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中国の自動車保険における保険需要に 関する実証研究

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(1)

中国の自動車保険における保険需要に 関する実証研究

陳 大 為

■アブストラクト

本研究では,中国における自動車保険需要の決定要因について,2002‑

2009年の間のパネルデータを用いて実証的に検討している。その結果,中国 において,⑴所得,価格,損害額は自動車保険需要にプラスの影響を及ぼす,

⑵各教育水準によって自動車保険需要への影響は異なっている,特に高等教 育は自動車保険需要との間にマイナスかつ有意な関係がある,⑶既婚者の方 がリスク回避度が高く,自動車保険需要への影響はプラスである,⑷生命保 険需要とは異なり,扶養率は自動車保険需要にマイナスの影響を及ぼす,ま た,子供の扶養率より高齢者の扶養率の影響の方が大きい,⑸2006年7月1 日から実施された 自動車交通事故責任強制保険 は,その後の自動車保険 需要に強い影響を及ぼしていない,ことが分かった。

■キーワード

中国保険市場,自動車保険,保険需要

1.はじめに

近年,中国の自動車保有台数は急速な伸びを見せている。2011月1月10日 付の中国汽車工業協会の発表によると,2010年の中国自動車販売台数は,こ れまでの自動車の年間販売歴代記録であった2000年の米国の1,781万台を超

*平成24年2月18日の日本保険学会関西部会報告による。

/平成24年10月24日原稿受領。

(2)

える1,800万台を突破し,2009年に続き世界最大の自動車市場の地位を堅持 している。さらに,2011年11月の中国汽車工業協会の発表によると,2011年 10月末時点で中国の自動車保有量は1億台に近づき,日本を追い抜いて米国 に次ぐ世界第2位の自動車大国となった。

一方で,自動車保有量の激増は,エネルギーの消費,大気の汚染および交 通事故の増加といったさまざまな社会問題をもたらしている。そのなかで,

交通事故の増加は最も深刻な状況である。2010年の中国交通管理局の発表に よれば,2010年に中国で発生した交通事故は3,906,164件となっており,事 故による死亡人数は65,225人となっている。つまり,2010年の中国における 1日あたりの交通事故件数は1万件を上回り,約200人の命が交通事故で亡 くなっていることになる。このような状況を考えると,自動車保険の役割は 今後ますます重要となる。

中国では自動車販売の好調に伴い,自動車保険市場も大きく成長してきた。

2009年の中国の自動車保険収保は損保全体の約4分の3を占め,中国損害保 険のもっとも重要な種目である。しかし,2009年の中国の損害保険分野の総 収入保険料は世界9位になったものの,損害保険浸透率は世界70位であり,

損害保険密度は75位である。表1を見ると,中国の損害保険料はドイツの半 分,米国の10分の1にも達していないことが分かる。さらに,損害保険浸透 率および密度については,ブラジルやロシアなどの新興市場諸国にも大きく 水をあけられている。損保密度が低い原因の1つとして中国の人口が多いこ とが挙げられるとしても,なぜ中国の損保浸透率はわずかに

GDP

の1.08%

に過ぎず,世界水準を大きく下回っているのだろうか。おそらく,中国にお いて損害保険需要の増大が社会・経済の発展スピードに及ばず,とくに,損 害保険の主力である自動車保険需要の増加が自動車保有量の激増に追いつか ないのが主因であろう。

もっとも,自動車を購入した人々は自動車保険の費用も負担できるだけの 所得を有しているはずである。にもかかわらず,なぜ中国自動車保有量が激 増する一方で,自動車保険が主力である中国の損害保険業の発展水準はまだ

中国の自動車保険における保険需要に関する実証研究

200

(3)

世界下位にとどまっているのだろうか。中国における自動車保有量の激増お よび交通事故状況の深刻さを考えれば,自動車保険需要の伸びを阻害してい る要因を検討することは非常に重要である。本稿では,この問題点を踏まえ,

まず中国損害保険および自動車保険市場を調査し,その立ち遅れの原因を考 察する。そのうえで,先行研究に基づいて中国における自動車保険需要の決 定要因を調べるため,実証研究を行う。

