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対称的状況における役割分担の経済的意義 大 石 英 貴

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Academic year: 2021

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(1)

対称的状況における役割分担の経済的意義

大 石 英 貴

1 はじめに

同じ状況に直面した2人が、相手と異なる行動をとるとよい場合がある。交 差点を自動車で通過するときに、横切る車が進入してくれば、こちらは止まる べきであるし、横切る車が止まったなら進むべきである。通信状態が悪くて通 話中の電話が切れたときは、一方がかけてもう一方が待ったほうがよい。この ような状況では相手と同じ行動をとるとよくない。交差点で両方が進めば車は 衝突するし、両方が止まればいつまでも通過できない。切れた電話を両方がか けなおせば話し中になるし、両方が待てば待ちくたびれることになる。また、

違う行動をとる場合でも、交差点なら待つよりは進んだほうがよいし、切れた 電話なら電話代を払わずにすむのでかけなおしてもらうほうがよい。

このような状況での解決方法として、我々は社会的なルール、法律や慣習、

常識を作り上げてきた。交差点には信号を設けてそれに従うという法律を作り、

電話が切れたときは最初にかけたほうがかけなおすという慣習ができた。この ようなルールは、対称的な2人がお互いの役割を区別して初めて可能になる。

区別できる情報が外部から与えられれば、それを使って役割分担をすることが できる。

しかし、役割分担をすることは必ず社会的に好ましいことであるだろうか。

本論では、役割分担という仕組みがそれぞれの役割にあるいは社会的にどのよ うな影響を与えるかについてモデルを作って論じてみる。

2 モデル

2人が選択肢を2つずつ持つ対称的な状況を2×2対称ゲームとしてモデル 化する。行動する人をプレイヤーと呼ぶ。選択肢は

Aと B

の2つで、その組み 合わせによって利得が得られる。利得とは金銭や感情を含めた個人的効用のこ とである。

(2)

ここでは特に、以下の条件を満たすものを考える。

Aに対しては Bが最適であり、Bに対しては Aが最適である。

・ 自分が

A、相手がBとなるときが最も利得が大きい。

1つ目の条件は、相手と異なる行動をとるほうがよいことを示し、2つ目の条 件は、その中でも自分が

Aで相手が B

のときが最高であることを示している。

利得のスケールは自由に取れるので、一般性を全く失うことなく利得の値を以 下のように仮定する。

・ ともにAを選んだときはα

・ ともに

Bを選んだときはβ

・ 自分が

Aで相手が Bのときは 2

・ 自分が

Bで相手が Aのときは 1

ただし

α<

1, β< 2

である。これを表1で表す。行は自分の行動、列は相手の行動で、表の中には その組み合わせによる自分の利得を入れる。

3 役 割

このゲームが社会で行われるとき、役割の存在が重要となる。以下の2つの 可能性がある。

・ 役割がない。

・ 役割分担をする。

プレイヤーが実際に行動を選択するときには、2つの状況は異なる。役割が ない場合は、両プレイヤーとも完全に同じ状況にある。役割分担がある場合は

表1 モデル

(3)

それそれの役割に応じた選択をすることが可能である。それを役割1と役割2 とする。

4 状態の描写

ゲームの潜在的プレイヤーの集団を社会とよぶ。このゲームに関する社会の 状態はAと

Bそれぞれを選ぶ人の割合で描写できる。

役割がない場合には、

Aを選ぶ人の割合を p、B

を選ぶ人の割合を

(1

p)

と して、状態をpA+

(1

p ) Bと表す。なお、0≦ p≦ 1

である。

役割分担がある場合は、役割1において

A

を選ぶ人の割合を

p

1、Bを選ぶ人 の割合を

(1

−p1

)

とし、役割2においても同様に

p

2、

(1

p

)

として、状態を

(p

A+ (1

p

)B, p

A+ (1

p

)B)

と表す。

5 均 衡

社会が均衡する条件を考える。プレイヤーは、状態に対する最適な行動を選 ぶはずである。どのプレイヤーも社会状態に対して最適な行動を選んでいると き均衡という。

役割がない場合には、均衡は

である。確かに、このとき

A

を選んだ時の期待利得と

Bを選んだ時の期待利得

はともに

となり、Aと

B

の両方が最適な行動になっている。ここでは

A

B

を選ぶプレ イヤーが混在している。

役割分担がある場合には均衡は以下の3つある。

(A, B), (B, A),

(4)

である。まず、

(A, B)

(B, A)

については、Aに対しては

Bが最適であり、B

に対しては

Aが最適であるので当然である。ここでは役割によって行動が分離

している。利得はそれぞれ

(2 , 1)

(1 , 2)

である。3つ目の均衡については、

2つの役割があるにもかかわらず、役割がない場合と同じ行動を複製したもの である。期待利得は

( u, u )

である。

6 安定性

均衡は静的な条件であるが、ここでは動的な安定性を考えよう。均衡以外の 状態がどのように推移するかについて、以下を仮定する。

・ 期待利得の大きい方の行動をとる割合が増える

これは当然の仮定である。この推移のもとで、近くの状態からは必ず均衡へ到 達するとき、その均衡を安定的という。

役割がない場合の均衡は安定的である。均衡以外の状態、例えば

B

を選ぶプ レイヤーの割合が均衡より多い場合は、

pα+ 2(1

p)

p

+β

(1

p)

となり、

A

の期待利得が高くなって

A

を選ぶプレイヤーの割合が増えていき、均衡へ到 達する。逆の不等式が成り立つ場合も同様である。

役割分担がある場合は、

(A, B)

(B, A)

は安定的、第3の均衡は不安定であ る。

( A, B )

