• 検索結果がありません。

JOHO KANRI 2010 vol.53 no.2 Jour nal of Information Processing and Management May るものであること, またアメリカ国民の権利及び政 府の措置についての重要な文書への継続的なアク

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "JOHO KANRI 2010 vol.53 no.2 Jour nal of Information Processing and Management May るものであること, またアメリカ国民の権利及び政 府の措置についての重要な文書への継続的なアク"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1.

はじめに

2009年6月24日,わが国初の国の機関(独立行政法 人含む)における公文書管理の基本法である公文書 管理法(正確には「公文書等の管理に関する法律」) が成立,同年7月1日に公布された。施行は2011年4月 と予定されている。これは日本の文書管理及びアー カイブズの歴史において,実に画期的な出来事とい わねばならない。この法律により国の公文書管理が 大きく改善されるならば,次は地方自治体(この法 律により努力義務が課せられている),さらには民間 企業へと広がっていき,日本の文書管理・アーカイ ブズ全体のレベル向上が期待されるのである。文書 管理というと単なるファイリングシステム,文書整 理と誤解する人がいるかも知れないが,実は文書管 理は情報活用のインフラそのものであり,特に公文 書管理・アーカイブズは説明責任など民主主義の根 幹を支える基盤と位置付けられている。例えばアメ リカ国立公文書館(United States National Archives and Records Administration: NARA)の “Mission Statement” には「国立公文書館は政府の記録を守り, 保存することにより,アメリカの民主主義に奉仕す

公文書管理法とはどのような法律なのか

知的資源の活用と説明責任のために

The New Public Records Act in Japan

For use of intellectual resources and accomplishment of accountability

小谷 允志

1 KOTANI Masashi1

1 株式会社出版文化社 アーカイブズ研究所(〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-20-2)Tel : 03-3264-8811  E-mail : mkotani@shuppanbunka.com

1 Institute of Archives, ShuppanBunkaSha Corporation (2-20-2 Kanda Jimbo-cho Chiyoda-ku, Tokyo 101-0051)

原稿受理(2010-03-08)

情報管理 53(2), 079-087, doi: 10.1241/johokanri.53.79 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.53.79)

著者抄録

2009 年 6 月,日本で初めての公文書管理の基本法である「公文書管理法」が制定された。この法律は,公文書を民主 主義の根幹を支える国民共有の知的資源と位置付け,公文書管理に関する基本的事項を定めることにより,国と独立 行政法人が適切で効率的な行政運営を行い,説明責任を全うすることを目的としている。この法律が制定されるまで の経緯,制定の意義並びにこの法律のポイントと特長,これからの課題等について解説する。

キーワード

公文書管理,現用文書,非現用文書,歴史公文書,アーカイブズ,一元管理,説明責任,国立公文書館,レコードスケジュー ル,ライフサイクル管理

(2)

府の措置についての重要な文書への継続的なアクセ スを保証する,そして民主主義を支え,市民教育を 推進し,国家の経験の歴史的な理解を促進するもの であること」が述べられている(同Webサイトより)。 今回,わが国においても,公文書管理法によってこ のような文書管理・アーカイブズの理念的なものが 明確にされたことは,いくら評価しても評価し過ぎ ることはない(詳しくは3章の「公文書管理法制定の 意義」参照)。 そこで,なぜ公文書管理法の制定がそれほど画期 的なのか,またわれわれ国民にとって公文書管理法 はどのような意味を持っているのか,といったこと を中心に解説を試みたい。

2.

