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多様性を生かした国語科授業づくりの研究
目次 1
序章・・・研究の動機・方法 3
第一節・・・研究の動機 3
第二節・・・研究の方法 3
第一章・・・特別な支援を要する子どもに対する教育の変遷 4
第一節・・・ 学習指導要領の改訂からわかること 4
第二節・・・ 特別支援教育の歩み 5
第三節・・・ 発達障害の捉え 7
第一項・・・医療による診断 7
第二項・・・文部科学省による発達障害の捉え 10
月に 第四節・・・ 筆者の多様な実態の捉え 12
第五節・・・一章のまとめ 12
第二章・・・特別な支援を要する子を含んだ協働的学びの在り方 15
第一節・・・共同/協同/協働の定義 15
第二節・・・先行研究の分析 17
第一項・・・原田大介氏の研究における協働的学び 18
第二項・・・桂聖氏の研究における協働的学び 20
第三項・・・先行研究のまとめと筆者実践プラン 23
第三節・・・実践 27
第一項・・・学級全体の4月の実態 27
第二項・・・多様な実態の児童 28
第三項・・・多様な実態の児童への個別の配慮の実際 31
第四項・・・学級の基盤づくりの授業の実際 35
第五項・・・焦点化・視覚化・共有化・学びのバリエーションを 40
一部選択可能な国語科授業 第六項・・・多様な実態の児童の学習の様子からの考察 44
第四節・・・二章のまとめ 47
第三章・・・多様性を生かした国語科授業の今後 48
―可能性と課題― 第一節・・・多様性を生かした国語科授業の可能性 48
第二節・・・多様性を生かした国語科授業の課題 49
第三節・・・三章のまとめ 50
参考引用文献 51
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資料① 52 資料② 56
令和二年度 修士論文
主任指導教員 鈴木愛理先生
副指導教員 田中拓郎先生 吉田比呂子先生
山田史生先生 弘前大学大学院教育学研究科 国語教育学専攻
19GP301 高渕 美千代
2020
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序章 研究の動機・方法
第一節 研究の動機
本研究は,教室に存在する多様な子どもたちと国語科の授業づくりの関わりに注目し たものである。国語科教育に求められているものは,言葉の力を育てること,すなわち 言葉で表現する(話す・書く)力や言葉で理解する(聞く・読む)力を児童に確実に育成する ことである。『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説』1において,教育課程の編成及 び実施に当たっては,「主に集団の場面で必要な指導や援助を行うガイダンスと,個々の 児童の多様な実態を踏まえ,一人一人が抱える課題に個別に対応した指導を行うカウン セリングの双方により,児童の発達を支援すること」とあり,「多様な実態」という文言 が新たに加わった。国語科授業の中で,個々の児童の多様な実態を踏まえつつ,言葉の 力を育てていくとはどういうことなのか。また,どのような姿になればそれが実現した といえるのか,研究により明らかにしていきたいと考えた。研究により想定したことを 国語科授業で実践し,多様な実態のある子どもたちが,学級という集団の中で,どのよ うなプロセスで他者と関わりながら学び,言葉の力を身に付けていくのかについて,彼 らの一年間の変容を追うとともに学習の様子(ノート,発言,制作したもの)から考察して いきたい。
第二節 研究の方法
研究の方法として,次の手順で進めていきたい。
第1に,学習指導要領に「多様な実態」という文言が加わった経緯について平成に入っ てからの学習指導要領で付け加えられていった文言を明らかにし,その変遷を考察する。
特に,「多様な実態」という言葉が新しく明記された『小学校学習指導要領(平成29年告 示)解説』を詳しく考察する。次に,「多様な実態」とはどのようなことを指しているのか,
医療,文部科学省での捉えを比較することにより,明らかにしていく。そして,筆者の多 様な実態に対する捉えについても述べる。
第2に,多様な実態の子を含んだ学級集団の中での共同/協同/協働的な学びとはどう あればよいのか,明らかにしていきたい。その際に発達障害を含む特別な配慮・支援を要 する子と,定型発達の子が同時に在籍する学級の中で,全体を巻き込み学習する「インク ルーシブな国語科授業づくり」について研究している原田大介氏と,学力の優劣や発達 障害の有無にかかわらず全員の子が分かるように工夫された国語科授業づくり「授業U D」を研究している桂聖氏の先行研究を分析し検討する。そこから見える評価できる点 と課題をもとに実践を行い考察する。
第3に,多様性を生かした国語科授業の今後の可能性と課題について言及したい。
1 『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説』 文部科学省 2018年(平成30年)東洋館出版社
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第一章 特別な支援を要する子どもに対する教育の変遷
第一節 学習指導要領の改訂からわかること
通常の学級における特別な支援を要する子どもへの対応はどうあればよいのか。平成 に入ってからの学習指導要領の中の,一人一人が抱える課題に個別に対応した指導に関 連すると思われる部分を抽出し,比較してみたい。
1.『小学校学習指導要領解説』平成元年2と平成 10 年3の比較
『小学校学習指導要領解説』平成元年では,第 2 章 各教科 第一節 国語 に おいては,指導法の工夫改善や,実態に即した適切な指導についての記述は見られ ない。第 3 章 指導計画の作成と各学年にわたる内容の取扱いにおいても個に配慮 した内容の記述は見られない。
『小学校学習指導要領解説』平成 10 年では,配慮事項が増え,より内容も詳しく なってきている。特に,(5)において,「個別指導やグループ別指導,繰り返し指導,
教師の協力的な指導等指導方法や指導体制を工夫改善し,個に応じた指導の充実を図 ること。」と,通常学級における個別指導の在り方が追記された点が特徴的である。
