無線通信システムにおけるチャネル割当の研究
Study on Channel Assignment for Wireless Communication System
2009年 2月
早稲田大学大学院 国際情報通信研究科 国際情報通信学専攻
曽根高 則義
目次
1. 序論...2
1.1 研究の背景...2
1.2 本研究の目的...2
1.3 本論文の構成...2
2. ダイナミック・チャネル割当方式の特徴と課題...2
2.1 まえがき...2
2.2 周波数有効利用の定義...2
2.2.1 帯域利用率技術の特徴...2
2.2.2 空間的利用率技術の特徴...2
2.2.3 時間的利用率技術の特徴...2
2.3 セル(無線ゾーン)構造の技術と特徴...2
2.4 無線(チャネル)アクセス技術(多元接続技術)...2
2.5 チャネル割当制御方式...2
2.6 静的(固定)チャネル割当制御方式...2
2.7 動的チャネル割当制御方式...2
2.7.1 集中制御型...2
2.7.2 自律分散制御型・ダイナミックチャネル割当方式...2
2.8 各方式の比較(まとめ)...2
2.9 チャネル棲み分け方式の実運用時におけるチャネル割当の振る舞い...2
2.10 あとがき...2
3. 高速収束ダイナミック・チャネル割当方式...2
3.1 まえがき(自律分散チャネル割当「棲み分け方式」の課題)...2
3.2 チャネル棲み分け方式のTDMA/TDDシステムへの適用...2
3.3 チャネル棲み分け方式...2
3.4 実験システム...2
3.5 実証実験結果...2
3.5.1 各基地局あたりの総呼量に対する呼損の関係...2
3.5.2 各基地局のチャネル割当の結果...2
3.6 “高速収束ダイナミック・チャネル割当方式”の提案...2
3.7 ...2
3.7.2 既存方式とのチャネル棲み分けの比較...2
3.7.3 収束パラメータの優先度関数への影響...2
3.8 あとがき...2
4. オーバーラップ・エコ・チャネル割当方式...2
4.1 まえがき...2
4.2 既存動的チャネル割当方式の課題...2
4.3 「オーバーラップ・エコ・チャネル割当て方式」の提案...2
4.3.1 基地局および移動局側のチャネル割当アルゴリズム...2
4.3.2 移動局と基地局とのチャネル割当プロトコル...2
4.4 「オーバーラップ・エコ・チャネル割当て方式」のシミュレーションと実用化の 考察 2 4.4.1 呼損とオーバーラップ率Rの関係...2
4.4.2 呼損と使用チャネル数(/セル)の関係...2
4.5 オーバーラップ率Rの考え方...2
4.6 あとがき...2
5. バンチング効果を用いたマルチアクセスシステムにおける自律分散チャネル割当方 式 2 5.1 まえがき(ランダムアクセス方式とそのチャネル割当の課題)...2
5.2 バンチング効果を利用したチャネル割当方式の概要...2
5.2.1 考察するチャネル割当のモデルとバンチング発生のメカニズム...2
5.2.2 チャネル割当制御方法...2
5.3 バンチング効果によるチャネル割り当て制御の理論的考察...2
5.3.1 バンチング領域...2
5.3.2 安定領域...2
5.3.3 望ましいn⋅P(n⋅G)特性...2
5.3.4 異領域にまたがるバンチの振舞い...2
5.3.5 チャネル・トラフィックの変化とバンチの振舞い...2
5.4 チャネル遷移確率PS曲線の具現化とシミュレーション結果...2
5.5 あとがき...2
6. チャネル割当の実用化と標準化...2
6.1 まえがき(FWA/WLLシステムの課題)...2
6.2 システム概要...2
6.3 PHS−FWA/WLL導入の課題...2
6.3.1 加入者の広域収容の課題...2
6.3.2 チャネル有効利用の課題...2
6.3.3 保守・故障時の課題...2
6.4 課題を解決するための機能...2
6.4.1 マルチ・チャネル制御...2
6.4.2 遅延制御機能...2
6.4.3 チャンネル有効利用...2
6.4.4 保守・故障時の制御...2
6.5 標準化への適用...2
6.6 あとがき...2
7. ID割当方式...2
7.1 まえがき...2
7.2 衛星通信システムとネットワーク・トポロジー...2
7.3 各衛星通信システムへの暗号化適用とその課題...2
7.4 超小型衛星通信(VSAT)ネットワークのための暗号化システム...2
7.4.1 VSATネットワークの特徴と課題...2
7.4.2 提案する暗号化システム(ID割当方式)...2
7.5 あとがき...2
8. 結論...2
9. 謝辞...2
10. 参考文献...2
11. 図一覧...2
12. 表一覧...2
13. 研究業績...2
第1章
1. 序論
1.1 研究の背景
近年,サービスの多様性が求められているユビキタスネット社会において,コンピュータを含 む携帯デバイスで世界中に散らばっている情報にどこからでもリーチできる所謂「Web2.0 の世界」が急速に広がっている.まさに「いつでも,どこでも,誰とでも」コミュニケーション できることが現実のものとなってきている.このようなサービスは移動性と高速、大容量を前提 としているため,無線技術を中心とした通信ネットワークに瞬時に繋ぐことが要求され,アクセ ス技術と共に年々増加を続けている.
一方,過去から現在を振り返ると,多種多様なサービスに対応するため,移動端末に搭載され ているCPUのパフォーマンスは,1995年に33MHzだったものが2008年では3GH zになっており,10年で約100倍の機能を持ったデバイスが世の中に溢れている.また,通 信の世界では,ISDN元年といわれた1995年には64Kbpsの通信速度を誇ったが,現 在では100MbpsのFTTHが家庭まで来ている[1].更に,1995年は移動通信におい てPHSサービスが開始された年であり,通信速度は2400bpsを誇ったが,今現在ではH SDPAが3.6Mbps,WiMAXで100Mbpsを実現しようとしており,これらの技 術が今までのブロードバンドサービスを支えたといえる.
次の10年を考えるとき,更に動画配信や3D画像情報などのリッチコンテンツが増加し,現 在の約220倍のトラフィックがネットワークに入流してくると予想されており,これらのサー ビスに耐えうるシステムの構築が求められている[2].放送ではHDTVを超える高品質な映像 放送が移動しながらでも途切れず,且つ通信と放送の連携によってコンテンツのダウンロードサ ービスの提供も要求されている.更に,災害時の携帯電話や放送サービスとして既存の通信回線 を使用しないで,携帯端末やITSなどの移動端末同士で簡易ネットワークを構築できるアドホ
寸前であり,このサービスに耐え得る無線周波数の確保は急務である[3].