本稿の構成は以下のとおりである。第2章では,中国の損害保険および自 動車保険市場の概要を検討する。第3章では,自動車保険需要に関する先行 研究を議論する。第4章では分析方法およびデータについて説明する。第5 章では,実証モデルと実証分析の結果を紹介するとともに,その解釈を試み る。最後に,第6章では本研究から得られた結論と今後の課題について述べ る。

表1 2009年各国の損害保険料の比較

( )内は世界順位 保険密度=保険料/人口 保険浸透率=保険料/

GDP

  sigmaNo.2/2010により作成

先進工業国 損保収保(億米ドル) 損保密度(ドル) 損保浸透率(%) 4.55 (4) 3.77 (10)

2.42 (24)

1.53 (59)

0.66 (80) 2.98 2109.60 (3)

1539.20 (8)

850.80 (22)

124.00 (54)

6.70 (85) 255 6480.80 (1)

1279.50 (2)

540.70 (8)

240.20 (14)

79.70 (26) アメリカ

ドイツ

イタリア 新興市場諸国 ブラジル

インド 全世界平均

日本 1077.60 (3) 847.50 (23) 2.12 (33) 3.13 (12) 1289.40 (13)

889.90 (5) フランス

イギリス 954.50 (4) 1051.50 (16) 2.98 (15) 9.33 (1) 4508.50 (1)

743.90 (6) オランダ

カナダ 543.40 (7) 1618.60 (7) 4.06 (8)

1.08 (70) 40.00 (75)

538.70 (9) 中国

ロシア 389.40 (11) 276.40 (39) 2.46 (23)

(4)

2.中国の損害保険市場および自動車保険市場の概要

2.1.1. 中国損害保険市場の概要

2009年に中国では,34社の国内損害保険会社と18社の外資系損害保険会社 の52の損害保険会社が営業していた。2009年時点の中国における損害保険業 の総資産は4,893億元であり,前年度末に比べ4.3%上昇した。また,損害保 険収入保険料は2,876億元まで上昇し,前年度末に比べ23%上昇した。図1 によれば,2000年から2009年までの中国損害保険総収保はほぼ毎年10%以上 の伸びを見せており,最も高い年には30%以上に達していることが分かる。

一方,図2が示すように,2009年の自動車保険収入保険料は損害保険総収 保全体の約4分の3を占めている。したがって,自動車保険は中国の損害保 険の最も主要な種目となっていることが分かる。さらに,図3を合わせてみ れば,中国の自動車保険収保の割合は2000年の約60%から2009年の約75%ま でに増加している。すなわち,中国において自動車保険以外の損害保険種目 の発展は自動車保険ほど著しくなく,中国損害保険業における各保険種目の 発展段階に大きなばらつきがみられることが分かる。

図1 2000年〜2009年中国損害保険総収保の推移および伸び率

2001年〜2010年中国保険年鑑により作成 202

中国の自動車保険における保険需要に関する実証研究

(5)

図2 2009年中国における損害保険収入保険料の保険種目別構成比

中国保険年鑑2010により作成

図3 2000年〜2009年中国損害保険総収保における自動車保険収保の割合の 推移

2001年〜2010年中国保険年鑑により作成

(6)

中国の損害保険市場における特徴の1つとして,高い市場集中度が挙げら れる。図4によれば,損害保険市場における上位5社の市場シェアは約4分 の3を超えていることが分かる。その中でも,中国人民財産保険会社は約40

%の市場割合を占めている一方で,外国損保会社の市場シェアはわずか1%

に過ぎない。

中国保険年鑑2010により作成 図4 2009年中国損害保険市場における各損保会社の市場割合

研究 国の自動車保険における保険需要に関する

204

5が入らないため、アキを作成しています 図表

(7)