公文書管理法制定までの経緯

公文書管理法誕生の最大の功労者は実は元首相の 福田康夫氏である。福田氏がいなければこの法律は 生まれなかったといっても過言ではないだろう。そ こでこの法律誕生までの経過を簡単に振り返ってみ よう。福田氏は小泉内閣の官房長官時代の2003年4月, まず「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存・ 利用等のための研究会」を設置,引き続き同年12月 には自らが主宰して「公文書等の適切な管理,保存 及び利用に関する懇談会」を開催している。福田氏 日本の公文書館制度が米国のそれと比較して,あま りにも貧弱だということを実感する自らの体験が あったとされる。その後,2007年には社会保険庁の 「消えた年金」問題,厚労省のC型肝炎関連資料の放置, 海上自衛隊補給艦「とわだ」の航泊日誌の誤廃棄など, 公文書管理に関わる不祥事が続発し,社会の注目を 浴びることとなった。このうち,特に厚労省のC型肝 炎関連資料の放置については,これによってどのよ うな問題が発生したのかを少し説明しておく必要が あろう。これは血液製剤フィブリノゲンの投与でC型 肝炎に感染した可能性のある患者418名のリストを厚 労省が公開せず放置したというもので,もし早めに 患者へ事実を告知していれば,適切な治療が可能と なり命をなくさずに済んだ人がいたかも知れないと いうものである(患者リストは厚労省の命令により 製薬会社から提出されていたもの)。 そのような時期に福田氏は,首相に就任するや, 2008年1月,第169国会開会日の施政方針演説におい て,「年金記録等のずさんな文書管理は言語道断で す。行政文書の管理のあり方を基本から見直し,法 制化を検討するとともに,国立公文書館制度の拡充 を含め,公文書の保存に向けた体制を整備します」 と述べたのである。そして同年2月には初代公文書管 理担当大臣に上川陽子氏を任命,引き続き3月には「公 文書管理の在り方等に関する有識者会議」(座長:尾 崎護元大蔵事務次官)を設置した。その後,残念な がら同氏は首相を辞任されたが,11月にはこの有識 者会議の最終報告書「時を貫く記録としての公文書 管理の在り方〜今,国家事業として取り組む〜」1) 後任の麻生首相に提出された。この報告書を基に作 られた公文書管理法案が2009年3月に閣議決定後,国 会に提出され,6月には修正が施された後,衆参両院 において全会一致で成立するという運びとなったの である。 公文書管理法,公布 2009年7月 公文書管理法,成立 2009年6月 公文書管理法案,国会へ提出 2009年3月 同会議最終報告書「時を貫く記録としての公文書管理の在 り方∼今,国家事業として取り組む∼」提出 2008年11月 内閣府「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」発足 2008年3月 上川陽子氏,初代公文書管理担当大臣に就任 2008年2月 福田首相,施政方針演説にて文書管理改善を表明 2008年1月 「消えた年金」問題,C型肝炎関連資料の放置,海上自衛隊 補給艦「とわだ」の航泊日誌誤廃棄等の不祥事が発覚 2007年 内閣府「公文書等の適切な管理,保存及び利用に関する懇 談会」発足 2003年12月 内閣府「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存・利 用等のための研究会」発足 2003年4月 表1 公文書管理法制定までの経緯

(3)

3.1 包括的・統一的な文書管理の基本法 公文書管理法制定の意義としてまず挙げられるの は,わが国初の包括的・統一的な文書管理の基本法 が誕生したということである。「包括的」「統一的」 とは何を意味するのか,この辺から話を始めること としよう。 3.1.1 包括的な基本法の意味 「包括的」とは,一言でいうと「国の行政事務全体 をカバーする」という意味であるが,少し詳しく説 明しておきたい。これまでわが国では,国の機関全 体をカバーする文書管理の基本法というものは存在 しなかった。行政機関における事務処理は文書主義 が基本原則であるべきことを考えると,これは不思 議なことだ。その後,2001年に情報公開法(正確に は「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」) が施行され,行政機関は,保有する行政文書を原則 公開することにより説明責任を果たすことが義務付 けられた。そしてその中に初めて法律の条文として 文書管理の基本的事項に関する規定が設けられたの である。これは情報公開法と文書管理は車の両輪で あるという考え方に基づき,「行政機関の長は,この 法律の適正かつ円滑な運用に資するため,行政文書 を適正に管理するものとする」(情報公開法22条1項) とされたのである。しかしながら,これはあくまで 情報公開制度の運営を支援する観点から,文書管理 に関する規定を設けたに過ぎず,国の行政事務全体 をカバーする包括的な文書管理ルールではなかった のである。しかも文書管理の具体的なやり方,手順 についてはすべて政令任せで(同22条2項,3項),法 律の規定にはなっておらず,その点からも不十分な ものであった。それが今回,初めて国の行政事務全 体をカバーする包括的な文書管理の基本法として公 文書管理法が制定されたわけで,その意義はまこと に大きなものがある。 ラとなるべき基本的な文書管理の法律を制定するこ となく,情報公開法を施行したためにいくつかの問 題を生じていた。例えば,情報公開請求をしても文 書がないという,いわゆる「文書不存在」のケース が毎年,少なからず発生していたのである。これを 海外の例と比較すると,例えばアメリカの場合,情 報自由法(Freedom of Information Act)は1966年の 制定だが,それより前の1950年に連邦記録法(Federal Records Act)が制定されている。またイギリスでは, 情報自由法(Freedom of Information Act)の制定は 2000年とやや遅れたが,公記録法(Public Records Act)が制定されたのはそれより遥か前の1958年で ある。このように先進国では情報公開法よりも先に 文書管理の基本法が制定されているのが通常であり, その点,日本は大きく遅れていたことになる。今回, 公文書管理法が制定されたことで,ようやく海外の 先進国並みに情報公開法制のインフラともいうべき 公文書管理の基本法制が整備され,情報公開法と公 文書管理法が対ついで揃うことになったのである。 このように公文書管理法が文書管理の一般法とな るため,情報公開法は特別法という位置づけになる。 従って情報公開法の中で行政機関の文書管理義務を 規定していた同法の第22条は削除されることとなっ た。 3.1.2 「包括的」のもう一つの意味:アーカイブズとの 一元化 「包括的」には,もう一つ重要な意味がある。つま り初めて,この法律により現用文書から非現用文書 (歴史公文書)までのライフサイクル管理が一元的に 行われることになり,歴史的に重要な資料を正しく 保存し,公文書館制度を拡充するための道筋が整っ た点である。 「現用文書」とは作成部門の業務において使用中の 文書であり,「非現用文書」とは作成部門の業務にお ける使用が終わった文書をいう。従来の概念では「非

