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認知症の人に対する態度に関する研究 : 認知症の人に対する態度尺度の開発を通して

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認知症の人に対する態度に関する研究 : 認知症の

人に対する態度尺度の開発を通して

著者

金 高?

内容記述

学位記番号:論社第24号, 指導教員:黒田研二

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目 次

序 章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1. 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2. 本研究のプロセス(流れ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 3. 研究の独自性および意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 4. 論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 第1章 研究背景と先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 第1節 認知症の海外の動向および日本における認知症対策の変遷・・・・・・・・・・・・・・・ 6 1. 国外および国内の認知症の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 2. 日本における認知症対策の変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 第2節 認知症に関わる概念およびBPSD・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 1. 認知症に関わる概念および診断基準・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 2. 認知症になる原因およびリスク要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 3. BPSD の定義および具体的な症状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 4. BPSD 評価尺度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 第3節 認知症の人に対する認識や態度、高齢者イメージに関する研究・・・・・・・・・・・ 19 1. 態度の定義と精神障害者における態度研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 2. 高齢者イメージに関する研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 3. 認知症の人に対する否定的な見方の存在および認識不足・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27 第2章 認知症啓発活動の実施地域における認知症の人に対する態度調査・・・・・・・・・ 28 1. 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 2. 認知症受容度尺度の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 3. 調査対象者および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 4. 地域住民の調査の結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 5. 追跡調査の結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 6. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48 第3章 認知症の人に対する態度尺度と認知症に関する知識尺度の開発・・・・・・・・・・・ 49 1. 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49 2. 調査対象者および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52

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4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67 第4章 認知症の人に対する地域住民と介護職員の態度調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 第1節 認知症の人に対する地域住民の態度調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 1. 調査対象者および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 2. 調査内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 3. 分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69 4. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 5. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79 第2節 認知症の人に対する介護職員の態度調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83 1. 調査対象者および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83 2. 調査内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83 3. 分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84 4. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84 5. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94 第3節 地域住民と介護職員の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100 1. 分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100 2. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100 3. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 110 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 112 終 章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114 文献一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119 資料(調査票)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 127 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132

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序 章

1.研究目的 現在、介護保険サービスを利用する要介護高齢者の半数近くに認知症の症状がみられ、 施設入所者の約8割に認知症が認められる。人口の高齢化と平均寿命の延びに伴って認知症 高齢者の数も増加し、2006年現在169万人、将来推計では2015年250万人、2025年323万人と 予測されている。85歳以上の高齢者の4人に1人が認知症だとされており、認知症は誰にで も起こりうる病気の一つとなっている。これまでの認知症に関する研究は、家族の介護負 担、職員の介護ストレスなどを主とした認知症の「問題行動」から生じる事柄に焦点を当 てたものが多かった。一般の人々は、認知症の症状に対する具体的な知識がないため、認 知症の人に対して漠然とした不安感を抱いていることも多く、否定的なイメージや拒否的 な態度を尐なからず持っていると思われる。認知症の人に対する偏見は根強く、認知症に 対する誤った知識や見方は当事者や家族を苦しめてきた。 認知症の予防、介護に対する国の取組みとして「認知症を知り地域をつくる10か年」(厚 生労働省 2005)構想が始まり、現在、各地域において認知症に関する理解を促進し、認知 症の人やその家族を支えるためのさまざまな取組みが推進されている。認知症の人の数の 増加とともに地域で生活するうえで、認知症の人と一般市民のさまざまな関わりが生まれ てくると思われる。認知症の人とその家族が地域社会で生活を続けるためには、地域住民 との関わりを一層深めていくことが必要になる。認知症に対する正しい知識を普及するた めの啓発活動の展開には、認知症の人に対する肯定的な態度を生み出すことが重要な課題 のひとつである。認知症の症状とそれへの対応に関する知識不足は、介護負担を増加させ るだけではなく、介護者と認知症の人、双方のQOLを低下させる。また、認知症の人に対 する否定的な見方は、認知症に関する啓発活動の展開を阻害する要因となり、認知症の早 期発見の遅延や診断の拒否、社会的孤立、認知症の人に対する軽視の風潮や差別の原因と なることが懸念される。 認知症の人に対する肯定的な態度を醸成する条件を検討するためには、認知症の人に対 する態度の現状を明らかにする必要があるだろう。しかし、認知症の人に対する態度を測 定する尺度は極めて尐なく、尺度開発の段階にとどまっており、認知症の人に対する態度 とその関連要因を検討した研究も尐ない。さらに、認知症に関する啓発活動のあり方につ いて検討した研究は極めて尐ない。 そこで、本研究では、認知症の人に対する態度尺度を開発するとともに、地域住民と介 護職員を対象に調査を行い、認知症の人に対する態度とその関連要因を明らかにする。さ らに、その結果に基づき認知症に関する啓発活動を推進するための方策を提示することを 目的とする。

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図1 本研究の位置づけ

認知症の人

質の高いケア 地域住民 介護職員 介護者 認知症の人に対する肯定的な態度と正しい知識を醸成することが重要である 認知症の人に対する否定的な態度および誤った知識がもたらす弊害 ①BPSD悪化→介護者の対応困難→介護負担の増加→介護者と認知 症の人、双方のQOLの低下 ②早期発見の遅延、診断やサービス拒否、社会的孤立や排除 本研究の目的 ①認知症の人に対する態度の尺度作成 ②認知症の人に対する態度に関連する要因の検討 ③認知症の啓発活動を推進するための方策を提示する 研究背景 ①認知症の人に対する態度やその関連要因に関する先行研究がない ②認知症の人に対する態度を測定する尺度は極めて尐ない ③認知症に関する啓発活動のあり方を検討した研究が尐ない 住みやすい地域づくり

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2.本研究のプロセス(流れ) 本論文は主に3つの調査に基づいて構成されている。以下、調査Ⅰ・調査Ⅱ・調査Ⅲとし て、研究の流れを示す。 調査Ⅰは、現在行われている認知症に関する啓発活動のうち「認知症地域支援体制構築 等推進事業」と「認知症サポーター100万人キャラバン」に合わせて実施したものである。 まず、認知症の人に対する態度を測定する尺度を独自に作成し、認知症受容度尺度とした。 「認知症地域支援体制構築等推進事業」については事業を実施した地域の住民を対象とし、 認知症の人に対する態度を把握するとともに、その関連要因を検討した。「認知症サポー ター100万人キャラバン」については認知症サポーター養成講座受講者を対象に、講座前後 と追跡時点においての認知症の人に対する態度とその変化を検討し、講座の効果を検討し た。 調査Ⅰから認知症の人に対する受容的な態度を高めるためには、認知症の人との接触体 験、認知症に関する情報を習得することが重要であることが明らかになった。調査で用い た認知症受容度尺度のCronbachα信頼性係数がやや低かったため、尺度を構成する項目の 内容を再検討することとした。また、認知症の人に対する態度に関連する要因として他の 要因を加えて検討していくことが必要だと考えた。 以上のことを踏まえ、さらに二つの仮説を追加して研究を継続した。 第1の仮説は、認知症の症状、とくに行動・心理症状やその対応方法についての知識があ るほど、認知症の人に対する肯定的な態度を示すというものである。ここでは、認知症の 人に対する肯定的な態度と関連する要因として認知症の症状に関する知識に着目した。認

