骨瞳 瘍 に お け る走 査 電子 顕微鏡 的研 究
金沢 大学 医学 部整 形外 科学教 室( 主 任: 野村 進 数撲)
伊 藤 元 弥
( 昭和5 3年2 月 目安 付)
本論文の要 旨は, 第5 0回 目本整 形外科 学 会に て発 表し た.
悪性 腫 瘍細 胞の生物 学 的, 病理学 的に大き な特 性は 浸 潤性 増 殖と転移 性 増 穂であ る. これ らの特 性は細 胞
の表 面構 造と密 接な関係が あ り, そ れ故, か か る細 胞
の表 面構 造を立 体 構築 学 的に明ら かにする事は悪 性 腫 瘍細 胞の生 物 学 的 特 性を解 明す る上に重 要な事であ る.
近 年, 細胞 表 面 積造を観 察 する に大 変有 利な手段と して走 査 型電 子 顧 微 鐘 (以下, 走 査 電顕と略す) が開 発 さ れて来た. 分 解 能の良さ. 試 料 作 製の容 易さ, 細 胞の立 体 的 観 察が可 能であ る,な どの利 点と相 倹っ て,
走査竜 顔が次 第に医学 面での研 究に利 用さ れ る よ う に な り, 現 在まで に生 体の各組 織や細 胞,特に in vitr o の細 胞の表 面 構 造が次第に明ら かにさ れて来た が, 骨 腫 瘍細胞のin viv o に於け る か か る研 究は極めて少い.
そこ で今 回,(1) 骨 腫 瘍細 胞の表面 形 態 学 的特 徴, (2) 骨 腫 瘍 細 胞と その肺 転 移 巣 細胞の表 面 形 態 学 上の
相 違点. ( 3 ) 良 性細 胞と悪 性 細 胞の表面 形 態 学 上の比 較, を検 討す る為に以下の如き実 験 材料を用い て走 査 電 頚 的 観 察を行った.
実験 材 料 ( 表1)
1. 臨床 骨 腫瘍 材 料.金沢 大 学 医 学 部 整 形 外 科及 び関 連病 院を訪れ た骨 腫 瘍症 例か ら採 取し た骨 腫 瘍組 織を 観察し た.
2.P32 誘 発ラ ッ ト実 験 骨 肉 腫. 生 後 3 〜 4 過の W ista r 系ラ ット雌( 体 重20 〜3Ogr)2 0 匹を用い.P32 (H3P3 204 in O.(〕8 N H C L s olutio n) を体 重1gr 当り,
1〟C i あて,2 週間に1回, 26 週間∴汁13 匝】,1 匹あ た り総蜃 2 42 5〟C i を腹 腔 内に注 射し, 大 腿骨, 陛骨, 上 腕 骨に発生し た骨 肉 腫と その肺 転 移 組 織を走 査電 顕 的
観察に供し た.
3, マ ウ ス骨 折後の頬 骨組織. 生 後3 〜 4遇のd d N 堆マ ウ ス大 腿 骨を徒手に て皮 下骨 折を起さ し め,2週 間 後に骨折 部の頬 骨組 織を採 取し走 査竃 朗に て観 察し た. Sc a n ning Ele ctr o n M ic r o s c opic Studie s o n
O rthopa edic Su rgery, K a n a z a w a U niv e r sit y N o m u r a).
4.Sr89
誘 発マ ウ ス実 験 骨 肉 腫. 真 鍋一2Jは幼 弱d d N 雄マ ウ ス に Sr8 g
を投与し,継 代 移 植 可能な実験 的 骨肉 腫を 発生せ し め た, これ は現 在1 6 4 代に移 植さ れて い る. 著 者はこ の1 6 0代 目の継 代 移 植 骨 肉 腫を実 験 材料 と し同 様に観 察し た. な お. こ の肉 腫には図1 の如く,
腫瘍 性 類 骨は現 在認 め ら れて いない.