2.1.2. 中国自動車保険市場の概要

図5 2000年〜2009年中国自動車保険収入保険料の推移および伸び率

2001年〜2010年中国保険年鑑により作成

中国統計年鑑及び中国保険年鑑において,自動車保険収入保険料は自動車強制責 任保険と任意自動車保険との合計となっている

2010年中国保険年鑑により作成 表2 2009年中国における地方別による自動車保険収保のランキング

単位 百万元

ランク 地方 収保 ランク 地方 収保 ランク 収保

3640 3569 3167 3015 2967 2884 2133 1005 833 604 260 21

22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 8170 5847 5725 5242 5139 4979 4908 4549 3864 3747 河南

安徽 山西 湖北 陝西 湖南 雲南 内モンゴル

広西 重慶 11

12 13 14 15 16 17 18 19 20 25059 19632 17372 17091 11417 11020 10959 8977 8860 8334 広東

浙江 山東 江蘇 四川 河北 北京 上海 遼寧 福建

10

チベット 青海 海南 寧夏 甘粛 吉林 新疆 貴州 天津 江西 黒竜江

地方

(8)

図5によれば,中国の自動車保険市場が急速に発展していることが分かる。

一方で,各地域における発展の不均衡は大きな問題である。表2をみれば,

1位の広東省の自動車保険収保は最下位のチベットの約100倍である。さら に,上位10省市のうちで,四川省を除く全ての省市が東部沿海にあることか ら,東部と西部に大きな格差が見られる。このような格差が形成する主要な 原因は経済発展水準の差である一方,保険意識の影響も考慮する必要がある。

2.2. 中国損害保険業が立ち遅れた歴史的要因の考察

1978年の改革開放から,中国の社会・経済・国民の生活水準は急速に発展 している。特に近年,中国における自動車保有量の増加はもっとも注目され ている。自動車保有量の急増につれて自動車保険収保も増加している一方,

自動車保険を主力とした損害保険業の発展水準はまだ世界下位である。なぜ 中国において損害保険産業はほかの産業より立ち遅れているのだろうか。そ の理由として,中国保険産業における歴史的事情から,1958年12月から1979 年12月まで中国保険業の停滞する事態があった点があげられる。以下では,

その原因を探求する。

まず,根本的な原因は経済体制の問題である。1950年代末から,中国では 徹底的な計画経済が実行されていたため,ほとんどの企業が国有化された。

もっとも,市場経済体制における各企業は損益を自社で負担しなければなら ないため,災害損失のリスクを保険会社に移転するのは最も有効な選択手段 の1つである。しかし,中国の計画経済体制の下では,企業の所有権は国の ものであり,損益は国が負担している。そのため,被保険企業および保険企 業ともに国有であることから,当時の中国政府は,保険を単に資金を国有企 業間で移動させるだけの意味ない活動と捉えており,財政管理のコスト増に つながるものと考えていた。それゆえ,保険業を中止する案が提出された。

また,当時中国において,さまざまな政治運動が絶え間なく起こっていた。

そのうちで 農村人民公社化 という運動は保険業停滞の最も大きな原因と なった。 農村人民公社化 は中国共産党が1950年代後期に社会主義建設を

206

中国の自動車保険における保険需要に関する実証研究

(9)

目的として実施された重大な政策の1つである。 農村人民公社化 につい て簡潔に述べると,まず農村における各世帯を1つの公社にして,さらに複 数の小公社を大公社に,最後に各大公社を1つの巨大な公社として徹底的な 共産主義を行うことである。1958年末に,全国で1.2億の農村世帯が2.6万の 人民公社に集中しており,99%以上の農村世帯が公社に属していた。 農村 人民公社化 は各世帯の潜在リスクを集団化することにより,ある程度保険 の機能を果たしていたことから,中国政府は保険業を全面的に中止すること を決定した。しかし, 人民公社 という政策はただ保険業の停滞をもたら すことだけではなく,経済発展の規律を損ねることとなり,中国の国民経済 に大きなダメージを与えることとなった。

以上,損害保険業における発展の不均衡および歴史上の停滞が,中国損害 保険業の立ち遅れの重要な原因であろう。しかしながら,冒頭で述べたよう に,近年の自動車保有量の激増により,中国はすでに世界第二の自動車大国 となった一方で,自動車保険が主力である中国の損害保険業の発展水準はま だ世界下位にとどまっている。中国の交通事故状況を考えれば,自動車保険 の社会的な役割は十分に果たされているとは言えない。したがって,現在の 中国において潜在的な自動車保険需要をいかに刺激するのかは重要な課題と なっている。そこで,本研究は,中国の自動車保険市場を分析した上で,先 行研究に基づいて中国における自動車保険需要の決定要因を調査するために 実証分析を行う。

