I.はじめに 蓄尿と排尿は膀胱,尿道,外尿道括約筋への 末梢性及び中枢性神経支配の下で無意識に,そ して時に意識的に制御されている(図 1,図 2)1)。 これまでの研究は,様々な神経伝達物質やその 受容体,膜チャネルを介した信号伝達が複雑に 関わり合い,この排泄器官が正常に機能するよ う役割を担っていることを明らかにした。 イオンチャネル型グルタミン酸である N-methyl-D-aspartate(NMDA) と α-amino-3-hydroxy-5-methylisoxazole-4-propionic acid (AMPA)が下部尿路機能制御において主要な 興奮性神経伝達物質であることは,これまで多 くの研究によって示された。更に,代謝型グル タミン酸(metabotropic glutamate)も下部尿 路機能に深く関与することが最近明らかとなっ た。モノアミンの中で特にノルアドレナリンと セロトニンに関しては,脳幹から脊髄への下行 性投射と脊髄求心性プロセシングによる蓄尿と 尿禁制のメカニズムが重要である。下部尿路機 能障害(排尿障害)治療薬開発において,排尿 筋をターゲットにした創薬に限界を感じる中, 新たな可能性を中枢神経系下部尿路制御機構に 見出すことが出来るといえよう。まだ不明な点 が多いのも事実だが,下部尿路を操るその複雑 な仕組みは徐々に明らかになりつつある。 II.中枢性グルタミン酸による 膀胱活動制御(図 3) ラット橋排尿中枢への L- グルタミン酸投 与は,膀胱収縮を惹起した2)。NMDA 受容体 拮 抗 薬(dizocilpine,MK-801), も し く は, AMPA 受容体拮抗薬(LY215490)の脳室内投 与は麻酔ラットの排尿反射を廃絶した3)。以上 の結果は,脳内におけるイオンチャネル型グル タミン酸伝達が下部尿路機能の興奮性制御にお いて重要であることを示唆する。単剤では効果 を示さない低用量の NMDA 受容体拮抗薬の前 処置下で,やはり単剤では効果がない低用量 の AMPA 受容体拮抗薬を脳室内投与すると膀 胱,及び,外尿道括約筋活動は著しく抑制さ
中枢性グルタミン酸,モノアミン作動性下部尿路機能制御
芳 山 充 晴
山梨大学大学院医学工学総合研究部泌尿器科学講座 要 旨:下部尿路(膀胱,尿道,及び外尿道括約筋)機能制御において中枢神経系が果たす役割は 大きい。上位脳 / 脳幹から脊髄へのグルタミン酸系,セロトニン系,ノルアドレナリン系のそれぞ れの下行性投射は,膀胱,尿道,及び,外尿道括約筋の活動を巧みに操り,排尿と蓄尿を制御して いる。更に,これら神経伝達物質は脊髄における骨盤神経 - 陰部神経(尿道括約筋)反射に関与し ており,尿禁制において重要な役割を担っている。本稿では,これまでの研究成果を論評し,下部 尿路機能制御におけるグルタミン酸,セロトニン,ノルアドレナリンの役割を平易に解説している。 キーワード イオンチャネル型グルタミン酸,代謝型グルタミン酸,セロトニン,ノルアドレナリン, 仙髄副交感神経核,胸腰髄交感神経核,括約筋運動核(オヌフ核)総 説
〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 番地 受付:2013 年 3 月 29 日 受理:2013 年 4 月 22 日れた3)。この結果から,上位脳 / 脳幹において NMDA 神経伝達系と AMPA 神経伝達系は相互 的(synergistic)に下部尿路機能興奮性制御に 関与することが推測される。 NMDA 受容体拮抗薬(MK-801),もしくは, AMPA 受容体拮抗薬(LY215490)の脊髄腔内 投与は用量依存性に膀胱容量閾値を増加し,膀 胱収縮圧を減少させた3)。この結果は,イオン チャネル型グルタミン酸機構が膀胱反射の求心 性経路と遠心性経路の両方において興奮性に関 与していることを示している。