実 験 方 法
実 験 材 料1. に関しては次の如き操 作によ り観 察し た. 即ち材 料を2 ×2 ×3m m 大に ピン セッ ト で細 片
にし, 2.5 % gluta r al dehyde(25 % gluta r al dehyde
P.B.S. = 1 : 9 ) で40c ,3時 間 半の前 固 定を し
, P. B. S. で洗 浄し た 後, 1 % OsO4 (2 %
OsO4 : P.B.S. こ= 1 : 1)で4Oc .4 0 分の後 固 定を し軒 び P.B.S.で洗浄し た. 次い で上 昇a c eto n 系 列で 脱 水 し, 9 9 % is o a m yla c etate に2 0 分浸して a c eto n を置 換し, 直ちに H C P‑1 型臨 界 点 乾燥 装 置に入れ, 液 体 C O2 に よ る臨 界 点乾 燥を行っ た後, 材 料を銀ペ ー ス ト 又 はセ メ ダ インホ ワイト で試 料 台に固定し, カー ボ ン と 金パ ラ ジ ウム によ り回転 蒸 着, 或いは 日立電 動ジン
衰 1 実 験 材 料 1 臨 床 骨 腫 瘍 材 料
A 人骨 肉 腫 B 内 軟 骨 腫 C 軟骨 肉 膵 D 骨 巨細 胞 脛 E ベ ー ジュ ッ ト肉 膵
8 5 3 5 1 計2 2例 2 P3 2誘発ラ ッ ト実 験 骨 肉 腫
3 マ ウス骨 折 後の類 骨 組 織 4 Sr8 9 誘発 マウス実 験 骨 肉 膵
B o n e T u m o r s・ M otoya Itoh, Depa rtm e ntof M edic al Scho ol (Dir e cto r : Prof. Dr. Su s u m u
骨腫 痺にお け る走 査 電 子顕 微鏡 的 研 究
法 2 万 乗 験 実
2.5% g hlta r al dehyde, 3.5時 間4OC P .B 、S. で洗 浄
l労OsO4 , 4 0分, 40C P .B.S. で洗 浄
5 0 % , 7 0% , 9 0 % , 9 5 % , 1 0 0 % a c eto n
し×1 ) (×1 ) (X 2 ) (X 2) ( ×3) 各2 0分
9 9% is o a myla c etate. 2 0分 液 休 C O2
回転 蒸 着( C, Au) イ オンス パ ッタ リング ( A u) H F S ‑2形, 2 0 Kv
S‑5 5 0, 2 0 Kv
パル機構 付蒸 着 装 置H U S・5 G B に て金パ ラジウ ム の ス
′ヾッタ蒸 着を行った. こ のよ うにLて得ら れ た試料を 日立電界 放射型電 子 顛 徽 鏡 (H F S ・2 ). 或いは. 日立 走 査 電子 顕 微 鏡 (S・5 50) で加速 電 圧20K V , 試 料 台 傾 斜 角0 、」 5Jに て観 察し. 写 真撮 影を行った( 表2 ).
実験 材 料2.3 .4. に関し て は次の如 き 操作を行っ た 後観察L た. 即ち材 料を2 ×2 ×3 m m 大に ピ ン セ ッ
ト で細片にし た嵐
a) ヒ ア ルロ ニダー ゼで370c,2 時 間 作 用さ せ る,
b ) 0.1 4 M NaC lで00c.2 時 間作 用さ せ る,
C)0 .2 8 M NaC l でOOc .2時 間 作用さ せ る,
d)0.5 M NaC lで00c .2 時間作 用さ せ る,
e)1.OM NaC l で0 0c,2 時 間作 用さ せ る,
r) コ ン トロ ー ル群 : ヒ ア ルロ ニ ダー ゼ, NaC l で作 用 さ せ七い,
以上の 6 群に 分け て 各 群 の 試 料 を 2 .5 % gluta r al dehyde で4Oc ,3 時 間 半の前 固 定を行っ た 後, 表2 に示す如く. 実 験 材 料1. の場 合と同様に試 料 を作 製し,ヒ アル ロニ ダーゼ.或いは NaC l を作用さ せ た 面を観 察し た.
尚, 以上の試 料の観 察面が目 的と す る部 分を正確に 把達して いた か否か を確認 する為. 走 査 電 顕に て観 察 し た後試 料 台 よ り 剥が し た 試 料 を do ub le e mbed d ing te chniqu e
l)を用いて包 埋し,5〃m の切 片 をつく り H ‑E 染色を行い光顕で観察し た.