また,障害のある児童についても,(6)において『小学校学習指導要領解説』平成元年 よりもさらに詳しく「指導内容や指導方法の工夫」について言及しており,「特殊学 級又は通級による指導について」も効果的な指導をとうたっている。
第 2 章 各教科 第一節 国語 においては,前回と同じく指導方法の工夫や効 果的な指導についての記述は見当たらない。
2.『小学校学習指導要領解説』平成 10 年4と平成 20 年5の比較
この改定で目立つ点としては,個別指導の在り方の幅が広がってきていることがあ げられる。指導の工夫については,「発展的な学習」も視野に入れることにより,上 位の児童に対する支援という考え方も新しく取り入れられたと考える。また,教師間,
関連機関との連携が重要視され,個別に支援計画を計画的,組織的に進めるよう求め られるようになった。
3.『小学校指導要領解説』平成20年6と平成29年7の比較
この改定では,総則の書き方自体が大きく変容した。新しく,「児童の発達の 支 援」の項目が付加された。総則第4 1児童の発達を支える指導の充実(1)の中で,
「学習や生活の基盤として,教師と児童との信頼関係及び児童相互のよりよい人間関 係を育てるため,日頃から学級経営の充実を図ること。また,主に集団の場面で必要 な指導や援助を行うガイダンスと,個々の児童の多様な実態を踏まえ,一人一人が抱 える課題に個別に対応した指導を行うカウンセリングの双方により,児童の発達を支
2 『小学校学習指導要領解説』文部省 1989年(平成元年)
3 『小学校学習指導要領解説』文部省 東洋館出版社 1999年(平成11年)
4 注3に同じ
5 『小学校学習指導要領解説』文部科学省 東洋館出版社 2008年(平成20年)
6 注5に同じ
7 『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説』文部科学省 東洋館出版社 2018年(平成30年)
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援すること」という箇所があり,ここで初めて「多様な実態」という文言が使われて いる。『学習指導要領解説』平成元年での「児童の実態に即した」,『学習指導要領解 説』平成20年での「学校や児童の実態に応じ」という表現から進んで「個々の児童 の多様な実態を踏まえ」という表現になっており,児童の実態を重要視することがク ローズアップされてきているように感じる。「即した」→「応じた」→「踏まえた」
と文言が変化おり,単に児童の実態に合わせたりふさわしい行動をとったりするにと どまらず,児童に実態そのものを学習の土台にすることが要求されているのである。
『学習指導要領解説』平成20年までは,「第4 指導計画の作成等に当たって配 慮すべき事項」に述べられていたことが,『学習指導要領解説』平成29年では,新た に「第4 児童の発達の支援」とはっきりと独立して打ち出され,内容も大幅に増加 した。そこには,これまでの小学校学習指導要領を踏まえるだけでは不十分で,特別 支援の指導要領も踏まえて指導に当たらなければならないと記されている。これまで の学習指導要領解説にはなかったことである。もはや通常学級の担任は,特別支援教 育についての知識がなくては成り立たないということである。学習指導要領の変遷に ついて,詳しくは参考資料資料①として示す。
これらが強く打ち出されているのはなぜか。特別支援教育の変遷はどうであったの か,次節で考察する。
第二節 特別支援教育の歩み
2006 年(平成 18 年)に障害を理由とした差別を禁止する「障害者の権利に関する条 約」8が国連会議で採択され,学校はインクルーシブ教育を志向することが求められた。
2007年(平成19年)に特別支援制度が開始され,特別支援学校だけでなく,通常の学級 においても障害のある子どもへの対応が課題にされるようになった。その後「障害者基 本法」9の改正2011年(平成23年)において,「国及び地方公共団体は,障害者が,その 年齢及び能力に応じ,かつ,その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするた め,可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を 受けられるよう配慮しつつ,教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策 を講じなければならない。」(第16条第1項)という規定が整備された。続いて「障害を 理由とする差別の解消の推進に関する法律」102013年(平成25年)の成立を経て,2016 年(平成28 年)に施行された。これにより,障害者に対しては「合理的配慮」を必ず提 供しなければならなくなった。合理的配慮については,川島聡氏と星加良司氏が次のよ うに整理している。
雇用促進法と差別解消法の下で提供しなければならない合理的配慮とは,基本 的に,①個々の場面における障害者個人のニーズに応じて,②過重負担を伴わない 範囲で,③社会的障壁を除去すること,という内容をもつ措置を意味している。さ らに,この概念には,障害者の意向を尊重することや,機会平等の実現を目的とし
8 「障害者の権利に関する条約」2007年(平成19年)9月署名 外務省 2008年(平成20年)5月条約 発効 2014年(平成26年)1月批准 同年2月19日より効力発生 内閣府
9 「障害者基本法」地方自治体の一部を改正する法律案(平成23年法律第三十五号)(附則第六条関係)内 閣府 2011年
10「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成二十五年法律第六十五号)内閣府
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ていることなどの要素が含まれている。11