これを支持す る他の研究は,(i)麻酔ラットにおいて膀胱求 心性神経の電気刺激によって惹起された傍中 脳水道灰白質の活動電位が NMDA 受容体拮抗 薬(MK-801), ま た は,AMPA 受 容 体 拮 抗 薬 (LY215490)によって用量依存性に抑制される ことから,膀胱知覚において NMDA 受容体, または,AMPA 受容体を介する脊髄経路は重要 である4),(ii)麻酔ラットにおいて橋排尿中枢 の電気刺激誘発等容量性膀胱収縮は,NMDA 受 容 体 拮 抗 薬(MK-801), ま た は,AMPA 受 容体拮抗薬(GYKI52466)の全身投与もしく は脊髄腔内投与により抑制されることから,橋 排尿中枢から NMDA 受容体と AMPA 受容体を 図 1. 蓄尿の神経制御機構 貯留尿による膀胱伸展刺激にて生じた求心性信号は骨盤神経(Aδ 線維)を介して仙髄後角へ到達 する.ここで一部はシナプスを介し,オヌフ核へ達する.そこから陰部神経経由で外尿道括約筋へ 入力し,尿道抵抗を生じさせる.更に,別の経路として,仙髄から上行し胸腰部の交感神経核へ入 力するものがある.この部位からは下腹神経が遠心性に膀胱体部に作用して,排尿筋を弛緩する. 下腹神経は膀胱頚部と近位尿道に入力し,同部位の平滑筋を収縮させる.分岐した一部の下腹神経 は,骨盤神経節の骨盤神経に対して抑制性に作用する.以上のような神経制御により膀胱は不随意 収縮を起こさず,膀胱内容量が増加しても低圧状態を維持でき,蓄尿時に急激な膀胱内圧上昇が あっても,より高い尿道内圧抵抗による尿禁制が可能となる.PAG:periaqueductal gray.PMC: pontine micturition center.DRG:dorsal root ganglion.
介する脊髄分節への下行性経路が膀胱収縮にお いて重要である5,6),ということを示している。 これらの研究では,脳幹脊髄排尿反射経路の知 覚性上行路と運動性下行路の両者においても NMDA 神経伝達機構と AMPA 神経伝達機構が 相互作用を呈することが明らかにされた。 代 謝 型 グ ル タ ミ ン 酸 group I/II(mGluR1, mGluR5/mGluR2, mGluR3) 作 動 薬 で あ る ACPD の脊髄腔内投与がウレタン麻酔ラットの 橋排尿中枢電気刺激誘発性膀胱収縮を抑制した ことから,橋排尿中枢から腰仙髄への下行性経 路では代謝型グルタミン酸受容体機構が抑制性 に働くと報告された7)。一方,代謝型グルタミ ン酸 group I/II 拮抗薬である MCPG は除脳無 麻酔ラットにおいて蓄尿期,排尿期のいずれに おいても反射膀胱活動を変化させなかったこと から,少なくとも生理的状況下では膀胱反射経 路において脊髄代謝型グルタミン酸神経伝達は “静的(silent)”であると考えられる8)。 我 々 が 行 っ た 下 部 尿 路 機 能 実 験 で は, mGluR1a 遺 伝 子 欠 損 マ ウ ス は 野 生 型 マ ウ ス と比較して膀胱容量閾値が 71%増であった。 mGluR5 拮抗薬である MPEP の腹腔内投与は, 排尿収縮圧と排尿効率を妨げることなく,用 量依存性に膀胱容量閾値を増加した9)。これ らの結果は,mGluR1a と mGluR5 が膀胱容量 図 2. 排尿の神経制御機構 仙髄後角へ到達した膀胱からの求心性信号は,そこから上行し傍中脳水道灰白質(periaqueductal gray)を経由し,大脳前頭葉(前帯状回 anterior cingulated gyrus,島 insula)と橋排尿中枢へ投 射する.尿意は前者により認知される.大脳前頭葉から橋排尿中枢への抑制性制御の解除,もしく は,興奮性指令により,橋排尿中枢から仙髄排尿中枢(副交感神経核)へ下行性興奮性信号が伝達 される.仙髄排尿中枢からの興奮性信号は骨盤神経を介し,膀胱体部に作用して膀胱収縮を起こ す.オヌフ核への抑制性入力は陰部神経の活動を抑え,尿道を弛緩させる.加えて,橋排尿中枢 からの下行性投射は胸腰髄で交感神経核へ抑制性入力し,膀胱頚部と近位尿道は弛緩する.PAG: periaqueductal gray.PMC:pontine micturition center.DRG:dorsal root ganglion.