知症の行動・心理症状(BPSD: behavioral psychological symptoms of dementia)とは認知

症の人にみられる知覚、思考内容、気分または行動の障害による症状と定義されている。 改めて認知症の人に対する態度尺度とともに、認知症に関する知識尺度を作成し、これら の尺度を用いて、認知症の人に対する態度と認知症に関する知識との関連を明らかにする ことにした。 第2の仮説は、「高齢者イメージ」がポジティブであるほど、認知症の人に対する肯定的 な態度を示すというものである。認知症の多くが高齢者であることから、高齢者イメージ との関連があるのではないかと思われる。高齢者に対する否定的なイメージやエイジズム (Ageism:高齢者差別、広く年齢差別ともいう)は認知症の人に対する軽視の風潮や差別 の主な要因ではないかと推定した。 以上の二つの仮説を基に新たな研究計画を策定した。 調査Ⅱでは、認知症の人に対する態度尺度と認知症に関する知識尺度を作成し、学生を 対象に調査を行い、尺度の妥当性と信頼性について検討した。尺度の構成概念妥当性を検 討するため、確認的因子分析を行い、その結果から得られた因子をそれぞれ従属変数とし、 独立変数に認知症に関する知識と高齢者イメージを加え、認知症の人に対する態度に関連 する要因を明らかにした。 調査Ⅲでは、まず、調査Ⅱで開発した尺度を用いて、地域住民を対象とし、認知症の人

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に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージなどの現状を把握した。そのうえで、 認知症の人に対する態度の合計得点、および下位尺度として肯定的態度、否定的態度の合 計得点を従属変数とする重回帰分析を行った。この結果に基づき認知症の人に対する態度 とその関連要因を検討した。次に、介護職員を対象とする調査を行った。職員特性や施設 特性を組み入れて、認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージなど の現状を把握した。質の高いケアを提供するために、認知症の人に対する肯定的な態度と ともに、介護の仕事に対するポジティブな心境を促進する必要があると考え、認知症の人 に対する態度と介護職員の仕事に対する心境に関連する要因を明らかにした。さらに、認 知症の人に対する関わり方および認知症に関する知識の量が異なる地域住民と介護職員の 認知症の人に対する態度などの比較を行い、地域住民と介護職員の両群の相違点および共 通点を明らかにした。 3.研究の独自性および意義 これまでの認知症の人に対する意識調査は、認知症の人に対する否定的な見方や偏見の 存在を明らかにしたものにとどまっており、認知症の人に対する肯定的あるいは否定的な 態度に関連する要因を検討した研究は極めて尐ない。認知症以外の統合失調症やうつ病な どの精神障害の領域では、態度の実態を把握するとともに、その関連要因を検討した研究 が数多く存在し、否定的な態度を払拭するための啓発活動のあり方の検討が行われてきた。 認知症についての理解の普及のための啓発活動が行われはじめたのは2000年以降であり、 今後、さまざまな取組みが各地域において展開されていくであろう。そこで、本研究では、 認知症の人に対する態度の現状およびその関連要因を明らかにするために、認知症の人に 対する態度を測定する尺度を独自に開発した。 認知症に関する啓発活動が行われている地域の地域住民を対象に、認知症の人に対する 態度尺度を用いて現状を把握し、その関連要因を示した。さらに、全国で認知症サポータ ーを育成するにあたって行われている認知症サポーター養成講座の効果検証を行い、今後 の啓発活動のあり方を検討した。 これらの結果と課題を踏まえ、改めて認知症の人に対する態度を測定するための尺度と 認知症に関する知識をはかる尺度を開発し、その有用性を検討した。この尺度を用いて、 地域住民と介護職員を対象に、認知症に関する知識や高齢者イメージと、認知症の人に対 する態度との関連を明らかにした。また、認知症の人に対してより肯定的な態度を促進す る方策を提言したことに実践的意義が存在する。 本研究で開発した態度尺度は、認知症の人に対する感情や行動の傾向を把握することが 可能な尺度であり、この尺度を用いることで、人々の中に存在する認知症の人に対する感 情および潜在的な行動傾向を把握することが可能になった。本研究は、人々が持つ認知症 の人に対する態度の現状を明らかにし、認知症の人に対し肯定的な態度をとるための方策 を検討した点に意義があり、認知症の人に対する否定的な態度を是正していくうえで重要 な研究である。

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4.論文の構成 本論文の構成は、以下のとおりである。 第1章では、国外における認知症の人の将来推計や国内の認知症対策の変遷および認知症 に関わる諸概念について述べる。さらに、認知症に関連する研究や態度に関わる研究のレ ビューを通じて、本研究の位置づけを明らかにする。 第2章では、認知症の人に対する態度を測定するための認知症受容度尺度を作成する。こ の尺度を用いて、認知症に関する啓発活動の実施地域の地域住民を対象に認知症の人に対 する態度の実態を明らかにするとともに、認知症サポーター養成講座受講者を対象とし、 講座前後および追跡時点での認知症の人に対する態度の変化および講座の効果を検討する。 第3章では、2章で作成した認知症受容度尺度を再検討した上で新たな尺度を作成し、学 生を対象に尺度の妥当性と信頼性を検討し、尺度の有用性を確かめる。認知症の人に対す る態度を規定する要因として認知症に関する知識と高齢者イメージを追加して検証する。 第4章では、地域住民と介護職員それぞれ認知症の人に対する態度に関連する要因を明ら かにする。また、地域住民と介護職員の比較検討を行い、認知症の人に対する態度と関連 する共通の要因および相違する点を検討する。 終章では、本研究の結果から得られた知見に基づいて、認知症に関する有効な啓発活動 の推進のための方策を考察するとともに、本研究の限界および今後の研究課題を提示する。

