• 検索結果がありません。

ることにより, 臨床の多くの看護師が日常的な看護援助として活用する根拠を提示することができる タクティールケアが, 健康な女性において生理的 心理的効果のあるマッサージ方法であることを検証する タクティールケアとは, 癒し や リラクセーション をもたらすことを目的に, 手で対象者の背中や手足を柔ら

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ることにより, 臨床の多くの看護師が日常的な看護援助として活用する根拠を提示することができる タクティールケアが, 健康な女性において生理的 心理的効果のあるマッサージ方法であることを検証する タクティールケアとは, 癒し や リラクセーション をもたらすことを目的に, 手で対象者の背中や手足を柔ら"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Ⅰ.はじめに

 現代社会は,多様化した国民のニーズや複雑な人間関 係,産業面での効率化の追求などにより,日常生活を営む うえでストレスの多い状況にある。医療現場も例外ではな く医療技術の高度化,疾病構造の変化などにより,患者は 治療や社会復帰に対する不安や悩みなどさまざまな問題に 遭遇する。また,超高齢化社会に伴い認知症患者の増加が 予測されることや,在宅で終末期を過ごす高齢者の増加も 予測される。このような状況は,医療の受け手や提供者に とってのストレス要因となっている。  複雑な社会環境のなか,患者のニーズに応える方法とし て「癒し」や「リラクセーション」の技術が看護場面に多く 取り入れられている。例えば,疼痛緩和や感覚刺激等の目的 での筋弛緩法,呼吸法,自律訓練法,マッサージ・指圧,リ フレクソロジー,音楽療法,アロマセラピーなどがある。  先行研究では,足浴,マッサージ,アロマセラピー,筋 弛緩法などによるリラクセーション効果について,脈拍,血 圧,唾液アミラーゼ,および副交感神経活動指標や気分感 情の変化により生理的・心理的な癒し効果があった,とし ている1),2)。マッサージに関する先行研究では,心拍数の 減少や皮膚温の上昇など,副交感神経優位の生理的反応や 心理的反応でリラクセーション効果の報告があった3)~5)  タクティールⓇケア(以下,タクティールケアとする) は,スウェーデンにおいて1960年代に未熟児医療から始ま り,認知症,がんの緩和ケアなど多岐にわたって取り入れ られ,補完療法に位置づけられている。タクティールと は,ラテン語の「タクティリス(Taktilis)」に由来する言 葉で,「触れる」という意味である。タクティールケアは, 肌に柔らかく触れて行うケアで,特定のツボや筋の走行な どを意識するものではなく,容易に行える特徴がある6) 看護者や介護者の手で患者の手足や背中を柔らかく包み込 むようになでることによって,不安な感情を取り除いたり 痛みを和らげたりする効果が期待されている。また,肌と 肌の触れ合いによるコミュニケーションを大切にすること で,信頼関係を築くことができると考える。  日本におけるタクティールケアの実践例はまだ少ない が,認知症高齢者への緩和ケアの一つとして紹介されたこ とから,近年注目されるようになった7),8)。介護施設に おいて認知症患者にタクティールケアを施術した結果,認 知症高齢者のQOLが高まり,その人らしい生活が送れた, という例があった。また,気持ちよく穏やかな表情が得ら れた,などの効果が報告されていた9)。木本は,不穏状態 や苦痛を改善できたとともに,看護者との信頼関係が構築 できた例を報告していた10)。このように,タクティールケ アを受けた人は肯定的な反応を示している,という報告が 数多くあったが,これらの評価はすべて主観的評価であっ た。客観的指標を用いて評価した例としては,ICUにおけ るタクティールによるオキシトシンの報告があった11)  今回,健康な女性を対象にタクティールケアを行い,そ の効果を生理学的および心理学的な指標を用いて客観的に 評価し,心身に及ぼす影響を検証する目的で研究を行った。  タクティールケアは,一定の手技を会得すれば誰にでも 容易に実行できるケアであることから,この効果を検証す    

1)金沢医科大学看護学部 School of Nursing, Kanazawa Medical University 2)金沢医科大学病院 Kanazawa Medical University Hospital

3)金沢医科大学医学部 School of Medicine, Kanazawa Medical University

健康な女性に対するタクティールケアの生理的・心理的効果

Physio-Psychological Effect of Massage with Tactile Care for Healthy women

酒 井 桂 子

1)

坂 井 恵 子

1)

坪 本 他喜子

1)

Keiko Sakai

Keiko Sakai

Takiko Tsubomoto

小 泉 由 美

1)

久 司 一 葉

1)

木 本 未 来

1)

Yumi Koizumi

Kazuyo Kyuji

Miki Kimoto

河 野 由美子

1)

橋 本 智 美

2)

