スピネル型フェライトに於ける スピンフラストレーションの研究
Geometrical spin frustration in spinel type ferrites
2004 年 3 月
蒲澤 和也
Kazuya KAMAZAWA
目次
第I章 序論
1.1 本研究のねらい p. 1
1.2 本論文の構成と概要 p. 1 第II章 スピネル型フェライトの一般的性質
2.1 はじめに p. 5
2.2 スピネル型結晶構造 p. 6 2.3 カゴメ格子とスピネル型構造 p. 10
2.4 スピン状態と磁気異方性 p. 11
2.5 ヤーンテラー効果 p. 14
2.6 超交換相互作用 p. 15
2.7 磁気的な振る舞い p. 16
2.8 参考文献 p. 17
第III章 フラストレーション系の一般的性質
3.1 はじめに p. 19
3.2 フラストレーション系の研究の歴史 p. 21 3.3 フラストレーション系の研究と観測手段 p. 21 3.4 3次元フラストレーション系酸化物の振る舞い
3.4.1 スピネルの振る舞い p. 22
3.4.2 参考文献 p. 22
3.4.3 パイロクロアの振る舞い p. 24
3.4.4 参考文献 p. 27
第IV章 ZnFe2O4 の磁気的振る舞い
4.1 はじめに p. 31
4.2 磁化測定 p. 33
4.3 中性子散乱
4.3.1 弾性散乱 p. 34
4.3.2 非弾性散乱 p. 41
4.4 まとめ p. 44
4.5 参考文献 p. 44
第V章 ソフトスピン密度波モード −ZnFe2O4の中性子磁気散漫散乱分布の再現−
5.1 はじめに p. 45
5.2 理論、背景 p. 45
5.3 計算結果 p. 48
5.4 まとめ p. 54
5.5 補遺 p. 56
5.6 参考文献 p. 57
第VI章 CdFe2O4の磁気的振る舞い
6.1 はじめに p. 59
6.2 実験方法 p. 59
6.3 磁化測定 p. 61
6.4 中性子散乱 p. 62
6.5 まとめ p. 66
6.6 参考文献 p. 66
第VII章 110CdFe2O4, ZnFe2O4 の中性子磁気散漫散乱分布の再現 −直感的理解−
7.1 はじめに p. 69
7.2 理論、背景 p. 70
7.3 計算結果 p. 72
7.4 まとめ p. 74
7.5 参考文献 p. 74
第VIII章 原子置換効果―その他―
8.1 ZnGa2-xFexO4 の磁気的性質
8.1.1はじめに p. 75
8.1.2 磁化測定 p. 76
8.1.3 中性子散乱実験 p. 76
8.1.4 まとめ、議論 p. 79
8.1.5 参考文献 p. 82
8.2 Zn(Li)xFe2O4の磁気的性質
8.2.1はじめに p. 83
8.2.2 磁化測定 p. 83
8.2.3 まとめ p. 85
8.2.4 参考文献 p. 85
第IX章 特殊環境下での実験
9.1 強磁場下でのZnFe2O4 の磁気的性質
9.1.1はじめに p. 87
9.1.2 磁化測定 p. 87
9.1.3 中性子散乱 p. 88
9.1.4 まとめ p. 91
9.1.5 参考文献 p. 92
9.2 高圧下でのZnFe2O4 の磁気的性質
9.2.1はじめに p. 93
9.2.2 高圧下での実験結果 p. 93
9.2.3 まとめ p. 94
9.2.4 参考文献 p. 96
第X章 まとめ p. 97
あとがき p. 99
第I章 序論
1. 1. 本研究のねらい
本論文はスピネル型フェライト(主に、ZnFe2O4, CdFe2O4)の磁性を、フラストレー ションという観点から研究した結果をまとめている。応用素材として幅広く実用されて いる、フェライトの一種である ZnFe2O4は約 70〜80 年前から精力的に研究がおこなわれ てきた物質である。しかしその基礎的な性質(特に磁気的な振る舞い)は複雑であった ことから詳しく理解されていなかった。スピネル型フェライトは試料の作成条件、およ び熱処理に大きく依存するため、B サイトの Fe が A サイトに入るのが原因とする論文 が多い。しかしそれによって磁性を説明するには A サイトに入る Fe の割合が多くなり すぎ無理があった。
現在に至るまで詳しく理解されなかった大きな要因に、単結晶を用いた物性測定がほ とんど行なわれていなかったことが挙げられる。特に中性子散乱実験はスピン間の相関 が直接測定できるため、磁気的な振る舞いを明らかにするには威力を発揮するが単結晶 での実験は行なわれていなかった。本研究では大型の単結晶と中性子散乱実験を用いる ことでこれまで明確ではなかった新しい実験結果が得られ、ZnFe2O4の磁気的な振る舞 いをより詳しく理解することが可能となった。
なを、本論文では良いと考えている試料を用いて行った研究をまとめていることを述 べておく。それは試料の良し悪しと磁気的な振る舞いの関係を調べた別の研究(メスバ ウアースペクトル測定など)から判断したものである。
1. 2. 本論文の構成と概要
第 I 章は本研究のねらいと構成について述べる。
第 I I 章はスピネル型フェライトの一般的性質についてまとめ、後半はスピネル型構 造とスピネル型フェライトの性質について取り上げる。
第III章では フラストレーション という概念の説明とその性質をもつ物質についてま とめている。またスピネル型構造のBサイトと同じ構造をもつ物質‐ パイロクロア及びC 15型ラーベス相化合物‐ にふれ、他の3次元スピンフラストレーション系の振る舞いに ついて分析する。
第 IV 章では、ZnFe2O4の過去の研究から、 何がわかっていなかったのか を明確にし た後、ZnFe2O4 の単結晶を用いた磁化測定の結果と中性子散乱実験の結果をまとめている。
ZnFe2O4は約10Kの反強磁性体と考えられており、これまで粉末中性子回折を中心にさま ざまな実験結果が報告されていたが、磁気的な振る舞いを明らかにするには至っていなか
った。粉末中性子回折実験では測定される磁気散漫散乱の、逆格子空間での位置が正確に 特定できないことなどによる。明らかにされていない振る舞いは以下の 5 つにまとめられ る。①9K以下で1 0 1/2 に反強磁性長距離秩序を示すピークとその周りに磁気散漫散乱が 共存している。②1 0 1/2の反強磁性磁気ピークをガウシアンでフィットした時の半値幅は、
核ブラッグ散乱にくらべ非常に大きい。③温度を上げていくと、1 0 1/2 の反強磁性磁気ピ ークは消え、磁気散漫散乱のみになる。④この磁気散漫散乱強度の最大値を示す2θ の位置 は温度とともに低角側へと移動してゆき、強度も30Kあたりで急速に減少していく。⑤し かし、磁気散漫散乱の痕跡は 100K 辺りまで残っている。 ZnFe2O4の単結晶を用いた本 研究での中性子散乱の結果は以下のようになる。(①〜⑤に対する考察は、第X章の「まと め」で述べる。)磁気散漫散乱は fcc 構造のブリルアンゾーンの少し内側に沿って分布して いる。これは第三近接スピン間に反強磁性的な相関が存在することを意味する。またB サ イトのみを反映する核散乱位置に、弱い磁気散漫散乱も存在していることから、最近接ス ピン間にも強磁性的な相関が存在していることが明らかになった。本実験では1 0 1/2と等 価な位置で反強磁性長距離秩序は観測されなかった。中性子非弾性散乱を用いたエネルギ ースペクトルの測定では、約13K 以上で準弾性散乱、約13K 以下で非弾性散乱ピーク が観測された。非弾性散乱ピークは1 0 1/2と等価な位置から核散乱の位置までわずかに分 散をもつが、全体的にソフトでスピン波はほとんど波長によらないことがわかる。また、