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第1章 研究背景と先行研究

人口の高齢化と平均寿命の延びに伴って、日本のみならず世界各地域において認知症の 人の数が増加している。本章では、認知症対策が世界の共通の課題となっていることを示 すとともに、日本の認知症対策の変遷について記述する。次に認知症についての諸概念の 変化および認知症の行動・心理症状(BPSD)の定義や具体的な症状について述べる。また、 認知症は精神障害とともに高齢という共通の課題を抱えていることから、認知症と関連す るものとして精神障害者に対する態度や高齢者イメージに関する先行研究をレビューする。 認知症の人に対する否定的な見方や認識不足が存在していることとともに、認知症の人に 対する態度に関する研究が遅れていることを述べ、認知症の人に対する態度の研究の意義 を確かめる。 第1節 認知症の海外の動向および日本における認知症対策の変遷 1.国外および国内の認知症の現状 Wimoら(2004)の世界高齢者人口、認知症の有病者と発生者の統計的データに基づいた研 究によると、2000年現在、世界における認知症患者数は2,500万人と推計され、そのうちア ジアが46%と半数近く、次はヨーロッパ30%、北米12%の順になる。65歳以上の6.1%(全 世界人口の0.5%)が認知症になっており、性別では女性が59%と推定されている。今後高 齢化とともに認知症患者数は増えると予測されており、2030年には6千300万人、2050年に は1億1,140万人と推計されている。 Ferriら(2005)のWHO世界地域(ヨーロッパ、北アメリカ、ラテンアメリカ、アフリカ、 中東、太平洋アジア)における認知症の有病者と発生者のデータおよびUNの世界人口推定 に基づいた報告では、2001年現在、認知症の人の60.1%が発展途上国に集中しており、2020 年には64.5%、2040年には71.2%となると推定されている。地域別の2001年、2020年、2040 年における認知症の有病者数を表1-1に示す。2001年1年間に発症した認知症の人は460万 人で、特に中国&Developing Western Pacificでは121万人と、他の地域と比べ多いことが 推定されている。2001年から2040年までの認知症の人の増加率を見ると、西ヨーロッパが2 倍程度であるのに、ラテンアメリカ、北アフリカ、中国、インドネシアなどの地域では4~ 5倍近く増加することが分かる。

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表1-1 2001年における認知症の人数、2020年2040年の認知症の人数の推計および増加率 New dementia cases(millions) per year 2001 Number of people (millions)with dementia、 aged60+ Proportionate increase(%) in number of people with

dementia 2001 2020 2040 2001-2020 2001-2040 ヨーロッパ A1) 0.79 4.8 6.9 9.9 43 102 ヨーロッパ B2) 0.21 1.0 1.6 2.8 51 169 ヨーロッパ C3) 0.36 1.7 2.3 3.2 31 84 北アメリカ 0.56 3.4 5.1 9.2 49 172 ラテンアメリカ 0.37 1.8 4.1 9.1 120 393 北アフリカ&中東 0.21 1.0 1.9 4.7 95 385 Developed Western Pacific 0.24 1.5 2.9 4.3 99 189 中国&Developing Western Pacific 1.21 6.3 11.7 26.1 96 336 インドネシア&タ イ&スリランカ 0.14 0.6 1.3 2.7 100 325 インド&Sアジア 0.40 1.8 3.6 7.5 98 314 アフリカ 0.11 0.5 0.0 1.6 82 235 Total 4.6 24.3 42.3 81.1 74 234

出典:Ferri CP, Prince M, Brayne C., et al.(2005):Global prevalence of dementia: a Delphi consensus study

1) Western Europe

2) Eastern Europe low adult mortality

3) Eastern Europe high adult mortality

国連のデータによるとアジア太平洋地域における2005年の人口は35億8千万人、65歳以上 の人口は2億3,890万人、80歳以上の人口は3,720万人と推計されており、認知症患者数は 2005年度の1,370万人から2050年には6,460万人に増加すると推定されている(表1-2)。 日本の総人口に占める65歳以上の割合は2009年9月現在22.7%であり、75歳以上の後期高 齢者は総人口の10.7%である。人口の高齢化と平均寿命の延びに伴い、認知症高齢者の数 は年々増加している。また、何らかの介護や支援を必要とし、かつ認知症がある高齢者は、 2005年現在169万人であるが、2015年までに250万人、2025年には323万人になると推計され ている。

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表1-2 アジア太平洋地域1)における認知症の人の有病者(率)および発生者(率) (千人、%) 2005年 2010年 2020年 2030年 2040年 2050年 総人口 3,583,521 3,775,813 4,130,296 4,384,326 4,544,051 4,618,051 有病者2) 13,704 16,496 23,727 34,311 48,904 64,642 発生者3) 4,282 5,123 7,262 10,427 14,920 19,687 有病率 0.38 0.44 0.57 0.78 1.08 1.40 発生率 0.12 0.14 0.18 0.24 0.33 0.43

Asia Pacific Members of Alzhiemer’s Disease International(2006)より抜粋

1)オーストラリア、バングラデシュ、ブータン、ブルネイ、ビルマ、カンボジア、中国、香 港、マカオ、台北、韓国、East Timor、インド、インドネシア、日本、ラオス、マレーシ ア、ネパール、ニュージーランド、パキスタン、パプアニューギニア、フィリピン、北朝 鮮、シンガポール、スリランカ、ベトナム 2、3) prevalenceは有病者、incidenceは発生者と訳した。 アジア太平洋地域の多くの国々では、今後認知症患者が増えていくが、質の高いヘルス ケア・サービスを認知症患者およびその家族に提供できるだけの準備が整っていない。認 知症は公衆衛生制度に壊滅的影響を及ぼす可能性を秘めている。これは高齢化のためだけ でなく、認知症が慢性疾患のなかでも患者の能力低下の最も著しい病気であるためである。

「疾病負荷(burden of disease)」は健康的生活年数によって評価され、「死亡負荷(mortality

burden):早期死亡により失われた生存年数」と「障害負荷(disability burden):障害によ り失われた健康的生活年数」の合計で示される。WHO(2006)のデータによると、神経精神 症状の障害負荷は、感染症と寄生生物症に続いて高い。認知症の疾病負荷は、マラリア、 破傷風、乳がん、薬物乱用、戦争の疾病負荷より高く、今後25年で76%増加すると予測さ れている。 WHOとアジア太平洋地域の各国政府は、①認知症に関する認識不足と認知症の存在を否 定したり認知症を恥と思ったりするような文化的背景、②認知症は加齢に伴う自然な症状 であり病気の結果ではないとする思い込み、③認知症ケアのニーズに不適切な人材・政府 資源と認知症ケア政策の不足、④都市部で入院率が高い国と施設不足の地域の混在、⑤介 護師への教育訓練不足と介護を行う家族へのサポート不足といった課題を指摘している (Asia Pacific Members of Alzhiemer’s Disease International、2006)。

2.日本における認知症対策の変遷 1) 1980年代:痴呆性高齢者対策の草創期(前半) 日本では1963年に老人福祉法が制定され、老人の福祉に関する原理が明らかにされた。 その当時は要介護者のケアでは、「寝たきり老人(65歳以上で6ヶ月以上寝たきりの者をい う」モデルが中心とされた。 認知症が社会の注目をあびたきっかけは、1972年の小説『恍惚の人』の出版であった。

