等位構造と省略 : その容認度と機能的制約をめぐ って
著者 上田 功
雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会科学篇
巻 43
ページ 103‑115
発行年 1993‑03‑25
出版者 静岡大学教育学部
URL http://doi.org/10.14945/00008487
静岡大学教育学部研究報告(人文・ 社会科学篇)第43号
(1993.3)103〜
115103
田 a o 上
L
等位構造 と省略 :そ の容認度 と機能的制約をめ ぐって
Some Functional Constraints Governing the Acceptability
of Elliptical Coordinations
功
UEDA
(平
成 4年
10月 12日受理
)0 は じめに
自然言語の省略現象に関 してはこれまでにも数多 くの研究がなされてきた。例えばRoss (1970), Dougherty(1970,1971), 」ackendoff(1971), Koutsoudas(1971), Hankamer(1973), Hudson(1976), Rosenbaum(1977), Harries(1978), Neijt(1979), Mallinson and Blake
(1981),そして最近のGoodall(1987)の 興味深 い考察などはほんの数例にすぎない。 これ らの 研究をそのアプローチに したが って大別すると、 まず生成文法理論の枠組みのなかで省略現象 を分析 したものが非常 に多 く、言語類型論的な立場か ら諸言語 に観 られる省略を論 じた ものが これに続 く。 しか しなが ら言語使用のさいに生ずる機能的制約 に関係 して これを論 じたものは Kuno(1976)の パイオニア的研究を含めて もその数 は少ない。
小論 はこの機能的立場 にたって 日本語の等位構造 における省略を取 り上 げ
D、
日本語 にはど のようなタイプの省略が許 されるのか、 これ らの省略文の間で、 また対応する非省略文 と比べ ると、 どのタイプの文がより好 まれるのかの、 そ して この差 は何が原因 となって生ず るのかを、主 として被省略要素の文中での「位置」 に注 目しつつ考察 し、最終的 にはSanders(1977)の タ イポロジーをもとにGreenbaum and Meyer(1982)が 提示す る次の強力な仮説を日本語 におい て検証するのが目的である。
(1) もしある言語に複数の等位省略構造が存在するな らば、それ らの間の 容認度の順序 は言語普遍的な等位省略構造 の頻度の順序 と一致する。
これは、諸言語 に広 く観 られるタイプの省略ほど個別言語 において も好んで使われると主張す るものであるめ。
1 日本語 の等 位省 略構造 の タイプ
前節で述べたように小論では省略現象を特 に被省略要素の「位置」に注 目して考察するが、
この「 位置」を最 も厳密にそ して明示的に定義 したのはSanders(1977)で あろう。 彼 はS,V,0 のような統語機能をいっさい排除 し、純然たる位置によるタイポロジーを展開 しているが、そ の中で用いられているスキーマは次の如 くである。
104 上 田 功
(2) [...[ABC]w& [DEF]w.¨
]
ここで
ABC"は
先行する等位項(以
下、先行節)、 DEF"は
後続 す る等位項(以
下、 後続 節)、 A"と
D■ は項の最初の要素、C"と F'は
最後 の要素、B"と E"は
中間の 要素(こ
のときA,C,D,F.は ゼロではない)、
そ して&が等位接続詞 であ る(ゼ
ロの場 合 もありうる)。
そ してSandersは
多言語か らのデータに基づ き省略 はAからFま ですべての 位置でお こりうるとして次の6つタイプの省略を考えている。(3) ABC&DEF(A位 置における省略)
ABC&DEF(B位 置における省略)
ABC&DEF(C位 置における省略)
