長崎大学工学部研究報告 第 2 6 巻 第 4 6 号 平成 8 年 1 月
有限長 の垂直銀 円柱 まわ りの過渡膜沸騰 の観察
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山 田 山 召* ・ 茂 地 徹 * 桃 .木 悟 * ・ 金 丸 邦 康 **
Vi s ualObs e r va t i onofTr ans i e ntFi l m Boi l i ng ar oundaVe r t i c alFi ni t e ‑ Le ngt hSi l ve rCyl i nde r
by
Ta ka s h iYAMADA * , To r uSHI GECHI * , Sa t o r uMOMOKI * a n dKu n i y a s uKANEMARU* *
Thet r ans i e nLf i l m boi l i ng ar o und ave r t i c al l y pl ac e d s i l ve rc y l i nde rque nc hi ng i n aqui e s c e nt s at ur at e dwat e rwa so bs e r ve dvi s ual l y. Thet e s tc yl i nde rhad3 2mm di a me t e randi t sl e ngt hwas var i e dbe t we e n 8 and6 4mm. Smoo t hvapor ‑ l i qui di nt e r f a c e swe r eo bs e r ve dbe ne at ht hebot t om s ur f ac e . Ont heve r t i c als ur f ac et hevapo r ‑ l i qui di nt e r f ac ewaswavye xc e ptne art hebot t om e dgea nd o nt het ops ur f ac et hei nt e r f ac ewasal waysr ou gh. Thee f f e c toft hec yl i nde rl e ngt ho nt heo ve r aユ l hea tt r a ns f e rr at eo ff i l m boi l i ngwa sno tc l e ar l yo bs e r ve do nt heboi l i ngc ur ve s .
液体 中に浸漬 された物体 まわ りの膜沸騰 に関 して多 くの実験 が行 われている. しか しなが ら, これ らの研 究 は平板 や円柱 の ような単純 な 2 次元形状 の物体 や, 球や円錐体
1)の ような軸対称形状 の物体 に限定 され て い る.有限長 の円柱 の ような 3 次元物体 に対 して報告 されてい る研究 は少 ない
2).3 次元物体 まわ りの膜沸 騰 は材料 の製造工程 中 また は金属 の焼入れ,原子炉緊 急冷却時の原子炉 の安全問題等 で生 じる.液体 中で冷 却 され る 3 次元物体 まわ りの膜沸騰 に関 して,現象の 観察や実験 データの蓄積 は伝熱 のメカニズム を研究 し た り正確 な熱伝達特性 を予測す るた めに不可欠で ある.
本研究 では,垂直 に設置 された有限長の円柱体 を 3 次元物体 として選択 した. これ まで垂 直 に設置 した円 柱 の垂直面 に対す る膜沸騰熱伝達のメカニズム はよ く 研究 されてい るが,垂直 円柱 の底面 すなわち下向 き水 平面 の膜沸騰熱伝達 の研究 は少 なか った.最近,著者 らは下 向 き水平 面 か ら静止 した飽 和 液体 お よびサ ブ
クール液体 への膜沸騰熱伝達 に関 して理論解析 を行 い, 実験 デー タを高い精度で相関で きる伝熱整理式 を作成
した
3).本報告で は,大気圧下で飽和温度 に維持 された静止 水 中に浸漬 された有限長 の垂直銀円柱 まわ りの膜沸騰 伝熱機構 について調べ るため,過渡膜沸騰 の現象観察 と,円柱体 を集中定数系 とみな して,平均的な膜沸騰 熱伝達 に及 ぼす円柱長 さの影響 に関 して沸騰 曲線上で 予備的考察 を行 った結果 について報告す る.