1.2 本研究の目的
このような環境の中で,無線技術は携帯電話を中心として,第2,3世代携帯電話はもとより,
より高速なデータ伝送速度を有する第3.9世代,第4世代といった次世代移動通信システムの 研究開発に期待が高まり,導入が急がれている[4].
しかしながら,これらのサービスに呼応するように多種多様なシステムがその都度無計画に導 入されたことによって[5],[6],周波数(無線)資源のリソースが枯渇してきており、将来のユビ キタス社会の実現に向けて大きな問題となると想定できる.周波数枯渇の対応策としては,空い ている周波数をセンシングして柔軟に無線周波数(チャネル)を割当るコグニティブ無線技術 [7]-[13]に注目が集まっているが, 既存サービスとの混在問題やその周波数帯域との親和性、周 囲に与える干渉の問題,システム間の干渉やセキュリティの問題など課題が山積している.また,
無線システムは電力を電波に変換して送信する非循環型モデルであるため,今後はエネルギー問 題や環境問題にも配慮が求められると予想できる.
これらの問題に対して、無線周波数帯域をサービスごとに振り分けて解決するだけでなく,基 礎的な周波数を含む無線チャネルの割当技術を学術的な見地から議論することが将来の周波数 有効活用の問題において重要であるといえる.
そこで,本研究では,無線システムにおいて共通の資源として特に重要な周波数やCDMAな どの符号化コード,各端末毎に割り振られるIDなどをチャネル資源と捉え,その資源を効率的 に且つ有効に利用するための無線チャネル割当技術を確立し、一連の手法を実システムで確認し,
体系化することにある.すなわち,現在までの無線チャネル割当方式の技術的特性を整理し,そ れらの課題を明確にする.更に既存のチャネル割当が実用化に至らない問題点も,実証実験によ っても明らかにし,共通のチャネル資源を最適に割り当てる方式を提案し、その効果を明らかに することを目的としている.
1.3 本論文の構成
本論文の構成を以下に示す.
第1章「序論」は本章であり,本研究の背景と目的、研究の概要である.
第2章「ダイナミックチャネル割当方式の課題」では,本研究が前提としている移動通信シ ステム(セルラーシステム)の技術を述べ,システム全体で共通の資源である周波数の有効利用 技術であるチャネル割当方式の既存技術を整理する.先ず,周波数有効利用の定義の基本となる 空間的,時間的利用率技術を整理し,移動通信システムが基本としているセル構造およびアクセ ス制御方式の特徴を述べる.更に,全てのチャネルを一元的に管理する手法として静的チャネル
割当方式を説明し,その問題点を明らかにする.次に,動的チャネル割当方式の各方式の特徴と その課題を整理し,その中でも自律分散的にチャネルを効率的に割当る方式としてチャネル棲み 分け方式の有効性について言及し,その課題を明らかにする.
第3章「高速収束ダイナミック・チャネル割当方式」では,現在のPHSシステムに採用 され,運用されているTDMA/TDD方式を取り上げ,実運用データからセル構造のモデル化 を行い,その環境下での自律分散型ダイナミックチャネル割り当て方式「チャネル棲み分け方式」
を適用した場合の振舞い(特性)を実証実験によって明らかにする.実証実験データから任意の チャネルを割当てる毎に加減算する優先度関数値が高い値であればあるほどそのセル内でのチ ャネルの使用優先率が高くなるということが分かった.本章では,その特徴を活かしてチャネル の棲み分けを早く収束させるために収束度可変パラメータを導入した“高速収束ダイナミック・
チャネル割当方式(First Step In Dynamic Channel Assignment Method)”を提案[72],[73]する.
本提案方式において,予め収束度可変値に重みを持たせることで収束が加速することを示し,実 証実験を通して提案方式の有効性を明らかにする.
第4章「オーバーラップ・エコ・チャネル割当方式」では,更にチャネルの有効利用を狙 った方式を提案する.既存のチャネル割当方式では隣接するセル間では同じチャネルを使用しな いことが前提となっているが,隣接しているセル間で同じチャネルを使っても問題ない場合が存 在する.問題となるのは隣接しているセル内での同一チャネルを使うことによる干渉である.先 ず,この場合を除いてチャネルを割当てる方式としてオーバーラップ・エコ割当方式を提案し,
そのアルゴリズムおよびチャネル割当のためのプロトコル,割り当てに必要な情報について説明 する.次に計算機によるシミュレーションによって,オーバーラップ率と呼損の関係,使用チャ ネル数と呼損の関係を説明し,最後に既存手法との同じ条件下において,使用チャネル数の比較 から本提案方式[79],[80]の有効性を明らかにする.
第5章「バンチング効果を用いたマルチアクセスシステムにおける自律分散チャネル割当方 式」では,ランダムアクセス通信システムへの適用を例に同一システム内で大容量のデータや小 容量のデータが混在する場合に,チャネルの有効利用の観点から,①一定量以上のトラフィック が集中しない,②システムの全トラフィックの増加に従って適宜割当チャネルを増やす,③割当 チャネルの規模にばらつきがなく,均等になる.④割当てたチャネルが安定である,ことなどを 満足するバンチングを利用したチャネル割当方式を提案する[83].本提案方式は,チャネル割当 を確定させるためのバンチング領域,バンチングしたチャネルを安定させるための安定領域,一 つのチャネルに集中させないための壁領域を設けることを提案している.次に本提案方式の有効 性を明確にするため,計算機によるシミュレーションを実行し,チャネル数に対してチャネル割 当の実行例を検証,上記の4つの条件を本提案方式が満たすことを明らかにする.
第6章「チャネル割当の実用化と標準化」では,第二世代コードレス電話システムをFWA
/WLL に適用した場合の事例を説明する.特にPHSをFWA/WLL に適用する場合におい
の同期の問題などが生じ,より効率的にチャネルを割当られない問題が発生することを明らかに し,その解決方法を示す[88].また,本提案方式はネットワーク構築の容易性などから諸外国か ら標準化が切望された.そのことを鑑みて,国内標準であるARIB RCR STD−28標準 にPHS−FWA/WLLの項目を提案し標準規格として採用された内容も紹介する.
第7章「ID割当方式」では,無線の特徴である無線の届く範囲であれば誰でもがそのチ ャネルを受信できる利点はある半面、誰でもが盗聴できることを示している.本章では,特に無 線通信の中で一番傍受性が高い衛星通信を取り上げ,誰でも傍受できるブロードキャストされて いるデータから自局宛てのみが解読できるID方式を提案する.先ず、衛星通信システムが抱え る脆弱性の課題を説明した後に,その環境下にあっても特定の局だけにしか割当られないID割 当方式[93]を提案し,そのアルゴリズムと手順を説明,有効性を明らかにする.
第8章「結論」では,本論文で得られた成果を総括し,結論を述べる.