ABC&DEF(D位 置における省略)
ABC&DEF(E位 置における省略)
ABC&DEF(F位 置における省略)
小論では省略の「 タイプ」 に言及する場合、(3)のモデルを使用する。
Sandersは
諸言語にもっ ともよ く観 られるタイプはD位置における省略であ り、次 いでC位置における省略 もしくはE
位置における省略が一般的であり、続 いてF位置での省略、 これにB位置での省略が続 き、A
位置における省略 はもっともめず らしいタイプであると主張 している。。
Sandersに
よると日本語には、C位置、D位置、E位置 と、3つのタイプの省略がある。 次 の(4)(5)(6)にいつかの例をあげるがヽ この例では被省略要素があると考え られる位置を#
で、そこに省略 されていると思われる語句を
[ ]の
中に示 してある。(4) 松坂 は 」Rとの共同駅で北寄 りに近鉄
#[の
ホームがあ り]、
南寄 りに」Rホ =ムがある。(宮
脇俊三・ 原田勝正編)『
大阪・ 神戸・ 京 都・ 福岡の私鉄』)ウル トラセブンに登場 したカプセル怪獣 は直接的にはウル トラセブ ンの代理 として
#[宇
宙人や怪獣 と闘い]、
間接 的 には地球人 の代 理 として宇宙人や怪獣 と闘 った。(グ
ループ「K‑76」 編『 ウル トラマ ン新研究』)
05、
06を
残 して全車3扉化 され、 さらに01、 04、12〜 15、 24〜 26は
片運化#[が
行われ]、 14〜 19、
21、 22、24〜26は
ロング化#[が行われ
]、
また13、 14は
下の写真のようアル ミサ ッシ化、 車 内改装 が行われ、14は
さらに便所 も撤去 された。(慶
応義塾大学鉄道研究 会『 私鉄ガイ ドブックシリーズ4 近鉄』)(5) 副社長 は、 イタリア人の潰れた鼻梁 についての保証 は会社でお こな
等位構造と省略:その容認度と機能的制約をめぐって
い、
#[副
社長 は]す
べての出来事を秘密裡にもみけして示談にす る申 し出を した。(大
江健二郎『 われ らの凶器 を生 き延 びる道 を教 えよ』)政府 は
28日
、経済対策閣僚会議を開 き、#[政
府 は]低
迷す る景気 の浮揚を図 る総合経済対策を決めた。(朝
日新聞1992年
8月29日
)「大昔 は、海王星の衛星だった ものが、何かのはずみで、海王星か ら飛び出 し、
#[海
王星の衛星だったもの力呵 太陽を回る惑星になっ たのだろう」(日
下実男『宇宙学入門』)研究室へ夕食をとり寄せる場合 もあるが、あいにく蟻巣川 は寿司屋 に行 くのが好みであり、全員が
#[蟻
巣川 に]従
わねばな らない。(筒
井康隆『 文学部唯野教授』)石その ものは、
350年
昔 と同 じように波 うちぎわにおかれた ままで あり、打 ち寄せ る波が時お り#[石
に]波
しぶ きをあびせたりして いるのだが、 まわ りの風景 はぎょうぎょうしい。(松
尾弐之『 不思 議の国アメ リカ』)母親似で したな、あれの母親 はお藤 といって、家つきの娘で したが、
当時お役者の新 といわれた今の新吉 にほれて、親たちの反対を押 し 切 って
#[新
吉 と]いっしょになり、 とうとう新吉を堅気に して しまったほどの勝ち気な女です。(山手樹一郎『 青空剣法』)
(4)は C位置での省略、(5)はD位置での省略、そ して(6)は E位置での省略の例である。
2 省 略文 の相 対 的容 認度
日本語 には上記3種類 に非省略文を加えた4種類 の文が存在することになるが、 これ ら4種 類が同 じように好 まれて同 じよ うな頻度で使用 されるわけではない
6本
節ではこれ らの間の好 まれの度合いを、 インフォーマ ント調査 によって量的に判定 した結果を報告す る。被験者 は静 岡大学教育学部の1、 2年生74名
