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日本語学習者が日本語読解教材から受ける影響 : 読解内容を知る上でのPAC分析法の有効性

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(1)日本語学習者が日本語読解教材から受ける影響 一読解内容を知る上でのPAC分析法の有効性一 丸山 千歌. 【キーワード】質的研究、PAC分析、学習者、日本語教科書、影響. 1.はじめに  近年、英語教育や日本語教育をはじめとする外国語教育は、より実践的 コミュニケーション能力の育成に焦点を当てるようになってきている。言 語使用において文化を無視したコミュニケーションは成立しないことを鑑 みると、言語教師が教育実践において、文化という要素をどのように、ど こまで取り入れるのかということを、教材、授業、教師、学習者などの観 点から複眼的に議論することが必要である。.  教材については、今日、教科書やメディアにおける様々な対象の描かれ 方が、読み手に対して問題のあるメッセージを送っていることが意識・批 判されるようになったことで、日本語教育においても、野呂他(2001)の クリティカル・ディスコース・アナリシスなど、教材開発の指針となりう. る研究が盛んになっているが、読み教材などの開発へと発展させるには学 習者への影響についての検証が待たれる段階にある。また、授業・教師、 学習者については、福永他(2004)や館岡他(2005)のような、学習者の学び. のメカニズム解明ための研究も始まっているが、方法論が確立していない ために記述的・事例的な内容にとどまり、教育実践における指針の提供に までは至っていない。このような研究の発展が遅れている背景には、アン ケート調査では情報が不十分でインタビュー調査が必要になる上、インタ ビュー調査が実施できたとしても、そこに表れた情報を客観的に分析する. ことの難しさを伴うという課題があると考えられる。質的調査であり、か つ客観性を持った調査法が必要となる。  以上の課題にとりくむべく、本稿は、Personal Attitude Construct分析法. (個人別態度構造、PAC分析法)を用いて、学習者がテキストを読み、. 一145一.

(2) 感じたことを、PAC分析の記述法に則って整理し、そこから教材が学習 者に与える影響について、考察を試みるとともに、今回の研究にPAC分 析を活用することの有効性を検討する。. 2.PAC分析について  PAC分析法は社会心理学と臨床心理学の両方の知見を持つ内藤i(1993) によって開発された手法で、「当該テーマに関する自由連想(アクセス)、. 連想項目間の類似度評定、類似度距離行列によるクラスター分析、被検者 によるクラスター構造のイメージや解釈の報告、実験者による総合的解釈 を通じて、個人ごとに態度やイメージの構造を分析する方法」(内藤、2002). である。末田(2001)は研究にPACを用いる利点を以下の3点に整理し ている。. (a)量的研究と質的研究の各々の利点を掛け合わせた手法である。 (b)調査者は、調査者自身の枠組みで調査協力者を理解するのではなく、.   調査協力者の枠組みを用いて調査協力者の体験を理解しようとする。. (c)PAC分析法による調査協力者の報告とその解釈はデンドログラム   に基づくので、分析の再現性が高く単独でも信頼性や相互関連的な   信頼性が高い。. すなわち、調査協力者の感覚的で自由な発想への制限を可能なかぎり外し た手法であり、かつ客観性・再現性が高い質的研究の手法であるという点 に利点がある。.  内藤(2000)は留学生の孤独感についてのPAC分析に関する論文であ る。論文で、考察において調査協力者の特有性に沿って命名した図式を、 より一般的な外国人留学生という枠組みに沿って読み替えると、 「外国人 留学生の孤独感とその解消」としてのある種の典型例とみなすことができ、. 「多種多様な変数が複合され統合された孤独感の構造を個人別に分析でき. ること、普遍的なメカニズムを発見できることを示唆している」と述べて. いる。これは、PAC分析は個別性の分析であるとともに、たとえ1事例 であってもある種の典型としての普遍的法則を見いだせることが意味して. いる(内藤、2005:12)。この点からPAC分析は事例的研究を理論へと 発展させる可能性を持った手法であることが期待できる。. 一146一.