障害を持つ子どもたちの個々のニーズに応じて,「過重な負担を伴わない範囲」で「社 会的障壁を除去」した合理的配慮を,授業の場面でも提供することが求められること になった。2013年(平成25年)には「学校教育法」12が改正され,就学の在り方が見直 された。就学指導から就学相談となり,子どもの発達や障害の状況を含めつつ,本人 や保護者の意向を最大限に尊重して必要な支援について合意形成を図ることが重視さ れるようになった。また,学びの場も柔軟に検討していくことが求められるようにな った。既存の枠組みに合わせて子供の学ぶ場が「選ばれる」のではなく,「子ども自身 と保護者が納得して場を「選ぶ」ことができるようになった。
特別支援教育に関する動向をまとめると,以下のようになる。
特別支援教育に関する動向(表1)
2006年(平成18年)12月 学校教育法施行規則の一部を改正する省令施行 2007年(平成19年)4月 学校教育法等の一部を改正する法律施行
*「特殊教育」から「特別支援教育」へ名称変更 「盲聾養護学校」から「特別支援学校」へ
2012年(平成24年)7月 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構 築のための特別支援教育の推進(報告)
2013年(平成25年)8月 学校教育法施行令の一部を改正する政令施行
*就学先を決定する仕組みの改正等 2014年(平成26年)1月 障害者の権利に関する条約批准
2016年(平成28年)4月 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行 2016年(平成28年)8月 改正発達障害者支援法施行
*適切な支援,個別の教育支援計画等の作成推進等 2018年(平成30年)4月 学校教育法施行規則等改正
*高等学校における通級による指導の制度化
また,2013年(平成25年)の学校教育施行令の一部を改正する政令施行により,教育 の場は下記の表のように枠組みが改正された。
教育の場(表2)
特別支援学校 特別支援学級 通級による指導 通常の学級
学校教育法施行令 25文科初第756号初等中等教育長通知
視覚障害 視覚障害 弱視 弱視 〇
聴覚障害 聴覚障害 難聴 難聴 〇
知的障害 知的障害 知的障害 ― ―
肢体不自由 肢体不自由 肢体不自由 肢体不自由 〇
病弱(身体虚弱) 病弱 病弱・身体虚弱 病弱・身体虚弱 〇
言語障害 ― 言語障害 言語障害 〇
情緒障害 ― 情緒障害 情緒障害 〇
自閉症 ― 自閉症 自閉症 〇
学習障害 ― ― 学習障害 〇
注意欠陥多動性障害 ― ― 注意欠陥多動性障害 〇
11 川島聡・星加良司「合理的配慮が開く問い」川島聡・飯野由里子ほか編著『合理的配慮―対話を開 く,対話が拓く』有斐閣2016年(平成30年)p.2
12「学校教育法」改正(25文科初第665号)2013年(平成25年)9月1日
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表2を見てわかる通り,知的障害を除いてほぼすべての児童が,通常の学級で学習す ることが可能になったといえる。就学先を行政機関が指定するのではなく,保護者や本 人の希望を最優先して決めることができるように大きくシフトチェンジしたのである。
「発達障害者支援法」13の定義の中には,知的障害は含まれておらず,発達障害と知 的障害は別の制度で支援されている。日本で定義されている障害は,知的障害,精神障 害,身体障碍の 3 障害であり,発達障害という新たなカテゴリーが認められたわけで はないが,前述の「障害者基本法 一部改正」14により,発達障害は精神障害と同様の 支援が受けられるようになった。
ここで,青森県における特別支援学校の所在についても記しておきたい。
青森県の特別支援学校(表3) 2020年(令和2年)4月現在 市町村名 特別支援学校名
青森市 青森盲学校(視覚障害) 青森聾学校(聴覚障害)
青森第一養護学校(肢体不自由)
青森第一高等養護学校(肢体不自由・知的障害高) 青森第二養護学校(知的障害)
青森第二高等養護学校(知的障害高) 青森若葉養護学校(病弱)
浪岡養護学校(病弱) 八戸市 八戸盲学校(視覚障害)
八戸聾学校(聴覚障害)
八戸第一養護学校(肢体不自由) 八戸第二養護学校(知的障害) 八戸高等支援学校(知的障害高) 弘前市 弘前聾學校(聴覚障害)
弘前第一養護学校(知的障害) 弘前第二養護学校(肢体不自由)
国立学校法人弘前大学教育学部附属特別支援学校(知的障害) むつ市 むつ養護学校(知的障害・肢体不自由)
黒石市 黒石養護学校(知的障害)
つがる市 森田養護学校(知的障害・肢体不自由) 七戸町 七戸養護学校(知的障害・肢体不自由)
特別支援学校は都市部に集中しており,ほかの市町村に住む児童・生徒にとって は 通学等での困難も予想される。重い障害でないかぎり,可能であれば地域の学校で合理 的配慮を希望する本人及び保護者がいるのも当然である。
文部科学省が定める発達障害の定義と医学的な見地からの発達障害の定義とでは,
若干の違いがあり,教育現場と医療関係者の連携を図る上で問題となることも多いの が現状である。そこで,次節では,それぞれの捉え方の違いを明らかにしていきたい。
第三節 発達障害の捉え 第一項 医療による診断
学校現場では,発達障害を抱えた児童が,数年後に受診した折には違う診断名が
13 「発達障害者支援法」平成十六年十二月十日 法律第百六十七号(抄)厚生労働省令 2004年
14 注9に同じ
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付いてくることに戸惑いの声が上がっていた。また,検査の結果,複数の診断名が 出ることもあり,対応はどうあればよいのか判断が難しいと感じ,困惑する場面も あった。それはなぜか。
発達障害の診断分類は,精神医学の診断基準を用いて行われる。具体的には「「米 害 の 診 断 と 統 計 の 手 引 き 」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)」」15や「「世界保健機関」(World Health Organization:WHO)」」
16が作成した「「国際疾病分類(International Classification of Diseases:ICD)」」17 に従うのが標準的である。