で、実験方法 は一対 にな った2つ の文 の容認度 をそれぞれ「完全 に容認不可能」か ら「 まった く問題な し」 まで5段階で判断 させ、 その間の有意差 を見 るために統計処理を施す というものである。 この方法 は概ねGreenbaum and Meyer(1980a,D およびMeyer(1979)の それに倣 ったものである。 このデータ収集および分析 に関する方法論 に ついてはGreenbaum(1976,1977)に 詳 しい。
ここでは、
Sandersの
タイポロジーで もっとも一般 的であるとされるD位置での省略か ら観 てい くことにする。 日本語ではD位置 には典型的には後続節の主語が くる場合が多いが、D位置で省略をもつ文 は非省略文 より好 まれるという結果がでた。
(6)
106 上 田 功
(7) 観光客iはバスをおりて、観光客
iは
土産物を買った。(8) 観光客はバスをおりて、土産物を買った。
(9) 山本
iは
私をなぐり、山本iは弟をけった。(10)
山本は私をなぐり、弟をけった。(7)、
(9)に比べて(8)、 (10)の
ほうが容認度が高い。。 これは被省略部が代名詞化 されて い て も同 じで次の(11)、(13)よ
り(12)、(14)が
圧倒的に好 まれる。。(11)
紙 はヒラヒラと宙 に舞 らて、それはフワ リと水面 に落ちた。(12)
紙 はヒラヒラと宙 に舞 って、 フワ リと水面 に落 ちた。(13)
山本 は私をな ぐり、彼 は弟をけった。(14)
山本 は私をな ぐり、弟をけった。このようにD位置での省略文 は非省略文に対 し、被省略部が代名詞化 されるか否かにかかわ ら ず、圧倒的に容認度が高い。
次にC位置での省略であるが、 これは日本語では典型的に先行節の動詞が省略 されるもので あ り、Ross(1970)の いう空所化
(gapping)に
あたる。 このC位置での省略文 と非省略文の容認 度 は文 によって両者の間に逆転が観 られた。たとえば次の例 において;(15)
私 は山本を、弟 は田中をな ぐった6(16)
私 は山本をな ぐり、弟 は田中をな ぐった。(17)
床 には血痕が、壁 には弾痕があった。(18)
床 には血痕があり、壁には弾痕があった。(15)、
(17)の
省略文が(16)、(18)の
非省略文 より容認度が高か った。 しか しなが ら、つ ぎの例では
(19)の
省略文 より(20)の
非省略文のほうが好 まれるとい う結果がでた。(19)
結婚後 しば らくの間、夫 は近 くの工場で、妻は子供ができるまでキャ バ レーで働いた。(20)
結婚後 しば らくの間、夫は近 くの工場で働 き、妻 は子供ができるま でキ ャバ レーで働いた。このようにC位置での省略文 においては非省略文 との間の容認度の判断に文 によるずれが観 ら れる。C位置での省略文が好まれる場合 もあれば、非省略文が好 まれる場合 もあるといえよう。
最後 にE位置での省略文の容認度を検討する。次の2組の例を見てみよう。
等位構造と省略:その容認度と機能的制約をめぐって
107
(21) (22)
(23) (24)
(26)
(27)
山本 は私をな ぐり、田中はけった。
山本 は私をな ぐり、田中は私をけった。
大切なことは頭を使 うことだが、
大切なことは頭を使 うことだが、
とだ。
もっと大切なことは休めることだ。
もっと大切なことは頭を体めるこ
これ らの例ではE位置での省略文(21)、
(23)に
対 して、非省略文(22)、(24)の
ほ うが高 い容認 度を示 している。 このようにE位置での省略文の場合 は非省略文のほうが好 まれるという結果 がでている。3 容認 度 を左 右 す る機能 的要 因
前節の結果で、3つのタイプの省略文 と非省略文の相対的な容認度の差か ら判断すると、 日 本語で もっとも容認度 の高いタイプはD位置における省略を含んだ文であり、それに続 くのが C位置に省略をもった文 もしくは非省略文であり、E位置に省略を含む タイプは一番好 まれな いということになる。それではこのように容認度の差異を もた らす要因 は何であろうか。 これ を本節では考察することにする。