実 験 結 果 上臨 床 骨 腫 瘍材 料
A .人 骨 肉 腫
2 2 9
観 察さ れ た人骨 肉 腫細 胞は細胞 成 分のま ば ら な部で は球 形及 び卵 円形を呈 するものが多く. 一方 細 胞の密
に存 在す る部では大 型の紡 錘 形あ るいは卵 円形 細 胞が 多 く見ら れ た. 細 胞 表 面は, 顆 粒状 物質に覆わ れて い る もの (図2 ). 表面 構 造物が粗なもの ( 図3 ). が認 め ら れ た が mi c r o villi, b lebs, 丘lopod ia,
la m el lipod ia は見ら れず, 細 胞の相 接 する部で も inte r c ellula r・bri dge s は認め ら れ な かった. 細 胞 成 分のま ば ら な部では図2 の如く, 細胞 表 面及び細 胞 間
に糖 粒状 物 質が認め ら れ. あ るいは図4の如く細 胞 表 面及び細 胞 刷の鞘 粒 状物 質が線 維 様配 列を示して い る部も あった. 細 胞の密に存 在する部では, その表面 が輯粒 状 物 質に覆わ れて いる細 胞 もあ り( 図 5 ). 又,
図3 の如く表 面 構造 物が粗で顆 粒状 物 質が少 量付 着す る細胞も 認 め ら れ た. か か る部では細 胞 間の輯 粒 状物 質は あ ま り認め ら れ な かっ た.
試料の作 成に際して, 2.5 % gluta r al dehyde によ る前 固定の前に1 .OM NaC l で充分に洗 浄し た骨 肉 腫 組 織を見る と( 図6), 顆 粒 状物 質と線維に覆わ れて い る細 胞が 認 め ら れ(図 7), 細 胞 表面の輯粒 状 物 質と線 維が互い に終り合って細 胞 間の線 維 網と連 絡して お り. これ ら基 質の各 線維は互に集 合して太い線 維 束を 形成して いた( 図8). こ こ で見ら れ た線 維には. し ば し ば顆 粒 状物 質が付 着し ていた.
B . 内軟 骨隆
内軟 骨 腫 細 胞は は ぼ 一定の大き さ を示し. その形は ほ ぼ球 形, 時に卵 円 形を呈し た. 細 胞表 面は網 目状 構 造を と る極めて微 細な顆 粒 状 物 質に覆わ れてお り( 図 9 ) . mic r o villi. b lebs 等は認め ら れず. 又, 細 胞が
相 接して いる部でもinte r c ellula rbri dge s は 認 め ら れ な かっ た. 基 質を見るに図 9 の如く細 胞 表面か ら連 続 性に微 細な較粒 状 物 質が網 目 状 構 造を呈して認め ら
れ た.
人 骨 肉 腫の場 合と同様に.試 料の作竜削こ際し て,.2 .5
% gluta r al dehyde の前 固定の前で 1.OM NaC l で 充 分洗 浄し たもの について観 察 する と, 細 胞 表面には微 細顆 粒 状 物 質と線 継が認め ら れ, か か る線 維 表面には 微細 顆粒 状 物 質が多 量に付 着し ていた. 基 質には線 純 綿が見ら れ, これ ら線維にも 微 細 輯 粒 状物 質が少 量 付 着してお り, 細 胞 表 面の線 維あ るいは微 細 輯粒 状 物 質 と連 絡して いた( 図10 ). 細 胞が 1a c u n a e 内に あ る場 合は図1 1 の如く,細 胞 表面か ら線 維が放射 状に伸びて
基 質の線 維 綿と連 絡し. かつ , 基 質の線純 綿は 一定の 配列を示さ ず.その太さ は0.04〟m で極めて細かっ た.
C . 軟 骨 肉 腫
認 め ら れ た腫瘍 細 胞は種々 の大 きさ で あ り. 細 胞 表 面は. 微細 轍 粒状 物 質に覆わ れて いるもの( 図12 ) , 表 面 積 造 物が 粗な もの ( 図13 ) , が認め ら れ た が
m
i c r o villi.b lebs 等は認め ら れず.又,細 胞が相 接 す る部でも inte r c ellula r bri dge s は認め ら れ な か っ た. 基質では微細な根 粒状 物 質が密に結 合し て線 椎 様 配列を示して いた( 図1 4).
1・O M NaCl で 充 分 洗 浄 し た 後 に 2 .5 % gluta r al dehyde で前 固定して同 様に作 製し た試 料を 観察す る と, 細 胞 表 面に は微 細 頼 粒 状物 質に よ る綱眉 状 構 造が見ら れ( 図15 ),( 図工6 ) . 一 方. 基質におい ては細 線 維が明 瞭に観察さ れ. かっ , その線 推の走 行
には 一 定 性は認め ら れ な かっ た ( 図 17). これ ら基 質
の線 維は細胞 表面の額粒 状 物 質と連 絡して いた. D. 骨 巨細胞 腫
(i) 第Ⅰ鹿 骨 巨細 胸底
基 質細 胞の大 きさ は略々 一 定で直 径 約 6〟m の球 形 及 び卵 円 形を呈し た. 細 胞 表 面は微 細 隆起を呈して い るものが主と して見ら れ( 図1 8), 椅に mic r o vi11i に
覆わ れて いるもの ( 図19 ) が認め ら れ た. か か る
皿ic 王、o Villi の太さ は その根 部か ら先 端ま で は ば 一 定 で約 0.1〃m , 長さ約0.7〟m でその多く は まっ す ぐに 伸びて いた が. 時に分 岐を 示し ているものも あった.
fi lopod ia,la m e11ip od ia 等は認め ら れ ず,細 胞の相 接 す る郎でもinte r c ellula r bri dges は認め ら れ な か っ た.
