経営と経済 第75巻第3・4号1996月3月
《研究ノート》
対称的複占における利潤可能性フロンティアとBalanced Temptation Equilibriumの一意性
是枝正啓
対称的複占における利潤可能性フロンティアと Balanced Temptation Equilibriumの一意性
序
Abstract
Friedman (1971) proved the existence of a balanced temptation equilibrium in which each player has same degree of temptation to defect from the trigger strategy. Its concept narrowed numerous poten‑ tial equilibira down, but how to choose one equilibrium among them has still left for lack of the proof of its uniqueness, therefore game theory has one important problem to solve in the infinitely repeated game. In this paper we will demonstrate the uniqueness of balanced temptation equilibrium in a symmetric Cournot duopoly model in the class of linear demand functions.
373
フォーク定理によれば,クールノー型複占において,両企業は反応曲線の 交点として求まるクールノー・ナッシュ均衡への回帰を脅しとするトリガ一 戦略を用いることによって回限りで達成できるクールノー・ナッシュ均 衡利得よりも高い利得をもたらす無数の配分をくり返しゲームではサブゲー ム完全ナッシュ均衡として実現できる。
Friedman (1971)は,これら無数の完全均衡利得の中でトリガ一戦略に よって実現できる協調的利得から逸脱したときに得られる利得と逸脱で失わ れる1期間当りの利得の比を逸脱の誘惑の程度を表わすものとみなし,その 比がすべての寡占企業にとって同じ値となるような balancedtemptation equi1ibriumが存在することを示すことによって,完全均衡利得の範囲を狭 めることができると主張した。
しかしその一意性が示されていないために,複数の balancedtemptation equi1ibriumが存在した場合,最近のゲーム理論の最も大きな関心事の一つ である,そのうちどれが選択されるかという問題が未解決のまま残ることに なる。本稿の目的は対称的複占においてbalancedtemptation equilibriumが
一意に存在することを示すことによって,この問題の解決のための一つの示 唆を与えることにある。
1 .利潤可能性フロンティアとパレー卜効率
以下ではクールノー型対称的複占について考察する。いま同ーの財を生産 する複占企業1,2の生産量をx,yとしよう。また線形の需要関数が財の価 格pに対して
ρ=α‑b(x+y) α(>0, b>O)
と表わされるとしよう。これら2つの企業が同ーの費用関数 C(x) =cぁ C(y)=り (c>0)
をもっとすれば,それぞれの利潤πbπ2は
πI=PX‑CX= α(‑c)x‑bxy‑bx2 π2=Py‑CY= (α‑c)y‑bxy‑by2
(1 ) (2)
と表わすことができる。クールノー・ナッシュ均衡点は企業1, 2の反応関 数
37=α‑c‑砂一2批=0
す=α‑c‑bx‑2炉 0
をみたす点
︑ ︑ . ︐ ︐ ︐ ︐ qd
︐ ︐
EE︑
︑ ︑ . ︐ ︐ ︐
44・
︐ ︐ . ︑ ︑
で与えられ,さらにクールノー・ナッシュ均衡点における企業1, 2の利潤
πi,π2は
375 対称的複占における利潤可能性フロンティアと
Balanced Temptation Equi1ibriumの一意性 α‑C)2
1ri =ロ=一石下 (5)
として求められる。
次に利潤可能性フロンティアを求めてみようo これは両企業が協調したと き得られるであろう利潤量を表わした曲線である。まず企業 1の等利潤曲線 は凹になることを示そう。その形状を示す式は
~~={-守(努y+2 お 37 苛 a診断}/ (a~ly
2b2 (P‑c)
‑b3x2
したがって曲線は凹である。なぜなら利 これは負であり,
で求められるが,
潤が正となるために価格は限界費用よりも大きくなければならないので
p‑c> 0となるからである。同様に企業2の等利潤曲線も凹となるので,一 これらの 点で接するような両企業の等利潤曲線が多数存在することになる。