3.先行研究

Sherden

(1984)は1979年のマサチューセッツ州の359の市町村のクロス セクション・データを用いて自動車保険需要と所得,保険料及び人口密度と の関係を分析した。その結果,個人所得及び保険料の係数の符号はそれぞれ プラスとマイナスとなり,1%有意であった。さらに,自動車保険の価格弾 力性は非常に小さいことが確認された。一方で,自動車保険需要は人口密度 の上昇につれて有意に上昇するが,ある程度の人口密度から高い人口密度ま

(10)

での上昇はわずかであることが示された。

Browne et al.

(2000)は,OECD加盟国の損害保険需要の違いを解明す るため,25カ国の

OECD

加盟国の1987年から1993年までの7年間のデータ を用いて損害保険需要に関する分析を行っている。また,この論文は損害保 険の一部としての自動車保険を単独に分析している。分析結果は,所得の係 数の符号は有意にプラスであり,富の代理変数及び外資系保険会社の市場占 有率の係数の符号は有意にマイナスであり,教育水準及び都市化率の係数は 有意でないことを示した。

陳(2011)は日本の47の都道府県の1999年から2008年までのデータを用い て,自動車保険需要に関して分析を行っている。パネルデータによる分析に よって,所得は自動車保険需要にプラスの影響を与えているが,自動車保険 需要の価格弾力性は非常に小さいことを発見した。また,交通事故率は自動 車保険需要に大きな影響を与えていない一方で,損失額は保険需要に強い影 響を与えていることが分かった。そして,高齢化の進行にともない自動車保 険契約率は高くなっているが,収入保険料は逆に減少している。さらに,

1999年の保険料率自由化以降,保険契約者は保険料を自身のリスクに対応さ せることができるようになっていることを示した。

以上の自動車保険需要に関する先行研究にしたがって,本研究では,自動 車保険需要の各決定要因を明確にし,中国における自動車保険需要の独自の 決定要因を検討する。

4.分析方法およびデータ

本研究においては,パネルデータを用いて分析する。分析対象は中国の31 省市自治区であり,検証期間は2002年度から2009年度までの8年間である。

本研究で用いたデータは 中国保険年鑑 (2002‑2010年版)および 中国統 計年鑑 (2002‑2010年版)によっている。検証期間は8年間であるが,2002 年度以降を対象とした理由はそれ以前の年度の 中国保険年鑑 には,必要 なデータが掲載されておらず,所有構造の変数を作成するために必要なデー

における保

208

中国の自動車保険 険需要に関する実

名が泣き

正 時 注意。

れになってしま うためイレジュ ラー処理をして い ま す。訂

(11)

タが入手できないためである。

5.実証モデルと分析結果

5.1. 実証モデル

データの制約( 中国保険年鑑 は自動車保険の普及率に関するデータが 掲載されていない)により,本研究は

Sherden

(1984)にしたがって自動車 1台当りの保険料を被説明変数とする。実証モデルは以下のとおりである。

lnY =α+β lnincome

+β lnprice +β lnloss +β

accident

+β

education

+β

unmarried

+β

child

+β

old

β dummy

ε

た だ し, は 各 都 道 府 県, は 年 度 で あ る。education

illiteracy

primary

,middle,high,universityなどの各変数のなかで相関が低い変数 の組み合わせである。

それぞれの変数を以下のとおり定義する。

図表及び脚注がはいらないため、アキを作成しています

(12)