ZnFe2O4の磁気的な振る舞いはスピン液体的なものであると考えられる。
第 V 章では、単純なイジングスピンモデルでソフトスピン密度波モードを求める手法に より ZnFe2O4の磁気散漫散乱分布パターンの再現を試みた。結果はハイゼンベルグモデル と同じになることを解析的に確かめているので、イジングモデルで計算しても問題はない。
結果は以下のようにまとめられる。① (hk0)と(hhl)面の磁気散漫散乱分布の再 現結果から、予想とは反して最近接スピン間相互作用は強磁性、第 3 近接スピン間相互作 用は反強磁性であった。 ② 磁気散漫散乱ピークの最大値の位置が温度変化に伴って移動 することは、最近接と第 3 近接の相互作用の比 J3/│J1│を変化させることで再現出来た。 実 験結果を再現するように定めた J3/│J1│の比は で減少する傾向にあり、それは高 温磁化率の逆数から得られた正のキュリーワイス温度と矛盾しない。 ③ 特定の核ブラッ グピーク位置での規則的な磁気散漫散乱の欠如から、スピン密度波の最低エネルギーの モ ード は4面体内のモードではなく4面体間のモードとして特徴付けられる。またここで 得られた固有値はスピンの具体的な配列を示している。
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第VI章ではZnFe2O4 のAサイトを非磁性のCdに置換したCdFe2O4の結果をまとめて いる。前章までの結果から、ZnFe2O4 のAサイトをCdに置換したCdFe2O4では最近接相 互作用が大きく変化し、逆格子空間に出現する磁気散漫散乱の位置が変化するのではない かという予想の下にCdの同位体110Cd を用いた単結晶を作成し中性子散乱実験を行った。
単に非磁性の Zn イオンを Cd イオンに換えただけで、110CdFe2O4 の磁気散漫散乱位置は ZnFe2O4 とは大きく異なり、ZnCr2O4 やY(Sc)Mn2で観測されている磁気散漫散乱の位置と
同じになった。これは最近接スピン間に反強磁性的な結合が存在する場合のフラストレー ション系物質であることを示すものである。非弾性散乱実験からはZnFe2O4 やZnCr2O4 と 同様に CdFe2O4 はスピン液体的な特徴を示す物質であることが明らかになった。磁化測定 の結果はZnFe2O4 と類似しており、約700Kまでの測定から得た磁化率の逆数からキュリ ーワイス温度が ‐ 60Kとなること、及び磁化率の絶対値が約1/3である以外に違いはない。
第 VII 章では具体的にどのスピン間に相関が存在し、磁気散漫散乱が生じているのかを 直観的にとらえる方法を説明する。ZnCr2O4 やY(Sc)Mn2で観測されている磁気散漫散乱パ ターンは最近接のスピン間相互作用が反強磁性でそのスピン間の相関のためとされていた。
しかし、第V 章で取り扱ったように最近接スピン間が反強磁性的な結合の場合、完全なフ ラストレート状態となり磁気散漫散乱パターンは再現出来ない。そこで4面体よりも大き いクラスターにスピンを反強磁性に配置し、その磁気形状因子を計算するというものであ る。その際スピンを反転させても(フラストレーション効果によりスピンがゆらいでも)、
スピン間相互作用と系全体のエネルギーは変化しないようなクラスターであることが条件 となる。それにより以下のような結論が得られた。① CdFe2O4の磁気散漫散乱パターン
(ZnCr2O4 やY(Sc)Mn2の磁気散漫散乱パターン)を再現するには、4面体の次に大きい幾
何学的単位である6角形にスピンを反強磁性的に配置し、そのスピン間に反強磁性的な相 関が存在するとしたときである。スピンが自己組織化により6角形のループに反強磁性に 配置しているのである。② 4面体内の反強磁性相互作用によるフラストレーションの効果 はこの安定した6角形のクラスター間で生じている(つまりクラスター間に位相はない)
と見なせることを示している。
第VIII章は、スピネル型構造の原子置換効果という観点で研究した結果をまとめている。
第VI章のCdFe2O4−ZnFe2O4 はスピネル型構造のAB2O4のAサイト置換である。ここで はBサイトを置換したもの−ZnGa2-xFexO4−と、スピネル型構造に特有の隙間に原子を侵 入させたもの−Zn(Li)xFe2O4−を調べた。前半はBサイトのFe3+をGa3+で置換し、不純物 がフラストレーション効果に対してどのように影響するかを調べている。ZnGa2-xFexO4の 粉末中性子回折の結果は、1 0 1/2 に反強磁性長距離秩序が出現し、磁気散漫散乱がZnFe
2O4に比べ弱くなった。後半はスピネル構造特有の隙間にLiをドープした効果とAサイト にLiが置換される可能性に関してまとめている。
第IX章では強磁場及び高圧下のZnFe2O4の磁気的性質についてまとめている。 前章ま での結果から、磁化測定で得られる約13Kのピークは単純な反強磁性転移温度ではないこ とを示している。しかし、このピークが物理的に何を意味するかは特定できていない。一 方、磁化測定で磁場を強くしていくと約13Kのピークは高温側へシフトしていく事が観測 される。そこで、強磁場下での中性子散乱実験を行った。反強磁性スピン相関からくる磁 気散漫散乱はほとんど影響をうけず、 (400)核散乱近傍の強磁性スピン相関から来る磁気散 漫散乱のみが大きく影響を受け、7Tの磁場下でこの磁気散漫散乱は消失した。強磁性長距 離秩序は観測されなかったことから、通常の強磁性的な振る舞いとは異なることを意味し
ている。後半では原子間距離を変えることでスピン間相互作用を変化させることにより、
磁気散漫散乱の位置が変化する可能性を調べる目的で、高圧下での中性子散乱実験を試み た。外的な圧力効果の影響と化学圧力効果を比較して述べる。
第X章の「まとめ」では、第IV章の粉末中性子散乱で明確でなかった①〜⑤の疑問点を 明らかにし、スピネル型フェライトの全体像に関して考察する。①第VIII章の結果から1 0 1/2 の反強磁性長距離秩序は試料の不完全性に起因すると考えられる(第 IV 章)。磁気散 漫散乱の起源は、フラストレーション効果により長距離秩序が抑制され安定な磁気クラス ターが形成されることによる(第VII章)。②1 0 1/2はブリルアンゾーンの対称性のよい位 置であることから、ピークが重なり強度が強く観測されているにすぎない。③温度を上昇 させると磁気散漫散乱の位置がブリルアンゾーンの内側にシフトしていくためピークの重 なりが減少することによる。④第 VII 章から、最近接スピン間の直接交換相互作用と超交 換相互作用のバランスが温度に依存していることによる。⑤強磁性磁気散漫散乱は約 100K 付近まで残っており、これを観測していたと思われる。