発達障害を専門とする小児科医,原仁氏の「新版 子どもの発達障害事典」18に よると,
DSM- Ⅲ-TR(1987) に は , 精 神 遅 滞 , 広 汎 性 発 達 障 害 (Pervasive Developmental Disorders:PDD),特異体質的発達障害(言語障害,学習障害,
協 調 運 動 障 害)の 3 障 害 の 上 位 概 念 と し て 発 達 障 害(Developmental
Disorders)という用語がありました。NDDの内容はほぼ従来の発達障害の概
念と重なります。NDDの特徴として,症状は幼児期から学童期までに明らか になること(発現時期の特定),単なる能力の欠損だけでなく,過剰にも注目す ること(高機能例の存在),診断の重複がありえること(併存障害の存在)などが 指摘されています。
(中略高渕)
DSM-Ⅳ(1994)では,発達障害という括りはなくなって,それぞれの診断名は 並列に戻り,「通常,幼児期,小児期,または青年期に初めて診断される障害」
の中に含まれることになりました。
DSM-5(2013)には神経発達障害(Neuro Developmental Disorders:NDD)と いう新たな区分が作られました。NDDの内容はほぼ従来の発達障害の概念と 重なります。
とある。医療における神経発達障害:NDDの捉え「DSM-5精神疾患の診断・統計 マニュアル」19を参考資料②として示す。発達障害の概念は,医療現場においても 時代とともに変遷してきたことがわかる。これらをまとめると以下のようになる。
15 『精神障害の診断と統計の手引き』(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:
DSM)」 精神障害の分類のための共通言語と標準的な基準を提示するものであり,アメリカ精神 医学学会:APAにより出版された書籍である。日本では1980年(昭和55年)のDSM-Ⅲから採用 され,最新版はDSM-5である。
16 「世界保健機関」(World Health Organization:WHO) 保健衛生分野の国連専門機関で1948年 (昭和23年)に設立された。
17「国際疾病分類(International Classification of Diseases:ICD) 世界保健機構(WHO)が死因や疾病 の統計などに関する情報の国際的な統計基準として公表している分類である。現在の最新版は2019 年(令和元年)委承認された「ICD-11」であるが,現在日本では和訳と日本での適用が検討されてい る。
18 原仁責任編集『新版 子どもの発達障害事典』合同出版,2014年(平成26年) pp.012-013
19 髙橋三郎・大野裕・監訳 染矢俊幸・神庭重信・尾崎紀夫・三村將・村井俊哉・訳『DSM-5 精 神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院 2016年(平成28年)
なおこの本はアメリカ精神医学学会:APAのDSM-5作戦実行チーム(DSM-5 Task Force)委員長
DavidJ.Kupferらによって編纂されたものである。
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医療における発達障害の概念の推移(表4)
DSM-Ⅲ-TR 1987年
(昭和62年) DSM-Ⅳ 1994年
(平成6年) DSM-5 2013年
(平成25年) 発 達 障 害 (Developmental
Disorders)とは,以下のものを指 す。
・精神遅滞
・ 広 汎 性 発 達 障 害(Pervasive Developmental Disorders : PDD)
・特異体質的発達障害(言語障 害,学習障害,協調運動障害)
*ここでは,精神遅滞も発達障害 のカテゴリーの中に入ってい た。学習障害も発達障害の範疇 に入ることが明示された。
通常,幼児期,小児期,または青 年期に初めて診断される障害と は以下のものを指す。
・精神遅滞
・自閉性障害
・アスペルガー障害
・小児期崩壊性障害
・レット障害
・ 広 汎 性 発 達 障 害(Pervasive Developmental Disorders: PDD)
・特異体質的発達障害(言語障 害,学習障害,協調運動障害)
*発達障害というカテゴリーが 外れ,診断名が並列に戻った。
神 経 発 達 障 害 (Neuro Developmental Disorders : NDD)とは,主に以下のものを指 す。
・精神遅滞
・自閉スペクトラム症/自閉症ス ペ ク ト ラ ム 障 害 (Autism Spectrum Disorder)
・注意欠如・多動症/注意欠如・多 動 性 障 害 (Attention- Deficit/Hyperactivity
Disorder)
・コミュニケーション障害(発達 性言語障害,構音障害,吃音)
・限局性学習症/極限性学習障害 (Specific Learning Disorder)
・運動障害(発達性協調性運動障 害,常同運動障害,トゥレット 障害)
*自閉性障害,アスペルガー障 害,小児期崩壊性障害,レット 障害及び広汎性発達障害が,自 閉スペクトラム症/自閉症スペ クトラム障害という呼び方に 包括され,知的障害のない自閉 症は広くこう呼ばれるように なった。従来は行動障害群に含 まれていた注意欠如・多動症/ 注意欠如・多動性障害も神経発
達障害(NⅮⅮ)のカテゴリーに
含まれることになった。また,
これまで使われてきた学習障 害という言葉は,限局性学習症 /限局性学習障害(SLD)になり,
神経発達障害(NⅮⅮ)というカ テゴリーの中に,自閉スペクト ラム症/自閉症スペクトラム障 害(ASD),注意欠如・多動症/注 意欠如・多動性障害(ADHD), 限局性学習症/限局性学習障害
(SLD)が入ることになった。