表4 各変数の記述統計

2) なお,陳(2011)は日本の自動車保険における需要を検証したとき,自動車 保険の付保率をも被説明変数としたが,本研究においてデータの制約のため,

1台あたりの自動車保険収入保険料のみ被説明変数とする。

2007年以降の年度を1とするダミー変数

各省市自治区における1台あたりの自動車保険収入保険料

dummy   Y 被説明変数

表3 各変数およびその定義

説明変数

各省市自治区における個人所得 income

 

accident 各省市自治区における事故率=事故件数/自動車台数

各省市自治区における年末の個人貯蓄額 deposit

 

illiteracy 各省市自治区における文盲率

各省市自治区における小学校卒業までの教育レベルしか達していない人口の比率 primary

 

price 各省市自治区における自動車保険料の代理変数=保険料/保険金

各省市自治区における1件あたり交通事故損失額 loss

 

university 各省市自治区における大学及び大学以上の教育レベルに達している人口の比率

各省市自治区における未婚率=15歳以上の未婚人口/15歳以上の総人口 unmarried

 

old 各省市自治区における高齢者の扶養率=65歳以上の人口/15〜64歳の人口 各省市自治区における子供の扶養率=0〜14歳の人口/15〜64歳の人口 child

 

middle 各省市自治区における中学校卒業までの教育レベルしか達していない人口の比率

各省市自治区における高校卒業までの教育レベルしか達していない人口の比率 high

符号 平均値 標準偏差 最小値 最大値 6102 26675 70518 10388 0.147 2.672 0.549 0.519 0.496 0.290 0.617 0.352 0.447 0.371 1175

5267 1689 1397 0.001 1.112 0.028 0.130 0.085 0.021 0.004 0.131 0.092 0.070 906

3892 10282

1644 0.020 0.243 0.078 0.078 0.075 0.047 0.061 0.038 0.086 0.049 2776

10195 11393 4474 0.021 1.814 0.109 0.322 0.372 0.135 0.072 0.199 0.252 0.135 Y

(単位:元) income (単位:元)

deposit (単位:元)

loss (単位:元) accident

price  illiteracy 

primary  middle  high  university  unmarried 

child  old 

 

210

中国の自動車保険における保険需要に関する実証研究

(13)

incomeは個人所得である。Outreville

(1990),Browne et al.(2000),

Esho et al.

(2004)は所得が保険需要にプラスの影響を与える,つまり,

保険商品は正常財であること(高尾(1991),p.49)を示している。したが って,個人所得の係数の符号はプラスである。また,depositは年末の個人 貯蓄額である。この変数を用いる理由は,中国において貯蓄は国民投資の第 一選択のためである。それゆえに,中国において自動車保険需要に対する影 響について,所得と貯蓄との比較は本研究の1つの目的である。

priceは自動車保険料の代理変数である。自動車保険料は,様々な要素に

より設定されるためにかなり複雑である。Sherden(1984)はマサチューセ ッツ州における市町村の地域料率によって保険料の代理変数を作り出したが,

中国の場合では各省市自治区における地域料率が設定されていないため,こ の方法は利用できない。一方,他の先行研究では実際の保険料率を用いてお らず,他の代理変数が利用されるのが一般的である。その中で,Outreville

(1990)と

Esho et al.

(2004)は損害率の逆数(保険料/保険金)を保険料 の代理変数としている。その理由は,保険料が消費者自身のリスクより高く なればなるほど,消費者は保険商品を消費しにくくなる。一方,保険料が消 費者自身のリスクにより近づいていれば,保険料は合理的になり,消費者に とって保険商品を消費しやすくなる。もっとも,先行研究では自動車保険料 について様々な変数が提案されているものの,自動車保険料の複雑性により,

必ずしも適切な代理変数に対するコンセンサスが得られているわけではない。

そこで,本研究は

Outreville

(1990)と

Esho et al.