を調整する興奮性信号伝達の求心性プロセシ ングに関わることを示唆する。MPEP 投与は, mGluR1a 遺伝子欠損マウスの大きな膀胱容量 を更に増加させることから,膀胱からの興奮性 求心性経路において mGluR1a と mGluR5 が並 列的なシナプス回路を構築していることが推察 される。 III.中枢性グルタミン酸による 外尿道括約筋活動の調整(図 3) NMDA 受容体拮抗薬(MK-801),もしくは, AMPA 受 容 体 拮 抗 薬(GYKI52466, ま た は, LY215490)の脳室内投与,脊髄腔内投与,静 脈内投与のいずれにおいても膀胱収縮に伴う外 尿道括約筋筋電図活動を抑制した。このことか ら,NMDA 受容体,および,AMPA 受容体を 介したグルタミン酸伝達は外尿道筋活動の興奮 性制御に関わると考えられる10–12)。但し,この 外尿道括約筋活動は膀胱活動に同期しているた め,膀胱抑制に続く二次的抑制の可能性を考慮 しなければならず,データ解釈には注意が必要 である。「骨盤神経・外尿道括約筋(陰部神経) 反射」を構成する尿禁制反応と尿道括約筋振幅 反応は NMDA 系と AMPA 系反応のそれぞれ異 なる反射経路を介していることから,下部尿路 機能制御の蓄尿期と排尿期の両方に脊髄グルタ ミン酸伝達系が関与していることが推察され る13)。 除脳無麻酔ラットにおいて,外尿道括約筋 筋 電 図 活 動 は 膀 胱 よ り も 脊 髄 腔 内 投 与, も し く は, 静 脈 内 投 与 の AMPA 受 容 体 拮 抗 薬 図 3. グルタミン酸受容体神経伝達による下部尿路制御機構 NMDA 受容体,または,AMPA 受容体を介するイオンチャネル型グルタミン酸伝達は膀胱と外尿 道括約筋活動に対し興奮性に働いている.代謝型グルタミン酸受容体 mGluR1 と mGluR5 は膀 胱の興奮性求心性信号伝達に関与する.一方,外尿道括約筋活動(尿道括約筋運動神経細胞)に 対し,mGluR1 は排尿時に抑制性に制御している.PAG: periaqueductal gray.PMC: pontine micturition center.DRG: dorsal root ganglion.