以上の結果から、ZnFe2O4とCdFe2O4はそれぞれ第三近接スピン間が反強磁性的な結合 および最近接スピン間が反強磁性的な結合の場合の典型的なフラストレーション系である ことを述べる。そして、それらスピンの空間相関は6角形のループ状クラスターに自己組 織化し、時間相関は液体的になっていることを述べる。また化学的圧力効果によるフェラ イトの相互作用とフラストレーションとのかかわりについても考察する。
第II章 スピネル型フェライトの一般的性質
2. 1. はじめに
多方面で実用されているフェライトとは、3価の鉄イオンを含む複合酸化物の総称であ る。フェライトは結晶構造で分類されることが多く、表2−1のように分類される。本研 究対象のスピネル型フェライトは化学式がAB2O4で示され、立方晶系に属し、空間群はFd
3
mであるため結晶の対称性が高く、結晶磁気異方性が小さい最もソフトな磁性材料として 応用されている。元来スピネルとは、尖晶石(MgAl2O4)の鉱物名であるが同型結晶構造 をスピネル型と総称している。表2−1 結晶構造によるフェライトの分類
(出典:磁性材料読本 工業調査会編 p.73)
2. 2. スピネル型結晶構造
図2−1に示したのがスピネル型結晶構造である。この結晶構造は鉱物MgAl2O4ととも に、1915年W. H. Bragg[1] と西川正治[2] により独立に決定された。単位胞の中に酸素イ オンO2− は32個あり、立方細密充填(面心立方)している。金属イオンはその隙間に入っ ている。陽イオン位置は2つあり、この隙間のうち酸素4個に囲まれているのが A サイト
(8aまたは8fと呼ばれることもある)、酸素6個に囲まれているのがBサイト(16dまた は 16c と呼ばれることもある)である。酸素の作る形によって、4面体位置、8面体位置 とも呼ばれている。具体的には
Aサイト (0 0 0), (¼ ¼ ¼)…
Bサイト (⅝⅝⅝), (⅝ ⅞ ⅞), (¼ ¼ ¼), (⅞ ⅝ ⅞)…
陰イオン (u u u), (u ū ū), (ū u ū), (ū ū u), (¼-u ¼-u ¼-u), (¼-u ¼+u ¼+u), (¼+u ¼-u ¼-u) (¼+u ¼+u ¼-u)…
u は酸素イオンの位置を示すパラメータ。
現実の物質ではほとんどがu=3/8=0.375からずれている。
などとなる。狭い隙間に原子が入ることから、ほとんどの物質は原子が稠密ではなくなり u≠0.375となっている。この場合、Aサイトの周囲の陰イオンは<111>方向に広がり、Bサ イトは<111> 方向にtriganalにゆがむ。しかし、Aサイトは立方晶の対称性を保ったまま である。A サイトはダイヤモンド型構造をつくっており、B サイトは3つの <110> 方向 に隣接原子を持ち、頂点を共有しあった4面体が3 次元的に連なった構造をしている(図 2−2)。この4面体をひとかたまりと考えれば、スピネルのBサイトはこの4面体が面心 立方構造を形成したものである。結晶全体としても面心立方の対称性を持っている。スピ ネルのBサイトと全く同一の構造はパイロクロア(図2−3)とC15 型ラーベス相化合物
(図2−4)にも見られる。この構造は本論文のフラストレーションを生じさせる構造で あり、次の章で詳しく述べられる。2価の金属イオンがA サイトに入っているものを正ス ピネル、Bサイトに入っているものを逆スピネルという。正スピネルと逆スピネルとの中間 の混合スピネルと呼ばれる構造も存在する。しばしば、スピネルでは陽イオン配置が正確 に決定できず、議論となることが多い[3][4]。一般的に、陽イオンの分布を決定するのはむ ずかしい。陽イオンの分布を決定する因子は静電ポテンシャル、イオン半径比、マーデル ングエネルギー、ボルンの反発ポテンシャル、陽イオン分布の秩序化エネルギー、
Site-preference エネルギー、陰イオンの分極エネルギー等があるが、静電ポテンシャル、
イオン半径比、Site-preference エネルギー、陰イオンの分極エネルギーが大きな役割を果
たしていると考えられている。実際のイオンがどのサイトを選ぶかは次の論文に詳しく書 かれている[5][6]。
図2−1 スピネル型結晶構造
図2−2 Bサイトの構造
図2−3 パイロクロア構造A2B2O7;上側Aサイト、下側Bサイト
図2−4 C15型ラーベス相化合物構造 AB2;一番小さい白丸がBサイト
2. 3. カゴメ格子とスピネル型構造
<111>方向に直角な方向から、スピネル構造を眺めると、図2−5のように、各原子面が 積層している。図中のOは陰イオン、BはBサイト、AはAサイトの意味である。また、
Bサイトを抜き出して、真上から見ると図2−6のようにカゴメ格子を組んでいる面を持つ ことがわかる。スピネル型結晶構造は2次元カゴメ格子と3角格子の積層構造としても見 ることが出来る。 カゴメ格子に見られる6角形は第VII章に登場する。
図2−5 <111>方向から眺めたスピネル構造の各サイト
図2−6 Bサイトのカゴメ格子
2. 4. スピン状態と磁気異方性
化合物、とりわけ本論文で取り扱っているような酸化物の場合、磁性イオンはその周り に配置する酸素(陰イオン)の作る電場(通常結晶場と呼ばれている)のためにその電子 状態が変わってくる。そのため金属単体では弱くて無視している結晶場も酸化物の場合考 慮しなければならない。この結晶場はスピン − 軌道相互作用などを通して磁気異方性の 原因となる。そこで、Bサイト(八面体配位)に各3d磁性イオンが配置する場合のスピ ン状態と磁気異方性に関してまとめておく。量子力学では3d電子の主量子数は n=3、方 位量子数はℓ =2 であり、電子の座標を極座標表示したときの波動関数の角度部分は球面調 和関数Y2m(θ,φ)と表される。mは磁気量子数で、−2≦m≦2である。球対称ポテンシャ ルの場合、軌道は5(=2ℓ +1) 重縮退となるが、立方対称電場の中では、3重縮退のd ε軌道(t2g軌道とも呼ばれる)と2重縮退のdγ軌道(eg軌道とも呼ばれる)に分かれる
(図2−7)。このときの3d電子の固有関数はもはや球面調和関数そのものではなくなる。
dε軌道は酸素を避けるように広がり、dγ軌道は酸素のほうに広がっている(図2−8)。
そのため、3d電子と酸素イオン間のクーロン反発力によりdε軌道のエネルギーのほうが 低い。dγ軌道とdε軌道のエネルギー間隔は1〜1.5eVぐらいなので電子はフントの 規則を満たしてつまっていく。(3d)1では電子は3つのdεのどこに入ってもエネルギーは 同じなので3重に縮退している。(3d)2の場合も2つの電子の、3つのdε軌道へのつまり 方は3通りなので3重に縮退している。(実際は、2つの電子間のクーロン相互作用により、
(dε)(dγ)が(dε) 2に混成している。) (3d)3はdεに全部入り1重縮退である。(3d)4は dεに全てつまり、残りの1つのdγへのつまり方は2通りで2重縮退となる。(3d)5は(d ε)3(dγ)2 と全てに入り電子分布が球対称の1重縮退となる。(3d)6以上は5個の電子が全 てつまったあと、残りの電子が逆スピンの状態で下から詰まっていくので、軌道状態に関 しては(3d)5+n と(3d)n とは同じになる。最低軌道準位のdεが3重縮退の場合のみ軌道角 運動量が生き残る。生き残った角運動量は大きさが1で全角運動量Lは
L = 1 :(3d)1, (3d)6
L = 3 :(3d)2, (3d)7 (実際は4p軌道が立方対称電場により混成してくる)
となる。