上記の結果のなかで注 目すべ きは各 タイプの省略文の対応する非省略文 との容認度の違いで ある。 まずD位置における省略は非省略より好 まれている。 ここでは省略を促進する要因が働 いていると考え られる。Sanders(1977)は 「 他 の条件が同 じであるな らば、 省略 は話者 の意 図 した文の構成要素の間の統語的意味的関係を曖味 にす る」 と述 べてい るが、 逆 にまった く 省略がなければ、文が冗長 にな り、聞 き手 により重要 な情報 が何 であ るかを伝 えそ こな う危 険性がある。つまり省略によって冗長的な情報が省かれ、 残 された部分 に聞 き手 の注意が は らわれるわけである。 これは久野
(1978)な
どにも述べ られているところであ る。 この効果 を Greenbaum and Meyer(1980b)ら は冗長抑止効果(redundmcy effect)と 呼ぶが、 これ はつ ぎ のように述べることができよう。冗長抑止効果 :不必要に冗長な構成要素 は省略されやすい。
これはつ ぎの例を観察 して も明 らかである。
キースは手す りを しっか りと、 ダンはロープを しっか りとにぎりし めた。
キースは手す りを、 ダンはロープを しっか りとにぎりしめた。
(26)は
部分的な空所化、(27)は
完全な空所化である。 この例では0つが圧倒的に容認度が高かっ た。 これは冗長な情報 はできるだけ完全に省略 しようとする傾向をあらわ しているつ。それでは冗長な情報がなぜD位置にあ らわれているのかが問題 となるが、 これは聞 き手の認 知能力 と深 い関係があると考え られる。話 し手が時間軸上 に発話の構成要素を順番に配列 して いくと、 とうぜん聞 き手 には時間に関係 した復元可能性の問題が生 じることになる。人間の短
108 上 田
期記憶 システムでは複数の ものを順番 に知覚 していった場合、その順番によって記憶 に差がで きるという。たとえばMurdock(1962)などの実験 によって明 らか にされた心理学 の知見 によ ると、一連の記憶すべ き事項のうち、 リス トの最初 もしくは最後 に近いものほど記憶 に残 りや す く、真ん中にい くほど記憶 に保持 されに くいというの。 これは系列位 置曲線 と呼ばれ るカー ブを描 く。 これを今、、聞 き手がAからFまでの構成要素列を順 に記憶 してゆ くと考えた場合、
もっとも記憶 に残 りやすい位置はAと Fであ り、次いで記憶 にのこるのがBと E、 そ して もっ とも記憶 に保持 されにくい位置がCと Dということになる。 ここで、一番記憶 に保持 されに く い位置に冗長であったり、既知であったりするような情報価値の低い構成要素が好んで配置さ れると考えて も誤 りではなかろう。 この人間の記憶のメカニズムと関係す る要因を『系列位置 情報効果』
(serial position information effect)と
呼んでお く9。(28)
系列位置情報効果 :文 の中間ほど聞 き手の記憶に保持 されに くく、それゆえ相対的に重要な情報が配置されにくい。
ここで重要なのは省略およびその位置 と記憶
(も
しくは狭い意味での認知)と情報の重要度の 3者は密接に関係 しあっているということである。その意味で(25)の
Greenbaum and Meyer(1980b)ら
の冗長抑止効果は情報度の軽重 という観点か ら、 よリー般化 してつ ぎのよ うに述べ ることができよう。(29)
情報価値効果 (infOrmation value effect):相 対的に情報価値 の 低いものは省略を うけやすい。要するに冗長な ものは結局情報価値の低いものなのである。 この
(29)は
省略位置 とは無関係な 原則であり、久野(1978)に
おいて述べ られている『省略順序の制約』にきわめて類似 したもの であるが、久野 は情報価値の軽重 と省略の順序 との相対的関係を明示的に述べている点が異なっ ている。。(28)の
系列位置情報効果 と(29)の