(GYKI52466,または,LY215490)の抑制効果 により著明に反応する。グルタミン酸拮抗薬に 対する外尿道括約筋と膀胱の感受性の差は,脊 髄の括約筋運動神経細胞と副交感神経節前神経 細胞におけるグルタミン酸受容体サブユニット の構成の違いによるものかもしれない。AMPA 受容体について言えば,副交感神経節前神経 細胞では高いレベルで GluR-A と GluR-B サブ ユニットの mRNA,そして低レベルで GluR-C と GluR-D サブユニットの mRNA を発現する。 一方で,括約筋運動神経細胞では著明に豊富な GluR-C と GluR-D サブユニットの mRNA と, 中 等 量 の GluR-A と GluR-B サ ブ ユ ニ ッ ト の mRNA を発現する。NMDA 受容体については, NR1 が脊髄内の括約筋運動神経細胞と副交感 神経節前神経細胞の両方において最も豊富であ るが,NR2A と NR2B サブユニットの mRNA はあまり発現していない。NR2A と NR2B サ ブユニットの mRNA は副交感神経節前神経細 胞よりもやや多く括約筋運動神経細胞において 発現している14)。 mGluR1 及び mGluR5 は,ラット括約筋運 動神経細胞において豊富に発現している15)。 代謝型グルタミン酸 group I/II 拮抗薬である MCPG の脊髄腔内投与は膀胱収縮に影響する ことなく,外尿道括約筋筋電図活動を著明に促 進した8)。最近の我々の研究では,mGluR1a 遺伝子欠損マウスは排尿に必要な律動性外尿道 括約筋活動の間に著明な緊張性活動が重複して 起きていること,そして更に,このマウスは野 生型マウスと比較し排尿効率が若干低下してい ることを示した。これらの結果は,脊髄の尿道 括約筋運動神経核における代謝型グルタミン酸 サブタイプ 1a が外尿道括約筋への緊張興奮性 入力を抑制性に調整していること,そして効率 的な排尿に必要であることを示唆している。 IV.セロトニン性下部尿路機能制御(図 4) 5-Hydroxytryptamine(5-HT) と 5-HT 受 容体は,学習記憶,心理プロセス,摂食行動, 心血管系機能,自律神経機能といった多種の機 図 4. 下部尿路機能を制御する脳幹から脊髄へのセロトニン性下行性投射(ネコ) 縫線核セロトニン性神経細胞は,(i)膀胱からの求心性プロセシング,(ii)膀胱へ の副交感神経系遠心性出力,(iii)尿道括約筋への体性神経系遠心性出力,(iv)膀 胱への交感神経系遠心性出力を制御するために脊髄へ下行性投射している.
能に関わっている16–19)。5-HT は脳幹及び腰仙 髄の中枢神経に広く分布しており,排尿の中枢 神経性制御に関与することが知られている20)。 5-HT では同族配列と効果器経路に基づき,大 きく 7 種のサブタイプが確認されている。この 中 で,5-HT1,5-HT2,5-HT3,5-HT7が 下 部 尿路機能調節に関わることが知られている。 5-HT1受容体の中では,選択的 5-HT1A受容 体作動薬である 8-OH-DPAT の存在により,排 尿における 5-HT1A受容体機能が明らかになっ た21)。 脊 髄, 及 び, 脳 幹 の 5-HT1A受 容 体 活 性がラットの排尿を調整すること17),そして, 部分作用活性をもたない 5-HT1A受容体拮抗薬 の全身投与がラットの膀胱活動を抑制するこ とが明らかになった22)。5-HT1A拮抗薬である WAY100635 の脊髄腔内投与による脊髄 5-HT1A 受容体遮断はウレタン麻酔ラットの排尿を抑制 した23)。腰仙髄への WAY100635 投与は,脊髄 脳幹排尿反射の下行性反射経路を抑制した。