5 函医誌 第29巻 第1号(2005)
は じ め に
近年,脳神経外科領域における血管内治療の発展は目 覚しいものがある。従来,開頭術しか選択の余地のな かった治療法が,疾患によってはより低侵襲,より短時 間で行うことが可能になってきている。そのため高齢者 や全身状態不良の症例に対しても治療の機会が増加して きていると言える。
最近ではRandomized Controlled Trial(RCT)によ り血管内治療と従来の治療との比較が行われ,血管内治 療の優位性を呈する論文も多くみられる。とりわけ,脳 動脈瘤と頚部内頚動脈狭窄に対するRCTは盛んに行わ れており,将来的にこれらに対しては血管内治療が主体 になるのではないかと考えられている。
当院では2003年4月1日以降,現在までに30例以上の 血管内治療を行っており,そのうち脳動脈瘤コイル塞栓 術が7例,頚部内頚動脈ステント留置術が10例を占め る。疾患の代表例の呈示,およびRCTとその結果を考察 する。
脳動脈瘤の血管内治療
離脱式コイルにより動脈瘤内腔を塞栓し,その後の血 栓化により破裂を防止する治療であるが,電気的に安全 に離脱可能なGuglielmi Detachable Coil(GDC)の発 売により,急速に治療例数が増加しつつある。
図1は脳梗塞にて入院加療中に右内頚動脈に2ヶ所の 脳動脈瘤を認めた63歳,女性で,2005年2月15日に全身
麻酔下にGDCにて瘤内塞栓術を行った。まず内頚動脈 後交通動脈瘤(矢印)3. 5×4. 0×4. 5mmにExcelsior SL 10を挿入し,1本目のGDC-10 soft 2D SR 4×8 でフレームを形成し(A),引き続きコイルを挿入して計 18cmにて完全塞栓した(B)。内頚動脈先端動脈瘤(矢頭)
6. 0×5. 0×5. 0mmも同様にGDC-10計34cmで塞栓し 得た(C)。
従来,直達手術の困難な部位や高齢者,全身合併症を 伴う患者,グレードの不良なくも膜下出血の場合に限っ て行われることが多かったが,2002年にくも膜下出血に 対するクリッピング術とコイル塞栓術のRCTである International Subarachnoid Aneurysm Trial
(ISAT)1)が発表されて以来,適応が拡大傾向にある。1 年後のmodified Rankin Scale(mRS)3〜6の中等〜
重度障害または死亡はコイル塞栓群で23. 7%クリッピ
ング群で30. 6%と有意差をもってコイル塞栓群の成績
が良好であったからである。
また,日本でも破裂脳動脈瘤塞栓術についての多施設 共同研究として全国23施設でのコイル塞栓術の成績を集
当院における脳動脈瘤および頚部内頚動脈狭窄に 対する血管内治療の現況
原口 浩一 丹羽 潤 橋本 祐治
Endovascular treatments of cerebral aneurysm and cervical internal carotid artery stenosis in Hakodate Municipal Hospital
Kohichi HARAGUCHI,Jun NIWA,Yuji HASHIMOTO
Key words:Stent ―― Carotid artery ―― Coil ――
Embolization ―― Cerebral aneurysm 原 著
市立函館病院 脳神経外科
図1
A B C
6 函医誌 第29巻 第1号(2005)
計,分析したRESAT(Retrospective Study of Endo- vascular Subarachnoid Aneurysm Treatment)2002 が2003年3月,脳卒中の外科学会にて発表された。これ によると3ヶ月後のアウトカムGood recovery(GR) およびModerately disabled(MD)が73. 0%と,クリッ ピング術とほぼ同等,良好であることが判明した。
コイル塞栓術後にコイルコンパクションと呼ばれる動 脈瘤内でのコイルの圧縮が起きることがあり,これによ り動脈瘤が再開通することがある。現在,有機合成ポリ マーや生体内で分解される成分を含んだ新しいコイルが 開発されており,再開通の減少,塞栓率の上昇が期待で きると思われる。
頚部内頚動脈狭窄の血管内治療
外科的治療としてすでに頚動脈内膜剥離術(Carotid Endarterectomy:CEA)の有用性は広く認められてい るが2),バルーンカテーテルによる経皮的血管拡張術 Percutaneous Transluminal Angioplasty(PTA)の 出現以来,高齢者,高位病変,全身合併症などを有する high-risk患者に対し徐々に施行されるようになってき た。しかし,再狭窄が多いことから,最近ではステント 留置術(Carotid Artery Stenting:CAS)に取って代 わられつつある。
