座席選択に関する調査研究*
松 尾 貴 司
AQuestionnaire Study on Seating Preference
Takashi Matsuo
はじめに
座席選択に関する研究は,大きく分けると2つの流れがある。一つは,空間構造(Spatial Organization)と社会的相互作用の関連に関するも.のであり, 他方は,パーソナルスペースな
どの対人的行動表出の観点からの研究である。
小集団における空間的配置(テーブルの形や着席位置)が,成員間の社会的関係を規定する ことがいくつかの研究によって示されてきた。Steinzor(1950)は,円卓での座席位置に注目し,
会話場面の観察を行った結果,話者との距離が遠いほど次に発言者となる頻度が高くなること を見いだしている。また,L6cuyer(1976)は,このスタインザー効果を確めるとともに,リー ダーの行動と空間配置の関係について検討し,空間配置が集団の機能に重要な役割を持つこと を指摘している。
2者の相互作用場面では,Sommer(1965)が相手との関係や相互作用の目的によって選択 する座席が異なることを明らかにした。すなわち,会話の場合はテーブルの角をはさんだ位置 で,競争の場面は向かい合い,協力場面では横に並んで座る傾向があることを見いだした。ま た,Cook(1970)も同様の調査をイギリス人について行い,若干の文化的差異を見いだして
いる。
このような行動の違いは,視線や距離と動機付けの見解から説明されることが多い。
Mehrabian&Damond(1971)は,座席の位置関係について直接性(lmmediacy)という概念 を用いて分類している。つまり,対面位置は最も直接性が高く,横に並ぶのは最も低くなり,
直角位置は相互媒介方向ということになる。また,Cook(1970)は, Argyle&Dean(1965)
の親和葛藤理論(Affiliative Conflict Theory)に基づいて,近接性(距離)とアイコンタクト
* 本稿は,1992年度の本学コミュニケーション学科卒業生である宇野美穂子が卒業研究の一環として収 集したデータを利用し,再分折したものである。
の2次元で選択される座席の意味を説明している。そして,肯定的な動機付けの場合は,近接 性により調整が行われ(動機付けが強くなるほど接近する),否定的な動機付けではアイコン
タクトを調整することが多くなることを示した。これらの研究結果をふまえて,人間関係の感 情的側面を表す一つの指標として,座席選択を研究に用いることが行われるようになってきた。
この他には,なわばり行動としての着席に注目した研究もある。鈴木と本間(1984)は,大 学の職場会議での着席行動を観察し,特定場所への固執,なわばりの安定化などを報告してい
る。
本研究においては,パーソナルスペースの一つの表現型としての座席選択,着席行動につい て検討する。パーソナルスペースに影響を及ぼす要因はさまざまであるが,そのうち文化的要 因については,指摘されているにも関わらず,それほど注意されていないように思われる。た とえば,Ha11(1966)は4つの空間距離を提唱したが,その際それが,非常に限定されたサン プルに基づいていることを注意している。にもかかわらず,その具体的距離がどこでも用いら れているのが実状である。そこで,Sommer(1965), Cook(1970)と同様の調査を行うこと によって,アメリカ,イギリスと比較した日本人の座席選択の特徴を明らかにし,パーソナル スペースを検討するための基礎データを得ることを第1の目的とする。また,本研究ではこの 他の要因として,性別,他者との関係(既知・未知)の2つについても同時に調査を行ったの で,あわせて報告する。
方 法
男女大学生各50名について,質問紙により調査を行った。調査項目は,4つの状況について,
それぞれ4人の対象を想定し,長方形テーブルおよび,円形テーブルでの座席選択を質問する もので,計32項目であった。
質問文は,Sommer(1965)の用いた文書を和訳したもの,およびダイアグラムをそのまま 使用した。被験者は,4つのそれぞれの状況において,指定された相手とテーブルについてい ると想像させた。質問の出現順序は,各状況について4通りの相手を続けて回答していくもの で,すべて同一であった。
状況:会話(Conversation)友人と講義前の数分間おしゃべりをするとき 協力(Cooperation) 同じ試験の勉強を一緒にするとき
共行為(Co−action) 各々別の勉強をするとき
競争(Competition) 一連のパズルをどちらが先に解くか競うとき
相手 同性の友人,異性の友人,同性であまり知らない人,異性であまり知らない人
選択した座席位置は,図1に示すように,6つの位置のうち2ヵ所にチェックすることによ り示された。
同性の友人と講義前の数分間おしゃべりをするとき,
どの座席を選択しますか。
⑧
⑧ ○
○ ○
○
○○
︒紅︒図1 質問文および回答のためのダイアグラム
結 果
結果の分折方法
男女間では,座席の選択パターンに差がみられなかったため,以下の分折では,両者のデー タはまとめて扱っている。
選択パターンの比較は,角に座る,向かい合う.(近い),横に並ぶを 近い とし,それ以 外を 遠い 座席としてX2テストにより検定を行った。また,いくつかの座席のみで選択パ