3重縮退の場合、大きい磁気異方性が期待できる。一方最低軌道準位が1重、2重縮退 の状態は軌道角運動量が消失した状態で、大きい異方性は期待できない。(dγは2重縮退 の状態だが軌道角運動量Lの行列要素は、この環境で全て0になるためである。)
図2−7 3d軌道と電子のつまり方
図2−8 3d軌道上と2p軌道下
2. 5. ヤーンテラ―効果
スピネル型結晶構造のうち、いくつかはある温度以下で立方晶から低い対称性の構造へ と変化する。マグネタイトを除き他は全て正方晶へと歪む。その原因の説明としてマグネ タイトを除き、他はヤーンテラ―効果として説明されている。近年ヤーンテラ―効果が予 想されない正スピネルも構造相転移などが報告されている[7]。これらはフラストレーショ ンを解消しようとするために構造を歪ませるとして説明されている。詳しいことは、今後 の研究の進展を待つが、参考のため正スピネル型構造のB サイトに対して3d原子別にヤ ーンテラ―効果から予想されている結果をまとめておく(表2−2)。
マグネタイトを除き、他は全て正方晶へと歪むことが実験事実として知られているので、
次のような規則に基づき予想されているが例外も多い。
[I] dε 軌道によるヤーンテラ―効果は、dγ 軌道のヤーンテラ―効果に比べて小さい。
(ただし、NiCr2O4 や CuCr2O4 などの歪みは大きく、必ずしも正しくはない。)
[II] dγ による縮退は egモードの変形で解かれ、軸方向に伸びるか(c/a>1)、軸方向に縮 んだ (c/a<1) tetragonal に歪む。
表2−2 3d電子の数と予想される歪
2. 6. 超交換相互作用
スピネル型フェライトや、その他化合物、特に磁性酸化物の場合、磁性イオン間には直 接交換相互作用以外に陰イオンを介した超交換相互作用が存在することは、よく知られて いる。この相互作用はKramers [8]によって提案され、その後、多くの研究者によって理論 が展開されているが、広く知られている理論としてはAnderson [9]の超交換相互作用が有名 である。フェライトのA, B格子間にも酸素が介在している。超交換相互作用は三つのイオ ン(Me2+−O2−−Me2+)に3次の摂動から生じるとAnderson[10]によって示されたが、その 後、超交換相互作用の由来の本質も明らかにした[9]。 Anderson はMott 絶縁体の立場で 磁性イオン化合物の超交換相互作用を論じている。磁性イオンは不完全 3d 殻をもつため、
バンド計算では3dバンドは不完全で金属になる筈である。これを絶縁体に保っているのは 磁性イオン内の3d電子間に働くクーロンの反発力である。この同じ格子点の電子間のクー ロン積分をUとすると、Mott絶縁体はこのUが3d電子を隣の磁性イオンの格子点に移動 させる行列要素|t |よりもかなり大きいときにおこる。3d電子の軌道と隣り合った酸素の 2p 電子の軌道間に共有結合的混成を考えると、3d 軌道の波動関数には隣り合った酸素の 2p電子の軌道が混成する.このため一つの3d電子から隣の磁性イオンの3d軌道への遷移 が可能になり、この遷移行列要素をtとすれば、2次摂動によって隣り合った磁性イオンの スピン間にスピン相互作用が発生することになる。
これがAndersonによって与えられた超交換相互作用であり、Mott絶縁体を形成する磁 性イオンのスピン間相互作用の起源である。 Kanamori [11]らはさらに具体的な磁性体に適 用できる形として、磁性イオン間の結合角と磁性イオンのd軌道の対称性を考慮し相互作 用の符合や大きさを大雑把に予想できるように示した。通常、酸素を介した磁性イオン同 士の相互作用は、その結合角が180°の場合と90°の場合に区別して述べられているが、
本論文のスピネル型フェライトでは90°の結合しか含まないので90°の場合についてのみ 表にしておく。
3d 電子の数 磁性イオンの種類 相互作用 d8 - d8
d5 - d5 d3 - d3 d8 - d3
Ni2+ - Ni2+
Mn2+ - Mn2+
Fe3+ - Fe3+
Cr3+ - Cr3+
Ni2+ - V2+
強磁性
反強磁性 強磁性**
*
* Anderson は反強磁性的と予想している。
** d 軌道の直接の重なりからくる反強磁性的 な寄与もあるので、Anderson はこの場合の 符号はわからないとしている。
表2−3
2. 7. 磁気的な振る舞い
表2−4
ここでは、スピネル型フェライトの磁気的な振る舞いについて簡単に触れておく。とり わけ注目されるのが、本研究の対象となっているZnFe2O4の特異な振る舞いである。まず、
表2−4をみると、他のフェライトに比べ、ZnFe2O4の磁気的な秩序化の温度θtが極端に 小さいことがわかる。(ただし、第IV章と第VI章で述べるが本論文ではZnFe2O4、CdFe2O4
ともに相転移する磁気的な秩序は無いという立場にあることに注意しておく。)この転移温 度が他に比べてきわめて小さくなる原因はフラストレーション効果によるものであること が、本研究結果から推論することが出来る。ZnFe2O4、CdFe2O4は正スピネル型構造をと り、NiFe2O4、CoFe2O4は逆スピネル型構造をとる。A サイトと B サイトの位置の磁気モ ーメントの方向は反対で、その差が自発磁化として現れる。ZnやCd イオンは他の遷移金 属に比べ優先的にAサイトに入る傾向がある[5][6]。それゆえ、他のスピネル型フェライト にZnFe2O4を固溶させていくとAサイトの陽イオンはZnに置き換わり、Bサイトへと追 いやられる。このときの絶対零度での飽和磁化の変化の様子は、図2−10に示されてい る。ZnFe2O4の固溶を増加させていくと直線的な増加が期待できそうだが、飽和磁化は一 転減少していく様子がわかる。これは「A サイト中の磁性イオンが少なくなって、A-O-B の超交換相互作用が弱まり、A,B 位置間のスピンの反平行性がくずれ、さらには、B-O-B 間でスピンが反平行に向くようになって、飽和磁化が減少していく」などのように説明さ れているが、それほど単純ではない。B-O-B 間の反平行性に関しての問題が本論文の大き なテーマでる。
図2−10
2. 8. 参考文献
[1] W. H. Bragg, Philos. Mag. 30, 305 (1915).
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[5] L. A. Reznitskii, Izv. Akad. Nauk USSR, Neorgan. Mat., 12, 1909 (1976).
[6] V. S. Urusov, Phys. Chem. Minerals, 9, 1 (1983).
[7] S. H. –Lee, et al., Phys. Rev. Lett. 86 (2001) 5554.
[8] H. A. Kramers, Physica 1 (1934) 182.
[9] P.W. Anderson: Phys. Rev. 115 (1959) 2.
[10] P.W. Anderson: Phys. Rev. 79 (1950) 350.
[11] J. Kanamori, J. Phys. Chem. Solids 10 (1981) 87..