(3)  PAC分析を用いた日本語教育関連の研究は、日本語学習者の授業観 (安・渡辺・割田、1995)の他、最近は日本語教師養成に関連する研究(横. 林、2004、安・渡辺・内藤、2004)で活用される傾向にあるが、日本語教 材と学習者との関連を解明するための活用例はまだない。. 3.方法 3−1.調査協力者  本稿が報告する調査協力者は、オセアニア地域iからの1年間の短期交換 留学生である。専攻は日本語と政治学で、日本語学習歴が高校で2年間(週. 3時間)、大学で2年半(週6時間)ある。2001年1,月から6ヶ月間、交i換 留学で高校に留学し、ホームステイの経験がある。日本語運用力は中級後. 半レベルで、4技能のうち、口頭運用力がやや高い。調査協力者1名の事 例について報告する論拠は先述の内藤i(2000)にある。. 3−2.調査の手続き  調査は2006年1,月に、筆者の研究室で筆者が実施した。調査時間は約3時 間である。筆者は、本学の留学生を対象とする日本語教育に従事しており、. 授業科目や交換留学プログラムの関係職務から調査協力者と日常的な交流 があり、ラポールが形成されている。.  PAC分析を利用する意図と実施法を説明し、 PACの手続に従い、調査 協力者のイメージを分析し、調査協力者がテキストの刺激から発想するも のを明らかにする目的で調査を進めた。調査協力者が踏んだ手順は以下の 通りである。.  (a)テキストが与えられる.    日本語の教科書に掲載されている読み物を読む。テキストの日本    語のレベルは中級前半で、辞書が必要かと思われるものについて    は簡単な語彙リストが付されているので、調査協力者の日本語運    用力で容易に読むことができるii。  (b)連想刺激文が与えられる.    調査協力者が与えられた連想刺激文iiiは以下のようなものである。. 一147∼.

(4)     「これは外国人のための目本語の教科書です。あなたはこの文章     に書かれている日本について\どう感じましたか。あなたの感じ.    たことを、言葉やイメージで表してください。書く時には思いっ    いた順に、順位の番号をつけてください。」この連想刺激文は、.    紙面に書いた形で渡されると同時に、調査者により口頭でも与え     られる。.   (c)思いつくままに連想したことばを1語ずつ1枚のカードに書く.     用意したカード10枚を渡し、思いついた順に1語ずつ1枚のカー     ドに書く。.   (d)カードを重要な順に並べる.    想起順になっている(c)のカードを、重要度順で並べ替える。.   (e)カードの組み合わせのイメージの近さを直感的に7段階で評価     する.     カードを2枚ずつ選び、直感的なイメージで、各ペアがどの程度類    恥しているかについて、「非常に近い(1)」から「非常に遠い(7)」.     までの7段階で評価を行う。   (f)デンドログラムに基づいたインタビューを受ける.    調査協力者の休憩中に、筆者が作成したデンドログラム(次節図     1)ivを見ながら、インタビューを受ける。具体的には、まとまり.    を持つクラスターとして解釈できそうなグループを調査協力者が    提示し、まとまりだと思う理由やクラスター間の関係、各項目の    イメージなどを質問に答える形で説明をする。  (g)各連想項目のイメージ(プラスかマイナスか)を評価する.    各連想項目の単独のイメージが直感的にプラス(+)、マイナス     (一)、どちらともいえない(0)のいずれに該当するかを答え    る。.  なお、調査は調査協力者の許可を得て、テープレコーダーに録音した。. 使用言語は、本来は調査協力者が思っていることが自由に表現できるよう 母語で行うことが適切であるとされているvが、今回は本人の希望により日. 本語で行うことになり、表現が不十分であると調査協力者が判断したとき に適宜母語(英語)を使用するという形式をとった。. 一148一.