し かし,WAY100635 投与は骨盤求心性神経電気 刺激誘発の橋吻側活動電位(上行性伝達)に対 しては効果を示さなかった。WAY100635 の脳 室内投与は用量依存性に等容量性反射膀胱収縮 の発生頻度と収縮圧を減じた24)。これまでの 研究は,脊髄,ならびに,脳幹の 5-HT1A受容 体が脊髄脳幹排尿反射経路において複数の抑制 性調節機構に関与していることを示している。 中枢性 5-HT1A受容体は機能的に 2 種に区分さ れるグループとして存在する。体性樹状突起自 己受容体は前シナプス性に細胞体と,5-HT 含 有神経細胞の樹状突起に存在している。一方, 後シナプス受容体は様々な投射部位の非 5-HT 含有神経細胞に存在している。受容体貯蔵と受 容体効果器共役の点から言うと,前シナプスと 後シナプスの 5-HT1A受容体集団間の差異のた め,幾つかの 5-HT1A受容体は,部分活性(後 シナプス受容体で拮抗作用,前シナプスで活性 作用)を有する21)。部分作動薬と本来の拮抗 薬を区別するため,多くの研究では,強力で選 択性が高く“silent”な 5-HT1A受容体拮抗薬で ある WAY100635 を用いている。 覚醒ラットでは,WAY100635 静脈内投与が 膀胱容量を増加させるとする研究があり,これ は排尿反射の求心性経路を 5-HT1A機構が調節 していることを示している22)。麻酔が縫線核 神経細胞の発火を変化させることが知られてお り,上記 2 つの研究結果の違いは,麻酔の影 響によるものかもしれない。他の可能性とし て,脳幹 5-HT1A受容体の遮断が膀胱求心路と 膀胱容量に対する WAY100635 の作用に関連し ている可能性が考えられる。縫線核セロトニン 性神経細胞の活動が体性樹状突起 5-HT1A自己 受容体により介在されるネガティブ・フィード バックの調節下にあることは知られている。ネ コ,ラット,モルモットを用いた in vitro およ び in vivo 実験は,5-HT1A作動薬が体性樹状突 起 5-HT1A自己受容体の刺激により縫線核背側 セロトニン神経細胞に対し抑制性の作用を持つ ことを明らかにした。そして,その抑制作用は WAY100635 によって完全に阻害された。セロ トニン性縫線核は内臓求心性入力に感受性があ り,縫線核の刺激は膀胱反射を抑制することか ら25),脳幹における 5-HT1A自己受容体の遮断 は縫線核 - 脊髄下行性経路の発火を増大させ, これを受けて膀胱からの求心性入力の脊髄信号 伝達を抑制するものと考えられる。 5-HT2受容体には,5-HT2A,5-HT2B,5-HT2C の 3 種 が あ り, こ の 中 で 排 尿 に 関 し て 言 え ば,5-HT2Aと 5-HT2Cが 注 目 さ れ る。 過 去 の 研究において,非選択的 5-HT2C作動薬である m-chlorophenylpiperazine(mCPP)静脈内投 与は,律動性等容量性膀胱収縮を抑制した26)。 ネコにおいて,脊髄上行性活動と仙髄反射 活動のセロトニン性調節は 5-HT3受容体を介 して制御されている19)。5-HT3受容体拮抗薬 zatosetron の脊髄腔内投与は,覚醒ネコの排尿 閾値量を減少させた。この結果は,脊髄 5-HT3 受容体が排尿反射に対して抑制性であること を示す。骨盤神経 - 陰部神経反射は zatosetron の脊髄腔内投与により減少し,5-HT3作動薬 2-methyl-5-HT 脊髄腔内投与により促進され た。この結果より,少なくともネコでは 5-HT3