第2章
2. ダイナミック・チャネル割当方式の特徴と課題
本章では,本研究が前提としている移動通信システムのセルラーシステム技術を述べ,システ ム全体で共通の資源である周波数の有効利用技術であるチャネル割当方式の技術を整理するこ とにある.先ず,周波数有効利用の定義の基本となる空間的,時間的利用率技術を整理し,移動 通信システムが基本としているセル構造およびアクセス制御方式の特徴を述べる.更に,全ての チャネルを一元的に管理する手法として静的チャネル割当方式を説明し,その問題点を明らかに する.次に,動的チャネル割当方式の各方式の特徴とその課題を整理し,その中でも自律分散的 にチャネルを効率的に割当る方式としてチャネル棲み分け方式の有効性について言及し,その課 題を明らかにする.
2.1 まえがき
自動車電話や携帯電話の急速な需要の伸びにより,移動通信システムを含む無線通信システム における無線周波数の不足が問題となりつつある[15],[16].そのために,周波数の有効利用に 関する研究が進められている.チャネル割当に方式に関しても,予め各セルに一定数のチャネル を配分して定められた繰り返し距離でチャネルを再利用する従来の固定チャネル割当方式に代 わり,より効率的に周波数を割り当てる方式も多く検討されてきている.
ダイナミックチャネル方式は,限られた無線チャネル資源を時間的,空間的に有効に利用する ことで,システム全体で収容する呼量の増大を図る概念である.ダイナミックチャネル割当の研 究は,Cox-Rendink[17]-[19]の研究に代表されるように,当初は無線ゾーンあるいはセル半径の 整数倍の周波数の繰り返し距離を前提としたアルゴリズムが主流であった.これに対して Halpern[20]は,セル単位に繰り返し距離を定めていた固定割当方式を変形して,セル内部に新
その後多くの提案がなされるようになった.しかしながら,このRP方式は,基地局において受 信される移動機の信号レベルと割当チャネルとの関係を予め設計しておく必要性や設定したチ ャネル全てを検索する必要性などがあり,多くの課題を抱えている.この課題を解決する手法と して,事前の回線設計や全てのチャネルの検索の必要が無いチャネル棲み分け方式も提案されて いる.
本章では,本研究が前提としている移動通信システム(セルラーシステム)の技術を述べ,シ ステム全体で共通の資源である(周波数あるいはコードなどの)チャネルを有効に割当るチャネ ル割当方式の技術を整理、体系化することにある.先ず,2.2 で周波数有効利用の定義の基本と なる帯域利用率,空間的利用率および時間的利用率の技術と特徴を明確にし,2.3 で移動通信シ ステムが基本としているセル構造の技術と特徴について述べ,2.4 で無線アクセス技術を述べる.
2.5 から 2.7 において,静的チャネル割当と動的チャネル割当方式について技術的特徴を比較す る.更に 2.8 においては,各チャネル割当方式の技術を比較し,其々の方式の課題を明確にする.
また,2.9 では,実際にチャネル棲み分け方式を採用した場合の振る舞いについて実データを基 にして考察を加える.
2.2 周波数有効利用の定義
本節では,周波数有効利用効率の定義を述べ,その向上方法について整理する.
周波数利用効率は使用する帯域あたりのデータ伝送速度によって決定され,式(2.1)で表され る[21].ここで,ηWは周波数利用効率,n はサービスエリア内(ゾーン内)チャネルの総数[ch],
a をチャネルあたりの呼量[erl/ch],S を周波数繰り返し単位のセル群の面積[m2],である.
ηW=(n/W)a(1/S) (2.1)
式(2.1)より,周波数利用効率は,帯域あたりのチャネル数と 1 チャネルあたりの呼量,同一 周波数の繰り返しの頻度によって表現されることが分かる.帯域あたりのチャネル数を帯域利用 率ηb[ch/Hz],1 チャネルあたりの呼量を時間的利用率ηt[erl/ch],同一周波数繰り返しの頻 度を空間的利用率ηs[1/m2]とすると,式(2.1)は式(2.2)で表される.
ηW=ηbηtηs (2.2)
帯域利用率ηb[ch/Hz],時間的利用率ηt[erl/ch],空間的利用率ηs[1/m2]はそれぞれ以下で 示される.
ηb=n/W [ch/Hz] (2.3)
ηt=a [erl/ch] (2.4)
ηs=1/S [1/m2] (2.5)
周波数有効利用の要素
つまり,周波数有効利用技術は,帯域利用率,空間的利用率,時間的利用率の向上に関する 技術に大別でき,それぞれの特徴を最大限に生かすことで有限の周波数利用効率を上げることが できる.
各種周波数有効利用技術の分類を表2−1に示し特徴を整理する.
・高能率安定符号化
・高能率画像符号化
・QPSK
・16QAM..など
・フィルター
・送信電力制御
・周波数安定度向上
・干渉キャンセラー
・高品質化技術
・SS/CDMA
・セル・セクター化
・送信電力制御
・マイクロセル化
・ピコセル化
・フェムトセル化
・ダイナミックゾーン構成
・ダイナミックチャネル割当
・所要伝送速度の低減
・多値変調の採用
・変調速度低減による 狭帯域技術
・相互干渉強度の低減
・対干渉特性の向上
・干渉強度の低減
・セル/セクター面積縮小技術
・隣接チャネル干渉 軽減による周波数 間隔縮小技術
・セル/セクター繰返技術
・回線交感での 効率向上
・可変チャネル割当
・パケット交換での 効率向上
・パケットアクセス
・空間的不均一対策 ・セル/セクター構成
・時間的不均一対策
・チャネル間利用率の 不均一解消技術
・帯域利用率技術
・空間的利用率技術
・時間的利用技術
・チャネル利用効率 向上技術
表2−1 周波数有効利用技術分類
2.2.1 帯域利用率技術の特徴
帯域利用効率は帯域あたりのチャネル数であり, 1 チャネル当たりの所要帯域幅に反比例す る.ここで,各チャネルが周波数分割されている場合には,チャネル間の周波数間隔が狭いほど 帯域利用効率は高くなる.この周波数間隔は,変調信号の変調速度や変調方式,隣接チャネル干 渉によって規定される.
それゆえ,帯域利用率の向上を図る技術としては,
① 変調速度を低減して狭帯域化を図る技術[22]
② 隣接チャネル干渉による特性劣化を抑えて周波数間隔の縮小を図る技術[23]
に大別できる.
変調速度を低減するものには,チャネル当たりの所要ビット速度を低減する高能率な音声符号 化や画像符号化などがある.これらの技術は帯域当たりのビット速度の増加には寄与しないが,
チャネル数の増加に寄与する点では周波数有効利用技術といえる.