図2は55歳,男性。右頚部内頚動脈に約90%狭窄を認 める(A)。2004年9月22日,局所麻酔下にステント留置 術を行った。PercuSurge(矢印)にて内頚動脈遠位を 閉塞してデブリスの塞栓を防止した後,Amiia 4. 0× 30mmバルーンカテーテル(矢頭)にて狭窄部を10気圧,
30秒間拡張(B),引き続きSMARTステント8×20mm を留置した。狭窄は改善されている(C)。
ステントは頚部内頚動脈狭窄にはいまだ保険適応では ないため普及の足かせとなっているが,海外ではいくつ かRCTも行われている。Stenting and Angioplasty with Protection in Patients at High Risk for Endarterectomy(SAPPHIRE)3)はhigh-risk患 者 に
おけるCEAとCASに対するRCTで,中間報告では術 後30日以内の死亡,脳卒中,心筋梗塞の発生率がCEA群 12. 6%に対しCAS群5. 8%と統計学的に有意にCASの 成績が良好であった。Carotid Revascularization Endar- terectomy versus Stent Trial(CREST)では,CEA とCASを比較するRCTで,症例登録がすでに開始され ており,ほぼ同程度の良好な成績となるものと期待され ている4)。
CASの合併症に遠位塞栓があるが,すでに海外では フィルター型の新しい塞栓防止デバイスがいくつか市販 されており,さらに改良,開発が進んでいる。日本でも 前述のバルーン閉塞型のPercu Surgeが汎用されてい るが,今後はフィルタータイプも発売されると考えられ る。また,循環器領域ですでに使用されているDrug Eluting Stent(DES)は再狭窄予防にきわめて有効と されており5),将来的に頚部内頚動脈狭窄にも使用可能 なステントが普及するものと思われる。
ま と め
日本では高血圧の有病率が圧倒的に高く,人口の1〜
2割を占めると言われている。続いて糖尿病患者,その 予備軍も多く,これらはともに脳血管障害のリスクファ クターであり,今後ますます脳血管障害は増加するもの と思われる。また高齢化社会においてはless-invasive な治療が求められ,RCTによってエビデンスが確立さ れることにより,さらに血管内治療の適応が拡大してい くものと考えられる。
文 献
1)Molyneux A,Kerr R,Stratton I,et al: International Subarachnoid Aneurysm Trial (ISAT) of neurosurgical clipping versus endovascular coiling in 2143 patients with ruptured intracranial aneurysms:a randomised trial. LANCET, 2002; 360:1267-1274.
2)North American Symptomatic Carotid Endar- terectomy Trial Collaborators:Beneficial effect of carotid endarterectomy in symptomatic patients with high-grade carotid stenosis.N Engl J Med, 1991;325:445-453.
3)坂井信幸:頚部頚動脈狭窄症に対するステント留置 術,滝 和郎編,症例から学ぶ脳血管内手術,2版,
株式会社メディカ出版,大阪,2001,p 365-386.
4)Hobson RW:CREST(Carotid Revascularization Endarterectomy versus Stent Trial):background, design, and current status. Semin Vasc Surg, 2000;13:139-143.
図2
A B C
7 函医誌 第29巻 第1号(2005)
5)Kastrati A,Mehilli J,von Beckerath N,et al: Sirolimus-eluting stent or paclitaxel-eluting stent vs balloon angioplasty for prevention of
recurrences in patients with coronary in-stent restenosis:a randomized controlled trial. JAMA, 2005;293:165-171.