接点の中でクールノー・ナッシュ均衡点よりもパレート効率的に優る点が利 しかもクールノー・ナッシュ均衡点より 潤可能性フロンティアの上の点で,
も両企業により多くの利潤を与える両企業の産出量の組である。その集合は 曲線を含む利潤可能 曲線のように表わせる。 M M
図 1に描かれた M M
性フロンティア曲線はZとyの関数の形で, π1=π1(x, y),π2=π2(ふy)の関 数関係を調べることによって次のように求めることができる。すなわちπ1
=π1 (x, y)とπ2=π2(X,y)が関数関係をもつためには 内 町 一 り
包砂
が成り立つことが必要十分である。これは(1) (2)から
(7) (P‑C)2+ρ'(P‑c) +〆(P‑c)y=0
となる。 ρ‑c>0であるから(7)は結局
376
a‑c b
2b
O U
(P‑c) +ρ'(x+y) = 0
と書くことができる。これより
x+y=笠二三 2b
a‑c 2b 図
a‑c b
Z
(8)
が求められる。この(8)と(1), (2)より, π1とπ2の関係が (
α ‑C)2
π1+π2=ρ(x+y) ‑C(X+y) =一 一 一 (9) 4b
と表わされ,これが利潤可能性フロンティアを表わす式であむこの(9)は利 潤可能性フロンティアが凸集合であるだけでなく,パレート効率的な利潤の
注2)
組の集合であることを示していることに注目しよう。
こんどは反応関数(3),(4)によってもたらされる企業1, 2の利潤の組はど のような関係にあるかを調べてみよう。まず企業 1の反応関数(3)によって表 わされるπ1とπ2の関係を求めてみよう。 (1),(2)より
対称的複占における利潤可能性フロンティアと Balanced Temptation Equi1ibriumの一意性
712
包二~22 4b
一心 いん じト トト ト一 一
山仙川一平
O 包二2'包二2'主主ニヰ2
9 b 8 b 36b
図 2 π1ーπ2
x y が得られる。つまり
y=主~π1
となる。これを(3)に代入すると α‑c一位7r2̲2 bx= 0
π1 となり,これより
π一π
め一
2ω一 二川 +
70
一 一
Z
同様にして
2 ‑ π π
一) 一
2寸 一
一ηL α一π +
TE hu
‑ ‑
明v〆
主ニヰ2
4b
377
711
。
。
(11)
378
が求まる。 (10),帥を(3)に代入すると,次のような二次曲線を表わす方程式が 得られる。
4 b1r
r ‑(
αーC)2π1+4bπ l1r 2+ bπ ~= 0 (12) 同様にして企業2の反応関数(4)が表わすπlとれの関係はbπr+ 4 bπ山 一α(‑c)π2+4 bπ~= 0 (13) となる。以上のπlとπ2のグラフは図2のようになる。
II. 8alanced Temptation Equilibriumの一意性
本節では前節で求めた利潤可能性フロンティアを表わす(9)と反応関数がも たらす利潤の組の集合(以下最適反応利潤と呼ぶ)(12)および(13)を用いて,
balanced temptation equi1ibriumの一意性を示してみよう。
いま利潤可能フロンティア上の利潤の組を (πf,πt,) 最適反応利潤の 組を (ih,元2)と表わすことにしよう。そのとき
πl一πf一π2一πf
一家一ーマ一一家一一.c
i11一λ ]C2ーμ2 (1~
はトリガ一戦略によってもたらされる利潤可能性フロンティア上の共謀の利 潤から逸脱したときに得られる利潤の増加分とその逸脱によって失われる 1 期間当りの利潤の比を示している。この比は企業が共謀の利潤から逸脱する 誘惑の一つの度合を示すものと考えることができる。 Friedman は(1~をみた す (πf,πt)をもたらす産出量の組 (x*,y*)を balancedtemptation equi1ibrium戦略とよび,この均衡戦略の存在を証明した。これによってフ
ォーク定理から求められる潜在的に実現可能な無数の完全均衡戦略の範囲が 絞められたが,一意性が示されていないために,複数の完全均衡戦略からど れが選択されるかという問題は依然、として残されている。したがって一意性
対称的複占における利潤可能性フロンティアと Balanced Temptation Equi1ibriumの一意性
を示すことはその問題に一つの解 決を与えると考えることができ る。しかし対称的複占においても この一意性は自明ではない。なぜ なら H1=(元1一πわ/(πf‑πD.
H2= (元2一πt)/ (πf-π~) とお けば,図3のように(図3におい て左から右への曲線はZが増加し てときのH1の動きであり,右か ら左への曲線はyが増加したとき のH2の動きを表わしている。 ).