2.2.2 空間的利用率技術の特徴
空間的利用率は,式(2.5)に示されるように,セル面積 S に反比例する.これは 1 セルの面積 とセル(またはセクタ)繰り返し数との積である.そのため,空間的利用率は,セル(またはセ クタ)面積の縮小およびセル(またはセクタ)繰り返し率の増加によって向上することが分かる.
それゆえ,空間的利用率の向上を図る技術は,
① セル(またはセクタ)繰り返し率向上技術
② セル(またはセクタ)の面積縮小技術
に大別できる.
セル繰り返し率は,同一チャネル干渉による特性劣化を抑えることで向上できる[24],[25].こ のため,干渉強度を低減する技術,たとえば,セル構成やセクタ化および送信電力制御などが有 効な手段としてあげられる.セル面積を縮小するものとして,マイクロセルやピコセル,フェム トセル化[14]などの適用があげられる.
2.2.3 時間的利用率技術の特徴
時間利用効率は,各チャネルの利用率に関係していることが式(2.4)より分かる.利用率の向 上技術としては,
① 各チャネルの利用率の向上技術
② 各チャネルの使用状況の不均一の解消技術
があげられる.
①のチャネル利用率の向上を図る技術として,
①-1 回線交換におけるチャネル割当技術,
①-2 パケット交換における割当技術
に大別できる.
また,②のチャネル使用状況の不均一は,
②-1 加入者の空間分布の不均一によるセルごとの呼の発生量の相違,
②-2 各セルの呼の発生の時間的変動
によって起こる.
前者への対処には,各セル・セクタへのチャネル配置およびチャネル割当が有効であり,後者へ の対応には,ダイナミック・チャネル割当方式が有効とされている.
2.3 セル(無線ゾーン)構造の技術と特徴
前節において、周波数の有効利用の観点から空間的利用効率を向上させることが有効である ことを示した.ここでは現在移動通信システムにおいて採用されているセル方式について説明し,
課題を明らかにする.
ある基地局から電波が届く範囲をその基地局の「無線ゾーン(またはセル)」と呼び,基地局と 移動局の間で通信を行うために設定される通信路を「無線チャネル」と呼ぶ.移動通信のサービ スエリアは,または複数の基地局を使って無線ゾーンを組み合わせ,各基地局に利用可能な無線 チャネルを配分することで構成されている. セル(またはセクタ)面積の縮小およびセルの繰り 返し率を増やすことが周波数利用効率を上げる手段として有効であることは,2.2.2 で述べたと おりである.つまり,同一チャネル(周波数)群を十分に離れた異なる地域で繰り返し使用する ことで,同一チャネル間干渉を許容範囲内に収めることができる.
f1 f2 f2
f3 f2 f3
f3 f1 f1 f2
f1
f3 f3 f1 f2
f3 f1
f3 f1
f2
f2
f1
f2 f3
f1
f2 f3
f3 f1
f2
(a)
(b) (c)
(d)
出典:曽根高他;“オーバーラップ・エコ・チャネル割当方式の提案”信学論(B)投稿より
図2−1 セル(周波数)繰り返しの例(3 セルの場合)
通常,移動通信で使われるゾーン構成方式は大ゾーン方式と小ゾーン(セル方式)[26]-[28]が ある.大ゾーン方式ではサービスエリア全体を 1 つの基地局でカバーし,セル方式ではサービス エリアをいくつかに分割してそのエリアごとに基地局を 1 つずつ割当てる方式である.大ゾーン 方式では基地局が 1 つであるため,ネットワーク制御量が少なく,ネットワーク設置のための設 備が少なくすむが,サービスエリアを広く取るためには基地局の電波の送信出力を大きくする必 要がある.また,周波数再利用はセル方式と比較してかなりの間隔を取らないと不可能であるた め,収容可能な移動局数があらかじめ割当てられた無線周波数帯域の幅で決定されなければなら ない.
一方,小ゾーン(セル方式)は,電波干渉が起こる範囲のセル同士では異なる無線周波数帯を使 用し,周波数の繰り返し率を高めるのに最適な方式である.互いの距離が十分遠く電波干渉が問 題とならない範囲にあるセル同士では同じ無線周波数を割当てることができる.複数のセルを組 み合わせることでサービスエリアを広く取ることができ,且つ基地局の電波の送信出力が小さく てすみ,また無線周波数帯域を一定間隔で繰り返し再利用することにより収容できる移動機の数 を大幅に増やすことができる[29]-[32].一方では,ゾーン切り替えの際の位置登録や接続制御等 のネットワーク制御量が多くなってしまうという課題もある.
セルラーシステムの混在と課題
2.3 で述べたセル方式を採用したシステムのことを「セルラーシステム」と呼ばれており,
現在の移動通信システムの殆どは,このセルラーシステムを採用している.
セルラーシステムは,以下に示す条件を満足させている.
① 周波数の繰り返し利用
② 加入者密度に応じたセル半径の縮小化
つまり,セルをハニカム(蜂の巣)に分け,隣接するセル間では同じ周波数を割当てないように することで,同じ周波数を別な場所(セル)で再利用でき,より経済的な方式となる.
このセル内において単位面積あたりの発生呼量が一定だと仮定すると,1基地局(セル)あた りに発生する呼量はセル半径の自乗に比例する.また基地局で処理できる呼量が一定だと仮定す ると,セル半径の自乗に反比例してシステムで収容可能な呼量は増大し,やがては呼損につなが る結果となる.したがって,加入者が局所的に多く存在する大都市圏においては,セルの半径を 小さくすることでより多くの加入者を収容でき,且つ繰り返して周波数資源を利用できることに なる.(図2−1参照)
セルは半径のサイズで,半径数kmのものをマクロセル,半径数百mのものをマイクロセル,
半径数十mのものをピコセルと呼んでいるが,大容量データの送受信を目的として一加入者が専 有することが昨今求められており,更に小さな半径十数m以下のフェムトセル[12]などの導入が 検討されている.(図2−2参照)
このように高度化するサービスと合わせて周波数利用効率の向上のためには,より小さなエリ アをカバーする基地局の置局を計画することが重要になる.しかし、既存の大きなセル(マクロ セル)がある中で,小さなセル(マクロセル,ピコセル,フェムトセル)の構成を進めていくと,
結果として,マクロ,マイクロ,ピコセル,フェムトセルと言った異なる大きさのセルが同一空 間に混在することになり[33],[34],複数の基地局間で相互に干渉が発生し,伝送品質を含むサー ビスの劣化につながる課題も存在することになる[35].