これによると,現在医療現場の診断にあたっての基準には「発達障害」という用 語はない。「発達障害」という用語はDSM-Ⅳにおいて一度なくなり,DSM-5におい て「神経発達障害:NDD」という用語になり再登場したのである。また,その下位 概念は徐々に呼称が変わったり,範囲が広くなったりしてきた。医療現場では,現状 に合わせて診断を併用することが多くなってきたことにもよるものと思われる。呼称 やカテゴライズが変更してきたことが,学校現場には伝わってきておらず,そのこと で混乱を招いてきたと考えられる。今後も,「神経発達障害」という上位概念と,そ の下位概念がどのように変わっていくのかに注目していく必要がある。
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次に,文部科学省が定める発達障害の定義について整理したい。
第二項 文部科学省による発達障害の捉え
2004年(平成16年)「発達障害者支援法」20第一章 総則 目的 第二条において
「この法律において「発達障害」とは,自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性 発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」と定め られた。
その後文部科学省では2007年(平成19年)、発達障害ついて次のような通達を出 した。
「発達障害」の用語の使用について
今般、当課においては、これまでの「LD,ADHD,高機能自閉症」との表記 について、国民のわかりやすさ、他省庁との連携のしやすさ等の理由から、下記 の通り整理した上で、発達障害支援法の定義による「発達障害」との表記に換え ることとしましたのでお知らせします。
記
1.上記1の「発達障害」の範囲は、以前から「LD,ADHD,高機能自閉症」
と表現していた障害の範囲と比較すると、高機能のみならず自閉症全般を 含むなどより広いものとなるが、高機能以外の自閉症者については、以前 から、また今後とも特別支援教育の対象であることに変化はない。
(中略高渕)
5.学術的な発達障害と行政政策上の発達障害とは一致しない。また、調査の 対象など正確さが求められる場合には、必要に応じて障害種を列記するこ とを妨げるものではない。21
文部科学省では、発達障害を「LD,ADHD、自閉症全般」の3つに絞っているこ とが分かる。また、高機能以外の自閉症者は特別支援教育の対象であることが再確認 されている。以前は「高機能自閉症」と限定していたものを「自閉症全般」とし、自 閉症の範疇を広げている。「学術的な発達障害と行政政策上の発達障害とは一致しな い。」とあるが,では,文部科学省では「発達障害」であるにはどのような症状があ るととらえられているのかを見ていきたい。
1999年(平成11年)7月に文部科学省は「学習障害児に対する指導について(報告」
22でこのように報告している。
学習障害の定義
本協力者会議においては,中間報告で次の通り学習障害を定義した。
20 注13に同じ
21 「発達障害」の用語の使用について 2007年(平成19年)文部科学省
22 「学習障害児に対する指導について(報告)」 学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する 児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議 1999年(平成11年)10月
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学習障害とは,基本的には,全般的な知的発達には遅れがないが,聞く,話 す,読む,書く,計算する,又は推論する能力のうち特定のものの習得と使 用に著しい困難を示す,様々な状態を示すものである。
学習障害は,その背景として,中枢神経に何らかの機能障害があると推定 されるが,その障害に起因する学習上の特異な困難は,主として学齢期に 顕 在化するが,学齢期を過ぎるまで明らかにならないこともある。
学習障害は,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環境 的な要因が直接の原因となるものではないが,そうした状態や要因とともに 生じる可能性はある。また,行動の自己調整,対人関係などにおける問題が 学習障害に伴う形で現れることもある。
この定義にある通り,学習障害は全般的に知的発達に遅れはないが,特定の能力 の習得と使用に著しい困難を示すことが一般的な要件である。しかし,実際には,複 数の能力の習得と使用に困難を示すことも多い。二次的障害により全般的に知的発達 に遅れがある場合と明確に峻別しがたいものも見られる。また,中枢神経の機能的障 害があることは推定されているものの,十分に解明されていないため,上記の定義を 見ても釈然とはしがたい。
ADHD児と高機能自閉症児については,2003年(平成15年)3月には,「今後の特 別支援教育の在り方について(最終報告)」23において,「ADHD 及び高機能自閉症の 定義と判断基準(試案)等」で明らかにしている。これを参考資料③として示した。
以上文部科学省の発達障害の捉えを見てきた。文部科学省は,発達障害を「LD,
ADHD、自閉症全般」の3つに限定している。これは,「DSM-5」24における「自閉 スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害 Autism Spectrum Disorder」,「限局性学 習症/限局性学習障害 Specific Learning Disorder」,注意欠如・多動症/注意欠如・
多動性障害 Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder」とある程度重なるものと思 われる。しかし,完全には一致していない。そのため文部科学省では、2007 年(平 成 19 年)、発達障害ついての通達25の中で、「学術的な発達障害と行政政策上の発達 障害とは一致しない。」と述べていると思われる。教育現場では,文部科学省からの 通達と医療からの診断名の差異により混乱を生じたのである。
第一項「医療による診断」と第二項「文部科学省による発達障害のとらえ」を表 にし,比較してみた。
23 「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 2003年(平成25年)10月