北 本 福 美

3)

Yumiko Kohno

Satomi Hashimoto

Fukumi Kitamoto

キーワード:タクティールケア,マッサージ,生理的効果,心理的効果

(2)

ることにより,臨床の多くの看護師が日常的な看護援助と して活用する根拠を提示することができる。

Ⅱ.目  的

 タクティールケアが,健康な女性において生理的・心理 的効果のあるマッサージ方法であることを検証する。

Ⅲ.用語の定義

 タクティールケアとは,「癒し」や「リラクセーション」 をもたらすことを目的に,手で対象者の背中や手足を柔ら かく包み込むようになでるマッサージ方法をいう。

Ⅳ.研究方法

1.研究デザイン  準実験研究デザイン 2.対  象  対象の選定は,A大学に在籍中の健康な女性で,研究の 趣旨を文書と口頭で説明し同意が得られた者とした。対象 者の人数は,検出力分析を行い12名と設定した。  対象の適応条件は,授業終了後に夕食を食べずに参加し 18時から20時まで参加が可能である者とし,除外条件は, 過去にタクティールケアを受けたことがある者とした。 3.期  間  平成21年12月~平成22年1月。激しい運動や特別な行事 等の無い日常的な講義のある授業期間とした。 4.調査内容(図1) a.生理的反応  生理的反応の指標として,①生命徴候への影響を知るた めの体温・脈拍・血圧,②体表温度を,18時から10分間の 安静後にベッド上臥位で測定した。通常の生理的状態をみ るため,施術の2日前・前日・当日直前の3日間に各1回 測定し,3回の測定値の平均をとって「施術前値」とし た。施術後は,施術後10分以内(以下直後と表す),30分 後,60分後に測定した。 b.身体的自覚反応  身体的自覚反応の指標として,自作の調査表を用い,施 術直後に測定した。 c.心理的反応  心理的反応の指標として,気分・感情状態を測定した。 測定には『日本語版POMS短縮版』(発行:株式会社金子 書房)(以下,POMSと略す)を使用し,施術直前と施術 直後に測定した。 5.測定用具と測定方法 a.体  温  測定は,予測式電子体温計(腋窩用)を用い右腋窩部 で測定した。脈拍・血圧の測定は,『テルモ電子血圧計 ES-H55P』を用い,左上腕部にマンシェットを装着して 測定した。 b.体表温度  測定は,ボタン電池型データロガー『サーモクロンG タイプ』および解析ソフト『Thermo Manager』を用いた。 『サーモクロンGタイプ』は超小型温度記録計(直径:約 17mm×厚さ:約6mm,重さ:約3.3g)で,一定の時間 感覚で皮膚の体表温度の近似値を得ることが可能である。 測定時は皮膚の体表面に密着させるとともに,外気温を感 知しないよう機器の皮膚への非密着面に発泡スチロール板 を当て,絆創膏(Fixomull stretch)で固定した。  『サーモクロンGタイプ』の測定可能温度範囲は-40℃ から+85℃で,表示最小単位(分解能)は0.5℃,精度は -25℃から+60℃の環境下において±1℃である12)。プ レテストにおける定常状態までの時間は最高値から安定す るまで7~8分であったため,装着後10分以上経過してか らの値を測定値とした。  『サーモクロンGタイプ』の装着部位は,施術のときに 支障がなく,臥床時に圧迫しない場所で,影響の波及効果 を知るため体幹と末梢部の3か所を選択した。剣状突起部 (以下,胸部と表す),右茎状突起より中枢側へ3cmの前 腕外側(以下,右手と表す),右外踝より中枢側へ5cmの 下腿外側(以下,右足と表す)とした。測定間隔は1分に 設定した。 c.身体的自覚反応  指標とする調査表は,筆者ら13)が抽出した項目に基づき 自作した調査表である。調査項目の信頼性は検証されてい ないが,25名への569回分のタクティールケア時の主観的 評価記録を概念化した項目であり,複数の研究者のコンセ ンサスにより内容妥当性が検証されている。身体的な反応 2日前 1日前 当日 ①② ①② ①②③ 施術前 30分 直後 30分後 60分後 ①② ③④ ①② ①② 施術後 測定項目 ①T/P/BP ②体表温度 ③POMS ④自覚した身体反応 タクティールⓇケア 図1 プロトコール

(3)

