ポートフォリオによる大学生のディベート授業の評 価
著者 鈴木 洋子, 日野 圭子
雑誌名 教育実践総合センター研究紀要
巻 10
ページ 103‑107
発行年 2001‑03‑31
その他のタイトル Assessment of Debate Lessons by Portfolio in Pre−Service Education
URL http://hdl.handle.net/10105/4162
ポートフォリオによる大学生のディベート授業の評価
鈴 木 洋 子
(奈良教育大学家政教育教室)
日 野 圭 子
(奈良教育大学数学教室)
Assessmentof Debate Lessonsby Portfolioin Pre−ServiceEducation
Yoko SUZUKI
(DepartmentofHomeEconomicsEducation,NaraUniversityofEducation)
Keiko HINO
(DepartmentofMathematicsEducation,NaraUniversityofEducation)
本学の学校教員養成課程の学生を対象とした「学校教育基礎ゼミナールI」では、全コース合同でディベートに取 り組み、授業の一部においてコース別学習を組み入れている。本報では、理数・生活コースのコース別学習における ディベート授業の設計と実施の様子を述べるとともに、授業の評価方法として採用したポートフォリオの記述分析を 行うことでディベート学習の成果を報告する。4回のコース別学習では、学生から提案されたテーマの中から8つを 選出し、それぞれのテーマについてディベートを行った。また、最終課題として、ディベートのために収集した資料
やレポート、ディベートフローシート、対話カードを自分なりの構成でファイリングしたポートフォリオの作成を課 した。ポートフォリオの記述からは、学生が自己の進歩を様々な観点から認めたり、将来教師になったときに本授業 がどう役立っかを考えたりしていることが明らかになった。
キーワード:ポートフォリオportfolio、ディベートdebate、教員養成pre−SerViceeducation
1.はじめに
「書類入れ」の日本語訳を持っポートフォリオ
(porげ01io)は、建築家や写真家、デザイナーなどが、
自分の成し遂げた仕事を顧客に見せるためにファイリ ングしたものを指す用語としても使われてきた。専門 家としての仕事の軌跡が伝わる作品をファイリングし てクライアントに提示することにより、製作者のセン スや価値観、表現力をアピールすることができる。
ポートフォリオを、教育界に取り入れる試みは、
1970年代からアメリカにおいて始められた。日本にお いては、2002年より小・中学校に本格的に導入される
「総合的な学習の時間」の評価方法として注目を浴び ている。学校教育においてポートフォリオが活用され る場合、ポートフォリオは、学習活動のプロセスで用 いたデータや作品を収集したものを指す。ファイリン グされた収集物から、学習者の努力や進歩、達成した ことについてのストーリーが自他共に読み取れるもの でなくてはならない。総合的学習においてポートフォ
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リオ評価の採用が試行されている背景には、総合的学 習が学びのプロセスを重視し、プロセス自体を評価対 象のひとっに置いている点にある。これまでに利用さ れてきた学習ファイルとポートフォリオの違いは、
・集めたデータを目的のもとに選択し編集する。
・自分の学習過程を振り返るメタ認知能力を育成する。
・学習者がデータの基準や編集の枠組みを考える。
ことにある。すなわちポートフォリオ評価は、自己学 習力を育成させる学習の評価に、よりふさわしい評価 方法として考えられている。
本学の「学校教育基礎ゼミナールI」の授業では全 コース合同でディベートに取り組んでおり、一部にお いてコース別学習を組み入れている。授業の評定は各 コース担任に課せられている。理数・生活コースは評 価方法として、ポートフォリオを採用した。採用の理 由は以下の2点である。
・長期にわたる学習のプロセスを対象にした新しい評 価方法を、実際に体験することにより理解する。
・自分の学習を幾っかの視点から振り返ることで、自
己の成長を意識したり、今後の課題を見極めて行動 を計画したりするメタ認知能力を育成する。
特に、メタ認知能力は、教師の資質のひとつとして 今後益々重要になってくると考える。学習者の主体性 や自主性が重んじられ、自己学習力が益々重視される ようになると、指導過程も直線的なのものからフィー ドバック可能なものへと変える必要がある。フィード バックが可能な授業過程をデザインするには、授業計 画と実践に対する教師のメタ認知能力が問われること