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1960年から1970年代の重度認知症高齢者は、在宅介護において家族がほとんど支援を受け ることはなく、地域社会から隔離され老人病院や精神病院への入院による対応が中心的で あった。また、従来の「問題行動」と呼ばれた症状に対して、身体的拘束や投薬による抑 制などが行われていた。この時期は、認知症の症状を「問題」とみなしていた時代であり、 当時の認知症の人とその家族は地域や社会からの偏見に苦しんでおり、孤立状態に陥りが ちであった。認知症高齢者対策は立ち遅れていた。認知症高齢者対策の取組みが模索され はじめたのは1980年代である。1980年1月に「ぼけ老人を抱える家族の会(現、社団法人認 知症の人と家族の会)」が発足し、全国的なネットワークづくりや家族の集いなど社会に 向けた活動が始まった。 1980年に厚生省公衆衛生局精神衛生課が行った調査によって、初めて認知症高齢者の実 態が明らかになった。在宅の痴呆老人の出現率は65歳以上人口の4.6%、約51万人であり、 そのうち介護が必要とされる者は3分の1を占めていることが報告されている。 1981年版の厚生白書では痴呆を「精神機能低下」とし、寝たきりとなる確率を高める病 気の一つとして認識している。1982年版では「社会生活環境の複雑多様化に伴うストレス の増加により精神障害が増加するとともに、痴呆老人についてはその定義が明確ではない ため、具体的な範囲を特定することが難しく、高齢になるにつれ心身機能の低下による症 状である」と痴呆を捉えている。1983年版では、「痴呆老人の問題にしても「ボケ」とい う言葉から精神障害という認識に変化してきている」とされている。 1982年11月の老人精神保健対策について公衆衛生審議会より答申が出され、その中で老 人の痴呆疾患の予防および普及啓発活動を進めることが示された。この答申を受けて、翌 年の1983年、保健所に老人精神衛生相談窓口が設置され、老人性痴呆疾患の予防について の普及啓発などの老人精神衛生相談事業が実施された(1983年94か所の保健所で実施)。 痴呆予防対策としては健康教育、健康診断等、痴呆の原因となる脳血管疾患等の疾病を 予防するための保健事業や社会参加促進対策を進めていた。痴呆となった老人の介護対策 としては、保健所における老人精神衛生相談や保健師による訪問指導、デイ・サービス事 業の充実を図っていた。特にデイ・サービス事業の通所サービスの中に1983年度から新た に家族介護者教室が加えられた。施設福祉サービスである特別養護老人ホームは、身体上 または精神上の著しい障害がある者で、寝たきりや認知症高齢者が主な対象とされており、 1972年の272か所から1983年の1,311箇所まで約4.8倍と大幅に増加した。 1984年版の厚生白書には、「痴呆老人の増加に伴い、特別養護老人ホームなど量的な整 備に努めるとともに、医療機能の充実強化を併せて行っていく必要がある」と述べられて おり、各自治体により積極的な取組みが行われた。その際、痴呆老人電話相談事業、痴呆 老人の短期保護事業、痴呆老人に配慮した特別擁護老人ホームの整備等の対策がとられ、 環境条件を整備していくことが重要視された。1984年当時、痴呆性老人の数は在宅50万、 老人ホーム入所中が約3万人、精神病院への入院中が約3万人の総計約56万人と推計されて いた。痴呆性老人対策としては、主に予防や家族に対する介護援助、治療方法の研究等が 挙げられていた。

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2)1980年代後半 1986年版の厚生白書では、「寝たきりや痴呆等の介護を要する老人や、精神障害者、身 体障害者をいわゆる『要介護者』とし、社会構造の複雑化がもたらすストレスの増大、家 族形態・意識の変容等の要因によってますます増えている」と述べている。さらに、「痴 呆老人とは、脳の器質的障害により痴呆(いったん獲得された知能が持続的に低下するこ と)を示している老人を意味する」としている。痴呆性老人の多くは在宅で家族により介護 されているが、特有の精神症状、問題行動が多いため、痴呆性老人を抱える家族の身体的、 精神的負担や不安感が大きな問題であることが指摘されていた。また、1986年の在宅痴呆 性老人の介護者実態調査では、痴呆性老人をかかえる家族の8割が何らかの在宅サービスを 必要としながら、サービスを利用していない者が5割を超えるなど介護家族への支援体制は 十分とはいえない現状であることが示された。このような状況から、総合的な痴呆性老人 対策の基本方針の速やなか策定が目指され、そのための必要な体制の整備を図るために、 1986年8月厚生省内に「痴呆性老人対策推進本部」が設けられ、全省的な痴呆性老人対策が 取組まれることになった。1987年には特別養護老人ホームにおける痴呆性老人介護加算が 創設された。 1987年版の厚生白書では、「寝たきり老人や痴呆性老人、障害者その他のハンディキャ ップを持った者の切実なニードに対しては、公的部門でサービスが供給されるべきであろ うが、市場機構に委ねても適切なサービス供給が講じられるものは民間サービスに委ね、 利用者の選択に任せることも必要である」と述べられている。さらに、在宅ケアの充実を 図り、痴呆性老人の増加とともに、住み慣れた地域や家庭の中で、生活を維持していける よう、各種の在宅サービスの充実が求められている。このように民間サービスの育成、在 宅サービスの体制、施設対策等総合的な取組みがされ始めた。 1987年には痴呆性老人が高い割合で利用しているデイ・サービス事業に非常勤寮母1人の 配置を新設した。また、問題行動の著しい痴呆性老人の心身機能の回復や維持を図るため に痴呆性老人専門治療病棟を設備することとし、その病棟整備に対する補助が行われた。 1988年4月の社会保険診療報酬の改正により、一定の要件を備える専門病棟における老人性 痴呆の治療やデイケアに対して評価を行った。 また、1987年には民間保険や簡易保険において痴呆や寝たきりにより要介護状態となっ た場合に介護給付を支給する介護保険が商品化がなされた。当時の痴呆老人については、 介護の方法に関する科学的知見の積み重ねが十分でなく適切な予防やケアの困難、問題行 動などにより介護者の負担が強く、治療や介護のためのサービスが在宅・施設いずれにお いても十分でないこと、保健・医療の連携が不十分であることが指摘されており、介護問 題が大きな課題であった。 1989年版(平成元年)の厚生白書では、痴呆性老人対策の総合的推進を図るため、全国 59か所の精神科を有する総合病院等を「老人性痴呆疾患センター」と位置づけ、老人性痴 呆等の相談・診断・治療方針選定を行い、総合的な痴呆性老人対策を推進することが挙げ られている。