24 注19に同じ
25 注21に同じ
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「発達障害」の医療と文部科学省の捉えの対比(表5) 医療による捉え
DSM-Ⅳ 1994年(平成6年)
文部科学省による捉え
「発達障害」の用語の使用につ いて 2007年(平成19年)
医療による捉え DSM-5 2013年(平成25年) 通常,幼児期,小児期,または
青年期に初めて診断される障 害とは以下のものを指す。
・精神遅滞
・ 広 汎 性 発 達 障 害(Pervasive Developmental Disorders: PDD)
・特異体質的発達障害(言語障 害,学習障害,協調運動障害)
発達障害
・LD
・ADHD
・自閉症全般
神 経 発 達 障 害 (Neuro Developmental Disorders : NDD)とは,主に以下のものを 指す。
・精神遅滞
・自閉スペクトラム症/自閉症ス ペ ク ト ラ ム 障 害 (Autism Spectrum Disorder)
・注意欠如・多動症/注意欠如・
多 動 性 障 害 (Attention- Deficit/Hyperactivity
Disorder)
・コミュニケーション障害(発達 性言語障害,構音障害,吃音)
・極限性学習症/極限性学習障害 (Specific Learning Disorder)
・運動障害(発達性協調性運動障 害,常同運動障害,トゥレット 障害)
文部科学省では,発達障害をLD,ADHD、自閉症全般に限定しているのに対し,医 療における神経発達障害の範疇はそれよりも広く,精神遅滞や運動障害等,特別支援校 で学ぶべき子どもたちも含まれるところが異なる点である。文部科学省ではあくまで も通常の学級に在籍している発達障害を対象として定義しているため,精神遅滞や運 動障害を省いているものと思われる。「発達障害」の用語の使用についての通達がでた 2007年(平成19年)では、当時の医療現場でDSM-Ⅳ1994年(平成6年)に基づき診 断されていたことになる。現在ではDSM-5を基に診断されるため,文部科学省が定義 した発達障害の呼称と,医療現場の診断名には差異が生じてきたのであろう。今後,文 部科学省の発達障害の定義が,医療の診断名とすり合わされていくのかどうかは不明 だが,DSMは現状に合わせて改編され続けると思われる。その後,法律や文部科学省 が後追いすることになるため,今後も完全に発達障害のそれぞれの呼称が一致するこ とはないと推察される。
医療と文部科学省では発達障害の捉えや呼称が一致していないことが分かった。以 上を踏まえ,次節では,本研究の発達障害の捉えについて検討したい。
第四節 筆者の多様な実態のとらえ
筆者は教育実践に「多様な実態」に焦点を当てつつ検討していく。「多様な実態」の 範疇に,自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)(以 下ASDと略す),限局性学習症/限局性学習障害(Specific Learning Disorder)(以下 SLDと略す),注意欠陥多動性障害注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害(Attention- Deficit/Hyperactivity Disorder)(以下ADHDと略す)を入れる。なぜなら,上記の 神経発達障害を抱える子が,通常の学級には常に存在するからである。それに,現行の
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DSM-5「神経発達障害」の中のコミュニケーション障害の属する吃音も加えたい。吃 音傾向がある子は,特に国語科の授業の「話す」「読む」場面において困難をきたすた めである。なお,「神経発達障害」の中には,発達性言語障害,構音障害もあるが,こ れらの障害は特別支援教室において指導されるのが一般的であるため除外することに する。DSM-5にある精神遅滞は,第一章第二節で述べたように,特別支援学校及び特 別支援学級に所属することから,こちらも除外する。そこで筆者は,教育実践の場にお いて,
・自閉スペクトラム:ASD
・注意欠陥多動性障害:ADHD
・限局性学習症/限局性学習障害:SLD
・コミュニケーション障害:吃音
の 4 つを多様な実態ととらえ考察を進める。本研究では,多様な実態を「踏まえる」
にとどまらず,個々の子どもたち自身が自らの多様な実態を国語科授業の学びに「生か す」ことができるようになることを目指したく,「多様性を生かした国語科授業づくり」
という言葉を用いる。
第五節 一章のまとめ
1 章では,平成に入ってからの学習指導要領で付け加えられていった文言を明らかに し,その変遷を考察してきた。教育課程の編成及び実施に当たり,ただ単に「実態」と 明記されてきたものにさらに「多様な」という言葉が加えられたが,その概念について は明確にすることはできなかった。
また,特別支援教育の歩みを整理し,特別な支援を要する子どもたちが通常学級に在 籍するようになった経緯が明らかになった。次に医療による発達障害の診断と文部科 学省による発達障害の定義を比較し,その捉えが完全に一致していないことから,混乱 を生じてきたことが分かった。その上で本研究では,自閉スペクトラム:ASD,注意欠 陥多動障害:ADHD,限局性学習障害:SLD,吃音の児童に焦点を当てて考察を進める こととした。
公立小中学校の「通常の学級に在籍する発達障害の可能性がある特別な教育的支援 を必要とする児童生徒の調査結果」26(2012年(平成24年)12月公表 文部科学省調査) によると,その割合は6.5%である。30人学級では2,3名の児童が発達障害を抱えて いることになる。
『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説』27には,
〇障害のある児童への配慮についての事項
(9) 障害のある児童などについては,学習活動を行う場合に生じる困難さに応 じた指導内容や指導方法の工夫を計画的,組織的に行うこと。
(中略高渕)