として,「気持ちよかった」「温かくなった」「リラックス した」などの9項目からなり,回答は「全くあてはまらな い」から「非常にあてはまる」の5段階の自記式調査とし た。点数が高いほど,身体的反応の自覚がよいことを示す。 d.POMS  「緊張」「抑うつ」「怒り」「活気」「疲労」「混乱」の6つ の尺度から気分・感情状態を測定する30項目からなる心理 検査で,「全くなかった」から「非常に多くあった」まで の5段階で回答し,信頼性と妥当性が検証されている14) 使用に際して,発行元の許可を得た。 6.介入方法  実験環境は,大学内のベッドのある演習室で室温25℃, 湿度50~60%に設定した。また,施術者・測定者・研究参 加者以外の入室を制限し,静かな環境を確保した。ベッド 上で臥床し,167×120cm綿100%のタオルケット1枚をか けた。研究参加者の着衣は,Tシャツ程度の長袖衣服と測 定部位を覆わない長ジャージパンツとした。腹臥位で背部 のタクティールケアを10分施術した後,静かに仰臥位に体 位を変換し,タクティールケアを右足に10分,左足に10分 施術した。60分後の測定終了まで仰臥位を保持しタオル ケットで被覆した。  実験介入であるタクティールケアの概要,は表1および 表2のとおりである。  施術者は,株式会社日本スウェーデン福祉研究所主催の 《タクティールケアⅠ》の認定を受けた者4名(看護師免 許有資格者)であった。施術は手順,所要時間,方法を統 一したが,施術者による圧の差が生じないよう,事前に相 互に施術し合い確認した。 7.分析方法 a.生理的指標  ①体温,脈拍,収縮期・拡張期血圧,および②体表温度 については,施術前(施術の2日前・前日・当日直前の平 均値)と,施術直後,30分後,60分後のデータをとり,二 元配置分散分析で比較した。また,③身体的自覚反応につ いては単純集計した。 b.POMS  「緊張-不安」「抑うつ-落込み」「怒り-敵意」「活気」 「疲労」「混乱」の6つの尺度と全体について,施術前後の 変化をWilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較した。  統計ソフトは,JMP 8,SASを使用し,有意水準を0.05 とした。 8.倫理的配慮  金沢医科大学『疫学研究倫理審査委員会』の承認(No. 63) を得て行った。研究参加者については,公明性を考慮し,人 のよく集まる場所にポスターを掲示することにより「公募」 した。研究参加者に研究の趣旨や方法,参加の仕方,参加 の自由,途中辞退の保障,利益不利益,個人情報の守秘, 機密性確保,結果の公開方法などを口頭と書面で説明し,同 意書に署名を得た。さらに,同意を得た後にも研究の辞退は 可能であり,辞退してもその後の学業等には影響のないこと を説明し,心理的・身体的負担をかけないように配慮した。 表1 背中のタクティールケアの手順 ① 相手の肩に両手を軽く置く。 ② そのまま両手を揃え,肩甲骨と肩甲骨の間までゆっくり下ろす。中央から背中の外側に向かい,時計まわりの方向でゆっくり円 を描きながら,背中全体が大きな楕円で覆われるまで,背中のラインに沿って行う。 ③ 背中の外側まで触れたら相手の首の下で手を止め,そのまま両手を揃え,背中の中央までゆっくり降ろす。次に片手ずつ交互に 使い,背中の中央から外側に向かって時計まわりに放射線状になでていく。背中のいちばん外側のラインまでしっかり触れる。 ④ ③の動きが終了したら,腰の中央の低い位置で両手を止める。そこから両手をそろえ,脊柱に沿って腰から首へと向かう。 ⑤ 首の下で両手を左右に開き,背中のいちばん外側のラインをたどりながら下に降ろしていく。腰の中央の位置で両手を再びそろ える。同じ動作を3回繰り返す。 ⑥ ⑤の動きが終了したら,腰の中央の低い位置で両手を止める。 ⑦ 腰の位置から首に向かってハート型を描くように,背中全体をなでていく。肩の位置では,5回繰り返す。 ⑧ ⑦の動作が終了したら,首の両側に両手をしばらく置く。 ⑨ 両手を揃えたまま,背中を側面から反対側の側面に向かって流れるような動きで,少しずつ下に降りていく。 ⑩ 肩のところまで終わったら,そのまま腰の中央の低い位置で両手を止める。 ⑪ 腰の中央の低い位置で止めた,その両手を横向きにする。 ⑫ その手を横向きにした片方の手を腰の低い位置に残す。もう一方の手を首の後ろにしっかりと置き,そこから腰に当てた手に向 かって,脊柱に沿って降ろしていく。次に,降ろした手を腰の低い位置に残し,もう片方の手を右肩に置き,そこから背中の外 側のラインに沿ってゆっくりと降ろす。再び手を入れ替え,左肩も同様に行う。 ⑬ ⑫の動きが終了したら,両手をそろえ,肩甲骨と肩甲骨の間までゆっくり上げる。中央から背中の外側に向かい,時計まわりの 方向でゆっくり円を描きながら,背中全体が大きな楕円で覆われるまで背中のラインに沿って行う。 ⑭ すべてのケアが終了したら,相手の肩に両手を軽く置き,終了を告げるとともに「ありがとうございました」と,触れさせても らったお礼を言う。