第 III 章 フラストレーション系の一般的性質
3. 1. はじめに(フラストレーションとは?)
物理の分野では フラストレーション を以下のような状態に対しての用語として用い ている。例としてスピン系で考えてゆくと、固体中のスピンは次の 2 つの場合にフラスト レーションを持つ。
1)幾何学的な制約によりスピンが相互作用どおりに配置できない場合。例として図3
図3−1
−1のように、スピンを三角格子にイジング反強磁性的に配置しようとすると、矛盾の生 じるスピンが出てくる。このような矛盾の状態を 幾何学的フラストレーション と呼ん でいる。本研究の対象となっている通称パイロクロア構造では図3−2のように 4 面体が 対象となるが、同様にイジング的にスピンを反強磁性的に配置しようとすると、矛盾が生 じる。4面体の場合ハイゼンベルグ的に配置される場合は強磁性でもフラストレートするこ とが示されている [1]。
?
?
図3−2
2)相互作用そのものが競合し、「強磁性」と「反強磁性」の拮抗でスピンの向きが定ま らない場合[2]。
図3−3
(出典:スピングラス 高山一著 丸善 p. 4)
図3−3は、強磁性及び反強磁性相互作用を持つイジングスピンがランダムに配置して いる様子を示している。相互作用が強磁性の場合直線、反強磁性の場合波線でつないでい る。括弧のなかのスピンが示している場所はスピンを反転させても系全体のエネルギーが 変化しない場所である。☆印の付いているループでは相互作用が強磁性、反強磁性どちら でも配置を満たすことは出来ない。このような状態を「相互作用の競合」もしくは フラ ストレート しているという。ランダムネスが代表的な要因となっているスピングラスで はこのような正負の相互作用がランダムに配置している。固体物理の世界では広義の意味 で、どちらも「フラストレーション」と呼んでいおり、文献などで「幾何学的フラストレ ーション」と区別されていることが多い。熱力学第3法則によると、「すべての物質は絶対 零度に近づけていくと(T→0)、エントロピーもゼロに向かい(S→0)、ある一つの秩序 状態へと向かう」とされている。しかし、フラストレーション系ではフラストレーション 効果のために絶対零度に近づけていっても、有限のエントロピーを持ったままとなり、熱 力学第 3 法則と矛盾してしまう。(現実は何らかの方法で回避しているものと思われるが、
詳しくはわかっていない。)この事自体、深遠な意味を持ち、大変興味深いが、固体物理の 世界では、この有限のエントロピーが原因で「今までにない基底状態が実現している」と いう事に見出されているようである。すなわち、フラストレーション系の醍醐味はこの残 留エントロピーの影響で、本来ならば、磁気的な相転移を起しているものが、最低温度ま で抑制され、(そのみかえりに?)奇妙な振る舞いを示す事にあるといえる。 更に、その 関連として、・異常ホール効果、・GMR(CMR)、・スピングラス、・超伝導、・・・等と関連
があるのではないかと考えられている。 具体的に、幾何学的フラストレーションが存在す る構造は、1次元:無し、2次元:三角格子、カゴメ格子、etc.、[3]3次元:スピネル、パ イロクロア、C15ラーベス相化合物、etc.[2]などの構造を持つ物質が代表的である。
3. 2 フラストレーション系の研究の歴史
フラストレーションの概念を最初に扱っている論文は、ポーリング[4]であると言われて いる。その後アンダーソン[5]は電荷とスピンに対してのエントロピーを見積もり、フラス トレーションの概念を提起している。(この時点ではフラストレーションという言葉は用 いられていない。)その後、2次元の三角格子やカゴメ格子、その後3次元のフロライドパ イロクロア粉末の研究、近年になって多結晶 YMn2の実験が進められてきた。注目すべき
ものは、Ballou [6]たちの Y(Sc)Mn2 で単結晶を用いたものである。そして、本論文の
ZnFe2O4と続きその後、この分野が大きく展開していく。
3. 3. フラストレーション系の研究と観測手段
磁性でフラストレーションの手がかりを得るには、中性子散乱実験が直接的であるが、
磁化測定などの熱力学量にも反映されて観測される[7]。近年はスピンと電荷が結びついた ものに関しては、格子の歪等を通して観測できるとの報告もある。中性子散乱実験で、ス ピン間のフラストレーションは、スピンの配置から予想される逆格子空間の位置に、磁気 散漫散乱として観測することができる。ただし散漫散乱が存在するからといって、フラス トレーションがあるということにはならないので注意が必要である。ランダムネス効果な どによるスピングラスの場合にも磁気散漫散乱が生じるからである。そのため、エネルギ ースペクトルも測定してスピンダイナミックスの情報もあわせて得ることが必要である。
現在、3次元スピンフラストレーション系での基底状態は、スピンリキッド、・スピンアイ ス、・スピングラス、・・・等報告されているが、これらの厳密な定義や区別などの詳しい 事項は、世界中で研究が進められている。
3. 4. 3次元フラストレーション系酸化物の振る舞い
通称パイロクロア構造(図2-2)をもつ物質は、スピネル、パイロクロア、C15型ラー ベス相化合物に見られる。パイロクロア(化学式はA2B2O7 )はA、Bサイトともに図2- 2のようなパイロクロア構造を持つ。C15 型ラーベス相化合物はスピネル型構造の酸素を
取り除いた構造と全く同一である。フラストレーション系の研究では、次の節で述べるよ うにパイロクロアに関しての研究が多く見られるが、スピネルはパイロクロアに比べ構造 が単純な分、より基本的な物理現象が理解でき、精力的に研究が行われてきたものである。
特に、逆スピネルの場合はBサイトの形式価数が非整数を取ることがスピネルの独自の特 徴であり、同じ磁気格子を持つパイロクロアとは大きく異なる所であり、このBサイトの 価数が非整数で、低温まで立方対称な構造を保つ場合、イオン間の電子のホッピングが期 待出来ることから、最近にわかに脚光を浴びている。
3. 4. 1 スピネルの振る舞い
スピネル型結晶構造の場合はBサイトのみがフラストレーションを持つ格子を作ってい るため、その対象は正スピネルとなる。そして、Aサイトが磁性イオンである場合、A−B 間に磁気的な相互作用が生じ、フラストレーションの効果を妨げる方向に作用する*ことか ら、ここでは簡単のためにAサイトが非磁性の場合に関して分類し言及する。(*注;厳密 にはAサイトが磁性イオンの場合でもフラストレーションの効果は非常に大きく残ってい ることが明らかになりつつある[ 8] 。)正スピネルはその原子のほとんどが 3d 原子であるこ とから、3d電子の数で分類すると理解しやすい(表3−1)。ここで、よくフラストレー ション系の引き合いに出されるパイロクロア(次の節)との大きく違う点をひとつ述べて おくと、B サイトの形式価数が非整数を取れることがスピネルの特徴といえる。
3. 4. 2. 参考文献
[1] S.T.BramwellandM.J.Harris,J.Phys.:Condens.Matter10, L215 1998.
[2] 「スピングラス」高山一 著 丸善 1991
[3] Jean-François Sadoc and Rémy Mosseri, Geometrical Frustration (Cambridge University Press, UK, 1999).
[4] L. Pauling, J. Am. Chem. Soc. 57, 2680 (1935).
[5] P. W. Anderson, Phys. Rev. 102, 1008 (1956).