になるからである。
本報では、「学校教育基礎ゼミナールI」のコース 別学習におけるディベート授業の設計と実施における 担当者の留意点を述べるとともに、ディベート学習の 成果をポートフォリオの記述分析を通して報告する。
2.「学校教育基礎ゼミナールl」授業の概要
「学校教育基礎ゼミナールI」は、学校教員養成課 程に所属する一回生全員を対象とする必修科目である。
授業担当者には、学校教員養成課程を構成する全コー スの一回生担当教官があたる。
本報告で取り上げた授業は、平成12年度の授業のう ちのコース別学習の時間である(表1)。
授業対象者は、平成12年度入学の学校教員養成課程 理数・生活コース、男子学生16名、女子学生21名、合 計37名である。理数・生活コースの授業担当者は、本 報告の著者二名である。
3.コース別学習(ディベート実践)の実際
3.1.論題の設定
第2回目の授業において、学生たちはディベートの 論題には、事実論題、価値論題、政策論題の3種類が あることなど、ディベートの基礎を学習した。そこで、
第3回目のコース別学習①では、第2回目の授業で得 た知識を生かし、論題の形式で、コース別に行うディ
ベート実践に取り上げるとよいテーマを、その理由を 付して最低3題提出するように指示した。提出された テーマは80件を越え様々であったが、学校教育に関係 のあるテーマが比較的多かった。提案内容に重複が見
られたテーマを表2に示す。
第7回から第10回のコース別学習では、学生が考案 した論題の中から、担当教官が8つのテーマを選出し た。1回の授業に2つのディベートを組むと、ディベー ト実践のための4回のコース別授業で総計8つのディ ベートが実施できるためである。選出にあたっては、
以下の点に留意した。
・事実論題、価値論題、政策論題の3種類を入れる。
・教員養成課程の授業として、学校教育に関するテー マを取り入れる。
表1平成12年度学校教育基礎ゼミナールI 授業日程
No. 授 業 内 容
1 オ リエ ンテ ー シ ョ ン 2 デ ィベ ー トの基 礎 ・基 本 3 コ ー ス別 学 習 ① (テ ー マ を探 す)
4 デ ィベ ー トの実 際 ・演 習
5 図 書 館 ガ イ ダ ンス と前 年 度 の ビデ オ視 聴 (2 分 割 ) 6 図 書 館 ガ イ ダ ンス と前 年 度 の ビデ オ視 聴 (2 分 割 ) 7 コ ー ス別 学 習 ② (デ ィベ ー ト実 践 )
8 コ ー ス別 学 習 ③ (デ ィベ ー ト実 践 ) 9 コ ー ス別 学 習 ④ (デ ィベ ー ト実 践 ) 10 コ ー ス別 学 習 ⑤ (デ ィベ ー ト実 践 )
1 1 デ ィベ ー ト大 全 (2 分 割 授 業 に よ る コー ス対 抗 ) 12 デ ィベ ー ト大 会 (2 分 割 授 業 に よ る コー ス対 抗 ) 13 デ ィベ ー ト大 全 (コ ー ス混 合 チ ー ム対 抗 ) 14 総 括 と評 価 (コ ー ス別 )
表2 理数・生活コース学生考案のディベートのテーマ
件 件
テ ー マ 7 − マ
少 年 犯 罪 の実 名 報 道 8 小 学 校 の選 択 制 度 2
死 刑 制 度 8 高 校 の義 務 教 育 化 2
制 服 7 学 習 量 の軽 減 2
学 校 の 週 休 2 日制 4 性 教 育 2
卒 ・入学式の国歌と国旗 4 少 子 化 2
受 験 制 度 3 携 帯 電 話 2
中 ・高校生の茶髪とピアス 3 宗 教 2
塾 と学 校 3 2 千 円札 2
校 則 2 自衛 隊 2
小学校における英語教育 2 日米 関 係 2
表3 理数・生活コースで実施したディベートのテーマ
小学校で英語教育をすべ きで ある 政策論題 結婚後の夫婦別姓を求 めるべ きで ある 政策論題 制服 を無 くすべ きである 政策論題
携帯電話 は必要 ではない 事実論題
学校で学ぶ内容 の量 を減 らす べきである 政策論題 男性 の育児休暇 は必要 である 事実論題 塾 の先生 は学校 の先生 よ り教 え方 が上手 である 価値論題 1 学級20人制 を受 け入れ るべ きである 政策論題
表4 全コースで実施のディベートのテーマ
論 題 備 考
リクルートのために整形は肯定すべ きだ 講師より
徒競走の順位づけは必要ない。是か非か 講師より
センター試験は不必要である 全担当教官
中学校での制服は廃止すべきである 全担当教官
小学校の給食は廃止すべきである 全担当教官
ポートフォリオによる大学生のディベート授業の評価
・ディベートの練習であることに配慮し、議論が深刻 な方向に進まないテーマとする。
・資料が入手しやすいテーマとする。
・全員、興味を持てるテーマとする。