(4)

して使われており,廃棄にならない「非現用文書」 が歴史的な文書として公文書館等のアーカイブズ部 門へ移管されるということになっていた。ところが 「公文書管理法」では,「歴史公文書」という新しい 概念を登場させ,その文書が現用段階にあるか非現 用段階にあるかを問わず,後世に残すべき歴史資料 として重要な公文書を「歴史公文書」と定義し,そ の「歴史公文書」のうち,国立公文書館等へ移管さ れたものを「特定歴史公文書」と称しているのである。 情報公開法が対象とするのはあくまで現用文書に 限られ,非現用のアーカイブズは対象ではないこと から,これまで現用から非現用という文書管理の全 体的なライフサイクルを一元的に管理するという考 え方はなかったに等しい。そのため従来は,各府省 から国立公文書館への歴史公文書の移管がスムーズ は文書管理の統括官庁が,現用は総務省,非現用は 内閣府(実際は国立公文書館)と別々になっていた ことにも関連があり,いわば縦割り行政の弊害の一 つと考えることもできる。それが今回の新しい公文 書管理法では,内閣府が現用・非現用を通じた全体 的な公文書管理の司令塔機能を持ち,一元管理する ようになったのは大きな進歩である。同時に歴史公 文書の各府省から国立公文書館への移管義務が明確 にされたことにより,アーカイブズ拡充のための条 件が整ったことの意義は大きい。「歴史とは現在と過 去との対話である」とは,かのE・H・カーの言葉2) だが,そもそも歴史を語る文書・記録が残っていな ければ,過去との対話は成り立たないはずだからで ある。その点,今回の法律には歴史公文書の移管を スムーズに行うための対策が種々盛り込まれ,各府 皇居を望む北の丸の一角に位置する独立行政法 人国立公文書館の本館は1971年に設置された(つ くば分館は1998年設置)。これまでの国立公文書 館は,国の機関などから移管を受けた公文書を, ただ単に歴史資料として保存管理し,一般に公開 するための施設に過ぎなかった。今回の公文書管 理法により,従来の役割を大きく拡充し,各行政 機関の現用文書の保存・利用に関する助言もでき るようになった他,行政機関の依頼を受けて現用 文書の保存を行うことができるようになった(改 正国立公文書館法第11条)。また内閣総理大臣の 委任を受けて,行政機関に対する実地調査を行う ことができる(第9条4項)他,民間や自治体の保 有する文書を受け入れる機能も付与された(第2 条7項4号)。いずれにしても国立公文書館は,歴 史学者や行政機関の職員のみが利用する施設では なく,広く一般国民が利用できる,いわば知識の 殿堂であることを強調しておきたい。そのような 意味から,最近,国立公文書館は「パブリック・アー カイブズ宣言」を唱え,「国民一人ひとりにひら かれた,もっと魅力のある “情報の広場” になり ます」と宣言している注2)。例えば国立公文書館は, 公文書を通じて日本のあゆみを見ることができる 常設展の他,毎年,春と秋に特別展を開催してい る。特別展では,昨年秋の「天皇陛下御在位20年 記念公文書展」,今年春の「旗本御家人Ⅱ-幕臣 たちの実像-」など一般の人々にとっても興味深 い内容の展示会が無料で開催されている。