[6] R. Ballou, E. Lelièvre-Berna, Phys. Rev. Lett. 76, 2125 (1996).
[7] M. Tanura, http://www.riken.go.jp/lab-www/molecule/Triangle/main.html, (2002).
[8] K. Tomiyasu (private communication).
d電子数 d=0.5
1 1.5
2.5
3.5 2
3
4
5 6 7 8 9
物質 LiTi
2O
4MgTi
2O
4ZnV
2O
4, MgV
2O
4LiV
2O
4AlV
2O
4ZnCr
2O
4, CdCr
2O
4, MgCr
2O
4LiMn
2O
4ZnMn
2O
4, CdMn
2O
4, MgMn
2O
4ZnFe
2O
4, CdFe
2O
4GeFe
2O
4GeCo
2O
4GeNi
2O
4GeCu
2O
4S L J 参考文献
S=1/2
1
3/2
5/2 2
0 0
1 0 2 3/2 1/2
表3−1
3. 4. 3. パイロクロアの振る舞い
近年までにフラストレーションの観点で活発に行われている研究は、パイロクロアが多 く、A, B両サイトとも四面体の頂点を共有したフラストレーション系の構造を持つ構造で あるため、分類わけが難しい。しかし以下のようにまとめると理解しやすい。
I. A or B Magnetic
II. A & B Magnetic 1. A
2. B
i) ii)
i) ii)
A
3+2B
4+2O
7A
3+2B
4+2O
7A
2+2B
5+2O
7A
2+2B
5+2O
7ア)
イ)
ア)
ア)
ア)
イ)
イ)
イ)
d 電子系 f 電子系 d
d d f
f f
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
表3−2
表3−2のように、大きくAサイトもしくはBサイトのどちらかが磁性イオンである場
合と、A, B 両方が磁性イオンで分けると、①〜⑧のように場合わけできる。①〜⑧の具体
的な物質は表3−3にあるとおりである。すると、意外なほどにすっきりと見通しが良く なり、考えるべき対象は②、③、⑤、⑦だけでよい事に気がつく。②はスピンアイスと呼 ばれている物質群で⑤はほとんどがスピングラスと関連する。⑦は近年注目されている、
超伝導を含むカテゴリーである。図3−3はパイロクロアのおおまかな組み合わせの図で ある。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
なし
A B
O
7Rare earth Si,Ge,Sn,Pb
2 2
4f Ce, Pr,Nd,Pm, Sm,Eu,Gd, Tb,Dy ,Ho,Er,Tm,Yb
Pr2Sn2O7 Nd2Sn2O7 Sm2Sn2O7 Eu2Sn2O7 Gd2Sn2O7 Tb2Sn2O7
Dy2Sn2O7
Ho2Sn2O7
Er2Sn2O7 Tm2Sn2O7 Yb2Sn2O7
Sm2Ti2O7 Eu2Ti2O7 Gd2Ti2O7 Tb2Ti2O7 Dy2Ti2O7
Ho2Ti2O7 Er2Ti2O7 Tb2Ti2O7
なし
Mn
2Sb
2X
7← (一つ)
Sc Y In
Tl,Pb,Bi La・・Lu
2
V,Cr,Mn ・ ・ ・Mo,Tc,Ru,Rh ・ c Re ・ Ir,Pt
2
O
7A B
Lu2Ru2O7 Y2Mo2O7 Y2Mn2O7 Tl2Mn2O7 In2Mn2O7 Lu2Mn2O7 Tl2Ru2O7
Y2Ru2O7
Y2Ir2O7 Lu2Ir2O7
Lu2V2O7
3d ほとんどが強磁性絶縁体 ⇒ 例外もあり
4d 強磁性金属からスピングラス絶縁体へ 5d
なし
Cd, Hg Ca, Sr Sn, Pb
2
Ti,V Nb ・・ Ru,Rh
Ta・Re,Os,Ir,Pt X
7 2A B
Cd, Hg Ca, Sr Sn, Pb
2A
X
7U
25f
??
Cd2Re2O7
Cd2Os2O7 Cd2Nb2O7
表3−3
A 3+ 2 B 4+ 2 O 7 A 2+ 2 B 5+ 2 O 7
A
3+2B
4+2O
7Group IV Si, Ge, Sn, Pb Sc, Y
Rare earth In, Tl
Bi
4d 5d
Ti, V, Cr,Mn 3d
0 1 2 3
Zr, Mo,Tc,
1 3 4
Ru, Rh, Pd
5 6 7Hf, Os, Ir, Pt
0 5 6 7A
2+2B
5+2X
7V Nb, Ru,Rh
0 0 3 4Sb
O F S Cd, Hg
Ca,Sr Mn
5Sn, Pb
U Ta, Re, Os,
Ir, Pt,
3d 4d
5d 5f
図3−4
3. 4. 2 参考文献
中性子 ★ 中性子(単結晶) ★★
(A or B magneticとして抜粋)
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
② A2Sn2O7
A=Pr,Nd,Gd,Tb
,Dy,Ho ;1) L. P. Mitina, et al., Sov. Phys. Cryst. 15, 150, (1970).
A=Ho ;2) H. Kadowaki, et al., Inpress. ★ A2Ti2O7
A=Dy,Ho,Er,Yb ;3) R. Siddharhan, et al., Phys. Rev. Lett. 83, 1854, (1999).
A=Gd,Tb,Dy,Ho ;4) J. D. Cashion, et al., J. Mat. Sci. 3 402, (1968).
A=Sm,Eu,Gd,Tb
,Dy,Ho,Er,Yb ;5) V. V. Nemoshkalenko, et al., Phys. Rev. B63, 075106 (2001).
A=Yb,Dy ;6) M. G. Townsend, et al., J. Phys. Chem. Solids 29, 593 (1968).
A=Gd ;7) N. P. Raju, et al., Phys. Rev. B59, 14489 (1999).
;8) J. D. Champion, et al., Phys. Rev. B64, 140407(R) (2001).★ A=Tb ;9) J. S. Gardner, et al., Phys. Rev. Lett. 82, 1012, (1999). ★
;10) M. Kanada, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 70, 200, (2000). ★
;11) M. J. P. Gingras, et al., Phys. Rev. B62, 6496 (2000).★
;12) K. Matsuhira, et al., J. Phys. Cond. Mat. 13, L737, (2001).
A=Dy ;13) A. P. Ramirez., et al., Nature. 399, 333, (1999).
;14) J. Snyder., et al., Nature. 413, 48, (2001).
A=Dy,Ho ;15) B. C. D. Hertog, et al., Phys. Rev. Lett. 84, 3430, (2000).
;16) L. G. Mamsurova, et al., Sov. Phys. Solid State, 27, 1214, (1985).
A= Ho ;17) S. T. Blamwell, et al., Phys. Rev. Lett. 87, 40725-1, (2001). ★★
;18) M. J. Harris, et al., Phys. Rev. Lett. 79, 2554, (1997). ★★
Ho2B2O7
B= Sn, Ti ;19) K. Matuhira, et al., J, Phys. Cond. Mat. 12, L649, (2000).
③
Mn2Sb2O7 ;20) J. N. Reimers, et al., Phys. Rev. B43, 5692, (1991).★ FeF3 ;21) G. ferey, et al., Rev. de Chim. Mine., 23, 474, (1986). ★
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
⑤ A2B2O7
3d _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ B=V
A= Lu ;22) G. V. Bazuev, et al., Sov. Phys. Solid State, 19, 1913, (1978).