(5) 4.結果  クラスター分析の結果は図1のとおりである。10項目のうちプラス項目 は2項目、マイナス項目は4項目、0(どちらでもない)項目は4項目で、全. 体的には提示された文章に書かれている日本についてのイメージは中立 またはマイナスが強く、プラスが弱い。              CASE             Lavel.   0       5      10      15      20      25. Num一十. トイレのスリッパはおかしい(十)        7. ブランド物はどうして人気があるのかわからない(一)9 留学生だからブランドのものを買うのは大変(0) ブランドのものはお金がかかりすぎる(一). ・・…. 5. 6. 日本人にとってブランド物大切(一). 2. お金持ち(0). 3. ベティと同じ感じがある。ブランドが多い(0). 1. お母さんががっかりしたのは失礼(一). 4. Handmade goods are better*. 8. さびしい(一). @。・・・… CL1. 10. ・・…. @。・・。・・。・。。。… 。。・CL2. ・●・・・・・・… @ 。・。…  ●…  ●・…  。・。・・CL3. 図1調査協力者のデンドログラム ーテキストから感じる日本のイメージー         (1)左の数値は重要順位.         (2)各項目末の()内の符号は単独でのイメージ    *Handmade goods are better because there is more thought put into buy孟ng them.. 4−1.調査協力者によるクラスターの解釈vi  (クラスター1について). クラスター1は「トイレのスリッパおかしい」と「ブランド品はどうして 人気があるかわからない」の2項目であるvii。何でもブランド品を買うのは、. ちょっとおかしい。すごくお金がかかるけどトイレのスリッパだけ(まで 買うのかわからない)。あと、どうしてみんな同じものが欲しいのかわか んない。スタイルがあるお金持ちはいいけどみんなと同じだから(ブラン ドを買うのは)スタイルじゃない。たぶん英語で”Follow like sheep””Look like sheep”, It means like you just want to look the same. Not individual。. 一149一.

(6)  (クラスター2について). クラスター2は「留学生だからブランドの物を買うのは大変」から「ベテ ィーと同じ感じがある。ブランドが多い」までの5項目であるviii。 (この. 5項目についての共通点として考えられる)一番は「お金」。 (ブランド. は)すごくお金がかかるけどみんなお金持ちじゃない。お金持ちそうだけ ど、お金持ちじゃない。学生はどこからそのお金がもらう、ブランド服が. 買えるのは、ちょっとわかんない。あと、お金持ちはどうして違うものが 買えないのか、違うブランドとかindividua1(なものとか)。お金持ちだっ. たらみんなと違う物、自分のイメージに合うもの(高くても、高くなくて も)を買えばいい。たぶんみんな金持ちというイメージがほしい。若い女 性は彼が欲しいので、 (ブランドのものを持つのは)自分のスタイルでは. なく金持ちイメージが大切だからだと思う。ブランドの物(品質)が大切 じゃなくて、イメージが大切。留学生はお金持ちじゃないし、あとブラン ド品も大切じゃない、ふつうの留学生は(日本人と)ちょっと違う。ルイ・ ヴィトンは、毎日、何人も、みんな持ってる(のを見る)。 (特にルイ・. ヴィトンの財布は)20くらい誕生日プレゼントとか卒業プレゼントとか、 おばあちゃんからのプレゼントとか、みんな(そういう)イメージがある。. (このイメージは)XXX(国名)iXにいるときから、日本人はブランドが好. きだと思っていた。そのイメージはテレビと映画である。旅行番組で東京 に行く(取材する)とき、銀座とかそんなへんに行くと、店ばっかりある。. 日本に来た後でそのイメージがすごく強くなった。どこでもブランドの店 がある。デパートでもどこでも、ちつちゃい町でも。 (それでブランドが あるイメージが)強くなった。(前はみんなはブランド(の品質)が好き。. でも今はブランドのイメージが好き(だし)ほしい(と思っている)。ブ ランドの物は(品質としては)まあまあ(だが)、そのイメージ大切。  (クラスター3について). クラスター3は「お母さんががっかりしたのは失礼」から「さびしい」ま でであるx。たぶんベティーさんはすごく長い時間(お母さんに何がいいか). 考えて、それを買った。 (買ったとき)たぶんすごいうれしかった。お母. さんにあげたとき、お母さんの顔はたぶんあまり本当(にうれしそう)じ ゃなくて、ベティーはすごいさびしかったと思う。 (これは)すごい失礼 だと思います。 (お母さんの態度は)あまり好きじゃない。たぶん、その. 一150一.