受容体は外尿道括約筋の制御に関与することが 示唆された。一方,麻酔ラットでは静脈内投与 された zatosetron は律動性膀胱収縮に対して 何の効果も示さず,覚醒ラットでは 2-methyl-5-HT 脳室内投与が下部尿路機能に対してやは り作用を示さなかった27)。 麻酔ラットにおいて,選択的 5-HT7受容体 拮抗薬である SB-269970 は膀胱容量閾値を増 加させ,高用量では排尿反射を廃絶した27)。 しかし,脊髄腔内投与では変化させなかった。 これらの結果から 5-HT7受容体は上位脳にお いて機能しているものと考えられる。 V.セロトニン性機構による外尿道括約筋 活動制御(図 4) オヌフ核(尿道括約筋運動核)は,脳幹セ ロトニン含有神経細胞(縫線核)から下行性 投射を受ける。オートラジオグラフィによる 研究は,ラットのオヌフ核に 5-HT1A受容体と 5-HT2受容体の存在を明らかにし20),薬理学 的実験は,5-HT2受容体,又は,5-HT3受容体 を介する脊髄セロトニン系機構がネコの陰部神 経反射を興奮性に制御することを示した19,28)。 他の生理機能研究は,モルモットとビーグル犬 における 5-HT2C受容体29),そして,ネコとラッ トでは 5-HT1A受容体13,30)を介した中枢性セロ トニンが外尿道括約筋活動を促進することを示 した。高用量では,5-HT1A受容体と 5-HT2受 容体の両方を活性化する非選択的 5-HT 作動 薬 で あ る 5-methoxy-N,N-dimethyltryptamine (5-MeODMT)が,下腹神経を含む交感神経 系の発火と尿道括約筋活動を促進した32)。一 方,5-MeODMT 低用量は,縫線核に存在する 5-HT1A自己受容体へ作用し縫線核ニューロン の発火を抑制するので,結果として交感神経核 と尿道括約筋運動ニューロンへの下行性興奮性 入力を抑制した。 麻酔ラットの実験では,mCPP 静脈内投与は 外尿道括約筋収縮を惹起した27)。モルモット において,外尿道括約筋コントロールにおける 5-HT2受容体の役割は,選択的作動薬を用いて 確認された。この作用は,5-HT2A受容体を介 しても調整された27)。 VI.中枢アドレナリン性下行性制御 胸腰髄交感神経核と仙髄副交感神経核は,脳 幹のノルアドレナリン神経細胞からの入力を 受ける32)。この入力の多くは青斑核にある神 経細胞から投射するものであり32–35),排尿の 上位脳コントロールに関わる36–38)。麻酔ネコ において,青斑核の電気刺激は膀胱収縮を誘 発し,これはα1アドレナリン受容体拮抗薬 である prazosin 脊髄腔内投与により遮断され る37,38)。6-hydroxydopamine( カ テ コ ラ ミ ン 神経細胞毒)の微少注入による青斑核ノルアド レナリン細胞の破壊は低活動膀胱を惹起し,こ の作用はα1アドレナリン受容体作動薬である phenylephrine 脊髄腔内投与によって部分的に 回復する38)。以上の結果は,脳幹から仙髄副 交感神経核へのノルアドレナリン投射が排尿 機能において重要であることを意味する。こ れらの所見は覚醒ネコでは確認されなかった が39,40),条件次第(麻酔下)では脊髄α1アド レナリン機構が排尿機能を制御していることが 示されている。 ラットにおけるアドレナリン性化合物を用 いた薬理学的研究は,排尿の調節における脳 幹脊髄ノルアドレナリン経路の機能を明らか にした。Kontani 等は,麻酔ラットにおいて, phenylephrine 脊髄腔内投与は膀胱活動を廃絶 したが,prazosin は膀胱収縮を変えなかったこ とを報告している41)。一方で,Ishizuka 等は, α1アドレナリン拮抗薬である doxazosin 脊髄 腔内投与が覚醒ラットの排尿を抑制したと報じ た42)。このように,反射性膀胱活動に対する アドレナリン性作動薬と拮抗薬の作用を調べる 異なる研究は,結果にかなり相違があること と,排尿調節において興奮性と抑制性の両方の アドレナリン性機構が存在することを明らかに した。これらの差異は,動物種,麻酔,実験方