(2004)にしたがい,

損害率の逆数を自動車保険料の代理変数とする。

accident

は事故率であり,分母は各省市自治区の車の台数,分子は交通

事故数である。酒井(1982)の保険需要モデルによると,事故率は保険需要 にプラスの影響を与えるが,陳(2011)の実証結果は両者間の有意な関係を 示していない。そして,実際に中国の交通事情を考えれば,この変数は有意 でない可能性がある。lossは交通事故平均損失額であり,この説明変数の符 号はプラスであると予想される。

(14)

illiteracy

,primary,middle,high,universityはそれぞれの教育レベル の代理変数である。Szpiro and Outreville(1988)は人間の教育レベルが 高くなればなるほど,リスク回避度は低くなると主張する。その理由は,教 育レベルが高くなれば,リスクに対しての評価能力も高くなる。つまり,リ スクをコントロールできるためにリスク回避度は低くなる。Riley and

Chow

(1992)もこの主張を支持している。一方で,Hersch

 

(1996)は逆の

主張をしている。さらに,Truett and Truett(1990),Browne and Kim

(1993),Outreville(1996)などの生命保険需要に関する先行研究は,統計 的に両 者 間 の プ ラ ス の 有 意 な 関 係 を 示 し て い る。一 方,Browne et al.

(2000)は高等教育が損害保険需要への影響について分析を行っているが,

分 析 結 果 は 両 者 間 の 有 意 な 関 係 を 示 し て い な い。た だ し,Esho et al.

(2004)は,パネルデータの結果により,中等教育が損害保険需要にプラス の影響を与えることを示している。しかし,中等教育には中学校と高校との 2つのレベルがあるため,2つの教育レベルを分けて分析する必要がある。

なぜなら,国により義務教育の年数は異なっているが,多くの国において9 年の義務教育制度が実施されており,中学校にいたるのは義務教育である。

そこで,中国でのデータを用いて各教育レベルと自動車保険需要との関係を 明らかにすることは本研究の重要な目的である。

unmarried

は未婚率である。Sunden and Surette(1998)は婚姻状況が リスク回避度に影響すると主張している。さらに,Halek and Eisenhauer

(2001)は婚姻状況とリスク回避度との有意な関係を確定しているが,両者 間の因果関係の方向は確定できない。つまり,結婚は人のリスク回避度を高 めるかもしれないが,逆にリスク回避者はよく結婚する可能性も存在する。

本研究では,中国の各地の未婚率のデータを用いて両者の関係を検証する。

この変数の符号はマイナスであると予想される。すなわち,結婚した人のリ スク回避度は高くなり,自動車保険需要にプラスの影響を与えることが予測 される。

child

お よ び

old

は そ れ ぞ れ 子 供 お よ び 高 齢 者 の 扶 養 率 で あ る。

212

中国の自動車保険における保険需要に関する実証研究

名前の泣き別れ を防ぐためイレ ジュラー処理を し て い ま す。訂 正時注意

(15)

Browne and Kim(1993)は扶養率が生命保険需要にプラスの影響を与え

ることを示している。本研究において,子供及び高齢者の扶養率が与える自 動車保険需要への影響を分析する。なぜなら,まず中国ではアメリカや日本 などの先進国と異なり,子供の出産から中学校卒業までに,より多くの医療,

教育などの費用は自分で負担しなければならないためである。また,中国社 会において,伝統的な文化や習俗により,3世帯および4世帯の家族が同居 している状況も少なくない。もし家に子供や高齢者がいれば,自由に消費で きる所得は相対的に少なくなる。中国において高齢化の進行はそれほど深刻 ではないが,陳(2011)は日本において高齢化が自動車保険需要に強く影響 することを確認したため,本研究でも中国において高齢化の影響を検証する。

子供及び高齢者の扶養率が高くなれば,自動車保険需要にマイナスの影響を 与える可能性がある。また,貯蓄性のある生命保険と 掛け捨て の損害保 険とは本質的に異なっているため,結果は必ず同じであるとはいえない。

さらに,中国では2006年7月1日に 自動車交通事故責任強制保険 が実 施された。これは国家法律による最初の強制保険制度である。 自動車交通 事故責任強制保険 の実施により,以前の地方による強制保険としての 第 三者責任保険 は任意保険になった。したがって,この国家法律による強制 保険の実施は自動車保険にどのような影響を与えるかを検証するために,