(7) お母さんはあまり海外旅行(の経験)がないので何か海外のお土産が欲し かった。ブランド品は、日本人なら普通のお土産だ。たぶん初めての外国 人からお土産をもらったから、日本人と同じプレゼント(を期待していた)。. でも、留学生は金がないし、ブランドそんな大切にしなかったし、 (そう. いった日本の事情を)知らなかったので、たぶんお母さんはちょっとナイ ーブ。だからちょっとさびしくなる、ちょっとお母さんの気持ちが分かっ たけど。. 4−2.クラスター間の関係について (クラスター1とクラスター2の比較).  クラスター1とクラスター2の共通点は、ブランドはとても人気がある ということとブランドは日本人にとって(ブランドは)大切(だというこ. と)。違うところは、トイレのスリッパ。トイレで履くだけ(の用途しか ない)から、They(=留学生)would never thinking of toilet slippers.トイレ. のスリッパのことなんて考えない。このようなことを考えるのは(読み物 の)お母さんだけ。. (クラスター2とクラスター3の比較).  クラスター2とクラスター3の共通点は、ブランドの物はお金がかかる、 かかりすぎるということと、Handmade goods are better、手作りのものはお. 金がかからないけどすごく心から買うものだということ。そして、留学生 はお金が大変なので、手作りのものを買った方がいい。違う点は、 (XXX (国名)の人は)お金持ちでも、たぶんHandmade goodsが好き、They are not exclusive、 you can be rich and like handbag, handy goods。. (クラスター3とクラスター1の比較). クラスター3とクラスター1の共通点は、お母さんの気持ち、つまりブラ ンドの物が好きという気持ちである。大好きだから、手作りのものをもら ったとき失礼だった。違う点は、ブランドが好きということと、さびしい ことは関係がないという点。. 一151一.

(8) 4−3.補足質問 「トイレのスリッパおかしい」:どうしてブランドのトイレのスリッパ欲  しいか。トイレのスリッパでしかないのに、お金をかけるのはおかしい。  意味がない。. 「日本人にとってブランドのものが大切」:目本に来て電車に乗るとき、   (何人ブランドの物を持っているか)数える。ほんとに、若い人から年.  寄りまでみんな、いろいろな人が持っている。一つのタイプだけじゃな  い。買い物行くときおばあちゃん、公園、駅、高島屋のおばあちゃん。  高校生も(リュック)サックの中にルイ・ヴィトン、あとおじいちゃん  もそういう人がいる。女性の方が見て分かるけど男性も持っている。(お.  年よりは)たぶん子供たちはいない、結婚したのでちょっとお金がある  のでお年よりも今好きなものが買える。 「お金持ち」:お金持ちそうという意味。 (実際)本当にお金持ちかはわ.  かんない。ほんとにわかんない。お金持ちそうということ。 「さびしい」’:ベティーの気持ち。どの国の人でも、プレゼントをあげた.  時、相手ががっかりするのはさびしいね。どこでも誰でも(相手が)日  本人だからではない。心からのプレゼントだから。. 4−4.図1の総合的解釈  調査協力者はクラスター1を「bland overload」と命名した。調査協力者. はブランドの物がどうして人気があるのか理解できないという考えの持ち 主である。この読み物を読み、インタビューからは調査協力者が通学途中 などの電車の車両の中に、ブランド品を持っている人がどのくらいいるか 数えると述べており、日本人のブランド志向に対し普段から高い関心を寄 せているようである。今回の読解教材を読み、日常生活の中で、調度品や 嗜好品とはことなり、ただ限定された用途しか持たないトイレのスリッパ にまでブランド品を使うことに対し、過剰使用であると反応した。生活の 細部にまで行き渡るブランド志向に驚きを表し、本人の生活スタイルでは なく、”Follow like sheep”、”It means like you just want to look the same, not. individual”すなわち、個がないと批判した。この読み物により、調査協力者. が持っている日本人のブランド志向のイメージを強化する刺激を受けたこ. 一152一.