・これからの将来設計に生かせるテーマを取り入れる。
選出した8つのテーマは表3に示した。また、全コー スで実施したディベートのテーマを、参考として表4 に示した。
3.2.ディベートの進行とディベーターの選出 表1での第7回から第10回のコース別学習では、1 回のディベートのディベーターとして10人(肯定側5 人、否定側5人)を、審判として5人を、進行役とし て3人(司会1人、時計係2人)を充てた。このよう に人数を決めることで、総計8回のディベートで、1 人が最低でも2回のディベーターと、1回の審判と、
1回の進行役を担当することになる。役割分担は、テー マ別に立候補と話し合いにより決めた。1回のディベー トの配分時間は、作戦タイム→肯定側立論→反対尋問
(否定から肯定へ)→否定側立論→反対尋問(肯定か ら否定へ)→作戦タイム→肯定側反駁→否定側反駁の 帽に全て3分間配分として行った。その間、個々の学 生はディベートの内容をディベートフローシート(次 貢図1)に記録することを行った。フローシートは各 授業の終わりに提出するよう指示した。
また、ディベートを傍聴する学生が、ディベーター や審判などの担当者と同程度にテーマについて考える ことを意図し、学生全員にディベート毎に資料を収集 させ、これに各自の意見をまとめて提出する課題を毎 回課した。コース別学習3回目を終えた段階で、ディ
ベート体験の2回目を終えた学生が半数近くいたが、
理論の構築のために論述内容を順序立てるナンバリン グや、立論を簡潔に表現するためのネーミングといっ たディベートの基礎的な技法を巧く使いこなせていな かった。そこで、改善策として、ディベートの基本的 な手法を復習する時間を設定し、「肯定側・否定側立 論の定義・プランシート」を配布し、活用した(図2)。
3.3.ボートフォリオの作成
表1での第14回の最終授業の際にポートフォリオの 説明を行い、学生たちへの課題として次の2点を指示
した。
・返却されたすべてのレポート、ディベートフローシー ト、授業の感想を記入した対話カード他を見直し、
自分なりの構成でファイリングし、目次を作成する。
・自分のポートフォリオを見る他の人のために、自分 の学習の軌跡をアピールする「はしがき」をつける。
「はしがき」の記述においては、学習の振り返りが 行われるように、配慮すべき点を示した。
9月の終わりまでに、全員の学生がポートフォリオ
を提出した。
肯 定 側 /否 定 側 立 論 の 定 義 ・プ ラ ン シ ー ト
【肯 定 側 】
こ れ か ら ( ) と い う 論 題 で 、 肯 定 側 立 論 を 始 め ま す 。
ま ず 、 定 義 を 述 べ ま す 。
こ こ で 言 う ( ) と は
( ) を 指 し ま す 。 次 に 、 プ ラ ン を ( ) 点 述 べ ま す 。
一 つ は ( ) で す 。 二 つ 日 は ( ) で す 。 三 つ 目 は ( ) で す 。
そ れ で は 、 肯 定 側 の プ ラ ン か ら 発 生 す る メ リ ッ ト 2 つ を 説 明 し ま す 。 メ リ ッ ト 1 は 、 ( ) で す 。
メ リ ッ ト 2 は 、 ( ) で す 。
【否 定 側 】
こ れ か ら ( ) と い う 論 題 で 、 否 定 側 立 論 を 始 め ま す 。
定 義 は 肯 定 側 に 従 い ま す 。 否 定 側 の プ ラ ン は 現 状 維 持 と しま す 。 そ れ で は 、 肯 定 側 の プ ラ ンか ら発 生 す る デ メ リ ッ トを 2 つ 説 明
しま す 。
デ メ リ ッ ト 1 は 、 ( ) で す 。 デ メ リ ッ ト 2 は 、 ( ) で す 。
図2 肯定側・否定側立論の定義・プランシート 3.4.ポートフォリオの記述分析
表5は、「はしがき」の記述にあたり配慮する点と、
提出されたポートフォリオの記述にこれらの配慮点が みられるかどうかを集計した結果を示している。
大半の学生が記述していた項目は、No.6「ファイル をみて振り返り、反省の後に気がついたこと」、No.1
「学習成果の収集物がどう構成・編集されているか」
であった。図3は、N0.6に関して、複数の学生によっ て記述された内容を要約したものである。ここからは、
授業を通しての自己の進歩の確認がみられる。
また、No.5「今後も続けていきたいと、特に考えて いること」の内容には、インターネットでの資料収集 や、人の意見を聞いて自分の意見と照らし合わせる等 のディベートに関する記述と、さらに深めて考えてい きたいテーマに関する記述の2通りがみられた。一方、
記述が少なかった項目は、Nは7「自分のポートフォリ オを他人が見たときに手助けになると思うこと」であっ た。これは、自己の作品を他者にアピールする体験不 足によるものと推察した。NnlからN0.7の全項目を満