の周辺は、役割1で

A

を選ぶプレイヤーの割合が、役割2で

Bを選

ぶプレイヤーの割合が多い状態である。そこでは不等号の逆転が起こらない範 囲でAにはBが、BにはAが最適であるので、

( A, B )

に収束する。

( B, A )

も同様 である。第3の均衡については、ある役割で

Bを選ぶプレイヤーの割合が均衡

より多い場合は、もう1つの役割でAを選ぶプレイヤーの期待利得が高くなり、

A

の割合が増えていく。このことより、例えば役割1が均衡より少し

A

の割合 が多く、役割2では均衡より少し

Bの割合が多い状態では、役割1で A

がさら に増え、役割Bで

Bがさらに増える方向に推移し、均衡から遠ざかっていく。

以上を図示すると図1のようになる。役割がないときの状態の集合は線分

A B

で、役割分担があるときの状態の集合は正方形を使って表せる。矢印は推 移の方向である。

(5)

7 役割分担による利得の変化

長期的には社会の状態は安定的な均衡となる。役割がない場合は行動の混在、

役割分担があると行動の分離が起こる。このことはそれぞれのプレイヤーの利 得を高めることになるのだろうか。また、プレイヤーの利得の和は増加してい るのだろうか。

役割がないときの安定的均衡の期待利得は

(2

−αβ

) / (3

−α−β

)

、役割が あるときには利得は

(2 , 1)

(1 , 2)

である。利得2となる役割のプレイヤーの 期待利得の増分をΔ2とすると

利得1となる役割のプレイヤーの期待利得の増分をΔ1とすると

となる。利得の増分の合計は

となる。Δ2>0であり、利得が2となる役割の期待利得は増加する。Δ 1と Δ1+Δ2の符号は以下の3つのケースで分かれる。

(

ケース1

)

β<1 のとき、Δ1>0, Δ1+Δ2>0 図1 状態の推移(役割がない場合)、役割分担がある場合

(6)

(

ケース2

)

のとき、Δ1<0, Δ1+Δ2>0

(

ケース3

)

のとき、Δ1<0, Δ1+Δ2<0 ケース1では、両方の役割で期待利得が増加する。ケース2と3では、利得が 1となる役割で役割分担により期待利得が減少する。ケース2ではその減少は 利得2となる役割での増加を下回る。ケース3では減少が利得2となる役割で の増加を上回る。まとめると表2のようになる。また3つのケースに分かれる αとβの値は図2のようになる

表2 役割分担の価値

図2 役割分担の価値

(7)

3つのケースの典型的な例を表3に挙げる。

8 解 説

図2からわかることは3つのケースの相違はαの値にそれほど依存しないこ とである。3つを分け隔てるのは主にβの値である。役割分担しない場合の期 待利得に関してはαとβは対称的であるが、ケースを分けるときにはβのみが 重要となる。βが小さければ、ケース1となり役割分担は全体にとって望まし い。βがある程度大きくなると、役割分担は一方の役割にとって好ましくない ことになる。さらにβが大きくなれば役割分担は社会的に好ましくないことに なる。漸近線であるβ=

1.5

という値は、利得2と利得1の平均となっている。

Aはいわば強気の行動、 Bは弱気の行動である。自分の最大利得を目指す行

動がAであり、Bは相手の

A

を前提としたときに譲る行動になっている。βは 両者がBを取った場合に実現する利得であるので、譲り合ったときに得られる 利得が比較的大きければ役割分担をせずに行動を混在させたほうが社会的に好 ましいということを意味している。

交差点の例では、行動

A

は進む、行動

B

が止まるに対応する。

Bを取ると相

手の行動に関わらず交差点を通過できないので、自分が止まって相手を先に行 かせる場合と同じ利得になるだろう。つまりβ=1ということである。これは ケース1とケース2の境界にあるが、社会的には役割分担をするほうがよい。

表 3 − 1 ケ ー ス 1 の 例

表 3 − 3 ケ ー ス 3 の 例

表 3 − 2 ケ ー ス 2 の 例

(8)

現実にも信号機という役割分担のための情報提供機械が設置されている。

αはここでは両方が進んで事故が起きたときの利得である。事故の被害の大 きいときはαが小さな値であり、役割がない場合の均衡では

Bを選ぶ割合が小

さく、Aを選ぶ割合が大きくなる。つまり、役割がない場合には、事故被害が 大きくなれば

Bすなわち止まるを取る人を増やす。しかしβ=1なので、期待

利得はαに関係なく1となる。事故の被害の大きさは、人々の行動を変化させ るが、期待利得は変化しない。また、αの大小はケースの区別と関係ないとい うことは、事故の被害の大きさは信号設置の経済的意義とは無関係である。

切れた電話の例では、行動Aは待つ、行動Bがかけなおすということになる。

βはお互いがかけなおした場合の利得であるが、これは電話がつながった場合 の利得を下回るだろう。したがってβ<

1

となり、ケース1になる。現実の慣 習、かけたほうがかけなおす、は両方に役割分担の効果をもたらしている。

9 おわりに

本論では対称的な状況にある2人が役割を分担することの経済的意義を考 えた。特に、相手と異なった行動が最適であり、その場合でも利得の差が生じ る場合を分析した。結果として、役割分担が個人的にあるいは社会全体で必ず しも得にはならないことを示すことができた。

対称ゲームの一般形については大石

(1 9 9 4)

にまとめてある。均衡の安定性 については松井

(2 0 0 1)

に詳しく論じられているが、選択肢が2つの場合にはこ こでの簡単な定義で十分である。

参考文献

大石英貴

(1994)

「集団での2×2対称ゲーム」『現代経済学研究』第3号

松井彰彦

(2001)

「進化的ゲーム論」『経済セミナー』

2001

年9月号

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