情報価値効果の結果、D位置での省略の容認度 は 高 くなる (C位置での省略がD位置での省略ほど好 まれないのはつぎに述べるように省略を抑 止す る原因が働 くか らである)。
い くつかのC位置での省略文やE位置での省略を もった文が対応する非省略文に対 して容認 度が低いことはすでに述べた。 まずC位置での省略文であるが、一般に接続詞の前の位置で省 略がお こると、聞 き手 は文が完結するまで、その意味を完全にディコー ドできず、先行節の非 省略部分を最後 まで短期記憶 にとどめておかねばな らないことになる。つまりA,B, C,の
位置での省略はD,E,Fの 位置でのそれに比べて短期記憶に負担がかか り、それゆえ好 まれ ないと考えるのが自然であろう。 これは
Sanders(1977)や
Greenbaum and Meyer(1980b,1982)も論 じていることであり、 ここでは『保留効果』
(suspense effect)と
呼ぶ。(30) 保留効果
:先行節 での省略 は、短期記憶 に負担がかか るため好 まれ
ない。
等位構造と省略:その容認度と機能的制約をめぐって
この効果は上記の情報価値情報効果などの省略を促進する要因ではな く、逆 に省略を抑制す る 要因である。前述 したようにCとDは同 じように系列位置情報効果に支配 されるにもかかわ ら ずD位置での省略のほうが好 まれた。それはC位置が この保留効果の影響をも受 けているか ら である。
(こ
こで注意すべきは、保留効果 は先行節での省略を抑制すると述べているだけで、後続節の省略を促進するとはいっていない点である。)
さてC位置での省略をもつ文 は非省略文 に対 して、前節の結果か ら判断するかぎり、 より好 まれる場合 もあり、 また逆の場合 もあった。その原因をさぐらてみたい。
普通 日本語のC省略文 はAと
B、
CとDとの間のパ ラレルな関係を際立たせる場合に使われ る。たとえば(17)で
は、「 床の血痕」 と「壁の弾痕」 のあいだの対比が鮮明 にな る。 だか ら両 者の間になん らかのパ ラレリズムが存在 しないと、奇妙 に感 じられる。例えばつ ぎの文を考え てみよう。(31)
哲男 はロシア語が、マ リアは盆栽が嫌 いだった。この文 は、哲男 とマ リアがどち らも嫌悪の対象を もっている、 というような状況が文脈か ら判 明 している場合をのぞいては成立 しに くい。 これに対 してつ ぎの(32)、
(33)は
単独であって も(31)よ
りは容認 されるであろう。(32)
父 はロシア語が、母 は盆栽が嫌 いだった。(33)
哲男 はロシア語が、 マ リアはフランス語が嫌 いだった。これは
(31)で
は父 と母が、(32)で
はロシア語 とフランス語がすでに平行的な関係 にあるか らで あるD。 このようにC省略文が使われるのは平行的な関係 にある複数の ものの間の コ ン トラス トを くっきりと表 したい場合であり、それが前節の(15)や (17)な
のである。それに対 し(16)や (18)で
はC位置での被省略部分を繰 り返す ことによって対比が弱 くな って しまう。そ うす ると これ らの部分 は冗長的、すなわち相対的情報価値がさが って しまい、(29)の
情報価値効果の影 響を うけて省略をうけやす くなるのであろう。 もちろんC位置 はAや Bに比べて系列位置情報 効果の影響をうけやすいことも忘れてはならない。C位置 は省略を促進 しようとする効果 と、逆 に抑制 しようとする効果が相互 に作用する位置なのである。だか らこのように対比を鮮明に 述べたい場合などは前者が優勢であり、好んで省略が使われるのである。 ところが
(19)の
よう にコントラス トされるべき「夫ん工場」 と「妻〜キ ャバ レー」 に修飾語句がつ き全体が長 くな る場合 は、省略文ではその関係が曖昧になって しまうのみな らず、省略の大前提である復元が 不可能 になって しまう危険性がある。 このような場合 には後者 (すなわち保留効果)が