マクロセル マイクロセル
ピコセル フェムトセル
マクロセル(半径数km)
マイクロセル(半径数百m)
ピコセル(半径数十m)
フェムトセル(半径十数m)
出典:竹田義行:“ワイヤレスブロードバンド時代の電波/周波数教科書”インプレスジャパン,
2005,pp.123,図7-4より抜粋、加筆修正
図2−2 セルラーシステムとセル構造,(サービスエリア)の種類
2.4 無線(チャネル)アクセス技術(多元接続技術)
前節では周波数有効利用のための技術要素の一つして空間的利用技術としてセル構造化技術 の整理を行った.本節では,帯域利用率と空間的利用率を利用して周波数の有効利用を向上させ る無線(チャネル)アクセス技術[36]について周波数有効利用の観点から整理する.
FDMA(周波数分割多元接続)
FDMA(Frequency Division Multiple Access:周波数分割多元接続)方式は与えられた周波 数帯域帯域を複数のチャネルへ分割し,端末ごとに異なるチャネルを割当てる手法である.(図 2−3(a)参照)FDMA方式では隣接するチャネル同士が干渉しないように一定の周波数帯域 幅をガードバンドとして設定する.1 つのセル内で同一の周波数帯域に複数の呼が同時に発生し ても同時通信できる.他の方式に比べて狭帯域でも周波数帯を占有してしまうため,周波数利用 効率はよくないが,主として海上無線通信や衛星無線通信に採用されている.また,第一世代の 移動通信システムでも採用されていた.
U1 U2 U3 U4 U5
周波数
周波数分割多元接続方式 周波数でチャネル多重する
U1 U2 U3 U4 U5U1 U2 U3 U4 U5
FDMA
(Frequency Division Multiple Access)
周波数
U21U31 U41
U11
時間
U22 U32
U42
U12 U23
U33 U43
U13 U24
U34 U44
U14 U25
U35 U45
U15
時分割多元接続方式 時間でチャネル多重する
+ マルチキャリア
TDMA
(Time Division Multiple Access)
(a)
(b)
時間
出典:山内雪路:“スペクトラム拡散通信”東京電機大出版、p61,図4.17より抜粋、加筆修正
図2−3 FDMAとTDMA多元接続方式
TDMA(時分割多元接続)
TDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)方式はある周波数帯域を時間軸 上でタイムスロットという単位に分割し,そのタイムスロットごとに端末へチャネルを割当てる 方式である.(図2−3(b)参照)端末間での時間同期に余裕を持たせるため,一定の時間帯 幅をガードタイムとして設定する.固定のタイムスロット数で定期的に繰り返しされる時間の周 期をフレームと呼ぶが,端末ごとにフレームの先頭部分から異なるタイミングでタイムスロット を繰り返し割当てることで,端末同士のパケットが衝突することなくデータ通信ができる.この 様に,あるひとつの周波数帯を複数の端末で利用可能であるが,データ通信を行う端末は瞬間的 にチャネルを占有することとなる.また,TDMAを使用する際にはタイミングの同期が必要と なる.このTDMA方式は第二世代の移動通信システムであるPDC,欧米を含む全世界で採用 されているGSM等で採用されている.
CDMA(符号分割多元接続)
数帯域を複数の端末で共有して使用する手法である[37],[38].
スペクトル拡散は送信側ではデータ信号に符号系列を重ね合わせ,広帯域に拡散を行う.受信 側ではデータ信号に同一の符号系列を重ね合わせて逆拡散を行うことにより,もとのデータ信号 の検出を行う.
CDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)方式は,隣接セルで同一周波 数を繰り返して使用が可能な技術である.(図2−4参照)フェージングに強く,低消費電力で あり,セル間を移動する際にもスムーズな通信が行えるという特徴がある.
U1 U2 U
・ ・ ・ ・
20周波数 時間
拡散符号で一次変調された 信号を拡散して広帯域化
B(5MHz) f Multi Access
Interference
W f
W f W
f
B(5MHz) f
拡散 Code 拡散 Code Channel
Coding Channel
Coding 一次 変調 一次 変調
拡散 Carrier 送信Data
Carrier
拡散 Code 拡散 Code 逆拡散 filter
filter Channel Decoding Channel Decoding 一次
複調 一次 複調
受信Data
CDMA
(Code Division Multiple Access)
符号分割多元接続方式 拡散符号でチャネル多重する
出典:山内雪路:“スペクトラム拡散通信”東京電機大出版、
p61,図4.17およびp62,図4-18より抜粋、加筆修正
図2−4 CDMA多元接続方式
CDMA方式のネットワークシステムにおいて,端末から基地局にデータを送信する際には,
受信電力レベルの強いデータ信号が優先して受信・復調されてしまい,受信電力レベルが弱い信 号はなかなか受信・復調されないという現象が起こる.このような現象が発生するとネットワー クシステムの容量が減少してしまうという問題が起こる.これが,所謂「遠近問題」である.
基地局から端末へデータを送信する際には上述の遠近問題は発生しないが,セルの境界近くに 存在する端末の送信電力レベルを上げると,他セルへの干渉が増加するという問題が起こる.そ
のため,送信電力レベルを上げる際には制限値を設ける必要がある.
また,セル構造が縮小する傾向にある近年において,特にフェムトセルなどが乱立した場合の 拡散符号化コードの繰り返し率も考慮する必要があり,今後は管理や割当,配布などの課題があ る.
2.5 チャネル割当制御方式
前節において,基地局と移動局との間で通信を行うために設定される無線通信路(無線チャネ ル)のチャネルアクセス技術について述べた.本節では,無線チャネルへのチャネルを配置する 技術について整理する。つまり,チャネル割当制御方式とは,セルごとの無線チャネルをどのよ うに配置するかを決める手法である.
チャネル割当方式で考慮すべき要求条件は,
① 各セルで発生した通信需要に応じたチャネル割当て
② 周囲のセル間での同一チャネル間干渉を考慮したチャネル割当
③ 基地局のアンテナ共有装置に合う周波数間隔を満たしたチャネル割当
があげられる.
以下に,各種チャネル割当制御方式の特徴を述べる.
このチャネル割当て方式には,あらかじめチャネルを配置しておく,① 静的(固定)チャネ ル割当制御方式と,各セルの要求に応じてチャネルを割当てる,② 動的チャネル割当制御方式,
がある.
2.6 静的(固定)チャネル割当制御方式
静的(固定)チャネル割当方式はセル間の干渉がなるべく起こらないようにあらかじめ固定的 にセルごとに使用するチャネルを割当てておく手法である.