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1980年代からは認知症高齢者に対しては、福祉と保健医療にまたがる施策面での対応が 必要であると認識され始めていた。また、在宅福祉サービスと施設福祉サービス両方とも サービスの量が増加し、施設についても、在宅福祉サービスと密接な連携を持つものとし て位置づけられた。要介護者や身体機能が低下した者を病弱な存在とみなし、特に寝たき り老人や認知症高齢者の増加により特別養護老人ホームの量的な環境整備が一層努められ た時期であった。1980年代半ばには認知症高齢者を介護する家族の精神的・身体的負担の 大きさが議論され、1980年代後半からは介護問題が大きな課題として捉えられた。加えて、 治療や介護が難しいこと、それに関連する設備が未整備であることが問題とされた。 この時期は、認知症高齢者問題に対して「ボケ」という通俗的理解から「精神障害」の ひとつという認識への変化がみられる。しかし、問題行動や迷惑行動という捉え方は認知 症の人本人の立場からのものではなく、第三者によるラベルづけである。この時期の認知 症対策は、認知症の本人ではなく、認知症に伴う症状からくる周囲の人との間の問題に焦 点をあてて、政策が進められたといえる。 3) 1990年代:ゴールドプランおよび新ゴールドプランの策定 高齢者の保健福祉分野における公共サービスの基盤づくりを図るため1989年12月「高齢 者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」が策定された。在宅の痴呆性老人数は1980 年51万人であり、1985年では60万人と推計され、後期高齢者の増大により増えつつあると 考えられた。日本では北欧と比較して寝たきり老人の割合が極めて高いこと(65歳以上の長 期ケア施設入所者を100とした場合「常に寝たきり」の割合:デンマーク4.5、スウェーデ ン4.2、アメリカ6.5、日本33.8)、アルツハイマー型痴呆に比べ脳血管性痴呆が多いことが 特徴であった(厚生白書1990年版)。当時の老人性疾患に関する施策としては、保健所にお いて相談事業や訪問指導を行うほか、専門医療相談、治療方針の選定、救急対応を行う老 人性痴呆疾患センターや、精神症状や問題行動の著しい者について短期集中的に治療を行 う老人性痴呆疾患治療病棟の整備が進められた(厚生白書1990年版)。 さらに、1991年老人保健法等の一部を改正する法律が成立した。改正案として、老人保 健施設痴呆専門棟が創設され、初老期痴呆患者についても施設療養が適当な者について老 人保健施設での受入れを行うこととされた。さらに、介護的要素の強い老人医療費に対す る公費負担割合の引上げが行われ、老人訪問看護療養費および精神病院の老人性痴呆疾患 療養病棟の入院医療費が対象となった(厚生白書1991年版)。 1990年における寝たきり老人は約70万人(65歳以上人口の約4.6%)、痴呆性老人は100 万人(65歳以上人口の約6.7%)であり、深刻化する痴呆性老人問題に対処するため、在宅 介護家族への支援強化、発生予防・治療に関する研究の推進の充実を図ることとしていた (厚生白書1991年版)。 1992年、在宅サービスの推進の柱として新たに小規模型及び痴呆性老人向け毎日通所型 のデイサービスセンター(E型)が創設された。1993年には厚生省老人保健福祉局において、 医師により認知症と診断された高齢者を対象とした「痴呆性老人の日常生活自立度判定基

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準」が作成された。 1997年には、痴呆性の高齢者の増加に伴い、高齢者の財産管理や遺産相続をめぐる紛争 が増加しているほか、老人虐待などの人権侵害の問題が生じ、痴呆性の高齢者などを対象 とする新たな権利擁護制度の確立が求められ、成年後見制度についての検討が始まった(厚 生白書1997年版)。 1998年には、高齢化の進展に伴い、寝たきりや痴呆など介護や支援を必要とする要援護 高齢者が約200万人に上り(厚生白書1998年版)、特に大きな課題の一つとして、痴呆性高齢 者に関わる介護の問題が挙げられていた(厚生白書1999年版)。この問題への対策として痴 呆性高齢者のグループホームの試行的事業に取組んだところ、症状が安定するなど効果が みられたことから、1997年度には「痴呆対応型老人共同生活援助事業」(家庭的な雰囲気 を持ち込んだ9人以下の小規模な痴呆老人グループホーム)が創設され、運営費に補助を行 うとともに、1998年度の第3次補正予算において、社会福祉法人等が行う施設設備への補助 が創設された。 また、1990年代にはスウェーデンやデンマークの個別ケアが注目されるようになり、グ ループホームの調査や研究が行われた。加えて、認知症の人の増加に備え、治療のための 病棟の整備が活発に行われ、施設や病院において認知症の人を収容するための整備が進め られた。 4) 2000年以降:名称の変更と介護保険制度下の推進 2000年4月に介護保険制度がスタートし、要介護認定が実施されたことにより、日本の痴 呆性高齢者の実態がさらに明らかになった。要支援(要介護)認定者に該当した高齢者の うち、ほぼ半数に痴呆の症状があり、介護保険施設入所者の約8割に痴呆の症状があった(厚 生労働省省議室2004)。また、2000年4月より痴呆介護研修事業が創設されるとともに、認 知症介護に関する研修のための全国的な連携体制(ネットワーク)を形成するために、全国3 ヶ所(東京都杉並区、愛知県大府市、宮城県仙台市)に「高齢者痴呆介護研究・研修センタ ー」が設置され、2001年度より本格的に運営を開始した。認知症高齢者グループホームが 保険給付サービスの一つとして位置づけられ、これによりグループホームが急増した(2000 年7月605ヵ所から2006年3月8,026ヵ所まで)。施設においても、できる限り在宅に近い環境 の下で生活できるよう、2002年度から特別養護老人ホームにおいても個室ユニットにより 個別ケアを行う、ユニットケア型の施設に対する補助が進められた。 2003年に厚生労働省老健局長の私的研究会である高齢者介護研究会において、「専門医 による医学的判定」とは別に、「介護に必要な手間」という観点から「認知症高齢者の日 常生活自立度」Ⅱ以上の高齢者数が公表された(表1-3)。ただし、この数字は医学的に認知 症と判断された者ではなく、「認知症高齢者日常生活自立度」のデータを基に推計したも のであるため、認知症の患者数を正確に反映していない可能性がある。

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表1-3 認知症高齢者数(要介護・要支援認定者)の将来推計 2002 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 自立度Ⅱ以上の者(万人) 149 169 208 250 289 323 353 376 385 378 65歳以上人口比(%) 6.3 6.7 7.2 7.6 8.4 9.3 10.2 10.7 10.6 10.4 自立度Ⅲ以上の者(万人) 79 90 111 135 157 176 192 205 212 208 65歳以上人口比(%) 3.4 3.6 3.9 4.1 4.5 5.1 5.5 5.8 5.8 5.7 出典:厚生労働省老健局 1) 数字は第1号被保険者のうち要介護(支援)認定を受けた者。 2)2002年9月末について推計した「要介護(要支援)認定者における認知症高齢者」と「日 本の将来推計人口(2002年1月推計)」から算出したもの。 3)自立度Ⅱ以上:何らかの介護・支援を必要とする認知症がある高齢者。 自立度Ⅲ以上:一定の介護を必要とする認知症がある高齢者。 2004年現在時点の日本では、要介護者の2人に1人に認知症の症状が見られ、高齢化の進 展に伴って、増加すると予測されていた。このことから、認知症対策は高齢者介護におけ る中心的な課題の一つとされ、2004年4月には厚生労働省老健局計画課に「痴呆対策推進室」 が設置された。また、この年には、今後の認知症対策の推進にあたり、「痴呆」という用 語についていくつかの問題点が指摘されてきた。「痴呆」の「痴」は「おろかなこと、ば か」という意味があることから、「呆」には「おろかなこと、あきれる、ぼんやりしてい ること」という意味があり、尊厳を欠く表現である。加えて、この用語は症状を正確に表 していないこと、「痴呆」と判断させることに対する恐怖心や恥ずかしさを増幅し、診断 や予防が進みにくいこと等を踏まえて、2004年6月に「痴呆に替わる用語に関する検討会」 が開催され、新たな用語に替えることが検討され始めた。名称変更について、広く国民や 関係団体からのヒアリング、国民からの意見募集を行った結果、新しい用語の候補は、認 知症、認知障害、もの忘れ症、記憶症、記憶障害、アルツハイマー(症)の6つとなった。回 答結果では「認知障害」が22.6%と最も多かったが、「認知障害」は精神医学の領域では これまで多様に使われており、混乱を引き起こすおそれがあったため、「痴呆」に替わる 新しい用語として「認知症」が最も適当とされた。これらの候補から、2004年12月「痴呆」 から「認知症」へと呼称が変更された。これまでの用語変更事例としては「精神薄弱」か ら「知的障害」(1998年)、「精神分裂病」から「統合失調症」(2002年)がある。 「痴呆」から「認知症」への名所変更を契機として、2005年度から「認知症を知り地域 をつくる10か年」の構想が展開された。2005年度を「認知症を知る1年」と設定し、多くの 国民に認知症に対する誤解・偏見をなくし、認知症について理解してもらうためのさまざ まなPR事業が集中的に実施されることになった。具体的には、認知症に関する理解の普及 を促進し、認知症の人とその家族などを支える地域づくりを一層推進するため、自治体や 関係団体を中心として、認知症地域支援体制構築等事業や、認知症になっても安心して暮 らせる町づくり100人会議、認知症サポーター100万人キャラバン、「認知症でもだいじょ