働 き省 略は抑制 されるのである。 これがC位置での省略文が非省略文より容認度が高かったり、低かっ た りする原因であろう。C位置での省略 は、文体論 におけ る散列文 (loose sentence)に 対す る悼尾文
(periodic
sentence)に 類似 している。悼尾文では文末にな らないと文全体の意味がわか らない。 このた め読者の注意 は最後のクライマ ックスまで引きつけられる。その結果、読者 に対 して力強 くい きいきとした印象をあたえる。その反面、最後 まで全体の意味は保留 され、記憶 に負担がかか上 田
るので、多用す るとかえってよくない印象を与えることになる。だか ら散列文のなかの要所要 所 に織 り込めば文がひきしまり、効果的であるといわれる所以である
(Kierzek 1948)。
最後にE位置で省略を もつ文 は対応する非省略文に対 して容認度が低か った。 これ もすでに 述べた
(28)系
列位置情報効果 と(29)情
報価値効価によって説明で きる。E位置では系列位置情 報効価 によりCやD位置に比べ重要度の高い情報がおかれやすい。それゆえ情報価値効果をうけに くく、省略は比較的好 まれないことが容易に予測できる②。
以上の論点をまとめると、位置に関 して省略をつかさどる効果 は系列位置情報効果 と保留効 果の 2つ があった。前者 はCやDの位置で省略を促進 し、逆 にAや Fの位置では省略を抑制す る。 また後者 は
A, B, Cの
各位置で省略を抑制 し、D, E, Fに おいてはこれを抑制 しない。非省略文に比べて圧倒的に容認度が高いD位置の省略は、系列位置情報効果の影響を うけ、保 留効果の影響 は受 けない。C位置での省略文 は両方の影響をうけるので、系列位置情報効果が 優勢な場合は非省略文より容認度が高 く、保留効果が優勢な らばこの関係 は逆転する。E位置 での省略文 は非省略文 に比べ容認度が低いが、 この位置は系列位置情報効果 もD位置ほど働か ないかわ りに保留効果 も働かない。 この 2つ の位置に関する要因に情報の軽重 と省略を関係づ ける情報価値効果が加わ り容認度が決定 される。
4 ま とめ
小論の目的は省略に関する言語普遍的な傾向が 日本語 という個別言語内で容認度の差 となっ てあらわれるかどうかを見 ることにあった。少な くともここで検証 したデータか ら判断すると 答えはイエスである。 またその容認度の差 は文中の位置や情報度の軽重 によって省略を促進 し た り抑制 したりす る、人間の認知能力 と密接 に関係 したいくつかの機能的要因に支配 されてい ることも考えてきた。冒頭で述べたように従来の研究 はそのほとんどが話 し手の立場にたって、
文法がどのような文を生成す るかという可能性を論ず るもの、あるいは類型論的に諸言語を分 類 したものが多か った。 これ らは統語範疇や統語機能を中心 に論 を展開 してゆ くものがほとん どで、省略位置はそれ らに付随する要因にすぎなか った。 しか し、省略現象においては位置に 支配 されていると考え られるものがある。 1例をあげると、 日本語 と英語の間にはいわゆる鏡 像現象が成 り立 っている。 それ故、 いわゆる空所化 は英語ではE位置に、 日本語ではC位置に お こる。
(34) Jim hated bamboo shoots and John abalones.
(34)は 英語 にお け る空所化 の典型 的 な例 で あ るが、空所化 は時 に曖昧 さを引 き起 こす場合 が あ る。
Bob will interview Tom this morning and Peter this afternoon.
この文の後続節 はたとえ次の
(36)を
意図 した場合で も(37)の
意味に解釈 される可能性が高いで等位構造 と省略
:その容認度 と機能的制約をめ ぐって 111
あ ろ う
13D。(36) Peter will interview Tom this afternoon.
