177 1.はじめに
日本語の学習者が基礎的な文法を習得し,語彙・表現などの知識が増えて中級以上の段 階にさしかかると,日本語母語話者のように新聞や小説を読んでみたいという希望を持つ ようになる。それまで教科書の文章のほか,さまざまな種類の文章を読んでいると思われ るが,学生たちにとって「新聞を読む」ことは一つの明確な目標になっている。
新聞を読む上で難しい点は,独特の形式,語彙,記事内容の背景知識などがあげられ る。確かに「派閥の領袖」という言葉は政治面の記事以外では目にすることがないし,オ バマ氏の広島訪問というニュースは,第二次大戦からの経緯を知らなければ日本社会に とって重要なニュースだとは思えないだろう。クラスは
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レベルの設定で,上述したよ うな新聞読解の難しい点,あるいは新聞記事の特徴をふまえ,読むための基本的な技術を 身につけて生の新聞を読み解くという活動を中心にしている。
2.授業の概要
学習活動は以下のとおりである。①新聞独特の形式を知る。②記事の特徴を含む代表的 な例を読んで練習し,次に最近の記事を読む。③学生が関心を持った記事を紹介する。
コースの始めには①を中心に練習する。具体的には内田他『構成・特徴・分野から学ぶ 新聞の読解』を参考に,新聞の構成や特徴を知り,読む練習を段階的に進める。例えば新 聞は見出し,リード(前文),本文など定型の構成になっているが,それぞれの関連付け を見て,内容を把握する。また,第
1
面,国際面など新聞1
紙全体の編集を見て,知りた いニュースを探したり,情報をまとめたりする活動をペアまたはグループで行う。形式の練習に慣れてきたら,②の記事の特徴を重視した練習に進む。その一つに,ある テーマについて異なる観点から取り上げられた記事が同時に複数の面にわたって載ること がある。例えば宇宙開発というテーマでは,第
1
面にロケット打ち上げの時間,場所,宇 宙飛行士の名前など一般的な情報があり,科学面には宇宙での実験の内容などが書かれて いる。社会面には宇宙飛行士の出身地や家族の談話などが出ており,これらを読んで紙面 の違いを学ぶ。もし話題の人物について知りたければ,社会面を開くというように自分で 読むときの選択ができるようになる。②ではこのほか「第一報と続報」の練習を行う。大きな事件・事故のニュースがある と,即座に発行される記事(号外など)に始まり,時間の経過に従って明らかになった
早稲田日本語教育実践研究 第 5 号 【実践紹介】
読みに習熟し,社会を知る
草野 宗子
科目名:日本の新聞を読もう
レベル:初級 1・2 /中級 3・4・5 /上級 6・7 ・8 履修者数:35 名
早稲田日本語教育実践研究 第 5 号/ 2017 / 177―178
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情報を載せた続報が出される。この練習では「東日本大震災」を扱っている。選んだ理由 は,時系列でどのように報道するかを知るためと,他に類がないほど日本社会に甚大な影 響を与えた災害だったためである。「号外」「第一報」「続報」と進むと,巨大な活字,写 真,死傷者数などのデータの更新,図,分析・解説など他の記事にはない内容が次々に出 てくる。新聞に特有の形式を学んで読むという当初の目的から,次第に記事の内容に深く 切り込む読みに変わっていく。災害への対策はどうか,自治体や政府の支援は等,教師が 水を向けなくても学生たちは真剣に考えるようになる。
毎週クラスの始めに数分間,媒体は新聞に限定せず,学生が関心を持ったニュースにつ いて話す時間を設けている。以前ある学生が最近のニュースは知らないと言ったので危機 感を持ったからである。少しでも社会に目を向けるように,毎回数人ずつ話している。ま た③の課題として,関心を持った新聞記事を選び,内容の要約と選んだ理由,記事に対す る意見をまとめて提出させている。以下の見出しはその例である(
16
年春学期)。「
EU
分断 西側世界裂く」16
年7
月3
日 日本經濟新聞 1面 「待機児童深刻2
万3 , 000
人」16
年7
月5
日 読売新聞 34面 「沖縄女性不明 元米兵逮捕」16
年5
月20
日 朝日新聞 1面「サンダース旋風 米の苦悩映す」
16
年6
月21
日 朝日新聞 国際15
面他にも学生が選んだ記事はバラエティに富み,幅広く読んでいることがうかがえる。選 んだ理由や意見を見ると,「日本は少子化なので保育園の問題がないと思っていた(アメ リカ,女子)」とか,「沖縄の在日米軍がたびたび事件を起こすが,なぜまた起こるのか,
日本政府は日米関係を重視するため解決できないのでは(中国,男子)」など新たな発見 があり,考えが深まっている様子が表れている。
3.今後の課題
今の学生たちは,日常的にスマホを使ってネットに接続し,ニュースなどの情報を得て いる。速報性が利点であるが,ヘッドラインは新聞に比べて少ない上に,情報の選択が恣 意的になりやすい。知ってほしいのは,新聞に限らず,ネットやテレビなど,それぞれの 媒体の特徴を知り,意識的に複数の媒体から情報を得るのが重要だということである。
問題点として,語彙,特に漢語は非漢字圏学習者にとって高いハードルになっている。
授業中に日本人学生ボランティアに学習の支援をしてもらっているが,うまく機能している とはいえない。もう一つは,毎学期受講者が多いので,教師が個々の学生の学習活動を充 分サポートできていないことである。充実した学習活動ができるクラス設計が望まれる。
参考文献
内田安伊子・内田紀子(2008)『構成・特徴・分野から学ぶ新聞の読解』スリーエーネットワーク
(くさの むねこ,早稲田大学日本語教育研究センター)