(9) とが示唆される。クラスターの単独イメージはマイナスが1項目、プラス が1項目で、ブランド志向を批判しつつも、トイレのスリッパにまでブラ ンド品を使うということを調査協力者は新発見であったと感じた。それで 「トイレのスリッパ(にブランド品を使うのは)おかしい」ことを肯定的 に評価し、クラスター1は結果的に中間的な評価となっている。  次に、調査協力者はクラスター2を「wasting money、ブランド」と命名 した。調査協力者は、全員がお金持ちであるわけではないのだから、ブラ. ンド品を使うことは「すごくお金がかかる」のでお金の浪費であるはずな のに、 「毎日、何人も、みんな持ってる」。それぞれが自分のイメージに. あったものを選べばいいのにブランド品を使うのは、おそらく「みんな金 持ちのイメージがほしい」のだろうと分析し、留学生にはこのような価値 観はないと述べた。また、このブランド志向の背景には、品質ではなく、 ブランドのイメージ(高級感)への志向があると考えている。さらに、日. 本人のブランド志向は調査協力者の国の旅行番組などで紹介される日本の 映像や情報から感じていたが、留学してそのイメージがさらに強化された と述べている。このクラスターは、読み教材の主人公ベティーの経験と感 情に同調しており、ベティーの考えを代弁しているように解釈できる。ク. ラスターの単独イメージはマイナスが2項目、0(どちらでもない)が3 項目となっており、やや批判的な評価が表れている。.  最後に、調査協力者はクラスター3を「失礼」と命名した。ホストファ ミリーとの出会いの場で渡すものなので、読み教材に出てくるベティーの. お土産は想像力と気を遣った、心のこもったもののはずである。そのお土 産を受け取ったときに「お母さん」が消極的な評価を表情に出すのは、日 本人か否かの問題ではなく、人として「失礼」であり、ベティーは「さび しい」と感じたはずだと述べた。クラスターの単独イメージは2項目xiは、. マイナスが1項目、0(どちらでもない)が1項目で、やや批判的な評価 が表れている。.  図1のデンドログラムで見ると、クラスター1の調査協力者の実地の観’. 察と「読解」という経験による日本のブランド志向の状況把握「bland overload」は、クラスター2のべティーの考えを代弁したように解釈できる、. 日本のブランド志向への評価「wasting money、ブランド」と結節し、これ. がさらにクラスタ「一3のホストファミリーでベティーが経験した出来事へ. 一153一.

(10) の裁断である「失礼」と結節する。読み教材からの情報と調査協力者の経 験を駆使した状況把握に基づいて状況への評価を行い、最終的に裁断を下 すという構造が表れていると解釈できよう。. 5.考察  ここまでPAC分析法を用いて、日本語読解教材から学習者が感じたこ とを見てきた。これにより、日本語学習者が教材として与えられた情報か ら感じているものの構造に近づくことができる。また、アンケ「トや質疑 応答型のインタビューのように調査者自身の枠組みで調査協力者を理解す るのではなく、調査協力者の枠組みを活用して調査協力者の感じているこ. とを引き出すことで、学習者の体験を活用して読みを深めたり、読み教材 から影響を受けたりしている様子が観察される。調査協力者の発話からは、. 母国でのステレオタイプ的なメディア情報が留学生活の中で検証されてい ることが明らかになり、日本人の生活を覗かせた日本語読解教材の、生活 の細部にまでブランド品が行き渡っているという記述が、さらに調査協力 者の日本人のブランド志向のイメージを強化していることが観察された。. またブランド品ではないお土産に対する消極的な評価を表情に表す「お母 さん」の描写は、誰に対しても失礼な態度であるという評価を受けている. が、同時に「ブランド品は、日本人なら普通のお土産だ」ということを想 起させるきっかけを作っている。  恒吉(2001:2)は「内容分析的視点から日本語教材を見た時、それは「日. 本語」の教材の書であると同時に、日本社会や文化関係の題材を用いた場 合は、留学生が最初に触れる、まとまった「日本・日本人について」の書 の一つである」と指摘し、日本語教材が「日本画面だけでなく、留学生に 日本や日本人に関して暗黙のメッセージを送るものとして当然吟味される. 必要がある」と述べているが、本稿が観察した上述のような事象は、まさ に恒吉が指摘するところである。日本語教材が発する情報の中身は学習者 の「日本・日本人」のイメージに影響を与えている。.  日本語教育では、教科書開発だけでなく、情報の「鮮度」を追求し、生 教材を採用した教材を開発することが頻繁にある。しかし、教材としての 採用の可否判断の客観的根拠となるのは、学習者のニーズや関心、日本語. 一154一.