呼が発生した際はセルごとにあらかじめ割り振られた無線チャネルの中から空きのチャネル を割当てる.空きのチャネルがない場合には呼損となる.静的(固定)チャネル割当制御方式は,
各セルの呼量を見積もり,必要なチャネル数を算出して,なるべく繰り返しパターンにあうよう なチャネル割当(配置)をすることになる.チャネルがあらかじめ定まっているため,制御が簡 単であるといった点や,呼量が多い場合にチャネル利用効率が良いという特徴がある.一方では,
2.7 動的チャネル割当制御方式
前節までに説明したとおり,各種周波数有効利用技術を適切に組み合わせることで,実用上十 分な周波数利用効率が得られること分かったが,周波数利用効率を究極まで高めるには,利用率 向上の阻害要因の解消が必須となる.
ここで言う阻害要因とは,
① 加入者の空間分布の不均一
② チャネル使用状況の空間的および時間的な不均一
③ 伝送路状態の時間的不均一
などである.
これらの阻害要因に対して,動的(ダイナミック)または適用的(アダプティブ)に対処する と,周波数利用効率を画期的に向上することが期待できる.動的チャネル割当制御方式(ダイナ ミックチャネル割当方式)は全てのセルにおいて全てのチャネルを使用可能にしておき,セルご とのトラヒックの時間的,空間的な変化に応じてチャネルを割当てていく手法である[39].動的 チャネル割当方式を一般的には,ダイナミックチャネル割当方式と呼ばれており,チャネル割当 のための制御用システムが必要であり,静的チャネル割当制御方式に比べて通信設備が複雑にな るが,呼量が少ない場合にチャネル利用効率が良く,ハンドオーバーの際の強制切断が少ないと いう特徴がある.
ダイナミックチャネル割当て方式は制御方式によって,
① 集中制御型
② 自律分散制御型
に大別される.表2−2に特徴を示す.
集中制御型のダイナミックチャネル割当方式は,セル間干渉データなどを収集する際に負荷が 集中しやすく,そのデータの送受信速度も問題となる.また,昨今のようなセル極小化に伴って 制御局が処理すべきデータ量は増加しており,短時間でデータを処理し最適なチャネル割当てを 行うことが困難である[40].
それに対し,自律分散型のダイナミックチャネル割当方式では,自局で測定したデータのみを 用いてチャネル割当てを行うため,実用時間で制御用データ処理を行うことが可能である.その ため,自律分散型のダイナミックチャネル割当方式が注目されている.
集中制御型 集中分散複合型
基地局間情報有無 有り 有り 無し
輻輳時の対応 ○ ○ △
基地局の増殖対応 △ △ ○
割当時の制御量 △ △ ○
使用可能チャネル 判定方法
干渉構造テーブルに よる
呼毎にCI比を測定し,
干渉構造テーブルと 併用
呼毎にCI比を測定 各基地局のチャネル
使用状況を考慮
各基地局のチャネル
使用状況を考慮 各基地局独自情報
集中制御型
自律分散制御型
制御法
割当方式
・棲み分け法
・ARP(Autonomous Reuse Partitioning)法
・ACCA(All-Channel Concentrric Allocation)法
・SORP(Self-Organized Reuse Allocation)法・・・など
・FA(First Avialabile)法
・NN(Nearest Neighbor)法
・NN+1法
・MSQ(Mean Aquare)法
・Ring法
・CB(Channel Borrowing)法
・・・・など サービスエリア全体
を ○ ○ △
割当チャネル選択法
表2−2 集中制御型と自律分散制御型の比較
2.7.1 集中制御型
集中制御型ダイナミックチャネル割当て方式は制御局が割当て可能チャネルの中から割当て るチャネルを全て決める方式である.チャネル割当の可否についてはあらかじめ干渉するセルの 関係を求め,干渉テーブルを作成し,その上でチャネルの使用状況を管理する方法と,上記の方 法に加えてCIRを測定する集中分散制御複合型[41],[42]とに大別できる.
FA方式
FA(First Available)方式では使用可能な全ての周波数帯域を検索していき,割当て可能なチ ャネルを発見したらそれを割当てていくという単純なアルゴリズムを持つダイナミックチャネ ル割当て方式である[17].
全てのチャネルを単純に検索していくため,チャネル割当てにかかる時間とキャリヤセンス試 行回数が多くなってしまうという課題がある.
NN(Nearest Neighbor)方式,MSQ(Mean Square)方式は割当て可能なチャネルの中から,
なるべく近い距離で使用しているチャネルを割当てる方式である[17].NN方式は,あらかじめ 繰り返し利用できない距離を求め,その距離内に存在する基地局ではチャネルを割当てず,最も 近くのチャネルで使用しているチャネルを割り当てる.NN+1はMN方式の距離にさらに1セ ル分を加えたセルで使用されているチャネルの最も近くのチャネルを割当るものである.MSQ は,同一チャネルを使用しているセル間の距離の2乗平均が最少となるチャネルを割当てる方式 である.
Ring方式
Ring方式は,チャネルの繰り返し利用を多くするため,干渉しない距離だけ離れた位置に あるセル群(Reuse Ring)で最も使用されているチャネルを割当る方式である[18].
NN(Nearest Neighbor)方式,MSQ(Mean Square)方式, NN+1方式およびRing方式 は,あらかじめ割当るための繰り返し利用できない距離などを調査する必要があり,時間的に変 化するような場合には適用が困難といった課題がある.
CB方式
CB(Channel Borrowing)方式は,先ず固定方式と同様にチャネルを割当る,このチャネルが 足らなくなったら隣接しているセルからチャネルを借りて割当る方式である[43],[44].
借りたチャネルの貸し借りで生じる管理,割当に関する適切な制御を行わないとチャネルの利用 効率が悪くなる,といった課題がある.
その他
その他にも固定方式とダイナミック割当方式を部分的に適用するHybrid方式[19],
[45]-[47]移動局の移動情報を用いて,ハンドオーバが多い場合のチャネル切替えや強制切断など の軽減を目的としたMD(Moving Direction)方式[48],SMD(Speed and Moving Direction)方 式[49]など,多くの検討がなされている[50]-[52].MD方式は,1 次元セル構成では優れた性能 を持つが,移動局がランダムに方向を変える2次元セル構成では課題が多い.SMD方式は,低 速で移動する場合への適用は性能がでるものの,移動局の速度が変化する場合の性能には課題が 多い.
2.7.2 自律分散制御型・ダイナミックチャネル割当方式
前節で述べた集中制御型のダイナミックチャネル割当方式はセル間干渉データなどを収集す る際に負荷が集中しやすく,そのデータの送受信速度も問題となる.また,昨今ではセル極小化 に伴って制御局が処理すべきデータ量は増加しており,短時間でデータを処理し最適なチャネル
割当てを行うことは困難である.
それに対し,自律分散制御型のダイナミックチャネル割当方式では,自局で測定したデータの みを用いてチャネル割当てを行うため,実用時間で制御用データ処理を行うことが可能である.
そのため,自律分散制御型のダイナミックチャネル割当方式が注目されている.