2. 過 渡 実 験
2. 1 実験装置 および実験方法
Fi g. 1は,過渡膜沸騰熱伝達 の実験装置 の概略図で あ る.装置 は大別 して沸騰槽,加熱 した銀製 の円柱体 を飽和水 中に垂直 に浸潰 す る昇降装置,温度測定装置 お よび沸騰現象観察装置 の 4つの部分か ら構成 されて い る.沸騰槽 はステ ンレス製 で ,4 5 0 mmX4 5 0 mmX 7 5 0 mm の大 きさを有 す る長方形容器 で あ る.沸騰槽 平成 7 年 9 月2 6 日受理
*機械 システム工学科 ( De par t me ntofMe c hani calSys t e msEngi ne e r i ng)
* *共通講座 ・工業物理学 ( Appl i e dPhys i c sLabor at or y)
2 6 山田 昭 ・茂地 徹 ・桃木 悟 ・金丸邦康
1.Te s ic yt i nde r B . Bo i t i ngb a l h 9 J 」L聯 ng de v i c e 4 . Te mpe r a i ur eム o ni r o Z Z e r 5 . Po we r c o ni r o Z t e r 6 . I mme r s i o nhe a i e r 7 . GZ a s s b o 諮. ‑ 8. K‑ i y peJ i he r m‥ o c o u pt e̲ 9 . K' i y pei he r ‑ mP c o u pZ F10 . . Vi 4e om叩i i o r ̲ l l . . Di g i t . a Z ‑ AV mi pe r12.. V2 ' de q. c a s e ̲ e i i er 叩 r l de r13.Vi de o
Fi g.1 Sc he ma t i cofe xpe r i me nt ala ppa r a t us
の側面 および底面 には沸騰現象の目視観察や写真お よ び ビデオ撮影がで きるように ,4 つの観察窓が設 けら れている.沸騰槽 の底部 には試験液体の昇温 を行 うた め ,1 kW 容量の浸漬塑加熱器 を 2 個設置 している.加 熱器への電力供給 は電力調整器で行 われ る.沸騰槽の 内側 には 3 0 0 mm X 3 0 0 mm X 6 0 0 mm のガ ラス箱 を設 置 して,加熱器 の まわ りで発生 した気泡が静止水 を乱 さない ように配慮 している.実験 中のバル ク液体温度 は電子温度調節器で一定 に保 たれている.
Fi g.2 は,本実験で使用 した代表的な供試円柱体 の 断面図 を示 してお り,円柱体 の直径 β は 3 2 mm ,長 さ L は 3 2 mm である.供試 円柱体 は純度 9 9 . 9 9% .の銀製 である.供試円柱体 の長 さの影響 をみるために,円柱 体 の直 径 D を 3 2 mm に固定 し,円柱 体 の長 さ L を 8 mm か ら 6 4 mm まで変化 させた.直径 に対 す る長 さ の比 上/ β の範囲 は 0. 2 5 か ら 2 とな る. それぞれの円 柱体 の中心 に シース径 1 mm の K 型 熱電対 を装着 し ている.実験前 に供試円柱表面 はダイヤモ ン ドコンパ ウン ドで鏡面仕上 げし, さらに,エチルアル コールで 清掃後, 垂直の姿勢で電気炉 によって約 6 0 0 o C まで加熱 され る.その後,昇降装置 を介 して静止飽和水 中に静
2 \
乙 ′ ノ 1■
D ̲ I l
D mm Lmm 3 2 1 8 6 3 2
6 4
1 二Si L t l e rCyt i nder
( 9 9 . 9 9 % puri i y) . Fi g.2 Te s tc yl i nde r
かに浸漬 される.供試円柱体 の加熱 は大気中で行われ るため円柱体の表面 は薄い酸化膜で覆われていると考 えられる.円柱体 の温度 は焼入れの間中ペ ンレコーダ を用いて測定す る とともに,垂直 円柱体 まわ りの沸騰 の様相 を目視,高速 ビデオカメラお よび写真撮影 によ
り観察 した.
2. 2 伝熱面温度 と熱流束の計測
伝熱体 の材質 は熱伝導率が大 きい銀 ( 熱伝導率 4 0 7 . 0 5 W/( m・ K ))であるか ら,伝熱体 の温度 に関 して集中 定数系,つ まり,伝熱体の温度 は空間的 に一様 に冷 え てい くと仮定す る.従 って,伝熱体 中心温度 は伝熱体 の表面温度 と等 しく,全表面平均 の熱流束 留を次式で 計算する.