(4)

Ⅴ.結  果

1.対象者の背景  対象者は健康な女性10名で,全員が看護学生であり,年 齢は18~35歳,平均年齢は20.7±3.47歳であった。測定開始 時間に遅れた2名を除いた。いずれも健康であると答えた が,自覚症状を訴えた者の内訳は,月経不順1名であった。 2.生理的指標の施術前後の比較 a.体温・脈拍・血圧  体温,脈拍,血圧,体表温度について,途中で排泄のた め60分後の測定を中断した1名を除き,9名で分析した。  体温,脈拍,収縮期・拡張期血圧は,施術前と施術直 後,30分後,60分後をそれぞれ比較した結果,いずれにも 有意な差はなかった。  体温は,施術前の平均値36.5±標準偏差0.2℃に対して, 直 後36.6±0.4℃,30分 後36.7±0.4℃,60分 後36.8±0.4℃ と変化がなかった。  脈拍の施術前の平均値は56.9±9.2回/分に対し,直後 51.4±8.3回/分,30分後53.1±9.7回/分,60分後55.1±10.1 回/分であった。  収縮期血圧は,施術前の平均値103.8±9.0 mmHgに対し て,直後101.0±9.9 mmHg,30分後102.0±11.9 mmHg,60 分後106.2±10.2 mmHgであった。拡張期血圧は,施術前 の平均値61.2±7.9 mmHgに対して,直後56.8±8.5 mmHg, 30分後62.1±9.9 mmHg,60分後64.2±9.0 mmHgであった (表3)。 b.体表温度  体表温度は胸部,右手,右足の3か所ともに,施術前と 比較して施術直後,30分後,60分後に有意に上昇した。  胸部は,施術前の平均値が35.4±0.6℃に対して,直後 の平均値35.9±0.5℃(p=.0029),30分後の平均値36.0± 0.4℃(p=.0006),60分後の平均値35.8±0.6℃(p=.0226) であった。 表2 足のタクティールケアの手順 ① 温かさを保つために,相手の両足をバスタオルで包む。そして,施術するほうの足だけバスタオルを外す。 ② 手のひらを上に向けて相手の足の甲に置く。手のひらに少しオイルをたらし,足全体にオイルを伸ばす。このときも,相手の足 にはずっと触れておくようにする。 ③ 相手の足をやわらかく3回なで,オイルが足全体にいきわたるようになじませる。 ④ 相手の足の甲の中央に両手の親指を平行に置き,中央から外側へ向かってすべるように親指を動かす。足の甲を上,真ん中,下 に3分割し,3回の動きで甲全体に触れる。 ⑤ 親指と中指で相手の足の甲と足のひらの間をはさむ。骨と骨の間に沿って,足の甲から指間に向かって引っ張るような感じで, なでていく。 ⑥ 最後に指間を親指の横側でしっかりと押す。⑤,⑥の動作を同じところで3回繰り返す。 ⑦ ⑤,⑥の動作が5本すべての指で終了したら,終った指から次の動作に入る。親指と人差し指で相手の足指を横からはさみ,付 け根から指先に向かって小さな円を描きながら動かす。 ⑧ 指先まで終わったら,最後に親指の腹で相手の足指の先を少し強めに押す。 ⑨ 次に,親指と人差し指で相手の足指を上下ではさみ,付け根から指先に向かって小さな円を描きながら動かす。 ⑩ 指先まで終わったら,最後に相手の足指全体を軽く包む。⑦~⑩の動作を5本すべての足指で行う。 ⑪ 両手で相手の足を包み,足首から指先に向かって,ゆっくりとすべらせながら,3回なでる。 ⑫ 手のひらで相手の足のかかとを包み込み,ゆっくりと円を描くように時計回りに3回なでる。 ⑬ 3本の指先で,相手の足の裏に小さな円を描くようになでていく。時計まわりに行う。⑫→⑬→⑫の順で行う。ここで足の裏は 終わる。 ⑭ 両手ではさみこむように相手の足を包み,足首から指先に向かって,ゆっくりと3回なでる。 ⑮ 親指と他の指で三角形をつくり,これでアキレス腱を支え,かかとに向けてしっかりと足を支えながら止まるところまでなでる。 この動きを,両手を交互に入れ替えながら3回繰り返す。 ⑯ 両手ではさみこむように相手の足を包み,足首から指先に向かって,ゆっくりとなで,⑮→⑯を3回繰り返す。 ⑰ 両親指と人差し指,中指を使い,相手の足首の部分を小さな円を描くようになでていく。 ⑱ 両手ではさみこむように相手の足を包み,足首から指先に向かって,ゆっくりと包み込む。 ⑲ 相手の足首を床と垂直になるように立て,足裏に手のひらを当て,アキレス腱を伸ばすような感じで軽く押す。これで片足は終 了。終わった足をタオルで包み,もう一方の足に移る。 ⑳ すべてケアが終了したら,最後にもう一度⑲の動きを両足に行う。 タオルで包んだ相手の両足の上に手を軽く置き,終了を告げるとともに「ありがとうございました」と,触れさせてもらったお 礼を言う。 タクティールケア普及を考える会 編著:タクティールケア入門-スウェーデン生まれの究極の癒やし術.日経BP企画,2008. より抜粋