巨 細 胞は.これ ら基 質 細 胞 間に混 在し て認め ら れ ( 図20 ) . 長径 30 〜 60〟m まで種々 の大きさ を示し.
その形も 球 形. 卵 円 形, 紡 錘 形を呈L た. 巨細 胸 裏 面 は基 質 細 胞と同 様に微 細 隆 起を呈し. 鋸opod ia,
1a me11ipod ia,inte r c ellula r bridge s は 認 め ら れ な か っ た・ 各細 胞は互にか さ な る よ うに存 在し. これ ら
細胞 間には甑粒 状 物 質は少な かった.
(ii) 第 五 度 骨 巨細 胞 腫
基 質細 胞は大 小 不 同で , 長径8 〜 1 5〟m であ り. そ の形態は球 形. 卵 円 形, 紡 錘 形を示し図 21 の如く.そ の長 南 突 起 構 造 物は極め て 粗で あ っ た. b lebs.
inte r c ellula r bri dge s 等は 認 め ら れ ず, 又.細 胞間に は線 維の形 成は少な かった.
巨細 胞は長径 30 〜 枇皿 で紡錘形のものが主と し て見ら れ,その表 面突 起 構造 物は極め て少な かっ た( 図 2 2). これ らの細 胞 間には輯 粒状 物質や線 維は少な か
っ た.
E, ペ ー ジェ ット肉 腫
観察さ れ た細 胞の大 きさ は大 小 不 同で. その形も球 形, 卵 円 形, 紡 錘 形といろいろ な形 態を示し た. 細 胞 表 慮は, 甑 粒状 物 質に覆わ れて いるもの ( 図23). 表 面構 造 物の粗なもの ( 図 24), が.認 め ら れ た が
m
i c r o villi,b lebs 等は認め ら れ な かっ た. 顆粒 状物 質を表 面に有す る細 胞の存在す る部の基 質には粕粒状 物 質が見ら れ, 細 胞 表 面に同様に存 在 する顆 粒状 物質
と適格して いた.
試 料の作蔓削こ際して1.OM NaC l で充 分 洗 浄し た詠 料を観 察 する と‑ 腫 瘍 細胞 表 面は不 規 則な分 布を示す
m
i c r o vil li に覆わ れ て お り,顆 粒 状 物 質 も 僅かに認 め
ら れ た( 図2 5). 基 質の顆粒 状 物 質は少く, 線維の形 態が明 軌こ認め ら れ た( 図26 ). 図 27 に示 す 如く.細 胞表 面の 一 部に残 存せ る規 粒状 物 質は互に結 合し. 線 経と適 格して いるのが認め ら れ た. これ らの顆粒 状物
質は mic r o villi と 密 着 し て 存 在 し, か
.か る
mic r o villi は長さ0 .1 〜2/J m , 太さ は根 部か ら先 端 まで 鵬定せ ず娘部におい て扁平に拡 大してお りt 途中
で攣 曲や分 岐を 呈 す ものも 認め ら れ た. 基 質の線 維は 細 胞か ら離れ た部で図 28 の如く太い線 維 束を形 成し
て いた.
2,P32 誘 発ラット実 験骨肉腫
2 0 匹の ラッ トにP3 2 を注 射し,8 〜 1 2 ヶ月の後,大 腿 骨t 脛 骨, 上 腕 骨に骨 肉 腫が発 生し. その発生 率は 2 0 匹中1 5 匹. 即ち.7 5 % を示し た. これ ら骨 肉腫は 人 骨 肉腫に類似し たo ste ob la stic なレ線 像を示し,組 織 学 的にも 腫瘍 性 頬 骨 形 成が著 明で ( 図 29 ), 骨 形 成 性 肉腫であっ た.これ ら骨 肉 腫発 生ラ ット15 匹中6 匹
に肺 転 移 巣を認め る事が出 来た( 図 30).
以上の骨肉腫の走 査 電 顕 的所 見は次の 如く で あ っ た.
( i) コ ン トロ ー ル群(ヒ ア ル ロ ニ ダー ゼ .NaC l非 作