VdT
q= I PC 二 オ石㌻ ( 1)
ここで,〟: 円柱体 の密度 ( ‑1 0 4 9 0kg/ m
3),C: 円柱
体 の比熱 ( ‑2 3 4 . 4 6J /( kg・ K )) ,A : 円柱体 の全伝熱
面積, V : 円柱体 の体積, T : 円柱体 の温度 ,T: 時
間 ,dT/ dT: 冷却速度である.周囲への放射 による熱
損失 は銀 円柱体表面の絶対温度が高 くないこと, さら
に円柱体表面が鏡面状 であるため放射率が非常 に小 さ
いため,対流熱伝達 と比較 して無視 している. また,
熱電対 と支持棒か らの伝導 による熱損失 も無視 してい
る.なお,伝熱体 の温度分布一様 の妥当性 は,円筒座
標系で 2 次元の非定常熱伝導計算 により検討 され確認
されている. また,本実験で使用 した銀製の円柱体 の
場合 には,膜沸騰領域での ビオ‑数が 0. 0 2 以下 と評価
で きるので, この仮定 は十分妥当な ものである と考 え
有限長 の垂直銀 円柱 まわ りの過渡膜沸騰 の観察 る.
3. 結果 と考察
3. 1 沸騰現象の観察
垂直 円柱体 まわ りの膜沸騰 における蒸気膜 の挙動 を 観察するために,お もに目視お よびビデオ録画 を行 っ たが,ここでは 1/ 80 0 0 秒で撮影 した膜沸騰領域の写真 の一例 を Fi g. 3 および Fi g. 4 に示す. Fi g. 3 は過熱度
△T sat が ほぼ 21 0 K の円柱体長 さの相違 に基づ く蒸気 膜 の挙動 を写真観察 した もので , ( a) は円柱長 さ 上が 8 mm の場 合 , ( b) は L , が 1 6 mm の場 合 ,( C ) は L が 32 mm の場 合 , ( d) は L が 6 4 mm の場 合 で あ る. な 浴, これ らの沸騰現象 は浸漬 して 20 秒後 ,3 5 秒後 ,4 5 秒後 および 6 0 秒後の状態である. これ らの写真や 目視 お よび高速 ビデオによる観察結果か ら以下の ことが明 らか となった.すべての場合 に平滑な気液界面が垂直 円柱体の底面下でみ られ る.垂直面 を覆 う蒸気の気液 界面 は底面 に近 い垂直部分 を除いて波状界面 となって お り,垂直面 の上端部お よび円柱体の項部 ( 上向 き水 平部分)では,常 に乱れた様相 を呈 している.円柱体 の長 さ L‑32 mm[ Fi g.3( C ) ]の場合 には円柱体重直面 の蒸気膜表面 に垂直方向に一定の間隔 を保 って環状 の しわが形成 されていることは興味深い. しか し, この 様 な蒸気膜挙動の再現性 は現時点では確認 されていな い. この事 に関 しては,今後 よ り詳細 な観察が続 けら れ るべ きである. Fi g.4 は代表的な供試円柱体である 長 さ L‑3 2 mm の場合 の蒸気膜生成 か ら蒸 気膜 崩壊 まで を 5 秒間隔で写真観察 した もので , ( a) は垂直 円 柱体底面が飽和水 中深 さ 8 0 mm で固定 された直後 の 場合で,( b) は浸漬 して 5 秒後の沸騰の様相である.浸 漬 して数秒間 は,垂直円柱体 は激 しい沸騰 のため全面
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は乱れた不安定 な蒸気膜 で覆われてお り,安定 な蒸気 膜が形成 され るまで過渡的沸騰状態が存在す る.浸漬 後 1 0 秒 を経過す ると,垂直円柱体 は全面が安定 した蒸 気膜で覆われ るようになる. ( C) か ら ( k) で観察 され る ように,垂直円柱体底面 は安定で平滑 な厚 い蒸気膜 で 覆われているのに対 して,底面 に近 い垂直部分 は薄い 蒸気膜 で覆 われ てい るが,円柱体底 面 の蒸 気旗 が 2
‑3 mm 程度 に厚 くなる と,端面か ら垂直面 に沿 って 蒸気が間欠的に流出上昇す る.安定 した蒸気膜 の場合 で も垂直面 に沿 って上昇す る蒸気の流れか ら垂直面の 沸騰の様相 は二つに大別 される.一つは円柱体底面で 発生す る蒸気が垂直面 に沿 って上昇 し蒸気膜が波状 に 乱れ る場合で,浸漬後 10 秒 か ら 25 秒 [( C)か ら( f )参照]
でみ られ るパ ター ンである.もう一つは ,Fi g. 3( C) の 写真観察で説明 した ように,円柱体重直面下端 か ら環 状 のしわのような蒸気膜が垂直面上 を周期的 にかな り 速 い速度 で上昇する場合で,浸漬後 3 0 秒か ら 50 秒 [ ( g) か ら( k) 参 照]で み られ るパ ター ンで あ る. これ は 2 7 0 K か ら 1 95 K の低 い加熱度領域 において,垂直面 を 覆 っている蒸気膜が薄い場合 にみ られ るようセある.