(5)

 右手は,施術前の平均値33.6±1.2℃と比較して,直後 の平均値35.2±1.3℃(p=.0004),30分後の平均値34.7± 1.1℃(p=.0055),60分後の平均値34.9±1.1℃(p=.0023) であった。施術直後から30分後に上昇した温度を60分後も 維持している,もしくは若干低下した対象がいた。  右足の体表温度は,施術前の平均値32.1±1.0℃と直 後33.4±1.3℃(p=.0042),30分 後 の 平 均 値34.1±1.2℃ (p=.0006),60分後の平均値34.7±1.1℃(p=.0001)で, 60分後が最も上昇した。右手の場合で60分後に低下する対 象がいたが,右足の場合は維持もしくは上昇していた。 c.身体的自覚反応  身体的自覚反応は,「非常にあてはまる」「まああてはま る」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「全 くあてはまらない」を5~1の5段階で評価した結果, 9項目それぞれの平均得点と標準偏差は以下のとおりで あった。「①気持ちよかった」4.9±0.3,「②温かくなった」 4.9±0.3,「③眠くなった」4.9±0.3であった。「④リラッ クスした」4.7±0.7,「⑤安心できた」4.7±0.5,「⑥熱く なった」4.0±0.7,「⑦腸の動きが活発になった」3.5±0.8, 「⑧身体が軽くなった」3.5±1.0であった。「⑨汗が出てき た」は2.1±1.3であった(図2)。 3.心理的指標の施術前後の比較  POMSで施術前後の気分・感情を測定した結果,以下 のとおりであった。得点の平均値と標準偏差を施術前/施 術後の順に示し,続いて( )内に有意差の危険率を示 した。「緊張-不安」の得点の平均値4.2±標準偏差2.6/ 0.6±1.0(p=.002),「抑うつ-落込み」の得点2.5±2.7/ 0.3±0.7(p=.0156),「 活 気 」 の 得 点4.7±3.2/0.9±1.3 (p=.0156),「疲労」の得点5.9±2.4/2.6±2.0(p=.0234), 「混乱」の得点5.8±3.2/2.8±2.3(p=.0039),全体の気分 の 乱 れ「TMD」 の 得 点14.9±11.4/2.5±2.9(p=.0039) で,それぞれ施術前と施術後には有意な差があった。な お,「敵意-怒り」の得点1.0±1.8/0.3±0.7に有意な差は なかった(表4)。 表3 タクティールケア施術前後の生理的反応の測定値 n=9 施術前 直後 直後の有意差施術前- 30分後 30分後の有意差施術前- 60分後 60分後の有意差施術前- 平均値 SD 平均値 SD Fp値 平均値 SD Fp値 平均値 SD Fp値 体温(℃) 36.5 0.2 36.6 0.4 0.38 0.5546 36.7 0.4 3.44 0.1009 36.8 0.4 2.56 0.1484 脈拍(回/分) 56.9 9.2 51.4 8.3 8.34 0.0203 53.1 9.7 3.71 0.0903 55.1 10.1 0.60 0.4593 収縮期血圧(mmHg) 103.8 9.0 101.0 9.9 2.31 0.1667 102.0 11.9 1.04 0.3375 106.2 10.2 1.21 0.3036 拡張期血圧(mmHg) 61.2 7.9 56.8 8.5 5.54 0.0465 62.1 9.9 0.41 0.5401 64.2 9.0 0.76 0.4098 体表温度(胸)(℃) 35.4 0.6 35.9 0.5 *17.92 0.0029 36.0 0.4 *30.27 0.0006 35.8 0.6 *7.93 0.0226 体表温度(手)(℃) 33.6 1.2 35.2 1.3 *33.85 0.0004 34.7 1.114.18 0.0055 34.9 1.119.19 0.0023 体表温度(足)(℃) 32.1 1.0 33.4 1.3 *15.67 0.0042 34.1 1.2 *29.11 0.0006 34.7 1.1 *49.42 0.0001   表4 タクティールケア施術前後の POMSの測定値 n=10 施術前 施術後 施術前後の有意差 平均値 SD 平均値 SD 検定統計量 p値 緊張-不安(T-A) 4.2 2.6 0.6 1.0 *27.5 0.0020 抑うつ-落込み(D-D) 2.5 2.7 0.3 0.7 *14.0 0.0156 怒り-敵意(A-H) 1.0 1.8 0.3 0.7 ns1.5 0.5000 活気(V) 4.7 3.2 0.9 1.3 *20.5 0.0156 疲労(F) 5.9 2.4 2.6 2.0 *19.0 0.0234 混乱(C) 5.8 3.2 2.8 2.3 *22.5 0.0039

