資産所得に転換し,租税回避する 動きが生じる。自営業者や小規模企業経営者の所得を分離し勤労所得部分と資

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本所得部分に分割することは税務執行上の難問を抱えている。さらに,支出税と 同じく,同額であれば勤労所得と贈与・遺産を同率で課税することを含意してい る。しかし,生涯にわたってレジャー損失の犠牲を全く伴わない遺贈を勤労所得 より重課する方が公平観に合致すると考えられる。

これまでの議論から分かつたことは,スウェーデンがなぜ包括的所得税の代わ りに二元的所得税への税制改革に踏み切ったのか。それは,改革以前の課税構造 に密接に関係する。高い税率によって,脱税や租税回避が助長され,貯蓄が様々な 形態の投資に振り向けた結果による極端な低貯蓄率と金融資産形成の阻害といっ た背景がある。同時にスウェーデンの法人税も同じような批判を受け,法人税率 は大幅に引き下げられた。法人税からの税収を一定に維持するため,当然,この税 率引き下げは課税ベースの大幅な拡大が要請される。次節では,二元的所得税に 望ましい法人課税のあり方に焦点を置き,法人税論の検討を試みたい。

E 法人税論

1 所得税

所得税体系において法人税が存在する理由のひとつは,会社の利潤(法人所得) を個人段階で捉えることが難しいということである。もっとも,会社の利潤が配 当などの形で個人に帰属することになると,個人段階での課税で十分であり,法人 税の必要性はなくなる。しかし,会社の利潤を全額配当せず,利潤の一部を留保す るとき問題が生じる。それは,法人税を廃止すると,会社が配当を減らして,内部 留保を増やすことによって,租税を回避することが可能になることである。森

( 2 0 1 1 ) はこの問題について,カルドアの見解をつぎのようにまとめる。カルドア は未分配利潤(内部留保)への課税は未分配利潤から株主が引き出す利益に対する

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参照

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