H1= H2をもたらすbalancedtemptation equi1ibrium戦略が複数存在する ことを否定することができないからである。そこで以下ではこのような事態
379
H!,H2
Z 一一一~ x = y .. 一一‑y
図 3
は生じず.X1 とH1の関係を表わす曲線と yとH2の関係を表わす曲線が ただ1点で交わることを示すことによって一意性を証明する。
準備として次の補助定理を示そう。証明は計算によって容易に確かめられ る。
補助定理
π1一π1'̲π2一π2"晶 ~πl 一 πf_π2 一 πz
京て万一五=万w 汗=万一万=万
この補助定理は(元l一πt)/ 元1( 一πD= 元2( 一πt)/ (元2 一 π~) をみたす (πf,πわが一意に存在するならば. (元l一πt)/ π(t‑πD = 元2(一πヂ)/
(πf 一 π~) をみたす (πf , π t) が一意に存在することを意味する。
定理 (1~ をみたす balancedtemptation equi1ibrium戦略は一意に存在し,
それは
一 一 仏
W
V〆
VA
380
である。
証明)まずれは πf関数として表わされることを示そう。れをもたらす産 出量は(3)より
y=‑2x+(α‑c)jb (15)
と表わされる。この紛と(1)より
元1=bx2 (16)
となる。一方 π?をもたらす産出量は(8)より y=(α‑c)j 2 b‑x
であり,これを(1)に代入すれば,
πず=(α ‑c)xj2 6カ
が得られる。したがって刊と制より
元1=4 bπt2j (a‑c)2
。 。
が求められる。 (5)と附より
U 一元1一πf‑ 4bπt"2 j α(‑C)2ー πf
口l一五戸方‑4 brrt'2j α(‑c)2‑α(‑c) j 9 b
である。このように πfはxの関数として表わされ,元1はπ?の関数として 表わされるので,結局れはxの関数として表わすことができる。したがっ てZとyが(8)をみたしながら変化するとき ,xの増加に対してH1がどのよ うに変化するかをみることができる。その変化は
dH1̲ d( 4brrt"2 j α(‑C)2ー π「 ¥ Tx‑dx¥TIπf'2j α(‑C)2ー α(‑c)j 9 b)
18b(α‑c)(( 9 b2x2 ‑ 4 b(α‑c) + α(‑c) 2) 08b2x2 ‑2 α(‑C)2)2
対称的複占における利潤可能性フロンティアと
Balanced Temptation Equilibriumの一意性 381 と表わされる。分子の2番目のカッコ内の判別式は負となるので,カッコ内 は任意のZに対して正である。よって dHrldx>0となる。これはH1がZ
の増加 (yの減少)に対して増加していることを示している。このことはい ま対称的複占を考えているのでZの増加に対してH2が減少することを意味 するoXが下からα(‑c)/3 bに近づくとき(yが上からα(‑c)/6 bに近づく
とき )H1→∞であるから ,xがα(‑c)3 bの近傍にあるときはH1>H2で ある。同様にyが下からα(‑c)/3 bに近づくとき (xが上からα(‑c)/ 6 bに 近づくとき )H2→∞であるから ,xがα(‑c)/6 bの近傍にあるときはH1く
H2である。このことから区間 ((α‑c)/6b,(α‑c)/3b)においてH1= H2=
18/ 7となる産出量の組はただ 1つ存在し,それは(ιy)= ((α‑c) / 4 ι(α‑c)/4b)である。.
Hj,H2
,/1¥
,'a‑b
, 2h
,'a‑c
" 3 b
, a‑c /
18 γ 4 Jy‑ーーーーーーーア‑‑‑‑‑‑;. a‑c /
6b"/‑‑ーーー・ーーコムーーーァ七ー・ー,
。
a‑c a‑c a‑c 6b 4b 3b 図 4a‑c 2b
v
Z
382
以上の証明は図を用いて直観的に理解することができる。図2において クールノー・ナッシュ解よりパレート効率的に優る利潤の組は V(図 1にお ける M に対応する)と V'(図lにおける M に対応する)を結ぶフロンテ ィア線上にある。図1において点 (x,y)がM=(2(α‑c) /9 b, 5 α(‑c) /18b) からM = (5 (a‑c)/18b, 2 α(‑c)/9b)へ動くと xは増加し ,yは減少する ことになる。それは図2において利潤の組がVから V'へと動くことに対応 し,図4においてH1が次第に大きくなっていくことに対応する。一方xの 増加にともなってH2は減少するから結局図4におけるように一点で交わる
ことになる。
注 1)この利潤可能性フロンティアを表わす式は次のようにして求めること ができる。
(1 )より
y‑G‑C Z 1tl
一 一b "" bx
であるから,これを(2)に代入すると ,xに関する二次方程式 b(π1十π2).X2ーα(‑c)π1X+πr=0
が得られる。 π1(X,y)とπ2(X,y)は一点で接するから判別式をDとすれば,
D =πtC 4 b(π1+π2)一α(‑c)2=0
でなければならない。 π1>0であることにより,
π l ーα(‑C)2
lT1r2一‑‑‑‑:rb
が求まる。
本文による関数関係から求める方法では両企業の費用関数が異なる非対 称複占の場合には利潤可能性フロンティアの式を導出することはできない
対称的複占における利潤可能性フロンティアと
Balanced Temptation Equilibriumの一意性 383 が,以上の方法ではそれが可能である。その場合にはZに関する三次方程 式から重根をもっ条件を用いて,すなわち判別式をOとおくことによって
πlとπ2の関係式を導出することができるが,それは3次曲線を表わす非 常に複雑な式になる。
注2)利潤可能性フロンティアが凸集合の性質をもつだけならば,その上の 点がパレート効率的でない場合が生ずる。そのときはFriedmanが述べて いるように(1)解にパレート効率性を求めず,フロンティア線上にあること だけを要求する, (2)フロンティア線上にある解がパレート効率的でないな らば,名プレーヤーにより多くの利得を与えるそれに最も近いパレート効 率点で置きかえる,ことが必要になる。
参 考 文 献
岩井克人・伊藤元重綱(1994) W現代の経済理論』東京大学出版会
Friedman, J. (1971), A N oncooperative Equi1ibrium for Supergames, Review 01 Economic studies 28 : 1‑12.
一一 (1986) Game Theoη, with Attlications to Economics, Oxford University Press. 清野一治(1993) W規制と競争の経済学』東京大学出版会