国立公文書館の役割

(5)

つに挙げられる。それらの対策としては,例えば中 間書庫制度の導入,移管後の特定歴史公文書の利用 制限の拡大などが挙げられる。 3.1.3 「統一的」の意味 また「統一的」には次のような意味がある。これ まで各行政機関の文書管理規則は,情報公開法の規 定に基づき,それぞれの行政機関の長が独自に作成 することとなっていたが,必ずしも国として統一の とれたものではなかった。公文書管理法においても 文書管理規則を行政機関の長が作成する方式は変わ らないが,今後はその作成にあたって公文書管理法 の具体的な規定に基づくとともに,あらかじめ内閣 総理大臣の同意を得なければならなくなったのが大 きく変わった点である(第10条)。従って必然的に各 行政機関の文書管理規則が統一されることになるわ けだ。また行政機関以外の国会及び裁判所の文書管 理についても,この法律の趣旨を踏まえて検討され るべきものとしている(附則第13条2項)。 3.2 公文書は民主主義の根幹を支える国民共有の 知的資源 公文書管理法には,従来欠けていた文書管理の理 念的な部分が盛り込まれ,その目的規定で公文書を 「健全な民主主義を支える国民共有の知的資源」と位 置付け,「国民が主体的に利用し得るもの」とした。 この文言は国会での修正決議に基づき取り入れられ たものだが,もともと先の「有識者会議」最終報告 書の基本認識において「民主主義の根幹は,国民が 正確な情報に自由にアクセスし,それに基づき正確 な判断を行い,主権を行使することにある。国の活 動や歴史的事実の正確な記録である『公文書』は, この根幹を支える基本的なインフラであり,過去・ 歴史から教訓を学ぶとともに,未来に生きる国民に 対する説明責任を果たすために必要不可欠な国民の 貴重な共有財産である」とされていたのである。そ る諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全 うされるようにすることを目的とする」と明記した。 今回,この法律により,初めて文書管理と説明責 任の関係が明確にされたわけで,このことの意義は 極めて大きい。今まで情報公開法において「情報公 開法が説明責任を果たすためのもの」とは明記され ていても,文書管理が説明責任を果たすためのもの とは,どこにも謳われていなかった。しかし,これ でようやく「情報公開法と文書管理は車の両輪」と いう概念が実質的に取り込まれたといえる。文書管 理の目的が組織の説明責任を果たすためのものであ るということは,記録管理の国際標準ISO15489注3) においても基調となっているコンセプトであり,今 やグローバル・スタンダードとなっている。また目 的規定中の「現在及び将来の国民に説明する責務」 という表現があるが,これには大きな意味がある。 いうまでもなく「現在の国民に対する説明責任」は 情報公開を意味しているが,「将来の国民に対する説 明責任」とは国立公文書館等のアーカイブズ機関に おける公開を意味しており,現用段階における行政 文書と歴史公文書を一元的に管理することの重要性 を示したものといえる。

4.

公文書管理法のポイント

公文書管理法は,これまで述べたように公文書管 理の基本的事項(行政文書・法人文書の適切な管理 及び歴史的公文書等の適切な保存及び利用)を初め て法律の規定で定めた点に意義がある。以下,その ポイントをもう少し詳しく見ることにしよう。 4.1 公文書の作成義務 わが国における行政機関の重要な意思決定は文書 に基づいて行われることが通例となってきた。いわ ゆる事務処理原則としての文書主義である。しかし ながら,基本原則であるはずのこの文書主義原則も

(6)