障害者の権利に関する条約に掲げられたインクルーシブ教育システムの構築 を目指し,児童の自立と社会参加を一層推進していくためには,通常の学級,
26 「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒の調査結 果」文部科学省 2012年(平成24年)12月公表
27 『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説』文部科学省 2018年(平成30年)東洋館出版社
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通級による指導,特別支援学級,特別支援学校において,児童の十分な学びを 確保し,一人一人の児童の障害の状態や発達の段階に応じた指導や支援を一層 充実させていく必要がある。
通常の学級においても,発達障害を含む障害のある児童が在籍している可能 性があることを前提に,すべての教科において,一人一人の教育的ニーズに応 じたきめ細やかな指導や支援ができるよう,障害別種の指導の工夫のみならず,
各教科等の学びの過程において考えられる困難さに対する指導の工夫の意図,
手立てを明確にすることが重要である。
(中略高渕)
その際,国語科の目標や内容の趣旨,学習内容のねらいを踏まえ,学習内容 の変更や学習活動の代替を安易に行うことがないように留意するとともに,児 童の学習負担や心理面にも配慮する必要がある。
とあり,「通常の学級においても発達障害を含む障害のある児童が在籍していること を前提」にすることがはっきりと打ち出されている。以前から特別な支援を要する子は 存在していたが,さらに進んで,通常の学級においても障害のある児童に対し十分に指 導方法の工夫をし,支援を一層充実させ,学習内容の変更や代替を安易にしてはなら ず,その際には学習負担や心理面にも配慮せねばならぬということが求められたので ある。教育現場は,文部科学省から難しい課題が与えられたことになる。通常の学級の 担任であっても,特別な支援を要する児童に対する知識がさらに必要になった。今まで は通常学級では通常学級の担任が授業をし,特別支援教室では特別支援の担任が授業 をしてきた。しかし,平成20年ごろからは筆者が勤務する青森県においても,特別支 援教室で学んでいた児童が通常学級で学ぶ機会がえたことにより,通常学級の担任と 特別支援学級の担任がT1,T2としてチームティーチングをすることも日常的に行わ れるようになった。通常の学級と特別支援学級との垣根が低くなり,交流が盛んになっ たと捉えることもできる。しかし,すべての時間をチームティーチングで行うことは,
特別支援学級の在籍児童が複数の学年・学級に存在することもあり,不可能である。通 常学級の担任が一人で授業を行うことの方が圧倒的に多いのが現状である。
ではその中で,共に学ぶ共同/協同/協働的な学びの在り方はどうあればよいのか,
次章で述べていきたい。
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第二章 特別な支援を要する子を含んだ協働的な学びの在り方
第一節 共同/協同/協働の定義
そもそも,「協働」という言葉はどのような意味をはらむのか。中身が問われるべき 概念である。表面的には「協力して働く」という意味ではあるが,そのような表面的な とらえでよいのか。学校現場においても,「共同」や「協同」といった言葉が混在して 使われてきた。また,「collaboration」などの英語に訳したところでその内実はわから ない。
『日本国語大辞典 第二版 第四巻』28によると,
【共同】(名)①二人以上の者がいっしょに事を行うこと。また,二人以上の者が,
一つの事物について同等の資格で所有したり,利用したり,一緒に活動し たりすること。②「きょうどう(協同)」に同じ。
【協同】(名)二人以上の人や団体などが一つの仕事のために「和衷―」「産学―」〔同
音語の「共同」はたがいに心や体を合わせること。共同。
【協働】(名)同じ目的のために,二人以上が協力して働くこと。
とある。また,『KENKYUSHA'S NEW ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY』29 には,
col-lab-o-ra-tion 1 a 共同,協力;共同研究,共同制作;in~with…と共同して。
b合作,共著,共同制作作品 2(国際間の)協調,提携
3(敵側・占領軍への)協力,同調
とある。意味が重なるなど枠組みがはっきりしないこともあり,「協同学習」,「共同 学習」,「協働の学び」といったワードが飛び交い,使用する側でも混乱も見られた。
では,教育界では,どのような定義づけがされているのか見ていきたい。『国語科重 要用語事典』の中で,細川大輔氏は,以下のように述べている。
定義 共同学習とはグループ学習ではない。
(中略高渕)
協同(Cooperative Learning)は特定の教授法を示す用語として用いられている
が,CooperationとCollaboration,協同と協調,協働など類似する用語が使われ
ている。日本協同教育学会では,互いに協力して学び合うとともに,その意義に 気づき,他者と協力する技能を磨き価値観を内面化することを意図する教育活動 を「協同学習」とする。協同学習では必ずしも協同の価値を学ぶことまで意図し
28 北原保雄・久保田淳・谷脇理史ほか編者『日本国語大辞典 第二版 第四巻』小学館 2001年(平 成13年)p.474
29 竹林滋・東信行・寺澤芳雄ほか編著 『KENKYUSHA'S NEW ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY』 研究社 2002年(平成14年)p.491
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たものではなく,より広く,協同作業が組み込まれた学習の総称であるとみなし ている。さらに「協働」はともに力を合わせて共同作業を行う状態ないし,実態を 指すものであるとしている。
(中略高渕)