自律分散型ダイナミックチャネル割当て方式は各基地局が個別にチャネルの受信電力レベル と干渉電力レベルの比を測定し,その値がある閾値を超えていた場合にはチャネルを割当て,超 えていない場合にはチャネルを割当てないといった手順でチャネル割当を行う方式である.
以下にそれぞれの方式の特徴を述べる.
RP(再利用分割)方式
セル単位に繰り返し距離を定めていた静的(固定)割当の方式を変形して,セル内部に新たな セルを複数仮想的に設けることで,再利用距離の短いチャネルを割当てるRP(再利用分割:
Reuse Partitioning) [20] がある.つまり,セルの内側と外側では異なる再利用距離でチャネル 割当てを行う手法である.RPを発展させた自律分散ダイナミックチャネル割当て手法としてA RP(Autonomous Reuse Partitioning:自動再利用分割)方式,ACCA(All Channel Concentric Allocation)方式,SORP(Self-Organized Reuse Partitioning:自己組織化再利用分割)方式 等が提案されている.
ARP方式
ARP(Autonomous Reuse Partitioning:自動再利用分割)方式では,すべての基地局におい て,番号順にCIR(Career to Interference Ratio:信号対干渉電力の比)を満たすチャネル の検索・割当てを行う[59]-[63].すべての基地局で検索順が同一であるので,セルの内側の端末 には若い番号のチャネルが,外側の端末には大きな番号のチャネルが割当てられ,自律分散的に 再利用分割が行われる.
セルの内側で使用されているチャネルは干渉に強いものと判断し,周波数の再利用距離を短く する.それにより,ARP方式では周波数再利用距離の最適化が行われ,システム容量を増やす ことが可能である.
ARP方式では,求めるチャネルを見つけるまでの接続遅延をなるべく小さくすることが課題 である.
ACCA方式
ACCA(All Channel Concentric Allocation)方式では,あらかじめチャネル割当てに必要
定する[64].
ACCA方式では,あらかじめ各基地局における受信電界強度の分布を取得しておき,全ての セルにおいて基地局から同じくらいの距離にある移動局には同一チャネルが割当てられるよう に設定する必要があり,受信電界強度が逐時変化するような環境への適用は困難である.
チャネル棲み分け方式
特に経済的な観点から自律してチャネルを割り当てる方式としてチャネル棲み分け方式 [53]-[56]が提案されている.
この方式は,
・ 先ずチャネルごとに選択する順番を示す優先度関数を設定をし,
・ 各基地局は,チャネルを使用する前に,他の基地局のチャネル使用状況を調べ,
・ 任意のタイミングで優先度関数を変更・更新をし,
・ 呼が発生したときに,優先度関数値の高い順に,
チャネル割当てを行う方式である.
チャンネル棲み分け方式はダイナミックチャネル割当て法のひとつであり,自律分散制御型の 手法である.各セルの基地局ごとに 独自にチャネル割当てを行うため,基地局間通信の必要が なく,ネットワーク制御量が抑えられるという特徴を持っている.チャネル棲み分け方式のアル ゴリズムを図2−5に示す.呼が生起すると,優先度関数の値順にチャネルを選んでいき,次に チャネルを使用中か否かを記録しているテーブルを読む.そのチャネルが他局で使用していない か否かをキャリアセンスし,使用されていなければ呼に接続を行う.
優先度関数は,
・P:優先度関数
・Nt:チャネルを検索した回数(n=1,2,…)
・Ns:チャネルを使用できた回数(n=1,2,…)
として,式(2.6)のように定義されている.
P=Nt/Ns (2.6)
優先度の操作は以下のように行う.
・ チャネルが割り当てられた場合:
Nt+1, (2.7) Ns+1 (2.8)
・ チャネルが割当てられなかった場合:
Nt+1
とする.
優先度の高い順に チャネルを選択
選択したチャネルが 端末周辺で使用可能か
否かの判定
選択チャネルは 使用可能か?
チャネルの優先度を上げる 呼の生起
呼の接続
チャネルの優先度を下げる 次に優先度の高い チャネル候補を検索
呼の切断(呼損)
選択可能チャネル はあるか?
Y
N
Y N
出典:N.Sonetaka:“First Step In Dynamic Channel Assignment for Personal Handy Phone System”
IEICE Trans , Vol. E84-A, No.7, 2001より英文を和文へ変更
図2−5 チャネル棲み分け方式のアルゴリズム
このように優先度関数の更新を繰り返すことによって,学習効果が発生し,ある基地局と隣接 する基地局においてはそれぞれ別のチャネルの優先度関数値が高くなり,異なったチャネルが使 用されるようになる.また,ある基地局と干渉しない程度の距離がある基地局においては,同じ チャネルの優先度関数の値が高くなり,周波数再利用の効果が現れることになる.この状態を“チ ャネル棲み分け”ができたとしている.
TDMA/FDMAセルラーシステムにチャネル棲み分け方式を適用した際において,呼損率 が低くなることも報告されている[57]-[59] .
み分け方式とACCA方式のRPを組み合わせた方式である[65]-[66].SORP方式ではACC A方式と同様にチャネル優先度決定の際の情報(チャネルと基地局における受信電界強度)はあ らかじめテーブルに記録しておく必要があるが,一度テーブルに記録した情報は逐次平均化して 更新するという点がACCA方式とは異なる.使用可能なチャネルを検索する際にはこのテーブ ルを使用することで,チャネル検索速度の向上を図っている.また,基地局に近い移動局ほど高 いまたは低いチャネルを割当てするようにするという条件を設けることで,基地局同士の情報交 換は行わずにRPが達成される.
遺伝的アルゴリズムを使用した割当方式
近年,遺伝的アルゴリズムを情報通信分野の最適化問題を解決するアルゴリズムとして扱う検 討が多々成されている.遺伝的アルゴリズムとは,生物進化の過程を真似て作られたアルゴリズ ムで,確率的探索と学習により少ない計算量で最適化問題を解こうとする手法である[67]-[69].
図2−6に遺伝的アルゴリズムを示す.
1. 初期集団の生成
ランダムに設定した個数の親(染色体)を生成する 2. 適応度評価
事前にある評価関数を定めておき,評価関数の値により個体を評価する.評価値を適応度 とする.
3. 選択
適応度の高い親の個体(染色体)を選択する 4. 交叉
2 つの親の個体の染色体組み換えを行い,子孫の染色体を生成する 5. 突然変異
ある一定確率で染色体の一部の値を変更する操作を行う 6. 終了条件
この条件を満たすまで世代交代を繰り返し行う
遺伝的アルゴリズムをチャネル割当て問題に適用すると従来手法よりも少ない計算量で問題 を解くことができる.