2007年以降を1,それ以前を0とするダミー変数を用いる。

5.2. 実証結果

ハウスマン検定により,すべてのモデルで変量効果モデルを採択する。実 証結果は以下のとおりである。

図表が入らないためアキを作成しています

(16)

ln  incomeの係数はすべてのモデルにおいてプラスであり1%水準で有意

となった。これは保険が正常財であることを示している。accidentの係数 はすべてのモデルにおいて有意でない。この結果は陳(2011)の結果と同じ である。つまり,人々にとって交通事故の発生率が高くなっている印象が強 いため,交通事故率の変化は自動車保険需要への影響が弱くなっている。し

表5 実証結果

は1%水準で有意, は5%水準で有意, は10%水準で有意,( )内は

t

係数の

ln

は自然対数値を表している

説明変数 モデル2 モデル3 モデル4

0.513

(7.68)

−0.213 (−0.34)

0.073 (2.04) 0.497

(9.00)

0.256 (0.74)

‑1.035 (−2.26)

−0.662 (−2.04)

−1.244 (−3.36)

0.029 (1.11) 0.2976 0.513

(7.82)

−0.156 (−0.25)

0.078 (2.20) 0.497

(9.03)

0.543

(1.62)

−0.999 (−1.76)

−0.931 (−2.03)

−0.613 (−1.82)

−1.295 (−3.36)

0.019 (0.74) 0.2906 0.507

(7.76)

−0.176

(−0.28) 0.073

(2.06) 0.487

(8.81)

−0.887 (‑1.53)

−1.020 (−2.24)

−0.777 (−2.46)

−1.354 (−3.77)

0.029 (1.08) 0.2785

lnincome

lndeposit   accident

lnloss

lnprice   illiteracy

  primary

  middle

  high   university

  unmarried

  child

  old   dummy

07

決定係数 0.0973

0.031 (1.48)

−1.133 (−2.98)

−0.673 (−2.02)

−0.925 (−1.94)

−1.231 (2.13)

0.318 (0.81) 0.458

(8.08) 0.078

(2.11)

−0.903 (−1.43) 0.303

(6.15)

モデル5

0.3034 0.018 (0.65)

−1.349 (−3.70)

−0.655 (−2.06)

−0.952 (−2.09)

−1.257 (−2.35)

−0.308 (−0.84) 0.503

(9.23) 0.073

(2.07)

−0.241 (−0.39)

0.561

(7.99) モデル1

214

中国の自動車保険における保険需要に関する実証研究

(17)

たがって,一定の高水準に達した後の事故率の変化は,保険需要への影響が 弱くなると考えられる。一方,ln 

loss

の係数はすべての期間においてプラス であり5%水準で有意である。これも陳(2011)の結果と同じである。した がって,自動車保険需要に対して,事故率に比べて損失額のほうがより強い プラスの影響があることがわかる。ln priceの係数はすべてのモデルにおい てプラスであり1%水準で有意であり,保険料の上昇にともなって収入保険 料は高くなっている。

illiteracy

,primary,middle,highの係数はすべてのモデルにおいて有 意でない一方で,universityはモデル1,モデル3及びモデル5においてマ イナスであり,それぞれ5%,10%及び5%水準で有意である。この結果は,

Szpiroand Outreville

(1998)の主張を支持している。つまり,教育レベル が高くなれば,リスクをコントロールできるためにリスク回避度は低くなっ ている。その理由は,おそらく高等教育を受ける人間はあまり危険な運転を しないことから,自動車保険に加入する意欲が低くなっていることが推測さ れる。逆に,教育レベルが低い人間は自分が危険な運転をする可能性が高い ことを意識しているため,自動車保険によく加入している。また,モデル1

において

illiteracyの符号はマイナス,モデル4およびモデル3において

primary及び middleの係数の符号はプラス,モデル2において highの係

数の符号はマイナス,モデル1,モデル3およびモデル5において

univer- sityの係数の符号はマイナスでかつ5%,10%及び5%水準で有意となった。

university以外の変数は統計上に有意な結果は得られないが,各教育レベル

の変数の係数の符号の違いにより,以下の結論が考えられる。まず,リスク 回避度は中学校までの教育レベルの上昇に伴って上昇するが,高校及び大学 以上の教育を受ければ受けるほど,逆にリスク回避度は低くなる。この結果

Esho et al.