Total Mood Disturbance (TMD) 14.9 11.4 2.5 2.9 *26.5 0.0039

0 1 2 3 4 5 気持ちよかった 温かくなった 熱くなった 汗が出てきた リラックスした 身体が軽くなった 腸の動きが 活発になった 眠くなった 安心できた 図2 自覚した身体的反応(平均値)

(6)

Ⅵ.考  察

1.タクティールケアの有効性 a.生理的効果  健康な女性にタクティールケアを施術し,施術前後で比 較した結果,体温,脈拍,血圧ともに有意な差はなかっ た。これらのバイタルサインに変動がなかったことから, タクティールケアは,生命徴候に影響を与えるほどの強力 な刺激となっていないことが考えられ,ケアとして安全に 使えることが期待できると考える。  体表温度は,施術前と比較して施術後が有意に上昇して おり,新田らの「足浴後に足部マッサージを行うケアは心 拍数を減少安定させ,下肢皮膚温を上昇させる,というリ ラクセーション効果がある」15)との報告と同様の反応があ ることが検証された。これは「温かくなった」「気持ちが いい」「眠くなった」などの身体的自覚反応によっても支 持される。また,施術部位は背中と両足であったが,胸 部・右手・右足とも体表温度が上昇した。タクティールケ アを施術した足だけでなく,手や胸の体表温度も有意に上 昇したことから,全身への波及効果があると推察される。  さらに,胸部・右手・右足ともに体表温度の上昇が60分 後も持続したことから,タクティールケアの効果は,末梢 循環から全身の血液循環を促進させ緩やかで持続的な効果 が得られたものと考える。前述の体温,脈拍,血圧に有意 な差が認められず体表温度が上昇することは,このケア は,健康障害のある患者のマッサージとして活用できる可 能性を示唆している。  タクティールケアの手のひら全体を皮膚に密着させる手 技は,一般に用いられるマッサージの軽擦法に類似してい る。マッサージは,知覚神経末梢の受容器に作用しさま ざまな効果を発現させ,また圧のかけ方で効果が異なる16) という。皮膚感覚には,接触,圧力,痛み,寒さ,暖か さ,振動のそれぞれに対する受容体が存在し,接触受容体 は手掌,唇,足裏,足の指先に最も多く存在する。マッ サージにより接触受容体が活発化し,身体の連動システム へアクセスするためである。また,皮膚に加えられた摩擦 によりヒスタミンが放出され,その結果血管が拡張して 静脈還流が促進される17)。タクティールケアの圧のかけ方 は,軽くやわらかく包み込むように触れるものであるた め,交感神経の興奮を減少させ,皮膚の血管が拡張するこ とによって循環を促進し,施術部位にとどまらず体表温度 が上昇し,快適感や落ち着きをもたらしたものと考えた。  また,胸部の体表温度の上昇が他の部位より少ないの は,開始前から核心温度に近い温度であり,大きな変化に ならなかったものと思われる。躯幹部は環境温度が変動し ても比較的安定に保たれるが,上下肢は環境温度に伴って 変動が大きい。末梢に移行するにつれ低温になる18)。体表 温度が低い右手,右足の変動が大きくなった。さらに,右 足は施術部位であることも上昇が大きい一因と言える。  対象者は,一様に身体がぽかぽかと温かくなったと評価 した。このうち「汗が出てきた」について,「まああては まる」と回答した対象者は2名と少ないことから,タク ティールケアは熱くならない程度の心地よい温かさを得る ことができたと言える。 b.心理的効果  POMSの結果,「緊張-不安」「抑うつ-落込み」「活気」 「疲労」「混乱」の項目が有意に低下した。リラクセーショ ンによって,緊張感や不安感が軽減するだけでなく,抑う つ感,不機嫌やいらいら,疲労感,当惑や思考力の低下と いった自覚的な認識・思考障害が軽減した19)ことは,横 山によって報告されており,今回のタクティールケアによ る結果からも,副交感神経が刺激されることにより興奮や 緊張を鎮めるリラクセーション効果が得られたと言える。 これは,マッサージ実施前後のPOMSで緊張・不安や疲 労感などが有意に低くなった20)という先行研究によって も支持される。  やさしく触れるという行為は,薬のように特異的に作用 するのではなく,言葉のようにストレートに作用するわけ でもなく,じわじわと身体に染み込んでいくような効き方 だから,「癒しの手」に触れられた人はその手の温もりが 「身に染みる」21)とある。ケアを受けた人は皆,「温かかっ た」「気持ちよかった」と表現していることは,快適感や 落ち着きをもたらし「癒し」を感じた結果といえる。不安 やストレスを感じている人に,触れるだけでそれを癒すこ とができる。触れる手段の一つとして,タクティールケア は効果的な意味をもつと言える。 2.本研究の意義  本研究では,タクティールケアの効果を客観的指標を用 いて検証することにより,ケアの効果を生理的および心理 的に明らかにした。このことにより,先行研究で報告され てきたタクティールケア施術後の反応が,生理的に血液循 環促進作用ならびに心理的に緊張感や不安感が減少しリ ラックス状態を得た結果であることが示された。  日本人は人に触れる文化が薄く,軽度の愁訴しかない場 合になかなかタッチングという行動に出られない。タク ティールケアをすることで触れるきっかけを得ることがで き,リラックス状態を生みだし,快適さを促進することが できる。看護者は,臨床で時間をとってマッサージをする ことが困難でも,手浴や足浴の看護技術と意識的にタク ティールケアを併用することで自然にタッチングの効果が 期待できる。タクティールケアは,つぼやリンパ,筋の走