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うぶ町づくり」キャンペーン、認知症の人の「本人ネットワーク」支援、認知症の人や家 族の力を活かしたケアマネジメントの推進の取組みが行われている。 2000年以降には、グループホームが介護保険サービスに組み込まれ、認知症高齢者の増 加に伴う量的設備に力を入れる時代へと入った。従来の認知症の症状だけをみるという見 方ではなく、認知症という病気にかかっている人に注目するようになってきた。さらに、 個人のプライバシーへの配慮、自己選択への支援、環境との相互作用など総合的かつ広い 視点から認知症へのケアが変わりつつある。認知症になっても今まで住み慣れてきた地域 で暮らし続けることが可能になるためには、認知症という病気の理解が求められる。 2008年7月には厚生労働省によって「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェク ト」が打ち出された。このプロジェクトにおいて今後の認知症対策の基本方針として、① 実態の把握、②研究開発の加速、③早期診断の推進と適切な医療の提供、④適切なケアの 普及および本人・家族支援、⑤若年性認知症対策の推進が重要とされており、この認識の もと、総合的な施策が推進されてきている。 第2節 認知症に関わる概念およびBPSD 1.認知症に関わる概念および診断基準

認知症(dementia)という言葉は、ラテン語の[de=out from + mean = the mind] であ り、疾病のために知力(mental power)が失われるという意味からきている。フランスの Philippe Pinel(1745-1826)が1797年に初めて「認知症(dementia)」という言葉を使用した (WHO 2001)。アメリカ精神医学会の精神障害統計診断マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of the American Psychiatric Association)によると、記憶、学習、見当 識、思考、計算、言語、判断など複合的な知能機能が失われ、日常生活および仕事に支障 が生じることを認知症としている。

1984年に、NINCDS-ADRDA(National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke- Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association)の報告書 でアルツハイマー病の臨床診断基準が発表された。この基準は多くの専門家の研究成果を 反映し、調査研究を容易にするための厳密な基準を作成するために米国保健福祉省の援助 を受けてまとめられたものである。NINCDS-ADRDA基準では、記憶とそれ以外の認知過 程を含めた2領域以上の認知機能障害がある場合を「アルツハイマー病の疑いあり」と定義 している。NINCDS-ADRDA基準によれば、アルツハイマー病患者は、記憶障害のほか「そ の他の認知機能、例えば言語、運動技能、知覚の進行性の悪化および行動パターンの変化 を伴う日常生活動作の障害」といった症状を示すとされている。

米国精神医学会(American Psychiatric Association)による「精神障害のための診断統計 マニュアル第1版」(DSM-Ⅰ1952)およびDSM-Ⅱ(1968)では、いずれも具体的な行動特

性ではなく、認知症の知的側面に焦点を当てていた。DSM-Ⅲ(1980)は、詳細な事項によっ

てさまざまな病態を記述し、具体的で操作的な診断基準を用いるものであり、診断基準を 明確にした点で大きな進歩があったと認められている。DSM-Ⅳ(1994)では、NINCDS

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-ADRDA基準に入っている多数の認知障害基準が組み込まれた。

WHOによる「疾病および関連保健問題の国際統計分類(ICD-10):International

Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:1993」では、認知症 は、アルツハイマー病(Dementia in Alzheimer’s disease;AD)、脳血管性疾患(Vascular dementia;VD)、その他の疾患による認知症(Dementia in other diseases classified elsewhere)、明記されていない認知症(Unspecified dementia)などに区分されている。さ らに、以下の定義に基づいて認知症とし、症候群を定めている。「意識が保たれているに もかかわらず、新しい情報の習得においての記憶障害、計画や企画等の実行を行う際の思 考および判断、感情のコントロールの低下による怒り、無関心、みだらな社会的行動にお いての障害が6ヶ月以上持続するもの」。特に慢性の進行性疾患を有する患者では複数の認 知障害があることを強調している。 米国での標準的な認知症スクリーニング検査であるMMSE(Mini-Mental State Examination)は、言語性の設問に加え、紙を折る問題や、文章や図形を書く問題など動作 性の設問があり、統計11問で30点満点となっている。この検査は、標準的な知能検査であ るWAIS-R(Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised)との高い相関も示されている。

日本では1991年に改訂された長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)がよく使われてい る。これは、時間や場所の見当識、記録、計算、語想起などの9項目からなり、すべて口頭 問題(言語性)で、動作性の設問は含まれていない。 2.認知症になる原因およびリスク要因 高齢者で認知症を引き起こす原因疾患としては70以上存在することが報告されている (Cohen et al.,1993)。アルツハイマー病は認知症の最も一般的な原因であり、認知症の50 ~60%を占めていると報告されている。アルツハイマー病は1906年ドイツの精神科医の Alois Alzheimerによってはじめて報告された。アルツハイマー病は脳の特性の部位の神経 細胞が死に、脳が萎縮し、記憶力、発話、思考および判断力に影響を与える。また、アル ツハイマー病の次に多く見られるのは脳血管性認知症であり、認知症の20~30%を占めて いるとされている。脳血管性疾患認知症は、血管が損傷を受け、酸素の供給が危険な状態 になったときに発症する。脳内の酸素の供給がうまくいかなくなると、脳細肪が死に、そ の結果脳梗塞が引き起こされる可能性が高くなる(国際アルツハイマー病協会Alzhiemer’s Disease International、以下ADI)。アルツハイマー病と脳血管性認知症の混合例は20%ほ どある。3番目に多く見られる原因はレビー小体型認知症(dementia with lewy bodies)であ り、認知症の10%を占めている。老化と神経細胞の死が原因で起こる点で、アルツハイマ ー病と似ている。この病名は、レビー小体として知られる脳神経細肪の中に発生する異常 なたんぱく質から名付けられた(ADI)。以上でみた認知症を引き起こす原因とされているも のを加算すると100%を超えているが、これは研究によってばらつきがあることによる。 WHOによると、高齢化に伴いアルツハイマー病の患者は増えており、2001年には全世界 の認知症の人は1,800万人と推定され、そのうち1,100万人が発展途上国の人々であるとさ