(11) レベル等しかない。極端なステレオタイプを内包した教材であれ、国際的 感情に抵触するかもしれない政治的・歴史的問題を扱う教材であれ、教育 機関も担当教師も、上記の指針と担当教師の経験知のみで教材としての採 用の可否を判断しているのが現状である。普遍性につながるような手法に よる教材と学習者の関連に着目した研究を深め、教材論、教師論に貢献す る理論が構築されることが期待される。.  今回の分析は、客観性と再現性の高さを保ち、調査協力者の枠組みを活. 用するPAC分析法が、教材と学習者の関連を探る研究を進めていく上で 有用な手法であることを示唆する。しかし、今回観察されたことは、極端 な情報を教材に盛り込まないという単純な教材論へと発展させるのではな く、学習者の属性、すなわち学習者要因との関連や情報の提示のしかたと の関連などを明らかにしながら、議論を進めていくべきものである。今後、. 学習者が日本語教材から受ける影響についてPAC分析法の活用方法を洗 練させっっ、日本語教材から受ける影響と学習者要因の相関の解明の可能 性を探りたい。. *本研究は、平成17年度学内若手研究助成「日本語教育が発信する日本・ 日本語の基礎研究」の成果の一部である。. 注 i今回のPAC分析に採用した読み教材が英語圏の学習者対象の日本語中級教科 書であったので、英語圏の日本学習者に調査協力を依頼した。 ii. eキストの選定は筆者と共同研究者(ノJ澤伊久美 国際基督教大学 日本語教. 育課程)の2名で、日本語のレベル、内容、教材の普及度などの観点から行った。 本調査で採用したのは、三浦・マグロイン(1994)”An Integrated Approach to Intermediate Japanese”The Japan Timesの第8課の速読の文章である。 rブラ. ンド志向」というタイトルで、日本人の家庭にホームステイをした留学生ベティ ーの体験が綴られている。来日前にホストファミリーの家族それぞれにおみやげ を準備した。しかし、お母さんに手作りのバックをあげたところ、あまり喜ばれ ずがっかりする。その後、そのお母さんがトイレのスリッパまでブランド品を使 うほどのブランド志向であったことに気づくという内容である。本稿は、読解教. 一155一.