(7)

行などを意識しなくてもよく,強い圧も必要としないので 修得すれば比較的容易に実施できることから,看護学生や 新人看護師でも取り入れることができる。このケアが日常 的になれば,触れられることの心地よい体験が感情を開放 する手助けとなり,患者の不安や悩み,不定愁訴や医療に 対する不満などこれまで対応できにくかったケースにもア プローチしやすくなることが期待できる。 3.本研究の限界  本研究では,タクティールケア施行者が4名で複数で あった。ケアの手順は統一しており,また施行者は全員タ クティールケアの認定を受けており,技術の修得度に差は なかったと考える。しかし,触れる圧の強さに違いがあっ た可能性がある。  本研究の対象者は,健康な女性に限られており,また対 象数が少ないため,外的妥当性に限界がある。結果におい てのバイアスは避けられないと考えられる。そのため,今 後は健康を害している人,あるいは高齢者において同様の 効果が得られるかについて,検討が必要であろう。  本研究は学生を対象としており,調査者およびケア施術 者は面識のある教員である。POMSは本人の主観的評価で あることから,この人間関係が調査結果に影響を及ぼした 可能性が否定できない。また,本研究は対照群を設定して いない前後比較研究である。このため,衣類による体温の 変化や安静臥床による生理的変化が調査結果に影響を及ぼ している可能性が否定できないことも,本研究の限界であ ると考える。今後,対照群を設定して検証する必要がある。

Ⅶ.結  論

 タクティールケア施術によるバイタルサインの変動はな かった。  タクティールケアは,対象者のほとんどが施術後に「気 持ちいい」「眠くなった」「温かくなった」という身体的反 応を自覚した。  体表温度は,施術後に実際に触れている足だけでなく手 と胸の体表温度が有意に上昇したことから,血液循環を促 進する効果があることが示唆された。また,体表温度の上 昇が施術後60分持続したことから,タクティールケアの血 液循環促進効果は,ケア終了後も持続した。  心理的効果では,POMSの項目のうち「緊張-不安」 「抑うつ-落込み」「活気」「疲労」「混乱」が有意に低下し たことから,気分・感情をリラックスさせる心理的効果が あった。 謝  辞  本研究の実施にあたりご協力いただきました看護学生の 有志の皆様,およびご指導いただきました諸先生に深謝い たします。なお,本研究は第36回一般社団法人日本看護研 究学会学術集会において発表したものである。

要   旨

 研究目的は,タクティールケアが及ぼす生理的・心理的効果を明らかにすることであった。  健康な女性10名に,タクティールケア施術を25℃の室内でベッド上臥床し,背中10分,両足20分を行い,タ クティールケア施術前後の生理的・心理的反応の変化を測定した。生理的反応の指標は,①体温・脈拍・血圧, ②体表温度,③身体的自覚反応9項目5段階評価(実践記録を内容分析して抽出した自作調査表)を測定した。 心理的反応の指標は,④気分・感情の状態を『日本語版POMS短縮版』で測定した。  結果,タクティールケア施術前と施術直後,30分後,60分後を比較した結果,バイタルサインに変動はなかっ た。体表温度は,施術前と比較して有意な差があり,上昇した。足が最も変化が大きく,施術後60分温かさを維 持した。自覚した身体的反応は,ほぼ全員が「気持ちいい」「眠くなった」「温かくなった」と回答した。POMS では,「怒り-敵意」以外のすべての項目で有意差があった。