法律の規定は見当たらなかったのである。情報公開 法における文書作成義務も政令事項に過ぎなかった のが注4),今回,初めて法律の規定で義務付けられた ことになる。 すなわち「当該行政機関における経緯も含めた意 思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事 業の実績を合理的に跡付け,又は検証することがで きるよう,処理に係わる事案が軽微なものである場 合を除き,次に掲げる事項その他の事項について, 文書を作成しなければならない」(第4条)とし,「法 令の制定又は改廃及びその経緯」等5つの類型を掲げ ている。 4.2 公文書の整理 職員が行政文書を作成又は取得した時は,その文 書について分類し,名称を付し,保存期間及び保存 期間の満了する日を設定しなければならないとした (第5条第1項)。 また相互に密接な関係を有する行政文書(保存期 間が同じもの)の集合物である「行政文書ファイル」 にまとめ(同条第2項),その「行政文書ファイル」 につき分類し,名称を付し,保存期間及び保存期間 の満了する日を設定しなければならない(同条第3 項)。さらに「行政文書ファイル及び単独で管理して いる行政文書」(以後,「行政文書ファイル等」)につ いては,保存期間の満了前のできる限り早い時期に, 保存期間が満了した時の措置として,歴史公文書等 に該当するものは国立公文書館等への移管の措置を, それ以外のものについては廃棄の措置を取ることを 定めなければならない(同条第5項)。特に第5項の国 立公文書館等への移管又は廃棄を保存期間が満了し た時点で考えるのではなく,できる限り早い時期に どちらかの措置を決める仕組み,すなわち「レコー ドスケジュール」の概念を導入したところが,従来 なかった新しい考え方で,注目される。 行政文書ファイル等について,その保存期間が満 了するまでの間,その内容,時の経過,利用の状況 等に応じ,適切な保存及び利用を確保するために必 要な場所において,適切な保存媒体により,識別を 容易にするための措置を講じたうえで保存しなけれ ばならない(第6条第1項)とし,さらにはその集中 管理の推進に努めなければならないとしている(同 条第2項)。「内容」とは,その行政文書ファイル等に 個人情報などの機密情報が含まれている場合,施錠 できるキャビネット等で保管する,また電子情報で あれば厳重なアクセス制限を施したサーバー等に保 存することを意味する。「時の経過,利用の状況」とは, もともと文書には時の経過とともに利用頻度が低下 するという特性があるが,これに合わせて利用頻度 が高い間は事務所の書棚等で保存し,利用頻度が下 がると地下の書庫等に移動することをいう。「適切な 保存媒体」とは,特に電子情報に関し,情報技術の 進展に伴ってソフトのバージョンアップへの対応や 必要な媒体変換等を適切に行い,長期的に安全確実 な保存を行うことである。「識別を容易にするための 措置」とは,検索を容易にするためのファイルの分 類・整理(例えばファイルの背表紙にタイトル,作 成年度を明記,または色分けをするなど)及び適切 なメタデータの付与等を意味する。特に電子情報の 場合はファイルの属性,コンテクスト等を表す適切 なメタデータの作成・付与が欠かせない。「集中管理 の推進」とは,作成・取得から一定期間が経過した 行政文書ファイル等を集中管理することで文書の散 逸防止,移管業務の円滑化を促進する趣旨だが,各 府省共通の中間書庫制度を設け,横断的に集中管理 する仕組みが想定されている注5) 4.4 公文書の移管又は廃棄 保存期間が満了した公文書は,第5条第5項の規 定による定めに基づき,国立公文書館等へ移管する か,または廃棄することが義務付けられた(第8条

(7)