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れている。さらに、2025年には、全世界で3千400万人と、そのうち発展途上国で2千500万 人になると推計されている。 WHOによると、認知症のリスク要因はまだ十分解明されていないが、最も関連がある要 因としては年齢が挙げられている。65~69歳代までのアルツハイマー病の有病率は1.4%で あるが、85歳以上になると23.6%となり、年齢と関連があると報告されている (WHO 2001)。 また、性別に関しては、80歳代以上では、女性はアルツハイマー病になるリスクが高く、 男性においては脳血管性認知症になるリスクが高いとされている(Asia Pacific Members of Alzheimer’s Disease International 2006;WHO 2001)。女性の方がアルツハイマー病に なるリスクが高いことの理由は明らかになっていない。さらに、学歴および雇用環境に関 しては、低学歴者と肉体労働者の方でリスクが高いという仮説があるが、エビデンスは明 らかになっておらず、今後さらなる研究が必要である(Asia Pacific Members of

Alzheimer’s Disease International 2006)。 3.BPSDの定義および具体的な症状

認知症の症状は中核症状と行動・心理症状(BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に分けられる。中核症状とは、脳の障害によって生じる記憶障害、 見当識障害など知的な働きの低下症状をいう。一方、障害によって低下した知能レベルで 生活するときに生じる感情の変化や行動の異常を、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD) という。 BPSDが本格的に研究されるようになったのは、1980年代になってからである。認知症の 評価の一部としてBPSDを評価する必要があり、1986年以降BPSDを評価するために多くの 尺度が開発されている。1996年、国際老年精神医学会(以下IPA)は、認知症の行動障害に関 する現時点の知識に関するレビューを行い、重要な4つの領域(症状の定義、原因、臨床症 状の記述、研究の方向)におけるある程度の合意を得ることを目的とした認知症の行動障害 に関するコンセンサス会議を開催した。さらに1999年に行われたコンセンサス会議では、 16カ国からこの分野の専門家約60人が参加し、BPSDの定義について次のような声明を発表 している。「行動障害(behavioral disturbances)という用語の代わりに認知症の行動・心 理症状(BPSD)という用語を用いる。これは、認知症患者に頻繁に見られる知覚、思考内容、 気分または行動の障害による症状と定義される」(IPA , BPSD Educational Pack Module 1 2002:5)。

BPSDの分類方法は多数あるが、コンセンサス会議の参加者は、目的に応じて特異的症状 クラスター(例、抑うつ症状、精神病症状)に分けることが有用と考えた。分類法を以下 に示す。

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Behavioral Symptoms(行動症状)

Usually identified on the basis of observation of the patients, including physical aggression, screaming, restlessness, agitation, wandering, culturally inappropriate behaviors, sexual disinhibition, hoarding, cursing and shadowing.

通常は患者の観察結果によって明らかにされる。身体的攻撃性、喚声、不穏、焦燥、徘 徊、文化的に不適切な行動、性的脱抑制、収集癖、ののしり、シャドーイングなど。 Psychological Symptoms(心理症状)

Usually and mainly assessed on the basis of interviews with patients and relatives; These symptoms include anxiety,depressive mood, hallucinations and delusions. A psychosis of Alzheimer’s Disease has been accepted since the 1999 conference.

通常は、主として患者や親戚との面談によって明らかにされる。不安、抑うつ気分、幻覚、 妄想などがこれに入る。1999年の会議でアルツハイマー病の精神病状態が心理症状に入れ られることになった。

(英文:IPA, BPSD Educational Pack Module 1 2002:5、和文:日本老年精神医学会 2005:15 ) 病気の段階によって、さまざまなBPSDが生じる可能性がある。これまでの研究から、 BPSDは認知症疾患が進行するに従って発症するもの、認知症疾患の特定の期間中に高頻度 にみられるものであることがわかっている(IPA2002)。BPSDの特徴的症状を表1-4に示す。 感情症状は病気の初期により生じやすいことが指摘されている(IPA, BPSD Education Pack module2 2002)。焦燥および精神病的行動は認知機能に中等度の障害がある患者で頻 繁にみられるが、認知症が進行した段階では、多くの患者で身体的および神経学的状態が

悪化しているために、あまりみられなくなる(IPA, BPSD Education Pack module2 2002)。

実際のところ、ほとんどのBPSDは認知症が進行した段階になる前にピークに達する傾向が ある。また、BPSDには持続しやすいものとそうではないものとがある。例えば2年以上に わたって観察を行った研究では、徘徊と焦燥とがアルツハイマー病患者で最も長期間続く 行動症状であることが明らかになっている(Devanand et al.1997)。

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表1-4 BPSDの特徴的症状 グループⅠ グループⅡ グループⅢ (厄介で対処が難しい症状) (やや処置に悩まされる症状) (比較的処置しやすい症状) 心理症状 心理症状 行動症状 妄想 誤認 泣き叫ぶ 幻覚 ののしる 抑うつ 行動症状 無気力 不眠 焦燥 繰り返し尋ねる 不安 社会通念上の不適当な行動と シャドーイング 性的脱抑制 行動症状 部屋の中を行ったり来たりする 身体的攻撃性 喚声 徘徊 不穏 4.BPSD評価尺度 BPSDの概念に関する幅広い包括的な枠組みへの取組みはまだ始まったばかりであり、行 動尺度のための情報源として何が最良であるかについては研究者間で意見が異なる。行動 尺度の情報源としては、①介護を行う家族、②専門的介護者、③医師による認知症の人の 観察、④認知症の人自身の報告の4つが利用されている(IPA, BPSD Education Pack module2 2002)。 ①家族の報告に基づいた尺度は、在宅の外来患者を評価する際に適している。ただし、 介護者の気分や観察者としての巧みさ、教育レベルによって結果に偏りが出ることがある。 BEHAVE-ADとNPI(Neuropsychiatric Inventory)が介護者に基づく評価手段の例である。 BEHAVE-ADとは個々の行動をスコア評価し、心理症状と行動症状を併せて、アルツハイ マー病の特徴と考えられるBPSDを評価した尺度である。BEHAVE-AD尺度の信頼性と妥 当性は立証ずみである。NPIにはアルツハイマー病によくみられるBPSDに関する尺度があ るが、前頭側頭葉変性型認知症やその他の認知症の症状特徴に関する尺度も入っている。 ②専門的介護者に基づいた評価尺度であるNOISE(Nurse’s Observation Scale for Inpatient Evaluation)やWard Daily Behavior Scale、CMAI(認知症でよくみられる行動の 変化を評価する尺度)は施設入所患者を評価するのに適している。CMAI尺度の信頼性と妥 当性は立証ずみである。これらは看護スタッフに利用されており、BPSDの観察について、 より経験豊かな者からの情報に基づいているという長所がある。