法の違いによるのかもしれない。 麻酔ラットを用いた我々の研究は,反射膀 胱活動が脊髄α1アドレナリン機構により調整 されていること示した(図 5)43)。つまり,(i) 脊髄求心性プロセシングの調整による反射膀胱 収縮頻度の抑制性コントロール,(ii)脊髄 - 脳 幹 - 脊髄膀胱反射経路の下行性グルタミン酸伝 達調節による膀胱収縮圧の興奮性調整,であ る。これらの機構は,α1A,α1B,α1Dの3つの サブタイプの活性化が関与している可能性があ る44)。 α1A- アドレナリン受容体拮抗薬である RS-100329 の脊髄腔内投与は,用量依存性に膀胱 収縮圧を低下させたことから,排尿反射経路の 下行肢はα1A- アドレナリン受容体に作用する 脳幹脊髄ノルアドレナリン入力によって促進さ れ る。RS-100329(50 nmol), ま た は,α1Bア ドレナリン受容体拮抗薬である (+)-cyclazosin (50 nmol)の脊髄腔内投与が有意に膀胱収縮 頻度を増加させたことから,α1A-,もしくは, α1B- アドレナリン受容体が膀胱機械受容体から の求心性入力の脊髄プロセシングを抑制性に調 節していると考えられる。これらアドレナリン 性調節機構は,排尿反射経路において重要な役 割を担う NMDA,もしくは,非 NMDA グル タミン酸系シナプスを調整している可能性が 高い。以上のように,ラット脊髄における求 心性プロセシングのα1A-,もしくは,α1B- アド レナリン抑制性調節と,膀胱反射下行路のα1A -アドレナリン性興奮性調節の 2 つのα1- アドレ ナリン機構が明らかとなった。但し,放射性 標識リガンド・アッセイ研究ではα1B- アドレ ナリン受容体サブタイプに対し強力で選択的 であることが示されているものの45),機能実 験では低い効力であることと競合的拮抗薬と しては作用していないことが判明しており46), (+)-cyclazosin のα1B受容体選択性に関しては 否定的な見解がある。 一方,α1D- アドレナリン受容体拮抗薬 BMY 7378 は反射膀胱収縮に対し効果がないことか ら,α1D- アドレナリン受容体はラット反射排尿 活動において機能的役割を有さないと考えられ る44)。 ノルアドレナリン性ラット反射膀胱活動調節 において,α1A- アドレナリン受容体が最も重要 で,α1B- の関与は少ないといえる。放射性標識 リガンド・アッセイ研究では,ラット腰髄にお けるα1- アドレナリン受容体発現量において, α1A- アドレナリン受容体とα1B- アドレナリン 受容体の発現がそれぞれ 70%と 30%であり, α1D- アドレナリン受容体は非常に低いレベルで しか発現していないと報告されており47),我々 の研究結果と一致する。但し,脊髄α1- アドレ ナリン受容体サブタイプの分布比に関しては種 差が大きく,ヒトでは表 1 に示すとおりであ る48,49)。 脳幹ノルアドレナリン含有神経細胞(青斑核, 青斑下核等)は,オヌフ核,及び,交感神経核 へも投射する。α1拮抗薬(prazosin)は,下部 尿路への交感神経系,及び,体性神経系の興奮 図 5. 膀胱機能を制御する脳幹から脊髄へのノルア ドレナリン性下行性投射(ラット) 脳幹ノルアドレナリン性神経細胞は,(i)膀 胱からの求心性プロセシング,(ii)膀胱へ の副交感神経系遠心性出力を制御するために 脊髄へ下行性投射している.PMC:pontine micturition center.PGN:preganglionic neurons.