課題 国語科の授業では,交流が強調されているが,教授主義的な教育がなかなか 消えない。子どもが主体となる活動の中で自然と生まれる学び合いを大切にする 授業,またはそれを描き出す研究方法を考えていく必要があるだろう。30
細川氏は,他者と協力する技能を磨き価値観を内面化することを意図する教育活動 を「協同学習」とし,ともに力を合わせて共同作業を行うことを『協働』として区別し ていると考えられる。
また,日本協同教育学会の杉江修司氏は,『協同学習入門・基本の理解と51の工夫』
の中で次のように述べている。
グループ学習が協同学習ではありません。協同学習はグループの活用法というよ うな手法の理論ではないのです。協同学習は教育の基本的な考え方を体系的に示 す教育理論であり,教育の原理なのです。また,協同学習はひとつの理論がある わけではありません。一人ひとりの研究者によって,それぞれ特徴的な側面を含 んだ理論がありえます。協同学習の実践者も,その個人的な理論や手法に違いが あります。「協同」の定義が違っていることもあります。
(中略高渕)
協同学習の特徴は,心理学を中心とした実証研究を背景として発展してきたとい うのです。それは単に理論研究にとどまらず,実践家での有効性については実際 の場面を使って検証を図ってきました。グループ・ダイナミックスの伝統として のアクション・リサーチという方法を積極的に取り入れてきています。協同学習 は,その意味では,理論と実践が有機的に結びつくことができた最良の事例かも しれません。ここでは,協同学習という教育理論の大枠を私なりに整理したもの を紹介しようと思います。大枠といったのは,左記にも触れたように,研究者,
実践者の数だけ理論の詳細に関してはバリエーションがあるからです。
(中略高渕)
学級の子どもたちが一貫した協同原理の中で学習するならば,個別学習で成果が 出ない仲間のことが当然気になります。その意味で,誰が実力不足かの情報は,
仲間が共有していた方がいいのです。成果の出ない仲間に対して,子どもはさま ざまなプラスの影響を与えていくはずです。直接「がんばろうよ」という声掛け をする場合があるかもしれません。理解の進んで子どもが機会を見つけてコーチ するかもしれません。そういった直接的な働きかけはなくとも,達成の遅い子が いると,先にできた子どもは「あいつはいつも遅いな」という態度ではなく「が んばれ,がんばれ」という応援の心で待つでしょう。遅い仲間がある基準をクリ アするとクラス全体から自然に拍手や歓声が起きるような,そういうクラスづく りがなされているならば,そこに所属する子どもたちは誰もが安心して頑張るこ とができます。これが個別の協同学習です。「クラスの仲間全員が自分の味方」と
30 細川大輔「25共同学習・協同学習・協働学習」髙木まさき・寺井正憲・中村敦雄・山元隆春編『国 語科重要用語事典』明治図書 2015年(平成27年)p.36
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いう環境で学ぶことが協同学習だと理解してもいいでしょう。31
杉江氏は,「協同学習」とは単にペアやグループをすることを指すのではなく,研究 実践者の数だけ理論の詳細に関してはバリエーションがあるとしている。また,協同 とは,教育の基盤にある基本原理に関する理論で,集団が高まることを目標とした実 践すべてを言うとしている。そのためには学級の子どもたちが一貫した協同原理の中 で学習することが必要であり,そのような学級であれば個別学習で成果が出ない子ど もも安心して頑張ることができる。「クラス全員が自分の味方」という環境においては,
個別の協同学習も成立すると説いている。単に同じ場所で学びを共にするというので はなく,その場にいる個々の子どもが安心できる環境で学ぶことができることが重要 であり,一貫した教育原理の必要性を説いている。
細川氏と杉江氏の共同/協同/協働に関する論を見てきた。それぞれの用語に明確な 理論や定義があるわけではなく,協同学習の実践者も,その個人的な理論や手法に違 いがあることが分かった。以前から共に学ぶ学習の必要性は求められてきたが,「共 同」と言うとただ単に同じ場で学ぶことととらえられる危険性があるため,より誤解 を生じないように,障害のある子を含めたあらゆる子がともに力を合わせて活躍する 学びの場を目指すという意味で「共」ではなく「協同」「協働」という言葉が選ばれ るようになってきたのではないかと推察される。さらに,「お互いに働きかける」こ とを目指し,近年では,「協同」よりも「協働」という言葉が多く使われるようにな ってきたと考えられる。そこで、本研究では「協働的な学び」という言葉を用いるこ ととする。
第一章第五節においても先述したが,通常の学級においても障害のある児童に対し 十分に指導方法の工夫をし,支援を一層充実させ,学習内容の変更や代替を安易にし てはならず,その際には学習負担や心理面にも配慮せねばならぬということを文部科 学省からは求められている。しかし,実際問題としてその求めには無理がある。近年 これほどまでに多様な子の存在が明らかになる中で,通常の学級担任は厳しい環境に 置かれていると言わざるをえない。通常の学級には最大で40名の児童が存在してお り,それに対して教師は1名である。多数の子を指導しつつ,授業に取り組みが難し い児童を巻き込み,力を合わせてお互いに働き掛け合いながら学ぶ「協働の学び」を 実現するためには,どのような指導方法が良いのか,具体的な研究は始まったばかり である。
多様な実態の子を含む学級の中で協働的な学びはどうあればよいのか,次節では先 行研究を分析してみたい。
第二節 先行研究の分析
今までも特別支援教育の視点から,特別な支援を要する個々の児童に対しては,そ の障害の種類別にどのような支援が有効であるかといった研究はされてきた。理論的 な点でいえば,例えば上野一彦氏らは,『LDの教育 学校におけるLDの判断と指 導』32の中で,通常学級に在籍するLD児の判断基準を示し,その具体的な指導法に
31 杉江修司『協同学習入門・51の工夫』 ナカニシヤ出版 2011年(平成23年)pp.17-23
32 上野一彦・牟田悦子・小貫悟ほか編著 『LDの教育 学校におけるLDの判断と指導』日本文化科 学社 2001年(平成13年)