ターンを見る場合は,必要に応じてセルを結合して検定を行っている。有意水準は2%以下と した。これらは表中に示されているパーセンテージではなく,実測値に基づいて計算されたも のである。
なお,本稿では長方形テーブルのデータについてのみ報告する。
1.文化間比較
ここでは,アメリカ人のデータとしてSommer(1965)を,イギリス人のデータとしては,
Cook(1970)のものを用いた。これらのデータはいずれも,相手を同性の友人としたもので,
本調査の同様の部分のみを用いた。なお,両者とも本調査と同じく性差は見られず,データは 両性を合わせたものである。
今回の調査(日本人のサンプル)では,他のサンプルに比べ,場面による選択パターンの違 いは顕著でなく,どの場面においても近い席がより多く選択された。ただし,共行為場面と競 争場面では,より遠い席が選択されることが多くなった(表1)。
会話場面イギリス人は,アメリカ人よりも遠い席を選択することが多く,近い席では,
向かい合う席を選択することが少ない。日本人は,遠近では両者の中間であるが,近い席の選 択では,角を選択することが少なく横並びが多く選択された。
協力場面 アメリカ人,日本人は殆んど差がなく,より近い方の席を選択している。一方,
イギリス人は,より近い席を選択した。
共行為場面 イギリス人は,アメリカ人よりも近い席を選択することが多いが,全体的には どちらも遠い席を選択している。これに対して,日本人は近い席を選択することが多い。
競争場面イギリス人は,遠い座席を,アメリカ人と日本人は,近い座席を選択している。
イギリス人が,遠い方の向かい合う座席,アメリカ人は,近い方の向かい合う座席を選択して いるのに対して,日本人は横並びの座席を選択することが多い。
表1 アメリカ,イギリス,日本の各状況における座席選択の割合(%)
走コ
白×
自 .口. b
×
Eコ。
会話場面 U.S.
U.K.
Jap.
協力場面 U.S.
U.K.
Jap.
共行為場面 競 UUJ争UUJ 食晶ぺ三
42 51 22 19 11 10
30∨n67・7・4
46 21 38 512一ウ●19V 38一b 3
41 10 29
11 15 33
13︵b一b24 704 ーウ一
804
1qU 0010
20
3
13 31
4
80一blPO− −︵b5一b28 2
43 28 28
︵U639●ll 07・−
O
l3
1
33 14
1
57・5
表2 選択された座席の遠一近による文化間比較(X2値)
Jap. vs. U.S. Jap. vs. U.K. U.S. vs. U.K.
会話場面 協力場面
共行為場面
競争場面
5.61 4.66 81.49°°
2.55
1.87 41.62 33.34°°
33.34 °
14.24 82.25°°
8.81°
22.89°硲
ホ p〈.Ol, 含‡ p〈.001
2.相手の属性の効果
相手が同性か,異性かによっては,座席選択パターンに変化はみられなかったが,既知・未 知の効果がみられた。以下は,相手が同性の場合のデータに基づいたものである。
相手が未知の人である場合は,競争以外の場面においては,より遠い席が選択されることが 多くなった(表3)。
会話場面未知の相手の場合は,横並びの席が選択されにくく,近い向かい合った席の選 択が非常に多かった。
協力場面未知の相手の場合は,横並びの席が選択されることが少なくなった。
共行為場面 未知の相手では,遠い席を選択する方が多くなった。また,近い席では横並び が選択されることが少なかった。
競争場面既知の場合の方が近い席を選択することが多かったが,両者に差はみられな
かった。
表3 相手が既知・未知の時の各状況における座席選択の割合(%)
。亡コ
白x
凸 。口. Eコ X
白、遠一近による
比較(x2値)
22 P8@1010 8 3 4 3
面 面 面 面場知知場知知舗知知場知知話既未力既未行既未争既未会 協 共
競
38 56
ウ●含V令V︵0
54
qUウ●91
2q∨ qU63 ρU︵041
47・2
▲40
32 14
3只∨43
1 5ウ●12
5qV l ΩV2 387
9一4 13 2113 ll 16
=OQU7.24°
21.29
21.78
3.54
* pく.02, ** p〈.001
考
察
1.文化間比較
会話場面いずれのサンプルも近い席を選択しているが,そのパターンは若干異なってい る。イギリスは,対面を避ける傾向がみられるが,これは他者との接解機会を小さくし,会話 の感情的側面を低めるもので,このサンプルが会話をそのようなレベルにとどめること望んだ
ためと考えられた(Cook,1970)。日本人は角を選択することが少ないが,これは実際の生活 場面でそのような経験を殆んどしないためではないかと思われる。また横並びが多い点に付い ては,質問文の連想として,日常経験される場面であることが考えられる。また,横並びと対 面は他の状況においてもおおきな差はみられておらず,これらの座席位置の意味に大きな違い がないことも考えられる。
協力場面イギリスのみが,顕著な差がみられたが,共行為場面と似たパターンを示して いることから,このサンプルが質問文を協力という事態と受け取らなかった可能性がある。