(12) 材が学習者に与える影響を観察することが目的なので、観察しやすさを優先しス テレオタイプ性の高い内容のものを採用した。. 皿刺激文は、共同研究者と2名で検討した。 並(e)に基づいて作成された類似度距離行列に基づき、筆者がウォード法でクラ スター分析行った結果析出されたデンドログラム(樹形図)。ウォード法は階層的 クラスター分析の方法の一つである。. ・2005年5,月27日異文幽間教育学会プレセミナーでの講義(講師:井上孝代・ 末田清子・伊藤i武彦)に基づく。. 煽末田(2001)、内藤(2005)のように、PAC分析法は調査協力者の発話内容を 可能なかぎりそのまま掲載する。これは調査協力者の語り口が、心の内面を探索 し、明確化するプロセスとたどる唯一の客観的資料となるからである(内藤、2005)。. 本稿もこれに倣い、調査協力者の語り口がわかるように記述する。口語表現はそ のままとしたが、文法上の誤りは修正した。()内は調査協力者の発話内容を理 解するために必要だと思われる補足晴報を筆者が加筆した部分である。 vii「 」内は、調査手順(C)で調査協力者がカードに書き込んだ内容である。 轍 「 」内は、調査手順(c)で調査協力者がカードに書き込んだ内容である。. ixこれは国名の情報である。これを書くことで、調査協力者を限定できないよう にするため、㎜とした。. x「 」内は、調査手順(c)で調査協力者がカードに書き込んだ内容である。 クラスター3のうち、2つめの’T【andmade goods are better because there is more. thought put into buying the㎡’を、調査協力者はクラスター2の「留学生だから. ブランドの物を買うのは大変」という項目に近いと述べた。PAC分析法は、こ のような場合は、調査協力者の意思を受け入れ、そのままインタビューを続ける. (2005年5月27日異文七二教育学会プレセミナーでの講義(講師:井上孝代・ 末田清子・伊藤武彦)に基づく)。 xi. 高Uを参照. 一156一.

(13) 参考文献 安龍沫・渡辺文夫・上田いずみ、1995、「韓国人日本語学習者の授業観の   分析一授業に対する認知的変容についての事例的研究司 『東北大三文   学部日本語学科論集』第5号、東北大学、pp.1−12. 安旧株・渡辺文夫・内藤哲雄、2004、「日本語学習者と日本人日本語教師  の授:業の比較一個人別多度構造分析法(PAC)による事例研究一」『茨.  城大学留学生センター紀要』茨城大学、pp.49−59 小川めぐみ、2002、 「英語教育におけるステレオタイプ:教材、授業、教   師の関係」『鳴門英語研究』鳴門教育大学、pp.39−48 金本節子、1988、 「日本語教育における日本文化の教授」『日本語教育』.  65、日本語教育学会、pp.1−15 末田清子、2001、 「留学生体験の意味付け一大学生の留学前及び帰国後の  滞在国に対するイメージ分析を通して一」、ノ薇塑∂10f乃オθ鴬び互α2∂1   6b㎜αηゴ。∂オノoz7/VO.4; PP.57−74. 館岡洋子・牛窪隆太・丸山伊津紀・二二卿・池田玲子(2005)「協働学習における.   教師の役割と教室デザイン」『2005年度日本語教育学会春季大会 予稿集』   pp.259−270. 恒吉僚子(2001)『専門・語学統合カリキュラム・教材開発に向けての組  織的日米共同研究』 (平成10−12年度科学研究費補助金基盤研究(B)   (2)研究成果報告書. 内藤哲雄、1993、「個人別態度構…造の分析」『人文科学論集 信州大学人   文学部』信州大学、pp.47−69. 内藤哲雄、2000、「留学生の孤独感のPAC分析」『人文科学論集 人間   情報学科編』信州大学、pp.15−25. 内藤哲雄、2002、『PAC分析実施法入門[改訂版コ 「個」を科学する新   技法への招待』ナカニシや出版 内藤哲雄・金娼鏡、2005「発達障害のある幼児をもつ韓国人母親の生涯需要に関.   するPAC分析一社会的支援体制と育児ネットワーク機能の視点から一」『人   文科学論集 人間情報科学編』信州大学、pp.11−25 野呂加代子・山下仁(2001)『「正しさ」への問い』三元社. 一157一.

(14) 福永由佳・岡部真理子・下平菜穂・浜田麻里・林さとこ(2004)「日本語学習者と.  学習環境との相互作用一二つの学習者調査から一」『2004年度日本語教育学会  秋季大会 予稿集』pp.227−238. 横林宙世、2004、「日本語教員養成課程履修生の考える「良い日本語教師」.   のイメージ」 『西南女学院大学紀要』vol.8、西南女学院大学、  pp.107−116. 一158一.

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