において,内閣総理大臣(国立公文書館)と移管元 の行政機関とが協議し,そこに合意が成立した場合 のみ移管が行われることになっていた。つまり移管 するかどうかの決定権は,国立公文書館にはなく各 府省側にあったのである。今回,この方式が変更さ れ,レコードスケジュールにより事前に移管措置を 取ることが決定された歴史公文書は,保存期間が満 了すると自動的に国立公文書館等へ移管されること になったのである(第8条第1項)。これにより従来, あまり進んでいなかった歴史公文書の移管が大きく 促進され,本格的なアーカイブズ確立への道が開け たことの意義は大きい。それに関連して特に慎重な 対応が求められる廃棄について,行政機関はあらか じめ内閣総理大臣と協議し,その同意を得なければ 廃棄できないこととなったのである(同条第2項)。 この項目は衆議院における修正協議で盛り込まれた ものである。 4.5 公文書管理に関するコンプライアンス確保の 仕組み この法律の特長の一つは,公文書管理におけるコ ンプライアンス確保のためのさまざまな仕組みを設 けていることである。具体的には,行政機関の長は 行政文書の管理の状況について,毎年度,内閣総理 大臣に報告しなければならず(第9条1項),内閣総理 大臣は,必要と認める場合には,行政機関の長に対し, 行政文書の管理について報告や資料の提出を求めた り,職員に実地調査をさせることができる(同条3項)。 同様に歴史公文書の移管についても必要と認める 場合には,内閣総理大臣は,国立公文書館に報告や 資料の提出を求めさせたり,実地調査をさせること ができる(第9条4項)。また内閣総理大臣は,公文書 管理につき特に必要がある場合には改善勧告を行い, その結果につき報告を求めることができるとしてい る(第31条)。 この法律では国立公文書館等へ移管された特定歴 史公文書等は,永久保存が義務付けられている(第 15条1項)。ただ保存文書が劣化により判読不能とな り,保存する意味がなくなったような場合,例外的 に廃棄することはできるが,誤廃棄あるいは恣意的 な廃棄を防ぐために,国立公文書館等の長のみの判 断では廃棄できず,内閣総理大臣の同意を得なけれ ばならない(第25条)。また特定歴史公文書等につい て,その内容,保存状態,時の経過,利用の状況等 に応じ,適切な保存及び利用を確保するために必要 な場所において,適切な記録媒体により,識別を容 易にするための措置を講じた上で保存し(第15条2 項),その分類,名称,移管又は寄贈若しくは寄託を した者の名称又は氏名,移管又は寄贈若しくは寄託 を受けた時期及び保存場所等の必要な事項を記載し た目録を作成し,公表しなければならない(第15条4 項)。国立公文書館等の長は,特定歴史公文書等の保 存,利用が適切に行われるように,内閣総理大臣の 同意を得て,利用等規則を設けなければならない(第 27条1項,3項)。そして特定歴史公文書等の保存及び 利用の状況につき,毎年度,内閣総理大臣に報告し なければならない(第26条1項)。 特定歴史公文書の利用について,国立公文書館等 の長は,利用請求があった場合,利用制限事由に該 当しない限り,利用させなければならないとし,利 用請求権を明確にした点は,この法律の特色の一つ となっている(第16条1項)。そして利用制限事由に 該当するかどうかの判断については,利用請求のあっ た特定歴史公文書等の作成又は取得からの時間的経 過を考慮すると同時に,移管元の機関からの意見を 参酌しなければならないとしている(同条2項)。ま た利用請求に対する処分等に不服がある場合は,異 議申立てをすることができるようになっている(第 21条)。

(8)

この法律において特筆すべきは,公文書管理の機能 強化のため,内閣府に外部の有識者で構成する第三 者機関である公文書管理委員会を設けたことである。 委員会の委員は,公文書管理に関して優れた識見 を有する者のうちから,内閣総理大臣が任命するこ ととなっているが(第28条),委員会は数多くの政 令事項,及びいくつかの重要事項についての諮問を 受ける他,必要に応じて関係行政機関の長又は国立 公文書館等の長に対して,資料の提出,意見の開陳, 説明その他必要な協力を求めることができるとして いる(第29条,第30条)。お役所任せの現在の仕組み に第三者的なチェック機能を導入することとなる公 文書管理委員会には大きな役割が期待される。 4.8 地方公共団体の公文書管理 地方公共団体は,この法律の趣旨に則り,保有文 書の適正な管理に関する施策を策定し,実施するよ う努めなければならないとの規定が盛り込まれた(第 34条)。従って各自治体は,これまでの文書管理規程 を条例化するよう求められることになる。この法律 そのものを自治体に適用しないのは,地方自治の原 則を尊重したためで,これは情報公開法制定時に取 られた方式と同じである。

5.