性制御を中枢性に抑制したことから,α1- アド レナリン受容体活性は促進に作用する50,51)。 他方,中枢性α2- アドレナリン受容体の役割 についても研究が進んでいる。脊損ネコ / ヒト において,α2作動薬(clonidine)脊髄腔内投 与が外尿道括約筋活動を抑制したことから,α2 受容体は外尿道括約筋活動を抑制性に制御して いると考えられる52,53)。更に,ラットにおける 外尿道括約筋活動と腹圧上昇時の尿禁制との関 係が示されている。脊髄においてグルタミン酸 との関わりが深く,脊髄後角において,もしく は,副交感神経節前神経細胞上のシナプスに おける前シナプス性α2- アドレナリン受容体に よって神経終末からのグルタミン酸放出を調 節している(図 6)。急性脊髄切断ラットの腹 圧を受動的に上昇させ「骨盤神経 - 陰部神経反 射」を調べる実験において,α2- アドレナリン 受容体作動薬である medetomidine は用量依存 性に外尿道括約筋活動を減少させた54)。α2- ア ドレナリン受容体遮断薬である idazoxan は外 尿道括約筋活動を 64%増加させたが,それは NMDA 受容体拮抗薬である MK-801 によって 廃絶された。一方,idazoxan は MK-801 の抑 制作用に拮抗しなかった。Idazoxan は外尿道 括約筋活動に対する serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor(SNRI)の作用を 120%促 進した。以上の結果より推察される腰仙髄内 の伝達経路は図 6 のとおりである。腹圧上昇 時に生じる「骨盤神経 - 陰部神経反射」(尿禁 制)において,グルタミン酸は主要な興奮性神 経伝達物質である13)。α2- アドレナリン受容体 伝達は脊髄におけるグルタミン酸放出を抑制す ることから,α2- アドレナリン受容体拮抗薬は,
serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor (SNRI)の作用を増強させる。 VII.今後の展望 NMDA および AMPA グルタミン酸伝達は, 脊髄求心性プロセシング入力,上位脳からの脊 髄副交感神経細胞への下行性投射の両方におい て興奮性に膀胱を制御している。前者の伝達路 遮断により蓄尿量を増加させることが期待でき る一方で,後者の遮断により膀胱収縮力を低下 表 1. ヒト脊髄におけるアドレナリン受容体サブタイプ mRNA の分布 (下部尿路機能制御に関連する分節) α1a mRNA が多いラットとは異なり,ヒトでは α1d が多い.ヒトの後角 (膀胱求心性知覚入力部)では,α1 受容体サブタイプの mRNA は発現し ていない.α2 受容体 mRNA の中では α2b が多い.特にオヌフ核での発 現量は際立っており,腹圧性尿失禁治療の創薬ターゲットとなりうる.(参
考文献:Stafford Smith et al., Mol Brain Res 34: 109–117, 1995; Stafford Smith et al., Mol Brain Res 63: 254–261, 1999)
α1 α2 交感神経核 1a – 3+ 2a – 5+ 1b – 4+ 2b – 7+ 1d – 6+ 2c – 2+ 後角(求心性知覚入力) 1a – 0 2a – 3+ 1b – 0 2b – 7+ ∼ 8+ 1d – 0 2c – 0 副交感神経核 1a – 3+ 2a – 3+ 1b – 3+ 2b – 6+ 1d – 8+ 2c – 0 前角(オヌフ核) 1a – 4+ 2a – 3+ 1b – 3+ 2b – 10+ 1d – 10+ 2c – 0
させ残尿量が増えてしまう可能性が危惧され る。代謝型グルタミン酸 mGluR1 と mGluR5 は興奮性求心性知覚伝達に関与するものの下行 性投射,遠心路へは影響しないので,これら拮 抗薬は排尿を損ねることなく蓄尿量を増やすこ とが出来るであろう。 一部の SNRI が腹圧性尿失禁治療薬として既 に用いられていることからもわかるように,セ ロトニン系,ノルアドレナリン系化合物の治療 応用はグルタミン酸をターゲットとする治療薬 開発よりも現実的である。セロトニン系 / ノル アドレナリン系神経伝達の活性化は、外尿道括 約筋の緊張と膀胱頚部 / 近位尿道抵抗を高め, 尿禁制を促す。SNRI はこれらの作用を有し, 腹圧性尿失禁に対する有効な治療薬となりうる。 今後は下部尿路機能制御に関わる 5-HT(例 え ば,5-HT1Aと 5-HT2B),α1,α2の 受 容 体 サ ブタイプに選択性が高い化合物の探索・開発に 進むことが考えられる。α2受容体拮抗薬は骨 盤神経 - 陰部神経反射におけるその役割から, SNRI の腹圧性尿失禁治療効果を高める可能性 があり,臨床応用までに更に研究を積み重ねる 必要がある。 引用文献
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