(37) Bob will interview Peter this afternoon.
日英語の鏡像関係を考えると同 じように日本語で も曖味 さがC位置でお こると予測できるが、
実際にはこれが英語 と同 じE位置でお こる。
(38)
太郎 は次郎を好 きで、二郎 は嫌 いだ。この後続節 は次の2通りに解釈できる。
(39)
太郎 は二郎が嫌いだ。(D省略)(40)
二郎 は次郎が嫌いだ。(E省略)しか しなが ら
(40)の
読みはされず、 ほとんど(39)に
解釈 される。 これは統語機能に関 して 日英 語の語順が異なっているにもかかわ らず、E位置 には比較的重要度の高 い情報がおかれるため あまり省略に適 さない位置だか らだと考え られるの。小論は日英語の省略現象を対照的に論ず るのが目的ではないので、詳 しくは校を改めたいが、 このように複雑な統語事象 はある一定の 理論的枠組みだけでは説明 しつ くせないものが多い。筆者 は、 コ ミュニケーションに支障をき たすおそれのある言語形式 ほど使用 されに くく、 コミュニケーションを効果的にするものほど 好んで使われるという純然たる機能的な立場 にたって省略現象を考察 した。 これはいわば聞 き 手の側 に立 った説明である。 このように言語現象をその機能的側面か ら考察 した ものは、形式 に重点をおいたものに くらべ以外 に少な く、今後の課題 は多い。。*本稿をまとめるにあたって、影山太郎、熊谷滋子、伊藤友彦、 自畑知彦の諸先生か ら貴重な コメントをいただいた。 また高見健一先生か らは全体 にわたって適切な助言を頂戴 しただけで な く、 この トピックに関 してさらにふみこんだ示唆をいただいた。特記 して感謝の意を表 した ヽヽ。
(注
)1)こ こでとりあげる「等位接続構造」 の定義 またはその理 由に関 して は、 Sanders(1977)
p.267注
1を 参照のこと。またここでいう「省略」 とはいわゆ る reduced form"一般 を さし、広義の省略であることに注意。
2)「好 まれ」、すなわち容認度 は出現頻度
(syntactic frequency)と
強 い相関関係 にあるが、厳密 には同 じものではない。 ここでは前者 に焦点があて られている。 また これ らは社会言語 学および文体論的な「 スタイル」 とも関係するが、本稿では深 く踏み込まない。 またここで 扱われる文 は「統語的」 にはすべて適格文であることに注意。
3)言
語普遍的な分布の広 さが個別言語内で容認度 の差 とな って反映 され るとい う可能性 は112 上
田
功
Ueda(1984)で も示唆されている。
4)Sandersが提示する言語普遍的含意法則 はつぎのような ものである。
l D位置に省略をもたない言語 はない。
2 もしある言語おいてE位置に省略がなければF位置にもない。
3 もしある言語においてC位置そ して/も しくはF位置に省略がなければB位置にもない。
4 もしある言語においてB位置に省略がなければA位置に もない。
5)5段階平均値のt検定処理結果が最後にかかげてある。
6)これは西光
(1990)が
述べているように、 日本語ではむ しろ同 じ形式の繰 り返 しが好 まれる ことにも起因す るか もしれない。7)た
とえば(4)の最初の例では、1 ……北寄 りに近鉄
#、
南寄 りに 」Rのホームがある。2 ……北寄 りに近鉄の
#、
南寄 りに 」Rのホームがある。3 ……北寄 りに近鉄のホーム
#、
南寄 りに 」Rのホームがある。4 ……北寄 りに近鉄のホームが
#、
南寄 りに 」Rのホームがある。5 ……北寄 りに近鉄のホームがあり、南寄 りに」Rのホームがある。
以上の5通りの文が可能であるが、1が一般的には好 まれるであろう。
8)厳
密 には最初の部分 は短期記憶 には属 さない。詳 しくはGlanzer and Cunitz(1966)な ど を参照。9)こ
こで の系列位 置情報 効果 はSandersやGreenbaum and Meシerの serid position effect"と
異なるものであることに注意。10)Kuno(1978)p.321.