一方,( 1 )は浸漬後 6 0 秒 における蒸気膜 の崩壊状態 を観 察 した もので,蒸気膜の崩壊 は垂直 円柱体底面 より始 まり,円柱体 の垂直面下端か ら上方へ と瞬間的に全面 に広が り,以後遷移沸騰領域 お よび核沸騰領域へ と移 行 してい く.
3. 2 冷却曲線
円柱体 の直径 か‑3 2 mm ,長 さ 上‑3 2 mm の場合 に 得 られた冷却 曲線が Fi g.5 に示 されてい る. ここで,
Tlは円柱体の初期温度, Tmはバル ク液体 の温度 をそ れぞれ表 してお り,バルク液体 の温度 Tmは大気圧下
( a) L‑8 mm ,T‑2 0 s e c ( b) i‑1 6 mm ,T ‑3 5 s e c ( C ) L‑3 2 mm ,T ‑4 5 s e c ( d) i‑6 4 mm ,T ‑6 0 s e c
Fi g.3 Phot ogr aphsoff i l m boi l i ngar oundave r t i calc yl i nde r ( D‑3 2 mm , △T sat 六 二 21 0 K)
2 8 山田 暗 ・茂地 徹 ・桃木 悟 ・金丸邦康
( a) T‑O s e c , △Ts a t 完4 3 5 K ( b)T‑5 s e c , △Ts a t 六 二 40 5 K ( C) T‑1 0 s e c , △Ts a t 記3 7 5 K ( d)T‑1 5 s e c , △Ts a t = と3 4 5 K
( e)T‑2 0 s e c , △Ts a t 完3 2 5 K ( f ) T‑2 5 s e c , △Ts a t 六 二 3 0 0 K ( g)
T‑3 0 s e c , △Ts a t 宍 ご 2 7 0 K ( h)T‑3 5 s e c , △Ts a t 六 二 25 0 K
( i ) T‑4 0 s e c , ATs a t t2 3 0 K ( j ) T‑4 5 s e c , ATs a t 321 0 K ( k)T‑5 0 s e c , ATs a t 31 9 5 K ( 1 )
T‑6 0 s e c , ATs a t 31 5 0 K Fi g,4 Phot o gr aphsoff i l m boi l i ngar oundave r t i c alc yl i nde r( D‑3 2 mm,L‑3 2 mm)
での水 の飽和温度 である.実験 データの再現性 をみ る ために 3 回実験 を行 ったが, 初期温度 Tlに若干 の差が あったので,円柱体温度 T は Fi g.5 の縦軸 の ように 無次元化 してい る. この図か ら,再現性 は曲線 がゆる やか に減少す る膜沸騰領域 で はかな り良好であるが, 膜沸騰 に続 く遷移 お よび核沸騰領域 の実験 データに関
しては再現性 はやや悪 くなる傾 向 にある ことがわか る.
なお,供試 円柱体 の長 さが大 き くな るほ ど冷却時間 は
長 くなるが, これ は円柱体 の熱容量のた めである.
3. 3 沸騰曲線
Fi g,5 の冷却 曲線 に基づいて描 いた沸騰 曲線が Fi g.
6 である. ここで , q は式 ( 1) によって計算 され る全表
面 の平 均 熱 流束 で, △ Ts a t は加 熱 度 (T‑ 7㌔) で あ
る.沸騰 曲線上 の再現性 はか な り良好 である.本研究
で は,膜沸騰 は 1 50‑400K の加熱度の範 囲で生 じてお
有限長の垂直銀円柱 まわ りの過渡膜沸騰 の観察 2 9
o ・ 6 0 ・ 4 0 ・ 2
︻⊥