③医師による患者の直接観察では、医師が高度な技能を有する観察者であるため、結果 の信頼性が高くなる傾向がある点が長所であるが、限られた観察期間中にみられた症状だ

けを捉えるという短所がある。尺度の例として、NRS(Neurobehavior Rating Scale)がある。

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自己申告によるうつ病評価尺度のGDS(Geriatric Depression Scale)を使った気分変動の自 己申告を利用した研究もいつくかされている。 尺度は個々の行動だけに関する情報、全般的行動だけに関する情報を提供することもあ れば、行動と心理双方についての情報を提供することもあり、BPSD評価尺度の体系と特性 にはかなりばらつきがある。BPSD評価尺度の大部分は、横断的に利用して具体的症状を特 定するように作られており、今後縦断的研究がさらに必要である。 第3節 認知症の人に対する認識や態度、高齢者イメージに関する研究 1.態度の定義と精神障害者における態度研究 1) さまざまな「態度」の定義 態度の概念は、ラテン語のaptusから派生したもので、精神的・肉体的活動に対する準備 の整った神経心理的状態である(Allport、1954)。態度の概念的定義は、研究者によってさ まざまであるが、Allport (1935)の定義が一般的に受け入れられている。Allportによると、 態度とは生活体の反応準備であって、一定の動作や行動を実現し、かつ方向づけと調整を するものである。RosenbergとHovland(1960)は、態度の認知的成分(信念の言語的表現)、 感情的成分(感情の言語的表現)、行動的成分(行動に関する言語的表現)があると説明し、 この3成分は一般的に認められている(社会心理学事典、2009)。M.フィッシュバインとI. エイゼン(1975)は、態度とは、ある対象に対して一貫し好意的か非好意的に反応する学習 された傾性としている。S.オスカンプ(1977)は、態度は反応の準備性を構成するが、行動 そのものではなく、直接観察できるものではない。それは、観察可能な反応の研究を基礎 にして推論されるものであり、刺激事象と行動反応の関係に影響する観察不可能な媒介変 数であるとしている(社会心理学小辞典、2002)。 藤原(2001)はAllport以降の態度とは何かという問いかけの中から明らかにされた点を以 下のように要約している。①態度とは、反応のための先有傾向、準備状態である。したが って、態度は刺激と反応との媒介物であり、直接には観察不可能な構成概念である。②態 度は常に対象を持つ。対象は、人物、集団、価値、観念、制度といったものである。③一 定の対象について、「よい―悪い」、「好き―嫌い」といった評価を含む。また、その評 価は、ポジティブからネガティブにその方向と強度を変える。④一時的な状態である動機 や動因という言葉とは区別される意味で、いったん態度が形成されると比較的安定的であ り、持続的である。⑤態度は、先天的なものというよりも、学習によって習得されるもの である。⑥個々の対象に対する個別的態度は、互いに関連をもち、構造化され、態度群、 態度布置を形成する(社会心理学事典、2009)。D.カッツ(1960)によると、態度の機能とし て、①自分を取り巻く世界の解釈と新しい情報の処理を容易にすること、②社会的同一化 を獲得し、保持する手段であるという2つがあるとされている。 ある対象に対する好意度や感情の強さに関して態度を測定する最も一般的方法として態 度尺度がある。一般に、態度尺度の主な次元は、態度の方向、その方向への程度、その態 度にともなう感情の強さである。態度測定には特定の対象領域が必要である。次に、その

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対象領域の中で、人々が同意や不同意を示す可能性のある一連のステートメントをつくる ことである(社会心理学小辞典、2002)。態度調査の最初の方法は1920年代にサースト (Thurstone)と彼の共同研究者たちによって開発された。その他の方法には1930年代にリッ カート(Likert)によって開発された「加重尺度法(summative scaling)」があり、のちに第 二次大戦中にガットマン(Guttman)によって開発された「加算的尺度法(cumulative scaling)」がある。 2)精神障害者における態度に関する研究 ヨーロッパの34カ国29地域を中心とした、1990年から2004年の15年間の精神障害者に対 する態度のレビュー研究では、態度研究の多くは統合失調症およびうつ病が中心として行 われてきたことが明らかになった(Angermeyerら2006)。認知症は精神障害の一部とみなさ れており、多くの態度研究が精神障害者に対する研究が多いことから、精神障害者におけ る態度に関する研究を中心としてレビューを行った。 精神障害者に対する社会的態度は、諸外国では1960年代から、日本では1980年代から研 究されており、精神障害者に対する態度を図るための尺度が開発されている。Kingら(2007) は28項目から成る精神障害者に対するスティグマを測定するスケールを作成し、差別 (discrimination)、暴露(disclosure)、潜在的な肯定的な側面(potential positive aspects) の3つの因子が抽出された。

岡上らはアメリカで開発されたCMI(Custodial Mental Illness Ideology Scale)やOMS (Opinions about Mental Illness Scale)、CMHI(Community Mental Health Ideology Scale)などを検討し、日本の実情に合わせて尺度を作成している。この尺度は、精神障害者 についての原因・性質、精神医療・衛生のあり方、社会生活の権利、社会生活の自立性か らの構成要素で成る。岡上ら(1986)の調査では、精神障害者に対して年齢が高いほど同情 的ないし消極的な態度を示し、接触体験を持つ一般市民の方が、理解度が増加することが 明らかになった。他にも、精神障害者との接触体験がある人々は、接触体験がない人々に 比べ、精神障害者に対してより肯定的な態度を示すことが多く報告されている(大島厳 1992;全家連1998;Readら1999;黒田2001;北岡2001;Ayら2006)。 池田ら(1999)は精神障害者の活動が活発な浦河町と、比較対象として札幌市との精神障 害者に対する社会的態度を調べた。その結果、態度の形成要因は接触体験に起因するもの であり、精神障害者の活動の活発な地域である浦河町においてより好意的な態度が示され た。その違いは、「精神障害者の能力や自立の可能性に対する考え方」「精神障害者に対 するイメージ」「社会的距離」といった態度構造の違いに基づいていた。生川(1995)が行 った精神遅滞児に対する態度調査では、精神遅滞児(者)の地域生活、教育、労働、精神遅 滞児(者)への働きかけなどに関するものから40の態度項目を設定した。接触体験のある人 あるいは精神遅滞の出現に関する知識のある人の方が、好意的な態度を示し、精神遅滞者 との交流を推進する気持ちが強いことが明らかになった。 社会的距離尺度については、大島ら(1989)が開発したものがある。これは、慢性統合失

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