(2004)とは矛盾しないが,自動車保険需要に対して中学校 と高校との教育レベルの影響は異なり,さらに高等教育の影響はマイナスで あることも示している。

unmarried

の係数はすべてのモデルにおいてマイナスであり,5%水準

(18)

で有意となった。この結果は,Halek and Eisenhauer(2001)を支持して いる。すなわち,結婚した人のリスク回避度は高くなり,自動車保険需要に プラスの影響を与えることを示している。

child

の係数はモデル3においてマイナスであり10%水準で有意である。

それ以外のモデルでは5%水準有意でマイナスある。oldはすべてのモデル においてマイナスであり1%水準で有意である。この結果により,扶養率が 与える生命保険需要と損害保険需要とへの影響は全く異なっていることが分 かる。さらに,両方とも自動車保険需要にマイナスの影響を与えているが,

oldの効果はより強い。その理由は14歳以下では自動車の運転資格がないた

めだと考えられる。中国において1979年から実行された 一人っ子政策 に 関連して考えると,今から20年にわたり,特に都市部において,高齢化は自 動車保険需要に深刻な影響を及ぼす可能性がある。

ダミー変数の係数はすべてのモデルにおいて有意でない。これは 自動車 交通事故責任強制保険 が,以前から存在していた 第三者責任保険 の代 替に過ぎず,自動車保険需要にほとんど影響していないことを示している。

一方,この結果は,都市圏以外の地方において,人々の規範意識が強くない ことを反映している可能性がある。実際,都市圏以外の地域において,無保 険の車による交通事故に関するニュースが次々と報道されている。特に,都 市近郊において無保険のバイクが起こす事故が多いという事実がある。

5.結論と課題

本研究の目的は,中国の自動車保険における保険需要の各要因を定量的に 分析することであった。その結果,以下の3点を明らかにすることができた。

第1に,高尾(1991)がモデル分析によって指摘していた通り,中国にお いて保険商品は正常財であることが確認された。さらに,中国において自動 車保険需要に対して,貯蓄より所得の影響が強いことがわかった。次に,損 失額の係数は有意であるが,事故率の係数は有意でないことが確認された。

この結果は陳(2011)の結果と一致している。つまり,自動車保険需要に対 216

中国の自動車保険における保険需要に関する実証研究

(19)

して,交通事故率より損失額の影響が強いことが確認できた。

第2に,自動車保険需要に対して,各教育レベルの影響が異なることが分 かった。特に,高等教育は自動車保険需要との間にマイナスかつ有意な関係 があることを確認できた。次に,未婚率の係数はマイナスかつ有意である,

つまり,結婚した人のリスク回避度はより高くなっており,自動車保険需要 への影響はプラスであることが分かった。また,生命保険需要への影響とは 異なり,扶養率は自動車保険需要にマイナスの影響を与えることを確認でき た。さらに,子供の扶養率より,高齢者扶養率の影響はより大きいことが分 かった。つまり,高齢化の影響はより深刻な問題となりうるであろう。中国 において, 一人っ子政策 により将来の高齢化が自動車保険市場へ深刻な 影響を及ぼす懸念がある。そのため,日本の経験を鑑み,早めに対策を講じ る必要があるのではないか。

第3に,すべてのモデルにおいてダミー変数の係数は有意でない。つまり,

国家法律による最初の強制保険制度である 自動車交通事故責任強制保険 がもたらす自動車保険需要への影響はさほど大きくないと考えられ,単に

第三者責任保険 の代替に過ぎないと言えよう。この結果も,中国におい て特に都市以外の地方において人々の規範意識が強くないことを反映してい る可能性がある。

以上が本研究の結果をまとめたものであるが,いくつかの課題も残されて いる。特に自動車保険加入率のデータが掲載されていないため,それに関し ての検証はできなかった。とはいえ,先行研究に基づいて,現時点で入手可 能なデータをほぼ利用して中国の自動車保険における保険需要の決定要因が 自動車保険市場に与える影響を検証したという意味では,本研究には一定の 貢献があると思われる。

(筆者は神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程)

(20)

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中国の自動車保険における保険需要に関する実証研究

参照

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