11)(33)では一般的にロシア語 とフランス語がメジャーな外国語のうち 2つ で、ほぼ同 じステ イタスをもつか らである。 これがつぎのように変われば、容認度 は
(33)よ
りおちるはずであ る。(33)' 哲男はロシア語が、マ リアはパ ンジャーブ語が嫌 いだった。
また同 じ理由でつぎの文 は
(31)よ
り自然にきこえる。(31)' 哲男 は庭いじりが、マ リアは盆栽が嫌いだった。
12)E省
略文の特殊なものに分裂文がある。(41)
うどんが うまいのは讃岐で、そばは信州だ。もしこれが対応する非省略文より好 まれるとしたら、その原因は、
(41)が
C省略文 と同 じよ うに「 うどん〜讃岐」 と「 そば〜信州」をはっきりと対比 させる場合に用いられるため、E
位置での繰 り返 し部分の情報価値が低 くなり、「情報価値効果」 によって省略がお こりやす くなるものと考え られる。
また片方の節だけで分裂文が生ずるとパ ラレリズムが くずれることがある。
(42)
金 に困 っとるのは極道だけで、堅気の衆 はもうけとる。このような文 は、A〜
D、
B〜E、
C〜 Fの間の平行関係を前提 にす るSanders流 の系列位 置効果では説明できず、なん らかの形で情報の軽重に訴えなければならないだろう。 この場 合 も「極道〜困 る」 と「堅気〜 もうける」のコントラス トに高い情報価値がおかれていると 考え られる。13)KIno(1976)の
minimal distance principle"を
参照の こと。等位構造と省略:その容認度と機能的制約をめぐって
14)ま
た次 の文 で
:(43) シャーロ ックホームズは犯人 に飛 びかか り、 ワ トス ンは拳銃 を発射 した。
(43)の 後続節 は「 ワ トス ンが犯人 にむか って拳銃 を発射 した」 ともとれ る し、「 フ トス ンが何 をね らったか はわか らないが、 とにか く拳銃 を発射 した」 とも解釈で きる曖昧 さも生ず る。
15)最
近 のす ぐれ た研究 に
Kuno and Takami(forthcoming)があ り、 また
Takami(1991)には 名詞句か らの外置 に関す る興味深 い論考があ ることを付記 してお きたい。
(引
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文 番 号 平 均 値 不偏標準偏差 有 意 確 率
1.200 0.9153
* *0.008 3.920
0。3587
文 番 号 平 均 値 不偏標準偏差 有 意 確 率
0。
973
0。9212
* *0.001.427 1.0864
文 番 号 平 均 値 不偏標準偏差 有 意 確 率
2.946 0.9636
* *0,003.865
0。4776
文 番 号 平 均 値 不偏標準偏差. 有 意 確 率
0.959
0。9281
* *0.0014
3.716 0.6728
文 番 号 平 均 値 不偏標準偏差 有 意 確 率
3.773 0.5087
* *0,003.360 0.8798
等位構造と省略:その容認度と機能的制約をめぐって
* * p<〔 .01 * p<(。 05
115
文 番 号 平 均 値 不偏標準偏差 有 意 確 率
3.733 0.5285
* *0.0018
3.413 0,7900
文 番 号 平 均 値 不偏標準偏差 有 意 確 率
n
U
0.9241
* *0.0020 3.622
0。6765
文 番 号 平 均 値 不偏標準偏差 有 意 確 率
2.493 1,1897
*0.052.813
1。1820
文 番 号 平 均 値 不偏標準偏差 有 意 確 率
1.0926
* *0.0024 0.5136
文 番 号 平 均 値 不偏標準偏差 有 意 確 率