;23) T. Shin-ike, et al., Mat. Res. Bull. 12, 1149 (1977).
A= Sc,Y,Lu ;24) J. E. Greedan, et al., Mat. Res. Bull. 14, 13 (1979).
B=Mn
A= Y ;25) J. E. Greedan, et al., Phys. Rev. B54, 7189, (1996).★
;26) J. E. Greedan, et al., Solid State Comm., 82, 797, (1992).
;27) J. N. reimers, et al., Phys. Rev. B43, 3387, (1991).★ A= Tl ;28) J. H. Zhao, et al., Phys. Rev. Lett. 83, 219, (1999).
;29) J. W. Lynn, et al., Phys. Rev. Lett. 80, 4582, (1998).★
;30) H. Imai, et al., Phys. Rev. B62, 12190, (2000-II). CMR A= Tl,Sc ;31) S. K. Kwon., et al., Physica B281&282, 528, (2000). CMR A=Y,In,Lu,Tl ;32) M. D. Nũńez-Regueiro, et al., Phys. Rev. B63, 014417, (2000).☆
圧力かけて Mn-O-Mn角度 vs Jの符号
;33) Y. Shimakawa, et al., Phys. Rev. B59, 1249, (1999-II).
A=Y,Sc,In,Tl,Lu ;34) M. A. Subramanian, et al., J, Phys. IV C1 625, Suppl., (1997).
Aサイト置換 vs 格子定数、Mn-O-Mn角度 A= Tl
B=Mn,Ru ;35) R. Senis, et al., Phys. Rev. B61, 11637, (2000-I). CMR B=Cr,Mn
A=Y,Tl ;36) H. Fujinaka, et al., Mat. Res. Bull. 14, 1133 (1979).
4d _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ B=Mo ----Æ Spin-Glass
A=Y ;37) M. A. Subramanian, et al., Mat. Res. Bull. 15, 1401 (1980).
;38) C. H. Booth, et al., Phys. Rev. B62, R775, (2000-II).放射光_歪
;39) J. N. reimers, et al., J, Sol. Chem. 72, 390, (1988).★
;40) N. P. Raju, et al., Phys. Rev. B46, 5405, (1992).
;41) S. R. Dunsiger, et al., Phys. Rev. B54, 9019, (1996).μ SR
;42) M. J. P. Gingras, et al., Phys. Rev. Lett. 78, 947, (1997). ☆
;43) J. E. Greedan, et al., Solid State Comm., 59, 895, (1986).
;44) K. Miyoshi, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 69, 3517, (2000).
;45) M. Sato, et al., Z. Anorg. Allg. Chem. 540/541, 177, (1986).
;46) J. E. Greedan, et al., Phys. Rev. B43, 5682, (1991). ★
;47) A. Keren, et al., Phys. Rev. Lett. 87, 177201-1, (2001).
;48) J. E. Greedan, et al., J, Sol. State Chem. 68, 300, (1987).
A=Y,La ;49) M. Sato, et al., J. Sol. State Chem. 67, 248, (1987).
B=Ru
A=Y,Bi ;50) S. Yoshii., et al., Physica B281&282, 619, (2000).電気伝導 A=Y,Tl,Bi ;51) P. A. Cox, et al., J, Phys. C16, 6221, (1983).
A=Y,Lu ;52) N. Taira, et al., J, Sol. State Chem. 144, 216, (1999).
B=Ir
A=Y,Lu ;53) N. Taira, et al., J, Phys. Cond. Mat. 13, 5527, (2001).
5d _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ B=Pt
A=Tl ;54) A. W. Sleight, et al., Mat. Res. Bull. 3, 699 (1968).
混在(4d,5d) _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ A=Lu,Bi
B=Ru,Rh,Ir,Pt ;55) I. S. Shaplygin, et al., Mat. Res. Bull. 8, 761 (1973).
A=Pb,Bi
B=Ru,Rh,Pt ;56) J. M. Longo, et al., Mat. Res. Bull. 7, 137 (1972).
A= Pb,Bi
B=Tc,Ru,Re,Ir ;57) R. J. Bouchard, et al., Mat. Res. Bull. 6, 669 (1971).
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
⑦ A2B2O7
A=Cd
B=Nb ;58) N. N. Kolpakova, et al., J, Phys. Cond. Mat. 10, 9309, (1998).
強誘電体
;59) J. E. Greedan, et al., Phys. Rev. 98, 903, (1955). 強誘電体
B=Re ;60) H. Sakai, et al., J, Phys. Cond. Mat. 13, L785, (2001).超伝導
;61) 広井善二, 物性研便り5?月号(2001).☆超伝導
;62) H. Hanawa, et al., Phys. Rev. Lett. 87, 187001-1, (2001). 超伝導
;63) 広井善二, パリティー 11月号(2001). 超伝導
;64) P. C. Donohue, et al., Inorg. Chem. 4, 1152, (1965).
この時点では超伝導を見逃している。
A=Pb
B=Ru,Ir,Re ;65) J. M. Longo, et al., Mat. Res. Bull. 4, 191 (1969).
B=Ru ;66) J. A. Kafalas, et al., Mat. Res. Bull. 5, 193 (1970).
B=Rh,Pt,Os,Ir,Ru;67) A. W. Sleight, et al., Mat. Res. Bull. 6, 775 (1971).
A=Pb,Bi
B=Ru ;68) R. A. Beyerlein, et al., J, Sol. State Chem. 72, 2, (1988).
B=Ru,Pt ;69) G. Mayer-Von K., et al., J, Sol. State Chem. 79, 34, (1989).
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
②, ⑤, ⑦混在 A2B2O7
A=Nd,Tb,Dy,Ho ,Er,Yb
B=Ti,Sn,Zr,Ga,Sb;70) H. W. J. Blöte., et al., Physica 43, 549, (1969).
多数 ;71) R. A. McCauley., et al., J. Appl. Phys. 51, 290, (1980).
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ その他
;72) M. Harris., et al., Nature. 399, 311, (1999).