共行為場面 日本人はこの状況において最も特徴的なパターンを示した。すなわち,他の2 つのサンプルがより遠い席を選択しているのに対して,横並び,対面の近い席を選択している のである。一般的に,個別の作業をする場合,じゃまされないことを望むと考えられるわけで あるが,協力場面でのイギリスの場合とは逆に,質問文の意味が協力的なニュアンスに受け取 られたとも考えられる。
競争場面イギリス,アメリカとも距離の違いはあるが,どちらも向かい合う席を最も多 く選択しているのに対して,日本人は横並びの席の選択が多い。この位置は,競争事態で他者 に覗かれる可能性がある位置ということで避けられるようであるが,日本人の場合そのような 意識は働かないようである。
以上のように,日本はどちらかと言えばアメリカに似た選択パターンを示していたが,共行 為,競争といった他者との相互作用を避けるような場面における座席選択に大きな違いがみら れた。また,日本はどの場面においても近い席を選択しており,他の文化に比べパーソナルス ペースが若干小さい可能性も考えられる。
2.状況および既知・未知の効果
会話場面 未知の相手の場合,遠い席の選択が増えるが,近い席の選択にも顕著な差がみ られた。横並びの座席が避けられ,向かい合わせが最も多い。これらは,横並びの席が,最も 親密な場合に用いられる位置として定着しているためと思われる。
協力場面 会話場面と同様,横並びが避けられ,遠い席が選択されている。
共行為場面 未知の相手の場合,遠い座席の選択が顕著となった。このことからも,既知の 相手の場合は, じゃまされない ということを要求するような事態としてとらえていないこ
とが推測される。
競争場面を除いた上記の3場面において,未知の相手に対してより距離をとる傾向がみられ た。これは,パーソナルスペースの一般的な知見に一致するものであった。
状況による座席選択パターンは,各場面でそれぞれ異なるが,会話・協力場面,共行為・競 争場面はそれぞれ似かよっている。これらの場面が,相手との相互作用を要求される場合とそ うでない場合というように,それぞれ2つの場面が比較的似た状況として捉えられている可能 性もある。また,どの場面においても,対面,及び横並びの席の選択が多く,これらの位置が
日本では,生活場面で一般に最も経験するものであり,他の座席位置のイメージが希薄である ためかもしれない。
おわりに
文化間の比較においても明らかなように,同じ質問文であってもそれがどのような意味を持 つかは,文化によって異なる可能性がある。本研究のように投影法的な測定法を用いる場合,
このことは重要である。また本研究では殆ど取り上げなかったが,座席位置を視線の問題から 考える場合も,身体の向きなどは必ずしも研究者の意図通りに制御されているかは疑問である。
測定方法は,ノンバーバル行動の研究には共通した問題でもある。今回の結果からも,単に表 面的な手続きとしての方法に留意するだけでは,不十分であると言えよう。
また,今回の調査では,性別による差異は殆ど見られなかったが,これまでのパーソナルス ペースの研究では,多くの場合性差が観察されている。これは,座席位置のような距離の調整 量では,性別による差異を吸収しているとも考えられる。いずれにせよ,厳密な意味での対人 距離を問題とする場合には,座席選択では問題が残るであろう。
着席行動については,距離や向きの問題だけではなく,さまざまな要因が関連していると考 えられる。2者以外の場合は,考慮すべき変数も複雑になるが,そのような場面での行動も興 味深い。また,日常の観察の中からアプローチしていくことも重要であろう。
文 献
Argyle, M,&Dean, J.1965 Eye contact, distance and affiliation, Sociomletry,28,289−304.
Cook, M.1970 Experiments on Orientation and Proxemics, Human Relations,23,61−76.
Hall. E. T.1966 The Hidden Dimension, Doubleday,(「かくれた次元」日高敏隆・佐藤信行訳,1970,み すず書房)。
L6cuyer, R.1976 Social organization and spatial organization, Human Relαtions,29,1045−1060・
Mehrabian, A.&Diamond, S. G.1971 Seating arrangement and conversation, Sociσmett),,34,281−289.
Sommer, R.1965 Further studies in small group ecology, Saciometry,28,337−348.
Steinzor, B.1950 The spatial factor in face to face discussion groups.∫oumal Of A bno,,nal S(rcial Psycholo・
gy,24,552−555.
鈴木百合子・本間道子 1984 着席行動におけるなわばり性の研究,心理学研究,55,109−112