公文書管理法の今後の課題

以上述べたように,公文書管理法は現行の文書管 識者会議」の最終報告書に盛り込まれた内容と比較 するといくつかの課題も存在する。例えば国立公文 書館を独立行政法人から「特別な法人」に改組して 権限と体制を拡充するという案は見送られた。それ だけに,同報告書で公文書管理の「司令塔」の役割 を果たすとされた公文書管理担当機関(内閣府公文 書管理課)の体制と役割権限が真に「司令塔」にふ さわしいものになるかどうかが注目される。さらに 重要なのはレコードマネジャー・アーキビストとい う文書管理の専門職体制注6)の拡充である。この点も 同報告書で取り上げられていたのだが,法律の条文 には登場しない。しかしながら法律施行後の運用面 で,うまくいくかどうかの鍵を握っているのがこの 専門職体制であり,今後の大きな課題になるものと 考えられる。なぜなら,いくら良いルールができても, それを実行に移す体制がなければ絵に描いた餅にな りかねないからである。このことはARMA(Association of Records Managers and Administrators)東京支部 が招いた元アメリカ国立公文書館(NARA)ディレク ターのマイケル・ミラー博士も講演の中で強調して いた点である注7)。各行政機関と公文書管理担当機関 及び国立公文書館の専門職が連携し合い協力し合っ て,初めて文書のライフサイクル管理が円滑,確実 に進むのである。いずれにしても,法律施行のため の具体的な実施手順等を明確にする政令及びガイド ラインが近く決定されることになるが,その内容が どうなるかが当面の最大の課題といえよう。

本文の注

注1) 内閣府「文書管理に係る現状調査結果」(2008年3月31日時点)によるとすべての行政機関の平均移管 率は0.7%であった。米国等の移管率は通常,3〜4%といわれている。 注2) 詳しくはhttp://www.archives.go.jp/about/idea.html 参照 注3) ISO15489は2001年9月に制定されたRecords Management(記録管理)の国際標準で,パート1「総 論」とパート2「テクニカル・レポート」からなり,そのうち,パート1は2005年7月JIS化され,「JIS X0902-1 記録管理-第1部:総説」として日本規格協会から発行されている。

(9)

注5) 公文書管理法附則第4条において国立公文書館法を改正し,国立公文書館が行政機関から委託を受け て中間書庫の役割を果たすことができる旨の規定が追加された(改正国立公文書館法第11条1項2号, 3項2号)。 注6) 現用段階の専門職がレコードマネジャーであり,非現用段階の専門職がアーキビストである。海外で はこのような文書管理専門職の職能が確立している。 注7) マイケル・ミラー博士の講演録「公文書管理:運用面での課題と方策」はARMA東京支部「Records & Information Management Journal」第12号(2010年1月)参照。

参考文献

1) 公文書管理の在り方等に関する有識者会議. “「時を貫く記録としての公文書管理の在り方」〜今,国家事 業として取り組む〜” . 首相官邸. http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/koubun/hokoku.pdf, (accessed 2010-03-08). 2) E・H・カー . 歴史とは何か. 清水幾太郎訳. 岩波書店, 1962.

参考資料

a) 宇賀克也. 逐条解説 公文書等の管理に関する法律. 第一法規, 2009. b) 岡本信一,植草泰彦他. 逐条解説 公文書管理法. ぎょうせい, 2009. c) 岡本信一,植草泰彦. Q&A 公文書管理法. ぎょうせい, 2009. d) 松岡資明. 日本の公文書―開かれたアーカイブズが社会システムを支える. ポット出版, 2010. e) 小谷允志. 今,なぜ記録管理なのか=記録管理のパラダイムシフト. 日外アソシエーツ, 2008. f) 特集:公文書管理法制定に向けて―有識者会議最終報告を契機に. ジュリスト. 2009, no.1373. g) 特集:公文書等の管理に関する法律. アーカイブズ. 2009, vol.37. h) 特集:公文書管理法の意義と課題. ジュリスト. 2010, no.1393.

Author Abstract

The New Public Records Act was enacted on June 24, 2009 and will be in effect in April 2011. This is the first comprehensive law of managing administrative records including historical records in Japan. The law states that the public records are intellectual resources shared by citizens and allows people to have more access to them. It depends on the concept that the public records mean the basis of democracy including accountability. This article describes the main points of the new law.

Key words

public records management, active records, inactive records, historical records, archives, omnibus management, accountability, National Archives, record schedule, lifecycle management

参照

関連したドキュメント

第四。政治上の民本主義。自己が自己を統治することは、すべての人の権利である

などに名を残す数学者であるが、「ガロア理論 (Galois theory)」の教科書を

Matsui 2006, Text D)が Ch/U 7214

この大会は、我が国の大切な文化財である民俗芸能の保存振興と後継者育成の一助となることを目的として開催してまい

とされている︒ところで︑医師法二 0

行ない難いことを当然予想している制度であり︑

司法書士による債務整理の支援について説明が なされ、本人も妻も支援を受けることを了承したた め、地元の司法書士へ紹介された