◎ ;73) M. A. Subramanian, et al., Prog. Solid St. Chem. 15, 55, (1983).☆ Oxide Pyrochlores – A Review
;74) J. C. Li., et al., Phil. Mag. B69, 1173, (1994). 氷そのもの★★
;75) K. Motida, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 28, 1188, (1970). ☆
M(3d)-O-M(3d)角度 vs Jの符号 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
本 ;76) F. S. ガラッソー著、加藤誠軌、植松敬三、訳, 「図解 ファインセ
ラミックスの結晶化学」アグネ技術センター☆
;77) 中平光興、著, 「結晶化学」講談社☆
;78) 津田、那須、藤森、白鳥 著, 「電気伝導性酸化物」裳華房☆
第 I V 章 ZnFe
2O
4の磁気的振る舞い
4. 1 はじめに
ZnFe
2O
4は正スピネル型構造をとり、8個の四面体構造を形成するAサイト、16個の 八面体構造を形成するBサイトから成る。AサイトはZn2+イオン、BサイトはFe3+イオン で占められている。ZnFe2O4はZn2+ (3d10), Fe3+ (3d5)で、軌道角運動量を考えなくてよい 系であり物理を考える上で非常にシンプルな物質である。スピネル構造の B サイトは特別 な原子配置を持つ。Bサイトは四面体の頂点を互いに共有しあったネットワーク構造をして いる。四面体をひとかたまりと見なすと、fcc構造をしている。見方を変えると、第3近接 に配置しているFe3+イオンがfccに配置していると見なすことが出来る。この四面体のネッ トワーク構造は3次元スピンフラストレーション系として有名であり、パイロクロアやC15 型ラーベス相化合物、例えばY(Sc)Mn2、と全く同じである。それらは、スピングラス、ス ピンアイス、スピン液体といった状態を示し注目されている。ZnFe
2O
4は約10Kの反強磁 性体と考えられている。それゆえ、ZnFe
2O
4 も最近接の相互作用が反強磁性の強いフラス トレーション系と考えられる。これまで、粉末中性子磁気回折の実験が行われていたが、詳細はよくわかっていなかった。粉末中性子回折の結果では磁気散漫散乱の正確な位置が 特定できないためである。本章は中性子回折を用いて亜鉛フェライト単結晶を3次元スピ ンフラストレーションの観点から調べた結果をまとめている。
まずZnFe2O4 の特徴についての物理現象、特に粉末中性子回折を用いたこれまでの実 験結果をまとめてみる。図4−1はRef. [1] の図1に示されている粉末中性子回折強度の 温度変化である。用いられている波長は λ=0.129nm である。図中は反強磁性ピーク(AF) と核ブラッグピーク(N)の角度依存の半値幅が示されている(λ=0.18nm)。この図の特徴は5 つにまとめられる。①、9K以下で(ここでは、4.2K )1 0 1/2 に反強磁性の磁気ピーク と、その周りに磁気散漫散乱が共存している。②、1 0 1/2反強磁性磁気ピークをガウシア ンでフィットした時の半値幅は、核ブラッグピークにくらべ非常に大きい。③、温度を上 げていくと、1 0 1/2 に反強磁性の磁気ピークは消え、磁気散漫散乱だけになる。④、この 磁気散漫散乱のピーク強度の最大値を示す位置2θ MAXは温度とともに低角側へと移動して いき、強度も30Kあたりで、急速に減少していく。⑤、しかし、磁気散漫散乱の痕跡は100K 辺りまで残っている。① ~ ⑤ の原因は、AサイトとBサイトが一部入れ替わっているせ いだとする考えもあったが[1]、十分に原因を説明しきれておらず、今まで不明であった。
図4−1
図4−2はRef. [1] の図4に示されている実験結果であり、小角側に100K辺りまで前方 散乱が残っていることを示している(λ=0.18nm)。これに関しては、スーパーパラのアイデ アを流用してスーパーアンチフェロ、つまり反強磁性の十分小さいクラスターが相互作用 しているためであるとして議論していたが、実験結果を説明するには不十分であった。
図4−2
近らの研究室で中性子回折に用いることが可能な大型の単結晶の育成に成功したので、
その単結晶を用いて中性子散乱実験を行い、上記で述べた原因を明らかしようと試みた。
それにより逆格子空間での磁気散漫散乱の正確な位置を特定することができた。また特定 の逆格子点上でもエネルギースペクトルも測定することが可能となった。
ZnFe
2O
4の単結晶はフラックス法で作成された。最高温度は1250℃である。単結晶の塊 は白金坩堝の底に見られた。いくつかの結晶は一辺が5~7mmの八面体型をしており、そ のいくつかは 10~15mmであった。中性子散乱実験は茨城県東海村の日本原子力研究所の 熱中性子導管に設置している3軸型分光計を用いて測定した。実験では2つの装置HQRと HERを用いた。HQRの入射波長はki=2.5579 Å-1でエネルギー分解能の半値全幅はパイ ロリティックグラファイトのアナライザーとフィルターを通して、0.66meV であった。磁 気散漫散乱は、アナライザーを用いて測定しているため、10−11秒より遅いスピンの動きは 弾性散乱として観測している。一方、エネルギースペクトルは冷中性子導管に設置してい る、HER3軸分光系を用いて測定した。中性子の入射波長は ki=1.4752Å-1 と ki=1.0815 Å-1、の二つを用いた。それらのエネルギー分解能の半値全幅は 0.166meVと 0.0498meV である。同様に、HERでは10−10秒より遅いスピンの動きは弾性散乱として観測されてい る。磁化測定は早稲田大学に設置しているQuantum Design社のSQUID Systemを用い た。試料は中性子に用いた単結晶を作成した時と同じ坩堝の試料を用いた。磁場の方向は 001軸方向にかけた。ゼロ磁場、及び磁場中冷却は0から70Kガウスで温度範囲は5Kか ら700Kである。4. 2. 磁化測定
磁化率の温度変化とその逆数を図4−3に示す。磁化率は13Kの辺りにカスプ型のピー クをもつ。それは、反強磁性ネール温度TNのようにみえる。もしそれが2次相転移を示し ているなら、
ZnFe
2O
4はTN以下で反強磁性の長距離秩序をもつはずである。磁化曲線の形 と磁化率の逆数の下に凸な折れ曲がりは、過去に行われた実験結果と一致している。ゼロ 磁場、及び磁場中冷却の軌跡は全ての温度で一致しているのでZnFe
2O
4はスピングラスと は異なると考えられる。キュリーワイス温度は磁化率の逆数から120Kと見積もられ、高温 では強磁性的なスピン相関が支配的であることを意味する。有効ボーア磁子は4.08μ Bであ る。この値は、期待される理論値よりも小さいが、Feが3+からずれていることが原因でな いことはメスバウアー効果の実験のアイソマーシフトから確認済みである。後に実験データを詳しく論じるが、中性子回折の結果には磁化測定に見られる13Kのピ ーク対応する変化は観測されていない。また、キュリーワイス温度θ は+100K程度なのに 対し、実際は10 ~ 15Kで磁気転移を起こす反強磁性と考えられていた。更に興味深いこと は、温度の低下とともに磁化曲線の逆数が上向き加減になり、徐々に折れ曲がる。このこ
とに関しては、それほど、疑問の対象とされていなかったが、粉末中性子散乱のピークの 位置が温度とともに移動することと関係があると推測できる。詳しくは後の節で述べる。
さて、これらの原因は、A サイトとB サイトの一部が入れ替わっているとする議論で説 明づけられることが多いが[2][3][4]、そのモデルでは実験事実を説明しきれず、近年の論文 [1][5]ではZnFe2O4に本質的に備わる現象であると考えられつつある。
図4−3。
4.3 . 中性子散乱
4. 3. 1. 弾性散乱
図4−4は15Kにおける1ī0散乱面上の中性子弾性散乱強度の等高線図を示している。
この図中で、黒線はfccのブリルアンゾーンバウンダリーを意味する。強い磁気散漫散乱は 第1ブリルアンゾーンの少し内側に分布している。最も強い強度はQ~(0.7 0.7 0)に位置し ている。図4−5は15Kにおける001散乱面を示している。磁気散漫散乱は同様に第1ブ リルアンゾーンの少し内側に分布している。最も強い強度もQ~(0.7 0.7 0)に位置している。
上で述べたように第3近接のFe3+イオンはfcc構造をしている。それゆえ、磁気散漫散乱が 第1ブリルアンゾーンの周辺に分布しているということは第3近接に配置しているスピン が反強磁性的に結合しており、短距離秩序がこれらのスピン間に存在していることを意味 する。
図4−4
図4−5