初期集団の生成
適応度計算
終了条件
終了 データ入力
データ作成 Y
N
選択
選択
選択
出典:仙石正和:“自動車電話の周波数有効利用−チャネルの割当アルゴリズム−”,
信学誌,Vol.69,No.4,pp.350-356,1986.より抜粋、加筆修正
図2−6 遺伝的アルゴリズム
チャネル割当てに遺伝的アルゴリズムを使用して解を求める手法では染色体で表現され,解の 候補として使用されている.各チャネルを遺伝子に見立て,その集合である染色体として表すも のや,基地局と各チャネルとの対応関係を 0 と 1 で作りその集合の染色体として表すものチャネ ル割当ての順序を染色体として表すもの等がある.しかしながら,この方式では最適解や許容解 まで収束するのに時間がかかる課題がある[70].
2.8 各方式の比較(まとめ)
以上の結果より,移動通信システムにおいて,
集中制御方式は,あらかじめ干渉テーブルなどを作成し,相互に管理する必要があることやトラ フィックが集中する時間帯ではチャネルを制御するための制御信号がシステムの負荷となるな どの課題があり,方式によっては,チャネル割当にかかる時間とキャリアセンスの試行回数が多
① 加入者の流入によってセル内の状況に大きな変化がない
② セル構築が全て完了して,その後に変化がない
③ あらかじめ隣接するセルの干渉状態が把握できている 場合においては,集中制御方式が有効な手段であることが分かる.
その一方で,自律分散制御方式は,
④ 加入者の空間分布が不均一
⑤ チャネル使用状況が空間的、時間的に不均一
⑥ 伝送路状態が常に変化し,時間的に不均一
において,あらかじめセル内および間の干渉状態が把握しきれない,
⑦ 且つ,セル構成の増減が予定なく発生する 場合においても,有利であることが分かる.
また,RP方式は,大きなトラフィック収容能力がある一方で基地局にて受信される移動局の 信号レベルと割当チャネルの関係を予め設計しておく必要があり,且つ多くのチャネルを検索す る必要もあり,周囲の基地局に放送用制御チャネルを設ける必要があるなどそれぞれ課題がある.
これらの課題の多くを解決する方式として,事前の回線設計や全てのチャネルの検索の必要が無 いチャネル棲み分け方式が現在の移動システムには優位であることが分かる.
2.9 チャネル棲み分け方式の実運用時におけるチャネル割当の振る舞い 前節で述べたように,実際の移動通信システムを考えた場合,
① 加入者の空間分布が不均一
② チャネル使用状況が空間的、時間的に不均一
③ 伝送路状態が常に変化し,時間的に不均一
の環境下において,チャネル棲み分け方式を採用することが有効であるが,提案方式の多くは,
計算機シミュレータのみで検討が進められており,実用化のための報告はなされていない.本節 ではその理由を明確にするため,チャネル棲み分け方式を実際のシステムに適用した場合のチャ ネル割当の振る舞いを述べ,課題を明らかにする.
図2−7にチャネル棲み分け方式の実運用時における振る舞いを示す.
実データは,3 章で述べる実運用時のセル構成で各セルが重なり合い(所謂オーバーラップ), 理想的なハニカム構造をしたセル構成ではない条件下で棲み分け方式[53]-[56]を動作させた場 合の実測データである.システムは第2世代コードレス電話システム(ARIB RCR-STD28:PHS)[78]
を使用、標準に従って,1 チャネルは 1895.150MHz で次チャネルは 300KHz 離れの 1895.450MHz で続き,1917.950MHz が 77 チャネルである.
10 20 30 40 50 60 70
10 20 30 40 50 60 70
10 20 30 40 50 60 70
①最初に割当たチャネル
②割当チャネル変更
③新たなチャネル割当群
④更に新たなチャネル割当群
実運用時のセル構成(図3−3)内データ図3−5のNMSで観測
周波数(チャネル):1ch:1895.150MHz、300KHz離れ
(a)
(b)
(c)
実データ 解析データ
図2−7 チャネル棲み分け方式の実運用時における振る舞い
図2−7(a)に示すとおり,先ず①の 48 チャネルおよび 50,51 チャネルの3チャネルをチャ ネル割当の候補としていたが,時間の経過とともに②の 18 から 20 チャネルに割当候補が移動し ていることが分かる.図2−7(b)でも明らかなように,20 チャネル付近から 30 チャネル付 近へチャネル割当群が移動,図2−7(c)からも分かるように 40 から 50 チャネルへチャネル 割当群は更に移動していることがわかる.
使用できるチャネルを帯域一杯の 1〜77 チャネルを確保しているにもかかわらずチャネルは 棲み分けされずにチャネル割当を継続し続けることがこの実運用データから分かる.実環境では,
空間的あるいは時間的な変動条件が把握できないためにこのような結果になっているとも考え られる.計算機シミュレーション上では効果が示されているダイナミックチャネル割当方式「チ ャネル棲み分け方式」ではあるが,実用化にあっては,あらかじめ把握できない環境下でも安定 して動作する方式でなければならないため,実用化の事例がないものと思われる.
2.10 あとがき
以上説明してきたように,周波数を経済的に有効活用する方法として,帯域利用技術と空間的 利用技術,時間的利用技術の特徴を生かしたセル構造化とチャネル割当技術を組み合わせた方式 が有効であることを示した.また,加入者の空間分布が不均一で,且つチャネル使用状況が空間 的、時間的に不均一,伝送路状態が常に変化し,時間的に不均一な移動通信システムにおいては,
静的(固定)割当よりも動的割当が移動による不均一性を担保する方法として優れており,その 中でも集中制御よりも自律分散制御が望ましいことも示した.更に,自律分散制御においては,
セル単位に繰り返し距離を定めていた静的(固定)割当方式を変形して,小セルを設けて繰り返 し距離の短いチャネルを配分するRP(Reuse Partitioning)の各方式を比較した.各々のRP方 式には基地局において受信される移動機の信号レベルと割当チャネルとの関係を予め設計して おく必要性や設定したチャネル全てを検索する必要性,周囲の基地局に放送用制御チャネルを設 ける必要性などがある.これらの課題の多くを解決する方式として,事前の回線設計や全てのチ ャネルの検索の必要が無いチャネル棲み分け方式が現在の移動システムには優位であることを 明らかにした.
また,本章では,チャネル棲み分け割当方式を実際の運用システムとして第2世代コードレス 電話システムに採用した場合の実験データを示し,実用化のための考察も行い,課題を明らかに した.
最近の報告では,RP方式とチャネル棲み分け方式を組み合わせた方式[71]も提案されている が,どれも決定的な割当方式として実用化には至っていない.
今後は更に実用化に耐えうるチャネル棲み分け方式の提案が望まれる.