文  献

1) 片岡秋子:足部マッサージと腹式呼吸が患者の不眠と随伴症 状に及ぼす効果 ─ 面接による情報分析をもとに ─ . 日本看 護科学会誌, 24(2), 52-61, 2004. 2) 守田美奈子, 吉田みつ子, ほか:看護の技がもたらす効果 ─ TEARTE学序説 ─ . 看護実践の科学, 34(13), 50-55, 2009. 3) 小泉友貴子, 高田谷久美子, ほか:健康な女子大学生におけ る生理的及び心理的側面に及ぼすタイマッサージの効果. 山 梨大学看護学会誌, 6(2), 65-71, 2008. 4) 佐藤都也子:健康な成人女性におけるハンドマッサージの自 律神経活動および気分への影響. 山梨大学看護学会誌, 4(2), 25-32, 2006. 5) 松岡治子, 佐々木かほる:マッサージによるリラクセーショ ン効果に関する実験的研究 ─ バイタルサインと日本語版 POMSによる検討 ─ . 看護技術, 46(16), 95-100, 2000. 6) タクティールケア普及を考える会編:スウェーデン生まれの 究極の癒やし術タクティールケア入門. 7, 日経BP企画セン ター, 東京, 2008. 7) 田嶋健晴:安心感をもたらしQOLを向上させる“タクティー ルケア”. コミュニティケア, 9(7), 50-53, 2007.

(8)

8) 田嶋健晴:手のタクティールケアの手技と現場での実践方 法. コミュニティケア, 9(7), 54-57, 2007. 9) 稲野聖子:タクティールケアを用いた気持ちいいケア. 認知 症看護, 10(2), 83-88, 2009. 10) 木本明恵:「触れる」ことの大切さ ─ タクティールケアの有 効性 ─ . 訪問看護と介護, 14(6), 487-491, 2009.

11) Henricson, M, Berglund, A-L, et al: The outcome of tactile touch on oxytocin in intensive care patients: a randomized controlled trial. Journal of Clinical Nursing, 17(19), 2624-2633, 2008.

12) サーモマネージャ ─ 操作マニュアル(Ver. 2.06). 株式会社 KNラボラトリーズ. 13) 小泉由美, 河野由美子, ほか:タクティールケア実践記録か らみる効果の内容分析. 日本看護研究学会雑誌, 33(3), 200, 2010. 14) 横山和仁:POMS短縮版 手引きと事例解説. 3, 金子書房, 東 京, 2005. 15) 新田紀枝, 阿曽洋子, ほか:足浴, 足部マッサージ, 足浴後 マッサージによるリラクゼーション反応の比較. 日本看護科 学会誌, 22(3), 55-63, 2002. 16) 寺澤捷年, 津田昌樹:絵でみる指圧・マッサージ. 15~17, 医学書院, 東京, 2002.

17) Mariah Snyder, Ruth Lindquist編(野島良子, 冨川孝子監訳): 心とからだの調和を生むケア ─ 看護に使う28の補助的/代 替的療法 ─ . 51, へるす出版, 東京, 1999. 18) 佐藤昭夫, 佐伯由香 編:人体の構造と機能. 164, 医歯薬出 版, 東京, 2002. 19) 前掲14), 69. 20) 前掲4), 28. 21) 山口 創:子供の「脳」は肌にある. 178, 光文社, 東京, 2004. 平成23年4月1日受  付 平成23年12月22日採用決定

参照

関連したドキュメント

これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

点から見たときに、 債務者に、 複数債権者の有する債権額を考慮することなく弁済することを可能にしているものとしては、

自閉症の人達は、「~かもしれ ない 」という予測を立てて行動 することが難しく、これから起 こる事も予測出来ず 不安で混乱

ASTM E2500-07 ISPE は、2005 年初頭、FDA から奨励され、設備や施設が意図された使用に適しているこ

の 立病院との連携が必要で、 立病院のケース ー ーに訪問看護の を らせ、利用者の をしてもらえるよう 報活動をする。 の ・看護 ・ケア

従って、こ こでは「嬉 しい」と「 楽しい」の 間にも差が あると考え られる。こ のような差 は語を区別 するために 決しておざ

 介護問題研究は、介護者の負担軽減を目的とし、負担 に影響する要因やストレスを追究するが、普遍的結論を