たしていた学生は、9人(24.3%)であった。
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ポートフォリオによる大学生のディベート授業の評価
表5 ポートフォリオ「はしがき」のための留意点と学生の 記述内容の分析
Nは 留 意 点 記 述
人 数 %
1 学 習 成 果 の収 集 物 が ど う構 成 ・編 集 さ
26 70 .3 れ て い る か
2 気 に入 っ て い る収 集 物 とそ の理 由 18 48 .6
3 気 に入 らな い収 集 物 、 あ る い は も う一
17 45 .9 度 や り直 して み た い収 集 物 と その 理 由
4 最 も困 難 で あ っ た収 集 物 と そ の理 由 15 40 .5
5 今 後 も続 けて い きた い と、 特 に考 え て
16 43 .2 い る こ と
6 フ ァイ ル をみ て 振 り返 り、 反 省 の 後 に
33 89 .2 気 が つ い た こ と
7 自分 の ポ ー トフ ォ リオを 他 人 が 見 た と
11 29 .7 き に手 助 け にな る と思 う こ と
ディベートについて
・資料を集めることにより、知識を広げ、自分 の考えを深めることができた。
・資料の分析の甘さを反省した。
・論理的に事柄を組立て、考える力がついた。
・人の意見を短時間にまとめる訓練になった。
・人を納得させる話術、例えば声の強弱などを 覚えた。
フローシートについて
・要点をまとめ、素早く書き取る訓練になった。
・自分の意見を後で付け加えるようになった。
資料収集について
・インターネットを活用できるようになった。
図3 表5の「はしがき」の中の項目Nは6についての記述
「はしがき」では、授業を通しての自己の成長への 意識だけでなく、教師になった際に本授業がどのよう に役立っかに関する記述もみられた。子どもたちにわ かりやすく説明する上で、自分とは違う視点で物事を みる人が大勢いることや、自分の考えを人に伝えるこ
とが難しいことを知ることができたことは意義がある という記述があった。また、人に伝えるためには、伝 えたい内容を自分が理解してから論じる必要があるこ
とを実感したという記述、様々な教育問題についてもっ と自分なりの考えを持ち、意見を言えるようになりた いといった記述もあった。複数の視点から物事を捉え ること、ひいては自己の客観化を体験を通して学んだ ことが、ディベート学習の1つの大きな成果であった といえよう。
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4.まとめ
学校教員養成課程の学生を対象とした「学校教育基 礎ゼミナールI」の授業は、本年度2年目を迎えた。
前年度に引き継ぎ、今年度もディベートを取り上げ、
授業の進行の大筋は、前年に倣った。前年度は、全体 学習とコースの枠を取り除き編成したグループ学習の
2部構成としたが、今年度は、グループ学習をコース 別に行った。コース別に学習することにより、本コー ス別のディベートでは、夫婦別姓や男性の育児休暇な ど、理数・生活コースに関連のある内容をテーマにディ ベートの練習を積むことができ、コースとしての学習 にも拡張することができた。また、ディベート学習が、
教員養成の授業としての役割を果たしていることを、
今回学生に課したポートフォリオの記述より確認する ことができた。
今回、理数・生活コースの授業では、総合的学習の 評価として注目を浴びているポートフォリオの紹介を 兼ね、学生にポートフォリオの作成を課した。初めて の体験でもあり、収集した資料を選択してファイリン グした学生は見られず、如何に多くの資料を収集した かを他者へアピールするものになっていたが、フロー シートやはしがきの記漆に自己の進歩を認めるなど、
ポートフォリオの目的理解の役割は果たせたと考える。
次年度からの「学校教育基礎ゼミナールI」担当者へ の引き継ぎの意も含め、今回の試みを報告した。
参考文献
ディベートについては、以下の図書を参考にした。
(1)吉水祐也、ディベートで変わる社会科授業、明治図 書、1997
(2)全国教室ディベート連盟、新・教室ディベート入門 事例集、学事出版、1997
(3)奥住忠久、ディベート学習の考え方・進め方、黎明 書房、1997
(4)佐久間順子、小学生でもできる教室ディベート、学 事出版、1997
ポートフォリオについては、以下の図書を参考にした。
(1)高浦勝義、総合学習の理論・実践・評価、黎明書房、
1998
(2)加藤幸次・安藤輝次、総合学習のためのポートフォ リオ評価、黎明書房、200